説明

エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】 サイズや形状の変更を容易にして生産性を向上したエレクトロルミネッセンス装置の製造方法を提供する。
【解決手段】 チューブ11内に、陽極層形成液、正孔輸送層形成液、発光層形成液、陰極層形成液を順次導入・導出し、各内周面11b,13a,14a,15a上の全体に、順次均一な膜厚の陽極層液状膜、正孔輸送層液状膜、発光層液状膜及び陰極層液状膜を形成するようにした。そして、これら陽極層液状膜、正孔輸送層液状膜、発光層液状膜及び陰極層液状膜を順次乾燥・焼成あるいは乾燥して、陽極層13、正孔輸送層14、発光層15及び陰極層16を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、棒状の発光装置には、ガラス管内に封入された希ガス等の放電現象を利用する蛍光灯やネオン管等が知られている。しかし、これら放電現象を利用した発光装置は、その小型化や低消費電力化が困難であるといった問題を有していた。そこで、近年では、小型化と低消費電力化の双方を解決可能にする棒状の発光装置として、棒状部材の外周面にエレクトロルミネッセンス(以下単に、「EL」という。)素子を有した棒状のエレクトロルミネッセンス装置(以下単に、「EL装置」という。)が注目されている。
【0003】
こうしたEL装置の製造方法には、可撓性のシート基板上に、第1電極(陽極)、有機層、第2電極(陰極)を順次積層して、そのシート基板を支持棒に巻付ける巻付け法や、棒状の陰極に、順次有機層、陽極、封止層を蒸着する蒸着法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−265785号公報
【特許文献2】特開2005−108643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の巻付け法では、シート基板上に形成したEL素子を曲折して支持棒の外周面に巻付けている。そのため、支持棒が小型化されると、巻付けたEL素子の各層に、過剰な圧縮ストレスや伸張ストレスが掛かるようになる。その結果、各層の電気的特性の劣化を招いて、ひいてはEL装置の生産性を損なう問題があった。
【0005】
また、特許文献2に記載の蒸着法では、指向性の強い蒸着によって各層を順次積層している。そのため、EL装置のサイズの大型化や形状の複雑化の要請に対して、均一な膜厚の有機層や陰極の形成が困難となり、その生産性を著しく低下させる問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、サイズや形状の変更を容易にして生産性を向上したエレクトロルミネッセンス装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトロルミネッセンス装置(以下単に、「EL装置」という。)の製造方法は、管状に形成されて光を透過する第1電極と、前記第1電極の内側面に形成されたエレクトロルミネッセンス層(以下単に、「EL層」という。)と、前記エレクトロルミネッセンス層の内側面に形成された第2電極とを備えたエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、前記第1電極の内側にエレクトロルミネッセンス層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記エレクトロルミネッセンス層形成液の液状膜を乾燥して前記エレクトロルミネッセンス層を形成するようにした。
【0008】
本発明のEL装置の製造方法によれば、EL層形成液を第1電極の内側に導入・導出することによって、第1電極の内側面に沿うEL層形成液の液状膜を形成することができる。そして、EL層形成液の液状膜を乾燥することによって、第1電極の内側面に沿った、均一な膜厚のEL層を形成することができる。従って、第1電極(EL装置)のサイズや形状の変更を容易にすることができ、EL装置の生産性を向上することができる。
【0009】
このEL装置の製造方法において、前記EL層の内側に第2電極形成液を導入・導出し、前記EL層の前記内側面に形成した前記第2電極形成液の液状膜を乾燥して前記第2電極を形成するようにした。
【0010】
このEL装置の製造方法によれば、EL層の内側面に形成した第2電極形成液の液状膜を乾燥するため、EL層の内側面に沿った、均一な膜厚の第2電極を形成することができる。従って、第2電極の膜厚不良を回避することができ、EL装置の生産性を、さらに向上することができる。
【0011】
このEL装置の製造方法において、光を透過する管状部材の内側に第1電極形成液を導入・導出し、前記管状部材の前記内側面に形成した前記第1電極形成液の液状膜を乾燥して前記第1電極を形成するようにした。
【0012】
このEL装置の製造方法によれば、管状部材の内側面に形成した第1電極形成液の液状膜を乾燥するため、管状部材の内側面に沿った、均一な膜厚の第1電極を形成することができる。従って、第1電極の膜厚不良を回避することができ、EL装置の生産性を、さらに向上することができる。
【0013】
このEL装置の製造方法において、前記第1電極の外側に、前記EL層への外気の侵入を遮断する封止層を形成するようにした。
このEL装置の製造方法によれば、封止層が外気の侵入を遮断する分だけ、管状部材の内側面に形成した第1電極、EL層、第2電極の安定性を向上することができる。ひいては、EL装置の生産性を、さらに向上することができる。
【0014】
このEL装置の製造方法において、前記EL層形成液は、前記第1電極の前記内側面に対する後退接触角が45度以下である。
このEL装置の製造方法によれば、第1電極の前記内側面に対するEL層形成液の後退接触角が45度以下であるため、EL層形成液の液状膜を、より確実に形成することができる。
【0015】
このEL装置の製造方法において、前記EL層は、前記第1電極の前記内側面に形成された正孔輸送層と、前記正孔輸送層の内側面に形成された発光層とを備え、前記第1電極の内側に正孔輸送層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記正孔輸送層形成液の液状膜を乾燥して前記正孔輸送層を形成した後に、前記正孔輸送層の内側に発光層形成液を導入・導出し、前記正孔輸送層の前記内側面に形成した前記発光層形成液の液状膜を乾燥して前記発光層を形成するようにした。
【0016】
このEL装置の製造方法によれば、第1電極(EL装置)のサイズや形状の変更を容易にすることができ、第1電極の内側面に沿った均一な膜厚の正孔輸送層及び発光層を順次形成することができる。その結果、積層構造からなるEL層を有したEL装置の生産性を向上することができる。
【0017】
このEL装置の製造方法において、前記EL層は、前記第1電極の前記内側面に形成された発光層と、前記発光層の内側面に形成された正孔輸送層とを備え、前記第1電極の内側に発光層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記発光層形成液の液状膜を乾燥して前記発光層を形成した後に、前記発光層の内側に正孔輸送層形成液を導入・導出し、前記発光層の前記内側面に形成した前記正孔輸送層形成液の液状膜を乾燥して前記正孔輸送層を形成するようにした。
【0018】
このEL装置の製造方法によれば、第1電極(EL装置)のサイズや形状の変更を容易にすることができ、第1電極の内側面に沿った均一な膜厚の発光層及び正孔輸送層を順次形成することができる。その結果、積層構造からなるEL層を有したEL装置の生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。図1は、エレクトロルミネッセンス装置(以下単に、「EL装置」という。)を示す概略斜視図であって、図2は、図1のA−A線断面図である。
【0020】
図1に示すように、EL装置10は、管状部材としてのチューブ11を有している。チューブ11は、光透過性の絶縁材料からなる断面円形状のチューブであって、例えば各種ガラス材料等の無機材料、あるいはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート等の樹脂材料で形成されている。本実施形態のチューブ11は、内径が約5mm、長さが約200mmで形成されているが、これに限らず、その内周面11bに後述する各種液状膜を形成可能なサイズであればよい。
【0021】
チューブ11の外周面11aには、図1及び図2の2点鎖線で示すように、チューブ11の全体を覆う封止層12が形成されている。封止層12は、ガスバリヤ性を有した光透過性の無機あるいは有機高分子膜であって、チューブ11内への水分や酸素等の侵入を遮断するようになっている。
チューブ11の内側面(内周面11b)には、第1電極としての陽極層13が形成されている。陽極層13は、チューブ11の内周面11bの全体にわたって均一な膜厚で形成される光透過性の陽極である。陽極層13は、仕事関数の大きい導電性材料(陽極層形成材料:例えば、ITO(Indium−Tin−Oxide)、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の無機酸化物、あるいはポリチオフェンやポリピロール等の透明導電樹脂等)によって形成されている。そして、陽極層13は、EL装置10を駆動するための駆動電源を供給する電源装置Gの一端に電気的に接続されて、後述する正孔輸送層14に正孔を注入するようになっている。
陽極層13の内側面(内周面13a)には、エレクトロルミネッセンス層(以下単に、「EL層」という。)を構成する正孔輸送層14が形成されている。正孔輸送層14は、前記陽極層13の内周面13aの全体にわたって均一な膜厚で形成される有機層である。本実施形態の正孔輸送層14は、その膜厚が特に限定されないが、正孔輸送層14の厚さが薄すぎると、ピンホールが生じる虞があり、一方、正孔輸送層14が厚過ぎると、正孔輸送層14の透過率が劣化して、後述する発光層15の発光色の色度(色相)が変化してしまう虞がある。そのため、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。正孔輸送層14を構成する正孔輸送層材料は、共役系の有機化合物で形成されて、その電子雲の広がりによる性質上、陽極層13から注入された正孔を後述する発光層15まで輸送する機能を有する。
【0022】
本実施形態の正孔輸送層材料は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下単に、「PEDOT」という。)であるが、これに限らず、以下に示すような、各種低分子の正孔輸送層材料や各種高分子の正孔輸送層材料を利用することができ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて利用することもできる。
低分子の正孔輸送層材料としては、例えば、ベンジジン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチリルアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリン誘導体、カルバゾール誘導体、ポルフィリン化合物等を利用することができる。
【0023】
高分子の正孔輸送層材料としては、例えば、上記低分子構造を一部に含む(主鎖あるいは側鎖にする)高分子化合物、あるいはポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリチ
オフェン、α−ナフチルフェニルジアミン、「PEDOT」とポリスチレンスルホン酸との混合物(Baytron P、バイエル社商標)、トリフェニルアミンやエチレンジアミン等を分子核とした各種デンドリマー等を利用することができる。
【0024】
上記する低分子の正孔輸送材料を用いる場合、正孔輸送層材料の中には、必要に応じて、バインダー(高分子バインダー)を添加するようにしてもよい。バインダーとしては、電荷輸送を極度に阻害せず、かつ、可視光の吸収率が低いものを用いるのが好ましく、具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、このバインダーには、上記する高分子系の正孔輸送材料を用いてもよい。
正孔輸送層14の内側面(内周面14a)には、EL層を構成する発光層15が形成されている。発光層15は、前記正孔輸送層14の内周面14aの全体にわたって均一な膜厚で形成される有機層である。発光層15の膜厚は、特に限定されないが、10〜150nm程度であるのが好ましく、50〜100nm程度であるのがより好ましい。発光層15の厚さを前記範囲とすることにより、正孔と電子との再結合が効率よくなされ、発光層15の発光効率を、より向上させることができる。発光層15を構成する発光層材料は、前記陽極層13と後述する陰極層16との間の電圧印加時に、陽極層13側からの正孔と、後述する陰極層16側からの電子を注入することができものである。そして、発光層15は、正孔と電子が再結合するときに、放出するエネルギーによってエキシトン(励起子)を生成し、このエキシトンが基底状態に戻るエネルギー放出によって、蛍光や燐光を発する(発光する)ようになっている。
【0025】
本実施形態の発光層材料は、フルオレン−ジチオフェンコポリマー(以下単に、「F8T2」という。)であるが、これに限らず、以下に示すような、公知の各種低分子の発光層材料や、各種高分子の発光層材料を利用することができ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
低分子の発光層材料としては、例えば、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体物、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等の金属錯体等を利用することができる。
【0027】
高分子の発光層材料としては、例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリビニレンスチレン誘導体、及びそれらの共重合体、トリフェニルアミンやエチレンジアミン等を分子核とした各種デンドリマー等を利用することができる。
【0028】
発光層15の内側面(内周面15a)には、第2電極としての陰極層16が形成されている。陰極層16は、前記発光層15の内周面15aの全体にわたって均一な膜厚で形成される陰極である。陰極層16は、仕事関数の低い導電性材料(例えば、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb、Ag、Cu、Al、Cs、Rbの金属元素単体等)によって形成され、前記電源装置Gの他端に電気的に接続されて、発光層15に電子を注入するようになっている。
【0029】
尚、陰極層材料は、その安定性を向上させるために、これらを含む2成分、3成分の合
金系を用いてもよい。特に、合金を用いる場合には、Ag、Al、Cu等の安定な金属元素を含む合金、具体的には、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を用いるのが好ましい。こうした合金を用いることにより、陰極層16の電子注入効率及び安定性の向上を図ることができる。
【0030】
そして、電源装置Gを駆動して陽極層13と陰極層16との間に電圧を印加すると、陽極層13からの正孔が正孔輸送層14を介して発光層15に移動し、陰極層16からの電子が発光層15に移動し、発光層15において、正孔と電子とが再結合する。正孔と電子とが再結合すると、発光層15は、再結合に際して放出されたエネルギーによりエキシトン(励起子)を生成し、エキシトンの基底状態への遷移によって発光する。
【0031】
次に、上記するEL装置10の製造方法について、図3〜図6に従って説明する。
まず、図3に示すように、第1電極形成液としての陽極層形成液21をチューブ11内に矢印方向に導入する。本実施形態の陽極層形成液21は、上記する陽極層形成材料の「ITO」のナノ微粒子を有機系分散媒に分散させた液状体であって、後述する陽極層液状膜21Lを形成しやすくするために、好ましくは内周面11bに対する後退接触角θ1が45°以下となる液状体である。
【0032】
陽極層形成液21を導入すると、図3に示すように、導入した陽極層形成液21の一部をチューブ11から導出して、チューブ11の内周面11bの全体に、陽極層形成液21からなる陽極層液状膜21Lを形成する。この際、陽極層液状膜21Lの膜厚は、前記後退接触角θ1に支配されて、内周面11bの略全体にわたり均一な膜厚で形成されるようになる。
【0033】
陽極層液状膜21Lを形成すると、チューブ11を乾燥・焼成炉に搬入し、陽極層形成液21に対応した所定の乾燥温度及び焼成温度まで順次昇温して、陽極層液状膜21Lを乾燥・焼成する。これによって、チューブ11の内径や長さ、形状の変更に対応することができ、その内周面11bの全体に、均一な膜厚の陽極層13を形成することができる。
【0034】
尚、上記する陽極層形成液21の導入・導出及び乾燥・焼成によって形成した陽極層13の膜厚が、所定の膜厚に満たない場合には、再度上記する陽極層形成液21の導入・導出及び乾燥・焼成を繰り返して、陽極層13を厚膜化する構成にしてもよい。また、前記陽極層形成液21の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ1を低下させ、陽極層液状膜21Lを厚膜化する構成にしてもよい。反対に、上記する陽極層形成液21の導入・導出及び乾燥・焼成によって形成した陽極層13の膜厚が、所定の膜厚を超える場合には、陽極層形成液21を導出する際に、チューブ11内に加圧エアーを圧送し、陽極層形成液21の導出量を多くして、正孔輸送層液状膜22Lの膜厚を薄くする構成にしてもよい。また、前記陽極層形成液21の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ1を増加させ、陽極層液状膜21Lを薄膜化する構成にしてもよい。
【0035】
チューブ11に陽極層13を形成すると、正孔輸送層14を形成する正孔輸送層形成工程を行う。すなわち、図4に示すように、陽極層13を有したチューブ11内に、当該チューブ11内を満たすように、エレクトロルミネッセンス層形成液を構成する正孔輸送層形成液22を矢印方向に導入する。本実施形態の正孔輸送層形成液22は、上記する正孔輸送層材料の「PEDOT」を水系溶媒(例えば、水、メタノール等の低級アルコール、エトキシエタノール等のセロソルブ系溶媒等)に溶解させた液状体であって、後述する正孔輸送層液状膜22Lを形成しやすくするために、好ましくは内周面13aに対する後退接触角θ2が45°以下となる液状体である。尚、正孔輸送層形成液22は、これに限らず、上記する低分子系の正孔輸送層材料と、当該正孔輸送層材料に対応した有機系あるいは無機系の溶媒あるいは分散媒からなる液状体であってもよい。
【0036】
正孔輸送層形成液22を導入すると、図4に示すように、導入した正孔輸送層形成液22の一部をチューブ11から導出して、前記陽極層13の内周面13aの全体に、正孔輸送層形成液22からなる正孔輸送層液状膜22Lを形成する。この際、正孔輸送層液状膜22Lの膜厚は、前記後退接触角θ2に支配されて、内周面13aの略全体にわたり均一な膜厚で形成されるようになる。
【0037】
正孔輸送層液状膜22Lを形成すると、チューブ11を乾燥炉に搬入し、正孔輸送層形成液22に対応した所定の乾燥温度まで昇温して、正孔輸送層液状膜22Lを乾燥する。これによって、チューブ11の内径や長さ、形状の変更に対応することができ、陽極層13の内周面13aの全体に、均一な膜厚の正孔輸送層14を形成することができる。
【0038】
尚、上記する正孔輸送層形成液22の導入・導出及び乾燥によって形成した正孔輸送層14の膜厚が、所定の膜厚に満たない場合には、再度上記する正孔輸送層形成液22の導入・導出及び乾燥を繰り返して、正孔輸送層14を厚膜化する構成にしてもよい。また、前記正孔輸送層形成液22の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ2を低下させ、正孔輸送層液状膜22Lを厚膜化する構成にしてもよい。反対に、上記する正孔輸送層形成液22の導入・導出及び乾燥によって形成した正孔輸送層14の膜厚が、所定の膜厚を超える場合には、正孔輸送層形成液22を導出する際に、チューブ11内に加圧エアーを圧送し、正孔輸送層形成液22の導出量を多くして、正孔輸送層液状膜22Lの膜厚を薄くする構成にしてもよい。また、前記正孔輸送層形成液22の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ2を低下させ、正孔輸送層液状膜22Lを薄膜化する構成にしてもよい。
【0039】
チューブ11に正孔輸送層14を形成すると、発光層15を形成する発光層形成工程を行う。すなわち、図5に示すように、正孔輸送層14を有したチューブ11内に、当該チューブ11内を満たすように、発光層形成液23を矢印方向に導入する。本実施形態の発光層形成液23は、上記する発光層材料の「F8T2」を無極性有機溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロへキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等)に溶解させた液状体であって、後述する発光層液状膜23Lを形成しやすくするために、好ましくは内周面14aに対する後退接触角θ3が45°以下となる液状体である。尚、発光層形成液23は、これに限らず、上記する低分子系の発光層材料と、当該発光層材料に対応した有機系あるいは無機系の溶媒あるいは分散媒からなる液状体であってもよい。
【0040】
発光層形成液23を導入すると、図5に示すように、導入した発光層形成液23の一部をチューブ11から導出して、前記正孔輸送層14の内周面14aの全体に、発光層形成液23からなる発光層液状膜23Lを形成する。この際、発光層液状膜23Lの膜厚は、前記後退接触角θ3に支配されて、内周面14aの略全体にわたり均一な膜厚で形成されるようになる。
【0041】
発光層液状膜23Lを形成すると、チューブ11を乾燥炉に搬入し、発光層形成液23に対応した所定の乾燥温度まで昇温して、発光層液状膜23Lを乾燥する。これによって、チューブ11の内径や長さ、形状の変更に対応することができ、正孔輸送層14の内周面14aの全体に、均一な膜厚の発光層15を形成することができる。
【0042】
尚、上記する発光層形成液23の導入・導出及び乾燥によって形成した発光層15の膜厚が、所定の膜厚に満たない場合には、再度上記する発光層形成液23の導入・導出及び乾燥を繰り返して、発光層15を厚膜化する構成にしてもよい。また、前記発光層形成液23の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ3を低下させ、発光層液状膜23
Lを厚膜化する構成にしてもよい。反対に、上記する発光層形成液23の導入・導出及び乾燥によって形成した発光層15の膜厚が、所定の膜厚を超える場合には、発光層形成液23を導出する際に、チューブ11内に加圧エアーを圧送し、発光層形成液23の導出量を多くして、発光層液状膜23Lの膜厚を薄くする構成にしてもよい。また、前記発光層形成液23の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ3を増加させ、発光層液状膜23Lを薄膜化する構成にしてもよい。
【0043】
チューブ11に発光層15を形成すると、図6に示すように、発光層15を有したチューブ11内に、当該チューブ11内を満たすように、第2電極形成液としての陰極層形成液24を矢印方向に導入する。本実施形態の陰極層形成液24は、上記する陰極層材料の銀のナノ微粒子を有機系分散媒に分散させた液状体であって、後述する陰極層液状膜24Lを形成しやすくするために、好ましくは内周面15aに対する後退接触角θ4が45°以下となる液状体である。
【0044】
陰極層形成液24を導入すると、図6に示すように、導入した陰極層形成液24の一部をチューブ11から導出して、前記発光層15の内周面15aの全体に、陰極層形成液24からなる陰極層液状膜24Lを形成する。この際、陰極層液状膜24Lの膜厚は、前記後退接触角θ4に支配されて、内周面15aの略全体にわたり均一な膜厚で形成されるようになる。
【0045】
陰極層液状膜24Lを形成すると、チューブ11を乾燥炉に搬入し、陰極層形成液24に対応した所定の乾燥温度まで昇温して、陰極層液状膜24Lを乾燥する。これによって、チューブ11の内径や長さ、形状の変更に対応することができ、発光層15の内周面15aの全体に、均一な膜厚の陰極層16を形成することができる。
【0046】
尚、上記する陰極層形成液24の導入・導出及び乾燥によって形成した陰極層16の膜厚が、所定の膜厚に満たない場合には、再度上記する陰極層形成液24の導入・導出及び乾燥を繰り返して、陰極層16を厚膜化する構成にしてもよい。また、前記陰極層形成液24の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ4を低下させ、陰極層液状膜24Lを厚膜化する構成にしてもよい。反対に、上記する陰極層形成液24の導入・導出及び乾燥によって形成した陰極層16の膜厚が、所定の膜厚を超える場合には、陰極層形成液24を導出する際に、チューブ11内に加圧エアーを圧送し、陰極層形成液24の導出量を多くして、陰極層液状膜24Lの膜厚を薄くする構成にしてもよい。また、前記陰極層形成液24の溶媒あるいは分散媒を変更して前記後退接触角θ4を低下させ、陰極層液状膜24Lを薄膜化する構成にしてもよい。
【0047】
チューブ11に陰極層16を形成すると、チューブ11の全体にガスバリヤ性を有した高分子膜からなる封止層12を塗布形成する。尚、この際、前記陽極層13及び前記陰極層16の一部にマスクを施し、前記陽極層13及び前記陰極層16に、それぞれ電源装置Gと接続するための図示しない接続領域を形成する。
【0048】
これによって、チューブ11の内周面11bの全体に、チューブ11の内径や長さ、形状の変更に対応した均一な膜厚の、陽極層13、正孔輸送層14、発光層15、陰極層16を形成することができる。
【0049】
次に、上記のように構成した本実施形態の効果を以下に記載する。
(1)上記実施形態によれば、陽極層13を有したチューブ11内に、正孔輸送層材料を含む正孔輸送層形成液22を導入・導出し、内周面11b上の陽極層13の内周面13aの全体に、均一な膜厚の正孔輸送層液状膜22Lを形成するようにした。そして、正孔輸送層液状膜22Lを乾燥して、陽極層13の内周面13aの全体に、正孔輸送層14を
形成するようにした。また、正孔輸送層14を有したチューブ11内に、発光層材料を含む発光層形成液23を導入・導出し、正孔輸送層14の内周面14aの全体に、均一な膜厚の発光層液状膜23Lを形成するようにした。そして、発光層液状膜23Lを乾燥して、正孔輸送層14の内周面14aの全体に、均一な膜厚の発光層15を形成するようにした。
【0050】
その結果、正孔輸送層形成液22及び発光層形成液23の導入・導出によって、チューブ11の径や長さに即した均一な膜厚の正孔輸送層14及び発光層15を形成することができる。ひいては、正孔輸送層14及び発光層15をチューブ11のサイズや形状の変更に対応させることができ、EL装置10の生産性を向上することができる。
【0051】
(2)上記実施形態によれば、陽極層形成液21及び陰極層形成液24の導入・導出によって、それぞれ陽極層液状膜21L及び陰極層液状膜24Lを形成し、これら陽極層液状膜21L及び陰極層液状膜24Lの乾燥あるいは乾燥・焼成によって、陽極層13及び陰極層16を形成するようにした。
【0052】
その結果、陽極層形成液21及び陰極層形成液24の導入・導出によって、チューブ11の径や長さに即した均一な膜厚の陽極層13及び陰極層16を形成することができ、ひいてはチューブ11のサイズや形状の変更に対応することができ、EL装置10の生産性を向上することができる。
(3)上記実施形態によれは、チューブ11の外周面11aに封止層12を形成するようにした。その結果、正孔輸送層14及び発光層15への水や酸素等の浸入を回避することができ、これら正孔輸送層14及び発光層15の経時的な劣化を抑制することができる。
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、チューブ11の断面及び外形を、それぞれ断面が円形状であって、外形が棒状に具体化した。これに限らず、断面が楕円形状や矩形状であってもよく、外形が螺旋形に曲折した形状であってもよい。つまり、チューブ11は、その内側に正孔輸送層形成液22や発光層形成液23等の各種液状体を導入可能なチューブであればよい。
・上記実施形態では、チューブ11を光透過性の絶縁材料によって構成したが、これに限らず、チューブ11を、光透過性の導電性材料、すなわち陽極層形成材料によって構成してもよい。これによれば、チューブ11の内周面11bに、別途陽極層13を形成する必要がなく、陽極層13の形成工程を省略することができ、EL装置10の生産性を向上することができる。
・上記実施形態では、ITOのナノ微粒子からなる陽極層形成液21によって、陽極層13を形成する構成にしたが、これに限らず、例えばnブチルカルビトールを溶媒にした硝酸インジウムと無水第2塩化錫の混合液を導入・導出して、ITOからなる陽極層13形成してもよく、酸化スズ、酸化インジウム等のペーストを内周面11bに塗布・乾燥して酸化スズあるいは酸化インジウムからなる陽極層13を形成してもよい。
・上記実施形態では、チューブ11の内周面11b上に光透過性の陽極層13を形成して、順次、正孔輸送層14、発光層15及び陰極層16を形成する構成にした。これに限らず、チューブ11の内周面11b上に光透過性の陰極層16を形成して、順次発光層15、正孔輸送層14及び陽極層13を形成する構成にしてもよい。この際、陽極層13は、金、プラチナ、パラジウム、ニッケル等の金属や、シリコン、ガリウムリン、アモルファス炭化シリコン等の仕事関数の値が大きい半導体を用いてもよい。あるいは、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いてもよく、さらには、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂材料を用いてもよい。
・上記実施形態では、チューブ11内に、それぞれ陽極層形成液21及び陰極層形成液24を導入・導出し、陽極層13及び陰極層16を形成する構成にした。これに限らず、例えばチューブ11内に、陽極層形成材料及び陰極層形成材料の気体を導入して、それぞれ
陽極層13及び陰極層16を蒸着形成する構成にしてもよく、内周面11b,15aの略全体に陽極層13及び陰極層16を形成可能な方法であればよい。
・上記実施形態では、発光層材料を有機系高分子あるいは有機系低分子によって構成した。これに限らず、例えば発光層材料を、ZnS/CuCl、ZnS/CuBr、ZnCdS/CuBr等の無機分子で構成してもよい。この際、当該発光層材料を有機バインダーに分散させて発光層形成液23を形成する構成が好ましい。尚、有機バインダーには、シアノエチルセルロース、シアノエチルスターチ、シアノエチルプルラン等の多糖類のシアノエチル化物、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルグリセロールプルラン等の多糖類誘導体のシアノエチル化物、シアノエチルポリビニルアルコール等のポリオール類のシアノエチル化物等が挙げられる。
・上記実施形態では、チューブ11の内周面11bに、発光層15を一層のみ形成する構成にした。これに限らず、例えば陽極層13と陰極層16との間に、発光層15と電荷発生層からなるユニットを複数積層した、いわゆるマルチフォトン構造であってもよい。
・上記実施形態では、陽極層13の内周面13aに正孔輸送層14を形成する構成にした。これに限らず、例えば正孔輸送層14を省略する構成してもよく、あるいは陽極層13と正孔輸送層14との間に、発光層15への正孔の注入効率を高めるための正孔注入層を形成する構成にしてもよい。
・上記実施形態では、正孔輸送層14の内周面14aに発光層15を形成する構成にした。これに限らず、例えば正孔輸送層14と発光層15との間に、電子の移動を抑制する電子障壁層を形成する構成にしてもよい。
・上記実施形態では、発光層15の内周面15aに、陰極層16を形成する構成にした。これに限らず、例えば発光層15と陰極層16との間に、陰極層16から注入された電子を発光層15まで輸送する電子輸送層を形成する構成にしてもよい。あるいは、発光層15と電子輸送層との間に、正孔の移動を抑制する正孔障壁層を形成する構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を具体化したエレクトロルミネッセンス装置を示す概略斜視図。
【図2】同じく、エレクトロルミネッセンス装置を示す概略断面図。
【図3】同じく、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を説明する説明図。
【図4】同じく、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を説明する説明図。
【図5】同じく、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を説明する説明図。
【図6】同じく、エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を説明する説明図。
【符号の説明】
【0054】
10…エレクトロルミネッセンス装置、11…管状部材としてのチューブ、12…封止層、13…第1電極としての陽極層、14…エレクトロルミネッセンス層を構成する正孔輸送層、15…エレクトロルミネッセンス層を構成する発光層、16…第2電極としての陰極層、21…第1電極形成液としての陽極層形成液、22…エレクトロルミネッセンス層形成液を構成する正孔輸送層形成液、23…発光層形成液、24…第2電極形成液としての陰極層形成液、θ1,θ2,θ3,θ4…後退接触角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に形成されて光を透過する第1電極と、前記第1電極の内側面に形成されたエレクトロルミネッセンス層と、前記エレクトロルミネッセンス層の内側面に形成された第2電極とを備えたエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記第1電極の内側にエレクトロルミネッセンス層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記エレクトロルミネッセンス層形成液の液状膜を乾燥して前記エレクトロルミネッセンス層を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記エレクトロルミネッセンス層の内側に第2電極形成液を導入・導出し、前記エレクトロルミネッセンス層の前記内側面に形成した前記第2電極形成液の液状膜を乾燥して前記第2電極を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
光を透過する管状部材の内側に第1電極形成液を導入・導出し、前記管状部材の前記内側面に形成した前記第1電極形成液の液状膜を乾燥して前記第1電極を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記第1電極の外側に、前記エレクトロルミネッセンス層への外気の侵入を遮断する封止層を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記エレクトロルミネッセンス層形成液は、前記第1電極の前記内側面に対する後退接触角が45度以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記エレクトロルミネッセンス層は、前記第1電極の前記内側面に形成された正孔輸送層と、前記正孔輸送層の内側面に形成された発光層とを備え、
前記第1電極の内側に正孔輸送層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記正孔輸送層形成液の液状膜を乾燥して前記正孔輸送層を形成した後に、前記正孔輸送層の内側に発光層形成液を導入・導出し、前記正孔輸送層の前記内側面に形成した前記発光層形成液の液状膜を乾燥して前記発光層を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のエレクトロルミネッセンス装置の製造方法において、
前記エレクトロルミネッセンス層は、前記第1電極の前記内側面に形成された発光層と、前記発光層の内側面に形成された正孔輸送層とを備え、
前記第1電極の内側に発光層形成液を導入・導出し、前記第1電極の前記内側面に形成した前記発光層形成液の液状膜を乾燥して前記発光層を形成した後に、前記発光層の内側に正孔輸送層形成液を導入・導出し、前記発光層の前記内側面に形成した前記正孔輸送層形成液の液状膜を乾燥して前記正孔輸送層を形成するようにしたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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