説明

エレクトロルミネッセンス装置、および電子機器

【課題】光の取り出し効率を向上させるとともに、相対的に青の光の取り出し効率および
視角を向上させることが可能なエレクトロルミネッセンス装置、および当該エレクトロル
ミネッセンス装置を搭載した電子機器を提供すること。
【解決手段】有機EL装置1は、画素電極16、有機発光層20、陰極24、薄膜封止層
26を含む素子基板と、カラーフィルタ34R,34G,34Bを含むカラーフィルタ基
板とを接着剤28を介して貼り合せたものである。カラーフィルタ34R,34G,34
Bは、界面37において青の光の全反射が最も少なくなるように屈折率が相互に異なるよ
うに設定されている。また、界面38は凹凸形状を呈しているため、当該界面38におい
て光の全反射が起きにくく、かつ青の光をもっともよく散乱して青の視角改善に寄与する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス現象を利用したエレクトロルミネッセンス装置、
および当該エレクトロルミネッセンス装置を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス(以下「EL」とも略す)装置は、薄型、軽量、広視角、高
速応答などの特性から、種々の電子機器に表示装置として用いられている。図9は、こう
したEL装置の一例である有機EL装置の表示領域における断面図を示したものである。
この有機EL装置は、基板10上に反射膜12、絶縁層14、陽極としての画素電極16
、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22、陰極24、薄膜封止層26がこの
順に積層されてなる素子基板と、ガラス基板30上に赤、緑、青にそれぞれ対応するカラ
ーフィルタ35R,35G,35B(以下、これらをまとめて「カラーフィルタ35」と
も呼ぶ)が積層されてなるカラーフィルタ基板とを接着剤28を介して貼り合せたもので
ある。この有機EL装置は、画素電極16と陰極24との間に配置された有機発光層20
に電流を流すことによって有機発光層20を発光させ、その光をカラーフィルタ基板側か
ら取り出す発光装置である。取り出される光は、反射膜12および陰極24によって構成
される光共振器による干渉と、カラーフィルタ35との効果によって、赤、緑、青のいず
れかの色を有する。
【0003】
ここで、有機発光層20の屈折率は、一般にガラス基板30の屈折率より高い。このた
め、有機発光層20で発光した光は、ガラス基板30を透過するまでに、ある屈折率を有
する層と、これより相対的に小さな屈折率を有する層との界面を、この方向で必ず透過す
ることになる。このとき、一部の光は当該界面で全反射現象によって反射されるので、有
機発光層20からの光を効率良く有機EL装置の外部へ取り出すことができないという問
題があった。
【0004】
この問題に対し、ガラス基板30の有機発光層20側表面に凹凸を形成することによっ
て全反射を低減させる技術が特許文献1に公開されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−76864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機EL装置には、相対的に赤、緑に比べて青の光の取り出し効率が得
られにくいという問題があり、上記特許文献1に記載の構成によってもなお、この問題は
解決されない。また、特に上記光共振器を用いる場合は、相対的に青の視角特性が得られ
にくいという問題があった。
【0007】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、発光層からの光の界面における全反射を低減
させて光の取り出し効率を向上させるとともに、相対的に青の光の取り出し効率および視
角を向上させることが可能なエレクトロルミネッセンス装置、および当該エレクトロルミ
ネッセンス装置を搭載した電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、各々が複数の
異なる色のうちの一つに対応する、複数の発光領域を有するエレクトロルミネッセンス装
置であって、基板と、前記基板上に、前記発光領域に対応して配置された複数の第1電極
と、前記第1電極に対向して配置された透光性を有する第2電極と、前記第1電極と前記
第2電極との間に配置された発光層と、前記第2電極の、前記発光層が配置された側とは
反対側に配置された第1機能層と、前記第1機能層上に、当該第1機能層に接して配置さ
れた第2機能層とを備え、前記第1機能層と前記第2機能層との界面は、前記発光層から
射出された光を散乱させる凹凸形状を有し、前記第1機能層は、前記複数の異なる色のう
ち一の色に対応する前記発光領域における屈折率と、他の色に対応する前記発光領域にお
ける屈折率とが異なることを特徴とする。
【0009】
上記構成においては、発光層からの光は、第1機能層に入射し、その後第2機能層との
界面を透過して第2機能層に入射する。上記界面は凹凸形状を有するので、第2機能層の
屈折率が第1機能層の屈折率より小さい場合であっても当該界面における全反射現象が起
こりにくく、光を効率良く第2機能層に透過させることができる。
【0010】
また、上記凹凸形状の界面においては透過光が散乱される。この散乱の度合いは、第1
機能層と第2機能層との屈折率の差に依存する。より具体的には、第2機能層の屈折率が
第1機能層の屈折率より小さいほど散乱が大きくなる。当該散乱が大きいほど、その光が
発せられた発光領域に属する色についての視角が広くなる。ここで、上記構成においては
、第1機能層の屈折率を発光領域の色に応じて異ならせてあるので、所望の色の発光領域
において適切な上記屈折率差を生じさせるように屈折率を設定することによって、当該色
についての視角を広げることができる。
【0011】
さらに、第1機能層に、第2機能層の反対側から入射する光は、当該入射において全反
射される光量が発光領域の色に応じて異なる。これは、第1機能層の屈折率が発光領域の
色に応じて異なるためである。よって、所望の色の発光領域における第1機能層の屈折率
を他の色に対して相対的に大きく設定することによって、当該所望の色についての光取り
出し効率を向上させることができる。
【0012】
以上のように、上記構成のエレクトロルミネッセンス装置によれば、発光層からの光の
第1機能層と第2機能層との界面における全反射を低減させて光の取り出し効率を向上さ
せることができるとともに、所望の色の光についての視角を他の色に対して相対的に向上
させることができる。さらに、所望の色の光の取り出し効率を選択的に向上させることが
できる。
【0013】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層の屈折率は、どの前記発
光領域においても前記第2機能層の屈折率より大きいことが好ましい。このような構成に
よれば、凹凸形状を有する界面を、屈折率の大きい層(すなわち第1機能層)と、これよ
り相対的に屈折率の小さい層(すなわち第2機能層)との間に設けることとなり、前者か
ら後者へ光が透過する際の全反射を低減させることができる。よって、どの色に対応する
発光領域においてもより効率良く発光層からの光を取り出すことができる。また、屈折率
が上記構成のように設定されていれば、発光層からの光の、第1機能層と第2機能層との
界面における散乱を大きくすることができる。したがって、エレクトロルミネッセンス装
置の視角を広げることができる。
【0014】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層の屈折率と前記第2機能
層の屈折率との差は、どの前記発光領域においても0.03以上1.00以下であること
が好ましい。第1機能層の屈折率と第2機能層の屈折率との差が0.03より小さいと、
第1機能層と第2機能層との界面以外における全反射が増加し、所望の光取り出し効率が
得られないことがある。また、第1機能層と第2機能層との界面における散乱の度合いが
小さくなって、視角が狭くなることがある。一方、第1機能層の屈折率と第2機能層の屈
折率との差が1.00より大きいと、当該界面における全反射が増加し、所望の光取り出
し効率が得られないことがある。よって、上記のような、第1機能層の屈折率と第2機能
層の屈折率との差が0.03以上1.00以下となるような構成によれば、より確実にエ
レクトロルミネッセンス装置の光の取り出し効率を高めることができる。
【0015】
本発明の別のエレクトロルミネッセンス装置は、各々が複数の異なる色のうちの一つに
対応する、複数の発光領域を有するエレクトロルミネッセンス装置であって、基板と、前
記基板上に、当該基板に接して配置された第1機能層と、前記第1機能層上に、前記発光
領域に対応して配置された透光性を有する複数の第1電極と、前記第1電極に対向して配
置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層とを備え、
前記第1機能層と前記基板との界面は、前記発光層から射出された光を散乱させる凹凸形
状を有し、前記第1機能層は、前記複数の異なる色のうち一の色に対応する前記発光領域
における屈折率と、他の色に対応する前記発光領域における屈折率とが異なることを特徴
とする。
【0016】
上記構成においては、発光層からの光は、第1機能層に入射し、その後基板との界面を
透過して基板に入射する。上記界面は凹凸形状を有するので、前記基板の屈折率が第1機
能層の屈折率より小さい場合であっても当該界面における全反射現象が起こりにくく、光
を効率良く基板に透過させることができる。
【0017】
また、上記凹凸形状の界面においては透過光が散乱される。この散乱の度合いは、第1
機能層と基板との屈折率の差に依存する。より具体的には、基板の屈折率が第1機能層の
屈折率より小さいほど散乱が大きくなる。当該散乱が大きいほど、その光が発せられた発
光領域に属する色についての視角が広くなる。ここで、上記構成においては、第1機能層
の屈折率を発光領域の色に応じて異ならせてあるので、所望の色の発光領域において適切
な上記屈折率差を生じさせるように屈折率を設定することによって、当該色についての視
角を広げることができる。
【0018】
さらに、第1機能層に、基板の反対側から入射する光は、当該入射において全反射され
る光量が発光領域の色に応じて異なる。これは、第1機能層の屈折率が発光領域の色に応
じて異なるためである。よって、所望の色の発光領域における第1機能層の屈折率を他の
色に対して相対的に大きく設定することによって、当該所望の色についての光取り出し効
率を向上させることができる。
【0019】
以上のように、上記構成のエレクトロルミネッセンス装置によれば、発光層からの光の
第1機能層と基板との界面における全反射を低減させて光の取り出し効率を向上させるこ
とができるとともに、所望の色の光についての視角を他の色に対して相対的に向上させる
ことができる。さらに、所望の色の光の取り出し効率を選択的に向上させることができる

【0020】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層の屈折率は、どの前記発
光領域においても前記基板の屈折率より大きいことが好ましい。このような構成によれば
、凹凸形状を有する界面を、屈折率の大きい層(すなわち第1機能層)と、これより相対
的に屈折率の小さい層(すなわち基板)との間に設けることとなり、前者から後者へ光が
透過する際の全反射を低減させることができる。よって、どの色に対応する発光領域にお
いてもより効率良く発光層からの光を取り出すことができる。また、屈折率が上記構成の
ように設定されていれば、発光層からの光の、第1機能層と基板との界面における散乱を
大きくすることができる。したがって、エレクトロルミネッセンス装置の視角を広げるこ
とができる。
【0021】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層の屈折率と前記基板の屈
折率との差は、どの前記発光領域においても0.03以上1.00以下であることが好ま
しい。第1機能層の屈折率と基板の屈折率との差が0.03より小さいと、第1機能層と
基板との界面以外における全反射が増加し、所望の光取り出し効率が得られないことがあ
る。また、第1機能層と基板との界面における散乱の度合いが小さくなって、視角が狭く
なることがある。一方、第1機能層の屈折率と基板の屈折率との差が1.00より大きい
と、当該界面における全反射が増加し、所望の光取り出し効率が得られないことがある。
よって、上記のような、第1機能層の屈折率と基板の屈折率との差が0.03以上1.0
0以下となるような構成によれば、より確実にエレクトロルミネッセンス装置の光の取り
出し効率を高めることができる。
【0022】
上記エレクトロルミネッセンス装置においては、前記第1機能層の、前記凹凸形状を有
した界面と反対の面に接して配置された第3機能層をさらに有し、前記第1機能層の屈折
率の、前記第3機能層の屈折率に対する比は、どの前記発光領域においても0.83より
大きくかつ1.50以下であることが好ましい。上記構成によれば、第3機能層から第1
機能層へ光が入射する際の全反射を低減させるかまたはなくすことができる。第1機能層
の屈折率の、第3機能層の屈折率に対する比が0.83より大きければ、当該全反射の影
響を、その他の構成要素による光取り出し効率向上効果によって相殺し、エレクトロルミ
ネッセンス装置全体としての光取り出し効率を実質的に向上させることができる。また、
当該比が1.00を超えれば全反射は起こらなくなる。ただし、当該比が1.50を超え
ると、第1機能層の屈折率が大きくなるため、光が第1機能層から第2機能層または基板
に入射する際の全反射が無視できなくなり、高い光取り出し効率が得られないことがある
。よって、当該比が0.83より大きくかつ1.50以下であれば、より確実にエレクト
ロルミネッセンス装置の光の取り出し効率を高めることができる。
【0023】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記発光領域は、赤色系発光が得られる
赤色発光領域、緑色系発光が得られる緑色発光領域、および青色系発光が得られる青色発
光領域を含み、前記第1機能層は、前記青色発光領域における屈折率が、前記赤色発光領
域における屈折率および前記緑色発光領域における屈折率のいずれとも異なることが好ま
しい。上記構成のエレクトロルミネッセンス装置は、赤、緑、青の発光に基づくカラー発
光を行うことができる。また、青色発光領域における第1機能層の屈折率を他の領域にお
ける屈折率と異ならせることによって、発光効率の得られにくい青の発光についての光取
り出し効率および視角を、他の色に対して相対的に向上させることができる。この結果、
各色の駆動電流量を調整しなくともホワイトバランスの良好なカラー発光を行うことがで
きる。また、これに基づいて、エレクトロルミネッセンス装置を長寿命化させることがで
きる。
【0024】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層は、前記青色発光領域、
前記赤色発光領域、および前記緑色発光領域における屈折率が互いに異なることが好まし
い。このような構成によれば、赤、緑、青のすべての色について、光の取り出し効率およ
び視角を調整することが可能となり、よりホワイトバランスの良好なカラー発光を行うこ
とができる。
【0025】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記第1機能層は、前記青色発光領域に
おける屈折率が、前記赤色発光領域における屈折率および前記緑色発光領域における屈折
率のいずれよりも大きいことが好ましい。このような構成によれば、視角特性の得られに
くい青の発光を、前記凹凸形状の界面において最も大きく散乱させることにより、当該青
の発光の視角を向上させることができる。また、青の発光について、第1の機能層の前記
凹凸形状とは反対側の界面における全反射を、他の色に対して相対的に少なく抑えること
ができる。これは、青色発光領域において、当該全反射に関係する2つの層の屈折率が、
他の色に対して相対的に全反射の起きにくい方向に設定されることになるからである。
【0026】
本発明による電子機器は、上記エレクトロルミネッセンス装置を搭載することを特徴と
する。このような電子機器は、上記エレクトロルミネッセンス装置が組み込まれた発光部
または表示部においてホワイトバランスの良好なカラー発光またはカラー表示を行うこと
ができる。また、当該エレクトロルミネッセンス装置が長寿命であることに基づいて、高
い信頼性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図にお
いては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法
や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0028】
(第1の実施形態)
<A.有機EL装置の構成>
図1は、本発明の「エレクトロルミネッセンス装置」としての有機EL装置1の構成を
概略的に示すブロック図である。この有機EL装置1は、データ線駆動回路60および走
査線駆動回路61と、複数の有機EL素子70を備えている。データ線駆動回路60には
複数本のデータ線91が、また、走査線駆動回路61には複数本の走査線92が、それぞ
れ接続されている。
【0029】
有機EL素子70は、データ線91および走査線92の交差に対応してマトリクス状に
配置されており、全体として表示領域90を構成している。有機EL素子70の各々は、
データ線駆動回路60および走査線駆動回路61からデータ線91および走査線92を介
して印加される駆動信号に応じて発光する。また、有機EL素子70の各々は、赤色系発
光、緑色系発光、青色系発光のいずれかを行う。有機EL装置1は、表示領域90におい
て有機EL素子70の発光の集合によってカラー表示を行う装置である。
【0030】
図2は、隣り合う3つの有機EL素子70を含む部位における有機EL装置1の断面図
である。この図に示すように、有機EL装置1は、基板10上に反射膜12、絶縁層14
、陽極としての画素電極16、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22、陰極
24、薄膜封止層26がこの順に積層されてなる素子基板と、ガラス基板30上に赤、緑
、青にそれぞれ対応するカラーフィルタ34R,34G,34B(以下、これらをまとめ
て「カラーフィルタ34」とも呼ぶ)が積層されてなるカラーフィルタ基板とを接着剤2
8を介して貼り合せたものである。有機EL装置1の表示領域90は、より小さな発光単
位である発光領域40の集合からなる。発光領域40には、赤色系発光を行う赤色発光領
域40R、緑色系発光を行う緑色発光領域40G、青色系発光を行う青色発光領域40B
が含まれる。反射膜12から陰極24までの構成要素からなる素子が前述の有機EL素子
70に相当し、一つの発光領域40には、一つの有機EL素子70が形成されている。こ
こで、上記画素電極16が本発明における「第1電極」に、陰極24が「第2電極」に、
有機発光層20が「発光層」に、カラーフィルタ34が「第1機能層」に、ガラス基板3
0が「第2機能層」に、接着剤28が「第3機能層」に、それぞれ対応する。
【0031】
基板10は、ガラス基板上にTFT(Thin Film Transistor)素子等が形成されたいわ
ゆるTFT素子基板であって、ガラス基板上に公知の技術を用いてTFT素子、データ線
91、走査線92、その他各種電極、絶縁層等が形成されたものである。反射膜12は、
アルミニウムまたは銀からなる。画素電極16は、反射膜12上に、反射膜12との短絡
を防止するための絶縁層14を挟んで配置された、ITO(Indium Tin Oxide)からなる
透明電極である。画素電極16は、各発光領域40に一つずつ配置されており、それぞれ
の画素電極16は、基板10に含まれるTFT素子を介して、データ線91に接続されて
いる。陰極24は、マグネシウムと銀の合金をハーフミラー状態に形成したものである。
【0032】
画素電極16と陰極24との間には、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層2
2がこの順に積層されている。有機発光層20は、エレクトロルミネッセンス現象を発現
する有機発光物質の層である。画素電極16と陰極24との間に電圧を印加することによ
って、有機発光層20には、正孔輸送層18から正孔が、また、電子輸送層22から電子
が注入され、有機発光層20は、これらが再結合したときに光を発する。有機発光層20
からの光は、一部は直接陰極24を透過し、一部は反射膜12によって反射されてから陰
極24を透過する。いずれにせよ、有機発光層20からの光は、陰極24を透過し、その
後薄膜封止層26、接着剤28、カラーフィルタ34、ガラス基板30を順に透過する。
有機EL装置1は、このように有機発光層20に電流を流すことによって有機発光層20
を発光させ、その光をカラーフィルタ基板側から取り出すフロントエミッションタイプの
有機EL装置である。
【0033】
ここで、反射膜12および陰極24は、いわゆる光共振器を構成している。このため、
有機発光層20において発せられた光は、反射膜12と陰極24との間を往復し、共振波
長の光だけが増幅されてカラーフィルタ基板側から取り出される。よって、ピーク強度が
高く幅が狭いスペクトルを有する光を取り出すことができ、有機EL装置1による発光の
色再現性を向上させることができる。
【0034】
上記共振波長は、光共振器の長さを変えることによって調整可能である。有機EL装置
1においては、画素電極16の厚さを変えることによって光共振器の長さを調整している
。より詳細には、青色発光領域40B、緑色発光領域40G、赤色発光領域40Rのそれ
ぞれにおいてこの順に画素電極16を厚く形成することにより、光共振器の長さ、および
共振波長がこの順に長くなるようになっている。共振波長は、青色発光領域40Bにおい
ては青色、緑色発光領域40Gにおいては緑色、赤色発光領域40Rにおいては赤色に相
当する波長に設定されている。この結果、陰極24からは、青、緑、または赤の光が選択
的に射出される。
【0035】
陰極24を覆って形成された薄膜封止層26は、SiONからなる透光性を有する部材
であり、有機EL素子70を保護するとともに、光共振器の形成のためにできた陰極24
の段差を埋めて平滑にする役割を果たす。
【0036】
カラーフィルタ34は、入射した光のうちの特定の波長成分を吸収することによって透
過光を着色する樹脂である。カラーフィルタ34を配置することによって、有機EL装置
1から取り出される光の色純度が向上するとともに、視角による色の変化を抑えることが
でき、かつ外光の反射をある程度遮断することができる。ここで、カラーフィルタ34は
、各色における屈折率がそれぞれ異なっており、赤のカラーフィルタ34Rにおける屈折
率は1.65、緑のカラーフィルタ34Gにおける屈折率は1.70、青のカラーフィル
タ34Bにおける屈折率は1.85となっている。
【0037】
カラーフィルタ34が形成されるガラス基板30の表面は、あらかじめフッ酸等を用い
たフロスト処理がなされ、高さ0.01〜0.5μm程度の凹凸が形成されている。この
ため、カラーフィルタ34とガラス基板30との界面38は、凹凸形状を呈している。な
お、ガラス基板30の屈折率は1.50である。また、カラーフィルタ基板と素子基板と
を固着する接着剤28の屈折率は1.80である。
【0038】
<B.有機EL装置内における光の振る舞い>
次に、上記のような構成を有する有機EL装置1の内部における光の振る舞いについて
説明する。有機発光層20で発せられた光は、接着剤28に至るまでは全反射したり散乱
されたりすることはない。これは、この区間において光が相対的に屈折率の小さな層へと
入射するような界面がなく、また各層の界面が平滑であるためである。一方、接着剤28
からガラス基板30にかけての光路においては、全反射または散乱が起こり得る。以下で
はこの点について詳述する。
【0039】
まず、接着剤28とカラーフィルタ34との界面37における光の振る舞いについて説
明する。赤のカラーフィルタ34Rおよび緑のカラーフィルタ34Gの屈折率は、接着剤
28の屈折率より低いため、接着剤28からカラーフィルタ34R,34Gに入射する光
は一部が全反射される。カラーフィルタ34Rの屈折率の、接着剤28の屈折率に対する
比率は約0.91であるので、この界面では全反射角66.44°までの光がカラーフィ
ルタ34R側に透過可能である。概算すると約73%の光がカラーフィルタ34R側に取
り出される。同様に、カラーフィルタ34Gの屈折率の、接着剤28の屈折率に対する比
率は約0.94であるので、この界面では全反射角70.81°までの光がカラーフィル
タ34G側に透過可能である。概算すると約78%の光がカラーフィルタ34G側に取り
出される。一方、青のカラーフィルタ34Bの屈折率は、接着剤28の屈折率より高いた
め、この界面では全反射は起きず、ほぼ全ての光をカラーフィルタ34B側に取り出すこ
とができる。
【0040】
このように、カラーフィルタ34の屈折率が発光領域40ごとに異なる構成とすること
によって、接着剤28とカラーフィルタ34との界面37においては、青の光が最も効率
良く取り出され、次いで緑、赤の順に取り出し効率が下がるようになっている。
【0041】
続いて、カラーフィルタ34とガラス基板30との界面38における光の振る舞いにつ
いて説明する。ガラス基板30の屈折率は、どの色のカラーフィルタ34の屈折率よりも
低いため、一般的にはこれらの界面38において全反射が起こるが、上述したように当該
界面38は凹凸形状を有しているため、全反射が起こりにくくなっている。よって、カラ
ーフィルタ34からガラス基板30へは、効率良く光が取り出される。
【0042】
また、上記界面38では凹凸形状によって透過光が散乱されるが、その散乱の程度は、
カラーフィルタ34とガラス基板30との屈折率差が大きいほど大きくなる。今、この屈
折率差は青色発光領域40Bにおいて最も大きく、次いで緑色発光領域40G、赤色発光
領域40Rの順に小さくなっていく。よって、当該界面38においては、青の光が最も大
きく散乱される。
【0043】
<C.発明の効果>
以上のような光の振る舞いによって、有機EL装置1は、以下に述べるように主に二つ
の特徴を有する。
【0044】
まず第一に、表1に示すように青の発光効率が高く、またこれに起因して良好なホワイ
トバランスを実現できるという特徴を有する。これは、上述したように青の光について選
択的に光取り出し効率が高められているためである。また、上記特徴に基づいて、寿命を
長くすることができるという特徴を有する。
【0045】
【表1】

【0046】
表1中の上段は、図9に示す従来の構造の有機EL装置の特性であり、中段は、当該従
来の構成から、本実施形態のように界面38を凹凸形状とし、かつカラーフィルタ34R
,34G,34Bの屈折率を上述したように互いに異ならせたときの特性である。このと
き、青の発光効率が1.5Cd/m2から5.8Cd/m2へ、約3.9倍に向上している
ことがわかる。なお、表には示されていないが、緑の発光効率は2.5Cd/m2から4
.5Cd/m2へ約1.8倍に向上し、また赤の発光効率は5.0Cd/m2から7.7C
d/m2へ約1.5倍に向上している。
【0047】
このように、表1の中段の構成においては青の発光効率が最も大きく改善されているた
め、青の発光輝度をある程度の水準に維持しながら、光共振器の光路長もしくは干渉条件
を変更して青の色純度を高くする微調整を行うことができる。表1の中段の構成からこの
ような微調整を行ったものが本実施形態の有機EL装置1であり、その特性は表1の下段
のデータに示されている。これらのデータより、青の発光効率は4.8Cd/m2と若干
低下するものの、青の色座標、色再現性が向上していることがわかる。さらに、各発光領
域40の有機EL素子70を等電流で駆動したときの白の色座標も(0.34,0.37
)とより白点に近付き、ホワイトバランスが向上している。
【0048】
このようにホワイトバランスが向上することで、装置の寿命を延ばすことができる。す
なわち、従来の構成ではホワイトバランスをとるためにある一つまたは二つの色の有機E
L素子70を大電流で駆動する必要があり、その有機EL素子70のみの寿命が短時間で
尽きてしまうという問題があったが、本実施形態の有機EL装置1ではほぼ均等な駆動電
流でホワイトバランスがとれるため、その分の寿命を延ばすことができる。発明者の実験
によれば、有機EL装置1の寿命は、従来の構成の有機EL装置の約2.3倍に向上した

【0049】
有機EL装置1の第二の特徴は、表2に示すように、広い視角特性を有することにある
。これは、上述したように、青の光について選択的に散乱の程度が高められているためで
ある。
【0050】
【表2】

【0051】
表2の上段は、従来の構成の有機EL装置において、正面における色度座標が(0.3
3,0.33)となるように駆動電流を調整して白表示を行ったときの、45°視角から
当該白表示を見た場合の色度座標、および正面と45°視角との間の色差を示したもので
ある。一方、下段は、本実施形態の有機EL装置1についての同様のデータを示したもの
である。この表から明らかなように、有機EL装置1は、従来の構成に比べて上記色差が
非常に小さく、視角特性が大幅に改善されていることがわかる。この理由は以下の通りで
ある。
【0052】
光共振器を用いた有機EL装置は、正面から傾いた方向に射出される光の波長が、正面
方向に射出される光の波長に対して短波長側にシフトする傾向がある。このため、従来の
構成の有機EL装置では、斜めから観察したときに特に青の輝度が落ち、青の光の視角が
狭くなる傾向があった。一方、本実施形態の有機EL装置1は、上述したように青の光が
最も大きく散乱されるために青の視角特性が改善されるため、こうした問題を回避するこ
とができ、装置全体としての視角特性も改善される。
【0053】
<D.屈折率の好ましい値について>
次に、上記のような効果を得るために、ガラス基板30、カラーフィルタ34、接着剤
28の屈折率の間にどのような関係があることが好ましいかについて検討する。本発明の
発明者は、従来構成(表3参照)における光取り出し効率に対し、本実施形態に相当する
構成(表4参照)における光取り出し効率が何倍となるかについてシミュレーションを行
った。すなわち、表3、表4の構成のそれぞれについて、接着剤側から光が入射したとき
に、何%の光がガラス基板側から射出されるかについて計算し、その比率を算出した。こ
こで、表3および表4中の数値は、各構成要素の550nmにおける屈折率を表す。以下
では、表4中のガラス基板、カラーフィルタ、接着剤の屈折率をそれぞれn(A),n(
B),n(C)とする。シミュレーションにおいては、n(A)は1.50、n(C)は
1.80で固定とし、n(B)を1.38から2.30まで変化させて行った。また、各
構成要素間の界面は平滑であるとした。ただし、表4中のガラス基板とカラーフィルタと
の界面のみ、凹凸形状を有するとした。なお、表3に示す従来構成A、従来構成Bにおけ
る光取り出し効率は、ともに等しい結果となる。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
シミュレーションの結果を表5に示す。表5は、n(B)を変えたときのn(B)−n
(A)およびn(B)/n(C)の値と、表4の構成の光取り出し効率の表3の構成の光
取り出し効率に対する比を示したものである。
【0057】
【表5】

【0058】
表5からわかるように、n(B)−n(A)が0.03以上となる領域では、従来構成
に対して1.1倍以上の光取り出し効率が得られる。そして、n(B)−n(A)が大き
くなるほど高い光取り出し効率が得られる。ただし、表5には示されていないが、n(B
)−n(A)が1.00を超えるようになると、ガラス基板とカラーフィルタとの界面に
おける全反射が増加し、所望の光取り出し効率が得られないことがある。
【0059】
また、n(B)/n(C)が0.83より大きい領域では、従来構成に対して光取り出
し効率が向上する。そして、n(B)/n(C)が大きくなるほど高い光取り出し効率が
得られる。ただし、表5には示されていないが、n(B)/n(C)が1.50を超える
ようになるとn(B)自体が大きくなるため、光がカラーフィルタからガラス基板へ入射
する際の全反射が無視できなくなり、高い光取り出し効率が得られないことがある。
【0060】
さらに、n(B)/n(C)が1.00を超える領域においては特に高い光取り出し効
率が得られることがわかる。これは、接着剤の屈折率よりもカラーフィルタの屈折率が高
くなり、その境界における全反射がなくなることに起因していると考えられる。
【0061】
以上から、ガラス基板30の屈折率とカラーフィルタ34の屈折率との差は0.03以
上1.00以下であることが好ましい。また、カラーフィルタ34の屈折率の接着剤28
の屈折率に対する比は0.83より大きくかつ1.50以下、特に1.00以上1.50
以下であることが好ましい。
【0062】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る有機EL装置1Aについて、図3の断面図を用
いて説明する。有機EL装置1Aの構成は、素子基板については第1の実施形態の有機E
L装置1と同様であり、カラーフィルタ基板の構成のみが異なる。このため、以下では有
機EL装置1との差異点を中心に説明する。
【0063】
有機EL装置1Aのカラーフィルタ基板は、ガラス基板30のうち凹凸形状を呈した面
の上に、樹脂層32、カラーフィルタ35がこの順に積層された構成となっている。樹脂
層32は、赤色発光領域40Rにおける樹脂層32R、緑色発光領域40Gにおける樹脂
層32G、青色発光領域40Bにおける樹脂層32Bからなる。また、樹脂層32R,3
2G,32Bの屈折率はそれぞれ1.60,1.70,1.85と互いに異なる。カラー
フィルタ35は、赤色発光領域40Rにおけるカラーフィルタ35R、緑色発光領域40
Gにおけるカラーフィルタ35G、青色発光領域40Bにおけるカラーフィルタ35Bか
らなるが、第1の実施形態のカラーフィルタ34と異なり、これら相互の屈折率はすべて
等しく1.77となっている。本実施形態においては、樹脂層32が本発明の「第1機能
層」に、ガラス基板30が「第2機能層」に、カラーフィルタ35が「第3機能層」に、
それぞれ対応する。
【0064】
こうした構成の有機EL装置1Aにおいて、カラーフィルタ35と樹脂層32との界面
37における光の振る舞いは以下の通りである。すなわち、樹脂層32Rおよび樹脂層3
2Gの屈折率は、カラーフィルタ35の屈折率より低いため、カラーフィルタ35から樹
脂層32R,32Gに入射する光は一部が全反射される。樹脂層32Rの屈折率の、カラ
ーフィルタ35の屈折率に対する比率は約0.91であり、また樹脂層32Gの屈折率の
、カラーフィルタ35の屈折率に対する比率は約0.94であるので、これらの界面では
それぞれ約73%、78%の光が樹脂層32側に取り出される。一方、樹脂層32Bの屈
折率は、カラーフィルタ35の屈折率より高いため、この界面では全反射は起きず、ほぼ
全ての光を樹脂層32B側に取り出すことができる。
【0065】
また、樹脂層32とガラス基板30との界面38における光の振る舞いは以下の通りで
ある。すなわち、ガラス基板30の屈折率は、樹脂層32R,32G,32Bのいずれの
屈折率よりも低いものの、当該界面38は凹凸形状を有しているため、全反射が起こりに
くくなっている。よって、樹脂層32からガラス基板30へは、効率良く光が取り出され
る。また、樹脂層32とガラス基板30との屈折率差は青色発光領域40Bにおいて最も
大きく、次いで緑色発光領域40G、赤色発光領域40Rの順に小さくなっているので、
界面38における光の散乱の程度は、青の光が最も大きくなる。
【0066】
このように、界面37,38に着目すれば、その前後の光の振る舞いは第1の実施形態
の有機EL装置1と同様であるので、本実施形態の有機EL装置1Aによっても、有機E
L装置1と同様の作用、効果を得ることができる。つまり、有機EL装置1Aの表示特性
は、青の発光効率が高く、またこれに起因して良好なホワイトバランスを実現できるとい
う第一の特徴と、広い視角特性を有するという第二の特徴とをともに有する。また有機E
L装置1Aは、前記第一の特徴に基づいて、長寿命化を実現することができる。
【0067】
なお、樹脂層32の形成方法としては、3度のフォトリソグラフィ工程によって樹脂層
32R,32G,32Bを塗り分けて形成する方法や、シリカ系のコート剤樹脂材料また
はエポキシ系樹脂材料を全面に塗付した後に、フォトマスクで遮光しながら、樹脂層32
R,32G,32Bに対応する領域にそれぞれ800mJ,1000mJ,2000mJ
の紫外線を照射して発光領域40ごとに屈折率を変える方法などを用いることができる。
【0068】
(第3の実施形態)
続いて、本発明の第3の実施形態に係る有機EL装置1Bについて、図4の断面図を用
いて説明する。有機EL装置1Bの構成は、素子基板については第1の実施形態の有機E
L装置1と同様であり、カラーフィルタ基板の構成のみが異なる。このため、以下では有
機EL装置1との差異点を中心に説明する。
【0069】
有機EL装置1Bのカラーフィルタ基板は、ガラス基板30上に、カラーフィルタ35
、樹脂からなるオーバーコート36がこの順に積層された構成となっている。カラーフィ
ルタ35は、赤色発光領域40Rにおけるカラーフィルタ35R、緑色発光領域40Gに
おけるカラーフィルタ35G、青色発光領域40Bにおけるカラーフィルタ35Bからな
るが、第1の実施形態のカラーフィルタ34と異なり、これら相互の屈折率はすべて等し
く1.48となっている。また、カラーフィルタ35の表面は、プラズマアッシング処理
によって意図的に荒らされており、高さ0.01〜0.5μm程度の凹凸が形成されてい
る。よって、カラーフィルタ35とオーバーコート36との界面38は、凹凸形状を呈し
ている。
【0070】
オーバーコート36は、赤色発光領域40Rにおけるオーバーコート36R、緑色発光
領域40Gにおけるオーバーコート36G、青色発光領域40Bにおけるオーバーコート
36Bからなる。また、オーバーコート36R,36G,36Bの屈折率はそれぞれ1.
60,1.70,1.85と互いに異なる。また、接着剤28の屈折率は1.80である
。本実施形態においては、オーバーコート36が本発明の「第1機能層」に、カラーフィ
ルタ35が「第2機能層」に、接着剤28が「第3機能層」に、それぞれ対応する。
【0071】
こうした構成の有機EL装置1Bにおいて、接着剤28とオーバーコート36との界面
37、およびオーバーコート36とカラーフィルタ35との界面38に着目すれば、その
前後の層の屈折率の大小関係は第1の実施形態の有機EL装置1と同様であるので、界面
37,38を透過する光の振る舞いも有機EL装置1と同様である。よって、本実施形態
の有機EL装置1Bによっても、有機EL装置1と同様の作用、効果を得ることができる
。つまり、有機EL装置1Bの表示特性は、青の発光効率が高く、またこれに起因して良
好なホワイトバランスを実現できるという第一の特徴と、広い視角特性を有するという第
二の特徴とをともに有する。また有機EL装置1Bは、前記第一の特徴に基づいて、長寿
命化を実現することができる。
【0072】
なお、オーバーコート36は、第2の実施形態における樹脂層32の形成方法と同様な
方法によって形成することができる。
【0073】
(第4の実施形態)
続いて、本発明の第4の実施形態に係る有機EL装置1Cについて、図5の断面図を用
いて説明する。有機EL装置1Cの構成は、素子基板については第1の実施形態の有機E
L装置1と同様である。このため、以下では有機EL装置1との差異点を中心に説明する

【0074】
有機EL装置1Cは、素子基板とガラス基板30とを接着剤28で貼り合せた構成とな
っている。すなわち、有機EL装置1Cはカラーフィルタを備えず、素子基板側の光共振
器の機能によってカラー表示を行う。ガラス基板30の接着剤28と接する面は、第1の
実施形態の有機EL装置1と同様に凹凸形状を呈している。
【0075】
接着剤28は、発光領域40ごとに屈折率が異なる。すなわち、接着剤28は、赤色発
光領域40Rにおける接着剤28R、緑色発光領域40Gにおける接着剤28G、青色発
光領域40Bにおける接着剤28Bからなり、接着剤28R,28G,28Bの屈折率は
それぞれ1.60,1.70,1.85となっている。また、素子基板側で接着剤28に
接している薄膜封止層26の屈折率は、1.80である。本実施形態においては、接着剤
28が本発明の「第1機能層」に、ガラス基板30が「第2機能層」に、薄膜封止層26
が「第3機能層」に、それぞれ対応する。
【0076】
こうした構成の有機EL装置1Cにおいて、薄膜封止層26と接着剤28との界面37
、および接着剤28とガラス基板30との界面38に着目すれば、その前後の層の屈折率
の大小関係は第1の実施形態の有機EL装置1と同様であるので、界面37,38を透過
する光の振る舞いも有機EL装置1と同様である。よって、本実施形態の有機EL装置1
Cによっても、有機EL装置1と同様の作用、効果を得ることができる。つまり、有機E
L装置1Cの表示特性は、青の発光効率が高く、またこれに起因して良好なホワイトバラ
ンスを実現できるという第一の特徴と、広い視角特性を有するという第二の特徴とをとも
に有する。また有機EL装置1Cは、前記第一の特徴に基づいて、長寿命化を実現するこ
とができる。
【0077】
有機EL装置1Cにおける青の発光効率およびホワイトバランスに関するデータを表6
に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
表6中の上段は、従来の構成の有機EL装置、すなわち有機EL装置1Cの構成に対し
てガラス基板30の表面に凹凸がなく、接着剤28の屈折率が一様である有機EL装置の
特性であり、中段は、当該従来の構成から、本実施形態のようにガラス基板30の表面を
凹凸形状とし、かつ接着剤28R,28G,28Bの屈折率を互いに異ならせたときの特
性である。これより、青の発光効率が、2.5Cd/m2から7.0Cd/m2へ、約2.
8倍に向上していることがわかる。
【0080】
このように、表6の中段の構成においては青の発光効率が最も大きく改善されているた
め、青の発光輝度をある程度の水準に維持しながら、光共振器の光路長もしくは干渉条件
を変更して青の色純度を高くする微調整を行うことができる。表6の中段の構成からこの
ような微調整を行ったものが本実施形態の有機EL装置1Cであり、その特性は表6の下
段のデータに示されている。これらのデータより、青の発光効率は5.0Cd/m2と若
干低下するものの、青の色座標、色再現性が向上していることがわかる。さらに、各発光
領域40の有機EL素子70を等電流で駆動したときの白の色座標も(0.32,0.3
4)とより白点に近付き、ホワイトバランスが向上している。
【0081】
このようにホワイトバランスが向上することで、第1の実施形態と同様の原理により、
装置の寿命を延ばすことができる。発明者の実験によれば、有機EL装置1Cの寿命は、
従来の構成の有機EL装置の約1.9倍に向上した。
【0082】
なお、接着剤28の形成方法としては、薄膜封止層26上にディスペンサーもしくは液
滴吐出装置で発光領域40ごとに屈折率の異なる接着剤28の材料を吐出し、ガラス基板
30を貼り合わせる方法を用いることができる。
【0083】
(第5の実施形態)
続いて、本発明の第5の実施形態に係る有機EL装置1Dについて、図6の断面図を用
いて説明する。有機EL装置1Dは、第4の実施形態の有機EL装置1Cから薄膜封止層
26を除いた構成となっている。すなわち、有機EL装置1Dにおいては、陰極24とガ
ラス基板30とが接着剤28によって直接固着されており、接着剤28R,28G,28
Bが、有機EL素子70を保護する機能、および陰極24にできた段差を平滑化する機能
を併せ持っている。ここで、陰極24の屈折率は、1.83である。有機EL装置1Dの
構成は、これらの点を除くと第4の実施形態の有機EL装置1Cと同様である。本実施形
態においては、接着剤28が本発明の「第1機能層」に、ガラス基板30が「第2機能層
」に、陰極24が「第3機能層」に、それぞれ対応する。
【0084】
こうした構成の有機EL装置1Dにおいて、陰極24と接着剤28との界面37、およ
び接着剤28とガラス基板30との界面38に着目すれば、その前後の層の屈折率の大小
関係は第4の実施形態の有機EL装置1Cと同様であるので、界面37,38を透過する
光の振る舞いも有機EL装置1Cと同様である。よって、本実施形態の有機EL装置1D
によっても、有機EL装置1Cと同様の作用、効果を得ることができる。つまり、有機E
L装置1Dの表示特性は、青の発光効率が高く、またこれに起因して良好なホワイトバラ
ンスを実現できるという第一の特徴と、広い視角特性を有するという第二の特徴とをとも
に有する。また有機EL装置1Dは、前記第一の特徴に基づいて、長寿命化を実現するこ
とができる。
【0085】
(第6の実施形態)
続いて、本発明の第6の実施形態に係る有機EL装置1Eについて、図7の断面図を用
いて説明する。有機EL装置1Eは、ボトムエミッションタイプの有機EL装置であり、
基板10上に、樹脂層32、陽極としての画素電極16、正孔輸送層18、有機発光層2
0、電子輸送層22、陰極24がこの順に積層された構成となっている。基板10、画素
電極16、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22は、第1の実施形態の有機
EL装置1と同様の材料からなる。陰極24は、アルミニウムの薄膜等からなり、有機発
光層20からの光を反射する反射膜としての機能も備えている。
【0086】
有機発光層20は、赤色系発光を行う有機発光層20R、緑色系発光を行う有機発光層
20G、青色系発光を行う有機発光層20Bからなる。有機発光層20Rは赤色発光領域
40Rに、有機発光層20Gは緑色発光領域40Gに、有機発光層20Bは青色発光領域
40Bに、それぞれ配置されている。有機発光層20において発せられた光は、陰極24
で反射されて図7の下方向に進行し、または有機発光層20から直接図7の下方向に進行
し、正孔輸送層18、画素電極16、樹脂層32、基板10を順に透過して外部に取り出
される。
【0087】
基板10の、樹脂層32が形成された表面は、あらかじめフッ酸等を用いてフロスト処
理がなされ、高さ0.01〜0.5μm程度の凹凸が形成されている。このため、基板1
0と樹脂層32との界面38は、凹凸形状を呈している。樹脂層32は、互いに屈折率の
異なる透光性の樹脂層32R,32G,32Bからなり、樹脂層32Rは赤色発光領域4
0Rに、樹脂層32Gは緑色発光領域40Gに、樹脂層32Bは青色発光領域40Bに、
それぞれ配置されている。樹脂層32R,32G,32Bの屈折率はそれぞれ1.65,
1.70,1.90である。また、画素電極16の屈折率は1.80である。本実施形態
においては、樹脂層32が本発明の「第1機能層」に、画素電極16が「第3機能層」に
、それぞれ対応する。
【0088】
こうした構成の有機EL装置1Eにおいて、画素電極16と樹脂層32との界面37、
および樹脂層32と基板10との界面38に着目すれば、その前後の層の屈折率の大小関
係は第1の実施形態の有機EL装置1と同様であるので、界面37,38を透過する光の
振る舞いも有機EL装置1と同様である。よって、本実施形態の有機EL装置1Eによっ
ても、有機EL装置1と同様の作用、効果を得ることができる。つまり、有機EL装置1
Eの表示特性は、青の発光効率が高く、またこれに起因して良好なホワイトバランスを実
現できるという第一の特徴と、広い視角特性を有するという第二の特徴とをともに有する
。また有機EL装置1Eは、前記第一の特徴に基づいて、長寿命化を実現することができ
る。
【0089】
有機EL装置1Eにおける視角特性を表すデータを表7に示す。
【0090】
【表7】

【0091】
表7の上段は、従来の構成の有機EL装置、すなわち有機EL装置1Eの構成に対して
基板10の表面に凹凸がなく、樹脂層32も配置されていない有機EL装置において、正
面における色度座標が(0.33,0.33)となるように駆動電流を調整して白表示を
行ったときの、45°視角から当該白表示を見た場合の色度座標、および正面と45°視
角との間の色差を示したものである。一方、下段は、本実施形態の有機EL装置1Eにつ
いての同様のデータを示したものである。この表から明らかなように、有機EL装置1E
は、従来の構成に比べて上記色差が非常に小さく、視角特性が大幅に改善されていること
がわかる。
【0092】
(電子機器への搭載例)
本発明を適用した有機EL装置1(有機EL装置1Aないし1Eを含む)は、例えば、
図8に示す携帯電話機500に搭載して用いることができる。携帯電話機500は、表示
部510および操作ボタン520を有している。表示部510は、内部に組み込まれた有
機EL装置1によって、操作ボタン520で入力した内容や着信情報を始めとする様々な
情報を表示することができる。携帯電話機500は、良好なホワイトバランスおよび広い
視角特性を有し、かつ長寿命である有機EL装置1によって、表示部510において、高
品位な表示を行うことができる。
【0093】
なお、本発明を適用した有機EL装置1は、上記携帯電話機500の他、モバイルコン
ピュータ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器、プロジ
ェクタなどの各種電子機器、およびスキャナの光源、プリンタのラインヘッド等に用いる
ことができる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨
から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下の
ようなものが考えられる。
【0095】
(変形例1)
上記第1の実施形態から第5の実施形態までにおいては、有機EL素子70は光共振器
の干渉を利用してカラー発光を行う構成であるが、これに代えて、第6の実施形態と同様
に、赤、緑、青の各色の発光を行う有機発光層20R,20G,20Bを発光領域40ご
とに配置する構成としてもよい。
【0096】
(変形例2)
上記各実施形態(第3の実施形態を除く)において、ガラス基板30または基板10の
表面の凹凸形状は、フッ酸等を用いたフロスト処理によって形成したが、これに限定する
趣旨ではない。上記形成方法に代えて、ガラス基板30または基板10の表面にSiO2
、SiN、アクリル樹脂等の薄膜を形成した後、当該薄膜を凹凸形状に加工する方法など
を用いて形成してもよい。
【0097】
(変形例3)
上記第3の実施形態において、オーバーコート36は樹脂製のものが用いられているが
、これに代えて、真空薄膜形成法によって形成した無機物質の薄膜を用いてもよい。具体
的には、オーバーコート36RとしてはTa25:TiO2:SiO2=1:4:5の材料
比のもの、オーバーコート36GとしてはTa25:TiO2:SiO2=3:2:5の材
料比のもの、オーバーコート36BとしてはTa25:TiO2:SiO2=4:3:3の
材料比のものをそれぞれ形成することで、適切な屈折率が得られる。
【0098】
(変形例4)
上記実施形態は、有機発光層20を赤、緑、青で共通の発光層としたが、各発光領域4
0において、発光層が発光領域40毎に別々に形成されている構成においても、効果を得
ることが出来る。
【0099】
(変形例5)
上記実施形態は、共振器条件を設定する手段として、各発光領域40で画素電極16の
膜厚を変えているが、その他の層である反射膜12、絶縁層14、正孔輸送層18、発光
層としての有機発光層20、電子輸送層22などの界面反射を有する層と、陰極24の材
料もしくは材料の膜厚を変えることによって、共振器の効果を得ていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL装置の構成を概略的に示すブロック図。
【図2】第1の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図3】第2の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図4】第3の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図5】第4の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図6】第5の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図7】第6の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図8】本発明の実施形態に係る携帯電話機の斜視図。
【図9】従来の構成の有機EL装置の断面図。
【符号の説明】
【0101】
1,1A,1B,1C,1D,1E…有機EL装置、10…基板、12…反射膜、14
…絶縁層、16…画素電極、18…正孔輸送層、20…発光層としての有機発光層、22
…電子輸送層、24…陰極、26…薄膜封止層、28…接着剤、30…ガラス基板、32
…樹脂層、34,35…カラーフィルタ、36…オーバーコート、37,38…界面、4
0…発光領域、70…有機EL素子、500…携帯電話機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が複数の異なる色のうちの一つに対応する、複数の発光領域を有するエレクトロル
ミネッセンス装置であって、
基板と、
前記基板上に、前記発光領域に対応して配置された複数の第1電極と、
前記第1電極に対向して配置された透光性を有する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層と、
前記第2電極の、前記発光層が配置された側とは反対側に配置された第1機能層と、
前記第1機能層上に、当該第1機能層に接して配置された第2機能層とを備え、
前記第1機能層と前記第2機能層との界面は、前記発光層から射出された光を散乱させ
る凹凸形状を有し、
前記第1機能層は、前記複数の異なる色のうち一の色に対応する前記発光領域における
屈折率と、他の色に対応する前記発光領域における屈折率とが異なることを特徴とするエ
レクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層の屈折率は、どの前記発光領域においても前記第2機能層の屈折率より
大きいことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層の屈折率と前記第2機能層の屈折率との差は、どの前記発光領域におい
ても0.03以上1.00以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
各々が複数の異なる色のうちの一つに対応する、複数の発光領域を有するエレクトロル
ミネッセンス装置であって、
基板と、
前記基板上に、当該基板に接して配置された第1機能層と、
前記第1機能層上に、前記発光領域に対応して配置された透光性を有する複数の第1電
極と、
前記第1電極に対向して配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層とを備え、
前記第1機能層と前記基板との界面は、前記発光層から射出された光を散乱させる凹凸
形状を有し、
前記第1機能層は、前記複数の異なる色のうち一の色に対応する前記発光領域における
屈折率と、他の色に対応する前記発光領域における屈折率とが異なることを特徴とするエ
レクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層の屈折率は、どの前記発光領域においても前記基板の屈折率より大きい
ことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層の屈折率と前記基板の屈折率との差は、どの前記発光領域においても0
.03以上1.00以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層の、前記凹凸形状を有した界面と反対の面に接して配置された第3機能
層をさらに有し、
前記第1機能層の屈折率の、前記第3機能層の屈折率に対する比は、どの前記発光領域
においても0.83より大きくかつ1.50以下であることを特徴とするエレクトロルミ
ネッセンス装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記発光領域は、赤色系発光が得られる赤色発光領域、緑色系発光が得られる緑色発光
領域、および青色系発光が得られる青色発光領域を含み、
前記第1機能層は、前記青色発光領域における屈折率が、前記赤色発光領域における屈
折率および前記緑色発光領域における屈折率のいずれとも異なることを特徴とするエレク
トロルミネッセンス装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層は、前記赤色発光領域、前記緑色発光領域、および前記青色発光領域に
おける屈折率が互いに異なることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記第1機能層は、前記青色発光領域における屈折率が、前記赤色発光領域における屈
折率および前記緑色発光領域における屈折率のいずれよりも大きいことを特徴とするエレ
クトロルミネッセンス装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置を搭載するこ
とを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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