説明

エレベータ用ロープ

エレベータ用ロープは、ベルト状のロープ本体を備えている。ロープ本体は、複数本の子縄と、子縄を覆い一体化する樹脂製の被覆体とを有している。子縄は、複数本の素線を含んでいる。これらの素線は、互いに平行撚りされている。また、子縄は、ロープ本体の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、エレベータに用いられ、かごを吊り下げるベルト状のエレベータ用ロープに関するものである。
【背景技術】
例えば、特表2002−504471号公報には、ベルト状ロープによりかご及び釣合おもりが吊り下げられたエレベータシステムの種々のレイアウトが示されている。しかし、ベルト状ロープの具体的な構造については、十分には示されておらず、安定した強度を確保できるとともに、長寿命化を図ることができるベルト状ロープの構造が求められている。
【発明の開示】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、安定した強度を確保できるとともに、長寿命化を図ることができるエレベータ用ロープを得ることを目的とする。
この発明によるエレベータ用ロープは、ベルト状のロープ本体を備え、エレベータのかごを吊り下げるものであって、ロープ本体は、複数本の素線が平行撚りされている複数本の子縄と、子縄を覆い一体化する樹脂製の被覆体とを有し、子縄は、ロープ本体の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されているものである。
また、この発明によるエレベータ用ロープは、ベルト状のロープ本体を備え、エレベータのかごを吊り下げるものであって、ロープ本体は、ロープ本体の長手方向に沿って延びる樹脂製の芯材と、芯材の周囲に配置され、かつ芯材に撚り合わせられている複数本の子縄とを含む複数本の子縄集合体、及び子縄複合体を覆い一体化する樹脂製の被覆体とを有し、子縄は、互いに平行撚りされた複数本の素線を含み、子縄集合体は、ロープ本体の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されているものである。
【図面の簡単な説明】
図1はこの発明の実施の形態1によるエレベータ用ロープの断面図、
図2はこの発明の実施の形態2によるエレベータ用ロープの断面図、
図3はこの発明の実施の形態3によるエレベータ用ロープの断面図、
図4はこの発明の実施の形態4によるエレベータ用ロープの断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、この発明の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるエレベータ用ロープの断面図である。図において、ベルト状のロープ本体1は、7本の子縄2と、子縄2を覆い一体化する樹脂製の被覆体3とを有している。各子縄2は、複数本の鋼製の素線4を有している。素線4は、互いに平行撚り(JIS G 3525 12.2 b参照)されている。全ての子縄2において、全ての素線4が平行撚りされている。子縄2は、ロープ本体1の長手方向に垂直な断面(図1)で横並びに配置されている。即ち、7本の子縄2は、ロープ本体1の長手方向に垂直な断面において、ロープ本体1の幅方向(図1の左右方向)に沿って互いに間隔をおいて一直線上に並ぶように配置されている。
素線4の径は、ロープ本体1が巻き掛けられる綱車(図示せず)の径の1/400程度とするのが好適である。これにより、綱車による曲げ応力を軽減し、耐疲労性を向上させることができる。また、素線4の径を著しく細くしないためには、子縄2の断面構造としては、JIS G 3525に規定されたシールタイプやフィラータイプよりもウォリントンタイプの方が好適である。
被覆体3は、例えば熱可塑性エーテル系ポリウレタン樹脂からなっている。各子縄2の少なくとも外周部には、子縄2を被覆体3と一体化させるために接着剤5が塗布されている。即ち、子縄2と被覆体3とは、接着剤5を介して互いに接着されている。接着剤5は、素線4の撚り合わせ前及び後のいずれのタイミングで塗布してもよい。
このようなエレベータ用ロープにおいては、子縄2が横並びに配置されており、かつ樹脂製の被覆体3により覆われているので、子縄2の移動を防止できるとともに、子縄2相互の摩擦の発生を防止することができ、従って安定した強度を確保できるとともに長寿命化を図ることができる。
また、各子縄2を構成する素線4が互いに平行撚りされているので、素線4同士が線接触して拘束し合う。従って、素線4相互の接触圧力は小さく、子縄2に内部摩耗が発生しにくくなり、これによっても安定した強度を確保できるとともに長寿命化を図ることができる。
特に、実施の形態1では、全ての子縄2における全ての素線4が平行撚りされているので、断面全体で均等な強度を確保することができ、形状安定性にも優れている。
さらに、鋼製の素線4と硬質のポリウレタン樹脂製の被覆体3とを用い、子縄2と被覆体3とは接着剤5を介して互いに接着したので、十分な耐摩耗性を確保することができるとともに、ベルト形状の安定性と子縄2の結束性とを向上させることができる。
ここで、ロープ本体1全体の強度が低下して損傷が進行した場合、荷重負担が大きい順、又は損傷の激しい順に子縄2が破断する。これに対し、子縄2の本数を予め多くすると、各子縄2の荷重負担を均等にすることが難しくなるため、子縄2の本数に比例した強度増加は望めない。
また、被覆体3で一体化されたエレベータ用ロープでは、被覆体3の内部にある素線4がどの程度損傷しているかを検出するのは難しい。即ち、被覆体3の外表面が変形するほどの損傷が子縄2に生じるか、少なくとも1本の子縄2が完全に切断されるまで、ロープ本体1の交換時期を判断できないことが考えられる。
これに対して、寿命により交換される時点におけるロープ本体1の残存強度を80%程度確保するためには、5本以上の子縄2を用いる必要がある。しかし、1本の子縄2が破断するほど強度低下している場合、他の子縄2も損傷が進行して強度低下していることが予想される。通常、JISの交換基準に達した時点での残存強度は、規格切断荷重に余裕を持たせているため、規格値の5%低下程度である。
以上のことから、好適な子縄2の本数を求める。即ち、所定残存強度をa、交換基準下の通常残存強度をb、子縄2の本数をN、子縄2の切断荷重をPとすると、式a×P×N=b×P(N−1)が成り立つ。a=80%、b=95%とすると、0.8×P×N=0.95P(N−1)となり、N=6.3、即ち約7本と求められる。従って、少なくとも7本以上の子縄2を用いれば、十分な残存強度を確保することができる。
なお、被覆体3の材料は、熱可塑性エーテル系ポリウレタン樹脂に限定されるものではなく、使用条件等に応じて適宜選択が可能である。但し、高温、多湿の環境で使用される場合、加水分解を生じ易いエステル系ポリウレタンよりも、加水分解を生じにくく硬質なエーテル系ポリウレタンの方が好適である。
実施の形態2.
次に、図2はこの発明の実施の形態2によるエレベータ用ロープの断面図である。図において、ベルト状のロープ本体11は、7本の子縄集合体12と、子縄集合体12を覆い一体化する樹脂製の被覆体13とを有している。子縄集合体12は、ロープ本体11の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されている。即ち、7本の子縄集合体12は、ロープ本体11の長手方向に垂直な断面において、ロープ本体11の幅方向に沿って互いに間隔をおいて一直線上に並ぶように配置されている。
各子縄集合体12は、ロープ本体11の長手方向に沿って延びる樹脂製の芯材14と、芯材14の周囲に配置され、かつ芯材14に撚り合わせられている3本の子縄15とをそれぞれ含んでいる。各子縄15は、複数本の鋼製の素線16を有している。素線16は、互いに平行撚りされている。全ての子縄15において、全ての素線16が平行撚りされている。
各子縄集合体12において、3本の子縄15は、芯材14の周囲に断面三角形状に配置されている。そして、子縄集合体12は、子縄15の断面配置形状が交互に逆向きになるように配置されている。
芯材14の材料としては、例えばポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂又はビニール等の熱可塑性樹脂、若しくは高強度のアラミド繊維又はポリプロピレン繊維等の合成樹脂繊維を高密度に撚り合わせたものが使用できる。
各子縄15の少なくとも外周部には、被覆体13と一体化させるために接着剤5が塗布されている。即ち、子縄15と被覆体13とは、接着剤5を介して互いに接着されている。
このようなエレベータ用ロープでは、子縄集合体12が横並びに配置されており、かつ樹脂製の被覆体13により覆われているので、子縄集合体12の移動を防止できるとともに、子縄集合体12相互の摩擦の発生を防止することができ、従って安定した強度を確保できるとともに長寿命化を図ることができる。
また、各子縄15を構成する素線16が互いに平行撚りされているので、子縄15に内部摩耗が発生しにくくなり、これによっても安定した強度を確保できるとともに長寿命化を図ることができる。
さらに、芯材14と3本の子縄15とにより子縄集合体12を構成したので、より細い素線16を用いることができ、適用する綱車の径を小さくすることができる。
さらにまた、3本の子縄15が芯材14の周囲に断面三角形状に配置されており、子縄集合体12は子縄15の断面配置形状が交互に逆向きになるように配置されているので、子縄集合体12を高密度に配置することができ、ロープ本体11の幅を小さく抑えつつ、強度を高くすることができ、適用する綱車の幅も小さくすることができる。
実施の形態3.
次に、図3はこの発明の実施の形態3によるエレベータ用ロープの断面図である。この例では、素線としての鋼製の芯ワイヤ16と、芯ワイヤ16の周囲に配置され互いに平行撚りされた素線としての6本の外周ワイヤ17とを含む子縄18が使用されている。他の構成は、実施の形態2と同様である。
このようなエレベータ用ロープでは、子縄18の断面構造が単純で安定しているため、外力に対して形状安定性に優れている。また、外周ワイヤ17の径を比較的大きくすることができ、柔軟性及び耐摩耗性の両方をバランス良く確保することができる。
さらに、芯ワイヤ16の周囲に外周ワイヤ17が1層のみ配置されているので、外周ワイヤ17相互の移動を抑制でき、被覆体13に対する接着安定性も向上させることができる。これにより、外周ワイヤ17の寿命を延ばすことができるとともに、被覆体13への接着部の耐疲労性を向上させることができる。
実施の形態4.
次に、図4はこの発明の実施の形態4によるエレベータ用ロープの断面図である。この例では、ゴム製の被覆体21が使用されている。また、子縄18に接着剤は塗布されておらず、その代わりに芯ワイヤ16及び外周ワイヤ17の外周部には、リン酸塩被膜処理又は亜鉛めっき処理等のパーカー処理による被膜22が形成されている。他の構成は、実施の形態3と同様である。
このようなエレベータ用ロープでは、被膜22により子縄18の被覆体21に対する接着力が確保されているので、接着剤を塗布する工程よりも容易に接着力を確保することができる。
なお、上記実施の形態1、2における被覆体をゴム製とした場合にも、接着剤の代わりに素線にパーカー処理による被膜を形成することにより、子縄と被覆体との接着力を確保することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト状のロープ本体を備え、エレベータのかごを吊り下げるエレベータ用ロープであって、
上記ロープ本体は、複数本の素線が平行撚りされている複数本の子縄と、上記子縄を覆い一体化する樹脂製の被覆体とを有し、上記子縄は、上記ロープ本体の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されているエレベータ用ロープ。
【請求項2】
全ての上記子縄における全ての上記素線が平行撚りされている請求項1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項3】
上記素線は鋼製であり、上記被覆体は熱可塑性エーテル系ポリウレタン樹脂製であり、上記子縄と上記被覆体とは接着剤を介して互いに接着されている請求項1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項4】
7本の上記子縄が、上記ロープ本体の長手方向に垂直な断面で互いに間隔をおいて一直線上に並ぶように配置されている請求項1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項5】
ベルト状のロープ本体を備え、エレベータのかごを吊り下げるエレベータ用ロープであって、
上記ロープ本体は、
上記ロープ本体の長手方向に沿って延びる樹脂製の芯材と、上記芯材の周囲に配置され、かつ上記芯材に撚り合わせられている複数本の子縄とを含む複数本の子縄集合体、及び
上記子縄複合体を覆い一体化する樹脂製の被覆体とを有し、
上記子縄は、互いに平行撚りされた複数本の素線を含み、
上記子縄集合体は、上記ロープ本体の長手方向に垂直な断面で横並びに配置されているエレベータ用ロープ。
【請求項6】
上記芯材は、ポリエチレン樹脂製である請求項5記載のエレベータ用ロープ。
【請求項7】
上記芯材は、合成樹脂繊維製である請求項5記載のエレベータ用ロープ。
【請求項8】
上記各子縄集合体は、1本の上記芯材と、上記芯材の周囲に断面三角形状に配置された3本の上記子縄とを有しており、
上記子縄集合体は、上記子縄の断面配置形状が交互に逆向きになるように配置されている請求項5記載のエレベータ用ロープ。
【請求項9】
上記各子縄は、上記素線としての鋼製の芯ワイヤと、上記芯ワイヤの周囲に配置された上記素線としての6本の外周ワイヤとを含む請求項5記載のエレベータ用ロープ。
【請求項10】
上記被覆体はゴム製であり、上記素線の外周部には、パーカー処理による被膜が形成されている請求項5記載のエレベータ用ロープ。

【国際公開番号】WO2004/037702
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−525630(P2004−525630)
【国際出願番号】PCT/JP2002/011108
【国際出願日】平成14年10月25日(2002.10.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】