説明

エレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法

【課題】 きわめて短期間でエレベータシャフト内のアスベストの除去を行うことの可能な作業方法を提供する。
【解決手段】 エレベータシャフト1内の複数階にわたる領域を作業空間11に設定し、その作業空間内の最下階と、その上方の一つ以上の階に作業床14を設け、作業空間から粉塵が外部に漏洩しないように作業空間をシート材で養生し且つ各作業床から下方にアスベスト除去物等が落下しないよう各作業床をシート材で養生し、作業床14を設けた各階の出入り口17から各作業床14の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設建築物において、エレベータシャフト内に存在するアスベストを除去する作業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設建築物において、金属材等の耐火被覆としてアスベストが多く用いられており、エレベータシャフト内においても柱材や梁材等として用いているH形鋼などにアスベストが吹き付け被覆されている。近年、アスベスト粉塵の吸引による健康障害が指摘されており、アスベストは使用禁止にされている。既設アスベストについても、劣化による飛散や建築物解体時の飛散等を防止するため、アスベストの除去、封じ込め、囲い込み等を行うことが望まれており、また、エレベータの修理、更新のためにも、エレベータシャフト内のアスベストについて除去が望まれている。
【0003】
従来、エレベータシャフト内のアスベストの除去は次の手順で行っていた。すなわち、図11に示すように、エレベータシャフト1内において、エレベータかご2を上方に退避させておき、予め設定した特定階(通常、最下階)からエレベータシャフト1内に入ってその特定階及びその上に位置するように、複数階の作業床4及び昇降階段5を備えた足場3を組み、エレベータかご2の下方の空間から粉塵が外部に漏洩しないようにエレベータシャフト1内面をシート材で養生し、また、各作業床4から下方にアスベスト除去物等が落下しないよう各作業床4もシート材で養生し、特定階の出入り口に、前室7a、エアシャワー室7b、更衣室(保護衣等脱着室)7c等を備えた洗身設備7を設置して作業者がエレベータシャフト内に安全に出入り可能とし、エレベータシャフト1内に除塵吸引装置8に接続された吸引ダクト9を通し、エレベータシャフト1内を負圧吸引した状態で、洗身設備7を通って作業者がエレベータシャフト1内に入り、足場3を利用してエレベータシャフト1内のアスベスト除去(アスベストの飛散防止のために湿潤剤の吹き付け、アスベストの掻き落とし、除去したアスベストの袋詰め、排出等)を行っている。この際、労働安全衛生法には、「上下作業は極力避けること。」との規定があるため、まず、足場3の最上階の作業床4を用いてその付近のアスベスト除去を行い、次いで、その下の作業床4に移ってその付近のアスベスト除去を行うという動作を順次繰り返すことでエレベータシャフト1内のエレベータかご2の下方の全域のアスベスト除去を行っている。アスベスト除去を行った後は、清掃、養生の撤去を行い、その後、必要に応じ、アスベスト除去対象物に対して耐火材を被覆する耐火被覆復旧作業を行い、次いで、足場撤去を行う。その後、エレベータシャフト内の上方に退避させていたエレベータかごを下方に下ろし、エレベータシャフトの上方領域での作業に適した階に作業床を敷設し、その上に足場を組んで、上記と同様な手順によってアスベスト除去、耐火被覆復旧等を行っている。
【0004】
しかしながら、上記した従来技術では、狭いエレベータシャフト内に高い足場を組み、その足場の最上階から順次、アスベスト除去を行って行くため、工事期間がきわめて長くかかり、例えば、10階程度のエレベータシャフトの工事に15〜20日の工事期間を必要とするという問題があった。既設のビルでは、テナント等の絡みから、エレベータを長期間に渡って止めておくことはできず、特にビルにエレベータが1基しかない場合などにはなおさらであり、このため、エレベータシャフトのアスベストの除去が必要だと言われているにもかかわらず、容易に実施できないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたもので、例えば、土、日の2日間といった、きわめて短期間でエレベータシャフト内のアスベストの除去を行うことの可能な作業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1に係る発明は、エレベータシャフト内のアスベスト除去を短期間で行うことができるようにするため、エレベータシャフト内の複数階にわたる領域を作業空間に設定し、エレベータかごを前記作業空間の外に位置させた状態でその作業空間内の最下階と、その上方の一つ以上の階に作業床を設ける工程と、作業床を設けた各階の出入り口から作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う工程を有する構成としたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、エレベータシャフト内のアスベスト除去を更に短期間で行うことができるようにするため、エレベータシャフト内の複数階にわたる領域を作業空間に設定し、エレベータかごを前記作業空間の外に位置させた状態でその作業空間内のすべての階にそれぞれ、作業床を設ける工程と、作業床を設けた各階の出入り口から作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う工程を有する構成としたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記した請求項1又は2に係るアスベスト除去作業方法において、少なくとも一部の前記作業床を、エレベータシャフト内に垂直に設けられているガイドレールに着脱可能なレールクリップ機構を備えた支持治具を用いて、前記ガイドレールに保持させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記した請求項1から3のいずれか1項に係るアスベスト除去作業方法において、前記作業床を設置した後に、前記作業空間から粉塵が外部に漏洩しないように前記作業空間をシート材で養生し且つ各作業床から下方にアスベスト除去物等が落下しないよう各作業床をシート材で養生する工程と、作業床を設けた各階の出入り口にそれぞれ洗身設備を設ける工程と、前記作業空間内を負圧吸引する手段を設ける工程を設け、前記作業空間を負圧吸引した状態で、各洗身設備を通って対応する作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記した請求項1から4のいずれか1項に係るアスベスト除去作業方法において、前記作業空間内の作業床の設置に先立って、最下階の作業床を除いた他の作業床の設置位置の下方に安全ネットを取り付け、その後作業床の設置を行うことを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、上記した請求項1から5のいずれか1項に記載の諸工程を、エレベータシャフト内の他の領域について繰り返すことで、エレベータシャフト全体のアスベスト除去を行うことを特徴とするものである。
【0012】
請求項7に係る発明は、上記した請求項1から6のいずれか1項記載のアスベスト除去作業方法において、アスベスト除去を行う工程の後に、前記作業床の撤去に先立って、アスベスト除去を行った対象に対する耐火被覆を行う工程を設けることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1に係る発明のアスベスト除去作業方法では、エレベータシャフト内に複数階にわたって設定した作業空間のアスベスト除去に当たって、その作業空間内の最下階を含む複数の階に作業床を形成し、その作業床を形成した階の出入り口から作業者がエレベータシャフト内に出入りし、作業床を設けている複数の階で並行してアスベスト除去を行う構成としたことで、同時に複数の階でアスベスト除去作業を行うことができ、このため、作業期間を大幅に短縮することができ、また、従来のような高い足場を組む必要がなく、この点からも作業期間を短縮できる。この場合、複数階は好ましくは3階以上、より好ましくは4階以上、最も好ましくはすべての階が適用できる。
【0014】
請求項2に係る発明では、エレベータシャフト内に複数階にわたって設定した作業空間のすべての階にそれぞれ作業床を設け、各階の出入り口から作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う構成としたことにより、一層作業期間を短縮できる。
【0015】
請求項3に係る発明では、少なくとも一部の前記作業床を、エレベータシャフト内に垂直に設けられているガイドレールに着脱可能なレールクリップ機構を備えた支持治具を用いて、前記ガイドレールに保持させる構成としたことで、作業床を所望の高さに取り付けることができ、例えば、作業床をエレベータシャフト内の梁の上面から離れた位置に取り付けることができ、梁上面に施していたアスベストを作業床に干渉することなく除去できる。
【0016】
請求項4に係る発明では、作業空間をシート材で養生し且つ各作業床から下方にアスベスト除去物等が落下しないよう各作業床をシート材で養生し、作業床を設けた各階の出入り口にそれぞれ洗身設備を設け、且つ前記作業空間内を負圧吸引する手段を設ける構成としたことにより、前記作業空間を負圧吸引した状態で、各洗身設備を通って対応する作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行うことができ、アスベストの周辺環境への飛散をきわめて確実に防止できる。
【0017】
請求項5に係る発明では、作業床の設置に先立って、作業床の設置場所の下方に安全ネットを取り付け、その後作業床の設置を行う構成としたことにより、安全ネットで工具等の落下を防止でき、このため、上下階で平行して作業床の取り付け作業を行うことができ、この点からも作業期間の短縮を図ることができる。
【0018】
請求項6に係る発明では、請求項1から5のいずれか1項に記載の諸工程を、エレベータシャフト内の他の領域について繰り返すことで、エレベータシャフト全体のアスベスト除去を短期間で行うことができる。
【0019】
請求項7に係る発明では、アスベスト除去のために設けた作業床を用いて、アスベスト除去を行った対象に対する耐火被覆を行うことができ、アスベスト除去のみならず耐火被覆復旧作業を短期間で実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のアスベスト除去作業方法の好適な実施の形態を説明する。図1はエレベータシャフトの一部領域を、本発明の一実施の形態のアスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図、図2はエレベータシャフトの別の領域を、アスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図であり、図11に示す従来例と同一部分には同一符号を付している。図1において、まず、エレベータシャフト1内の複数階にわたる領域を、一度にアスベスト除去を行う作業空間11に設定する。後述するようにこの作業空間11内のアスベスト除去を行った後は、図2に示すように、エレベータシャフト1内の別の領域に作業空間12を設定してアスベスト除去を行う。従って、この実施の形態のアスベスト除去作業方法は、エレベータシャフト1の全体を複数の作業空間に分割して、順次アスベスト除去を行ってゆくものである。最初に設定する作業空間11は、エレベータシャフトの下端又は上端から設定する。その作業空間11、12に含ませる階数は、エレベータシャフトの全階数や、エレベータシャフトを何回に分けてアスベスト除去を行うか、使用可能な洗身設備の個数、投入可能な作業員数等を考慮して定めるものであり、なるべく、各回に設定する作業空間内の階数を等しく設定することが工期短縮の上から好ましく、例えば、全部で10階のエレベータシャフトに対しては、最初に設定する作業空間11を5階又は6階とし、次回に設定する作業空間12を5階又は4階とすることが好ましい。
【0021】
エレベータシャフト1内の複数階にわたる領域を作業空間11に設定した後は、エレベータかご2を作業空間11の外(上方又は下方)に位置させた状態でその作業空間11内の最下階に作業床14を設け、その上方の各階には安全ネット15と作業床14を設ける。これらの作業床14や安全ネット15は、各階の出入り口17の扉18を開いてエレベータシャフト1内に入り、エレベータシャフト1内の既設の梁やガイドレール等を用いて設置可能であり、このため足場を組む等の面倒な作業が不要である。なお、エレベータシャフト1内での上下作業を安全に行うため、各安全ネット15を先に、作業床15の設置位置の下方に設置しておき、その後作業床14の設置作業を行う。安全ネット15を先に設置しておくと、その安全ネットが部品、工具等の落下を防止するので、安全ネットの上下での作業を並行して行うことが可能となり、工期短縮を図ることができる。また、最下階の下方の床(エレベータシャフト1の底面)を作業床として使用できる場合には、それを作業床とすることで、作業床14の設置は省略してもよい。
【0022】
前記したように作業床14は、エレベータシャフト1内の既設の梁やガイドレール等を用いて設置すればよい。例えば、既設の梁の上に適当な支持治具を用いて作業床を取り付けてもよいし、垂直なガイドレールの所望の高さ位置に、レールクリップ機構を備えた支持治具を用いて作業床を取り付けてもよいが、特に少なくとも一部の作業床14はガイドレールに取り付けることが好ましい。すなわち、既設の梁にはアスベスト被覆を行っている場合があり、その梁に作業床を保持させた場合には、アスベスト被覆を或る程度除去した後で作業床や支持治具の付け替えや高さ調整を行う必要があるが、ガイドレールに作業床を保持させた場合には、作業床を既設の梁の上面から適当に離れた高さ位置に設置することができ、作業床に干渉することなく梁上面のアスベスト除去が行える。以下、作業床14をガイドレールに取り付ける構造の一例を説明する。
【0023】
図3はエレベータシャフト1の概略水平断面図であり、エレベータシャフト1内には、エレベータかご2の両側面を案内する垂直なガイドレール21、21と、カウンターウエイト24の両側面を案内する垂直なガイドレール22、22が設けられている。ガイドレール21、22は、断面が略T字状をなしており、フランジ部21a、22aとそれに直角なガイド部21b、22bを備えている。このフランジ部21a、22aを利用して、作業床14を支持するための支持治具を取り付けることができる。
【0024】
図4は、ガイドレール21、22に支持治具26、27を取り付けた状態を示すエレベータシャフト1の概略水平断面図である。エレベータかご用のガイドレール21に取り付けた支持治具26は、図5、図6にも示すように、略コ字状で両端を外側に直角に延び出させた形状の支持体29と、その支持体29の中央の平坦部29aにガイドレール21のフランジ部21aを押し付けて固定するためのクリップ部材30と、支持体29とクリップ部材30を締結するボルト31及びナット32と、支持体29の両端のフランジ部29cにボルト33、ナット34で固定される長い、断面L字状の支持部材35等を備えている。この構成により、支持体29をガイドレール21の所望の高さ位置に位置させ、クリップ部材30をボルト31、ナット32で支持体29に締結することで支持治具26をガイドレール21の所望の高さ位置に固定することができ、また、ボルト31、ナット32を外すことで、支持治具26をガイドレール21から取り外すことができる。これらの支持体29、クリップ部材30、ボルト31、ナット32等は、支持治具26をガイドレールに着脱可能なレールクリップ機構を構成する。前記した支持部材35は、一対の支持治具26、26を、向かい合って配置されているガイドレール21、21に取り付けた状態では、両側の支持部材35が水平で互いに平行になるように支持体29に取り付けられている。
【0025】
カウンターウエイト用のガイドレール22に取り付けた支持治具27も、図4、図7、図8等に示すように、略コ字状の支持体29Aと、その支持体29Aの中央の平坦部29aにガイドレール22のフランジ部22aを押し付けて固定するためのクリップ部材30と、支持体29Aとクリップ部材30を締結するボルト31及びナット32を備えており、支持体29Aをガイドレール22の所望の高さ位置に位置させ、クリップ部材30をボルト31、ナット32で支持体29Aに締結することで支持治具27をガイドレール22の所望の高さ位置に固定することができ、また、ボルト31、ナット32を外すことで、支持治具27をガイドレール22から取り外すことができる。従って、これらの支持体29A、クリップ部材30、ボルト31、ナット32等は、支持治具27をガイドレールに着脱可能なレールクリップ機構を構成する。更に、支持治具27は、支持体29Aの一方の側板部29bに取り付けられたクランプ部材37と、そのクランプ部材37に保持される管状の長い支持部材38も備えている。ここで、クランプ部材37は、一対の支持治具27、27を、向かい合って配置されているガイドレール22、22に取り付けた状態では、両側のクランプ部材37、37が一本の支持部材38を水平に且つ、支持治具26の支持部材35とは直角となるように保持することができるように支持体29Aに取り付けられている。
【0026】
かくして、図4に示すように、一対の支持治具26、26を一対のガイドレール21、21に、所望の高さとなるように取り付け、両側に配置された一対の支持部材35、35に足場板、例えば伸縮足場板40を支持させ、また、一対の支持治具27、27を一対のガイドレール22、22に、所望の高さとなるように取り付け、その支持部材38と伸縮足場板40に別の足場板41、42等を支持させることで作業床14を所望高さに形成できる。ここで作業床14の高さは、その下方に位置する梁の上面のアスベスト除去に干渉しない位置となるように定めておけばよい。支持部材35、38の長さは、形成すべき作業床14の大きさに応じて適切に定めればよい。
【0027】
なお、上記の実施の形態においては、一対の支持治具26、26を一対のガイドレール21、21に対して、支持体26及び支持部材35、35が外側になるように取り付けているが、これに限らず、図9に示すように、内側になるように取り付けてもよい。また、他方の支持治具27、27についても一対のガイドレール22、22に対してクランプ部材37、37及び支持部材38が内側(エレベータかご側)になるように取り付けてもよい。ただし、図4に示すように、支持治具26、27をガイドレール21、22に、支持部材35、38が外側となるように取り付けると、エレベータかご2やカウンターウエイト24の昇降に干渉しないので、エレベータを使用しない夜間などに適当なタイミングであらかじめ取り付けておくことが可能であり、エレベータの運行を完全に停止してアスベスト除去を行う作業期間を短縮できる利点が得られる。更に、上記の実施の形態では、支持部材35として断面L字型の条材を使用し、また支持部材38として管状のものを用いているが、支持部材35、38はこれらの断面形状のものに限らず、足場板を支持しうる任意のものを用いることができる。
【0028】
作業床14を設置した後は、作業空間11から粉塵が外部に漏洩しないように作業空間11の天井面や側面を、プラスチックフィルム、プラスチックシート等のシート材(図示せず)で養生する。この際、除去すべきアスベストが存在している部分は、当然露出させておく。また、各作業床14もその作業床14から下方にアスベスト除去物や工具等が落下しないよう各作業床をプラスチックフィルム、プラスチックシート等のシート材(図示せず)で養生する。なお、各作業床14を養生した後も各階間の空気の流通は可能としておき、作業空間11の一部を負圧吸引することで、作業空間11内の全域を負圧とすることができるようにしておく。各階間での空気の流通を可能とする構造は特に限定するものではないが、図1に示すように、作業床14の上下を連通させる短管45を、その上端が作業床14の上面側に床面から10〜50cm程度突出するように設けておくことが好ましい。このような短管45を設けておくと、作業床14上に溜まっているアスベストが短管45を通って下方に落下することがないという利点が得られる。また、短管45の上端を閉じ、床面から上方に離れた位置の側面に開口を設けて上下階の流通を図るとか、短管45の上端開口の上方に適当な間隔を開けてアスベスト落下防止用の覆いを設ける等の変更を行ってもよい。
【0029】
次に、作業床14を設けた各階の出入り口17にそれぞれ洗身設備7を設ける。洗身設備7は、セキュリティハウスとも呼ばれるもので、前室7a、エアシャワー室7b、更衣室(保護衣等脱着室)7c等を備えている。次に、最下階に除塵吸引装置8を設置し、それに接続された吸引ダクト9をエレベータシャフト1内に通す。これにより、エレベータシャフト1内の作業空間11を負圧状態に保持することが可能となる。なお、洗身設備7の設置や除塵吸引装置8の設置は、エレベータシャフト1内で養生を行う前或いは作業床14や安全ネット15を設置する前に行ってもよい。
【0030】
以上の準備が終了した後、除塵吸引装置8を作動させてエレベータシャフト1の作業空間11内を負圧状態に保ち、その状態で各階の洗身設備7を通って、作業者が保護衣を着て各階の作業床14の上に入り、各階並行してアスベスト除去作業を行う。すなわち、既設のアスベストにアスベスト飛散防止のための湿潤剤を吹き付け、スクレーパ、ナイフ等でアスベストを掻き落とし、アスベスト除去物を袋詰めして排出する等の作業を行う。これらの作業は各階で並行して行うため上下作業となるが、各階の間には作業床14を設け、且つシート材(図示せず)で養生しているので工具等の落下の恐れはなく、安全に実施できる。しかも、安全ネット15も設けているので、一層安全である。そして、各階で並行してアスベスト除去を行うため、従来のように、上から1階ずつアスベスト除去を行っていく場合に比べてはるかに短期間でアスベスト除去を行うことができる。
【0031】
作業空間11内でのアスベスト除去を終了すると、養生に用いていたシート材を撤去する。撤去したシート材や袋詰めしたアスベスト除去物等は、洗身設備7の更衣室7cで袋詰めし、外部に搬出する。また、作業者は更衣室7cで保護衣を脱ぎ、袋詰めして外部に搬出する。このように、洗身設備7を通って作業者が出入りし、また、アスベスト除去物等を搬出することで、アスベストの系外への飛散が防止される。
【0032】
エレベータシャフト1内のアスベスト除去を終了した後、必要があれば、アスベスト除去対象の金属材表面に耐火断熱材等を被覆し、耐火被覆復旧作業を行う。この作業も各階に設けている作業床14を用いて並行して行うことで、きわめて短期間で実施できるその後、各洗身設備7や作業床14、安全ネット15等の撤去を行う。以上によって、エレベータシャフト内の作業空間11に対するアスベスト除去作業が終了する。
【0033】
次に、先にアスベスト除去を行った作業空間11に続く領域に、図2に示すように作業空間12を設定し、エレベータかご2をその作業空間12から外れた位置に移動させ、図1に示す作業空間11についての上記した作業と同様にしてアスベスト除去作業を行う。すなわち、エレベータシャフト1内の各階に作業床14、安全ネット15を設置し、養生を行い、各階の出入り口17の前に洗身設備7を設置し、各階で並行してアスベスト除去作業を行い、必要に応じ、耐火被覆復旧作業を行う。その後、各洗身設備7や作業床14、安全ネット15等の撤去を行う。以上によって、エレベータシャフト内の作業空間12に対するアスベスト除去作業が終了する。作業空間11、作業空間12のアスベスト除去により、エレベータシャフト1の全域のアスベスト除去が終わった場合には、これで作業を終了する。また、まだアスベスト除去を行っていない領域がある場合にはその領域についても上記と同様にしてアスベスト除去作業を行う。
【0034】
以上に説明したように、この実施の形態では、エレベータシャフト内に複数階にわたって設定した作業空間11、12において、それぞれの階に作業床を設け且つ作業員が出入りする洗身設備7を設け、各階でアスベスト除去作業を並行して行うようにしているので、きわめて短期間でアスベスト除去及び耐火被覆復旧作業を行うことができ、例えば、10階程度のエレベータシャフトに対して、作業空間11、12をそれぞれ5階ずつとしてアスベスト除去及び耐火被覆復旧作業を行うことにより、2日間で作業を完了できる。
【0035】
なお、上記した実施の形態では、作業空間11、12内のそれぞれの階に作業床14を設け、且つそれぞれの階の出入り口17の前に洗身設備7を設置し、すべての階で並行してアスベスト除去及び耐火被覆復旧作業を行っているが、作業床17及び洗身設備7の設置は、必ずしもすべての階とする必要はなく、例えば1階おきとするとか、2階おきとする等の変更を加えてもよい。図10はその場合の実施の形態を示すものであり、作業空間11の最下階に作業床14を設け、且つ1階おいたその上の階に安全ネット15と作業床14を設け、且つ作業床14を設けている階の出入り口17の前に洗身設備7を設けている。この実施の形態では、それぞれの作業床14を用い、且つ適当な踏み台やはしごを用いて2階分のアスベスト除去及び耐火被覆復旧作業を行う。この場合でも、上下で並行してアスベスト除去及び耐火被覆復旧作業を行うことができるので、図11に示す従来例のように最上部から順次作業を行って行く場合に比べて工期の短縮を図ることができる。なお、一つの作業床14から2階分の作業を行うには、踏み台やはしごを用いるよりも足場を設けた方がよい場合もあるが、その場合の足場としては低く簡単なものでよく、簡単な足場を組むことで効率良く作業を行うことができる。
【0036】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更可能である。例えば、図面に示す実施の形態では、作業空間内を負圧に吸引した状態でアスベスト除去を行っており、アスベスト粉塵の周辺環境への飛散をきわめて確実に防止できる利点を有しているが、作業空間の密閉度を上げることで、負圧吸引を省略してもよい。また、作業床14を設けた階の出入り口の前に洗身設備7を設けているが、場合によってはこれを省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】エレベータシャフトの一部領域を、本発明の一実施の形態のアスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図
【図2】エレベータシャフトの別の領域を、アスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図
【図3】エレベータシャフトの概略水平断面図
【図4】ガイドレールに支持治具を取り付けた状態を示すエレベータシャフトの概略水平断面図
【図5】ガイドレール21に支持治具26を取り付けた状態を示す概略平面図
【図6】(a)は図5のA−A矢視概略正面図、(b)は図5のB−B矢視概略側面図
【図7】ガイドレール22に支持治具27を取り付けた状態を示す概略平面図
【図8】(a)は図7のA−A矢視概略正面図、(b)は図5のB−B矢視概略側面図
【図9】ガイドレール21に支持治具26を図5とは異なる態様で取り付けた状態を示す概略平面図
【図10】エレベータシャフトの一部領域を、図1とは異なる実施の形態のアスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図
【図11】エレベータシャフトの一部領域を、従来のアスベスト除去作業方法を実施する状態で示す概略断面図
【符号の説明】
【0038】
1 エレベータシャフト
2 エレベータかご
3 足場
4 作業床
5 階段
7 洗身設備
7a 前室
7b エアシャワー室
7c 更衣室(保護衣等脱着室)
8 除塵吸引装置
9 吸引ダクト
11、12 作業空間
14 作業床
15 安全ネット
17 出入り口
18 扉
21、22 ガイドレール
24 カウンターウエイト
26、27 支持治具
29、29A 支持体
30 クリップ部材
31、32 ボルト、ナット
33、34 ボルト、ナット
35 支持部材
37 クランプ部材
38 支持部材
40 伸縮足場板
41、42 足場板
45 短管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータシャフト内の複数階にわたる領域を作業空間に設定し、エレベータかごを前記作業空間の外に位置させた状態でその作業空間内の最下階と、その上方の一つ以上の階に作業床を設ける工程と、作業床を設けた各階の出入り口から作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う工程を有するエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項2】
エレベータシャフト内の複数階にわたる領域を作業空間に設定し、エレベータかごを前記作業空間の外に位置させた状態でその作業空間内のすべての階にそれぞれ、作業床を設ける工程と、作業床を設けた各階の出入り口から作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行う工程を有するエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項3】
少なくとも一部の前記作業床を、エレベータシャフト内に垂直に設けられているガイドレールに着脱可能なレールクリップ機構を備えた支持治具を用いて、前記ガイドレールに保持させることを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項4】
前記作業床を設置した後に、前記作業空間から粉塵が外部に漏洩しないように前記作業空間をシート材で養生し且つ各作業床から下方にアスベスト除去物等が落下しないよう各作業床をシート材で養生する工程と、作業床を設けた各階の出入り口にそれぞれ洗身設備を設ける工程と、前記作業空間内を負圧吸引する手段を設ける工程を設け、前記作業空間を負圧吸引した状態で、各洗身設備を通って対応する作業床の上に作業者が入り、上下階で並行してエレベータシャフト内のアスベスト除去を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項5】
前記作業空間内の作業床の設置に先立って、最下階の作業床を除いた他の作業床の設置位置の下方に安全ネットを取り付け、その後作業床の設置を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の諸工程を、エレベータシャフト内の他の領域について繰り返すことで、エレベータシャフト全体のアスベスト除去を行うことを特徴とするエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のアスベスト除去作業方法において、アスベスト除去を行う工程の後に、前記作業床の撤去に先立って、アスベスト除去を行った対象に対する耐火被覆を行う工程を設けることを特徴とするエレベータシャフト内のアスベスト除去作業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−84049(P2009−84049A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66933(P2008−66933)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【出願人】(507309563)日東紡エコロジー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】