説明

エレベータ異常診断装置

【課題】エレベータの仕様の違いに起因した誤診断を低減するエレベータ異常診断装置を提供する。
【解決手段】エレベータのかご30で検出された音と振動の波形データを分析した分析データを生成する波形分析部と、診断対象のエレベータに関する仕様データに対して、当該エレベータについて波形分析部により生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する多次元データ生成部と、異常がないエレベータの多次元データから構成される基準空間と多次元データ生成部によって生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、マハラノビス距離算出部により算出されたマハラノビス距離と所定の閾値とを比較して、マハラノビス距離が閾値より大きい場合に当該エレベータが異常であると判定し、マハラノビス距離が閾値以下であれば正常であると判定する異常判定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータに発生した異常を診断するエレベータ異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータ異常診断装置は、エレベータの運転で発生する音や振動を音振動センサにより検出し、あらかじめ設定した基準値を超える音や振動が検出された時点のエレベータの運転状態を記憶して、この運転状態がエレベータで再現されたときに、基準値を超える音や振動が再び検出されると異常と診断し、基準値以下であれば異常ではなく一過性の音や振動であったと判断する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−24420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に代表される従来の技術では、センサで検出した音および振動の双方の結果とあらかじめ設定してあった基準値とを比較して異常判定を行っている。
しかしながら、エレベータの運転で発生する音や振動は、エレベータの仕様(昇降速度、滑車径、かごの重量、ロープ長、昇降行程、物件の用途など)の組み合わせによりばらつきがある。このため、未知の異常も考慮した場合に、エレベータの運転で発生する音および振動について異常か否かを一意に決定する基準値をあらかじめ設けることは不可能である。
したがって、誤診断を低減するために基準値を高く設定した場合、エレベータの利用者が異常と感じる程度の音や振動が発生しても、装置側で異常を検出できない場合がある。反対に検出漏れを防ぐために基準値を低く設定した場合には、エレベータの仕様では正常な音および振動であっても、再現運転で異常と判定される可能性がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、エレベータの仕様の違いに起因した誤診断を低減することができるエレベータ異常診断装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るエレベータ異常診断装置は、エレベータのかごで検出された音と振動の波形データを入力し、当該波形データを分析した分析データを生成する波形分析部と、診断対象のエレベータに関する仕様データに対して、当該エレベータについて波形分析部により生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する多次元データ生成部と、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間と、多次元データ生成部によって生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、マハラノビス距離算出部により算出されたマハラノビス距離と所定の閾値とを比較して、マハラノビス距離が閾値より大きい場合に当該エレベータが異常であると判定し、マハラノビス距離が閾値以下であれば正常であると判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、エレベータの仕様の違いに起因した誤診断を低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置を適用したエレベータ異常診断システムの構成を示すブロック図である。
【図2】仕様データ格納部に格納される仕様データを示す図である。
【図3】実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置およびその周辺部の構成を示すブロック図である。
【図4】波形分析部で算出した要素からなる分析データを示す図である。
【図5】仕様データと波形分析データからなる多次元データを示す図である。
【図6】多次元データからマハラノビス距離算出部の処理中に生成する項目ごとの平均値と標準偏差を示すグラフである。
【図7】基準化データを示す図である。
【図8】基準空間と、正常データ、異常データのマハラノビス距離を示すグラフである。
【図9】実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置の動作(その1)を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置の動作(その2)を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置およびその周辺部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置を適用したエレベータ異常診断システムの構成を示すブロック図である。図1において、実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置1は、管理センタ2に設けられ、保守管理データベース20に格納されたデータを用いて、昇降路3内のエレベータの異常を診断する。
保守管理データベース20は、異常診断の対象となるエレベータの仕様データに加え、異常がないエレベータの仕様データに対し当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間を格納するデータベースである。
なお、図2に示すようにエレベータの仕様データ61には、階床数、定員、定格速度、最高速度、各滑車径、昇降行程、レール長、ロープ長、ロープ本数、かご質量、カウンタ質量、かご容量などがあり、これらのデータにユニークな識別番号を付与し、異常診断の対象となるエレベータごとに格納されている。
【0010】
昇降路3内に設けられるエレベータ構成部としては、かご30、釣り合い錘31、巻き上げ機32および音・振動検出器33がある。かご30および釣り合い錘31は、ロープで昇降路3内に巻き掛けられており、巻き上げ機32によって昇降する。
音・振動検出器33は、かご30に設けられ、エレベータの運転時に、かご30、釣り合い錘31、巻き上げ機32および図示しないエレベータ構成部品で発生した音や振動を検出してデータ化する。また、音・振動検出器33とエレベータ異常診断装置1との間では、通信手段4によりデータ通信が行われる。通信手段4の通信方法は、有線であっても無線であってもよい。管理センタ2のエレベータ異常診断装置1は、音・振動検出器33が検出した音と振動のデータを、通信手段4を介して受信する。
【0011】
図3は、実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置およびその周辺部の構成を示すブロック図である。図3において、エレベータ異常診断装置1は、波形分析部10、多次元データ生成部11、マハラノビス距離算出部12および異常判定部13を備える。また、保守管理データベース20には、仕様データ格納部201および基準空間格納部202が設けられる。さらに、昇降路3内の音・振動検出器33は、マイク331、加速度センサ332および測定データ格納部333を備える。
【0012】
エレベータ異常診断装置1内の波形分析部10は、通信手段4を介して測定データ格納部332に格納されている音と振動のデータを読み込み、音と振動の波形データに対してそれぞれ波形分析を行った分析データを生成する。例えば、振動の波形データから振動振幅値と走行速度を算出し、音の波形データから指定した周波数帯域ごとの周波数強度の最大値と平均値を算出し、これらの算出結果と各エレベータに付与するユニークな識別番号を要素とした図4に示すような分析データ71を生成する。
多次元データ生成部11は、異常診断対象のエレベータの仕様データに対して波形分析部10で生成された分析データ71を、互いの識別番号で対応付けた図5に示す多次元データ81を生成する。
【0013】
保守管理データベース20の仕様データ格納部201は、異常診断対象のエレベータごとの仕様データを格納する記憶部である。
基準空間格納部202は、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間を格納する記憶部である。
基準空間は、下記のように生成される。
まず、あらかじめ採取しておいた正常なエレベータの多次元データ81から、識別番号とデータ採取日時を除いて構成される、図6に示す基準データ91の項目定員(X11〜Xn1)、昇降行程(X12〜Xn2),・・・,音最大(X1k〜Xnk)のそれぞれの平均m,m,・・・,mと標準偏差σ,σ,・・・,σとを算出し、下記式(1)に従って基準化を行う。その結果は、図7に示すような基準化データ101となる。
次に、基準化データ101の相関行列を求める。相関行列Rは、下記式(2)に従って求め、相関行列の要素rijは、下記式(3)に従って求める。
下記式(2)および下記式3から求めた相関行列Rを、下記式(4)に従って逆行列に変換したものが基準空間となる。この基準空間を基準空間格納部202に格納する。








【0014】
マハラノビス距離算出部12は、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間と、多次元データ生成部11により生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出する。
マハラノビス距離は、下記式(5)に従って算出される。ここで、kは、基準空間の項目数である。下記式(5)における(x,x,・・・,x)には、基準空間とのマハラノビス距離を求める異常診断の対象となるエレベータの多次元データ81を入力する。このとき、多次元データ81の識別番号とデータ採取日時は含めず、基準空間を作成するときに用いた項目と同じ項目を入力する。
図8は、下記式(5)に、160台の正常なエレベータの多次元データから生成した基準空間と、異常診断の対象として正常なエレベータと異常なエレベータとの多次元データ81をそれぞれ14台ずつ入力した結果をグラフ化したマハラノビス距離算出結果111である。
異常判定部13は、マハラノビス距離算出部12により算出されたマハラノビス距離を所定の閾値と比較して、マハラノビス距離が所定の閾値を超えた場合には異常と判定し、超えない(閾値以下)場合は正常と判定する。


【0015】
保守管理データベース20の仕様データ格納部201は、異常診断対象のエレベータごとの仕様データを格納する記憶部である。
基準空間格納部202は、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間を格納する記憶部である。
【0016】
音・振動検出器33のマイク331は、昇降路3内でかご30が走行している間に発生した音を採取する集音器である。加速度センサ332は、昇降路3内で走行しているかご30に発生した振動を検出する振動加速度センサである。測定データ格納部333は、マイク331で採取した音データと加速度センサ332で検出した振動データを格納する記憶部である。
【0017】
次に動作について説明する。
(1)予測診断を行わない場合
図9は、実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置の動作を示すフローチャートであり、予測診断を行わない場合を示している。
まず、異常診断対象のエレベータにおいて、音・振動検出器33内のマイク331が、昇降路3内でかご30が走行している間に発生した音を採取し、加速度センサ332が、昇降路3内で走行しているかご30で発生した振動を検出する(ステップST1)。
音・振動検出器33に測定された音と振動のデータは、測定データ格納部333に格納される。
【0018】
次に、エレベータ異常診断装置1の波形分析部10が、通信手段4を介して測定データ格納部333に格納されている異常診断対象のエレベータの音と振動の波形データを読み込んで、音と振動のデータを波形分析した分析データを生成する(ステップST2)。
例えば、音・振動検出器33により測定された振動の波形データから、振動の振幅値とかご30の走行速度を算出し、音の波形データの周波数解析を行い、音の波形データから指定した一定の周波数帯域ごとに算出した周波数強度のピーク値(最大値;図4の音最大)と平均値(図4の音平均)を要素に含む行列データを求める。
【0019】
続いて、多次元データ生成部11が、保守管理データベース20の仕様データ格納部201から読み出した異常診断対象のエレベータの仕様データに対して、波形分析部10により生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する(ステップST3)。例えば、図5に示すように、仕様データ61における各データ要素に分析データ71の行列の各要素を対応付ける。
【0020】
この後、マハラノビス距離算出部12が、保守管理データベース20の基準空間格納部202から読み出した基準空間と、多次元データ生成部11に生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出する(ステップST4)。例えば、図8に示すように、上記式(5)に従ってマハラノビス距離を算出する。
【0021】
異常判定部13は、マハラノビス距離算出部12により算出されたマハラノビス距離を所定の閾値と比較して、マハラノビス距離が所定の閾値を超えたか否かを判定する(ステップST5)。ここで、マハラノビス距離が所定の閾値を超えた場合(ステップST5;YES)、異常判定部13は、エレベータに異常があると判定して、エレベータ保守員に異常がある旨を通知する(ステップST6)。このとき、かご30を緊急停止して、エレベータ保守員の点検が実施されるまで運転を休止する。または、エレベータを最寄りの階に停車させ、乗客を降車させた後に運転を休止してもよい。
一方、マハラノビス距離が所定の閾値未満の場合(ステップST5;NO)、異常判定部13は、エレベータが正常と判定しエレベータ保守員に通知する(ステップST7)。
【0022】
(2)予測診断を行う場合
図10は、実施の形態1に係るエレベータ異常診断装置の動作を示すフローチャートであり、予測診断を行う場合を示している。図10において、ステップST1からステップST5までの処理と、ステップST6とステップST7の処理は、図9と同様であるので説明を省略する。なお、予測診断を実施する異常判定部13には、異常診断が実施された時間間隔を計時するタイマと、異常診断が行われるごとにマハラノビス距離算出部12により算出されたマハラノビス距離を逐次記憶するメモリが設けられているものとする。
【0023】
マハラノビス距離が所定の閾値未満の場合(ステップST5;NO)、異常判定部13は、上記メモリから前回の異常診断で算出されたマハラノビス距離を読み出して、今回のマハラノビス距離が前回のマハラノビス距離より大きいか否かを判定する(ステップST5−1)。ここで、今回のマハラノビス距離が前回のマハラノビス距離以下であれば(ステップST5−1;NO)、異常判定部13は、エレベータが正常と判定して、ステップST7へ移行する。
【0024】
一方、今回のマハラノビス距離が前回よりも大きい場合(ステップST5−1;YES)、まず、異常判定部13は、上記タイマにより計時された前回から今回の異常診断までの経過時間と、今回と前回のマハラノビス距離の差を用いて、前回と今回のマハラノビス距離の単位時間に対する変化量(微分値)を算出する。
次に、異常判定部13は、今回のマハラノビス距離から上記変化量で増加させた場合のマハラノビス距離がステップST5で使用する閾値を超えるまでの経過時間を算出し、現在時刻に当該経過時間を加算した期日を次回に点検すべき日として予測する。
この後、異常判定部13は、今回の異常診断で正常であったことと、上記予測した点検日をエレベータ保守員に通知する(ステップST5−2)。
【0025】
なお、ステップST6、ステップST7、ステップST5−2における通知方法は、管理センタ2に居る作業員、または、異常診断対象のエレベータの保守員が診断結果を認識することができればよいので、図示しない表示器に通知してもよいし、作業員の所持する携帯端末に通知してもよい。
【0026】
以上のように、この実施の形態1によれば、エレベータのかご30で検出された音と振動の波形データを入力し、当該波形データを分析した分析データを生成する波形分析部10と、診断対象のエレベータに関する仕様データに対して、当該エレベータについて波形分析部10により生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する多次元データ生成部11と、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間と、多次元データ生成部11によって生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部12と、マハラノビス距離算出部12により算出されたマハラノビス距離と所定の閾値とを比較して、マハラノビス距離が閾値より大きい場合に当該エレベータが異常であると判定し、マハラノビス距離が閾値以下であれば正常であると判定する異常判定部13とを備える。このように構成することで、エレベータの仕様により異常となる閾値にばらつきが生じることなく、エレベータの仕様の違いに起因した誤診断を低減することができる。
なお、基準空間の多次元データには、かごに人が乗って音と振動がともに正常と判断された音と振動の波形データを用いればよく、音と振動のデータごとに異常判定するための閾値を決定しておく必要がない。
【0027】
また、この実施の形態1によれば、仕様データが、診断対象のエレベータにおける階床数、定員、定格速度、最高速度、各滑車径、昇降行程、レール長、ロープ長、ロープ本数、かご質量、カウンタ質量、かご容量であるので、エレベータの様々な仕様に応じた正確な異常診断が可能である。
【0028】
さらに、この実施の形態1によれば、波形分析部10が、エレベータのかご30で検出された振動の波形データから振動振幅値とかご30の走行速度およびかご30で検出された音の波形データから指定した周波数帯域ごとの周波数強度の最大値と平均値を算出し、これら算出結果を要素とする行列を分析データとして生成する。このようにすることで、走行中のかご30で検出された音と振動の特性を的確に異常診断に反映できる。
【0029】
さらに、この実施の形態1によれば、異常判定部13が、前回から今回の診断までの経過時間と、マハラノビス距離算出部12により算出された前回と今回のマハラノビス距離の差を用いて、前回と今回のマハラノビス距離の単位時間に対する変化量を算出し、当該変化量で今回のマハラノビス距離を増加させた場合のマハラノビス距離が閾値より大きくなるまでの経過時間を算出して、現在時刻に当該経過時間を加算した期日を次回の点検すべき日とする。このようにすることで、予測した日を次回の点検日の目安として利用することができる。
【0030】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、音・振動検出器33を、エレベータ異常診断装置1とは別個に設けて、エレベータ異常診断装置1を管理センタ2に配置した場合を示したが、この実施の形態2では、音・振動検出器を組み込んだエレベータ異常診断装置を昇降路内に設けた構成について述べる。
【0031】
図11は、この発明の実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置およびその周辺部の構成を示すブロック図である。図11において、実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置1Aは、昇降路3内に設けられてエレベータの異常を診断する装置であり、マイク14、加速度センサ15、測定データ格納部16、波形分析部10、多次元データ生成部11、マハラノビス距離算出部12および異常判定部13を備える。
【0032】
マイク14は、昇降路3内でかご30が走行している間に発生した音を採取する集音器であり、図3の音・振動検出器33のマイク331と同様の機能を有する。加速度センサ15は、昇降路3内で走行しているかご30に発生した振動を検出する振動加速度センサであり、図3の音・振動検出器33の加速度センサ332と同様の機能を有する。測定データ格納部16は、マイク14により採取された音データと加速度センサ15で検出した振動データを格納する記憶部であり、図3の音・振動検出器33の測定データ格納部333と同様に機能する。
【0033】
波形分析部10および異常判定部13は、図3と同様である。
多次元データ生成部11は、通信手段4を介して管理センタ2内の保守管理データベース20にアクセスして、仕様データ格納部201から、異常診断対象のエレベータの仕様データを読み出し、当該仕様データに対して波形分析部10で生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する。
マハラノビス距離算出部12も同様に、通信手段4を介して管理センタ2内の保守管理データベース20にアクセスして、基準空間格納部202から、異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間を読み出し、当該基準空間と、多次元データ生成部11によって生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出する。
これにより、実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置1Aは、上記実施の形態1で示した図9と図10の処理を実施することが可能である。
【0034】
なお、実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置1Aは、管理センタ2内の保守管理データベース20と通信可能な通信手段と、マイク14および加速度センサ15を有した携帯端末(例えば、スマートフォン)に適用することが可能である。この場合、異常診断システムをエレベータに据え付ける作業が、かご30に上記携帯端末を取り付けるだけで完了するため、作業員の負担を軽減することができる。
【0035】
以上のように、この実施の形態2によれば、エレベータのかご30で発生した音の波形データを採取するマイク14と、かご30で発生した振動の波形データを検出する加速度センサ15と、診断対象のエレベータに関する仕様データおよび基準空間を記憶する保守管理データベース20とデータ通信を行う通信手段4とを備え、多次元データ生成部11が、通信手段4を介して、保守管理データベース20から診断対象のエレベータに関する仕様データを取得し、マハラノビス距離算出部12が、通信手段4を介して、保守管理データベース20から基準空間を取得する。
このように音・振動検出器33の構成とエレベータ異常診断装置の構成を組み合わせることにより、上記実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
また、管理センタ2内の保守管理データベース20とデータ通信が可能な通信手段と、マイク14および加速度センサ15を有した携帯端末に実施の形態2に係るエレベータ異常診断装置1Aを適用することで、異常診断システムをエレベータに据え付ける作業が、かご30に上記携帯端末を取り付けるだけとなり、作業負担を軽減できる。
【0036】
なお、本発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0037】
1,1A エレベータ異常診断装置、2 管理センタ、3 昇降路、4 通信手段、10 波形分析部、11 多次元データ生成部、12 マハラノビス距離算出部、13 異常判定部、14,331 マイク、15,332 加速度センサ、16,333 測定データ格納部、20 保守管理データベース、30 かご、31 釣り合い錘、32 巻き上げ機、33 音・振動検出器、61 仕様データ、71 分析データ、81 多次元データ、91 基準データ、101 基準化データ、111 マハラノビス距離算出結果、201 仕様データ格納部、202 基準空間格納部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごで検出された音と振動の波形データを入力し、当該波形データを分析した分析データを生成する波形分析部と、
診断対象のエレベータに関する仕様データに対して、当該エレベータについて前記波形分析部により生成された分析データを対応付けた多次元データを生成する多次元データ生成部と、
異常がないエレベータの仕様データに対して当該エレベータにおける音と振動の分析データが対応付けられた多次元データから構成される基準空間と、前記多次元データ生成部によって生成された多次元データとのマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、
前記マハラノビス距離算出部により算出されたマハラノビス距離と所定の閾値とを比較して、前記マハラノビス距離が前記閾値より大きい場合に当該エレベータが異常であると判定し、前記マハラノビス距離が前記閾値以下であれば、正常であると判定する判定部とを備えるエレベータ異常診断装置。
【請求項2】
エレベータのかごで発生した音の波形データを採取する集音部と、
前記かごで発生した振動の波形データを検出する振動加速度検出部と、
前記診断対象のエレベータに関する仕様データおよび前記基準空間を記憶する保守管理データベースとデータ通信を行う通信部とを備え、
前記多次元データ生成部は、前記通信部を介して、前記保守管理データベースから前記診断対象のエレベータに関する仕様データを取得し、
前記マハラノビス距離算出部は、前記通信部を介して、前記保守管理データベースから前記基準空間を取得することを特徴とする請求項1記載のエレベータ異常診断装置。
【請求項3】
前記仕様データは、診断対象のエレベータにおける階床数、定員、定格速度、最高速度、各滑車径、昇降行程、レール長、ロープ長、ロープ本数、かご質量、カウンタ質量、かご容量であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のエレベータ異常診断装置。
【請求項4】
前記波形分析部は、前記エレベータのかごで検出された振動の波形データから振動振幅値と前記かごの走行速度、および前記エレベータのかごで検出された音の波形データから指定した周波数帯域ごとの周波数強度の最大値と平均値を算出し、これら算出結果を要素とする行列を分析データとして生成することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載のエレベータ異常診断装置。
【請求項5】
前記判定部は、前回から今回の診断までの経過時間と、前記マハラノビス距離算出部により算出された前回と今回のマハラノビス距離の差を用いて、前回と今回のマハラノビス距離の単位時間に対する変化量を算出し、当該変化量で今回のマハラノビス距離を増加させた場合のマハラノビス距離が前記閾値より大きくなるまでの経過時間を算出して、現在時刻に当該経過時間を加算した期日を次回の点検すべき日とすることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載のエレベータ異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−113775(P2013−113775A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262028(P2011−262028)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】