説明

エレベーターのブレーキ装置

【課題】本発明の目的は、ブレーキライニングの点検、清掃、交換を容易に行うことができるエレベータのブレーキ装置を提供することにある。
【解決手段】ブレーキシューユニット3およびブレーキライニング4をブレーキアーム2に円柱形のブレーキシューユニット支点部3aを介して回転可能な構造に取り付けることにより、ブレーキライニングの点検、清掃、交換の際には、ブレーキばね固定ナット10とブレーキばね9を緩めた状態にてブレーキシューユニット3とブレーキライニング4とを作業正面に回転可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキのブレーキライニングの点検、清掃、交換作業に好適なエレベーターのブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラムブレーキのブレーキライニングの点検、清掃、交換作業に好適なエレベーターのブレーキ装置としては,ブレーキライニングがブレーキドラムに干渉しないようにブレーキアームを保持可能なガイドロッドを備えた構成とし、ブレーキライニング交換時にブレーキアームをブレーキドラムの軸方向に沿って移動可能とする構造が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、ブレーキディスクを挟み込んで制動するディスクブレーキでは、ブレーキライニング取付板が回動軸ピンを中心として、ブレーキディスクの円周方向に回動可能に連結された構造が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−292599号公報
【特許文献2】特開2009−280325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に記載されたエレベーターのブレーキ装置では、ブレーキライニングの点検、清掃、交換の際にブレーキアームをブレーキドラムに圧着するために設けられているブレーキばねを取り外した上でブレーキレバーを移動する必要があるため、作業が煩雑となり、作業に要する時間がかかってしまうという問題があった。
【0006】
また、ブレーキライニングの点検、清掃、交換の際に、ブレーキライニングがブレーキドラムに圧着する面を正面から見ることができる角度から作業することが困難であるという問題があった。
【0007】
また、前述した特許文献2に記載されたエレベーターのブレーキ装置では、ブレーキディスクの円周方向に回動可能であるため、ブレーキドラムを使用したブレーキには適用できない。また、緊急制動時には回転軸に過大な荷重がかかるため回動軸ピンを強固なものにする必要があるという問題があった。
【0008】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、ブレーキライニングの点検、清掃、交換を容易かつ短時間に行うことができるエレベータのブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、エレベータの巻上機に連結されるブレーキドラムと、このブレーキドラムの外周面に当接して前記ブレーキドラムに制動力を付与するブレーキライニングと、このブレーキライニングが固定されるブレーキシューユニットと、このブレーキシューユニットが固定され前記ブレーキライニングがブレーキドラムへの当接位置もしくは非当接位置のいずれかに位置するよう前記ブレーキシューユニットの位置を移動させる一対のブレーキアームと、前記ブレーキアームの一端をそれぞれ回動可能に支持する支点ロッドと、ブレーキアームをブレーキドラムに圧着させるブレーキばねとブレーキばねロッドを備えたエレベータのブレーキ装置において、
前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームに対しで円柱形のブレーキシューユニット支点部を介して回転可能となるように取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成にしたことにより、ブレーキライニングの点検、清掃、交換においては、ブレーキばねの取り外しや重量部品であるブレーキアームの移動を行うことなく、ブレーキライニングの圧着面をブレーキの正面から点検、清掃したり、ブレーキライニングの交換を行うことが可能となるため、点検、清掃、交換に要する作業時間や作業量を低減でき、保守コストを低減可能である。また、ブレーキライニングへのアクセスを容易にすることにより作業上の安全の確保を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るエレベータのブレーキ装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ブレーキシューユニットを回転させた状態の図1のA−A断面図である。
【図4】従来の技術に係るエレベータのブレーキ装置の例示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るエレベータのブレーキ装置の一実施形態を図に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明に係るエレベータのブレーキ装置の第1実施形態を示す正面図、図2は、図1のA−A断面図、図3は、ブレーキシューユニット3を回転させた状態の図1のA−A断面に相当する断面図、図4は従来のエレベータのブレーキ装置の例を示す正面図である。
【0014】
これらの図1から図3に示すように、本発明に係る実施形態は、ブレーキベース6は、巻上機(図示せず)の回転と同期して回転する略円筒状の被制動部を有するブレーキドラム1と、ブレーキドラム1の外周面に当接してブレーキドラム1に制動力を付与するブレーキライニング4と、このブレーキライニング4のドラム側とは反対側に設置されるブレーキシューユニット3と、このブレーキシューユニット3が円柱状のブレーキシューユニット支点部3aを介し、回転可能に固定されたブレーキアーム2とを備えている。また、ブレーキライニング4はブレーキシューユニット3に埋め込まれるブレーキライニング固定ねじ7によって固定してある。またブレーキベース6は、図示しないブレーキレバーが挿入されるブレーキコア8、及びブレーキアーム2とブレーキシューユニット3とブレーキライニング4とを支点ロッド5を支点としてブレーキドラム1に圧着するブレーキばね9、ブレーキばねロッド10、ブレーキばね固定ナット1を備えている。
【0015】
図2は通常稼動時におけるブレーキアーム2とブレーキシューユニット3とブレーキライニング4とブレーキシューユニット支点部3aとの位置関係を示す図である。ブレーキシューユニット3とブレーキライニング4はブレーキライニング固定ねじ7によって固定されて一体化されている。ブレーキシューユニット3に設けた穴部には円柱状のブレーキシューユニット支点部3aが貫通しており、かつブレーキシューユニット3がブレーキシューユニット支点部3aを軸にして回転可能としている。ブレーキアーム2にはブレーキシューユニット3およびブレーキシューユニット支点部3aが取り付けられられており、ブレーキシューユニット支点部3aの両端がブレーキアーム2に固定されている。この構造と図2に示すブレーキシューユニット3の形状により、ブレーキシューユニット3およびブレーキライニング4はブレーキアーム2に取り付けられた状態でブレーキシューユニット支点部3aを軸として回転可能である。図3にブレーキシューユニット3を90°回転させた際のブレーキアーム2とブレーキシューユニット3およびブレーキライニング4との位置関係を示す。
【0016】
次に、本発明に係るエレベータのブレーキ装置における点検、清掃、交換の際の作業について説明する。まず、ブレーキばね固定ナット10を緩め、ブレーキばね9を緩めることで、ブレーキアーム2をブレーキドラム1より離れる方向に、支点ロッド5を支点とし回転させ、ブレーキアーム2を開く。これにより、ブレーキシューユニット3およびブレーキライニング4がブレーキドラム1に干渉せずに回転するために必要なスペースを確保する。次に、この状態で、ブレーキシューユニット3およびブレーキライニング4を図3に示すように手前方向に回転させる。このような構造と手順としたことにより、本実施例ではブレーキばねロッド10、ブレーキばね9を取り外さなくともブレーキアーム2に取り付けられているブレーキシューユニット3とブレーキライニング4を、ブレーキベース6の正面に向けて回転するさせることができるので、保守員はブレーキライニング4のブレーキドラム1と摺動する面を容易に目視点検したり、ブレーキライニング4の清掃を行ったり、ブレーキライニング4が磨耗している場合は、ブレーキライニング固定ねじ7を取り外しブレーキライニング4をブレーキベース6の正面から交換することが可能となる。これらの手順により、本発明に係るエレベータのブレーキ装置においては、従来のエレベータのブレーキ装置において必要であったブレーキばね9の取り外しや重量部品であるブレーキアーム2の開放や移動を行うことなく容易に清掃、交換することが可能であり、ひいては保守所要時間の低減と保守コストの低減、ブレーキライニング4へのアクセスを容易にすることによる作業上の安全の確保を図ることが可能となる。
【0017】
以上のように上記実施形態によれば、ブレーキライニングの点検、清掃、交換に際しては、従来のブレーキドラムの構造においてはブレーキばねをブレーキばねロッドより取り外し、ブレーキアームおよびブレーキライニングを開いた上でブレーキライニングを点検、清掃、交換する手順が必要であったのに対して、本発明によるブレーキアーム及びブレーキシューユニットとブレーキライニングの構成においては、ブレーキばねをブレーキばねロッドに固定するナットを緩め、ブレーキシューユニットとブレーキライニングが回転するために必要な角度だけブレーキアームを開き、ブレーキシューユニットとブレーキライニングの圧着面をブレーキドラムに正対した保守員から見える位置まで回転させることができるため、ブレーキライニングを点検、清掃、交換に好適な位置とすることが可能となる。また、特許文献1に示す構造においては、重量部品であるブレーキアームをブレーキドラムの軸方向に沿って移動させる作業が必要となるが、本発明によるブレーキアーム及びブレーキシューユニットとブレーキライニングの構成においては、ブレーキアームをブレーキドラムの軸方向に沿って移動させる必要が無く、重量部品の移動が不要となる。
【符号の説明】
【0018】
1 ブレーキドラム
2 ブレーキアーム
3 ブレーキシューユニット
3a ブレーキシューユニット支点
4 ブレーキライニング
5 支点ロッド
6 ブレーキベース
7 ブレーキライニング固定ねじ
8 ブレーキコア
9 ブレーキばね
10 ブレーキばねロッド
11 ブレーキばね固定ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの巻上機に連結されるブレーキドラムと、このブレーキドラムの外周面に当接して前記ブレーキドラムに制動力を付与するブレーキライニングと、このブレーキライニングが固定されるブレーキシューユニットと、このブレーキシューユニットが固定され前記ブレーキライニングがブレーキドラムへの当接位置もしくは非当接位置のいずれかに位置するよう前記ブレーキシューユニットの位置を移動させる一対のブレーキアームと、前記ブレーキアームの一端をそれぞれ回動可能に支持する支点ロッドと、ブレーキアームをブレーキドラムに圧着させるブレーキばねとブレーキばねロッドを備えたエレベータのブレーキ装置において、
前記ブレーキシューユニットを前記ブレーキアームに対しで円柱形のブレーキシューユニット支点部を介して回転可能となるように取り付けたことを特徴とするエレベータのブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95598(P2013−95598A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243408(P2011−243408)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】