説明

エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】 発光層をアブレーションが生じないようにアニールし、EL素子の輝度を向上させる。
【解決手段】 絶縁性基板11上に第1電極12、第1絶縁層13、発光中心を含む発光層14、第2絶縁層15及び第2電極16を順次積層し、少なくとも光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成したEL素子の製造方法において、発光層14を成膜した後、第2絶縁層15を成膜する前に、420nm以下の波長のレーザーを発光層14に照射して発光層14をアニールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば透明ディスプレイなどに使用されるエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子と記す)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、硫化亜鉛(ZnS)等の蛍光体に電界を印加したときに発光する現象を利用したもので、自発光型の平面ディスプレイを構成するものとして注目されている。
【0003】
図9に、従来のEL素子の模式的な断面構造を示す。EL素子は、絶縁性基板であるガラス基板21上に、光学的に透明な第1電極22、第1絶縁層23、発光層24、第2絶縁層25及び光学的に透明な第2電極26を順次積層して形成されており、第1電極22と第2電極26の交点に所定の電圧が印加されると、その部分が発光する。
【0004】
ガラス基板21としては、無アルカリガラスや低アルカリガラスが用いられ、第1、第2電極22、26としては、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)をドープしたITO膜が用いられ、発光層24としては、希土類元素を添加したII−VI族化合物半導体が用いられる。ここで、II−VI族化合物半導体は、旧周期律表におけるCa、Sr、Zn、CdなどのIIA族およびIIB族とO、SなどのVIB族(現16族)との化合物半導体である。具体的には、発光層24としては、例えば硫化亜鉛を母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)等を添加したものが使用される。
【0005】
このような構造のEL素子において、発光輝度(以下、単に輝度という)を向上させるために発光層24をアニールする方法として、発光層24にレーザーを照射する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−224777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記公報に記載された方法で発光層をレーザーによって熱処理しEL素子を作製した場合、レーザーの波長、レーザー照射工程などによってアニール効果が全く異なることがわかった。例えば、514.5nmのアルゴンレーザーでZnS:Mnからなる発光層の熱処理を試みると、全くアニール効果が得られなかった。このとき、レーザーのパワーを大きくすると、レーザーアブレーションが生じ、発光層が加工されて無くなってしまった。また、1064nmの赤外線レーザーを用い、第1電極を加熱することで、発光層の熱処理を試みると、第1電極のITO膜のアブレーションによって、それよりも上層の膜が加工されてしまった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、発光層をアブレーションが生じないようにアニールし、EL素子の輝度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、発光層を成膜した後、第2絶縁層を成膜する前に、420nm以下の波長のレーザーを発光層に照射して発光層をアニールすることを特徴としている。この発明によれば、420nm以下の波長のレーザーを発光層に照射することで、発光層がレーザー光を吸収し、アニール効果が得られるため、発光層の結晶性が向上し、EL素子の輝度を向上させることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、第2絶縁層を成膜した後に、320nm以上420nm以下の波長のレーザーを発光層に照射して発光層をアニールすることを特徴としている。この発明によれば、第2絶縁層を通してレーザーを照射することで、請求項1に記載の発明と同様、EL素子の輝度を向上させることができる。この場合、請求項3に記載のように、第2絶縁層としてアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜を用いることが好ましい。ATO膜は、320nm〜420nmのレーザーの透過率が高いので、ATO膜を用いることによってレーザー照射時にダメージを受けないようにすることができる。
【0010】
また、上記したEL素子の製造方法において、請求項4に記載の発明のように、発光層として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含めば、420nm以下の波長のレーザー光を吸収させることができる。この場合、請求項5に記載の発明のように、発光層の膜厚を400nm以下にすれば、発光効率を大きく変化させることができる。
【0011】
また、請求項6に記載の発明では、発光層を成膜した後に、レーザーを用いて発光層の幅が200μm以下になるように発光層を除去し、そのときに発生する熱で発光層をアニールすることを特徴としている。この発明によれば、発光層をレーザーで除去する工程で熱が発生し、発光層を横方向に熱が伝わり、発光層を結晶化させることができ、EL素子の輝度を向上させることができる。この場合、請求項7に記載の発明のように、レーザーの波長を600nm以下にすることが好ましく、請求項8に記載の発明のように、発光層として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含めば、600nm以下の波長のレーザー光を吸収させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について説明する。この第1実施形態は、発光層を成膜した後、第2絶縁層を成膜する前に、発光層にレーザーを照射して熱処理をし、発光層の結晶性を向上させ、EL素子の輝度を高めようとするものである。
【0013】
図1に、この第1実施形態に係るEL素子のレーザー照射工程と、この工程によって作製されたEL素子を示した模式図を示す。なお、図1(a)は、レーザー照射工程での平面図(EL素子の各構成要素が光学的に透明な材料にて構成されているため、第1電極12のパターンのみを示す)であり、図1(b)は、図1(a)中のAA’断面図であり、図1(c)は、レーザー照射工程を経て作製されたEL素子の断面図である。
【0014】
EL素子は、絶縁性基板であるガラス基板11上に順次、以下の薄膜が積層形成され構成されている。このEL素子は、次のようにして製造される。
【0015】
まず、ガラス基板1上に、第1電極12として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法で形成する。その上に、第1絶縁層13として、Al2O3/TiO2積層構造膜をALD(Atomic−Layer−Deposition)法で作製する。ここで、Al2O3はアルミナのことであり、TiO2はチタニアのことである。
【0016】
具体的には以下のようにしてAl2O3/TiO2積層構造膜形成する。まず、第1のステップとして、アルミニウム(Al)の原料ガスとして三塩化アルミニウム(AlCl3)、酸素(O)の原料ガスとして水(H2O)を用いて、Al2O3層をALD法で形成する。ALD法では1原子層ずつ膜を形成していくために、原料ガスを交互に供給する。従って、この場合には、AlCl3をアルゴン(Ar)のキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚のAl2O3層を形成する。
【0017】
第2のステップとして、Tiの原料ガスとして四塩化チタン(TiCl4)、酸素の原料ガスとしてH2Oを用いて、酸化チタン層を形成する。具体的には、第1のステップと同様にTiCl4をArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のTiCl4を排気するのに十分なパージを行う。次に、H2Oを同様にArキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚の酸化チタン層を形成する。
【0018】
そして、上述した第1のステップと第2のステップを繰り返し、所定膜厚のAl2O3/TiO2積層構造膜を形成して、これを第1絶縁層13とする。具体的には、Al2O3層、TiO2層とも、1層当たりの厚さを5nmとし、それぞれ6層積層した構造とする。なお、Al2O3/TiO2積層構造膜の最初と最後の層は、Al2O3層とTiO2層のいずれであってもよい。
【0019】
また、ALD法を用いて原子層オーダで膜を形成する場合、0.5nmより薄い膜では絶縁体として機能せず、また1層当たりの膜厚が20nmよりも厚い場合には、積層構造による耐電圧の向上効果が低下してしまう。従って、積層構造膜の1層当たりの膜厚は0.5nmから20nm、好ましくは1nmから10nmとするのがよい。
【0020】
そして、第1絶縁層13上に、ZnSを母体材料とし、発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)発光層14を蒸着法により形成する。この状態を、図1(a)の平面図、図1(b)のAA’断面図に示す。
【0021】
次に、発光層14に420nm以下の波長のレーザーを照射し、発光層14をアニールする。この場合、レーザー発振源としては、420nm以下の波長のレーザーを照射できるものであれば何を用いてもよく、また420nm以上の波長の発振源を用いて、その高調波を利用してもよい。また、レーザーパワーについては、発光層材料や照射の仕方によって異なるが、発光層の構成元素がアブレーションで加工されない範囲内でできるだけ大きなパワーを加えることが好ましい。
【0022】
その後、第2絶縁層15を第1絶縁層13と同様の構造と膜厚で成膜し、最後に第2電極16として第1電極と同様にしてITO膜を成膜する。これで、図1(c)の断面図で示すEL素子が完成する。
【0023】
次に、レーザーの波長を420nm以下にする理由について図2を用いて説明する。図2は、EL素子を構成する膜の透過率の波長依存性を測定した図である。図2において、Aは第1絶縁層13だけとした場合の測定結果を示し、Bは第1絶縁層13と発光層14の2層構造とした場合の測定結果を示す。第1絶縁層13は、Al2O3/TiO2積層構造膜で各々の膜厚が5nmで30層積層した膜であり、発光層14は、ZnS:Mn発光層で膜厚が900nmである。CはBとAの差分であり、発光層14だけの1層分の透過率曲線を表している。
【0024】
レーザーの波長が420nm以下では、Bの透過率曲線に示すように、第1絶縁層13と発光層14の2層構造膜の透過率が波長が短くなるに従って低下している。つまり、420nm以下の波長ではその2層構造膜がレーザーを吸収すること示している。このとき、Cの透過率曲線に示すように、発光層14だけでも吸収があるので、発光層14のアニールが可能である。なお、420nm以上の波長において、若干透過率が低下している波長もあるが、それは第1絶縁層13と発光層14の界面の効果によるもので、その波長においてはアニール効果はほとんど無い。なお、第1絶縁層13や発光層14の膜厚が薄くなれば透過率の絶対値は小さくなるが、定性的な傾向に変化はなかった。
【0025】
次に、レーザー光のパワーの選択について説明する。例えば、波長が355nmのレーザーを用い、発光層14を膜厚300nmのZnS:Mn発光層としたとき、レーザー光のパワーを0.01〜1.0Wとすることにより、輝度向上の効果を確認することができた。この場合、レーザー光のパワーが0.01Wより低ければ、発光層の結晶性をよくするができないため輝度を向上させることができず、1.0Wより高くすればレーザーアブレーションにより発光層が加工されて無くなってしまった。また、波長が266nmのレーザーを用いた場合には、ほぼ100%光が発光層14に吸収されるため、レーザー光のパワーを波長が355nmのレーザーを用いた場合よりも低い0.0001〜0.1Wとすることにより、輝度を向上させることができる。その数値の下限、上限の意味は、波長が355nmのレーザーを用いた場合と同様である。上述した例では、2種類の波長について、パワーの選択範囲を示したが、一般的には発光層14への光の吸収率が高くなれば、低い照射パワーでアニール効果を得ることができる。また、発光層14をSrS:CeやCaS:Eu発光層として蒸着法で成膜した場合には、ZnS:Mnと同様の透過率曲線が得られるので、同様の手法でレーザー波長やパワーを選択すればよい。また、発光層材料の光に対する光学的特性は母体材料によって決定されるので、発光中心材料は、Mn、Ce、Eu等何を選択しても構わない。
【0026】
次に、アニールするときの発光層14の膜厚について図3を用いて説明する。図3は、図9に示す従来構造のEL素子において、発光層23の膜厚を変化させ、700℃でアニール炉の中に入れて1分間アニールしたときのデータである。なお、発光層23は、ZnS:Mn発光層であり、第1絶縁層23は、上述したAl2O3/TiO2積層構造膜である。図3の縦軸は、熱処理前後で発光効率がどのように変化したかを示している。すなわち、発光層厚さを900nmとした場合を1として発光効率が何倍変化したかを示している。この図3によれば、発光層厚さが400nm以下ではしっかりアニール効果が出ているが、それより膜厚を厚くすれば効果が小さくなり、900nmではほとんどアニール効果が無くなった。このデータは、アニール炉での実験結果であるが、以下に示す理由によってレーザーアニールでも同様の結果が得られると推測される。すなわち、図1に示すように、発光層14を第1絶縁層13の上に成膜させたとき、発光層14の成長初期はアモルファスに近い結晶構造であり、成長するに従ってだんだん結晶粒の大きい膜が出来るようになる。結晶性が悪い部分は、発光効率が低くなっている。発光層14の膜厚が厚くなると、第2絶縁層15との界面付近では、十分結晶性が良くなっておりアニールしても効果が出てこないが、膜厚が薄い場合は、アニールによって、成膜直後には悪かった結晶性を向上させることができ、その効果が発光特性になって現れる。つまり、輝度が向上する理由としては、第1絶縁層13に近い発光層14の結晶性をアニールよって向上するからであり、アニールする手段にはよらないので、レーザーを用いてアニールしても図3に示したのと同様の効果が得られると考えられる。
【0027】
実際、発光層14の膜厚が300nmと900nmの場合について266nmのレーザーを照射して輝度を測定したところ、300nmの膜厚のサンプルでは、図4の実験結果に示すように輝度向上の効果を確認することができたが、900nmのサンプルでは図3で説明したように輝度向上を確認することができなかった。なお、図4は、発光層14を成膜した後のレーザーアニールの有無により、電圧―輝度特性がどのように変化したかを示すグラフであり、Dは266nmのレーザーを0.01Wで照射した場合、Eはレーザー照射していない場合を示している。第1、第2絶縁層13、15はAl2O3、TiO2とも膜厚が5nmでAl2O3は6層、TiO2は5層ALD法で作製した膜であり、発光層14はZnS:Mn膜を蒸着法で300nm成膜したものである。測定は、フレーム周波数480Hz、パルス幅20μsecの矩形波で行った。この図4から、レーザー照射することにより、発光が生じるどの電圧領域でも輝度が高くなっていることがわかる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、発光層、第2絶縁層を成膜した後に、発光層にレーザーを照射して熱処理をし、発光層の結晶性を向上させ、EL素子の輝度を高めようとするものである。
【0029】
図5に、この第2実施形態に係るEL素子のレーザー照射工程と、この工程によって作製されたEL素子を示した模式図を示す。なお、図5(a)は、レーザー照射工程での平面図(EL素子の各構成要素が光学的に透明な材料にて構成されているため、第1電極12のパターンのみを示す)であり、図5(b)は、図5(a)中のBB’断面図を示しており、膜の構成は図1と同様である。
【0030】
この第2実施形態のように、第2絶縁層15を成膜した後にレーザーを照射することにより、膜の昇華を抑えることができるので、効果的にアニールすることができる。例えば、発光層材料としてZnSを用いれば1180℃で昇華してしまうが、第2絶縁層15があれば昇華は生じなくなり、より効率的なアニールをすることができる。これは、昇華点がないSrSやCaSにおいても第2絶縁層15があれば発光層14の冷却効率が低下するので、効果がある。また、第2絶縁層15で発光層14が覆われていれば、レーザー照射の雰囲気いかんにかかわらず、同様の結果を得ることができる。
【0031】
さて、レーザーで発光層14をアニールするためには、第2絶縁層15をレーザーが透過し、発光層14では吸収されなければならない。そのためのレーザーの波長領域は、図2から320〜420nmにあることがわかる。図2において、曲線Aの透過率が曲線Bよりどの波長域でも高くなっている領域のことである。320nmより短い波長、例えば第2絶縁層15がほぼ100%吸収する266nmや308nmのレーザーを図5の状態で照射したところ、パワーが弱ければEL素子の輝度に変化がなく、パワーを強くすれば、第2絶縁層15が加工されてしまいEL素子を形成することができなかった。また、420nmより長波長の532nmのレーザーでは、発光層14が光を吸収しないので、アニール効果が得られなかった。また、355nmのレーザー光を用いたとき、輝度を向上させることができた。その場合、パワーとしては0.05〜0.3Wが好ましい。0.05W以下ではアニール効果が無く、0.3W以上では発光層が加工されるからである。
【0032】
また、発光層14の膜厚は、第1実施形態と同様に400nm以下が好ましい。さらに、第2絶縁層15の材料としては、Al2O3/TiO2積層構造膜であるATO膜が好ましい。該膜は緻密であり、レーザーアニールによってダメージを受けにくいからである。さらに、発光層14がアニールによって結晶構造に変化が生じても、ATO膜は影響を受けない。この場合、第2絶縁層15の製造方法としてALD法を用いれば、よい緻密な膜になり好ましい。
【0033】
この第2実施形態において、第2絶縁層15を成膜した後のレーザーアニールの有無により、電圧―輝度特性がどのように変化したかを実験により確認したところ、図6に示す結果が得られた。この図6において、Fは355nmのレーザーを0.15Wで照射した場合のデータであり、Gはレーザー照射していない場合のデータである。第1、第2絶縁層13、15はAl2O3、TiO2とも膜厚が5nmでAl2O3は8層、TiO2は7層ALD法で作製した膜であり、発光層14はZnS:Mn膜を蒸着法で300nm成膜したものである。測定は、フレーム周波数480Hz、パルス幅20μsecの矩形波で行った。この図6から、レーザー照射することにより、どの電圧領域でも輝度が高くなっていることがわかる。
【0034】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態は、発光層を成膜した後に、レーザーを用いて発光層を除去し、そのときに発生する熱で発光層をアニールするものである。
【0035】
図7に、この第3実施形態に係る薄膜EL素子のレーザー照射工程と、この工程によって作製されたEL素子を示した模式図を示す。なお、図7(a)は、レーザー照射工程での平面図(EL素子の各構成要素が光学的に透明な材料にて構成されているため、第1電極12のパターンのみを示す)であり、図7(b)は、図7(a)中のCC’での断面図であり、図7(c)は、レーザー照射工程が完了した状態での断面図である。
【0036】
この第3実施形態では、図7(a)、(b)に示すように、第1電極12の間にレーザーを照射する。このときのレーザーの波長は600nm以下にすることが好ましい。波長が600nmより高いと、ITO膜からなる第1電極12がレーザー光を良く吸収するようになり、加工されることがあるからである。例えば、900nmの厚さのSrS:Ce膜を発光層14に用いた場合、波長が355nmのレーザーを0.5〜5Wのパワーで照射したとき、輝度向上の効果を確認できた。この場合、0.5Wよりパワーを小さいと、発光層14が除去させることができず、また5Wよりもパワーを大きくすると、アニール効果は確認されたが、第1絶縁層13も加工され、作製されたEL素子に欠陥が発生する確率が高くなるので好ましくない。
【0037】
また、図7(c)に示すように、EL素子を構成する発光層14の幅bは200μm以下にすることが好ましい。レーザーにて発光層を除去したときに、結晶性が良くなる領域は発光層が除去された境界から100μmであるので、両側からアニールすればその倍の200μm以下にすればよい。アニールされる領域は、発光層材料やレーザー波長やパワーによって変化することはなかった。従って、発光層材料は、ZnSやSrS、CaSを母体材料とする材料を使えば同様の効果を得ることができる。
【0038】
また、図7(c)において、幅bは第1電極12の幅より大きくすることが信頼性の観点から好ましい。もし、幅bが第1電極12のそれより短ければ、第1電極12と第2電極16の間に発光層14を介さずに電圧が印加される部分が発生し、第1および第2絶縁膜13、15に過剰な電圧が印加され、ブレークダウンを生じ易くなるからである。さらに、第1電極12の間に発光層14がなければ、該部分の輝度は変化しないのでEL表示器での隣の画素とのコントラストがはっきりし、クリアな画面とすることができる。通常は、第1電極12の間では、隣の画素が発光するとフォトルミネッセンスの効果により若干発光することがあるためである。
【0039】
この第3実施形態において、発光層14を成膜した後のレーザーアニールの有無により、電圧―輝度特性がどのように変化したかを実験により確認したところ、図8に示す結果が得られた。この図8において、Hは355nmのレーザーを1.5Wで照射した場合のデータであり、Iはレーザー照射していない場合のデータである。第1、第2絶縁層13、15はAl2O3、TiO2とも5nmの厚さで30層積層した膜であり、発光層14はSrS:Ce膜を蒸着法で1200nm成膜したものである。測定は、フレーム周波数420Hz、パルス幅66μsecの矩形波で行った。この図8から、レーザー照射することにより、どの電圧領域でも輝度が高くなっていることがわかる。
【0040】
この第3実施形態では、発光層14の膜厚の規定はしていない。これは、アニールが基板面内に進むからであり、基板の垂直方向にアニールした第1および第2実施形態とは異なるからである。
【0041】
なお、この第3実施形態において、RGB3色を各々異なる発光層材料で形成するEL素子とした場合には、発光層14のパターニングとアニール効果を合わせて一度の工程で達成することができる。
【0042】
また、上記した第1〜第3実施形態において、第1電極12、第2電極16を透明な材料にて構成する場合を示したが、光取り出し側と反対側の電極を透明でない金属電極としてもよい。この場合、発光層14の片側から光を取り出すことになる。
【0043】
以上説明した第1〜第3実施形態のEL素子を用いて表示器を作製すれば、表示器の輝度が高くなり、見栄えの良い表示器とすることができる。また、表示器の輝度を高くする必要がなければ、例えば、表示器の開口率を小さくできるので、廉価な駆動回路を作製することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係るEL素子の製造方法を説明するための図である。
【図2】EL素子を構成する膜の透過率曲線を示す図である。
【図3】EL素子をアニールしたときの、発光層膜厚と発光効率の関係を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るEL素子の電圧−輝度特性を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るEL素子の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るEL素子の電圧−輝度特性を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るEL素子の製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るEL素子の電圧−輝度特性を示す図である。
【図9】従来のEL素子の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10…EL素子、11…絶縁性基板としてのガラス基板、12…第1電極、
13…第1絶縁層、14…発光層、15…第2絶縁層、16…第2電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層及び第2電極を順次積層し、少なくとも光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成したエレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記発光層を成膜した後、前記第2絶縁層を成膜する前に、420nm以下の波長のレーザーを前記発光層に照射して前記発光層をアニールすることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層及び第2電極を順次積層し、少なくとも光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成したエレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記第2絶縁層を成膜した後に、320nm以上420nm以下の波長のレーザーを前記発光層に照射して前記発光層をアニールすることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2絶縁層としてアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜を用いることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光層として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記発光層の膜厚を400nm以下にすることを特徴とする請求項4に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層及び第2電極を順次積層し、少なくとも光取り出し側を光学的に透明な材料にて構成したエレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記発光層を成膜した後に、レーザーを用いて前記記発光層の幅が200μm以下になるように前記発光層を除去し、そのときに発生する熱で前記発光層をアニールすることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記レーザーの波長を600nm以下とすることを特徴とする請求項6に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項8】
前記発光層として少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料として含むことを特徴とする請求項7に記載のエレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−32289(P2006−32289A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213340(P2004−213340)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】