説明

エレクトロルミネッセンス素子及びそれを有するエレクトロルミネッセンス表示装置

【課題】高いコントラスト比を有すると共に、高い発光効率を有するエレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、対をなす、可視光を透過させる透過電極12、及び可視光を反射する反射電極15と、透過電極12と反射電極15との間に設けられた発光層13と、透過電極12と発光層13との間、又は反射電極15と発光層13との間に設けられたバッファ層14とを有する。バッファ層14は、内部に空間を有する包摂化合物と、発光層の発光波長の光を透過させると共に、発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する色素と、電荷供与性物質とを含む。色素及び電荷供与性物質のうち少なくとも一方は包摂化合物により内包されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロルミネッセンス素子及びそれを有するエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代平面素子としてエレクトロルミネッセンス素子(以下、「EL素子」と略称する。)が注目を浴びている。EL素子は一対の電極とその間に設けられた発光層及びバッファ層とを有する。一般的に、一対の電極のうちの一方が可視光を透過する透過電極にされており、他方が可視光を反射する反射電極とされている。発光層の発光は透過電極側から取り出される。一方の電極が反射電極とされるのは発光層の発光のうち、反射電極側に出射された発光を透過電極側に反射させることによって、光の利用効率を向上させるためである。
【0003】
しかしながら、一方の電極を反射電極とした場合、透過電極側から入射した外光は反射電極により反射されて再び透過電極側から出射する。このため、EL素子のコントラスト比が低下するという問題がある。
【0004】
このような問題に鑑み、例えば特許文献1には、発光層と反射電極である陰極との間に光吸収層を設ける技術が開示されている。光吸収層は銅フタロシアニン等の有機材料からなるものであり、EL素子内に入射する外光を吸収する。このため、光吸収層を設けることにより、外光に起因するコントラスト比の低下を抑制することができると記載されている。
【特許文献1】特開2000−315582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銅フタロシアニン等の有機材料からなる光吸収層は電荷供与性が十分に高くない。このため、光吸収層を設けた場合、陰極から発光層への十分な電子供与効率が得られない。従って、十分に高い発光効率が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高いコントラスト比を有すると共に、高い発光効率を有するエレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【0007】
尚、発光層からの光を反射し、それ以外の光を吸収するような着色金属を用いて反射電極を形成することも考えられる。具体的に、着色金属としては金(Au)や銅(Cu)、酸化クロム(CrO2)等が挙げられる。しかし、これらの着色金属は仕事関数が高く、反射光の色純度が低い。このため、コントラストが十分に高く、且つ電荷供与性が十分に高いEL素子を実現することは困難である。また、種々の色調の着色金属を用意するのは困難であるという問題もあるため、特にフルカラーEL素子を実現することは困難である。
【0008】
また、アルミニウム(Al)や銀(Ag)等の無色で高反射率である金属を用いて反射電極を形成し、その反射電極と発光層との間に、例えば液晶表示装置等に使用するカラーフィルタを設けることも考えられる。しかしながら、カラーフィルタは一般的に絶縁性である。このため、反射電極と発光層との間にカラーフィルタを設けた場合、反射電極から発光層への十分な電荷供与性を得ることが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るEL素子は、対をなす、可視光を透過させる透過電極、及び可視光を反射する反射電極を有する。透過電極と反射電極との間には発光層が設けられている。透過電極と発光層との間又は反射電極と発光層との間にはバッファ層が設けられている。本発明に係るEL素子では、バッファ層が包摂化合物と色素と電荷供与性物質(例えば、電子供与性物質、正孔供与性物質)とを含む。包摂化合物は内部に空間を有する、例えばかご状、殻状の化合物である。バッファ層に含まれる色素は発光層の発光波長の光を透過させると共に、発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する。色素と電荷供与性物質とのうち少なくともいずれか一方は包摂化合物に内包されている。バッファ層は反射電極と発光層との間に設けられていてもよい。この場合、バッファ層は、電子供与性物質を含み、電子供与層として機能する。また、バッファ層は透過電極と発光層との間に設けられていてもよい。この場合、バッファ層は、正孔供与性物質を含み、正孔供与層として機能する。
【0010】
本発明に係るEL素子では、バッファ層が色素を含む。色素は発光層の発光波長の光を透過させる。このため、発光層の発光のバッファ層による吸収率は低い。従って、発光層の発光の高い取り出し効率を実現することができる。尚、本明細書において「発光波長」とは発光層から出射される発光の中心波長のことをいう。言い換えれば、発光層から出射される発光の波長域のうち、最も発光輝度が高いピーク輝度を示す波長のことをいう。また、本明細書において、「色素」は、顔料及び染料を含む。
【0011】
色素は発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する。このため、バッファ層によって、EL素子内に入射した外光のうち発光層の発光波長の光を除いた光はバッファ層によって吸収遮断される。このため、外光に起因するコントラストの低下を抑制することができる。より効果的にコントラストの低下を抑制する観点から、色素は発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収するものであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るEL素子では、バッファ層は色素を含むと共に、電荷供与性物質を含む。このため、バッファ層は高い電荷供与性を有する。従って、電極から発光層への高い電荷供与効率を実現することができるので、高い発光効率を実現することができる。尚、電荷供与性物質としては、例えば、電子供与性物質や正孔供与性物質等が挙げられる。
【0013】
本発明に係るEL素子では、色素及び電荷供与性物質のうちいずれか一方が包摂化合物によって内包されている。一般的に色素は有機化合物であり、電荷供与性物質は金属化合物である。このため、色素と電荷供与性物質との相溶性は低い。従って、例えば、色素と電荷供与性物質とをそのままバッファ層に含ませた場合、色素と電荷供与性物質とが経時的に相分離するおそれがある。相分離した場合、バッファ層中に電荷供与性物質の濃度の高いところと低いところができる。電荷供与性物質の濃度の高いところは発光輝度が高く、低いところは発光輝度が低くなる。その結果、表示輝度にばらつきが生じる。
【0014】
また、電荷供与性物質は一般的に酸化されやすいため、色素と反応して(色素を還元させて)色素を変色させてしまうおそれがある。色素が変色した場合、透過させたい発光層の発光を吸収し、吸収したい外光を透過させてしまうこととなるおそれがある。
【0015】
さらに、酸化されやすい電荷供与性物質は真空蒸着することが好ましいため、それぞれ包摂化合物に内包されていない色素と電荷供与性物質とを含むバッファ層は共蒸着により形成することが好ましい。ところが、一般的に色素は複数のベンゼン環を有する化合物であるため、共蒸着した場合、分子間距離が近くなり、色素と電荷供与性物質とが錯体を形成してしまうおそれがある。また、無機顔料系色素である酸化クロムも遷移金属固有のd電子を有するため、電荷供与性物質と錯体を形成するおそれがある。錯体が形成されると、電荷供与性物質の電荷供与性が低下してしまい、所望の電荷供与性が得られなくなってしまう。
【0016】
一方、本発明に係るEL素子では、色素及び電荷供与性物質のうちいずれか一方が包摂化合物によって内包されているため、色素と電荷供与性物質とが相分離することが効果的に抑制される。また、包摂化合物によって色素は電荷供与性物質から離間されているため、色素が電荷供与性物質と反応し変色すること、及び色素と電荷供与性物質とが錯体を形成することも効果的に抑制される。上記観点から、色素及び電荷供与性物質の両方が包摂化合物により内包されていることが好ましい。
【0017】
尚、包摂化合物は可視光域に吸収帯を有さないものであることが好ましい。または、包摂化合物は可視光のうち発光層の発光波長とは異なる波長の光を吸収し、発光層の発光を透過させるものであることが好ましい。
【0018】
本発明に係るEL素子は、複数色表示が可能なEL素子(例えば、フルカラーEL素子)であってもよい。具体的には、発光層が、相互に発光色が異なる、層方向に配列された第1の発光層及び第2の発光層を含み、バッファ層は、第1の発光層に積層され、色素として、第1の発光層の発光波長の光を透過させると共に、第1の発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第1の色素を含む第1のバッファ層と、第2の発光層に積層され、色素として、第2の発光層の発光波長の光を透過させると共に、第2の発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第2の色素を含む第2のバッファ層とを含むものであってもよい。第1の色素は第1の発光層の発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収し、且つ第2の色素は第2の発光層の発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収するものであることが好ましい。
【0019】
本発明に係るエレクトロルミネッセンス表示装置(以下、「EL表示装置」と略称する。)は本発明に係るEL素子を有するものである。上述の通り本発明に係るEL素子は高いコントラスト比を有すると共に、高い発光効率を有する。このため、本発明に係るEL表示装置もまた高いコントラスト比を有すると共に、高い発光効率を有する。
【0020】
本発明に係る機能膜は、対をなす、可視光を透過させる透過電極、及び可視光を反射する反射電極と、透過電極と反射電極との間に設けられた発光層とを有するエレクトロルミネッセンス素子に用いられるものである。本発明に係る機能膜(バッファ膜)は、内部に空間を有する包摂化合物と、色素と、電荷供与性物質とを含む。色素は発光層の発光波長の光を透過させる。色素は発光層の発光波長を除いた可視光波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する。色素は発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収するものであることが好ましい。色素及び電荷供与性物質のうちいずれか一方は包摂化合物によって内包されている。色素及び電荷供与性物質の両方が包摂化合物によって内包されていることが好ましい。
【0021】
本発明に係る機能薄は反射電極と透過電極との間に設けられることが好ましい。
【0022】
本発明に係る機能膜を用いることによって、透過電極側からEL素子内に入射する外光に起因するコントラストの低下を効果的に抑制することができる。また、本発明に係る機能膜は、発光層からの発光を透過させるため、反射電極と透過電極との間に設けた場合でも、発光層からの発光の取り出し効率を低下させない。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、高いコントラスト比及び高い発光効率を同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は本実施形態に係る有機EL素子1の部分断面図である。
【0026】
有機EL素子1は、例えばガラス製の透明基板10と透明基板10の上に設けられた透過電極11とを有する。透過電極11は光透過性である。透過電極11は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電性材料により形成することができる。透過電極11は発光層13に正孔(ホール)を注入する機能を有する。
【0027】
透過電極11の上には透過電極11の表面を複数の領域に区画するようにストライプ状のブラックマトリクス16が設けられている。ブラックマトリクス16は光遮蔽性である。ブラックマトリクス16によってそれぞれに区画された複数の領域のそれぞれには、透過電極11の上に正孔(ホール)輸送層12が形成されている。透過電極11上に複数設けられた正孔輸送層12のそれぞれの上には発光層13が設けられている。発光層13は、発光色が赤(R)の第1発光層13Rと、発光色がG(緑)の第2発光層13Gと、発光色がB(青)の第3発光層13Bとを含む。これら第1発光層13R、第2発光層13G、及び第3発光層13Bは所定配列で(例えば、マトリクス状又はデルタ状に)配列されている。
【0028】
発光層13の上にはバッファ層としての電子供与層14が設けられている。電子供与層14は第1電子供与層14Rと第2電子供与層14Gと第3電子供与層14Bとを含む。第1電子供与層14Rは第1発光層13Rに積層されている。第2電子供与層14Gは第2発光層13Gに積層されている。第3電子供与層14Bは第3発光層13Bに積層されている。複数の電子供与層14の上には反射電極15が形成されている。
【0029】
反射電極15は例えば、アルミニウム(Al)や銀(Ag)等により形成されており、光反射性である。反射電極15は発光層13に電子を注入する機能を有する。この反射電極15から注入された電子と透過電極11から注入された正孔とが発光層13において再結合し、励起子が形成される。形成された励起子が基底状態に失活する際に放出される光が発光層13から出射される仕組みとなっている。尚、正孔輸送層12は透過電極11から発光層13への正孔(ホール)輸送効率を向上させる機能を有する。正孔輸送層12に含ませる正孔輸送材料としては、例えばポリビニルカルバゾールに下記化学式1で表されるトリフェニルジアミン(TPD)をドープ(例えば、3重量%程度ドープ)したものが挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
第1電子供与層14Rは第1発光層13Rの発光波長の光(赤色の光)を透過させると共に、第1発光層13Rの発光波長の光(赤色の光)を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第1の色素を含む。第1の色素としては、例えば下記化学式2で表されるジスチリル系化合物等が挙げられる。
【0032】
【化2】

【0033】
第2電子供与層14Gは第2発光層13Gの発光波長の光(緑色の光)を透過させると共に、第2発光層13Gの発光波長の光(緑色の光)を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第2の色素を含む。第2の色素としては、例えば、下記化学式3で表されるトリス(8−ヒドロキシキノクリナト)アルミニウム〔Alq3〕等が挙げられる。
【0034】
【化3】

【0035】
第3電子供与層14Bは第3発光層13Bの発光波長の光(青色の光)を透過させると共に、第3発光層13Bの発光波長の光(青色の光)を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第3の色素を含む。第3の色素としては、例えば、下記化学式4で表される、ターシャリーブチル(t−Bu)基で置換されたジスチリルビフェニル誘導体〔DTBPVBi〕等が挙げられる。
【0036】
【化4】

【0037】
但し、上記化学式3においてRはターシャリーブチル基(t−Bu)である。
【0038】
このため、各電子供与層14R、14B、14Gの各発光層13R、13B、13Gから出射された光の透過率は高い。具体的には、第1発光層13Rから出射された赤色の光は、第1電子供与層14Rを経由して、高い光取り出し効率で有機EL素子1から取り出される。第2発光層13Gから出射された緑色の光は、第2電子供与層14Gを経由して、高い光取り出し効率で有機EL素子1から取り出される。第3発光層13Bから出射された青色の光は、第3電子供与層14Bを経由して、高い光取り出し効率で有機EL素子1から取り出される。従って、有機EL素子1の発光効率を向上することができる。
【0039】
上述のように、電子供与層14に含まれる色素は発光層13の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する。このため、外光(詳細には、発光層13の発光と同波長の光を除く外光)は電子供与層14に吸収される。従って、外光に起因するコントラスト比の低下を効果的に抑制することができる。コントラスト比の低下を寄り効果的に抑制する観点から、電子供与層14に含まれる色素は発光層13の発光波長を除いた可視波長域の全域の光を吸収するものであることが好ましい。
【0040】
電子供与層14は上記色素を含むと共に、電荷供与性物質(具体的には、電子供与性物質)を含む。このため、電子供与層14は高い電荷供与性を有する。従って、反射電極15から発光層13への高い電荷供与効率を実現することができる。その結果、高い発光効率を有する有機EL素子1を実現することができる。
【0041】
具体的に、電子供与性物質としては、例えば金属マグネシウム(Mg)、テトラチアフルパレン(TTF)等が挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る有機EL素子1では、電子供与性物質と色素とはそれぞれ包摂化合物に内包された態様で電子供与層14に分散混入されている。ここで、包摂化合物とは骨格構造内部に空間を有する、例えばかご状、殻状の化合物である。包摂化合物の具体例としては、例えば、図2に骨格構造が表されたゼオライト(Na12・Al12Si1248)、シクロデキストリン、フラーレン(C60、C70等)、クラウンエーテル、カリックスアレーン等が挙げられる。
【0043】
一般的に色素は有機化合物であり、電子供与性物質は金属化合物である。このため、色素と電子供与性物質との相溶性は低い。従って、例えば、色素と電子供与性物質とをそのまま電子供与層14に含ませた場合、色素と電子供与性物質とが経時的に相分離するおそれがある。相分離した場合、電子供与層14中に電子供与性物質の濃度の高いところと低いところができる。電子供与性物質の濃度の高いところは発光輝度が高く、低いところは発光輝度が低くなる。その結果、表示輝度にばらつきが生じてしまう。
【0044】
本実施形態では電子供与性物質と色素とはそれぞれゼオライト等の包摂化合物に内包されている。包摂化合物に内包された電子供与性物質(以下「包摂電子供与性物質」と称する。)と包摂化合物に内包された色素(以下、「包摂色素」と称する。)とは相溶性が高い。このため、包摂電子供与性物質と包摂色素とが含まれた電子供与層14の相分離が抑制される。従って、表示ばらつきが経時的に発生することが抑制されるので、長い寿命を有する有機EL素子1を実現することができる。
【0045】
また、電子供与性物質は一般的に酸化されやすいため、例えば、色素と電子供与性物質とをそのまま電子供与層14に含ませた場合、色素と反応して(色素を還元させて)色素を変色させてしまうおそれがある。色素が変色した場合、透過させたい発光層13の発光を吸収し、吸収したい外光を透過させてしまうこととなるおそれがある。
【0046】
本実施形態では電子供与性物質と色素とはそれぞれゼオライト等の包摂化合物に内包されているため、色素と電子供与性物質とが反応(酸化還元反応)することを抑制することができる。このため、色素が経時的に変色することを抑制することができるので、長い寿命を有する有機EL素子1を実現することができる。
【0047】
さらに、酸化されやすい電子供与性物質は真空蒸着することが好ましいため、それぞれ包摂化合物に内包されていない色素と電子供与性物質とを含む電子供与層14は共蒸着により形成することが好ましい。ところが、一般的に色素は複数のベンゼン環を有する化合物であるため、共蒸着した場合、分子間距離が近くなり、色素と電子供与性物質とが錯体を形成してしまうおそれがある。また、無機顔料系色素である酸化クロムも遷移金属固有のd電子を有するため、電子供与性物質と錯体を形成するおそれがある。錯体が形成されると、電子供与性物質の電荷供与性が低下してしまい、所望の電荷供与性が得られなくなってしまう。このため、所望の発光効率が得られなくなるおそれがある。
【0048】
本実施形態では電子供与性物質と色素とはそれぞれゼオライト等の包摂化合物に内包されているため、真空蒸着する必要はなく、例えばより安価なウエット法(例えば、インクジェット法、ノズルコート法等)により形成することができる。また、電子供与性物質と色素とが包摂化合物により離間されているため、電子供与性物質と色素とが錯体形成することを効果的に抑制することができる。このため、高い電子供与性を実現・維持することができる。
【0049】
包摂化合物は可視光域に吸収帯を有さないものであることが好ましい。または、包摂化合物は可視光のうち発光層の発光波長とは異なる波長の光を吸収し、発光層の発光を透過させるものであることが好ましい。
【0050】
図3は本実施形態に係る有機EL表示装置20の平面図である。
【0051】
有機EL表示装置20は有機EL素子1を有する。上述の通り、有機EL素子1は高いコントラスト比を有すると共に、高い発光効率を有する。また、長い寿命を有する。このため、有機EL表示装置20もまた高いコントラスト比、高い発光効率、及び長い寿命を有する。
【0052】
以下、本実施形態に係る有機EL素子1の製造方法について詳細に説明する。まず、有機EL素子1の作成工程を説明する前に、包摂化合物及び色素、電荷供与性物質を内包する包摂化合物を準備する工程について説明する。
【0053】
例えばゼオライト等の包摂化合物をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。粉砕された包摂化合物をトルエン等の溶媒中に展開する。展開された包摂化合物分散溶媒を濾過・乾燥させることにより微粒子状の包摂化合物を得る。包摂化合物分散溶媒の濾過には、例えば孔径が0.05μm程度のミリポアのメンブレンフィルターウルトラセルl−1000等を用いることができる。
【0054】
得られた微粒子状の包摂化合物を用いて包摂電子供与性物質を作成する。具体的には、例えばマグネシウム等の電子供与性物質(又は電子供与性物質の塩)が溶解された溶液(例えば水溶液)に包摂化合物を浸け、所定時間放置する。例えば、5重量%の塩化マグネシウム水溶液300ml中に30gのゼオライト微粒子を浸け、室温で一晩程度放置する。その後、水洗いして表面に吸着した電子供与性物質(又は電子供与性物質の塩)を除去する。水洗い後、乾燥することにより包摂電子供与性物質を得る。例えば、電子供与性物質の塩を用いている場合は、還元性の気体(例えば水素)を満たした減圧雰囲気中で、加熱・還元することにより、包摂電子供与性物質を得る。例えば、水素雰囲気中でおおよそ0.1気圧に減圧しながら350℃で5時間加熱することにより、塩化マグネシウムを塩化水素とマグネシウムとにし、マグネシウムを内包するゼオライト微粒子を得ることができる。
【0055】
同様に、色素を内包する包摂色素を作成する。詳細には、色素を溶解させた溶媒(例えば有機溶媒)中に包摂化合物を浸け、所定時間放置後、水洗い、乾燥させることにより包摂色素を得る。具体的には、例えば、赤色色素(第1の色素)であるポルフィリンの3重量%トルエン溶液500ml中にゼオライト微粒子5gを浸け、室温で一晩放置する。その後、トルエンを用いて表面洗浄することによりゼオライト微粒子の表面に付着しているポルフィリンを除去し、乾燥することにより赤色色素包摂ゼオライト微粒子を得ることができる。同様に緑色色素(第2の色素)包摂ゼオライト微粒子、及び青色色素(第3の色素)包摂ゼオライト微粒子を得ることができる。
【0056】
以上のように、包摂電子供与性物質及び包摂色素を作成、準備する。
【0057】
次に有機EL素子1の作成工程について説明する。透明基板10(例えばソーダガラス基板)上にスパッタ法等により透過電極11を形成する。詳細には、例えば、透明基板10条に二酸化ケイ素(SiO2)をスパッタ法により、層厚約20nmに成膜し、次いで、インジウムスズ酸化物(ITO)をスパッタ法により、層厚約150nmになるように成膜する。成膜されたインジウムスズ酸化物膜をフォトエッチング法等によりパターニングすることにより(例えばストライプ状の)透過電極11を形成することができる。
【0058】
透明基板10上にレジスト(例えば、フォトレジスト)からなるブラックマトリクス16を形成する。ブラックマトリクス16はストライプ状の透過電極11に対して直交する方向に延びるストライプ状に形成することができる。
【0059】
次に、透過電極11上に正孔輸送層12をウエット法(インクジェット法等)により、例えば層厚30nm程度に形成する。形成された正孔輸送層12の上に発光層13を例えばマスク蒸着法等により形成する。詳細には第1発光層13R、第2発光層13G、及び第3発光層13Bをマスク蒸着法等等により順次形成する。
【0060】
形成された発光層13の上に、先立って準備した包摂電子供与性物質及び包摂色素を用いて、例えばウエット法(例えばインクジェット法等)により電子供与層14を形成する。電子供与層14を形成するためのインクとしては、例えば、ビニルカルバゾールと包摂電子供与性物質と包摂色素とをそれぞれ同重量づつ混合したインクを用いることができる。ビニルカルバゾールを用いる場合、成膜後にUV光を照射することにより、ビニルカルバゾールのビニル基を重合させてポリビニルカルバゾールとすることが好ましい。
【0061】
電子供与層14の上に例えばアルミニウム(Al)等を電子線蒸着法等により成膜することにより反射電極15形成し、有機EL素子1を完成させる。ブラックマトリクス16によって、得られる反射電極15はブラックマトリクス16によりそれぞれ離間されており、ストライプ状に形成される。
【0062】
(その他の実施形態)上記実施形態では、バッファ層14は発光層13と反射電極15との間に設けられている。しかしながら、バッファ層14を発光層13と透過電極11との間に設けてもよい。バッファ層14は発光層13の光を透過するため、発光層13よりも透過電極11側に設けた場合であっても、高い光取り出し効率を実現することができる。また、透過電極11から入射する外光はバッファ層14に入射する。このため、バッファ層により外光の反射電極15による反射を効果的に抑制することができる。
【0063】
尚、バッファ層14を発光層13と透過電極11との間に設ける場合、バッファ層14は正孔供与層であることが好ましい。具体的には、バッファ層14は正孔供与物質を含むものであることが好ましい。バッファ層14に正孔供与物質を含ませることによって、透過電極11から発光層13への高い正孔供与効率を実現することができる。
【0064】
上記実施形態では、色素及び電荷(電子)供与性物質の両方が包摂化合物に内包されているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。色素及び電荷(電子)供与性物質のうちいずれかが包摂化合物に内包されていればよい。この場合であっても、色素と電荷(電子)供与性物質との相溶性を向上することができる。高い相溶性を実現する観点から、例えば色素が有機化合物で電荷(電子)供与性物質が無機化合物である場合に、包摂化合物が有機化合物であれば、電荷(電子)供与性物質を包摂化合物で内包することが好ましい。包摂化合物が無機化合物であれば、色素を包摂化合物で内包することが好ましい。例えば色素が無機化合物で電荷(電子)供与性物質が有機化合物である場合に、包摂化合物が有機化合物であれば、色素を包摂化合物で内包することが好ましい。包摂化合物が無機化合物であれば、電荷(電子)供与性物質を包摂化合物で内包することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上説明したように、本発明に係るEL素子は、高いコントラスト及び高い発光効率を有するため、携帯電話、PDA、テレビ、電子ブック、モニター、電子ポスター、時計、電子棚札、非常案内等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態に係る有機EL素子1の部分断面図である。
【図2】ゼオライトの骨格構造を示す図である。
【図3】本実施形態に係る有機EL表示装置20の平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 有機EL素子
10 透明基板
11 透過電極
12 正孔輸送層
13 発光層
14 電子供与層
15 反射電極
16 ブラックマトリクス
20 有機EL表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなす、可視光を透過させる透過電極、及び可視光を反射する反射電極と、
上記透過電極と上記反射電極との間に設けられた発光層と、
上記透過電極と上記発光層との間、又は上記反射電極と上記発光層との間に設けられたバッファ層と、
を有し、
上記バッファ層は、内部に空間を有する包摂化合物と、上記発光層の発光波長の光を透過させると共に、該発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する色素と、電荷供与性物質とを含み、該色素又は該電荷供与性物質は該包摂化合物によって内包されているエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
請求項1に記載されたエレクトロルミネッセンス素子において、
上記色素及び上記電荷供与性物質の両方がそれぞれ上記包摂化合物によって内包されているエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項1に記載されたエレクトロルミネッセンス素子において、
上記色素は上記発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収するエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項1に記載されたエレクトロルミネッセンス素子において、
上記バッファ層は上記反射電極と上記発光層との間に設けられており、
上記電荷供与性物質は電子供与性物質であるエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項1に記載されたエレクトロルミネッセンス素子において、
発光層は、相互に発光色が異なる、層方向に配列された第1の発光層及び第2の発光層を含み、
上記バッファ層は、上記第1の発光層に積層され、上記色素として、該第1の発光層の発光波長の光を透過させると共に、該第1の発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第1の色素を含む第1のバッファ層と、上記第2の発光層に積層され、上記色素として、該第2の発光層の発光波長の光を透過させると共に、該第2の発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する第2の色素を含む第2のバッファ層とを含む、
多色表示が可能なエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項5に記載されたエレクトロルミネッセンス素子において、
上記第1の色素は上記第1の発光層の発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収し、且つ上記第2の色素は上記第2の発光層の発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収するエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1に記載されたエレクトロルミネッセンス素子を有するエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項8】
対をなす、可視光を透過させる透過電極、及び可視光を反射する反射電極と、該透過電極と該反射電極との間に設けられた発光層とを有するエレクトロルミネッセンス素子用の機能膜であって、
内部に空間を有する包摂化合物と、
上記発光層の発光波長の光を透過させると共に、該発光層の発光波長を除いた可視波長域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する色素と、
電荷供与性物質と、
を含み、
上記色素又は上記電荷供与性物質が上記包摂化合物によって内包されている機能膜。
【請求項9】
請求項8に記載された機能膜において、
上記色素及び上記電荷供与性物質の両方がそれぞれ上記包摂化合物によって内包されている機能膜。
【請求項10】
請求項8に記載された機能膜において、
上記反射電極と上記透過電極との間に設けられる機能膜。
【請求項11】
請求項8に記載された機能膜において、
上記色素は上記発光波長を除いた可視波長域全域の光を吸収する機能膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−5475(P2007−5475A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182245(P2005−182245)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】