説明

エレベータドア開閉制御装置、エレベータドア開閉制御方法及びエレベータドア開閉制御プログラム

【課題】エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能とするエレベータドア開閉制御装置、エレベータドア開閉制御方法及びエレベータドア開閉制御プログラムを提供すること。
【解決手段】モータによって駆動されたエレベータドア6の開閉速度を検知し、検知された開閉速度に基づき、緩やかな加速によってエレベータドア6が開閉されるようにモータの駆動を制御し、モータの駆動状態を検知し、緩やかな加速によって開閉されるようにモータの駆動が制御される際のモータの駆動状態の検知結果に基づいてベアリングの劣化を判断することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータドア開閉制御装置、エレベータドア開閉制御方法及びエレベータドア開閉制御プログラムに関し、特に、ドア開閉機構の劣化の判断に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの総合的なドア開閉動作異常監視装置としては存在せず、エレベータドアシル内のゴミ詰まり等の異常検知装置として、エレベータの制御装置に点検指令信号を出力し、ドア駆動装置により駆動されるエレベータドアの点検運転を行わせ、この運転中の該エレベータドアの開閉動作を点検するエレベータドアの点検運転装置において、ドア開閉用の駆動モータの回転速度や回転トルクを設定レベルに低下させる所定の信号を上記ドア駆動装置に出力するドア開閉モード切替手段を備え、点検運転時に該信号によりエレベータドアの開閉動作モードを切り替えるようにしたことで、エレベータのドアシル内のゴミ詰まりをドア開閉時間により診断する、エレベータドアの点検運転装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−085689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のエレベータのドアシル内のゴミ詰まり等の異常検知装置では、エレベータの制御装置に点検指令信号を出力し、ドア駆動装置により駆動されるエレベータドアの点検運転を行わせ、この運転中の当該エレベータドアの開閉動作を点検するエレベータドアの点検運転装置において、ドア開閉用の駆動モータの回転速度や回転トルクを設定レベルに低下させる所定の信号を上記ドア駆動装置に出力するドア開閉モード切替手段を備え、点検運転時に該信号によりエレベータドアの開閉動作モードを切り替えるようにしたものであり、エレベータドアモータベアリング劣化やベルトテンション劣化を検知するものではなかった。
【0005】
そのため、ベアリング劣化については、保守員が乗りかごに乗りこんで点検作業を行う場合は、人力でゆっくりとエレベータを開閉させることにより、ベアリング劣化に起因する微妙な変化を見つけることが可能ではあるものの、このような点検方法は保守員に熟練した技術や経験が要求されるため点検結果に個人差が生じてしまうという問題があり、また、点検個所の多いエレベータドアは保守員による点検の見落としも起こりやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能とするエレベータドア開閉制御装置、エレベータドア開閉制御方法及びエレベータドア開閉制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御装置であって、前記ドアを開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、前記モータの駆動を制御するモータ駆動制御部と、前記モータ駆動部による前記モータの駆動状態を検知するモータ駆動状態検知部と、前記モータによって駆動されて開閉される前記ドアの開閉速度を検知するドア開閉速度検知部と、前記ドアの開閉速度に基づいて前記ドアの開閉機構の劣化を判断する劣化判断部とを含み、前記モータ駆動制御部は、検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部を制御し、前記劣化判断部は、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする。これにより、エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能とすることが可能となる。
【0008】
ここで、前記劣化判断部は、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づき、前記モータ駆動部による駆動量が所定の範囲を超えている場合に、前記ドア開閉機構の劣化を判断することができる。これにより、予測されるよりも高いモータの駆動力が必要となっていることを判断することができる。
【0009】
また、前記モータ駆動制御部は、前記ドアが間欠的に開閉されるように前記モータ駆動部を制御し、前記劣化判断部は、前記モータ駆動部による前記ドアが間欠的に開閉されるような前記モータの駆動タイミングと、検知された前記ドアの開閉速度に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することができる。これにより、ドア開閉機構の駆動力に対する応答性を判断することができる。
【0010】
また、前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動タイミングが、前記モータの駆動タイミングに対して所定の期間以上遅れている場合に、前記ドア開閉機構の劣化を判断することができる。これにより、予測されるよりもドア開閉機構の駆動力に対する応答性が悪いことを判断することができる。
【0011】
また、前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動タイミングが、前記モータの駆動タイミングに対して所定の期間内で遅れている場合に、前記ドア開閉機構のうち、前記モータの動力を前記ドアに伝達するために設けられるドアモータベアリングの劣化を判断することができ、前記モータの駆動タイミングに対して所定の期間以上遅れている場合に、前記ドア開閉機構のうち、前記モータの動力を前記ドアに伝達するために設けられるベルトのテンションの劣化を判断することができる。これにより、ベルトテンションの劣化を自動的且つ高精度に判断することが可能となる。
【0012】
また、前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動量と所定の閾値との比較結果に基づき、ドア開閉機構の劣化を判断することができ、ドアの開閉速度が著しく低くない場合にベルトテンションの劣化を判断する事ができる。これにより、ドア開閉機構及びベルトテンションの劣化を自動的且つ高精度に判断することが可能となる。
【0013】
また、前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動量と所定の閾値との比較結果に基づき、エレベータドアシル内の異物の存在を判断することができる。これにより、ドアシル内の異物の存在を自動的且つ高精度に判断することが可能となる。
【0014】
また、本発明の他の態様は、エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御方法であって、モータによって駆動されたドアの開閉速度を検知し、検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動を制御し、前記モータの駆動状態を検知し、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする。これにより、エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能とすることが可能となる。
【0015】
また、本発明の更に他の態様は、エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御プログラムであって、モータによって駆動されたドアの開閉速度を検知するステップと、検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動を制御するステップと、前記モータの駆動状態を検知するステップと、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断するステップとを情報処理装置に実行させることを特徴とする。これにより、エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エレベータドアの異常検知において、作業者の負担を軽減し且つ高精度な異常検知を可能するエレベータドア開閉制御装置、エレベータドア開閉制御方法及びエレベータドア開閉制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係るエレベータシステムの全体構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置の異常検知動作を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置におけるトルク指令出力とエレベータドア開閉速度のグラフである。
【図4】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置におけるトルク指令出力とエレベータドア開閉速度のグラフである。
【図5】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置におけるトルク指令値の変化量と時間のグラフである。
【図6】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置におけるトルク指令出力とエレベータドア開閉速度のグラフである。
【図7】本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置におけるトルク指令出力とエレベータドア開閉速度のグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、エレベータのドア開閉装置において、ドアの開閉制御に対するドアの移動速度を監視することにより、ドアモータのベアリング劣化やベルトテンション劣化等によるドア開閉動作の異常を自動的且つ高精度に検知し、作業者の負担を軽減することが可能なエレベータのドア開閉制御装置について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るエレベータのドア開閉装置周りの正面図、及び本実施形態に係るエレベータのドア開閉動作異常監視装置の機能ブロック図である。本実施形態に係るドア開閉装置1は、エレベータ乗りかごの入口上部に配置されており、図1に示すように、エレベータドア駆動用モータ2、ベルト伝達体3、減速プーリ4、ドア駆動用Vベルト5、エレベータドア6、エレベータドア案内レール7を備えている。即ち、本実施形態においては、エレベータドア駆動用モータ2、ベルト伝達体3、減速プーリ4、ドア駆動用Vベルト5が、ドア開閉機構として機能する。
【0020】
また、ドア開閉動作異常監視装置8は、トルク指令手段10、モニター手段11、ドア速度検知手段12、駆動装置制御手段13、ドアモータベアリング監視手段14、ベルトテンション監視手段15、シル内ゴミ詰まり監視手段16を備えている。
【0021】
ドア駆動用モータ2の回転は、ベルト伝達体3によって減速プーリ4に伝達される。ドア駆動用モータ2は、インバータを用いて速度制御(インバータ制御)される。減速プーリ4の回転は、ドア駆動用Vベルト5によってエレベータドア6に伝達される。エレベータドア6は、ドア駆動用Vベルト5の回転に従い、案内レール7に沿って開閉される。
【0022】
ドア開閉動作異常監視装置8は、上述した各構成夫々の機能により、ドア開閉装置1に設けられたドア駆動用モータ2のベアリング劣化を監視する。トルク指令手段10は、ドア駆動用モータ2の駆動を制御するためのトルク指令値を示す信号を出力するモータ駆動部である。上述したように、ドア駆動用モータ2はインバータ制御されるため、トルク指令手段10が出力するトルク指令値の信号は直流電流であり、その電流値はトルク指令値に応じて制御される。
【0023】
モニター手段11は、トルク指令手段10のトルク指令によって駆動される駆動用モータ2の駆動状態をモニターするモータ駆動状態検知部である。上述したように、トルク指令手段10が出力するトルク指令値は直流電流であり、モニター手段11はその電流値を検知する。ドア速度検知手段12は、エレベータドア6の開閉速度を検知するドア開閉速度検知部である。
【0024】
駆動装置制御手段13は、ドア速度検知手段12によるエレベータドア6の開閉速度の検知結果と、モニター手段11によるトルク指令値のモニター結果とに応じて、ドア開閉速度が所定の範囲内となるようにトルク指令手段10によるトルク指令値の出力を制御するモータ駆動制御部である。また、駆動装置制御手段13は、一定時間毎のドア開閉時に、ドア駆動用モータ2が、通常運転におけるドア開閉時の加速よりも非常に緩やかな加速によって回転し、エレベータドア6の開閉速度変化が一定になるように、トルク指令手段10を制御して超緩加速トルクのトルク指令値を出力させる。
【0025】
ドア開閉機構監視手段14は、モニター手段11を介して上記超緩加速トルクのトルク指令値を認識し、その認識結果のトルク指令と、トルク指令値の初期値を基準とした一定範囲との比較に基づいて、ドア開閉機構の劣化を判断する。具体的に、ドア開閉機構監視手段14は、トルク指令値の認識結果が上記初期値を基準とした一定範囲内であれば、ドア開閉機構劣化していないと判断する。他方、トルク指令値の認識結果が上記初期値を基準とした一定範囲外であれば、ドア開閉機構のドアモータベアリング、Vベルトテンションいずれかがが劣化、またはシル内ゴミ詰まりがあると判断する。
【0026】
ドアモータベアリング監視手段15は、上記ドア開閉機構監視手段14が、ドア開閉機構が劣化していると判断した場合に、追加精密診断のための間欠診断運転を行う。追加精密診断においては、駆動装置制御手段13が、トルク指令手段10を制御して、瞬間的なトルク指令値を間欠的に出力させる。ドアモータベアリング監視手段15は、そのようなトルク指令値に従って動作したドア駆動用モータ2によって駆動されたエレベータドア6の開閉速度変化を、ドア速度検知手段12を介して認識する。そして、ドアモータベアリング監視手段15は、その認識結果において、エレベータドア6の開閉が、瞬間的なトルク指令値に遅れることなく変化しているか否かに応じて、ドアモータベアリングの劣化を判断する。
【0027】
具体的に、ドアモータベアリング監視手段15は、追加精密診断によるエレベータドア6の開閉速度が、瞬間的なトルク指令に追随して変化していれば、即ち、一定時間以内に変化していれば、ドアモータベアリングが劣化していると判断する。他方、追加精密診断によるエレベータドア6の開閉速度が、瞬間的なトルク指令に対して一定時間以上遅れて変化していれば、ベルトテンションが劣化している、またはシル内ゴミ詰まりがあると判断する。
【0028】
ベルトテンション監視手段16は、上記追加精密診断におけるトルク指令値をモニター手段11を介して認識すると共に、エレベータドア6の開閉速度をドア速度検知手段12を介して認識し、トルク指令値に対してエレベータドア6の開閉速度を示す波形が著しく乱れた場合に、シル内のゴミ詰まりが発生していると判断する。このように、本実施形態においては、劣化判断部として機能する構成として、ドア開閉機構監視手段14、ドアモータベアリング監視手段15及びベルトテンション監視手段16が設けられている。
【0029】
次に、本実施形態に係るドアモータ監視装置8の動作について説明する。図2は、本実施形態に係るドアモータ監視装置8による監視動作を示すフローチャートである。図2に示すように、まず、エレベータが正常な状態で、乗場からのエレベータの呼びが入り、乗りかごが呼び階に到着する(S201)。
【0030】
ここで、駆動装置制御手段13は、上述した超緩加速トルクによる試験を実行し、ドア開閉機構を監視するタイミングであるか否かを判断する(S202)。S202において、駆動制御手段13は、前回の試験を完了した後にカウント開始されたカウント値が所定の閾値に達していることや、予め定められた日時条件を過ぎていること等により、試験を実行するタイミングであることを判断する。
【0031】
S202の判断の結果、試験を実行するタイミングでなければ(S202/NO)、駆動装置制御手段13は、通常通りのドアの開閉制御を実行し(S203)、処理を終了する。他方、S202の判断の結果、試験を実行するタイミングであった場合(S202/YES)、駆動装置制御手段13は、トルク指令手段10に超緩加速トルクを出力させる試験モードに入り、試験モードでのドア開閉を実行する(S204)。
【0032】
試験モードでのドア開閉制御においては、駆動装置制御手段13が、トルク指令手段10を制御し、ドア駆動用モータ2を非常に緩やかな加速によって回転させる超緩加速トルクのトルク指令値を出力させる。この場合も、通常のエレベータドア6の開閉制御と同様に、モニター手段11が上記超緩加速トルクのトルク指令値を検知すると共に、ドア速度検知手段12が、上記超緩加速トルクによって開閉されるエレベータドア6の開閉スピードを検知する。そして、駆動装置制御手段13は、ドア速度検知手段12によって検知されるエレベータドア6の開閉スピードが、予め定められた超緩加速トルクに対応した速度変化となるように、トルク指令手段10に出力させるトルク指令値をフィードバック制御する。
【0033】
ドア開閉機構監視手段14は、上記試験モードにおいてモニター手段11が検知するトルク指令値を監視しており、トルク指令値の出力推移が予め定められた所定の範囲内であるか否かを判断する(S205)。S205の判断において、トルク指令値の出力推移が、図3に示すように、ドア開閉速度の超緩加速に応じて変化している場合(S205/NO)、ドア開閉機構監視手段14は、モータベアリング及びベルトテンション共に正常であると判断し(S206)、処理を終了する。
【0034】
S205の判断において、トルク指令値の出力推移が、図4に示すように、ドア開閉速度の超緩加速よりも所定以上高いレートで増加している場合(S205/YES)、ドア開閉機構監視手段14は、ドア開閉機構が劣化していると判断し、ドアモータベアリング監視手段15にドア開閉機構の異常を通知する。
【0035】
ここで、図5は、図4に示すトルク指令値の変化量Δの閾値と時間との関係の例を示すグラフである。図5の例においては、時間に応じたトルク指令値の変化量Δが、時間の階乗に比例している。即ち、本実施形態に係るドア開閉機構監視手段14は、図4に示すように時間に応じて増大するトルク指令値の変化量Δが、経過時間に応じて図5に示す曲線よりも低ければ、追加精密診断は不要であると判断する。
【0036】
ドアモータベアリング監視手段15は、ドア開閉機構の異常の通知を受けると、上述した追加精密診断の実行要求を駆動装置制御手段13に送信し、駆動装置制御手段13と共同して追加精密診断を実行する(S207)。S207の追加精密診断においては、駆動装置制御手段13が、トルク指令手段10を制御し、瞬間的なトルク指令値を間欠的に出力させる。それに対して、ドアモータベアリング監視手段15が、ドア速度検知手段12が検知したエレベータドア6の開閉速度を参照し、間欠的なトルク指令値出力に対してドア開閉速度変化に時間差があるか否か判断する(S208)。
【0037】
S208の判断の結果、図6に示すように、間欠的なトルク指令値出力に対してドア開閉速度変化に時間差がなければ(S208/NO)、ドアモータベアリング監視手段15は、モータベアリングが劣化しており、ドアモータベアリング交換の作業が必要であるが、ベルトテンションは正常であると判断し(S209)、処理を終了する。
【0038】
他方、S208の判断の結果、図7に示すように、間欠的なトルク指令値出力に対してドア開閉速度変化に時間差がある場合(S208/YES)、ドアモータベアリング監視手段15は、ベルトテンションが劣化している可能性があると判断する。次に、ベルトテンション監視手段16が、エレベータドア6の開閉速度変化が著しく低いか否か判断する(S210)。S210において、ベルトテンション監視手段16は、上述した間欠的なトルク指令値出力に対して、ドア速度検知手段12を介して検知されたエレベータドア6の速度変化のピークと、予め定められた所定の閾値との比較結果や、間欠的なトルク指令値出力に対するドア開閉速度変化の時間差が所定の閾値以上である場合等に、エレベータドア6の開閉速度変化が著しく低いと判断する。
【0039】
S210の判断の結果、エレベータドア6の開閉速度変化が著しく低い場合(S210/YES)、ベルトテンション監視手段16は、シル内にゴミ詰まりが発生していると判断して(S211)、処理を終了する。他方、エレベータドア6の開閉速度変化が著しく低くはない場合(S210/YES)、ベルトテンション監視手段16は、シル内のゴミ詰まりはないと判断し、ベルトテンションが劣化していると判断して(S212)、処理を終了する。
【0040】
このような処理により、本実施形態に係るエレベータシステムのドアモータベアリングの劣化や、ベルトテンションの劣化を、ドア開閉動作異常監視装置8による自動制御によって判断することができる。そのため、保存作業者の経験及び習慣に依存することなく、ドアモータベアリング監視及びベルトテンション監視作業を効率的に実施することが可能となり、保全作業の労力の軽減化及び監視作業の信頼性向上を図ることができる。
【0041】
尚、の図1において説明したドア開閉動作異常監視装置8は、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。以下、本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置8のハードウェア構成について図8を参照して説明する。図8に示すように、本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置8は、一般的な情報処理端末と同様の構成を有する。即ち、本実施形態に係る制御部Bは、CPU(Central Processing Unit)101、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)103、HDD(Hard Disk Drive)104及びI/F105がバス108を介して接続されている。また、I/F105にはLCD(Liquid Crystal Display)106及び操作部107が接続されている。
【0042】
CPU101は演算手段であり、ドア開閉動作異常監視装置8全体の動作を制御する。RAM102は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU101が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM103は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。
【0043】
HDD104は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。I/F105は、バス108と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。LCD106は、ユーザがドア開閉動作異常監視装置8の状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。操作部107は、キーボードやマウス等、ユーザがドア開閉動作異常監視装置8に情報を入力するためのユーザインタフェースである。
【0044】
このようなハードウェア構成において、ROM103やHDD104若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM102に読み出され、それらのプログラムに従ってCPU101が演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、図1に示すような、本実施形態に係るドア開閉動作異常監視装置8の機能を実現する機能ブロックが構成される。
【符号の説明】
【0045】
1 エレベータドア開閉装置
2 ドア駆動用モータ
3 ベルト伝達体
4 減速プーリ
5 ドア駆動用Vベルト
6 エレベータドア
7 エレベータドア案内レール
8 ドア開閉動作異常監視装置
10 トルク指令手段
11 モニター手段
12 ドア速度検出手段
13 駆動装置制御手段
14 ドア開閉機構監視手段
15 ドアモータベアリング監視手段
16 ベルトテンション監視手段
101 CPU
102 RAM
103 ROM
104 HDD
105 I/F
106 LCD
107 操作部
108 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御装置であって、
前記ドアを開閉するためのモータを駆動するモータ駆動部と、
前記モータの駆動を制御するモータ駆動制御部と、
前記モータ駆動部による前記モータの駆動状態を検知するモータ駆動状態検知部と、
前記モータによって駆動されて開閉される前記ドアの開閉速度を検知するドア開閉速度検知部と、
前記ドアの開閉速度に基づいて前記ドアの開閉機構の劣化を判断する劣化判断部とを含み、
前記モータ駆動制御部は、検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部を制御し、
前記劣化判断部は、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とするエレベータドア開閉制御装置。
【請求項2】
前記劣化判断部は、前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータ駆動部が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づき、前記モータ駆動部による駆動量が所定の範囲を超えている場合に、前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする請求項1に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項3】
前記モータ駆動制御部は、前記ドアが間欠的に開閉されるように前記モータ駆動部を制御し、
前記劣化判断部は、前記モータ駆動部による前記ドアが間欠的に開閉されるような前記モータの駆動タイミングと、検知された前記ドアの開閉速度に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項4】
前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動タイミングが、前記モータの駆動タイミングに対して所定の期間以上遅れている場合に、前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする請求項3に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項5】
前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動タイミングが、前記モータの駆動タイミングに対して所定の期間内で遅れている場合に、前記ドア開閉機構のうち、前記モータの動力を前記ドアに伝達するために設けられるドアモータベアリングの劣化を判断することを特徴とする請求項4に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項6】
前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動量と所定の閾値との比較結果に基づき、ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とする請求項5に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項7】
前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動量と所定の閾値との比較結果に基づき、ドアの開閉速度が著しく低くない場合に、ベルトテンションの劣化を判断することを特徴とする請求項5または6に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項8】
前記劣化判断部は、間欠的に開閉されるように駆動された結果の前記ドアの移動量と所定の閾値との比較結果に基づき、ドアの開閉速度変化が著しく低い場合に、エレベータドアシル内の異物の存在を判断することを特徴とする請求項5または6に記載のエレベータドア開閉制御装置。
【請求項9】
エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御方法であって、
モータによって駆動されたドアの開閉速度を検知し、
検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動を制御し、
前記モータの駆動状態を検知し、
前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断することを特徴とするエレベータドア開閉制御方法。
【請求項10】
エレベータのドアの開閉を制御するエレベータドア開閉制御プログラムであって、
モータによって駆動されたドアの開閉速度を検知するステップと、
検知された前記ドアの開閉速度に基づき、前記エレベータの通常運転における前記ドアの開閉時の加速よりも緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動を制御するステップと、
前記モータの駆動状態を検知するステップと、
前記緩やかな加速によって前記ドアが開閉されるように前記モータの駆動が制御される際の前記モータの駆動状態の検知結果に基づいて前記ドア開閉機構の劣化を判断するステップとを情報処理装置に実行させることを特徴とするエレベータドア開閉制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197144(P2012−197144A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62434(P2011−62434)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】