エレメント推進工法、及びエレメント推進工法に用いられる刃口エレメント
【課題】エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができるエレメント推進工法、及びエレメント推進工法に用いられる刃口エレメントを提供すること。
【解決手段】エレメント推進工法において、エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメント1は、その前方開口21の外周に複数の着脱可能なビット23a、23bを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、刃口エレメント1の曲げたい側のビット(例23a)を、通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットに取り替えて刃口エレメント1を貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行う。
【解決手段】エレメント推進工法において、エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメント1は、その前方開口21の外周に複数の着脱可能なビット23a、23bを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、刃口エレメント1の曲げたい側のビット(例23a)を、通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットに取り替えて刃口エレメント1を貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中にエレメントを貫入して地上施設を防護しつつエレメント内を掘り進んで構造躯体を構築するエレメント推進工法に関し、より詳しくは、エレメント推進工法におけるエレメントの方向修正技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道や道路などの地上の路線施設と立体交差するアンダーパス(配管や通信ケーブルなどのライフライン敷設のためスペースや、道路、鉄道などの地下通路を指す。以下同じ)を非開削方式で構築するアンダーパスの構築方法として、アンダーパス本体の掘削に先立って、長尺な角形鋼管等からなるエレメント(函体)をアンダーパスとなる空間の輪郭に沿って周囲を覆うように貫入・連設し、アンダーパス上方の地上施設を防護しつつ、アンダーパスを構築するエレメント推進工法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、このエレメント推進工法の1つとして、HEP&JES工法も知られている(例えば、特許文献2〜4)。このHEP&JES工法は、路線施設の両脇にアンダーパスの発進立坑及び到達立坑を掘削し、残った路線施設下の地山に水平ボーリングにより基準となる横穴を穿孔し、この横穴を用いて地山の到達立坑側の土留めに設置した牽引ジャッキによりPC鋼より線等で緊結されたJES継手を有する覆工エレメントを牽引することで掘削の反力をアンダーパスを構築する地山から得つつ、複数の覆工エレメントを長手方向に順次連結延長しながら横方向(略水平方向)に貫入して行き、発進立坑から到達立坑までエレメント内を掘削・穿孔し、隣接配置する覆工エレメント列(複数の覆工エレメントが長手方向に連結されたもの)同士を特定形状のJES継手で係合させることで、アンダーパスとなる空間の輪郭沿いにコの字状又はロの字状或いはアーチ状などの地上の路線施設の防護に耐え得る形状に配列し、前記JES継手周囲にグラウト材を注入すると共にエレメント内にコンクリートを打設して、JES継手とエレメントに引張力を負担させ、コンクリートに圧縮力を負担させることで防護材である覆工エレメントをそのまま周囲の土圧等に対抗する構造躯体として利用し、この構造躯体の構内を掘削することでアンダーパスを構築する工法である。
【0004】
このようなエレメント推進工法(HEP&JES工法も含む)では、地中に貫入させる先端の刃口エレメントと後列のエレメントとは、一般に、添え板を介したボルト接合などの剛接合で連結されるため、掘進距離が長くなって土中深く貫入されたエレメント列(剛接合で複数のエレメントを長手方向に連結したもの)を方向修正することは非常に困難となる。そのため、基本的には方向修正しないで済むように、入念な方向管理を行いながら少しずつ掘進する方法が取られているが、そのように掘り進めて行くことは多くの時間と労力が掛かってしまうという問題がある。また、そのように細心の注意を払って入念な方向管理を行いながら少しずつ掘り進んでも、地中に障害物が存在したり、地層により地盤の硬さが急激に変化したりすることにより、止むを得ず掘進方向を誤ってしまう場合がある。その場合は、掘進方向に対して曲げたい側の刃口前方を人力で余掘りし、反対側の刃口と地盤との間に反り板を噛ましてエレメントを推進することにより方向修正することが行われているが、容易に方向修正することができず、時間と労力が浪費されてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−278689号公報
【特許文献2】特開平08−319792号公報
【特許文献3】特開平11−247579号公報
【特許文献4】特開2000−120372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、前記従来の技術の問題を解決し、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができるエレメント推進工法、及びエレメント推進工法に用いられる刃口エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列の配列構造で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法において、前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエレメント推進工法において、油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の刃口エレメントおいて、前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、エレメント推進工法において、エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うので、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載のエレメント推進工法において、油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うので、更に作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されているので、切羽面と当接するビットを必要に応じて交換することができる。また、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の刃口エレメントおいて、前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であるので、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に係るエレメント推進工法として示すHEP&JES工法の説明図である。
【図2】覆工エレメントのJES継手部分を示す部分拡大断面図である。
【図3】実施例に係る刃口エレメントの平面図である。
【図4】同上の刃口エレメントの正面図である。
【図5】同上の刃口エレメントの右側面図である。
【図6】同上の刃口エレメントの水平断面図である。
【図7】同上の刃口エレメントの鉛直断面図である。
【図8】実施例に係る通常ビットの断面図である。
【図9】実施例に係る方向修正用ビットの断面図である。
【図10】ピッチング修正の際の作業手順の概要を示す説明図である。
【図11】ヨーイング修正の際の作業手順の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
(HEP&JES工法)
先ず、エレメント推進工法の概要を、図1を用いて説明する。
なお、本発明に係るエレメント推進工法の実施例として、HEP&JES工法(High Speed Element Pull & Jointed Element Structure)により、地上施設(路線施設)である線路AGの下に構造躯体であるアンダーパスUPを構築する場合で説明する。
【0018】
事前準備として、線路AGや隣地の崩壊を防ぐため、図1に示すように、アンダーパスUPを構築する箇所の線路AGの両側に沿って2列ずつ鋼製矢板(シートパイル)などの土留め部材SPをバイブロハンマ等で地中に貫入させる。そして、その土留め部材SPの間を掘削して、線路AGの両脇に、覆工エレメントeの貫入開始側となる発進立坑h1及び覆工エレメントeの貫入到達端側となる到達立坑h2をそれぞれ掘削する。勿論、周辺の状況、地盤の土質、地下水の状態により土留め部材SPを設置する必要がない場合は、適切な法面をとって掘削すればよい。この発進立坑h1は、覆工エレメントeの搬入・接続作業等の作業スペースとなり、到達立坑h2は、前述の牽引手段の設置スペースとなる。次に、水平ボーリングマシーンで水平ボーリングを行って、牽引ケーブルCaを挿通するための横孔を穿孔する。そして、発進立坑h1には、覆工エレメントeを水平に載置するための架台が、到達立坑h2には、覆工エレメントeを牽引する牽引装置PMがそれぞれ組み立てられる。
【0019】
牽引ケーブルCaは、貫入する覆工エレメントeの先端(掘進方向前端)となる後述の刃口エレメント1に図示しないクランプを介して連結され、牽引装置PMで刃口エレメント1を牽引しながら刃口エレメント1内部を作業員が人力で掘り進み、順次覆工エレメントeを長手方向に接続して行き、覆工エレメントeで覆工して坑壁崩落を防護しながら最終的に発進立坑h1から到達立坑h2まで貫通する孔を穿孔し、エレメント列を地中に完成させる。また、刃口エレメント1内で掘り崩した掘削土砂は、排土手段であるベルトコンベアBで発進立坑h1に搬送されて廃棄される。
【0020】
このように、1つのエレメント列が完成すると、隣接するエレメント列を同様に設置して行き、このエレメント列を中空矩形状に配列したエレメント構造体を構築する。このとき、エレメント列同士は、長手方向全長に亘って延在する断面略C字状のJES継手で係合させてエレメント列間で引張力の伝達が可能なように構成する。また、エレメント構造体は、各辺など、所定区間毎に適宜覆工エレメント列内に中詰めコンクリートを打設すると共に、JES継手にグラウト材などを注入し、アンダーパスUPの構造躯体を完成させる。そして、アンダーパスUPの構造躯体内部をバックホーなどの掘削重機等で掘削してアンダーパスUPを完成させる。
【0021】
(JES継手)
次に、JES継手について図2を用いて説明する。
図2に示すように、JES継手は、断面略C字状の継手であり、これらが互い係合し、その長手方向端部からグラウト材が注入されて、グラウト材が硬化することで、エレメント列間における引張力やせん断力が伝達可能となる。用いられるグラウト材は、構造設計に応じた所定の硬化強度(圧縮強度、付着強度等)と、JES継手の空隙部分を満たすことができる流動性及び低収縮性を有する材料であればよいが、一般的には、無収縮モルタルやエポキシ系樹脂などが用いられている。図示するように、覆工エレメントeの外部には、地山への貫入前に予め、防錆のため防錆シートBSを貼着したり、グラウト材の漏出防止のためグラウト漏出防止鋼板GTを取り付けたりするとよい。また、覆工エレメントeの内部には、グラウト漏出防止のためにシリコン系や変成シリコン系などのシーリング材Sでシーリングを施したり、又はアスファルト系シーリング材を硬化剤と共に吹き付けたりする(図示せず)と好ましい(例えば、特開2007−23622号公報に記載の工法などでシーリング及びグラウトを施工する)。なお、Pは発泡樹脂からなるバックアップ材(パッキン材)を示す。
【0022】
以上のように、HEP&JES工法を例に挙げてエレメント推進工法を説明したが、背景技術で述べたように、長手方向に覆工エレメント同士が剛接合で連結されているため、掘進距離が長くなって土中深く貫入されたエレメント列を方向修正することは非常に困難であった。
そこで、本発明は、後述のように刃口エレメント1を改良し、この方向修正作業が容易に行えるようにするものである。
【実施例】
【0023】
(刃口エレメント)
次に、本発明の実施例に係る刃口エレメントについて図3〜図7を用いて説明する。
図示刃口エレメント1は、掘進方向前方(以下、単に前方、後方という)の刃口2と、後方のアダプタ3とから主に構成された概略角形筒型の鋼製管からなり、エレメント推進工法に用いられるエレメント列の貫入方向前端に取り付けられて地中にエレメントを貫入する際の刃先の機能を有する部材である。この刃口エレメント1は、人力掘削用のため作業員が2人並んで作業可能な大きさである、横幅bが2000mm、高さhが850mm程度の大きさに設定されている。
【0024】
刃口2は、掘進方向の進む方向から見て(以下、正面という)横長な角形筒型の刃口本体20からなり、この刃口本体20には、前後両端に開口が設けられており、前方の開口が前方開口21、後方の開口が後方開口22となっている。
【0025】
この前方開口21は、上方が前方に迫り出すように斜めに傾斜した開口であり、この前方開口21の上辺21a、及び左右の側辺21b、21cには、切羽面を突き刺す機能を持った先の尖った複数のビット23が形成され、上辺21a側が上部ビット23a、側辺21b、21cが側部ビット23b,23cとなっており、前方開口21の底辺21dには、ビットは形成されていない。また、後方開口22は、長手方向と垂直な面に沿った矩形の開口であり、この後方開口22には、アダプタ3が接合されている。
【0026】
複数のビット23は、全て刃口本体20に対して着脱自在に構成された替ビットとなっており、この替ビットには、通常使用される通常ビットB1(図8参照)と、貫入方向の修正を行う際に使用され、通常ビットB1より外側への突出厚が大きい厚手の方向修正用ビットB2(図9参照)の2種類のビットが用意されている。なお、この通常ビットB1、方向修正用ビットB2については、後で詳述する。
【0027】
また、アダプタ3は、刃口本体20の断面形状と略同型のアダプタ本体30からなり、このアダプタ本体30の四隅には、油圧ジャッキ(各ジャッキの能力は、350kN、100st)である4つの方向修正ジャッキ31〜34が搭載されており、後述のヨーイング修正やピッチング修正などの方向修正の際に稼動させて、貫入したエレメント列の方向修正が容易にできるようになっている。
【0028】
なお、符号24は、刃口2に作用する圧縮力に対抗するための支柱であり、符号25は、方向修正ジャッキ31〜34の圧力により刃口本体20が変形しないようにするための補強リブである。
【0029】
(ビット)
次に、通常ビット及び方向修正用ビットについて図8及び図9を用いて説明する。通常ビット及び方向修正用ビットの替ビットは、上部ビット23a及び側部ビット23b,23cとも、全くの同型であるので、上部ビット23aを例に挙げて説明し、他は説明を省略する。
【0030】
先ず、通常ビットB1を説明すると、図8に示すように、通常ビットB1は、切羽面に突き刺さる刃先となる刃部B10と、刃口本体20と係合する係合部B11と、から主に構成され、この刃部B10の内側(図示、上部ビット23aの場合下側)は、刃口本体20の外形と所定角度で交差する傾斜面となっており、外側は、刃口本体20の外形と刃口本体20への装着時において面一且つ平行な面となっている。
また、本実施例では、係合部B11の外部の厚みが5mm、係合部B11の内部の厚みが15mm、係合溝の幅が20mmに設定されている。但し、この係合部B11の外部の厚みは、通常ビットB1が刃口本体20に装着された状態で、刃部B10の外側の面が刃口本体20の外形と面一となっていればよい。
【0031】
方向修正用ビットB2について図9を用いて説明する。この方向修正用ビットB2は、通常ビットB1と同様に、刃部B20と、係合部B21とから主に構成された厚手のビットとなっており、通常ビットB1との相違点は、係合部B21の外部の厚みが、通常ビットB1より厚くなっている点だけである。つまり、方向修正用ビットB2は、刃口本体20に装着した状態で、外側への突出厚さが通常ビットB1より厚くなっている。本実施例では、係合部B21の外部の厚みが10mmとなっており、通常ビットB1より5mm厚くなっている。
【0032】
(方向修正工程)
次に、エレメント推進工法において、前述の刃口エレメント1を用いて地中に貫入したエレメント列の方向修正を行う場合の手順を図10及び図11を用いて説明する。この方向修正には、大きく分けてヨーイング修正(センター位置修正)とピッチング修正(高さ修正)がある。上方にピッチング修正したい場合について説明すると、先ず、前述の刃口エレメント1の上部ビット23aの替ビットを全て通常ビットB1から方向修正用ビットB2に取り替えて、所定距離(1m程度)刃口エレメント1を牽引する(図2〜7参照)。そして、その後、刃口エレメント1を元の位置に戻すと共に、上部ビット23aの替ビットを通常ビットB1に戻す。すると、上方に5mmの方向転換用のスペースができる。そして、ボルトを外して刃口2とアダプタ3の連結を解除し、方向修正ジャッキ32,33を作動させると刃口2が上方に回転することができるようになる。このように刃口2を回転して正規の軌道にピッチング修正した後、刃口2とアダプタ3との間に出来たクリアランス(隙間)に鉄板などのスペーサを挿入して再びボルト締めして刃口2とアダプタ3とを連結し、牽引・掘進を再開する。
なお、本実施例のように、通常ビットB1と方向修正用ビットB2の係合部の外部の厚みの差を5mmに設定すれば、掘進距離1m先では、8mm程度の方向修正が可能となる。
【0033】
ヨーイング修正(センター位置修正)する場合を掘進方向に向かって右側へヨーイング修正する場合で説明すると、ピッチング修正と同様に、刃口エレメント1の右側部ビット23bの替ビットを全て通常ビットB1から方向修正用ビットB2に取り替えて、所定距離(1m程度)刃口エレメント1を牽引し、刃口エレメント1を元の位置に戻すと共に、右側部ビット23bの替ビットを通常ビットB1に戻し、連結していたボルトを外して方向修正ジャッキ33,34を作動させて刃口2を右方向へ回転することにより、ヨーイング修正を行う。
【0034】
以上のように、実施例に係る刃口エレメント1を用いたエレメント推進工法によれば、刃口エレメントの替ビットを通常ビットから方向修正用ビットに替えるだけで、容易に方向修正用のスペースを作ることができ、油圧ジャッキなどを用いて簡単に方向修正を行うことができる。そのため、エレメント推進工法全体の作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0035】
以上のように、この発明の一実施の形態に係る刃口エレメント、及び、それを用いたエレメント推進工法を、HEP&JES工法により正面視で矩形中空状のアンダーパスの構造躯体を構築する場合で説明したが、勿論、構築する構造躯体は、例として挙げた矩形状のものに限られず、アーチ状や環状など設計に応じた様々な形状の構造躯体に適用可能であることは云うまでもない。また、覆工エレメントの断面形状も扇形など構築するエレメント構造体の形状に合わせた所定の形状とすることができる。
【0036】
そして、エレメント推進工法の1つとしてHEP&JES工法を例に挙げて説明したが、発進立坑から押圧ジャッキにより押圧して覆工エレメントを推進するエレメント推進工法にも適用することができることは云うまでもない。また、牽引手段、排土手段などは、一例を示したものであり、特許請求の範囲に記載した範囲内で従来の手段や装置等と置換可能である。また、図で示した、形状等もあくまでも一例を挙げたものであり、適宜変更可能である。特に、替ビットとして通常ビットと方向修正用ビットの2種類を例に挙げて説明したが、外側への突出厚の差を複数段階に分けてもっと沢山の種類の替ビットを用意してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 刃口エレメント
2 刃口
20 刃口本体
21 前方開口
23 ビット
B1 通常ビット
B2 方向修正用ビット
3 アダプタ
31〜34 方向修正ジャッキ
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中にエレメントを貫入して地上施設を防護しつつエレメント内を掘り進んで構造躯体を構築するエレメント推進工法に関し、より詳しくは、エレメント推進工法におけるエレメントの方向修正技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道や道路などの地上の路線施設と立体交差するアンダーパス(配管や通信ケーブルなどのライフライン敷設のためスペースや、道路、鉄道などの地下通路を指す。以下同じ)を非開削方式で構築するアンダーパスの構築方法として、アンダーパス本体の掘削に先立って、長尺な角形鋼管等からなるエレメント(函体)をアンダーパスとなる空間の輪郭に沿って周囲を覆うように貫入・連設し、アンダーパス上方の地上施設を防護しつつ、アンダーパスを構築するエレメント推進工法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、このエレメント推進工法の1つとして、HEP&JES工法も知られている(例えば、特許文献2〜4)。このHEP&JES工法は、路線施設の両脇にアンダーパスの発進立坑及び到達立坑を掘削し、残った路線施設下の地山に水平ボーリングにより基準となる横穴を穿孔し、この横穴を用いて地山の到達立坑側の土留めに設置した牽引ジャッキによりPC鋼より線等で緊結されたJES継手を有する覆工エレメントを牽引することで掘削の反力をアンダーパスを構築する地山から得つつ、複数の覆工エレメントを長手方向に順次連結延長しながら横方向(略水平方向)に貫入して行き、発進立坑から到達立坑までエレメント内を掘削・穿孔し、隣接配置する覆工エレメント列(複数の覆工エレメントが長手方向に連結されたもの)同士を特定形状のJES継手で係合させることで、アンダーパスとなる空間の輪郭沿いにコの字状又はロの字状或いはアーチ状などの地上の路線施設の防護に耐え得る形状に配列し、前記JES継手周囲にグラウト材を注入すると共にエレメント内にコンクリートを打設して、JES継手とエレメントに引張力を負担させ、コンクリートに圧縮力を負担させることで防護材である覆工エレメントをそのまま周囲の土圧等に対抗する構造躯体として利用し、この構造躯体の構内を掘削することでアンダーパスを構築する工法である。
【0004】
このようなエレメント推進工法(HEP&JES工法も含む)では、地中に貫入させる先端の刃口エレメントと後列のエレメントとは、一般に、添え板を介したボルト接合などの剛接合で連結されるため、掘進距離が長くなって土中深く貫入されたエレメント列(剛接合で複数のエレメントを長手方向に連結したもの)を方向修正することは非常に困難となる。そのため、基本的には方向修正しないで済むように、入念な方向管理を行いながら少しずつ掘進する方法が取られているが、そのように掘り進めて行くことは多くの時間と労力が掛かってしまうという問題がある。また、そのように細心の注意を払って入念な方向管理を行いながら少しずつ掘り進んでも、地中に障害物が存在したり、地層により地盤の硬さが急激に変化したりすることにより、止むを得ず掘進方向を誤ってしまう場合がある。その場合は、掘進方向に対して曲げたい側の刃口前方を人力で余掘りし、反対側の刃口と地盤との間に反り板を噛ましてエレメントを推進することにより方向修正することが行われているが、容易に方向修正することができず、時間と労力が浪費されてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−278689号公報
【特許文献2】特開平08−319792号公報
【特許文献3】特開平11−247579号公報
【特許文献4】特開2000−120372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、前記従来の技術の問題を解決し、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができるエレメント推進工法、及びエレメント推進工法に用いられる刃口エレメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列の配列構造で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法において、前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のエレメント推進工法において、油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の刃口エレメントおいて、前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、エレメント推進工法において、エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うので、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載のエレメント推進工法において、油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うので、更に作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されているので、切羽面と当接するビットを必要に応じて交換することができる。また、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の刃口エレメントおいて、前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であるので、エレメントの貫入方向の修正を容易に行うことができ、作業効率と作業スピードを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に係るエレメント推進工法として示すHEP&JES工法の説明図である。
【図2】覆工エレメントのJES継手部分を示す部分拡大断面図である。
【図3】実施例に係る刃口エレメントの平面図である。
【図4】同上の刃口エレメントの正面図である。
【図5】同上の刃口エレメントの右側面図である。
【図6】同上の刃口エレメントの水平断面図である。
【図7】同上の刃口エレメントの鉛直断面図である。
【図8】実施例に係る通常ビットの断面図である。
【図9】実施例に係る方向修正用ビットの断面図である。
【図10】ピッチング修正の際の作業手順の概要を示す説明図である。
【図11】ヨーイング修正の際の作業手順の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
(HEP&JES工法)
先ず、エレメント推進工法の概要を、図1を用いて説明する。
なお、本発明に係るエレメント推進工法の実施例として、HEP&JES工法(High Speed Element Pull & Jointed Element Structure)により、地上施設(路線施設)である線路AGの下に構造躯体であるアンダーパスUPを構築する場合で説明する。
【0018】
事前準備として、線路AGや隣地の崩壊を防ぐため、図1に示すように、アンダーパスUPを構築する箇所の線路AGの両側に沿って2列ずつ鋼製矢板(シートパイル)などの土留め部材SPをバイブロハンマ等で地中に貫入させる。そして、その土留め部材SPの間を掘削して、線路AGの両脇に、覆工エレメントeの貫入開始側となる発進立坑h1及び覆工エレメントeの貫入到達端側となる到達立坑h2をそれぞれ掘削する。勿論、周辺の状況、地盤の土質、地下水の状態により土留め部材SPを設置する必要がない場合は、適切な法面をとって掘削すればよい。この発進立坑h1は、覆工エレメントeの搬入・接続作業等の作業スペースとなり、到達立坑h2は、前述の牽引手段の設置スペースとなる。次に、水平ボーリングマシーンで水平ボーリングを行って、牽引ケーブルCaを挿通するための横孔を穿孔する。そして、発進立坑h1には、覆工エレメントeを水平に載置するための架台が、到達立坑h2には、覆工エレメントeを牽引する牽引装置PMがそれぞれ組み立てられる。
【0019】
牽引ケーブルCaは、貫入する覆工エレメントeの先端(掘進方向前端)となる後述の刃口エレメント1に図示しないクランプを介して連結され、牽引装置PMで刃口エレメント1を牽引しながら刃口エレメント1内部を作業員が人力で掘り進み、順次覆工エレメントeを長手方向に接続して行き、覆工エレメントeで覆工して坑壁崩落を防護しながら最終的に発進立坑h1から到達立坑h2まで貫通する孔を穿孔し、エレメント列を地中に完成させる。また、刃口エレメント1内で掘り崩した掘削土砂は、排土手段であるベルトコンベアBで発進立坑h1に搬送されて廃棄される。
【0020】
このように、1つのエレメント列が完成すると、隣接するエレメント列を同様に設置して行き、このエレメント列を中空矩形状に配列したエレメント構造体を構築する。このとき、エレメント列同士は、長手方向全長に亘って延在する断面略C字状のJES継手で係合させてエレメント列間で引張力の伝達が可能なように構成する。また、エレメント構造体は、各辺など、所定区間毎に適宜覆工エレメント列内に中詰めコンクリートを打設すると共に、JES継手にグラウト材などを注入し、アンダーパスUPの構造躯体を完成させる。そして、アンダーパスUPの構造躯体内部をバックホーなどの掘削重機等で掘削してアンダーパスUPを完成させる。
【0021】
(JES継手)
次に、JES継手について図2を用いて説明する。
図2に示すように、JES継手は、断面略C字状の継手であり、これらが互い係合し、その長手方向端部からグラウト材が注入されて、グラウト材が硬化することで、エレメント列間における引張力やせん断力が伝達可能となる。用いられるグラウト材は、構造設計に応じた所定の硬化強度(圧縮強度、付着強度等)と、JES継手の空隙部分を満たすことができる流動性及び低収縮性を有する材料であればよいが、一般的には、無収縮モルタルやエポキシ系樹脂などが用いられている。図示するように、覆工エレメントeの外部には、地山への貫入前に予め、防錆のため防錆シートBSを貼着したり、グラウト材の漏出防止のためグラウト漏出防止鋼板GTを取り付けたりするとよい。また、覆工エレメントeの内部には、グラウト漏出防止のためにシリコン系や変成シリコン系などのシーリング材Sでシーリングを施したり、又はアスファルト系シーリング材を硬化剤と共に吹き付けたりする(図示せず)と好ましい(例えば、特開2007−23622号公報に記載の工法などでシーリング及びグラウトを施工する)。なお、Pは発泡樹脂からなるバックアップ材(パッキン材)を示す。
【0022】
以上のように、HEP&JES工法を例に挙げてエレメント推進工法を説明したが、背景技術で述べたように、長手方向に覆工エレメント同士が剛接合で連結されているため、掘進距離が長くなって土中深く貫入されたエレメント列を方向修正することは非常に困難であった。
そこで、本発明は、後述のように刃口エレメント1を改良し、この方向修正作業が容易に行えるようにするものである。
【実施例】
【0023】
(刃口エレメント)
次に、本発明の実施例に係る刃口エレメントについて図3〜図7を用いて説明する。
図示刃口エレメント1は、掘進方向前方(以下、単に前方、後方という)の刃口2と、後方のアダプタ3とから主に構成された概略角形筒型の鋼製管からなり、エレメント推進工法に用いられるエレメント列の貫入方向前端に取り付けられて地中にエレメントを貫入する際の刃先の機能を有する部材である。この刃口エレメント1は、人力掘削用のため作業員が2人並んで作業可能な大きさである、横幅bが2000mm、高さhが850mm程度の大きさに設定されている。
【0024】
刃口2は、掘進方向の進む方向から見て(以下、正面という)横長な角形筒型の刃口本体20からなり、この刃口本体20には、前後両端に開口が設けられており、前方の開口が前方開口21、後方の開口が後方開口22となっている。
【0025】
この前方開口21は、上方が前方に迫り出すように斜めに傾斜した開口であり、この前方開口21の上辺21a、及び左右の側辺21b、21cには、切羽面を突き刺す機能を持った先の尖った複数のビット23が形成され、上辺21a側が上部ビット23a、側辺21b、21cが側部ビット23b,23cとなっており、前方開口21の底辺21dには、ビットは形成されていない。また、後方開口22は、長手方向と垂直な面に沿った矩形の開口であり、この後方開口22には、アダプタ3が接合されている。
【0026】
複数のビット23は、全て刃口本体20に対して着脱自在に構成された替ビットとなっており、この替ビットには、通常使用される通常ビットB1(図8参照)と、貫入方向の修正を行う際に使用され、通常ビットB1より外側への突出厚が大きい厚手の方向修正用ビットB2(図9参照)の2種類のビットが用意されている。なお、この通常ビットB1、方向修正用ビットB2については、後で詳述する。
【0027】
また、アダプタ3は、刃口本体20の断面形状と略同型のアダプタ本体30からなり、このアダプタ本体30の四隅には、油圧ジャッキ(各ジャッキの能力は、350kN、100st)である4つの方向修正ジャッキ31〜34が搭載されており、後述のヨーイング修正やピッチング修正などの方向修正の際に稼動させて、貫入したエレメント列の方向修正が容易にできるようになっている。
【0028】
なお、符号24は、刃口2に作用する圧縮力に対抗するための支柱であり、符号25は、方向修正ジャッキ31〜34の圧力により刃口本体20が変形しないようにするための補強リブである。
【0029】
(ビット)
次に、通常ビット及び方向修正用ビットについて図8及び図9を用いて説明する。通常ビット及び方向修正用ビットの替ビットは、上部ビット23a及び側部ビット23b,23cとも、全くの同型であるので、上部ビット23aを例に挙げて説明し、他は説明を省略する。
【0030】
先ず、通常ビットB1を説明すると、図8に示すように、通常ビットB1は、切羽面に突き刺さる刃先となる刃部B10と、刃口本体20と係合する係合部B11と、から主に構成され、この刃部B10の内側(図示、上部ビット23aの場合下側)は、刃口本体20の外形と所定角度で交差する傾斜面となっており、外側は、刃口本体20の外形と刃口本体20への装着時において面一且つ平行な面となっている。
また、本実施例では、係合部B11の外部の厚みが5mm、係合部B11の内部の厚みが15mm、係合溝の幅が20mmに設定されている。但し、この係合部B11の外部の厚みは、通常ビットB1が刃口本体20に装着された状態で、刃部B10の外側の面が刃口本体20の外形と面一となっていればよい。
【0031】
方向修正用ビットB2について図9を用いて説明する。この方向修正用ビットB2は、通常ビットB1と同様に、刃部B20と、係合部B21とから主に構成された厚手のビットとなっており、通常ビットB1との相違点は、係合部B21の外部の厚みが、通常ビットB1より厚くなっている点だけである。つまり、方向修正用ビットB2は、刃口本体20に装着した状態で、外側への突出厚さが通常ビットB1より厚くなっている。本実施例では、係合部B21の外部の厚みが10mmとなっており、通常ビットB1より5mm厚くなっている。
【0032】
(方向修正工程)
次に、エレメント推進工法において、前述の刃口エレメント1を用いて地中に貫入したエレメント列の方向修正を行う場合の手順を図10及び図11を用いて説明する。この方向修正には、大きく分けてヨーイング修正(センター位置修正)とピッチング修正(高さ修正)がある。上方にピッチング修正したい場合について説明すると、先ず、前述の刃口エレメント1の上部ビット23aの替ビットを全て通常ビットB1から方向修正用ビットB2に取り替えて、所定距離(1m程度)刃口エレメント1を牽引する(図2〜7参照)。そして、その後、刃口エレメント1を元の位置に戻すと共に、上部ビット23aの替ビットを通常ビットB1に戻す。すると、上方に5mmの方向転換用のスペースができる。そして、ボルトを外して刃口2とアダプタ3の連結を解除し、方向修正ジャッキ32,33を作動させると刃口2が上方に回転することができるようになる。このように刃口2を回転して正規の軌道にピッチング修正した後、刃口2とアダプタ3との間に出来たクリアランス(隙間)に鉄板などのスペーサを挿入して再びボルト締めして刃口2とアダプタ3とを連結し、牽引・掘進を再開する。
なお、本実施例のように、通常ビットB1と方向修正用ビットB2の係合部の外部の厚みの差を5mmに設定すれば、掘進距離1m先では、8mm程度の方向修正が可能となる。
【0033】
ヨーイング修正(センター位置修正)する場合を掘進方向に向かって右側へヨーイング修正する場合で説明すると、ピッチング修正と同様に、刃口エレメント1の右側部ビット23bの替ビットを全て通常ビットB1から方向修正用ビットB2に取り替えて、所定距離(1m程度)刃口エレメント1を牽引し、刃口エレメント1を元の位置に戻すと共に、右側部ビット23bの替ビットを通常ビットB1に戻し、連結していたボルトを外して方向修正ジャッキ33,34を作動させて刃口2を右方向へ回転することにより、ヨーイング修正を行う。
【0034】
以上のように、実施例に係る刃口エレメント1を用いたエレメント推進工法によれば、刃口エレメントの替ビットを通常ビットから方向修正用ビットに替えるだけで、容易に方向修正用のスペースを作ることができ、油圧ジャッキなどを用いて簡単に方向修正を行うことができる。そのため、エレメント推進工法全体の作業効率と作業スピードを向上することができる。
【0035】
以上のように、この発明の一実施の形態に係る刃口エレメント、及び、それを用いたエレメント推進工法を、HEP&JES工法により正面視で矩形中空状のアンダーパスの構造躯体を構築する場合で説明したが、勿論、構築する構造躯体は、例として挙げた矩形状のものに限られず、アーチ状や環状など設計に応じた様々な形状の構造躯体に適用可能であることは云うまでもない。また、覆工エレメントの断面形状も扇形など構築するエレメント構造体の形状に合わせた所定の形状とすることができる。
【0036】
そして、エレメント推進工法の1つとしてHEP&JES工法を例に挙げて説明したが、発進立坑から押圧ジャッキにより押圧して覆工エレメントを推進するエレメント推進工法にも適用することができることは云うまでもない。また、牽引手段、排土手段などは、一例を示したものであり、特許請求の範囲に記載した範囲内で従来の手段や装置等と置換可能である。また、図で示した、形状等もあくまでも一例を挙げたものであり、適宜変更可能である。特に、替ビットとして通常ビットと方向修正用ビットの2種類を例に挙げて説明したが、外側への突出厚の差を複数段階に分けてもっと沢山の種類の替ビットを用意してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 刃口エレメント
2 刃口
20 刃口本体
21 前方開口
23 ビット
B1 通常ビット
B2 方向修正用ビット
3 アダプタ
31〜34 方向修正ジャッキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列の配列構造で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法において、
前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、
前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うことを特徴とするエレメント推進工法。
【請求項2】
油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うことを特徴とする請求項1に記載のエレメント推進工法。
【請求項3】
地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、
切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されていることを特徴とするエレメント推進工法用の刃口エレメント。
【請求項4】
前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であることを特徴とする請求項3に記載の刃口エレメント。
【請求項1】
地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列の配列構造で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法において、
前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントは、その前方開口の外周に複数の着脱可能なビットを有し、このビットは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットと、が交換可能となっており、
前記エレメント列の貫入方向の修正を行う際に、前記刃口エレメントの曲げたい側のビットを、前記通常ビットから前記方向修正用ビットに取り替えて当該刃口エレメントを貫入し、この方向修正用ビットを元の通常ビットに戻すことで回転用のスペースを作り、貫入方向の修正を行うことを特徴とするエレメント推進工法。
【請求項2】
油圧ジャッキで前記刃口エレメントの一端を押圧することで貫入方向の修正を行うことを特徴とする請求項1に記載のエレメント推進工法。
【請求項3】
地上施設の地下に両端が開口した筒型のエレメントを貫入し、その内部を掘削しながら当該エレメントを地中深くに貫入して行き、順次複数のエレメントを長手方向に連結してエレメント列を構成し、この工程を繰り返すことで複数のエレメント列を所定形状に配列し、このエレメント列で前記地上施設を防護しつつ地中に構造躯体を構築するエレメント推進工法に用いられる前記エレメント列の貫入方向前端となる刃口エレメントであって、
切羽面と当接するビットが脱着可能に構成されていることを特徴とするエレメント推進工法用の刃口エレメント。
【請求項4】
前記刃口エレメントは、通常肉厚の通常ビットと、この通常ビットより外側への突出厚さが大きい厚手の方向修正用ビットを有し、前記通常ビットと前記方向修正用ビットとが取り替え可能であることを特徴とする請求項3に記載の刃口エレメント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−174219(P2011−174219A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36753(P2010−36753)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(399101337)株式会社ジェイテック (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(399101337)株式会社ジェイテック (20)
【Fターム(参考)】
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