説明

エレクトロルミネッセンス装置、および電子機器

【課題】ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有するエレクトロルミネッセンス装置
、および当該エレクトロルミネッセンス装置を搭載した電子機器を提供すること。
【解決手段】光共振器を利用したエレクトロルミネッセンス装置において、隣接画素列4
2間の画素40の色の順序を逆にする。すなわち、青、緑、赤の順に画素40が配列され
た画素列42Aと、青、赤、緑の順に画素40が配列された画素列42Bとを交互に配置
する。この構成により、画素列42A,42Bが有する視野角特性が平均され、有機EL
装置1全体としてほぼ全方位にわたって良好な視野角特性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス現象を利用したエレクトロルミネッセンス装置、
および当該エレクトロルミネッセンス装置を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス(以下「EL」とも略す)装置は、薄型、軽量、高速応答な
どの特性から、種々の電子機器に表示装置として用いられている。図11は、こうしたE
L装置の一例である有機EL装置の表示領域における断面図を示したものである。この有
機EL装置は、基板10上に反射膜12、絶縁層14、陽極としての画素電極16、正孔
輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22、陰極24、薄膜封止層26がこの順に積
層されてなる素子基板と、ガラス基板30上に赤、緑、青にそれぞれ対応するカラーフィ
ルタ34R,34G,34B(以下、これらをまとめて「カラーフィルタ34」とも呼ぶ
)およびこれらの間に配置された遮光層32が形成されてなるカラーフィルタ基板とを接
着剤28を介して貼り合せたものである。カラーフィルタ34R,34G,34Bは、そ
れぞれ画素40R,40G,40Bに配置されている。この有機EL装置は、画素電極1
6と陰極24との間に配置された有機発光層20に電流を流すことによって有機発光層2
0を発光させ、その光をカラーフィルタ基板側から取り出す発光装置である。取り出され
る光は、反射膜12および陰極24によって構成される光共振器による干渉と、カラーフ
ィルタ34との効果によって、赤、緑、青のいずれかの色を有する。
【0003】
この有機EL装置における、画素40R,40G,40Bの平面的な配置は図10に示
す通りである。図10中の縦方向の各列はいずれも画素40R,40G,40Bのいずれ
か一種のみによってなり、全体としてストライプ状の画素配列となっている。ストライプ
状の画素配列を有する表示装置については、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3540534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記光共振器を用いた有機EL装置において、正面から図11中の矢印Lまたは矢印R
で示す方向にずれた角度に射出される光は、正面に射出される光よりも波長が短くなると
いう特徴を有する。これは、光共振器の干渉条件が変わるためである。このとき、画素4
0R,40Gの有機発光層20から斜めに射出された光は、それぞれ隣接する画素40の
うち短波長側に相当する画素40G,40Bのカラーフィルタ34G,34Bを透過し、
表示の色純度の低下の原因となる。すなわち、矢印Lの方向の視野角特性が、矢印Rの方
向の視野角特性に比べて極端に悪くなる。これにより、特に上記のようなストライプ状の
画素配列を有する有機EL装置においては、特定の方向の視野角特性、特に色純度が著し
く低下してしまうという問題点があった。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有
するエレクトロルミネッセンス装置、および当該エレクトロルミネッセンス装置を搭載し
た電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、少なくとも3
種の異なる色の画素が一列に配列されてなる画素列を複数有するエレクトロルミネッセン
ス装置であって、互いに対向して配置された第1基板および第2基板と、前記第1基板の
前記第2基板に対向する面上に配置された反射膜と、前記反射膜上に、前記画素に対応し
て配置された複数の第1電極と、前記第1電極に対向して配置された、光反射性および光
透過性を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層と、
前記第2基板の前記第1基板に対向する面上に前記画素に対応して配置された、前記画素
の色に対応した色のカラーフィルタとを有し、前記画素列における前記画素は、当該画素
の色が一定の順序に循環するように配列され、隣り合う前記画素列の前記順序は互いに異
なっていることを特徴とする。
【0008】
上記エレクトロルミネッセンス装置は、光共振器を利用したカラー発光を行うものであ
る。そして、上記構成によれば、画素列ごとに画素の色の順序が異なっているため、視野
角特性が悪くなる方向も画素列ごとに異なるようになる。これは、ある画素の発光層から
の光が一方の隣接画素のカラーフィルタを透過することによって視野角特性に偏りが生じ
たとしても、その隣接方向が画素列ごとに異なるためである。この構成により、視野角特
性の偏りが平均化され、ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有するエレクトロルミ
ネッセンス装置が得られる。より具体的には、例えば画素列の色の並びを一列ごとに逆に
すれば、画素列に沿った方向について対称な視野角特性とすることができる。
【0009】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記画素列における前記画素のピッチは
、前記画素列に直交する方向における前記画素のピッチより小さいことが好ましい。ある
画素の発光層からの光が隣接画素のカラーフィルタを透過することによる視野角特性の低
下は、画素ピッチが小さいほど顕著になる。上記構成によれば、このように画素ピッチが
小さい方向についての視野角特性の偏りが平均化されるため、良好な視野角特性が得られ
やすい。
【0010】
上記エレクトロルミネッセンス装置においては、前記画素列に含まれる前記画素であっ
て、前記第2電極から当該第2電極の法線方向に射出される光の強度スペクトルのピーク
波長がλ0である第1画素と、前記画素列に含まれ、かつ前記第1画素に隣接する2つの
前記画素の一方であって、前記第2電極から当該第2電極の法線方向に射出される光の強
度スペクトルのピーク波長がλ0より小さい第2画素とを有し、前記第2画素における前
記カラーフィルタの波長λ0cosθにおける透過率が、当該カラーフィルタの最大透過
率の15%以上であることが好ましい。
ただし、cosθは下記式で表され、hは前記第2電極から前記カラーフィルタまでの
距離、dは前記画素列における前記画素のピッチ、wは前記画素における前記カラーフィ
ルタの前記画素列方向の幅である。
cosθ=h/{h2+(d−w)21/2
【0011】
第1画素の発光層から上記角度θ傾いた方向に射出される光は、第2画素のカラーフィ
ルタを透過し得る。この光のピーク波長は、光共振器の共振条件の影響により、正面方向
でのピーク波長がλ0である場合にはλ0cosθとなる。上記構成のように、第2画素の
カラーフィルタが当該光を最大透過率の15%以上透過するような場合には、本発明の効
果が顕著に表れる。すなわち、画素列ごとの視野角特性の大きな偏りが平均化され、ほぼ
全方位にわたって良好な視野角特性を有するエレクトロルミネッセンス装置が得られる。
【0012】
上記エレクトロルミネッセンス装置において、前記3種の異なる色は、赤、緑、青であ
ることが好ましい。こうした構成のエレクトロルミネッセンス装置は、赤、緑、青の発光
の組み合わせによるカラー表示を行うことが可能である。また、画素列における画素の色
の順序は、ある画素列において赤、緑、青の順序であれば、その隣接画素列においては青
、緑、赤の順序となる。すなわち、画素の色の順序が逆の画素列が交互に配置された構成
となる。こうした構成により、画素列ごとの視野角特性の偏りが平均化され、ほぼ全方位
にわたって良好な視野角特性が得られる。
【0013】
ここで、前記第1画素は前記赤に対応する前記画素であり、前記第2画素は前記緑に対
応する前記画素であるとしたとき、緑の画素のカラーフィルタが波長λ0cosθの光を
15%以上透過する場合には、本発明の効果が顕著に表れる。また、前記第1画素は前記
緑に対応する前記画素であり、前記第2画素は前記青に対応する前記画素であるとしたと
き、青の画素のカラーフィルタが、波長λ0cosθの光を15%以上透過する場合には
、本発明の効果が顕著に表れる。すなわち、画素列ごとの視野角特性の偏りが平均化され
、ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有するエレクトロルミネッセンス装置が得ら
れる。
【0014】
本発明による電子機器は、上記エレクトロルミネッセンス装置を備えることを特徴とす
る。このような電子機器は、上記エレクトロルミネッセンス装置が組み込まれた発光部ま
たは表示部において、ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有するカラー表示を行う
ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図にお
いては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法
や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0016】
<A.有機EL装置の構成>
図1は、本発明の「エレクトロルミネッセンス装置」としての有機EL装置1の構成を
概略的に示すブロック図である。この有機EL装置1は、データ線駆動回路60および走
査線駆動回路61と、複数の有機EL素子70を備えている。データ線駆動回路60には
複数本のデータ線91が、また、走査線駆動回路61には複数本の走査線92が、それぞ
れ接続されている。
【0017】
有機EL素子70は、データ線91および走査線92の交差に対応してマトリクス状に
配置されており、全体として表示領域90を構成している。有機EL素子70の各々は、
データ線駆動回路60および走査線駆動回路61からデータ線91および走査線92を介
して印加される駆動信号に応じて発光する。また、有機EL素子70の各々は、赤色系発
光、緑色系発光、青色系発光のいずれかを行う。有機EL装置1は、表示領域90におい
て有機EL素子70の発光の集合によってカラー表示を行う装置である。
【0018】
図2は、隣り合う6つの有機EL素子70を含む部位における有機EL装置1の断面図
である。この図に示すように、有機EL装置1は、基板10上に反射膜12、絶縁層14
、陽極としての画素電極16、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層22、陰極
24、薄膜封止層26がこの順に積層されてなる素子基板と、ガラス基板30上に赤、緑
、青にそれぞれ対応するカラーフィルタ34R,34G,34B、およびこれらの間に配
置された遮光層32が積層されてなるカラーフィルタ基板とを接着剤28を介して貼り合
せたものである。有機EL装置1の表示領域90は、より小さな発光単位である画素40
R,40G,40Bの集合からなる(以下では、画素40R,40G,40Bをまとめて
「画素40」とも呼ぶ)。画素40Rは赤色系発光を行い、画素40Gは緑色系発光を行
い、画素40Bは青色系発光を行う。反射膜12から陰極24までの構成要素からなる素
子が前述の有機EL素子70に相当し、一つの画素40には、一つの有機EL素子70が
形成されている。ここで、陰極24からカラーフィルタ34までの距離はhである。また
、上記基板10が本発明における「第1基板」に、ガラス基板30が「第2基板」に、画
素電極16が「第1電極」に、陰極24が「第2電極」に、有機発光層20が「発光層」
に、それぞれ対応する。
【0019】
図3は、画素40の形状および配置についての説明をするための、有機EL装置1の拡
大平面図である。この図に示すように、画素40はマトリクス状に配置されている。以下
、図3における横方向を「行方向」とも呼ぶ。各々の画素40は長方形をしており、隣り
合う一組の画素40R,40G,40Bの集合が略正方形となるように設計されている。
ここで、画素40の短辺方向、すなわち行方向の配列ピッチはdである。また、画素40
が行方向に一列に配列されてなる集合を、画素列42と呼ぶ。表示領域90は、多数の画
素列42からなる。当該画素列42は、画素列42Aと画素列42Bの2種類あり、これ
らは交互に隣接して配置されている。画素列42Aは、これを構成する画素40の色の配
列が、図3の左から右へ進むに従って青、緑、赤の順序となっている。一方、画素列42
Bは、これを構成する画素40の色の配列が、図3の左から右へ進むに従って青、赤、緑
の順序となっている。すなわち、画素列42Aと画素列42Bとでは、画素40の色の順
序が逆になっている。なお、図2は、図3中の画素列42Aを行方向に平行に切断したと
きの断面図である。
【0020】
図2に戻り、基板10は、ガラス基板上にTFT(Thin Film Transistor)素子等が形
成されたいわゆるTFT素子基板であって、ガラス基板上に公知の技術を用いてTFT素
子、データ線91、走査線92、その他各種電極、絶縁層等が形成されたものである。反
射膜12は、アルミニウムまたは銀からなる。画素電極16は、反射膜12上に、反射膜
12との短絡を防止するための絶縁層14を挟んで配置された、ITO(Indium Tin Oxi
de)からなる透明電極である。画素電極16は、各画素40に一つずつ配置されており、
それぞれの画素電極16は、基板10に含まれるTFT素子を介して、データ線91に接
続されている。陰極24は、マグネシウムと銀の合金をハーフミラー状態に形成したもの
であり、光反射性および光透過性を兼ね備えている。
【0021】
画素電極16と陰極24との間には、正孔輸送層18、有機発光層20、電子輸送層2
2がこの順に積層されている。有機発光層20は、エレクトロルミネッセンス現象を発現
する有機発光物質の層である。画素電極16と陰極24との間に電圧を印加することによ
って、有機発光層20には、正孔輸送層18から正孔が、また、電子輸送層22から電子
が注入され、有機発光層20は、これらが再結合したときに光を発する。有機発光層20
からの光は、一部は直接陰極24を透過し、一部は反射膜12によって反射されてから陰
極24を透過する。いずれにせよ、有機発光層20からの光は、陰極24を透過し、その
後薄膜封止層26、接着剤28、カラーフィルタ34、ガラス基板30を順に透過する。
有機EL装置1は、このように有機発光層20に電流を流すことによって有機発光層20
を発光させ、その光をカラーフィルタ基板側から取り出すフロントエミッションタイプの
有機EL装置である。
【0022】
ここで、反射膜12および陰極24は、いわゆる光共振器を構成している。このため、
有機発光層20において発せられた光は、反射膜12と陰極24との間を往復し、共振波
長の光だけが増幅されてカラーフィルタ基板側から取り出される。よって、ピーク強度が
高く幅が狭いスペクトルを有する光を取り出すことができ、有機EL装置1による発光の
色再現性を向上させることができる。
【0023】
上記共振波長は、光共振器の長さを変えることによって調整可能である。有機EL装置
1においては、画素電極16の厚さを変えることによって光共振器の長さを調整している
。より詳細には、画素40B,40G,40Rにおいてこの順に画素電極16を厚く形成
することにより、光共振器の長さ、および共振波長がこの順に長くなるようになっている
。共振波長は、画素40Bにおいては青色、画素40Gにおいては緑色、画素40Rにお
いては赤色に相当する波長に設定されている。この結果、陰極24からは、青、緑、また
は赤の光が選択的に射出される。
【0024】
陰極24を覆って形成された薄膜封止層26は、SiONからなる透光性を有する部材
であり、有機EL素子70を保護するとともに、光共振器の形成のためにできた陰極24
の段差を埋めて平滑にする役割を果たす。
【0025】
カラーフィルタ34は、入射した光のうちの特定の波長成分を吸収することによって透
過光を着色する樹脂である。カラーフィルタ34を配置することによって、有機EL装置
1から取り出される光の色純度が向上するとともに、視野角による色の変化を抑えること
ができ、かつ外光の反射をある程度遮断することができる。また、カラーフィルタ34R
,34G,34Bの間に配置された遮光層32は、光をほとんど透過させない樹脂であり
、各画素40間の表示の混色を防止する役割を果たす。ここで、図2におけるカラーフィ
ルタ34R,34G,34Bの幅はそれぞれ等しく、wである。
【0026】
図4は、分光光度計によって測定されたカラーフィルタ34R,34G,34Bの透過
スペクトル44R,44G,44Bを示したものである。この図からわかるように、カラ
ーフィルタ34Rは、可視光領域のうち長波長側の光を透過し、次いでカラーフィルタ3
4G,34Bの順に透過する波長の光が短くなる。
【0027】
<B.有機EL装置の視野角特性>
次に、上述した構成を有する有機EL装置1の表示の視野角特性について説明する。本
稿において「視野角特性が良い(向上する)」とは、主に正面方向から視野角を変えてい
ったときの表示色の変化の程度、すなわち色差が小さい(小さくなる)ことを言う。また
、「正面」とは、陰極24の法線方向を言うものとする。
【0028】
まず、有機EL装置1中の光共振器から射出される光の波長について述べる。図2にお
ける陰極24からカラーフィルタ34までの距離をh、有機発光層20で発生した光が光
共振器の両端で反射する際に生じる位相シフトをΦラジアンとすると、光共振器からは、
下記式(1)を満たす波長λ0を中心波長とする干渉光が正面方向(図2中の上方向)に
射出される。
2h/λ0+Φ/2π=m (mは整数) …(1)
このときの射出光の強度スペクトル46aを図5に示す。
【0029】
ここで、観察方向を正面方向から図2中の矢印Lまたは矢印Rの方向に角度θだけ傾け
ると、当該観察方向に射出される光の中心波長λは、下記式(2)を満たす。
2hcosθ/λ+Φ/2π=m (mは整数) …(2)
そして、式(1)および式(2)より、λ=λ0cosθとなる。すなわち、正面から
角度θ傾いた方向には、中心波長が波長λ0cosθである光が射出される。当該光の強
度スペクトル46bを図5に示す。この図からわかるように、強度スペクトル46bは、
正面方向への射出光の強度スペクトル46aに比べて発光強度が弱くなるとともに、中心
波長が短波長側にシフトする。このように、光共振器を用いた有機EL装置1においては
、観察方向が正面からずれるにつれて射出光の波長が短くなるため、良好な視野角特性が
得られにくい。
【0030】
この視野角特性は、画素40の配列順序に応じた方向依存性を有する。具体的には、観
察方向が図2中の矢印Rの方向に傾いたときよりも、矢印Lの方向に傾いたときに視野角
特性がより低下する傾向にある。これは、画素40Rの有機発光層20から矢印Lの方向
に傾いて射出された光のうち、隣接する画素40Gのカラーフィルタ34Gに入射した光
が、短波長側に波長がシフトしていることによって当該カラーフィルタ34Gにおいて吸
収されず、透過してしまうことが原因である。また、画素40Gの有機発光層20から隣
接する画素40Bのカラーフィルタ34Bに入射した光についても同様のことが言える。
この現象は、観察方向が矢印Rの方向に傾いたとしても起こりにくい。隣接する画素40
のカラーフィルタ34が長波長側の光を透過するものであるため、視野角特性の低下の原
因となる光がここで吸収されるからである。こうして、上記視野角特性の方向依存性が生
ずる。
【0031】
しかし、本発明の実施形態に係る有機EL装置1は、図3に示すように、画素列42に
おける画素40の色の順序が一行ごとに逆転している。このため、視野角特性が低下しや
すい方向も一行ごとに逆転しており、装置全体として見ると上記の視野角特性の低下が緩
和される。すなわち、図3中の矢印Lの方向についての視野角特性が低下しやすい画素列
42Aと、矢印Rの方向についての視野角特性が低下しやすい画素列42Bとが交互に配
置されているため、これらの視野角特性が平均され、有機EL装置1全体としてはほぼ全
方位にわたって良好な視野角特性が得られる。
【0032】
表1に、従来の構成の有機EL装置と、本実施形態の有機EL装置1の視野角特性を比
較したデータを示す。ここで、従来の構成とは、図10に示すようなストライプ状の画素
配列を有する構成を指す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から、有機EL装置1は、赤、緑、白のいずれの表示においても、従来の構成と比
較して、L方向に視野角がずれた場合の色の変化(表1における「(A)と(B)との色
差Δu’v’」)が非常に小さく抑えられていることが分かる。また、この色の変化は、
R方向に視野角がずれた場合の色の変化(表1における「(A)と(C)との色差Δu’
v’」)とほぼ等しく、従来の構成のように特定の方向についての視野角特性が極端に低
下するようなことがない。
【0035】
本発明は、各構成要素のパラメタが次のような関係にあるとき、特に高い効果を奏する
。すなわち、赤の画素40Rから正面方向に射出される光の強度スペクトルのピーク波長
をλ0、画素40Rの有機発光層20で発生した光が隣接する画素40Gのカラーフィル
タ34Gに入射し得る最小の射出角をθとしたときに、カラーフィルタ34Gの、波長λ
0cosθにおける透過率が、当該カラーフィルタ34Gの最大透過率の15%以上であ
る場合である。
【0036】
ここで、カラーフィルタ34Gの最大透過率とは、図4のグラフにおけるT(G100
%)の値を指す。そして、波長λ0cosθが、図4においてカラーフィルタ34Gの透
過率がT(G15%)以上となる波長範囲、具体的にはおよそ490nmから620nm
の範囲にあれば、上記の場合に該当することになる。この場合におけるcosθは、式c
osθ=h/{h2+(d−w)21/2を満たす。また、波長λ0cosθは、上述したよ
うに、画素40Rの有機発光層20から角度θをもって射出されてカラーフィルタ34G
へ入射する光の強度スペクトルのピーク波長に相当する。
【0037】
このような場合には、画素40Rの有機発光層20から角度θをもって射出された光が
カラーフィルタ34Gを透過しやすく、視野角特性に上述の偏りが生じやすい。したがっ
て、本発明の構成によって視野角特性の偏りを大幅に改善させることができる。
【0038】
図6は、緑のカラーフィルタ34Gの、波長λ0cosθにおける透過率によって、赤
の画素40Rにおける視野角特性がどう変化するかを示したものである。図中の縦軸は、
正面方向での表示色と、正面方向から最も視野角特性の悪い方向(すなわち図2における
矢印Lの方向に相当)に45°傾斜した方向から観察したときの表示色との間の色差Δu
’v’である。また、図中の破線は、従来の構造、すなわち図10に示すようなストライ
プ状の画素配列を有する構成の有機EL装置についての従来例のデータであり、実線は、
本実施形態の有機EL装置1についてのデータである。
【0039】
この図より、波長λ0cosθにおけるカラーフィルタ34Gの透過率が最大透過率の
15%を超える領域においては、本実施形態における視野角特性が従来例に対して大きく
改善されることがわかる。
【0040】
上記の内容は赤の画素40Rと緑のカラーフィルタ34Gとの関係についての内容であ
るが、緑の画素40Gと青のカラーフィルタ34Bとの関係についても同様のことが言え
る。図7は青のカラーフィルタ34Bの、波長λ0cosθにおける透過率によって、緑
の画素40Gにおける視野角特性がどう変化するかを示したものである。この図において
も、波長λ0cosθにおけるカラーフィルタ34Bの透過率が最大透過率の15%を超
える領域においては、本実施形態における視野角特性が従来例に対して大きく改善される
ことがわかる。
【0041】
(C.電子機器への搭載例)
本発明を適用した有機EL装置1は、例えば、図8に示す携帯電話機500に搭載して
用いることができる。携帯電話機500は、表示部510および操作ボタン520を有し
ている。表示部510は、内部に組み込まれた有機EL装置1によって、操作ボタン52
0で入力した内容や着信情報を始めとする様々な情報を表示することができる。携帯電話
機500は、ほぼ全方位にわたって良好な視野角特性を有するカラー表示を行うことがで
きる有機EL装置1によって、表示部510において、高品位な表示を行うことができる

【0042】
なお、本発明を適用した有機EL装置1は、上記携帯電話機500の他、モバイルコン
ピュータ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、車載機器、オーディオ機器、プロジ
ェクタなどの各種電子機器等に用いることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に対しては、本発明の趣旨
から逸脱しない範囲で様々な変形を加えることができる。変形例としては、例えば以下の
ようなものが考えられる。
【0044】
(変形例1)
上記実施形態における画素40は、青の画素40Bが縦方向に一列に揃うように配列さ
れている(図3参照)が、本発明の実施にあたってはこの他にも様々な画素配列を用いる
ことができる。例えば、図9に示すように、青の画素40Bの位置が画素列42ごとに異
なる配列とすることもできる。この場合においても、画素列42A,42Bが交互に配置
される点は上記実施形態と同様である。
【0045】
その他、隣接する3つの画素40が三角形をなして配置されるデルタ配列においても本
発明を適用することができる。当該デルタ配列においては、上記三角形の三辺のいずれに
平行な方向についても画素列42をとることができるが、画素40の色の順序を変える画
素列42の方向は、これらのうちのいずれの方向であってもよい。
【0046】
(変形例2)
上記実施形態における有機EL装置1は、一つの画素列42が3色の画素40からなる
構成であるが、これに代えて、4色以上の画素40からなる構成としてもよい。この場合
でも、画素列42における画素40の色の順序が隣接画素列42同士で異なるように画素
40を配列すれば、各画素列42が有する視野角特性が平均され、有機EL装置1全体と
してほぼ全方位にわたって良好な視野角特性が得られる。具体的には、例えば各画素列4
2が4色の画素40からなる構成の場合、画素40の色の並べ方は6通りあるが、各画素
列42における並べ方はこのうちの2つから選択してもよいし、3つ以上の並べ方から選
択してもよい。いずれにしても、ある画素40がこれより短波長側の隣接画素40を持つ
方向が画素列42ごとに異なるように配置すれば、上記実施形態と同様の効果が得られる

【0047】
(変形例3)
上記実施形態は、画素40のマトリクスのうち、配列ピッチの短い方向(すなわち図3
における行方向)について画素40の色の順序を変えるものであるが、これに限定する趣
旨ではなく、配列ピッチの長い方向について画素40の色の順序を変える構成とすること
もできる。
【0048】
(変形例4)
上記実施形態は、有機発光層20を赤、緑、青で共通の発光層としたが、各画素40に
おいて、発光層が画素毎に別々に形成されている構成においても、効果を得ることが出来
る。
【0049】
(変形例5)
上記実施形態は、共振器条件を設定する手段として、各画素40で画素電極16の膜厚
を変えているが、その他の層である反射膜12、絶縁層14、正孔輸送層18、発光層と
しての有機発光層20、電子輸送層22などの界面反射を有する層と、陰極24の材料も
しくは材料の膜厚を変えることによって、共振器の効果を得ていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL装置の構成を概略的に示すブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係る有機EL装置の断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る有機EL装置の画素の配列を示す平面図。
【図4】カラーフィルタの透過スペクトルを示す図。
【図5】光共振器からの射出光の強度スペクトルを示す図。
【図6】赤の画素における、隣接画素のカラーフィルタの透過率と視野角特性との関係を示す図。
【図7】緑の画素における、隣接画素のカラーフィルタの透過率と視野角特性との関係を示す図。
【図8】本発明の実施形態に係る携帯電話機の斜視図。
【図9】本発明の変形例に係る有機EL装置の画素の配列を示す平面図。
【図10】従来の構成の有機EL装置の画素の配列を示す平面図。
【図11】従来の構成の有機EL装置の断面図。
【符号の説明】
【0051】
1…「エレクトロルミネッセンス装置」としての有機EL装置、10…「第1基板」と
しての基板、12…反射膜、16…「第1電極」としての画素電極、20…「発光層」と
しての有機発光層、24…「第2電極」としての陰極、26…薄膜封止層、28…接着剤
、30…「第2基板」としてのガラス基板、32…遮光層、34R,34G,34B…カ
ラーフィルタ、40R,40G,40B…画素、42A,42B…画素列、70…有機E
L素子、500…携帯電話機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3種の異なる色の画素が一列に配列されてなる画素列を複数有するエレクト
ロルミネッセンス装置であって、
互いに対向して配置された第1基板および第2基板と、
前記第1基板の前記第2基板に対向する面上に配置された反射膜と、
前記反射膜上に、前記画素に対応して配置された複数の第1電極と、
前記第1電極に対向して配置された、光反射性および光透過性を有する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置された発光層と、
前記第2基板の前記第1基板に対向する面上に前記画素に対応して配置された、前記画
素の色に対応した色のカラーフィルタと
を有し、
前記画素列における前記画素は、当該画素の色が一定の順序に循環するように配列され

隣り合う前記画素列の前記順序は互いに異なっていることを特徴とするエレクトロルミ
ネッセンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記画素列における前記画素のピッチは、
前記画素列に直交する方向における前記画素のピッチより小さいことを特徴とするエレ
クトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記画素列に含まれる前記画素であって、前記第2電極から当該第2電極の法線方向に
射出される光の強度スペクトルのピーク波長がλ0である第1画素と、
前記画素列に含まれ、かつ前記第1画素に隣接する2つの前記画素の一方であって、前
記第2電極から当該第2電極の法線方向に射出される光の強度スペクトルのピーク波長が
λ0より小さい第2画素とを有し、
前記第2画素における前記カラーフィルタの波長λ0cosθにおける透過率が、当該
カラーフィルタの最大透過率の15%以上であることを特徴とするエレクトロルミネッセ
ンス装置。
ただし、cosθは下記式で表され、hは前記第2電極から前記カラーフィルタまでの
距離、dは前記画素列における前記画素のピッチ、wは前記画素における前記カラーフィ
ルタの前記画素列方向の幅である。
cosθ=h/{h2+(d−w)21/2
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記3種の異なる色は、赤、緑、青であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス
装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置を備えることを
特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−141561(P2007−141561A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331441(P2005−331441)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】