説明

エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 エレクトロルミネッセンス素子において、輝度を向上させることの可能な新規な構成を提供する。
【解決手段】 絶縁性基板10上に第1電極20、第1絶縁層30、発光中心を含む発光層50、第2絶縁層60および第2電極70が順次積層されてなる画素80を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子100において、第1絶縁層30と発光層50との間に、ITO(Indium Tin Oxide)などの酸化インジウムを含む層40が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光中心を含む発光層を有するエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)に関し、特に発光特性の改善された薄膜EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なエレクトロルミネッセンス素子は、絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層および第2電極が順次積層されてなる画素を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されている。
【0003】
ここで、第1および第2絶縁層、発光層は、容量性負荷である。そして、第1、第2電極の両端に交流電圧を印加すると、発光層、第1および第2絶縁層の静電容量に応じた電荷が蓄えられる。
【0004】
そして、発光層、各絶縁層の材料および膜厚によって決まる電圧であるクランプ電圧以上の電圧を印加すると、それまで蓄えられていた電荷が発光層中を流れる。その電荷が発光層中の発光中心に衝突し発光中心を励起し、そのエネルギーが基底状態に落ちるときに発光する。
【0005】
このようなエレクトロルミネッセンス素子は、スパッタや蒸着法などにより絶縁性基板上に、上記した第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層および第2電極の各層を、順次成膜することにより製造される。
【0006】
ここにおいて、従来より、発光層の成膜初期において、その下地の絶縁層と発光層との界面に結晶性の低下した層が形成されるという問題がある。この界面における結晶性の低下した層は、発光に寄与しないため、発光特性を改善するためには、この層の結晶性を改善する必要がある。
【0007】
そして、従来では、発光層とその下地の絶縁層との界面における層の結晶性を改善する方法として、発光層の下地の層としてZnOを形成する方法(特許文献1参照)や、シリコンを形成する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平5−114482号公報
【特許文献2】特開平8−171990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来では、発光層とその下地の絶縁層との界面における層の結晶性を改善する方法として、ZnOやシリコンを形成する方法が提案されているが、本発明者は、エレクトロルミネッセンス素子において、さらに輝度を向上させるために、新規な手法の開発を進めている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層および第2電極が順次積層されてなる画素を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子において、輝度を向上させることの可能な新規な構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、絶縁性基板(10)上に第1電極(20)、第1絶縁層(30)、発光中心を含む発光層(50)、第2絶縁層(60)および第2電極(70)が順次積層されてなる画素(80)を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子において、第1絶縁層(30)と発光層(50)との間に酸化インジウムを含む層(40)が設けられていることを特徴としている。
【0011】
それによれば、第1絶縁層(40)と発光層(50)との間に酸化インジウムを含む層(40)を設ければ、第1絶縁層(30)上に形成する発光層(50)の成長初期に形成される結晶性の低下した層の結晶性を改善できると考えられ、実際に、輝度の向上を図れることが実験的に確認できている(図2参照)。
【0012】
つまり、本発明によれば、絶縁性基板(10)上に第1電極(20)、第1絶縁層(30)、発光中心を含む発光層(50)、第2絶縁層(60)および第2電極(70)が順次積層されてなる画素(80)を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子において、輝度を向上させることの可能な新規な構成を提供することができる。
【0013】
ここで、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス素子において、発光層(50)としては、ZnSを母体とする材料からなるものを採用することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1または請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス素子において、酸化インジウムを含む層(40)としては、ITO(Indium Tin Oxide)を採用することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3に記載のエレクトロルミネッセンス素子において、画素(80)が複数個配置されており、酸化インジウムを含む層(40)は、隣接する画素(80)の間で隔離されていることを特徴としている。
【0016】
もし、各画素(80)の間で酸化インジウムを含む層(40)が隔離されておらず、連続した膜となっていると、各画素(80)間が、酸化インジウムを含む層(40)により電気的に接続されてしまい、表示上の不具合が生じる。
【0017】
その点、本発明のように、酸化インジウムを含む層(40)を、隣接する画素(80)の間で隔離することにより、各画素(80)を電気的に独立させ、良好な表示を実現することができ、好ましい。
【0018】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るエレクトロルミネッセンス素子としての無機EL素子100の概略断面構成を示す図である。
【0021】
図1に示されるように、本無機EL素子100は、絶縁性基板であるガラス基板10上に順次、以下に述べられる薄膜20〜70が積層形成されることによって構成された薄膜EL素子である。
【0022】
ガラス基板10上には、光学的に透明な、たとえばITO(インジウムチンオキサイド)膜や酸化亜鉛などからなる透明な第1電極20が、下部電極として形成されている。本例では、第1電極20は、好ましい形態としてITO膜から構成されている。
【0023】
第1電極20の上面には、たとえばアルミナとチタニアの積層膜であるATO膜(Al23/TiO2積層構造膜)や五酸化タンタル(Ta25)などからなる第1絶縁層30が形成されている。本例では、第1絶縁層30は、好ましい形態としてAl23/TiO2積層構造膜から構成されている。
【0024】
第1絶縁層30の上には、酸化インジウムを含む層40が形成されている。この酸化インジウムを含む層40は、たとえば数十nmから200nm程度の厚さである。本例では、酸化インジウムを含む層40は、第1電極20を構成するITOよりも導電性を低下させたITO膜から構成されている。
【0025】
この酸化インジウムを含む層40の上には、発光部としての無機EL材料からなる発光層50が形成されている。ここで、発光層50としては、特に限定するものではないが、希土類元素などの発光中心を添加したII−VI族化合物半導体が用いられる。
【0026】
ここで、II−VI族化合物半導体は、旧周期律表におけるCa、Sr、Zn、CdなどのIIA族(現2族)およびIIB族(現12族)とO、SなどのVIB族(現16族)との化合物半導体である。
【0027】
具体的には、本実施形態の発光層50としては、少なくともZnS、SrS、CaSの1つを母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)などの希土類元素を添加したものが使用される。本例では、発光層50は、ZnSを母体材料とし、発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)の膜からなる。
【0028】
発光層50の上には、たとえば上記ATO膜や五酸化タンタルなどからなる第2絶縁層60が形成されている。本例では、第2絶縁層60は、好ましい形態としてAl23/TiO2積層構造膜から構成されている。
【0029】
第2絶縁層60の上には、光学的に透明な、たとえばITO膜や酸化亜鉛などからなる透明な第2電極70が、上部電極として形成されている。本例では、第2電極70は、好ましい形態としてITO膜から構成されている。
【0030】
ここで、この第1電極20と第2電極70とが重なり合う部分が、これら電極20、70の膜間に挟まれている第1絶縁層30、酸化インジウムを含む層40、発光層50、および第2絶縁層60とともに、表示領域である画素80として構成されている。
【0031】
そして、第1電極20、第2電極70間に電圧を印加することで、この発光画素80が発光可能となっている。つまり、本無機EL素子100は、通電により発光する発光部としての発光層50を一対の電極20、70により挟んでなる発光画素80を有するものとなっている。
【0032】
本例では、無機EL素子100は、第1電極20と第2電極70とが光学的に透明であるため、ガラス基板10側および第2電極70側の両方の側から光の取り出しが可能となっている。
【0033】
次に、上記図1に示される本実施形態のEL素子100の製造方法について、上記した一具体例の膜構成に基づいて説明する。
【0034】
まず、ガラス基板10上に、第1電極20として光学的に透明であるITO膜をスパッタ法によって形成する。
【0035】
次に、その上に、第1絶縁層30として、Al23/TiO2積層構造膜をALD(Atomic−Layer−Deposition)法によって作製する。このAl23/TiO2積層構造膜の具体的な形成方法について説明する。
【0036】
まず、第1のステップとして、アルミニウム(Al)の原料ガスとして三塩化アルミニウム(AlCl3)、酸素(O)の原料ガスとして水(H2O)を用いて、Al23層をALD法で形成する。
【0037】
ALD法では1原子層ずつ膜を形成していくために、原料ガスを交互に供給する。従って、この場合には、AlCl3を窒素(N2)のキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。
【0038】
次に、H2Oを同様に窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚のAl23層を形成する。
【0039】
第2のステップとして、Tiの原料ガスとして四塩化チタン(TiCl4)、酸素の原料ガスとしてH2Oを用いて、酸化チタン層を形成する。
【0040】
具体的には、第1のステップと同様にTiCl4を窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のTiCl4を排気するのに十分なパージを行う。次に、H2Oを同様に窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。そして、このサイクルを繰り返して所定の膜厚の酸化チタン層を形成する。
【0041】
そして、上述した第1のステップと第2のステップを繰り返し、所定膜厚のAl23/TiO2積層構造膜を形成して、これを第1絶縁層30とする。なお、Al23/TiO2積層構造膜の最初と最後の層は、Al23層とTiO2層のいずれであってもよいが、最下層すなわち第1電極20上の最初の層はAl23層であることが好ましい。
【0042】
次に、第1絶縁層30上に、酸化インジウムを含む層40としてのITO膜をスパッタ法により形成する。
【0043】
そして、酸化インジウムを含む層40の上に、発光層50として、ZnSを母体材料とし発光中心としてMnを添加した硫化亜鉛:マンガン(ZnS:Mn)からなる膜を蒸着法によって形成する。
【0044】
その後、第2絶縁層60を第1絶縁層30と同様の構造と膜厚で成膜し、最後に第2電極70として、第1電極20と同様にしてITO膜を成膜する。こうして、本実施形態のEL素子100ができあがる。
【0045】
ところで、本実施形態によれば、絶縁性基板10上に第1電極20、第1絶縁層30、発光中心を含む発光層50、第2絶縁層60および第2電極70が順次積層されてなる画素80を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子において、第1絶縁層30と発光層50との間に酸化インジウムを含む層40が設けられていることを特徴とするEL素子100が提供される。
【0046】
それによれば、第1絶縁層40と発光層50との間に酸化インジウムを含む層40を設ければ、第1絶縁層30上に形成する発光層50の成長初期に形成される結晶性の低下した層の結晶性を改善できると考えられる。
【0047】
実際に、図1に示される本実施形態のEL素子100において、上記した好ましい具体例としたもの、すなわち、発光層50としてZnS:Mnを用い、酸化インジウムを含む層40として200nmの厚さのITO膜を用いた構成のものと、比較例として図1の構成において酸化インジウムを含む層40の無い一般的な構成のものとについて、輝度特性を調査した。
【0048】
図2は、その輝度調査の結果を示す図である。この図2に示されるように、本実施形態に無機EL素子100によれば、従来の一般的な構成のものに比べて、輝度の向上を図れることが実験的に確認できた。
【0049】
このように、本実施形態によれば、絶縁性基板10上に第1電極20、第1絶縁層30、発光中心を含む発光層50、第2絶縁層60および第2電極70が順次積層されてなる画素80を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているEL素子100素子において、輝度を向上させることの可能な新規な構成を提供することができる。
【0050】
なお、本実施形態の無機EL素子100を表示素子として用いる場合には、たとえば、区画された複数個の画素80が配列された構成とすることができる。図3は、画素80がドットマトリクス表示パターンにて配列された無機EL素子100の例を示す概略断面図である。
【0051】
図3に示される無機EL素子100では、第1電極20は、複数本のストライプ状に配置されたものであり、第2電極70は、第1電極20と直交する複数本のストライプ状に配置されたものである。
【0052】
ここで、第1電極20は、図3中の左右方向に延びる複数本のものであり、図3では、複数本の第1電極20が示されてはいないが、実際には、紙面垂直方向に複数本の第1電極20がストライプ状に配列されている。
【0053】
また、第2電極70は、図3における紙面垂直方向に延びる複数本のものであり、これら複数本の第2電極70が、図3中の左右方向にストライプ状に配列されている。
【0054】
そして、これら両電極20、70が重なり合った部分としての画素80は、平面的にみたとき、すなわち図3中の上方からみて格子状に配置されている。こうして、図3に示される例では、画素80はドットマトリクス表示パターンにて配置されている。
【0055】
なお、これらストライプ状の第1電極20および第2電極70は、上記第1および第2電極20、70の形成において、フォトリソグラフやエッチング技術を用いて、ストライプ状にパターニング形成することができる。
【0056】
そして、このような格子状に配列された複数個の画素80において、酸化インジウムを含む層40は、隣接する画素80の間で隔離されている。つまり、酸化インジウムを含む層40は、各画素80と同様に、フォトリソグラフやエッチング技術を用いて格子状にパターニングされている。
【0057】
もし、各画素80の間で酸化インジウムを含む層40が隔離されておらず、連続した膜となっていると、各画素80間が、酸化インジウムを含む層40により電気的に接続されてしまい、表示上の不具合が生じる。
【0058】
その点、図3に示されるように、酸化インジウムを含む層40を、隣接する画素80の間で隔離することにより、各画素80を電気的に独立させ、良好な表示を実現することができる。
【0059】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態に示した各層の具体例は、あくまで本発明に適用が可能な一例を示すものであり、これらに限定されるものではない。
【0060】
また、複数個の画素の配置形態も、上記図3に示されたようなドットマトリクス表示パターンに限定されるものではなく、たとえば、セグメント表示パターンであってもよいことはもちろんである。
【0061】
要するに、本発明は、絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光中心を含む発光層、第2絶縁層および第2電極が順次積層されてなる画素を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているEL素子において、第1絶縁層と発光層との間に酸化インジウムを含む層を設けたことを要部とするものであり、その他の部分については、適宜設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る無機EL素子の概略断面構成を示す図である。
【図2】上記実施形態のEL素子について輝度調査を行った結果を示す図である。
【図3】上記実施形態において画素がドットマトリクス表示パターンにて配列された無機EL素子の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10…絶縁性基板としてのガラス基板、20…第1電極、30…第1絶縁層、
40…酸化インジウムを含む層、50…発光層、60…第2絶縁層、
70…第2電極、80…画素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板(10)上に第1電極(20)、第1絶縁層(30)、発光中心を含む発光層(50)、第2絶縁層(60)および第2電極(70)が順次積層されてなる画素(80)を有し、少なくとも光取り出し側が光学的に透明な材料にて構成されているエレクトロルミネッセンス素子において、
前記第1絶縁層(30)と前記発光層(50)との間に酸化インジウムを含む層(40)が設けられていることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層(50)は、ZnSを母体とする材料からなることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記酸化インジウムを含む層(40)は、ITO(Indium Tin Oxide)であることを特徴とする請求項1または2に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記画素(80)が複数個配置されており、
前記酸化インジウムを含む層(40)は、隣接する前記画素(80)の間で隔離されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−216439(P2006−216439A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28993(P2005−28993)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】