説明

エレベーターの扉装置

【課題】扉全閉時に両開き扉の下端部に隙間が生じにくくすること。
【解決手段】一方扉の下端部に取り付けた一方の気密部材5には平面視で一方扉の突き合せ面31を越えて他方扉側に向かって所定寸法延出した延出部5fが延設される。他方扉の下端部に取り付けた他方の気密部材5は平面視で他方扉の突き合せ面31を越えて一方扉側に向かって所定寸法延出した延出部5fが延設される。それぞれの延出部5f,5fは、扉全閉時に一方扉と他方扉の突き合せ部30の下方位置において平面視で扉開閉方向Tと直交する前後方向にあいじゃくり状に配置されるエレベーターの扉装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの扉装置に関し、詳しくは両開き扉の下端部と乗場床面との隙間を気密的に塞ぐための気密部材を備えたエレベーターの扉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの乗場出入口を開閉する乗場側に配置される両開き扉において、扉の上端部を扉開閉機構に吊り下げ支持し、扉の下端部から突出したガイドシューを乗場床面に設置される敷居のレール溝内に摺動自在に挿入しているのが一般的である。
【0003】
仮に火災発生時には、ガイドシューとレール溝との隙間から煙が漏れて、乗場側から昇降路内、或いは昇降路側から乗場内へ煙が進入することがある。
【0004】
そこで、従来より、エレベーターの乗場出入口を開閉する乗場側の扉の下端部に、敷居のレール溝に摺動自在にガイドされるガイドシューを設け、このガイドシューの外側面に気密部材を取り付けた扉構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。この気密部材は、扉の下端部と敷居との隙間を気密にするためのものであり、気密部材の表面は滑り性に優れた樹脂でコーティングされている。更に気密部材はガイドシューと一体に、固定手段により扉内部の収納位置と扉外部への突出位置のいずれか一方を選択して固定されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−280053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に示される従来例では、扉全閉時には両開き扉の突き合せ部の下方位置では、一方の気密部材の戸先側の端面と他方の気密部材の戸先側の端面とが互いに突き合わされて大きな隙間は生じていない。しかし気密部材はゴム等の軟質材からなり、経年劣化により反りや擦り傷などが生じやすい。このため互いに突き合わされた気密部材の端面間に隙間が生じやすくなり、火災時にはこの隙間を通って煙が乗場側から昇降路内に進入するおそれがある。さらに昇降路内を伝って上階の乗場側へ広がったり、或いはエレベーターかご内に進入するおそれがある。
【0007】
そこで、乗場側に設けられる両開き扉の下端部と乗場床面との隙間の気密性を高めることが重要な課題となる。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、扉全閉時に両開き扉の下端部に隙間が生じにくいエレベーターの扉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明は、エレベーターの乗場から昇降路に通じる乗場出入口を、一方扉と他方扉とを有する両開き扉により開閉すると共に、前記一方扉と前記他方扉の突き合せ面同士が突き合わされる扉全閉時において、前記一方扉の下端部と乗場床面との隙間を気密的に塞ぐための一方の気密部材と、前記他方扉の下端部と乗場床面との隙間を気密的に塞ぐための他方の気密部材とをそれぞれ備えたエレベーターの扉装置であって、前記一方の気密部材は、前記一方扉の下端部に取り付けられると共に戸先側の端部から平面視で前記一方扉の突き合せ面を越えて前記他方扉側に向かって所定寸法延出した延出部が延設されており、前記他方の気密部材は、前記他方扉の下端部に取り付けられると共に戸先側の端部から平面視で前記他方扉の突き合せ面を越えて前記一方扉側に向かって所定寸法延出した延出部が延設されており、前記両方の気密部材のそれぞれの延出部は、扉全閉時に前記一方扉と前記他方扉の突き合せ部の下方位置において平面視で扉開閉方向と直交する前後方向にあいじゃくり状に配置されることを特徴としている。
【0010】
また、前記一方扉と前記他方扉は、扉の上端部が乗場天井面に設置した扉開閉機構に吊り下げ支持されると共に扉の下端部から突出するガイドシューが前記乗場床面に凹設したレール溝内に摺動自在に挿入される上吊り式扉で構成され、前記ガイドシューに前記気密部材を取り付けるための取付部を設けるのが好ましい。
【0011】
また、前記ガイドシューの前後両側に、前記延出部が延設される気密部材と前記延出部が延設されない気密部材とが並設して取り付けられ、扉全閉時に、前記一方扉側のガイドシューの片側に取り付けた前記気密部材の延出部と前記他方扉側のガイドシューの片側に取り付けた前記気密部材の延出部とが前後方向にあいじゃくり状に配置されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエレベーターの扉装置は、扉全閉時に両開き扉の下端部に隙間が生じにくくできるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態のエレベーターの乗場側に配置される両開き扉を示し、(a)は扉全閉時に両開き扉の下端部にそれぞれ取り付けた気密部材のあいじゃくり構造を説明する平面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図2】(a)は同上の気密部材を取り付ける扉の下端部付近の側面断面図であり、(b)は(a)の要部拡大図である。
【図3】同上の両開き扉を含む扉装置全体の施工例の一例を示す分解斜視図である。
【図4】同上の気密部材間の隙間からの煙の漏洩方向を説明する平面図である。
【図5】(a)は同上の気密部材を取り付けたガイドシューを説明する斜視図であり、(b)はガイドシューの斜視図である。
【図6】(a)は同上のガイドシューを収納位置に配置した状態を示す側面断面図であり、(b)は正面図である。
【図7】(a)(b)は本発明の他の実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態のエレベーターの乗場出入口50を開閉する扉装置は、図3に示すように、4枚の上吊り式扉からなる。各扉1の上端部1aは、乗場天井面に設置した扉開閉機構13により開閉駆動される扉ハンガー14に各々吊り下げ支持されている。各扉1の上端部1aと乗場出入口50の天井との隙間は、上枠15に取り付けられる上枠側気密部材16によって遮蔽されるようになっている。なお、扉開閉機構13は本出願人が既に開示した特開2010−173767号公報において公知であり、詳細な説明は省略する。図中の3は床面に設置される敷居(シル)、11,12は左右の縦枠である。
【0016】
以下において、昇降路(エレベーターかご)側をY、乗場側をXと定義し、左右2枚扉のうち昇降路側Yに位置する扉を後扉1B、乗場側Xに位置する扉を前扉1Aと定義する。扉全閉時には左右の後扉1Bの突き合せ部30同士が当接し、扉全開時には左右の前扉1Aの後ろに左右の後扉1Bがそれぞれ重なるように構成してある。
【0017】
上記各扉1A,1Bの下端部1bには、それぞれ、ガイドシュー2が取り付けられている。各ガイドシュー2は、例えばアルミ材からなり、図2に示すように、乗場床面に設置した敷居(シル)3のレール溝4に摺動自在にガイドされる。このガイドシュー2は、後述する床側の気密部材5を保持する前後一対の凹溝状の取付部20と、後述する固定手段6を構成するスライド板7とを一体に備えている。
【0018】
上記ガイドシュー2の各取付部20には、一対の気密部材5,5がガイドシュー2を挟んで前後両側に側面視で略V字形となるように保持されている。気密部材5は、火災時に発生した煙が扉1の下端部1bと敷居3のレール溝4との隙間G(図2(a))から進入するのを防止する遮煙機能を有する。さらに気密部材5はレール溝4に対するガイドシュー2のガタツキを防いで扉1の下端部1bのスムーズな開閉動作を確保するガタツキ防止機能を有する。
【0019】
上記気密部材5は、扉1の下端部1bの全幅に沿って延びる舌状のゴム材で形成されている。気密部材5の戸先側の端部に突設される延出部5fについては後述する。気密部材5の上縁部にはその全長に亘って、図2(b)に示すように、ガイドシュー2の取付部20に嵌め込まれて接着剤にて接着される厚肉の嵌入部5bが形成されている。この嵌入部5bの下端には、上端が嵌入部5bと連なり、中央が内側に凹み、下端が外側に突出するように折り曲げられた略く字状の折曲部5cが形成されている。この折曲部5cはガイドシュー2の押さえ部2cによりガイドシュー2の側面2dから離れる方向への移動が規制されている。折曲部5cの下端よりも下側部分は、ガイドシュー2とレール溝4との間に摺動自在に挿入される挿入部5dとなっている。挿入部5dはレール溝4内面に気密性を保って摺接した状態で、挿入部5dの下端部5eがガイドシュー2の下端部2bよりも上方位置でガイドシュー2の側面2dに当接している。
【0020】
さらに、気密部材5の外表面には、滑り性に優れた樹脂がコーティングされている。この表面コーティング5aは、ゴム材の滑り性の悪さを改善するためのものであり、本例では、気密部材5の挿入部5dから下端部5eに至る外面部分にウレタン樹脂を塗装している。なおウレタン樹脂に限らず、シリコン樹脂等であってもよい。
【0021】
上記ガイドシュー2は、固定手段6によって扉1内部の収納位置P1(図6)と扉1外部への突出位置P2(図2(a))のいずれか一方を選択して固定される。本例では、図5に示すように、ガイドシュー2の上端部2aから更に上方に向かってスライド板7が突設されている。スライド板7には、上下方向Aに長いスリット穴8が例えば左右3列、形成されている。一方、扉1の扉板1cからは、図6に示すように、スリット穴8と対応する位置にネジ軸9aが突設され、このネジ軸9aがスリット穴8にスライド可能に挿通している。ネジ軸9aの先端にはワッシャ9cを介してナット9bが螺合している。ナット9bは、気密部材5の収納位置P1(図6)に対応する上端位置、又は気密部材5の突出位置P2(図2(a))に対応する下端位置、のいずれか一方でスライド板7を固定する。これらネジ軸9a、ナット9b等からなる固定具9と、スリット穴8付きスライド板7とで、固定手段6が構成されている。
【0022】
次に、図1を参照して左右の後扉1B,1Bの下端部1bに取り付けられる気密部材5の延出部5fについて説明する。
【0023】
一方の後扉1B(一方扉)の下端部1bのガイドシュー2に前後一対の気密部材5が取り付けられている。図5(a)に示すように、片側の気密部材5のみに延出部5fが延設されており、他側の気密部材5には延出部5fは延設されていない。延出部5fは、ガイドシュー2の端面2eよりも扉閉方向T1に向かって延出している。この延出部5fは、嵌入部5bが切除されている点を除いて、気密部材5と同じ断面形状を有している。延出部5fは、扉全閉時には図1(b)の平面図で示すように、平面から視て一方の後扉1Bの突き合せ面31を越えて他方の後扉1B側に向かって所定寸法延出している。これと同様に、他方の後扉1B(他方扉)の下端部1bのガイドシュー2にも前後一対の気密部材5が取り付けられており、片側の気密部材5のみに延出部5fが延出されており、他側の気密部材5には延出部5fは延設されていない。上記両方の延出部5f,5fの延出方向は互いに反対方向とされる。
【0024】
上記両方の延出部5f,5fは、図1(a)に示す扉全閉時において、平面視で扉開閉方向Tと直交する前後方向にあいじゃくり状に配置される。つまり、乗場側Xに位置する延出部5fと昇降路側Yに位置する延出部5fとがあいじゃくり構造とされる。なお、ガイドシュー2の先端面2eは平面から見て後扉1Bの突き合せ面31よりも内側に入り込んで位置しており、ガイドシュー2の先端面2eに妨げられることなく延出部5f,5f同士があいじゃくり状に配置可能とされる。なお、延出部5f,5fの突出寸法は図1(b)に限定されるものではなく、突出寸法は適宜に設計変更自在である。
【0025】
しかして、扉全閉時には後扉1B,1Bの突き合せ部30の下方位置において、一方の後扉1B側から突出する気密部材5の延出部5fと他方の後扉1B側から突出する気密部材5の延出部5fとがあいじゃくり構造となる。つまり、ガイドシュー2の前後両側に、延出部5fが延設される気密部材5と延出部5fが延設されない気密部材5とを並設して取り付け、扉全閉時に一方の後扉1B側のガイドシュー2の前側に取り付けた気密部材5の延出部5fと他方の後扉1B側のガイドシュー2の後側に取り付けた気密部材5の延出部5fとが前後にあいじゃくり状に配置されるようになる。従って、火災時に発生した煙が後扉1B,1Bの突き合せ部30の下端部側から図4の矢印Wで示す方向へ進入するのが阻止される。このとき仮りに前後2枚の延出部5f,5fの一方を越えて煙が進入したとしても他方の延出部5fによってそれ以上の進入が阻止されるようになる。この結果、ガイドシュー2の前後両側にそれぞれ気密部材5,5を設けた気密構造と、各気密部材5,5からそれぞれ延出する延出部5f,5f同士のあいじゃくり構造とによって遮煙効果が向上する。これにより、昇降路側Yから乗場側X、或いは逆方向に向かって煙が漏洩しにくくなる。
【0026】
また本例では、施工前の運搬時にガイドシュー2を収納位置P1(図6)で固定しておくことにより、扉1の下端部から外部にガイドシュー2や表面コーティング5aが施された気密部材5が突出しないようにできる。従って、運搬時や施工時にガイドシュー2や気密部材5を保護できて傷つきにくくできると共に、扉1の取り扱いが容易となる。また、現場ではナット9bを緩めて、スライド板7を下方にスライドさせて気密部材5付きガイドシュー2を扉1の下端部1bから外方へ突出させる。その後、ナット9bを再度締め付けるだけで突出位置P2(図2(a))に簡単に切り替えることができる。従って、現場作業がはかどるうえに、気密部材5による遮煙効果が得られるようになる。
【0027】
そのうえ、上記ガイドシュー2に気密部材5の取付部20を設けているので、ガイドシュー2を利用して気密部材5を取り付けることができる。これにより、ガイドシュー2を上下させるときは気密部材5も一体に上下するようになり、気密部材5の上下移動も容易となる。
【0028】
前記実施形態では、スライド板7にスリット穴8を設けたが、他例として、図7に示すように、スライド板7に上下2箇所に離れてネジ孔8a,8bを形成してもよい。本例では、上側のネジ孔8aと下側のネジ孔8bを選択することで、気密部材5付きガイドシュー2を扉1内部の収納位置P1(図6)と扉1外部への突出位置P2(図2(a))とにそれぞれ確実に固定可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 扉
1b 扉の下端部
1A 前扉
1B 後扉(一方扉、他方扉)
2 ガイドシュー
3 敷居
4 レール溝
5 気密部材
5f 延出部
6 固定手段
13 扉開閉機構
20 取付部
30 扉の突き合せ部
31 突き合せ面
50 乗場出入口
A 上下方向
G 隙間
P1 収納位置
P2 突出位置
T 扉開閉方向
X 乗場側
Y 昇降路側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗場から昇降路に通じる乗場出入口を、一方扉と他方扉とを有する両開き扉により開閉すると共に、前記一方扉と前記他方扉の突き合せ面同士が突き合わされる扉全閉時において、前記一方扉の下端部と乗場床面との隙間を気密的に塞ぐための一方の気密部材と、前記他方扉の下端部と乗場床面との隙間を気密的に塞ぐための他方の気密部材とをそれぞれ備えたエレベーターの扉装置であって、前記一方の気密部材は、前記一方扉の下端部に取り付けられると共に戸先側の端部から平面視で前記一方扉の突き合せ面を越えて前記他方扉側に向かって所定寸法延出した延出部が延設されており、前記他方の気密部材は、前記他方扉の下端部に取り付けられると共に戸先側の端部から平面視で前記他方扉の突き合せ面を越えて前記一方扉側に向かって所定寸法延出した延出部が延設されており、前記両方の気密部材のそれぞれの延出部は、扉全閉時に前記一方扉と前記他方扉の突き合せ部の下方位置において平面視で扉開閉方向と直交する前後方向にあいじゃくり状に配置されることを特徴とするエレベーターの扉装置。
【請求項2】
前記一方扉と前記他方扉は、扉の上端部が乗場天井面に設置した扉開閉機構に吊り下げ支持されると共に扉の下端部から突出するガイドシューが前記乗場床面に凹設したレール溝内に摺動自在に挿入される上吊り式扉で構成され、前記ガイドシューに前記気密部材を取り付けるための取付部を設けたことを特徴とする請求項1記載のエレベーターの扉装置。
【請求項3】
前記ガイドシューの前後両側に、前記延出部が延設される気密部材と前記延出部が延設されない気密部材とが並設して取り付けられ、扉全閉時に、前記一方扉側のガイドシューの片側に取り付けた前記気密部材の延出部と前記他方扉側のガイドシューの片側に取り付けた前記気密部材の延出部とが前後方向にあいじゃくり状に配置されることを特徴とする請求項2記載のエレベーターの扉装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144319(P2012−144319A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3190(P2011−3190)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(505356468)パナソニック ホームエレベーター株式会社 (23)
【出願人】(397003219)司ゴム電材株式会社 (10)
【Fターム(参考)】