説明

エレベータのドアレール清掃給油装置

【課題】エレベータのドアレール清掃給油装置において、エレベータのドアレールの清掃給油を長期間安定して行い、メンテナンスに要する時間を削減する。
【解決手段】エレベータのドアの開閉に連動して油を含む清掃給油部材11をドアレール3に沿って摺動させるドアレール清掃給油装置1であって、上記清掃給油部材の摺動方向の寸法を、該清掃給油部材の主部11mよりも上記ドアレールに対する摺動部を小さくすることにより、上記ドアレールに対する上記清掃給油部材からの油の供給量を抑制するようにしてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータのドア開閉時に自動的にドアレールを清掃給油するドアレール清掃給油装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータのドアはドアレールにローラを介して吊り下げられた構造となっている。ドアレールの油切れや異物付着によりローラ転動時に異音が発生することがある。このため、ドア開閉の際に自動的にドアレールの摺動面を清掃給油するドアレール清掃給油装置が用いられている。清掃給油部材は、従来からフェルトに油を含浸させたものが用いられているが、適切な性能を維持させるためには定期的な注油・取付け状態の確認調整等の手入れが必要であり、保守作業の負荷が増大する。また、フェルトは取付け後の初期段階で含浸された油が多く流出する傾向があるため、過剰な油がレールに付着し汚れとなり、その清掃の手間が増えると共に、早期に油切れになり易いという課題もあった。
従来の技術として、全閉時にドアレール清掃給油部材が接触するレール部に窪みをつけ、ドアの移動時には清掃給油部材が収縮してドアレールを押し付けながら移動し、ドアの全閉時には清掃給油部材のドアレールへの押付け力が緩和されることで、清掃給油部材の変形が定着し弾性を失うことを回避し、給油清掃部材の交換等のメンテナンス頻度を削減したものがある(例えば特許文献1参照)。また、従来の清掃装置に比べて、清掃体の交換・調整が容易になる構成のものが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−208818号公報(第1頁、図3)
【特許文献2】特開2006−335496号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の特許文献1のような技術においては、清掃給油部材の変形を抑止する効果はあるが、清掃給油部材からドアレール面へ塗布される油量に関しては制限できないため、清掃給油部材への注油頻度は従来のものと変わらず必要であるという課題があった。また、ドアレール形状の変更であるため、既設のエレベータへの適用は困難である。
また、特許文献2のような技術においては、従来の清掃給油装置に比べて、清掃給油部材の交換・調整が容易になるものの、特許文献1と同様に注油頻度はこれまでのものと変わらず必要であるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、エレベータのドアレールの清掃給油を長期間安定して行い、メンテナンスに要する時間を削減することができるエレベータのドアレール清掃給油装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエレベータのドアレール清掃給油装置は、エレベータのドアの開閉に連動して油を含む清掃給油部材をドアレールに沿って摺動させるドアレール清掃給油装置であって、上記清掃給油部材の摺動方向の寸法を、該清掃給油部材の主部よりも上記ドアレールに対する摺動部を小さくすることにより、上記ドアレールに対する上記清掃給油部材からの油の供給量を抑制するようにしてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、清掃給油部材の摺動方向の寸法を、該清掃給油部材の主部よりもドアレールに対する摺動部を小さくすることで、戸開閉時の給油量を抑制できる。これにより、過剰給油の抑止と長期間の持続的給油が可能となり、注油及びドアレールの清掃作業の頻度が削減でき、保守作業の負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1によるエレベータのドアレール清掃給油装置を取り付けたドア吊り装置の要部を概念的に示す斜視図である。
【図2】図1に示された清掃給油部材のドアレールとの接触状態を説明する要部斜視図である。
【図3】清掃給油部材が従来の場合に相当する比較例としての直方体形状の清掃給油部材とドアレールとの接触状態を示す参考図である。
【図4】清掃給油部材の押し込み量と接触面積の関係を、図2に示す実施の形態1と図3に示す比較例を対比させて示す図である。
【図5】戸開閉数と清掃給油部材に残存する油質量の関係を、図2に示す実施の形態1と図3に示す比較例を対比させて示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2によるドアレール清掃給油装置を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態3によるドアレール清掃給油装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるエレベータのドアレール清掃給油装置を取り付けたドア吊り装置の要部を概念的に示す斜視図、図2は、図1に示された清掃給油部材のドアレールとの接触状態を説明する要部斜視図である。図において、清掃給油装置1は潤滑油が含浸された弾性を有する例えばフェルトや多孔性ゴム材などからなる清掃給油部材11と、この清掃給油部材11を保持してハンガープレート2に固定する保持部材12から構成されている。なお、ハンガープレート2は、図示省略しているエレベータの乗降口上部に設置されたドアレール3に対して、該ドアレール3上を転動するローラ4を介して係合され、エレベータの開閉動作によって図の下方部に吊下されている扉(図示省略)と一体にドアレール3に沿って往復移動される。保持部材12は、固定ねじ5によってハンガープレート2に固定されている。
【0010】
上記清掃給油部材11は、主部11mが凡そ直方体状で、ドアレール3に対向する面に、頂部がドアレール3の長手方向に交差する方向となるように突出された断面三角形状の突出部11aを有してなり、ドアレール3との摺動部先端形状を断面三角形状にすることで、ドアレール3に対する摺動部の摺動方向の寸法が、主部11mにおける同方向の寸法、即ちこの例では図2に示す厚みDよりも小さく、ドアレール3に対する接触面積が小さくなるように形成されている。上記のように、ドアレール3との摺動部を断面三角形状の突出部11aとした清掃給油部材11の場合、図2のように清掃給油部材11の幅をW、厚みをD、摺動部先端角をθ、摺動時の押し込み量をt、ドアレール3の曲面部半径をRとした場合、凡その接触面積Sは下記の式1で示すことができる。
【0011】
S≒2×R×arccos((R−t)/R)×(2×t×tan(θ/2)) …(1)
但し、W>2Rの場合。
【0012】
図3は、清掃給油部材が従来の場合に相当する、比較例としてのドアレールとの摺動部を含む全体が直方体形状の清掃給油部材11Aとドアレールとの接触状態を示す参考図である。図3中に示すように、清掃給油部材11の幅をW、厚みをD、ドアレール3に対する摺動時の押し込み量をt、ドアレール3の曲面部半径をRとした場合、清掃給油部材11のドアレール3に対する接触面積Sは下記の式(2)で示すことができる。
【0013】
S=2×R×arccos((R−t)/R)×D …(2)
但し、W>2Rの場合。
【0014】
ここで、R=10(mm)、W=5(mm)、θ=2.09(rad)=120度、
としたときの、押し込み量tと接触面積Sとの関係を図4に示す。
図4から明らかなように、◆状のドットで示す従来の直方体形状の清掃給油部材11Aに比べて、実施の形態1に係る□状のドットで示す先端角120度の断面三角形状の突出部11aを有する清掃給油部材11は、ドアレール3に対する接触面積を著しく小さくできる。
【0015】
図5は、図2に示す実施の形態1の清掃給油部材11と図3に示す比較例の清掃給油部材11Aを取り付けて実施した戸開閉試験の結果より得られた、戸開閉数と清掃給油部材に残存する油質量の関係を示す図である。図5から明らかなように、従来の直方体形状の清掃給油部材11Aが早期に油を放出してしまうのに対し、実施の形態1に係る先端角120度の断面三角形状の突出部11aを有する清掃給油部材11は長期間継続して給油ができることがわかる。
【0016】
次に、ドアレール3に塗布される油の質量について概略計算を示す。油密度0.88g/cm、ローラ4が戸開閉時に走行するドアレール3の面積を長さ800mm×幅5mm、油膜厚さを0.01mmとした場合、ドアレール3に付着する油の質量は約0.035gとなる。ドアレール3に塗布された油はローラ4の転動により押し流され、接触面に残る油量はこの計算値のように極少量である。薄く付着した油は簡単には取れないため、追加で持続的に塗布する油量は、図5に示す実施の形態1に対応する量で十分である。過剰に塗布された油は、ローラ4の転動により押し流され、ドアレール3の淵部分に溜まり汚れとなり、むしろ清掃の手間が増大する要因となる。
【0017】
また、この実施の形態1では、清掃給油部材11を保持し、ハンガープレート2に固定する保持部材12は、固定ねじ5による固定部12aが切欠き穴に形成されていることで、固定ねじ5を完全に外さずに清掃給油装置1を着脱できるのでメンテナンスの作業が軽減できる。
【0018】
上記のように実施の形態1によれば、清掃給油部材11のドアレール3との対向面を、頂部が該ドアレール3の長手方向に交差する方向となるように突出された断面三角形状の突出部11aとして、ドアレール3に対する摺動部の摺動方向の寸法を、主部11mにおける同方向の寸法よりも小さくすることで、ドアレール3に対する清掃給油部材11の接触面積を小さくしたので、戸開閉時の清掃給油部材11からの給油量を抑制できる。これにより、過剰給油の抑止と長期間の持続的給油が可能となり、注油及びドアレール3の清掃作業の頻度を削減でき、保守作業の負荷を低減できる。
【0019】
また、持続的給油により、清掃給油部材11の磨耗も抑制できるので、適正な接触状態を維持することが可能であり、取付け状態の手直しや交換に掛かる手間も削減できる。また、清掃給油部材11を保持する保持部材12の固定部12aを切欠き穴に形成したことで、固定ねじ5を完全に外さずに保持部材12を着脱できることから、交換時作業が容易になると共に、固定ねじ5を昇降路内に落とすといったリスクを大幅に低減できる。また、清掃給油装置1のみの変更であるため、既設のエレベータにも低コストで適用できるといった利点もある。
【0020】
実施の形態2.
図6は本発明の実施の形態2によるドアレール清掃給油装置を示す斜視図である。図において、清掃給油部材11Bはドアレールとの対向面が、断面凸字形状の突出部11bからなっている。突出部11bは、実施の形態1と同様に突出端からなる頂部がドアレール3(図1)に交差する方向に設置される。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0021】
上記のように構成された実施の形態2によれば、実施の形態1のように摺動部先端形状を断面三角形状の突出部11aにした場合よりも、接触面積を大きくすることができる。このため、油切れが起こり易いような場所においては、図6のような構成のものを用いることで、必要な一定の給油量を安定的に確保することができる。
【0022】
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3によるドアレール清掃給油装置を示す斜視図である。図において、清掃給油部材11Cは、ドアレールとの対向面の一部に、油の通過を阻止するコーティング(図の斜線部)からなる膜13が設けられている。この例では、対向面の中央部に油が滲み出る帯状の滲出部11cが形成され、膜13はその滲出部11cの両側部をカバーするように設けられている。これにより、清掃給油部材11Cの摺動方向の寸法は、主部11mの厚みよりもドアレールに対する摺動部である滲出部11cの有効寸法が小さくなるように形成されている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0023】
上記のように構成された実施の形態3においては、清掃給油部材11Cの外観形状は従来と同様のままで、ドアレールとの接触面の一部(図の斜線部)に油を通さないコーティングされた膜13を付着させることで、有効寸法が主部11mよりも小さく形成され、給油量を抑制できる。
このような構成によれば、清掃給油部材11Cがドアレール上面を摺動する際、清掃給油部材11Cの側面及び膜13の面で汚れを拭き取るため、清掃給油部材11Cの油塗布面である滲出部11cに汚れが付着し難くなる。塵埃が多い環境では、このような構成とすることで、適正な給油量を維持することが可能となる。
【0024】
なお、上記実施の形態1〜3では、清掃給油部材の突出部として、断面三角形状の突出部11a、断面凸字形状の突出部11bについて例示したが、これらに限定されるものではなく、例えば三角形状の突出部の先端部、凸字形状の突出部の先端部をそれぞれ円弧状の滑らかな曲線とし、あるいは三角形の頂部をカットした富士山型状にするなど、適宜変形や変更しても同様の効果が期待できる。また、膜13がコーティングからなる場合について例示したが、例えば油を透過させないフィルムやシートなどで構成しても良い。さらに、ドアレール3の上面が断面半円状に形成されている場合について説明したが、ドアレール3の上面形状などは特に限定されるものではない。その他、例えば保持部材12やその固定部12aの構成や形状なども適宜変更できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0025】
1 清掃給油装置、 11、11B、11C 清掃給油部材、 11a 突出部(断面三角形状)、 11b 突出部(断面凸字形状)、 11c 滲出部、 11m 主部、 12 保持部材、 12a 固定部、 13 膜、 2 ハンガープレート、 3 ドアレール、 4 ローラ、 5 固定ねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアの開閉に連動して油を含む清掃給油部材をドアレールに沿って摺動させるドアレール清掃給油装置であって、上記清掃給油部材の摺動方向の寸法を、該清掃給油部材の主部よりも上記ドアレールに対する摺動部を小さくすることにより、上記ドアレールに対する上記清掃給油部材からの油の供給量を抑制するようにしてなることを特徴とするエレベータのドアレール清掃給油装置。
【請求項2】
上記摺動部を形成する上記清掃給油部材の上記ドアレールとの対向面は、頂部が該ドアレールの長手方向に交差する方向となるように突出された断面三角形状の突出部からなることを特徴とする請求項1記載のエレベータのドアレール清掃給油装置。
【請求項3】
上記摺動部を形成する上記清掃給油部材の上記ドアレールとの対向面は、頂部が該ドアレールの長手方向に交差する方向となるように突出された断面凸字形状の突出部からなることを特徴とする請求項1記載のエレベータのドアレール清掃給油装置。
【請求項4】
上記摺動部を形成する上記清掃給油部材の上記ドアレールとの対向面の一部に、上記油の通過を阻止する膜を設けることにより上記油の供給量を抑制するようにしてなることを特徴とする請求項1記載のエレベータのドアレール清掃給油装置。
【請求項5】
上記清掃給油部材を保持する保持部材におけるドアハンガーに対する固定ねじによる固定部は、切欠き穴でなることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載のエレベータのドアレール清掃給油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−193023(P2012−193023A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58808(P2011−58808)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】