説明

エレベータの制御装置

【課題】計測の結果、乗り心地の悪化を検出した場合においても、乗り心地の悪化を防止することが可能なエレベータの制御装置の提供。
【解決手段】本発明は、乗りかご1の荷重を検出する荷重検出装置7と、この荷重検出装置7にて検出された荷重に基づいて起動時の制御定数を設定する起動時制御定数設定手段と、この起動時制御定数設定手段へ零点変更を指示する零点変更手段16と、この零点変更の前後における乗り心地を比較する負荷比較手段15と、零点変更の前後における乗り心地の差が所定の範囲よりも大きい場合に、零点変更前の制御定数を零点変更手段16へ指示する無負荷時特性値記録手段17とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの乗りかごに掛かる荷重に基づいて調整不良を検出して適切な制御を行い、乗り心地の悪化を防止するためのエレベータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータは、エレベータを起動させて乗りかごを走行させる際に、この乗りかごや釣合い錘の質量によって乗りかごが急に飛び出したりせず、滑らかに走行するように制御している。この制御においては、走行時の乗りかご内の負荷の検出が必要であるため、この乗りかごには、乗りかご内の負荷を検出するための荷重検出装置が取り付けられている。
【0003】
ところが、一般に、この種の荷重検出装置は、周囲の温度や取り付け状態の変化、装置自体の故障等によって誤検出を行うおそれがある。そして、誤検出した場合においては、出発時に乗りかごが進行方向の逆方向に移動したり、急に飛び出すように移動したりし、乗り心地が悪化してしまう可能性がある。そこで、エレベータの乗りかごを走行させる際に、飛び出しなどの乗り心地が悪い走行を検出した場合に、この乗りかご内の負荷検出値を簡易的に修正して、乗り心地の悪化を防止する措置がなされている。
【0004】
また、走行時の乗りかご内の負荷検出値自体の精度を向上させる目的から、従来技術として、下記特許文献1に示されているものがある。この従来技術は、エレベータの下部に取り付けられた荷重センサを用い、このエレベータの乗りかごの待機状態での負荷検出を行い、この負荷検出値と、予め記録させた無負荷時の負荷検出値との差分に基づいて負荷検出値の補正を行うようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1に示される従来技術では、周囲の気温の変化や、防振ゴムの劣化等の経年的な要因によって、荷重センサにて検出する負荷検出値と、乗りかごの実際の負荷値との間に差が生じてしまうおそれがある。特に、この差は、荷重センサの故障や断線等の場合においては、補正しても負荷検出値を改善することができないため、エレベータの乗り心地の悪化に繋がるおそれがあるという問題がある。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、計測の結果、乗り心地の悪化を検出した場合においても、乗り心地の悪化を防止することが可能なエレベータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータの制御装置は、エレベータの乗りかごの荷重を検出する荷重検出装置と、この荷重検出装置にて検出された荷重に基づいて、前記エレベータを起動させる際の制御定数を設定する起動時制御定数設定手段と、この起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数を補正する補正手段と、この補正手段による補正の前後における前記乗りかごの乗り心地を計測する乗り心地計測手段と、この乗り心地計測手段にて計測された補正の前後における乗り心地を比較する乗り心地比較手段と、この乗り心地比較手段での比較により、前記補正の前後における乗り心地の差が所定の範囲よりも大きい場合に、前記補正前の制御定数を前記補正手段へ指示する補正指示手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、エレベータを起動させる際の制御定数が補正手段にて補正される前後の乗りかごの乗り心地を比較した結果、この補正の前後における乗り心地の差が所定の範囲よりも大きい場合に、補正前の制御定数を補正手段へ指示する。この結果、乗り心地の悪化に繋がる制御定数の補正を防止することができる。したがって、乗り心地の悪化が検出された場合においても、乗り心地の悪化を防止することができる。
【0010】
また本発明は、請求項1記載のエレベータの制御装置において、前記乗りかごの無負荷状態を検出するたびに前記荷重検出装置にて検出された荷重値を記録する負荷記録手段を備え、前記乗り心地比較手段は、前記負荷記録手段に記録された最新の荷重値と、この最新の荷重値が記録される直前に記録された荷重値とを比較する負荷比較手段であり、前記補正指示手段は、前記負荷比較手段での比較により、前記最新の荷重値と前記直前の荷重値との差が所定の範囲外の場合に、前記最新の荷重値に基づく制御定数を前記補正手段へ指示することを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明は、乗りかごの無負荷状態を検出するたびに、荷重検出装置にて検出された荷重値が負荷記録手段に記録されていく。そして、この負荷記録手段に記録された最新の荷重値と、この最新の荷重値が記録される直前に負荷記録手段に記録された荷重値とを負荷比較手段にて比較した結果、最新の荷重値と直前の荷重値との差が所定の範囲外の場合に、補正指示手段が最新の荷重値に基づく制御定数を補正手段へ指示する。この結果、最新の荷重値が大きくなり過ぎた場合に生じ得る乗りかごの乗り心地の悪化を防止することができる。
【0012】
また本発明は、請求項1又は2記載のエレベータの制御装置において、前記荷重検出装置にて前記乗りかごの無負荷状態が検出された場合に、エレベータを走行させる診断運転実施手段と、この診断運転実施手段にて前記エレベータを走行させた際に、前記乗りかごの起動時の衝撃を検出する走行状態診断手段と、を備え、前記補正指示手段は、前記補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示された後、前記走行状態診断手段による診断の結果、前記乗りかごの起動時の衝撃が、前記補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に比べ所定の値を超えた場合に、この補正手段への指示を、前記新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に前記負荷記録手段に記録されていた荷重値に基づく制御定数に戻すことを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明は、補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示された後、走行状態診断手段による診断を行う。そして、この診断の結果、乗りかごの起動時の衝撃が、補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に比べ所定の値を超えた場合に、この補正手段への指示を、新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に負荷記録手段に記録されていた荷重値に基づく制御定数に戻す。この結果、補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示された後においても、乗りかごの起動時の衝撃の悪化を防止することができる。
【0014】
また本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のエレベータの制御装置において、前記補正手段は、前記起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数を補正することにより、前記荷重検出装置にて検出される荷重値と、前記乗りかごの無負荷時の実際の荷重値との差を補正する零点変更手段であることを特徴としている。
【0015】
このように構成した本発明は、起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数の補正により、荷重検出装置にて検出される荷重値と、乗りかごの無負荷時の実際の荷重値との差を零点変更手段で補正できる。この結果、この荷重検出装置にて検出される乗りかごの荷重値の誤差に基づく、起動時の衝撃等の乗りかごの乗り心地の悪化を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、エレベータを起動させる際の制御定数が補正手段にて補正される前後における乗りかごの乗り心地を計測し、この計測した補正の前後における乗り心地の差が所定の範囲よりも大きい場合に、補正前の制御定数を補正手段へ指示する。この結果、乗り心地の悪化に繋がる補正手段による制御定数の補正を防止することができる。このように本発明は、計測の結果、乗り心地の悪化が検出された場合においても、乗り心地の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るエレベータの制御装置の一実施形態が備えられるエレベータの概要を示す図である。
【図2】本実施形態の荷重検出装置の特性を示すグラフである。
【図3】本実施形態が備えられるエレベータの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るエレベータの制御装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るエレベータの制御装置の一実施形態が備えられるエレベータの概要を示す図である。
【0020】
この図1に示すエレベータは、乗客を乗せるための乗りかご1を備えている。この乗りかご1には、この乗りかご1の昇降時の負荷を軽減させるための釣合い錘2と、この乗りかご1を昇降させるための巻上機(トラクションマシン)3とが取り付けられている。そして、この巻上機3の釣合い錘2側には、乗りかご1と釣合い錘2との接触を防止するためのそらせ車4が取り付けられている。また、乗りかご1と釣合い錘2とは、主ロープ(メインロープ)5にて繋がれており、この主ロープ5は、巻上機3およびそらせ車4に巻回されて取り付けられている。
【0021】
さらに、巻上機3には、この巻上機3の回転数等に基づいて乗りかご1の走行速度を検出する速度検出装置6が取り付けられている。また、乗りかご1の床下部には、この乗りかご1に掛かる荷重、すなわち乗りかご1内の負荷を検出するための荷重検出装置7が取り付けられている。この荷重検出装置7は、乗りかご1の床下部に取り付けられている防振ゴム(図示せず)のたわみ量等から、乗りかご1に乗り込んだ利用者や種々の物体等の質量に基づく乗りかご1内の負荷を検出する構成とされている。そして、この荷重検出装置7は、エレベータの運行を制御するエレベータの制御装置8に接続されている。
【0022】
この制御装置8は、巻上機3および速度検出装置6に接続されており、これら巻上機3および速度検出装置6との間で信号の送受信を行うためのI/F回路(インターフェース回路)9を備えている。このI/F回路9は、荷重検出装置7に接続され、この荷重検出装置7にて検出した荷重値である出力値の受信を行う構成とされている。また、I/F回路9には、エレベータの運行を制御する運行機能を有する運行制御手段10が接続されている。この運行制御手段10は、荷重検出装置7からの出力値に基づいて、エレベータ起動時の制御定数を設定し乗りかご1を滑らかに走行させるための起動時制御定数設定手段(図示せず)を備えている。
【0023】
また、運行制御手段10には、エレベータの乗りかご1を診断運転させるための診断運転実施手段11が接続されている。この診断運転実施手段11は、荷重検出装置7にて乗りかご1の無荷重状態が検出された場合にエレベータを走行させる。さらに、制御装置8のI/F回路9には、乗りかご1の診断運転を実施した際に、この乗りかご1の走行状態、すなわち乗りかご1の起動時の衝撃を検出して診断するための走行状態診断手段12が接続されている。また、I/F回路9には、エレベータの乗りかご1内に負荷が掛かっていない状態、すなわち無負荷状態を検出すための無負荷検出手段13が接続されている。
【0024】
一方、走行状態診断手段12には、診断運転時の乗りかご1の出発時の走行速度の速度閾値が記憶されている。この速度閾値は、予め定められた値であって、この速度閾値を診断運転時の走行速度が超えた場合に、以後の処理を継続させるものである。具体的に、この速度閾値は、エレベータの起動時における乗りかご1の進行方向への飛び出し、又は反転を検出するためのものであり、乗りかご1の出発時の衝撃が大きくなり過ぎ、乗り心地が悪化したと想定される値とされている。
【0025】
さらに、この無負荷検出手段13には、この無負荷検出手段13にて乗りかご1の無負荷状態が検出された際、すなわち無負荷検出時に、荷重検出装置7の出力値を記録するための負荷記録手段14が接続されている。すなわち、この負荷記録手段14は、乗りかご1の無負荷状態を検出するたびに、荷重検出装置7にて検出された出力値を記録する構成とされている。また、この負荷記録手段14には、この負荷記録手段14に記録された荷重検出装置7の出力値を比較するための負荷比較手段15が接続されている。
【0026】
この負荷比較手段15は、負荷記録手段14に記録された最新の出力値と、この最新の出力値が記録される直前に記録された出力値を比較するものであって、これら荷重検出装置7の出力値を比較した際に、その出力値の差と比較する荷重差閾値が記憶されている。この荷重差閾値は、予め定められた値であって、この荷重差閾値を、荷重検出装置7の出力値の差が超えた場合にのみ、以後の処理を継続させるものである。具体的に、この荷重差閾値は、乗りかご1の無負荷時における荷重検出装置7の出力値のずれがエレベータの乗り心地の異常に繋がり、乗り心地を悪化させるおそれがあると想定される値に設定されている。
【0027】
また、負荷比較手段15には、運行制御手段10の起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数を補正するための補正手段である零点変更手段16が接続されている。この零点変更手段16は、荷重検出装置7の零点変更を実施するためのものである。この零点変更とは、乗りかご1の周囲の気温の変化や防振ゴムの劣化等の経年的な要因によって、荷重検出装置7の出力値と乗りかご1内の実際の負荷値との間に差が生じた場合に、この乗りかご1の無負荷状態での荷重値を荷重検出装置7にて再検出し、この再検出した出力値を負荷記録手段14に再度記録させる負荷検出の精度補正をいう。
【0028】
そして、零点変更手段16は、診断運転実施手段11および走行状態診断手段12に接続されている。また、この零点変更手段16には、荷重検出装置7の無負荷時特性値を記録するための無負荷時特性値記録手段17が接続されており、この無負荷時特性値記録手段17は、負荷比較手段15に接続されている。ここで、この無負荷時特性記録手段17は、補正前後における乗り心地の差が所定の範囲より大きい場合に、補正前の制御定数を零点変更手段16へ指示する補正指示手段として用いられている。言い換えると、この無負荷時特性値記録手段17は、負荷比較手段15での比較により、最新の出力値と、直前の出力値との差が所定の範囲内の場合に、最新の出力値に基づく制御定数を零点変更手16へ指示して零点変更を戻す構成とされている。
【0029】
すなわち、この無負荷時特性値記録手段17は、零点変更手段16への制御定数が指示された後の走行状態診断手段12による診断の結果、乗りかご1の起動時の衝撃が、新たな制御定数が指示される前に比べ所定の値を超えた場合に、新たな制御定数が指示される前の制御定数へ戻すものである。一方、走行状態診断手段12には、この走行状態診断手段12での診断に応じて外部への報知を行うための外部報知手段18が接続されている。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態のエレベータの制御装置を構成する荷重検出装置の特性を示すグラフである。以下、この図2に示すグラフを参照し、荷重検出装置7の特性について説明する。
【0031】
まず、図2には、正常動作時の特性を示す正常時特性直線19と、異常動作時の特性を示す異常時特性直線20と、荷重検出装置7の零点変更実施後の特性を示す補正後特性直線21とが示されている。そして、荷重検出装置7では、乗りかご1内の無負荷状態時の荷重値である出力値Eと、この乗りかご1の制限重量である100%の負荷が掛かった状態時の出力値E100とがエレベータの据え付け時に検出されて、負荷記録手段14に記録されており、図2に示す正常時特性直線19の傾きが決定されている。
【0032】
そして、例えば、乗りかご1の床下部に取り付けられている防振ゴムが経年劣化によって、この防振ゴムのたわみ量が変化した場合においては、乗りかご1の無負荷状態時における荷重検出装置7の出力値がE´となり、このときの出力特性が異常時特性直線20となる。この結果、この荷重検出装置7の出力値と、乗りかご1の実際の負荷値との関係性が正常ではない状態となり、これら荷重検出装置7の出力値と、乗りかご1の実際の負荷値との間に差が生じる。
【0033】
そこで、この乗りかご1の無負荷状態において、荷重検出装置7の零点変更を行い、出力値E´を新たな無負荷時の特性値として負荷記録手段14に記録させ、この荷重検出装置7の特性直線の傾きを再度計算して補正後特性直線21に修正する。この零点変更の実施により、防振ゴムの経年的な劣化に基づく荷重検出装置7の出力値のずれを補正することができる。これに対し、荷重検出装置7自体の故障や、防振ゴムのばね定数が変化した場合においては、上述した零点変更では補正、すなわち改善できず、100%の負荷が掛かった状態時の出力値E100についても、再度検出しなければならない。
【0034】
図3は、本発明の一実施形態が備えられるエレベータの制御装置の動作、すなわち制御を示すフローチャートである。以下、この図3に示すフローチャートに基づいて、エレベータの制御装置8の動作について説明する。
【0035】
まず、第1段階として、予め定めた一定時間(例えば3分間)に亘ってエレベータが使用されているかどうかを、無負荷検出手段13にて確認する(ステップS100)。この結果、エレベータが使用されていることが確認できた場合は、制御装置8による処理が終了となる(ステップS101)。
【0036】
一方、このステップS101において、無負荷検出手段13にてエレベータが一定時間に亘って使用されていないことが確認できた場合は、乗りかご1が無負荷状態と判断される。そして、エレベータが使用されていない状態が無負荷検出手段13にて確認される度に、I/F回路9を介して荷重検出装置7から取得した出力値が、最新の出力値として負荷記録手段14に記録されていく。
【0037】
このとき、この負荷記録手段14に記録されていく荷重検出装置7の最新の出力値と、この最新の出力値が記録される直前に記録された前回の出力値とが比較され、これら出力値の差が、負荷比較手段15にて計算される(ステップS102)。
【0038】
さらに、この負荷比較手段15による計算の結果、荷重検出装置7の最新の出力値と、前回の出力値との差が、この負荷比較手段15に予め記憶されている荷重差閾値を越えなかった場合においては、制御装置8による処理が終了となる(ステップS103)。
【0039】
一方、このステップS103において、荷重検出装置7の最新の出力値と前回の出力値との差が、荷重差閾値を超えていた場合は、現在の制御定数、すなわち無負荷時特性値(例えば、図2中のE)が、零点変更前の無負荷時特性値として無負荷時特性値記録手段17に記録される(ステップS104)。
【0040】
この後、現在の荷重検出装置7の出力値が、新たな制御定数、すなわち無負荷時特性値(例えば、図2中のE´)として設定され、零点変更手段16により零点変更が実施される(ステップS105)。
【0041】
次いで、診断運転実施手段11により、エレベータの乗りかご1の乗り心地の異常を確認するための診断運転が開始される(ステップS106)。
【0042】
このとき、エレベータの乗りかご1の出発情報と、この出発時の走行速度とが、運行制御手段10および速度検出装置6からI/F回路9を介して走行状態診断手段12によって検出されて取得される(ステップS107)。
【0043】
次いで、この取得した走行速度が、走行状態診断手段12に予め記録されている速度閾値を超えていた場合は、乗りかご1の出発時の衝撃が大きくなり乗り心地が悪化したと判断される。そして、無負荷時特性記録手段17に記録されている零点変更前の制御定数である無負荷時特性値が、零点変更手段16によって無負荷時特性として再設定され、荷重検出装置7の出力特性が上記ステップS105での零点変更前の制御定数に基づく状態に戻される(ステップS108)。
【0044】
そして、このステップS108での診断の結果、乗りかご1の乗り心地の悪化が検出され、荷重検出装置7の出力特性が零点変更前に戻されたことが、外部通報手段18にて外部へ通報される(ステップS109)。この後、この通報を受けた担当者(技術専門者)により、出力特性が戻された荷重検出装置7を有するエレベータの点検作業が行われる。
【0045】
一方、上記ステップS107にて取得した走行速度が、走行状態診断手段12に予め記憶されている速度閾値を超えていない場合は、診断運転実施手段11による診断運転が終了される(ステップ110)。
【0046】
このように構成した一実施形態によれば、荷重検出装置7の最新の出力値と前回の出力値との差が、荷重差閾値を超えていた場合は、現在の制御定数が、零点変更前の無負荷時特性値として無負荷時特性値記録手段17に記録される。一方、荷重検出装置7の最新の出力値と前回の出力値との差が、荷重差閾値を越えなかった場合は、制御装置8による処理が終了となる。このとき、乗りかご1の無負荷時における荷重検出装置7の出力値のずれがエレベータの乗りかご1の乗り心地の異常に繋がり、乗り心地を悪化させるおそれがあると想定される値に、荷重差閾値を設定している。このため、荷重検出装置7自体の故障や断線等の、乗りかご1の無負荷時における荷重検出装置7の出力値のずれである調整不良を検出し、この調整不良に基づくエレベータの乗りかご1の起動時の乗り心地の悪化を適切に防止することができる。
【0047】
さらに、エレベータの乗りかご1の診断運転を行い、この診断運転時の乗りかご1の出発時の走行速度が、走行状態診断手段12に予め記録されている速度閾値を超えていた場合に、無負荷時特性記録手段17に記録されている零点変更前の無負荷時特性値を、零点変更手段16にて無負荷時特性として再設定し、荷重検出装置7の出力特性が零点変更前の状態に戻される。このとき、エレベータの起動時における乗りかご1の進行方向への飛び出し、又は反転等による、乗りかご1の出発時の衝撃が大きくなり過ぎ、乗り心地が悪化したと想定される値に、速度閾値が設定されている。この結果、零点変更手段16による零点変更が実施された後においても、診断運転実施手段11による診断運転により、乗りかご1の起動時の衝撃の悪化を適切に防止することができる。
【0048】
よって、エレベータの制御装置8を用い自動的に荷重検出装置7の零点変更を実施させた後、エレベータの起動時の乗り心地を診断するための診断運転を行う。そして、この診断の結果、乗り心地の悪化が検出された場合に、荷重検出装置7の設定を零点変更前の状態に戻すことによって、乗り心地の悪化を適切に防止している。したがって、荷重検出装置7の零点変更の自動実施による乗り心地のさらなる悪化を防止することができる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態に限られず、本発明の技術的思想の範囲内において種々の実施形態が可能である。例えば、上述した一実施形態においては、零点変更手段16にて運行制御手段10の起動時制御定数設定手段へ零点変更を指示して、荷重検出装置7の出力値のずれを補正する構成としたが、この荷重検出装置7の出力値のずれを補正できれば、零点変更手段16による零点変更以外の補正手段を用いたものでも良い。
【符号の説明】
【0050】
1 乗りかご
2 釣合い錘
3 巻上機
4 そらせ車
5 主ロープ
6 速度検出装置
7 荷重検出装置
8 制御装置
9 I/F回路
10 運行制御手段
11 診断運転実施手段
12 走行状態診断手段
13 無負荷検出手段
14 負荷記録手段
15 負荷比較手段
16 零点変更手段(補正手段)
17 無負荷時特性値記録手段(補正指示手段)
18 外部報知手段
19 正常時特性直線
20 異常時特性直線
21 補正後特性直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの乗りかごの荷重を検出する荷重検出装置と、
この荷重検出装置にて検出された荷重に基づいて、前記エレベータを起動させる際の制御定数を設定する起動時制御定数設定手段と、
この起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数を補正する補正手段と、
この補正手段による補正の前後における前記乗りかごの乗り心地を計測する乗り心地計測手段と、
この乗り心地計測手段にて計測された補正の前後における乗り心地を比較する乗り心地比較手段と、
この乗り心地比較手段での比較により、前記補正の前後における乗り心地の差が所定の範囲よりも大きい場合に、前記補正前の制御定数を前記補正手段へ指示する補正指示手段と
を備えたことを特徴とするエレベータの制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のエレベータの制御装置において、
前記乗りかごの無負荷状態を検出するたびに前記荷重検出装置にて検出された荷重値を記録する負荷記録手段を備え、
前記乗り心地比較手段は、前記負荷記録手段に記録された最新の荷重値と、この最新の荷重値が記録される直前に記録された荷重値とを比較する負荷比較手段であり、
前記補正指示手段は、前記負荷比較手段での比較により、前記最新の荷重値と前記直前の荷重値との差が所定の範囲外の場合に、前記最新の荷重値に基づく制御定数を前記補正手段へ指示する
ことを特徴とするエレベータの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエレベータの制御装置において、
前記荷重検出装置にて前記乗りかごの無負荷状態が検出された場合に、エレベータを走行させる診断運転実施手段と、
この診断運転実施手段にて前記エレベータを走行させた際に、前記乗りかごの起動時の衝撃を検出する走行状態診断手段と、を備え、
前記補正指示手段は、前記補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示された後、前記走行状態診断手段による診断の結果、前記乗りかごの起動時の衝撃が、前記補正手段に新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に比べ所定の値を超えた場合に、この補正手段への指示を、前記新たな無負荷時の荷重値に基づく制御定数が指示される前に前記負荷記録手段に記録されていた荷重値に基づく制御定数に戻す
ことを特徴とするエレベータの制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエレベータの制御装置において、
前記補正手段は、前記起動時制御定数設定手段にて設定された制御定数を補正することにより、前記荷重検出装置にて検出される荷重値と、前記乗りかごの無負荷時の実際の荷重値との差を補正する零点変更手段である
ことを特徴とするエレベータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100172(P2013−100172A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245604(P2011−245604)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】