説明

エレベーター用薄型巻上機

【課題】安全かつ容易にブレーキドラムの脱脂作業を行うことのできるエレベーター用薄型巻上機の提供。
【解決手段】筺体7に、ブレーキドラム10の外周制動面を露出する窓部14を有し、脱脂作業時に窓部14に挿入した脱脂部材を保持可能な脱脂部材取り付け部13を設けている。また、脱脂部材取り付け部13は、主軸9の径方向ではブレーキドラム10の外周制動面に対応して位置すると共に、主軸9の周方向では主軸9とほぼ同一レベルの真横と電磁ブレーキ装置11間に位置する筺体7の肩部に形成している。そして、窓部14に挿入して脱脂部材取り付け部13に保持固定した脱脂部材の脱脂材をブレーキドラム10の外周制動面に圧接させて脱脂作業を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの昇降路内に配置するエレベーター用薄型巻上機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗りかごの昇降速度が比較的遅いエレベーターにおいては、機械室を設けない、いわゆる機械室レスエレベータが普及している。この機械室レスエレベータの場合、従来における機械室最上階の機械室に設置していた全機器を昇降路内に設置するため、乗りかごと昇降路壁の比較的限られた寸法となる隙間に巻上機を設置する必要がある。そこで、従来、巻上機の小型化を図るための技術として、綱車とモータ回転子およびディスクブレーキ用のブレーキディスクを鋳造一体成形したものや(例えば、特許文献1を参照)、モータ回転子の内周面または外周面をブレーキドラムの制動面とするものなどが知られている(例えば、特許文献2、3を参照)。
【0003】
後者のようなエレベーター用薄型巻上機は、運転時は綱車と一体的に構成したブレーキドラムをアウタロータ型モータへの通電によって回転駆動し、停止時は電磁ブレーキ装置ブレーキパッドをブレーキドラムの外周制動面に圧接して制動する構成となっているが、ブレーキドラムの外周制動面に油が付着した状態では、ブレーキが所定の制動性能を発揮することができない。そのため、巻上機内部を伝う油が制動面に付着することを防止する構造が知られている(例えば、特許文献4を参照)。しかし、製作期間の防錆油や運転時の飛散し付着した油に対しては、ブレーキドラムの外周制動面の脱脂作業を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−247514号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2004/108579号公報
【特許文献3】特開2009−155070号公報
【特許文献4】特開2008−222372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、製作期間の防錆油に対して、前述した背景技術を含む従来の巻上機のようにドラム単品の状態で脱脂すると、組み立てまでに時間がかかってしまいブレーキドラムの制動面に錆が発生してしまう。これを防止するために、出荷直前の工程で脱脂作業を行おうとすると、筺体で囲まれたブレーキドラムの外周制動面を脱脂するため、非常に大変な狭隘作業となってしまう。また、運転時の飛散油に対して現地で脱脂作業を行う場合には、前述の状態に加えて、エレベーター装置として昇降路内に各種装置が配置されており、エレベーター用薄型巻上機と高さ方向で重ならない位置に乗りかごを移動した後、昇降路壁とつり合いおもりおよびガイドレール等で囲まれた狭い空間部で作業を行うことになる。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、安全かつ容易にブレーキドラムの脱脂作業を行うことのできるエレベーター用薄型巻上機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、筐体と、この筐体に支持固定した主軸と、この主軸に回転可能に取り付けた綱車と、この綱車と一体的に形成されると共に制動面を有したブレーキドラムと、前記制動面にブレーキパッドを接触して制動するように前記筐体に支持して設けた電磁ブレーキ装置と、前記ブレーキドラム側に固定したモータ回転子と、このモータ回転子に対向配置されて前記筐体側に固定したモータ固定子とを備えたエレベーター用薄型巻上機において、前記筺体に、前記制動面を露出する窓部を有し、脱脂作業時に前記窓部に挿入した脱脂部材を保持可能な脱脂部材取り付け部を設けたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明では、脱脂作業は、筺体に設けられる脱脂部材取り付け部に脱脂部材を取り付け、この状態でエレベーター用薄型巻上機を空運転させ、脱脂部材をブレーキドラムの制動面に圧接することで行う。これによって、エレベーター用薄型巻上機を組み立てた後に脱脂部材取り付け部を利用して脱脂作業を行うことができるので、組み立て前の単体での脱脂作業を行った場合のように組み立て後におけるブレーキドラムの錆発生を防止することができる。しかも、筺体内で回転するブレーキドラムに対して行う危険な狭隘作業を伴うことなく、安全かつ容易に行うことができる。
【0009】
また、本発明は、前記脱脂部材取り付け部は、前記主軸の径方向では前記制動面に対応して位置すると共に、前記主軸の周方向では前記主軸のほぼ真横と前記電磁ブレーキ装置間に位置する肩部に配置したことを特徴としている。
【0010】
このように構成した本発明では、電磁ブレーキ装置と干渉することなく、また、エレベーター用薄型巻上機の幅方向を大きくすることなく脱脂作業のための新たな機能を付加することができる
さらに、本発明は、前記脱脂部材取り付け部と前記脱脂部材の接触面は、前記制動面に沿うように勾配が設けられることを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明では、脱脂部材取り付け部と脱脂部材の接触面が、制動面に沿うように勾配が設けられることで、ブレーキドラムを回転した際に、脱脂に必要な押し付け力を脱脂部材に生じさせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エレベーター用薄型巻上機を組み立てた後に脱脂部材取り付け部を利用して脱脂作業を行うことができるので、組み立て前の単体での脱脂作業を行った場合のように組み立て後におけるブレーキドラムの錆発生を防止することができる。しかも、予め筺体に一体的に形成した脱脂部材取り付け部を利用して脱脂部材を配置し、空運転させながら脱脂部材によってブレーキドラムの制動面を脱脂できるため、筺体内で回転するブレーキドラムに対して行う危険な狭隘作業を伴うことなく、安全かつ容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のエレベーター用薄型巻上機を使用したエレベーター装置を示す平面図である。
【図2】本発明のエレベーター用薄型巻上機の一実施例を示す正面図である。
【図3】図2に示したエレベーター用薄型巻上機の側面図である。
【図4】図2に示したエレベーター用薄型巻上機の脱脂部材取り付け部内に挿入して使用する脱脂部材の斜視図である。
【図5】図2に示したエレベーター用薄型巻上機の脱脂部材取り付け部内に脱脂部材を装着した状態を示す部分拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るエレベーター用薄型巻上機の実施例を図に基づき説明する。
【0015】
エレベーター装置は、図1に示すように、昇降路1内に、一対のガイドレール2に沿って昇降可能な乗りかご3と、図示しない主索によって乗りかご3に連結されて一対のガイドレール4に沿って昇降可能なつり合いおもり5と、昇降路1と乗りかご3の間にある隙間に設置したエレベーター用薄型巻上機6とが設けられている。このエレベーター用薄型巻上機6は、その詳細構成について後述するが、乗りかご3側に固定側の筺体7を位置させ、この筺体7に対して可回転的な綱車8は反対側の昇降路壁側に位置させている。
【0016】
乗りかご3とつり合いおもり5の間を連結した複数本の主索は、エレベーター用薄型巻上機6の綱車8に形成した複数の溝部にそれぞれ合致するように巻き掛けられ、詳細を後述するモータ構成によって綱車8を回転して主索を駆動すると、乗りかご3とつり合いおもり5とがそれぞれのガイドレール2、4に沿って逆方向に昇降するように構成されている。
【0017】
エレベーター用薄型巻上機6は、図2および図3に示すように、筺体7の中心部に可回転的に支持した主軸9に、綱車8と、この綱車8よりも外周部に外周制動面を有するブレーキドラム10とが一体的に結合され、このブレーキドラム10の乗りかご3側には強度部材である筐体7が配置されている。ブレーキドラム10と筺体7との対向部にはアウタロータ型モータが構成され、ブレーキドラム10側には図示しないモータ回転子が取り付けられると共に、ブレーキドラム10と対向した位置の筐体7側には図示しないモータ固定子が取り付けられている。そして、このアウタロータ型モータは、通電によって綱車8およびブレーキドラム10で代表されるモータ回転子側の可動部を一体的に回転駆動するが、通電が遮断された後、筺体7の上下部にそれぞれ配置した同一構成の電磁ブレーキ装置11のブレーキパッド12をブレーキドラム10の外周制動面に圧接して制動する構成となっている。
【0018】
ブレーキドラム10の外周摺動面に対応する位置の筺体7には、詳細を後述する脱脂部材取り付け部13が設けられており、この脱脂部材取り付け部13には、ブレーキドラム10の外周制動面が目視可能な窓部14が形成されている。筺体7がおおよそ箱形の形状である場合、その上下部には前述した一対の電磁ブレーキ装置11が配置されているので、この電磁ブレーキ装置11と干渉しない斜め約45度の肩部位置に脱脂部材取り付け部13を設けるが、この位置に限らず他の位置に形成しても良い。ただし、主軸9の真横に脱脂部材取り付け部13を形成するとエレベーター用薄型巻上機6の幅方向の寸法を増大させてしまうので、主軸9の周方向では主軸9とほぼ同一レベルの真横と電磁ブレーキ装置11間に位置する肩部に脱脂部材取り付け部13を形成するのが望ましい。
【0019】
エレベーター用薄型巻上機6のメンテナンスは、乗りかご3を高さ方向でエレベーター用薄型巻上機6と重ならない位置に上昇させ、乗りかご3が位置していた側から保守作業員によって行われる。このとき、昇降路1内のエレベーター用薄型巻上機6の周辺にはガイドレール2、4やつり合いおもり5などが存在するために狭隘作業となる。しかし、エレベーター用薄型巻上機6を解体することなく、乗りかご3側から作業できるようにするのが望ましい。例えば、筺体7の乗りかご3側に切り欠き窓部等を形成し、この切り欠き窓部を通してブレーキパッド12の制動接触面を目視できるのが望ましい。また、後述するブレーキドラム10における外周摺動面の脱脂作業も乗りかご3側から行えるようにするのが望ましい。
【0020】
次に、エレベーター用薄型巻上機6に形成した脱脂部材取り付け部13について説明する。筺体7には、図2に示したように、主軸9の径方向ではブレーキドラム10の外周制動面に対応して位置すると共に、主軸9の周方向では主軸9とほぼ同一レベルの真横と電磁ブレーキ装置11間に位置する肩部、より詳細にはほぼ45度の角度を成す位置の肩部に脱脂部材取り付け部13を一体的に設け、この脱脂部材取り付け部13にブレーキドラム10の外周制動面が露出して目視可能な窓部14を形成している。このため、電磁ブレーキ装置11と干渉することなく、またエレベーター用薄型巻上機6の幅方向を大きくすることなく新たな機能を付加することができる。
【0021】
脱脂部材取り付け部13に装着して使用する脱脂部材15は、図4に示すように、脱脂部材取り付け部13の窓部14に嵌合して位置保持することができるような外形とした保持部16と、この保持部16に取り付けられて窓部14に嵌合保持した状態でブレーキドラム10の外周制動面に圧接して脱脂を行う脱脂材17とを有している。脱脂部材取り付け部13と脱脂材17の接触面は、ブレーキドラム10の外周制動面に沿うように勾配が設けられており、ブレーキドラム10を回転した際に、脱脂に必要な押し付け力を脱脂材17に生じさせる構造とする。勾配については、脱脂材17の押付け力による回転抑制力が、モータの回転力を上回らないように、脱脂材17とブレーキドラム10の摩擦係数から求められる。
【0022】
本実施例にあっては、図2に示したような構成のエレベーター用薄型巻上機6を使用し、図1に示したようにエレベーター装置を組み立てた後、ブレーキドラム10の外周制動面の脱脂作業を行う。先ず、乗りかご3側から、図2に示した筺体7の脱脂部材取り付け部13に図4に示した脱脂部材15を取り付ける。窓部14によって形成された脱脂部材取り付け部13の内壁面に合致するように予め保持部16の外周面を形成しているため、窓部14に脱脂部材15を挿入すると、図5に示すように保持部16が脱脂部材取り付け部13の内壁面にぴったりと合致して嵌合保持される。このとき、脱脂部材15の脱脂材17はブレーキドラム10の外周制動面に圧接される。
【0023】
このようにして脱脂部材15を取り付けた後、エレベーター用薄型巻上機6のアウタロータ型モータへ通電して綱車8およびブレーキドラム10を回転する。すると、脱脂部材15の脱脂材17がブレーキドラム10の外周制動面に圧接された状態でブレーキドラム10等が回転するため、ブレーキドラム10の外周制動面が脱脂される。保持部16が脱脂部材取り付け部13の内壁面にぴったりと合致して嵌合保持されているため、脱脂部材15が脱脂部材取り付け部13から脱落することはないが、この嵌合状態をより確実に保持するために、補助手段を付加して保持しても良い。脱脂作業を完了したなら、取り付け時と逆の順序で乗りかご3側から脱脂部材15を取り外す。
【0024】
従来のように組み立て前のブレーキドラム10単品に対して予め脱脂作業を行っておいてから組み立てる場合、組み立てまでに要した放置期間中にブレーキドラム10に錆が発生することがあるが、このような脱脂作業によれば、昇降路1内への組み立て時にエレベーター用薄型巻上機6の回転を行いながら脱脂を行うことができるので、ブレーキドラム10に錆が発生することがない。
【0025】
また、このような脱脂作業によれば、筺体7に形成した脱脂部材取り付け部13へ脱脂部材15を取り付けおよび取り外し作業は、昇降路壁側からではなく乗りかご3側から簡単かつ安全に行える。
【0026】
さらに、前述したエレベーター用薄型巻上機6を使用してエレベーター装置を構成した場合も、エレベーター用薄型巻上機6を組み立てた後に脱脂作業を行うことができるので、組み立て前の単体での脱脂作業を行った場合のように組み立て後におけるブレーキドラム10の錆発生を防止することができる。しかも、予め筺体7に一体的に設けた脱脂部材取り付け部13を利用して脱脂部材15を配置し、空運転させながら脱脂部材15によってブレーキドラム10の外周制動面を脱脂できるため、筺体7内で回転するブレーキドラム10に対して行う危険な狭隘作業を伴うことなく行うことができる。
【0027】
尚、前述した実施例では、図2および図3に示した構成のエレベーター用薄型巻上機6を例示したが、この種の構成に限らず他のエレベーター用薄型巻上機6を使用することもできる。また、筺体7に1つの脱脂部材取り付け部13を形成した場合を例示したが、複数の脱脂部材取り付け部13を設けても良い。
【符号の説明】
【0028】
1 昇降路
2 ガイドレール
3 乗りかご
4 ガイドレール
5 つり合いおもり
6 エレベーター用薄型巻上機
7 筐体
8 綱車
9 主軸
10 ブレーキドラム
11 電磁ブレーキ装置
12 ブレーキパッド
13 脱脂部材取り付け部
14 窓部
15 脱脂部材
16 保持部
17 脱脂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、この筐体に支持固定した主軸と、この主軸に回転可能に取り付けた綱車と、この綱車と一体的に形成されると共に制動面を有したブレーキドラムと、前記制動面にブレーキパッドを接触して制動するように前記筐体に支持して設けた電磁ブレーキ装置と、前記ブレーキドラム側に固定したモータ回転子と、このモータ回転子に対向配置されて前記筐体側に固定したモータ固定子とを備えたエレベーター用薄型巻上機において、
前記筺体に、前記制動面を露出する窓部を有し、脱脂作業時に前記窓部に挿入した脱脂部材を保持可能な脱脂部材取り付け部を設けたことを特徴とするエレベーター用薄型巻上機。
【請求項2】
前記脱脂部材取り付け部は、前記主軸の径方向では前記制動面に対応して位置すると共に、前記主軸の周方向では前記主軸のほぼ真横と前記電磁ブレーキ装置間に位置する肩部に配置したことを特徴とする請求項1に記載のエレベーター用薄型巻上機。
【請求項3】
前記脱脂部材取り付け部と前記脱脂部材の接触面は、前記制動面に沿うように勾配が設けられることを特徴とする請求項1に記載のエレベーター用薄型巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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