説明

エレクトロルミネッセンス装置、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器

【課題】 画素ごとに異なる波長の光共振器を備え、比較的に容易にかつ高精度に形成することができるEL装置、EL装置の製造方法および電子機器を提供する。
【解決手段】 トップエミッション型の有機EL装置1であって、陽極層12の下層側に反射層19を備えた光共振器構造を有し、反射層19と陽極層12の間において反射層19全体を覆うように形成された絶縁保護層18を有し、絶縁保護層18は、画素100(R),(G),(B)の形成領域ごとに、該画素の色に対応関係を持つ屈折率(n)となっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス装置、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital
Assistants)などの電子機器に使用される表示装置や、デジタル複写機やプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして、有機エレクトロルミネッセンス(EL/Electroluminescence)装置などの発光装置が注目されている。この種の発光装置をカラー用に構成するにあたっては、従来、発光層を構成する材料を画素毎に変えることにより、各画素から各色の光が出射されるように構成されている。
【0003】
その一方で、発光層の下層側に形成された下層側反射層と発光層の上層側に形成された上層側反射層との間に光共振器を形成するとともに、ITO(Indium Tin oxide)などからなる陽極の厚さを変えることにより光共振器の光学長を画素毎に変えて、発光素子の出射光から各色の光を取り出す技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2797883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術を利用して、発光層からみて基板側に光を出射するボトムエミッション型の有機EL装置を構成する場合には、下層側反射層を半透過反射層で構成することになる。また、発光層からみて基板とは反対側に光を出射するトップエミッション型の有機EL装置を構成する場合には、下層側反射層をアルミニウムや銀などといった反射率の高い金属膜で構成することになる。
【0005】
また、ITO膜によって陽極を形成するには、ITO膜を成膜した後、ITO膜の上層にフォトリソグラフィ技術を用いてレジストマスクを形成し、エッチングを行うことになる。このため、陽極の厚さを赤色用の画素、緑色用の画素、青色用の画素で相違させるには、上記の工程を3回以上、繰り返す必要がある。その結果、ITO膜をエッチングするのに用いたエッチング液あるいはエッチングガスによって下層側反射層がエッチングされてしまい、下層側反射層の反射特性の低下や下層側反射層の欠落などが発生するという問題点が生じる。かかる下層側反射層のエッチングは、下層側反射層がITOから露出するエッチング終期に限らず、ITOに微小な孔があいている場合、エッチング開始直後から発生する可能性がある。
【0006】
また、画素毎に陽極の厚さを変えるために、例えば、上記の3回の工程ごとにエッチング時間を変える方法が考えられる。しかし、工程ごとのエッチング時間が異なると、工程管理が難しくなるのみならず、長いエッチング時間が生じることにより、サイドエッジの発生などの不都合が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、画素ごとに異なる波長の光共振器を備えたエレクトロルミネッセンス装置であって、比較的に容易にかつ高精度に形成することができるエレクトロルミネッセンス装置、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器を提供することを目的とする。
また、本発明は、画素ごとに異なる波長の光共振器を備えたエレクトロルミネッセンス装置であって、陽極の下層側に位置する光共振器用の下層側反射層が劣化することを回避でき、かつ簡便に製造することができるエレクトロルミネッセンス装置、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、基板上において、複数色のそれぞれに対応する画素に、光透過性の陽極層、少なくとも発光層を含む機能層および陰極層が積層された発光素子を備え、前記発光層から見て前記基板とは反対側に光を出射するエレクトロルミネッセンス装置であって、前記発光素子は、前記陽極層の下層側に反射層を備えた光共振器構造を形成しており、前記反射層と陽極層の間において該反射層全体を覆うように形成された保護層を有し、前記保護層は、前記画素ごとに、該画素の色に対応関係を持つ屈折率を有していることを特徴とする。
本発明によれば、光共振器をなす各層の膜厚を変えることを要せず、保護層の屈折率を調整することで、所望の色を発光する光共振器を構成することができる。すなわち、所望の色を発光する光共振器を構成するには、反射層(下層側反射層)と陰極層(上層側反射層)との間が所望の光学長(例えばλ/4)であることを要する。この光学長(光学距離)を従来は陽極の厚さを変えることにより調整していたが、本発明は保護層の屈折率を画素ごとに変えることにより所望の光学長とすることができる。
したがって、従来は、3色の画素を形成するには、3つの異なる厚さの陽極層を形成する必要があり、少なくとも3回のフォトリソ工程が必要になる。また、従来は、陽極の下層に形成されているアルミニウム又は銀を主成分とする下層側反射層が前記フォトリソ工程の現像液および剥離液の溶剤に対して非常に影響を受けやすく劣化し易い。本発明によれば、前記フォトリソ工程を不要とすることができるので、製造工程を削減することができるとともに、フォトリソ工程により反射層が劣化することを回避できる。
【0009】
また、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、前記保護層が前記複数色の前記画素において概ね同じ厚さであることが好ましい。
本発明によれば、光共振器を構成する各層の厚みを、異なる色の画素同士において概ね同じにすることができる。従来は、MgAgなどからなる陰極の形成時に、画素間において層(陽極層)の厚みが異なることで生じた段差により、その陰極が断線することがある。本発明は、前記段差をほぼ無くすことができ、その段差により陰極が断線することを回避することができる。
【0010】
また、本発明のエレクトロルミネッセンス装置は、前記反射層がアルミニウム又は銀を主成分とする(表面がミラー状態の)金属からなることが好ましい。
本発明によれば、反射率の高い反射層を構成することができ、光取り出し効率の高いエレクトロルミネッセンス装置を提供することができる。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、基板上において、複数色のそれぞれに対応する画素に、光透過性の陽極層、少なくとも発光層を含む機能層および陰極層が積層された発光素子を備え、前記発光素子は前記陽極層の下層側に反射層を備えた光共振器構造を形成しており、前記発光層から見て前記基板とは反対側に光を出射するエレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、前記反射層と陽極層の間において該反射層全体を覆うように保護層を形成する工程と、前記保護層について、前記画素ごとに、異なる態様で光を照射することにより、該画素ごとに該画素の色に対応関係を持つ屈折率にする工程とを有することを特徴とする。
本発明によれば、保護層における各画素に所定の光を照射することにより、その画素ごとに所定の屈折率を有する保護層を形成することができる。したがって本発明は、従来における陽極層形成時の多数回のフォトリソ工程を不要とすることができ、製造工程の削減および品質の向上化を図ることができる。
【0012】
また、本発明のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、前記保護層に照射される光が紫外線であることが好ましい。
本発明によれば、保護層に紫外線を照射することのみで、光共振器の光学長を最適化することができ、容易に高効率なエレクトロルミネッセンス装置を製造することができる。
【0013】
また、本発明のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、前記異なる態様の光が少なくとも光の強度が異なるものであることが好ましい。
本発明によれば、保護層に照射する光の強度を調整することのみで、光共振器の光学長を最適化することができ、容易に高効率なエレクトロルミネッセンス装置を製造することができる。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の電子機器は、前記エレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、高品位なカラー画像を表示することができる電子機器を、低コストでかつ信頼性の高い製品として提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いた各図では、各層及び各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層及び各部材毎に縮尺を相違させてある。
【0016】
[第1実施形態]
(EL装置の基本構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)の構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
図1において、本実施形態の有機EL装置1は、発光層14から見て基板11側とは反対側に向けて表示光を出射するトップエミッション型の装置であり、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれの画素100(R)、(G)、(B)にも、有機EL素子10が形成されている。有機EL素子10は、ガラスなどからなる基板11の上層側に、ITOなどからなる透明な陽極層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、マグネシウム−銀合金からなる半透過反射性をもつ陰極層16がこの順に積層された構成を有する。
なお、本発明において、画素とは、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色に対応する有機EL素子10が形成される領域であって、陽極層16、少なくとも発光層14を含む機能層および陰極層16が積層された発光素子が形成される各色に個別に対応する単位領域を示すものである。
【0018】
また、基板11と陽極層12の間には、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、または銀合金からなる反射層19(全反射層)が形成されている。そして、反射層19からなる下層側反射層と陰極層16からなる上層側反射層との間に光共振器40が構成されている。
【0019】
ここで、有機EL素子10に用いた正孔輸送層13および発光層14は、いずれの画素100(R)、(G)、(B)においても同一の材料から構成されており、同一の膜厚となっている。そして、有機EL素子10は、白色光を内部で発生させる。
【0020】
また、本実施形態では、陽極層12についても、いずれの画素100(R)、(G)、(B)においても、概ね同一の膜厚となっている。陽極層12の膜厚は、例えば20nmとする。
【0021】
(絶縁保護層の構成)
また、本実施形態では、反射層19と陽極層12との層間に、反射層19の表面および側面を覆うように光透過性の絶縁保護層18が形成されている。このような絶縁保護層18としては、例えば、厚さが約100nmのエポキシ系樹脂を用いる。そして、絶縁保護層18の屈折率は、各画素100(R)、(G)、(B)で相違している。
すなわち、絶縁保護層18の屈折率は、
画素100(B)<画素100(G)<画素100(R)
である。例えば、絶縁保護層18の屈折率は、各画素100(R)、(G)、(B)で以下の値に設定されている。
画素100(B)での絶縁保護層18aの屈折率(n)=1.5
画素100(G)での絶縁保護層18bの屈折率(n)=1.8
画素100(R)での絶縁保護層18cの屈折率(n)=2.0
【0022】
したがって、各画素100(R)、(G)、(B)における光共振器40の光学長は、各画素100(R)、(G)、(B)で相違している。すなわち、光学長は膜厚と屈折との積に比例する。これより、各画素100(R)、(G)、(B)における光共振器40は、膜厚が概ね同一であるものの屈折率が異なるので、光学長が相違している。そして、絶縁保護層18a,18b,18cの屈折率(n)は、各画素100(R)、(G)、(B)の光共振器40の光学長が、各画素100(R)、(G)、(B)から所定の色光が出射されるように調整されている。
【0023】
上記のように構成した有機EL素子10では、陽極層12から正孔輸送層13および発光層14を通じて陰極層16に電流が流れると、そのときの電流量に応じて発光層14が発光する。そして、発光層14が出射された光は陰極層16を透過して、観測者側に出射される一方、発光層14から基板11に向けて出射された光は、陽極層12の下層に形成された反射層19によって反射され、陰極層16を透過して観測者側に出射される。その際、発光層14から出射された光は、光共振器40の下層側反射層(反射層19)と上層側反射層(陰極層16)の間で多重反射され、光共振器40の光学長が1/4波長の整数倍に相当する光の色度を向上させることができる。従って、有機EL素子10は、白色光を内部で発生させるが、赤色(R)に対応する画素100(R)から赤色光を出射し、緑色(G)に対応する画素100(G)から緑色光を出射し、青色(B)に対応する画素100(B)から青色光を出射する。
【0024】
(製造方法)
図2は、有機EL装置1の製造方法の主要手順を示す模式断面図である。
図1に示すような構成の有機EL装置1を製造するには、まず、基板11の表面に光反射性を備えた金属膜(アルミニウム、アルミニウム合金、銀、または銀合金)をスパッタ法又は真空蒸着法などにより形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、反射層19を形成する。
【0025】
次に、反射層19の表面側に、厚み100nm、屈折率が1.5のエポキシ系樹脂を形成する。これによりエポキシ系樹脂層18’により反射層19の全面が覆われる。次いで図2に示すように、フォトマスク80を用いて、エポキシ系樹脂層18’における画素100(G)の形成領域に、2000mJの紫外線を照射する。また、エポキシ系樹脂層18’における画素100(R)の形成領域に、5000mJの紫外線を照射する。
【0026】
これにより、画素100(B)での絶縁保護層18aの屈折率(n)は1.5のままであり、画素100(G)での絶縁保護層18bの屈折率(n)は1.8となり、画素100(R)での絶縁保護層18cの屈折率(n)は2.0となり、図1に示すような絶縁保護層18が完成する。
【0027】
次に、絶縁保護層18の表面側に所定厚さ(例えば20nm)のITO膜(屈折率:1.95)をスパッタ法などで形成する。その後、ITO膜の上層にフォトリソグラフィ技術を用いてレジストマスクを形成して、エッチングを行うことにより、陽極層12を形成する。これにより、1回のフォトリソ工程で全ての画素100(R)、(G)、(B)の陽極層12が完成する。
【0028】
次に、いわゆるインクジェット法とも言われる液滴吐出法などを利用して正孔輸送層13および発光層14を順次、形成する。この液滴吐出法は、液滴吐出ヘッドから、正孔輸送層13や発光層14を構成する材料の液状物を液滴として吐出した後、乾燥させて、正孔輸送層13や発光層14として定着させる方法である。その際、各画素100(R)、(G)、(B)の周りにバンクと称する隔壁(図示せず)を形成しておき、吐出した液滴や液状物が周囲にはみ出さないようにすることが好ましい。
【0029】
このような方法を採用するにあたって、正孔輸送層13は、例えば、ポリオレフィン誘導体である3、4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)を正孔注入材料として用い、この有機溶剤を主溶媒として分散させてなる分散液を所定領域に吐出した後、乾燥させることにより形成できる。また、正孔輸送層13を形成するための材料としては、前記のものに限定されることなく、ポリマー前駆体がポリテトラヒドロチオフェニルフェニレンであるポリフェニレンビニレン、1、1−ビスー(4−N、N−ジトリルアミノフェニル)シクロヘキサン等を用いることもできる。
【0030】
また、発光層14を形成する材料についても、高分子材料、例えば分子量が1000以上の高分子材料が用いることが好ましい。具体的には、ポリフルオレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、またはこれらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素、例えばルブレン、ペリレン、9、10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等をドープしたものが用いられる。なお、このような高分子材料としては、二重結合のπ電子がポリマー頂上で非極在化しているπ共役系高分子材料が、導電性高分子でもあることから発光性能に優れるため、好適に用いられる。特に、その分子内にフルオレン骨格を有する化合物、すなわちポリフルオレン系化合物がより好適に用いられる。また、このような材料以外にも、例えば特開平11−40358号公報に示される有機EL素子用組成物、すなわち共役系高分子有機化合物の前駆体と、発光特性を変化させるための少なくとも1種の蛍光色素とを含んでなる有機EL素子用組成物も、発光層形成材料として使用可能である。
【0031】
このようにして正孔輸送層13および発光層14を形成した後、電子輸送層15および陰極層16を順次形成する。これらにより、図1に示す有機EL装置1が完成する。
【0032】
(従来の有機EL装置)
図3は、従来の有機EL装置1’の一例を示す模式断面図である。図3において、図1の有機EL装置1の構成要素に対応するものには同一符号を付けている。従来の有機EL装置1’と本実施形態の有機EL装置1との主な相違点は、絶縁保護層18および陽極層12である。従来の有機EL装置1’の絶縁保護層18は、各画素100(R)、(G)、(B)に共通に、厚み30nm、屈折率1.8のSiNで構成されている。また、従来の有機EL装置1’の陽極層12は、屈折率1.95のITOが、画素100(R)では膜厚90nm、画素100(G)では膜厚50nm、画素100(B)では膜厚20nmとして形成されている。
【0033】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、従来の有機EL装置およびその製造方法に比べて、陽極層12の形成工程を大幅に削減することができる。従来においては、3色の画素を形成するために3つの異なる厚さをもつ陽極層12を形成しなければならなかった(図3参照)。このため、従来では、陽極層12を形成するために、少なくとも3回のフォトリソ工程が必要となる。一方、本実施形態では、全ての画素において陽極層12の厚さを同一にするので、1回のフォトリソ工程により全ての画素の陽極層12を形成することができ、工程数を低減することができる。
【0034】
さらに、本実施形態によれば、光(紫外線)の照射のみで各画素の光共振器40の光学長を最適化することができる。そこで、容易に高効率な光共振器を備えた有機EL装置1を実現することができる。
【0035】
さらにまた、本実施形態によれば、絶縁保護層18が反射層19と陽極層12との層間に形成されているので、陽極層12を形成する際のエッチング工程により、反射層19が劣化することを回避することができる。特に本実施形態では、発光層14で発生した光は、発光層14からみて基板11とは反対側に出射される。このような場合には、反射層19には反射率が高いことが求められるが、本実施形態によれば、陽極層12を形成する際のエッチングによって、反射層19が劣化しないので、反射率の高い反射層19を構成することができる。したがって、本実施形態は、光取り出し効率の高い有機EL装置を提供することができる。
【0036】
さらにまた、本実施形態によれば、絶縁保護層18が全ての画素において概ね同じ厚さであるとともに、他の各層も全ての画素で概ね同じ厚さとすることができる。そこで、従来の有機EL装置1’のように画素間において層(陽極層12)の厚みが異なることで生じた段差により、その陰極層16が断線することを、本実施形態の有機EL装置1は回避することができる。
【0037】
さらにまた、本実施形態によれば、複数の画素100は各々、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応しているが、有機EL素子10を構成する正孔輸送層13や発光層14などの有機機能層の材質は、対応する色にかかわらず、共通であり、いずれの色に対応するかは、絶縁保護層18(18a,18b,18c)の屈折率によって決定されている。したがって、画素100がいずれの色に対応するかにかかわらず、有機EL素子10の寿命は略等しいので、有機EL装置1全体の寿命を延ばすことができる。また、有機EL装置1を製造する際、画素100間で同一の材料を用いるので、生産性を向上させることができる。
【0038】
[第2実施形態]
図4は本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を模式的に示す断面図である。図5は、従来の有機EL装置の他の例を示す模式断面図である。
【0039】
図4に示す有機EL装置1も、第1実施形態と同様、発光層14から見て基板11側とは反対側に向けて表示光を出射するトップエミッション型の装置であり、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれの画素100(R)、(G)、(B)にも、有機EL素子10が形成されている。有機EL素子10は、ガラスなどからなる基板11の上層側に、ITOなどからなる透明な陽極層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、マグネシウム−銀合金からなる半透過反射性をもつ陰極層16がこの順に積層された構成を有する。
【0040】
また、基板11と陽極層12の間には、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、または銀合金からなる反射層19(全反射層)が形成されており、この反射層19からなる下層側反射層と、陰極層16からなる上層側反射層との間に光共振器40が構成されている。さらに、有機EL素子10に用いた正孔輸送層13および発光層14は、いずれの画素100(R)、(G)、(B)においても同一の材料から構成されており、有機EL素子10は、白色光を内部で発生させる。
【0041】
また、本実施形態では、陽極層12についても、いずれの画素100(R)、(G)、(B)においても、概ね同一の膜厚となっている。陽極層12の膜厚は、例えば20nmとする。
【0042】
また、本実施形態では、反射層19と陽極層12との層間に、反射層19の表面および側面を覆うように光透過性の絶縁保護層18が形成されている。このような絶縁保護層18としては、例えば、厚さが約100nmのエポキシ系樹脂を用いる。そして、絶縁保護層18の屈折率は、各画素100(R)、(G)、(B)で相違している。
すなわち、絶縁保護層18の屈折率は、
画素100(B)<画素100(G)<画素100(R)
である。例えば、絶縁保護層18の屈折率は、各画素100(R)、(G)、(B)で以下の値に設定されている。
画素100(B)での絶縁保護層18aの屈折率(n)=1.5
画素100(G)での絶縁保護層18bの屈折率(n)=1.8
画素100(R)での絶縁保護層18cの屈折率(n)=2.0
【0043】
したがって、各画素100(R)、(G)、(B)における光共振器40の光学長は、各画素100(R)、(G)、(B)で相違している。すなわち、光学長は膜厚と屈折との積に比例する。これより、各画素100(R)、(G)、(B)における光共振器40は、膜厚が概ね同一であるものの屈折率が異なるので、光学長が相違している。そして、絶縁保護層18a,18b,18cの屈折率(n)は、各画素100(R)、(G)、(B)の光共振器40の光学長が、各画素100(R)、(G)、(B)から所定の色光が出射されるように調整されている。
【0044】
このような構成の有機EL装置1の製造方法は、第1実施形態と同様の製造方法とすることができる。特に、絶縁保護層18の形成方法は、第1実施形態の陽極層12の形成方法と同様にすることが好ましい。
【0045】
本実施形態によれば、図5に示す従来の有機EL装置に比べて、陽極層12の形成工程を削減することができる。また、絶縁保護層18により、陽極層12の形成時のエッチングによって反射層19が劣化することを回避することができる。さらにまた、光(紫外線)照射のみで各画素の光共振器40の光学長を最適化することができる。そこで、容易に高効率な光共振器を備えた有機EL装置1を実現することができる。さらにまた、本実施形態によれば、絶縁保護層18が全ての画素において概ね同じ厚さであり、他の各層も全ての画素で概ね同じ厚さとすることができる。そこで、従来の有機EL装置1’のように画素間において層(陽極層12)の厚みが異なることで生じた段差により、その陰極層16が断線することを、本実施形態の有機EL装置1は回避することができる。したがって本実施形態によれば、第1実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、陰極層16の上層側には、各画素100(R)、(G)、(B)に対応する位置に赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のカラーフィルタ21(R)、(G)、(B)が形成された透明基板20が、エポキシ系の透明な接着剤層30によって接着されている。従って、本実施形態によれば、第1実施形態と比較して、各画素100(R)、(G)、(B)から色純度の高い光を出射でき、色再現範囲を広げることができる。
【0047】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、反射層19にアルミニウムを主成分とする金属を用いたが、銀を主成分とする金属を用いて反射層19を構成してもよい。このようにすれば、反射層19での反射率を高めることができ、有機EL装置1の光取り出し効率を上げることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、絶縁保護層18に感光性のエポキシ系樹脂を用いたが、絶縁保護層18の形成材料としては光照射により屈折率が変化する材料であれば無機材料などその他の材料であってもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、陽極層12と陰極層16の間に、正孔輸送層13、発光層14および電子輸送層15の3つの層があるが、陽極層12と陰極層16の間に、さらに複数の層(例えば、電子注入層、正孔注入層、2層目の発光層など)を入れた構造としてもよい。また、これらは、高分子タイプであっても低分子タイプであってもよい。
【0050】
[表示装置への適用例]
本発明を適用した有機EL装置1は、パッシブマトリクス型表示装置あるいはアクティブマトリクス型表示装置として用いることができる。これらの表示装置のうち、アクティブマトリクス型表示装置は、図6に示す電気的構成とすることができる。
【0051】
図6は、本発明の実施形態に係るアクティブマトリクス型の有機EL装置の電気的構成を示す回路図である。図6に示す有機EL装置1は、複数の走査線63と、この走査線63の延設方向に対して交差する方向に延設された複数のデータ線64と、これらのデータ線64に並列する複数の共通給電線65と、データ線64と走査線63との交差点に対応して配置された画素100(発光領域)とを有して構成されている。画素100は、画像表示領域にマトリクス状に配置されている。
【0052】
データ線64は、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、アナログスイッチを備えるデータ線駆動回路51に接続されている。走査線63は、シフトレジスタおよびレベルシフタを備える走査線駆動回路54に接続されている。また、画素100の各々には、走査線63を介して走査信号がゲート電極に供給される画素スイッチング用の薄膜トランジスタ6と、この薄膜トランジスタ6を介してデータ線64から供給される画像信号を保持する保持容量33と、この保持容量33によって保持された画像信号がゲート電極43に供給される電流制御用の薄膜トランジスタ7と、薄膜トランジスタ7を介して共通給電線65に電気的に接続したときに共通給電線65から駆動電流が流れ込む有機EL素子10とが構成されている。また、有機EL装置1において、各画素100は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれかに対応することになる。
【0053】
[電子機器への搭載例]
本発明を適用した発光装置(EL装置)は、携帯電話機、パーソナルコンピュータ又はPDAなど、様々な電子機器において表示装置として用いることができる。また、本発明を適用した発光装置は、デジタル複写機又はプリンタなどの画像形成装置における露光用ヘッドとして用いることもできる。
【0054】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、RGBの3原色の画素でカラー表示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、2原色又は4原色以上の画素でカラー表示する構成としてもよい。例えば4原色でカラー表示する構成の場合は、RGBの画素に、シアン、マゼンダ、イエローのいずれか1つの色を発光する画素を加えることとする。
【0056】
また、上記実施形態では、本発明に係る表示装置について有機EL素子を画素として用いて構成した例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明に係る表示装置は有機EL素子以外の各種電気光学素子などを用いて構成することができる。また、本発明に係る表示装置は、電気光学装置などの表示装置以外の照明装置に適用することができる。ここで、照明装置とは、画像又は情報などを表示する表示装置ではなく、所定の光を被照射体に出射するものである。
【0057】
また、本発明に係る表示装置(EL装置)は、各種家電機器の操作パネル、各種計器類、操作部を有するモニタなどに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図2】同上の有機EL装置における絶縁保護層の形成方法を示す断面図である。
【図3】従来の有機EL装置の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図である。
【図5】従来の有機EL装置の他の例を示す模式断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る有機EL装置の電気的構成例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0059】
1…有機EL装置、10…有機EL素子、11…基板、12…陽極層、13…正孔輸送層、14…発光層、15…電子輸送層、16…陰極層(上層側反射層)、18…絶縁保護層、19…反射層(下層側反射層)、21(R)、(G)、(B)…カラーフィルタ、40…光共振器、100(R),(G),(B)…画素


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において、複数色のそれぞれに対応する画素に、光透過性の陽極層、少なくとも発光層を含む機能層および陰極層が積層された発光素子を備え、前記発光層から見て前記基板とは反対側に光を出射するエレクトロルミネッセンス装置であって、
前記発光素子は、前記陽極層の下層側に反射層を備えた光共振器構造を形成しており、
前記反射層と陽極層の間において該反射層全体を覆うように形成された保護層を有し、
前記保護層は、前記画素ごとに、該画素の色に対応関係を持つ屈折率を有していることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記保護層は、前記複数色の前記画素において、概ね同じ厚さであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記反射層は、アルミニウム又は銀を主成分とする金属からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
基板上において、複数色のそれぞれに対応する画素に、光透過性の陽極層、少なくとも発光層を含む機能層および陰極層が積層された発光素子を備え、前記発光素子は前記陽極層の下層側に反射層を備えた光共振器構造を形成しており、前記発光層から見て前記基板とは反対側に光を出射するエレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記反射層と陽極層の間において該反射層全体を覆うように保護層を形成する工程と、
前記保護層について、前記画素ごとに、異なる態様で光を照射することにより、該画素ごとに該画素の色に対応関係を持つ屈折率にする工程とを有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
前記保護層に照射される光は、紫外線であることを特徴とする請求項4に記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
前記異なる態様の光とは、少なくとも光の強度が異なるものであることを特徴とする請求項4又は5に記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス装置又は請求項4から6のいずれか一項に記載の製造方法により製造されてなるエレクトロルミネッセンス装置を備えたことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−42535(P2007−42535A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227569(P2005−227569)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】