説明

エレメント

本発明はエレメント、そのための製造方法および装置、およびそのエレメントの使用方法を開示し、そのエレメントは電流の助けによってフィルム状構造中に熱的効果を提供するための少なくとも一つのフィルム材料から形成される導電性フィルム状構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エレメントに向けられている独立クレームの前文に規定されているように、最も一般的なレベルでは、本発明は表面構造に関し、より特定には熱的効果を提供可能な表面構造に関する。使用に向けられた独立クレームの前文に規定されているように、本発明はエレメントの使用にも関する。それらに向けられた独立クレームの前文に規定されているように、本発明はエレメントの製造方法にも関する。それらに向けられた独立クレームの前文に規定されているように、本発明はエレメントのための製造装置にも関する。それらに向けられた独立クレームの前文に規定されているように、本発明は窓構造物にも関する。
【背景技術】
【0002】
このような加熱手段は産業界および家庭の両方において多くの場所で必要とされる。特定の目的のために適当な温度を生成することについて多くの一般的な問題がある。たとえば、ある第1の温度において化学反応がある第2の温度においてよりも早く生ずる。また、種々の物質の相転移が発生したりしなかったりするのはある意味で問題の物質特有の温度に依存する。
【0003】
たとえば、燃焼による熱の生成、または氷による冷却効果の提供は二、三の知られた方法である。しかしながら、電気が発明された後は、電気ヒーターが温度変化を達成するための便利な方法になった。加えて、たとえば従来のペルチェエレメントを用いて、温度を常温より低く維持するために、たとえば、レストランでミルクのピッチャーを冷やしておくために、電気を使うことが可能となった。
【0004】
しかしながら、実際には、電気を伝達するためには、ほぼ例外なく導電体または少なくとも導電体を有する変圧器が必要である。このように導電体の存在の必要性は特に透明な表面が加熱される用途において問題である。
【0005】
雪が降る冬の条件で自動車を運転したことがある人は誰でも車の窓に霜および/または曇りが生じる一定の状況を経験する。さらに、フライト中の航空機の補助翼に氷が形成すると惨事を招くことがある。
【0006】
たとえば、車の後部窓に後部窓中の加熱エレメントに電気を供給するために導電体が用いられ、その場合抵抗ワイヤーがガラスを加熱する。同様の導電体またはワイヤーは航空機の翼中に設置されうるが、車における場合は、加熱ガラスを通した視認性はある意味乏しい。他方、それらのワイヤーが細いとしても、安全上の理由から、それらは風防および/または横窓に使うことはできない。加熱される鏡の製造については技術の存在が知られているが、鏡に適するこのような技術は窓構造物に期待されるような敏感な透明構造物については少なくとも不適切である。たとえば、車の風防の中の導電体は視覚的および美的両方の障害を引き起こす。高い速度においては、航空機の翼または機体上のワイヤーも翼の表面に沿った流動による空気力学に影響しうる。
【0007】
航空機その他の飛行機において、ヒーターの金属ワイヤーは重大な重量増加となり、それはより大きな離陸/飛行重量のために燃料消費の増大を意味する。しかしながら、そのエレメントを小さく軽くすることは、加熱力が低く、それ故より長い加熱時間も意味する。さらに、利用できる加熱力が小さい場合は、飛行中における翼の凍結という形態の望ましくない現象がより起こりやすくなる。安全上の理由から、パイロットはコックピット窓の上のヒーターワイヤーを勘定したくない。
【0008】
近年のレーザー技術の大幅な発達によって、半導体ファイバーに基づく高出力レーザーシステムに用いられる手段が提供され、冷間蒸散に基づく方法の発達が支持されている。
【0009】
しかしながら、十分な正味の出力において、パルス化レーザー照射を作業スポットにファイバーを通じて伝達する場合に、従来のファイバーレーザー中のファイバーでは高出力での使用ができない。作業スポットにおいて必要な出力レベルにおいて、従来のファイバーは吸収によって引き起こされる照射伝達損失に耐えられない。起源から標的へのレーザー照射の伝達にファイバー技術を使用する理由の一つは、単一の光線であったとしても開放された空間を通しての伝達は工業的な作業環境において当然作業者にとって危険であり、工業的スケールではそれを用いなければ非常に困難であり、不可能でもあるからである。
【0010】
本出願の優先日においては、純粋なファイバーベースのダイオード励起半導体レーザーはランプ励起のものと競合しており、両者ともにまずレーザービームがファイバーに伝導され、次いで作業スポットの標的に送られる。これらのファイバーレーザーシステムは工業的スケールのレーザー蒸散用途のためにのみ好ましいものである。
【0011】
それ故、現在のファイバーレーザーにおけるファイバーおよびその低い照射出力によって、標的材料の蒸発/蒸散にファイバー材料を用いることが制限される。アルミニウムは低出力パルスにより蒸発/蒸散可能であるが、銅、タングステンなどのような材料は蒸発/蒸散が困難であり、より高いパルス当たりの出力が必要である。同様の公知技術を用いて新規化合物を製造することが目的である場合にも、同様のことが当てはまる。わかり易い例を挙げると、炭素から直接のダイヤモンドの製造、またはレーザー蒸散の後の適当な条件における気相反応を用いるアルミニウムおよび酸素からの酸化アルミニウムの直接製造、などがある。
【0012】
他方、ファイバーレーザー技術の発達に関し最も重大な障害は、ファイバーが損傷されることなく、またはレーザービームの品質が劣化することなく高出力レーザーパルスに耐えることができるファイバーの容量であろう。
【0013】
新規冷間蒸散法を用いて被覆、薄膜製造および切削/溝切り/彫刻などに関連する品質および製造速度の両方の問題を解決するための主要な手段はレーザー出力を増大すること、および標的表面上のレーザービームのスポット寸法を小さくすることである。しかしながら、ほとんどの出力はノイズとして浪費されていた。レーザー出力に関係する問題はいくつかの製造者によって解決されたけれども、品質および製造速度の問題は未だ解決されていない。低い繰返し周波数、狭い走査幅および長い加工時間を用いないで、特に目的物が大規模な場合に工業的な実現可能性を逸脱することなく、被覆/薄膜および切削/溝切り/彫刻の両方の典型的なサンプルを製造することはこれまで不可能であった。
【0014】
パルスのエネルギー含有量については、パルス出力が高くなり、その幅が短くなるに伴って、より短い幅のレーザーパルスに関する問題の重要性が大きくなる。それらはそのように冷間蒸散法に適さないけれども、ナノ秒パルスレーザーにおいても重大な問題が生じる。
【0015】
パルス幅をフェムト秒またはアト秒の範囲にまで短くすると、問題はほとんど解決不可能である。たとえば、10〜15psのパルス幅のピコ秒レーザーシステムでは、10〜30μmのスポットについてのパルスエネルギーは5μJであり、その場合、レーザーの合計出力は100Wであり、繰返し周波数は20MHzである。発明者等は、本願の優先日においてそのようなパルス出力に耐えることができるファイバーを知らない。
【0016】
パルスが短くなるほど、ある時間当たりにファイバーのある断面を横切って通過するエネルギーが高くなる。上述したような条件において、パルス幅およびレーザー出力に関し、個々のパルスのレベルは、およそ400kWの出力に相当しうる。発明者等が知る限りにおいて、本願の優先日までに、最適なパルス形状からの収差を生じさせないで200kWに耐え、15psのパルスを通過させるファイバーを製造することは不可能である。
【0017】
いずれかの入手可能な材料からプラズマを製造する可能性を限定したくなければ、たとえば、200kW〜80MWのパルス出力レベルが自由に選択可能でなければならない。現在のファイバーレーザーの限界に関する問題はファイバーそれ自体のみから生じるのではなく、所望の合計出力を達成しようとする場合に分離したダイオード励起レーザーの光学カプラーによって、一緒に結合した状態で表れる。このように組み合わされたビームは従来技術を用いて単一のファイバーから作業スポットに導かれる。
【0018】
従って、光学カプラーは高出力パルスを作業スポットに伝達するための伝達経路中に用いられる場合には、少なくともファイバーそのものと同等の出力に耐えなければならない。通常の出力レベルを用いる場合でも、適当な光学カプラーの製造は非常に高価であり、その働きはある意味不安定であり、それらは使用中に磨耗するために、一定期間の後に交換されなければならない。
【0019】
収率は繰返し周波数または速度に直接比例する。他方、公知のミラーフィルムスキャナ(すなわち、ガルバノスキャナまたは同様の前後振動型のその他のスキャナ)は前後振動運動により特徴付けられる負荷サイクルを有し、その負荷サイクルの終点においてミラーが停止することが実質的な問題である。転換点に関係する加速および減速およびそれに伴う瞬間的な停止のように、そのことがそのようなミラーのスキャナとしての有用性、特に走査幅にも影響する。繰返し周波数を増大させることで収率をスケールアップするのであれば、そのような加速および減速によって、減速および/または加速しているミラーを通して放射が標的に当る場合に走査面積が狭くなるか、または標的における放射およびプラズマの分布が不均一になる。
【0020】
パルスの繰返し周波数を増大させることによって、単純に被覆/薄膜の製造速度を上げた場合は、上述の公知のスキャナは制御不可能な方法ですでにkHz領域の低パルス周波数における標的領域中の重複スポットの上に直接パルスを行うであろう。
【0021】
同じ問題はナノ秒レーザーにも当てはまるが、それらのパルスはエネルギーが高く幅が長いのでより深刻である。従って、単一のナノ秒パルスであっても標的材料にかなりの浸食が生じる。
【0022】
知られている技術では、標的は不均一に磨耗するばかりでなく、容易に、ある意味寸断され、そのことがプラズマの品質を劣化させる。従って、このような技術を用いて被覆された表面も有害なプラズマに関する問題を被る。それらは表面上の破片になることがあり、プラズマは不均一に分散され、そのことがまた不均一に分布した表面を形成する。そのことは正確性を要求する用途では問題であるが、係る欠点が用途特有の検出限界を下回っている塗料または着色剤用途においては必ずしも問題ではない。現在の方法では、標的は1回限り使用され、同一表面において同一の標的を再使用することはできない。新品の標的表面のみを用いることにより、所望に応じて標的および/またはビームのスポットをそれぞれ相対的に移動させることにより上記問題を解決する試みが成されてきた。
【0023】
加工もしくは作業型の用途において、断片を含む余剰物又は残留物もまた不均一そして不良な切断線となることがあり、流量制御に関連するボアを含む可能性がある。さらに、放出される断片によって表面の外観が不均一のまま残され、ある種の半導体の製造に好ましくない。
【0024】
加えて、ミラーフィルムスキャナの前後運動によって、その構造ばかりでなく、ミラーを動かすためのベアリングによってミラーが取り付けられている箇所に負荷が生じる。係る内部構造では、特に係るミラーが設置された末端部で動作する場合に、ミラーの取り付けが徐々に緩み、長期使用のうちに設置がすべり、製品品質の不安定性が約束される。動きの方向および速度の停止および変化のために、このようなミラーフィルムスキャナは蒸散およびプラズマ製造に用いるのに走査幅が非常に限定される。第1の場所における動作が遅いとはいっても、合計の製造サイクル長さに対する効果的な製造サイクルは短い。製造を増大させる観点からは、ミラーフィルムスキャナを用いるシステムはプラズマ製造についてみれば必ず遅く、走査幅が狭く、長期的に不安定であるが、プラズマの中に有害的な粒子を放出し続ける非常に高い可能性を有し、それを用いる加工および/または被覆製品に相応の特性を提供することになる。
【0025】
ファイバーレーザー技術には、次のような問題もある。すなわち、それを通過するエネルギーの出力が大きいが故に、ファイバーが劣化することによってファイバーの溶融および/または分解または伝播ビームの品質低下を生じさせないで大量のエネルギーをファイバーに通過させることできないのである。構造や品質がそれほど弱くない場合でも、10μJのパルス出力によってファイバーは損傷されうる。ファイバーベースの技術では、たとえば、ダイオード励起のような多くのレーザー出力源を一緒に組み合わせたファイバー光学カプラーは特に損傷しやすい。
【0026】
パルスが短くなるほど同じ量のエネルギー当りの出力が高くなり、その結果、レーザーパルスが短くされて同じ量のエネルギーを伝達する場合は問題が大きくなる。特に、ナノ秒レーザーでは問題は非常に重大である。
【0027】
パルス幅がフェムト秒またはアト秒の範囲にまで短くされる場合は、問題はほとんど解決不可能になる。たとえば、10〜15psのパルス幅を有するピコ秒レーザーシステムでは、パルスエネルギーは10〜30μmのスポットについて5μJであり、この場合、レーザーの合計出力は100Wであり、繰返し周波数は20MHzである。本願の優先日において、発明者等は係るパルスに耐えられるファイバーを知らない。
【0028】
ファイバーレーザー用途の重要な分野であるレーザー蒸散では、最大および最適なパルス出力およびエネルギーを達成することが非常に重要である。パルス長が15ps、パルスエネルギーが5μJおよび合計出力が1000Wである状況を考えると、そのパルスの出力レベルは約400,000W(400kW)である。本願の優先日において、本発明者等は、パルスを最適に保ったままで15psの幅で200kwのパルスであっても通過させるファイバーの製造に成功した例を知らない。
【0029】
いずれにしても、いずれかの入手可能な材料からプラズマを自由に製造するための可能性を目差すのであれば、たとえば200kW〜80MWの間でパルス出力レベルが自由に選択可能でなければならない。
【0030】
しかしながら、今日のファイバーレーザーに伴う問題はファイバーのみに限定されず、得られるビームが単一のファイバーを通って作業スポットに達することができる望ましい合計出力を達成するために光学カプラーによる分離したダイオードポンプとの組み合わせにも向けられる。
【0031】
使用可能な光学カプラーは作業スポットに高出力パルスを運ぶ光学ファイバーと同じ大きさの出力に耐える必要がある。加えて、レーザービームのすべての伝搬段階を通してパルス形状が最適に保たれなければならないことが考慮される必要がある。現在適用される出力値に耐えうる光学カプラーにしても製造の費用が特に高価であり、かなり信頼性がなく、摩耗する部品であり、定期的に交換が必要である。
【0032】
レーザービームおよび蒸散の使用に基づく従来の技術は出力および品質の問題を伴い、たとえば、特に走査と組み合わせた蒸散の観点からは、均一および良好な製品の品質を持って工業的なスケールの大量生産を可能にするレベルまで繰返し周波数を上げることができないものである。加えて、従来技術のスキャナーは蒸発デバイス(真空チャンバー)の外に設置され、そのことにより、レーザービームは真空チャンバーの光学窓を通過して移動しなければならず、ある程度必ず出力が低減される。
【0033】
優先日において出願人に知られている従来技術の蒸散装置の有効出力は10Wのオーダーである。そして、繰返し周波数も、たとえば、レーザーで刻まれた単なる4MHzに限定される。さらにパルス周波数を増大する場合は、従来技術によるスキャナーはレーザービームのパルスの重大な部分がレーザー装置の壁構造に制御不能な形で当たり、プラズマの形態ですでに蒸散した物質に入り、製造される表面の品質および製造速度もまた実質的な影響を被る。さらに、標的にあたる照射の流れが均一に保たれず、それはプラズマの構造に影響し、その結果、被覆される表面に当って不均一な品質の被覆を提供する。
【0034】
従って、標的が、その表面が処理される、加工される一片および/または部分である加工の用途においても、切削効率および切削の品質が影響を被ることが容易に生じる。さらに、切削点の周りの表面および被覆される表面の上に破片および跳ねが落ちる重大な危険性がある。さらに、従来技術により作業をすると、繰返される表面処理が遅く、最終的な結果の品質が必ずしも均一でない。
【0035】
本願の優先日において出願人が知っている従来技術によるスキャナーでは、走査速度が3m/sを下回り、それにも係わらず、その走査速度は実際に一定ではなく、走査の間変化する。その主な理由は、従来技術によるスキャナーが、走査間隔を移動して止まり、そして反対側に回転して走査を繰返す回転ミラーに基づくからである。前後移動ミラーはこのように知られているが、それらは動作の均一性に伴う同様の問題を有する。平面ミラーを備える蒸散技術は米国特許第6,372,103号および同第6,063,455号の特許公報に記載されている。加速、減速および停止する運動によって走査速度が一定でないために、標的の異なる点、特に走査領域の末端において、作業スポットにおける蒸発により発生するプラズマの収率が異なる。プラズマの収率および品質も走査速度に完全に依存するからである。従来技術による装置を用いる場合、ある意味では、エネルギーレベルおよび時間当たりのパルスの数が高くなるほど、不利益が深刻になる。蒸散に成功すると、物質は原子の粒子に蒸発させられる。しかし何らかの障害があると、標的材料から破片が放出/分離されるか、それに破片が付着される。破片の寸法は数μであり、これは蒸散の手段により提供される表面の品質に当然影響する。
【0036】
今日知られているスキャナーの速度は低いために、パルス周波数を増大させると、スキャナーのミラーに達する前にレーザービームを拡大しない場合はミラー構造に到達するレーザービームパルスのエネルギーレベルが高くなり過ぎて今日のミラー構造が溶融/燃焼する可能性がある。従って、スキャナーと蒸散標的の間に追加の分離した集光レンズ装置が必要となる。
【0037】
現在のスキャナーの運用上制限となる主要な特徴はそれらが軽いことである。このことは、それらの質量が小さく、それ故、レーザービームのエネルギーを吸収するエネルギー吸収容量が小さいことをも意味する。この要素は今日の技術による用途において溶解/燃焼の危険性を増大させる。
【0038】
従来技術の1つの問題は走査幅である。これらの解決法では、理論的に約70mmの走査線幅を達成し得るミラーフィルムスキャナーを用いる線状走査を行っているが、実際には、30nmを下回る走査幅であっても依然として問題が残される。つまり、格子状の領域が品質的および領域的に不均一な状態に残されることがある。大きく広い目的物のための表面処理用途において現在のレーザー装置が工業的に実現不可能で、または技術的に実行不可能な理由は走査幅が非常に小さいからである。
【0039】
仮にレーザービームの焦点が外れる状況が従来技術において生じたとすれば、得られるプラズマは非常に品質が低いものになる。放出されたプラズマは標的からこぼれてきた破片をも含有しうる。同時に、標的から離れて来た材料はもはや使用できない程度にまで損傷されうる。材料の起源として非常に厚すぎる標的を使用することは従来技術による典型的な解決法の状況である。焦点を最適に保つために、標的はレーザービームの入射の方向に標的の消費に対応する程度動かさなければならない。標的が焦点に戻されたとしても、そこから蒸発して除かれた材料の量に比例して標的表面の構造および組成が変化しうるという問題は未解決のまま残されている。従来技術によれば、厚い標的の表面の構造はそれが消費されるに従って変化する。たとえば、標的が化合物または合金である場合に、その問題は容易に認識される。
【0040】
従来技術による配置では、蒸発される物質に対して蒸散の途中でレーザービームの焦点を変化させることはプラズマの品質に直接影響する。その表面上に到達するパルスのエネルギー密度が通常減少することになるからである。そのことにより、プラズマの蒸発/生成が不完全になる。このことにより、プラズマのエネルギーが低下し、不要な破片/粒子の量が増大し、表面モルホロジーが変化して、被覆の接着および/または厚さが変化しうる。
【0041】
焦点調整による問題を軽減するための試みがこれまで成されてきた。従来技術の装置においてレーザーパルスの繰返し周波数が低い、たとえば200kHz未満、および走査速度が3m/s以下に過ぎない場合、プラズマの強度の速度変化は低く、他方、装置は焦点を合わせることによりプラズマの強度を変更するために反応する時間は有する。a)表面の品質およびその均一性が重要でなく、b)低い走査速度における場合は、いわゆる即時プラズマ強度測定システムを用いうる。
【0042】
従って、本願の優先日において出願人が入手可能な情報によれば、従来技術による技術力を用いて高品質のプラズマを提供することは不可能である。従って、従来技術を用いて作製できない被覆が多くある。
【0043】
従来技術によるシステムはその中に複雑なシステムを使用しなければならない。公知の方法では、材料の標的は、通常厚い棒またはシートの形状である。これは焦点調節レンズを用いるか、または標的が消費されるにつれてレーザービームに向かって標的が動く必要がある。これの現実的な実施はすでに技術的に非常に高価で困難で、十分に信頼できる方法が全く不可能であって、品質に大きなバラツキが不可避であるから、精密な制御はほとんどで不可能であり、厚い成果の製造は高価になる。
【0044】
加えて、特殊な構造はほとんど必ず個別の品物および/または少数品として品質を変化させるように製造されなければならないが、高い製造コストもまた問題であり、その特殊構造を大規模生産に適用することを限定または完全に排除している。
【0045】
従って、本発明の目的は、加熱に関する従来技術の問題を解決するか、または少なくとも軽減することにある。本発明の目的は本発明によるエレメントによって達成される。
【0046】
本発明によるエレメントは、それに向けられている独立請求項の特徴部分に表わされたものによって特徴付けられる。本発明によるエレメントの使用は、その使用に向けられている独立請求項の特徴部分に示されたものによって特徴付けられる。本発明によるエレメントの製造方法はそれらに向けられた独立請求項の特徴部分に示されたものによって特徴付けられる。本発明によるエレメント製造装置はそれらに向けられた独立請求項の特徴部分に示されたものによって特徴付けられる。本発明による窓構造はそれらに向けられた独立請求項の特徴部分に示されたものによって特徴付けられる。
【0047】
本発明の目的は、従来技術に伴う問題を解決するか、または少なくとも軽減することができる表面処理装置を導入することである。本発明の他の目的は、本願の優先日において従来技術により知られているものよりも優れた表面品質を以って目的物をより効率的に被覆するための方法、装置および/または構成を導入することにある。本発明のさらに他の目的はより効率的で本願の優先日において従来技術により行うことができるものよりも優れた表面を以って行うことができる表面処理装置を用いて目的物が繰り返し被覆される技術の助けによって実施できる三次元印刷ユニットを導入することにある。本発明の目的は以下の目的を伴う。
【0048】
本発明の第1の目的は、いずれかの標的から、その標的材料がプラズマ中に破片を発生させないような高品質で純粋なプラズマを如何にして実用的に提供するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連手段を提供することにある。すなわち、上記プラズマは純粋で、存在するとしても上記破片は僅かであり、プラズマが標的を蒸散することでその場所に形成された蒸散深さより小さい寸法を有する。
【0049】
本発明の第2の目的は、加工される標的がプラズマ中に破片を形成しないような方法で標的から材料を蒸散深さまで除去する冷間加工法に用いられる高品質プラズマを放出することによる微細で均一な切削を、如何にして提供するかの問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連手段を提供することにある。すなわち、上記プラズマは純粋で、存在するとしても上記破片は僅かであり、プラズマが標的を蒸散することでその場所に形成された蒸散深さより小さい寸法を有する。
【0050】
本発明の第3の目的は、粒子状破片を全く含有しない高品質プラズマを用いて基材として機能する領域の表面を如何にして被覆するかの問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連手段を提供することにある。すなわち、上記プラズマは純粋で、存在するとしても上記破片は僅かであり、プラズマが標的を蒸散することでその場所に形成された蒸散深さより小さい寸法を有し、すなわち、実用的に任意の材料から形成されうる純粋なプラズマを用いて基材の表面が被覆される。
【0051】
本発明の第4の目的は、破片の発生を制限するかまたはそれらの寸法を蒸散深さよりも小さくなるように限定することにより粒子状破片に対する温度エネルギーの浪費を減少するような方法で基材に対する接着性についての良好な接着特性を有する被覆を高品質プラズマを用いて如何にして達成するかの問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連する手段を提供することにある。同時に、破片が存在しないために、核形成および凝縮によってプラズマジェットの均質性に影響しうる冷却表面は生じない。加えて、この第4の目的により、短い照射パルス、すなわち幅がピコ秒範囲以下のパルス、および2つの連続したパルスの間の一定のパルス間隔を好適に用いた場合に加熱の衝突領域が最小化された場合に照射のエネルギーが効率的にプラズマエネルギーに変換される。
【0052】
本発明の第5の目的は、同時に高品質のプラズマおよび工業的スケールの大きい目的物についての広い被覆幅を有する広い走査幅を如何にして達成するかの問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連する方法を提供することにある。
【0053】
本発明の第6の目的は、上述の目的と共に工業的スケールのラインの中の用途において高い繰返し周波数の使用を如何にして達成するかの問題を解決する少なくとも新規な方法および/または関連する手段を提供することにある。
【0054】
本発明の第7の目的は、上記1〜6の目的と共にラインの中で製品を製造するために表面を被覆するための高品質プラズマを提供しながら、標的材料を節約して被覆段階で再使用して、必要とされる同一品質の被覆/薄膜を如何にして提供するかの問題を解決するための少なくとも新規な方法および/または関連する手段を提供することにある。
【0055】
本発明のその他の目的は、係る製造物のそれぞれの適用可能な種類と共に如何にして冷間装置および/または被覆表面をラインに入れるかの問題を解決するために上記第1、第2、第3および/または第5の目的と共に方法および手段をラインに用いることにある。
【0056】
本発明の目的は、その照射伝達経路中にタービンスキャナーを有する、本発明の実施形態による、照射の使用に基づく表面処理装置により高品質プラズマを提供することにより達成される。
【0057】
本発明の実施形態による表面処理装置を用いると、表面処理される材料の除去量および/または被覆の収率が高品質被覆に要求されるレベルにまで向上し、さらに、十分な製造速度が得られ、そして照射出力による不要な制限がない。
【0058】
本発明の他の実施形態は従属請求項に実例として示される。本発明の実施形態は可能であれば結合することができる。
【0059】
本発明の実施形態は製品および/または被覆の製造に使用され、その際に製品のための材料は比較的自由に選択される。たとえば、半導体ダイヤモンドが製造され、その様式は大規模、大量生産に適し、コスト効率が良く、再現性が良く、そして品質もよい。
【0060】
本発明の実施形態の群では、表面処理がレーザー蒸散に基づいており、そのことによりタービンスキャナーを有する照射伝達ラインを通って伝達される照射の起源としてほとんどいずれのレーザー起源をも用いることができる。従って、適用可能なレーザー起源には、たとえば、CWレーザー、半導体レーザー、およびパルスがピコ秒、フェムト秒またはアト秒範囲であるパルスレーザーシステムが含まれ、後者の3種類は冷間加工法に適用可能なレーザーである。しかしながら、本発明は照射起源そのものは制限しない。
【0061】
本発明の教示に基づいて、当業者にとっては、表面処理のある段階において目的物が標的と呼ばれてよく、表面処理の他の段階では基材と呼ばれてよく、材料がそれ(標的)から蒸散されるかまたは材料がその(基材)上に導入されるかに依存していずれでもよいことが明らかである。従って、少なくとも理論的には、1種類および同一の目的物が加工/堆積の段階に依存して基材としても標的としても機能することが可能である。
【0062】
本発明の他の実施形態は従属請求項に表わされる。
【0063】
発明の詳細な説明
ここでいうエレメントはヒーターおよび/またはクーラーのような機能単位を意味し、これらはエレメントと呼ばれる。しかしながら、本発明の実施形態ではエレメントには、その上に機能部位が適切に形成されている基材も含まれる。従って、たとえば、加熱エレメント(および/または冷却エレメント)が蒸散の手段によりその上に予め導入されている自動車の窓スクリーンまたはその他のガラスは本発明の実施形態では加熱エレメント(および/または冷却エレメント)のみを有するが、それらのエレメントを有するようにすでに工場で製造された同じガラスもエレメントと考えられ、その場合、エレメントの中にガラスが基材として含まれている。この場合のガラスは透明材料のシールドまたはカバーを意味し、ガラスそのものの組成および/または構造を意味すると考えられるべきではない。
【0064】
図1は、本発明の実施形態によるエレメント100を示す。これはその表面上に加熱可能なフィルム状構造Lが描かれている基材Sを有する。フィルム状構造Lの厚さh2は図2に示されている。図1中、そのエレメントが電流によって加熱される加熱抵抗として機能するようにエレメントLの長さにわたって電力を供給するために、加熱エレメントLは電圧サプライV2に結合して示されている。エレメントLはストリップ状に描かれているけれども、提示される実施例はそのエレメントの形状を限定することを意図しない。本発明の実施形態における電圧サプライは図面に示されているものに係わらず、ACサプライであっても良いことにも注意すべきである。
【0065】
図1は本発明の実施形態によるエレメント100を示す。これはその表面上に冷却可能な構造Pが描かれている基材Sを有する。フィルム状構造Pの厚さh3は図2に示されている。図1中、そのエレメントが電流によって冷却される冷却エレメントとして機能するようにエレメントPの長さにわたって電力(V、A)を供給するために、冷却エレメントPは電圧サプライV1に接続して示されている。エレメントPはストリップ状に示されているけれども、提示される実施例はエレメントの形状を限定することを意図しない。図面に示されているものに係わらず、本発明の実施形態における電圧サプライはACサプライであっても良いことに注意すべきである。
【0066】
また、図1は、出力、電圧のいずれかを制御することによる、および/または、電流、また周波数および/または点火角を変化させる場合に、供給される電力を制御するために、エレメントPの中にサイリスタのようなスイッチングおよび/または制御の構成要素Tが統合された本発明の実施形態を示す。この制御構成要素Tは図6に示される実施例における自動車コンピュータまたは天気センサーのような外部回路から制御を受けてもよい。図1において、制御構成要素はエレメントPと結合して示されているけれども、ここに示されているものに基づく技術の当業者にとっては、制御構成要素はエレメントLに関して二者択一的または追加的に配置されてよいことが明らかである。図1に基づいて、我々は、少なくとも次のような明確な実施形態を理解できる。第1に、基材Sの表面上に加熱エレメントLがあるものであり、第2に、基材Sの表面上に冷却エレメントP
があるものであり、そして第3に、少なくとも1つのPエレメントおよび少なくとも1つのLエレメントがあるものである。
【0067】
本発明の実施形態によれば、エレメントLおよび/またはPの層の厚さは、本発明の実施形態によるエレメントが微視的に不透明な材料から製造する場合であっても、そのエレメントが配置された位置でなくても不都合な程度にまで基材を透過する光を減衰させることのないように選択される。
【0068】
図2には、シート状エレメント200の基材Sのフィルム構造を示しているが、これはユークリッド平面の目的物のみに限定されず、本発明の実施形態において、基材は少しカーブしていてもよい。たとえば、飛行機の翼に関するものや、または図3に例示されるファイバーに関するものなどがある。図2において、基材Sの厚さh5はここに例示された異なる実施形態においては異なってもよい。しかし、何らかの他の副エレメント、Lエレメントおよび/またはPエレメントがフィルムの表面上に設けられる実施形態では、基材の厚さはフィルムの厚さであり、または場合に応じて、たとえばラミネートされた構造である場合はエレメントおよびフィルムを共に結合する層の厚さである。
【0069】
図2には、基材Sの一方の側上に図2の実施例においてはエレメントLを完全に被覆し、厚さh1を有するフィルムKが示されている。本発明の実施形態において、フィルムKは絶縁材、光触媒層、摩耗防止表面、ダイヤモンド表面、または光学的活性表面を有しうる。また、本発明の実施形態においては、Lエレメントを用いて可視光および紫外光の波長に実質的に透明なフィルムを提供することが可能であることも理解されるべきである。本発明の実施形態におけるフィルム材料においてインジウム、スズおよび/またはこれらの酸化物を用いることにより導電性であるが透明である非常に薄いフィルムを得ることができる。本発明の実施形態によれば、Lエレメントを用いて、たとえば太陽電池または他の光電子構成要素における導電材を実現することができる。その場合その導電材は使用可能なその表面上の電池の正面に位置しうる。その場合、そのエレメントはその電池を遮るけれども空間を節約し、それでいて、セルに対する照射の流入を著しく阻害しない。それ故光電子セルまたは同様の構成要素において、表面上の配線を有することも可能となる。このように、本発明の実施形態による個別の太陽電池において、本発明の実施形態によるエレメントにより形成された配線が光源に最も近くなり、そしてその後に、照射の伝播の方向において、電池そのものがあることになる。この配置は建物の外側表面を太陽電池材料で被覆する建設技術の解決策に特別な利益をもたらす。太陽電池を運転するのに、それらを直列および/または並列に接続するのに必要な配線が本発明の実施形態によるエレメントにより達成されうる。本発明の実施形態によって、配線は室内導入またはそれに変えて室外配線のために調整される。本発明の実施形態によれば、そのような表面は、氷結防止機能の手段を可能にするように加熱するために調整することができる。たとえば、摩天楼またはそのような建造物の壁は、建造物の内部に光を通すための透明フィルムが設けられたガラスを有する。室内のLエレメントは暖房コストを節約することもできる。
【0070】
種々のディスプレイの解決策にも、本発明の実施形態によるエレメントを使うことができる。たとえば、透明配線は液晶ディスプレイのようなディスプレイについて実現されうる。特殊な配線エレメントであっても液晶ディスプレイの導入のために製造することができ、その配線エレメントは実際にディスプレイの上にあるが、透明でり、見えない。従って、デバイス内部の空間が節約される。
【0071】
さらに、本発明の実施形態によれば、自己清浄化フィルムと本発明によるエレメントを結合することにより、たとえば、太陽電池用途に利点を得ることができる。本発明の有利な実施形態によれば、被覆される表面が1mm当たり1個以下の穴、有利には1cm当たりに1個以下の穴、より好ましくは被覆される面積に穴を有しないような面を有する表面が提供される。穴とは被覆をすべて貫通するものまたは実質的に被覆を貫通するもの(ピンホール)のいずれかをいう。穴は被覆の品質特性を低下させ、並びにその耐用寿命を短縮する。本発明はこの方法によるこのようにして提供される製造物にも向けられる。
【0072】
本発明のその他の有利な実施形態によれば、被覆された表面は、表面の最初の50%が1000nmを超える直径を有する粒子が表面の上に提供されないように、好ましくは100nmを超える寸法の粒子が存在しないように、そして好ましくは30nmを超える寸法の粒子が存在しないように製造される。このような粒子は被覆の品質を実質的に低下させ、その耐用寿命を短縮する。このような粒子は被覆の中に腐食チャンネルを形成する。本発明はこの方法によるこのように提供される製造物にも向けられる。
【0073】
本発明のさらに他の有利な実施形態によれば、被覆される対象物、すなわち基材がパルス化冷間加工レーザーで標的を蒸散することにより被覆される。その際には、上記目的物上に提供される表面の均一性は、原子間力顕微鏡(AMF)を用いる1μmの面積から測定された±100nmである。有利には、この表面粗さは25nm未満であり、好ましくは10nm未満である。本発明はこの方法によるこのように提供される製造物にも向けられる。
【0074】
基材SのフィルムKの反対側上には、L,Pと表示されたフィルムも示されており、そのフィルムの厚さはh4である。フィルムPの厚さはh3であり、フィルムLの厚さはh2である。従って、我々は図2の中に少なくとも図1に示された実施形態を認識することができる。しかしながら、フィルムKがフィルムLおよびPから形成されるエレメントについての追加の被覆として用いられる実施形態も認識することができる。さらに追加の被覆も存在してもよく、本発明ではそれらの数は全く制限されない。
【0075】
L,Pが表示されたフィルムは本発明の実施形態によるL型加熱フィルムであってよく、または本発明の他の実施形態によるP型冷却フィルムであってもよい。本発明のさらに他の実施形態によれば、そのフィルムは、たとえば、分離したL/P型フィルムが積層された状態に調整されたコンポジットフィルムでありうる。
【0076】
図3では、図2に示されたフィルムK、Pおよび/またはLがファイバー状またはチューブ状の基材Sの表面上に用いられる実施形態を説明する。図3中のエレメント300はシリンダー状に示されているが、本発明はシリンダー形状に限定されず、従って、上記層は、たとえば図に示されたまたは楕円の形状でありうる。従って、フィルム構造が図3による形状に製造される場合は、たとえばろ過に用いることができる単一層または多層の織布に対応する構造を提供することができる。従って、ろ過される材料の粒子寸法およびより詳細なろ過機構に関して、当業者は、ろ過される液体中の所定寸法のものについて効率的な捕集を達成するのに必要なフィルターファイバーの寸法および/またはその構造を想定することができる。本発明の実施形態によるファイバーを使用して、そのフィルターファイバーそのものに電流を通してL型フィルムの加熱、およびP型フィルムの冷却を行うことができる。従って、加熱することでたとえばろ液の乾燥を促進することができ、他方では、冷却することで乾燥が速く起こりすぎるのを防止することができる。フィルムKが、たとえば光触媒フィルムを有する場合、フィルターは少なくともある程度自浄性あるが、他方では、一定の加熱サイクルによって殺菌することもできる。本発明の実施形態によれば、従って、冷却および/または加熱可能な本発明の実施形態によるフィルターを織るのに用いることができる多数が束ねられた撚糸を得ることができる。
【0077】
図3を参照すれば、漏斗を製造可能であることも考えられる。その場合に、それらの表面には、一定の加熱効果が提供されるように、本発明の実施形態によってLおよび/またはP型エレメントが配置される。係るエレメントは、本発明の実施形態により、加熱効果を提供するために容器の表面上に用いることもできる。その容器は、たとえば、コンデンサー、コンテナまたは漏斗または移送管でありうる。
【0078】
図4において、記号S1、S、S2およびS3は、その上に実施形態によるエレメントが配置される基材を参照することにより本発明の種々の実施形態を提示する。図4の発明の実施形態は積層構造として示された実施形態を用いて実現されうるエレメント400を参照すると理解されるが、本発明はこのエレメント又はそれらの番号に限定されない。
【0079】
基材S1の上には、熱的効果、ここでは冷却効果を提供するP型エレメントが示されている。エレメントPには表面を覆い、均一な熱的効果を提供するのに有利な形状を示すために螺旋の形状に描かれているが、他方では、誘導ループを用いて、ガルバニ接触させないで電力を第1層から第2層へ積層された層の間を誘導的に電力を伝達する構造を表現するために有利な形状である。従って、伝達される電流が本発明の実施形態によってより綿密に成形された、振幅、周波数および/または波形を有しても自然である。たとえば、ラミネート層が電流を変換する点火角を調整することができる切り替えおよび/または制御構成要素を含む場合(トリアック)などがある。図4において、エレメントPおよびLは閉じたように示されておらず、また図4では、スイッチも電源も熱的効果を提供するように示されていない。
【0080】
基材Sを含む層では、L型およびP型エレメントは共に熱的効果を提供するように配置される。従って、層Sは加熱型および冷却型熱的効果の両方を提供するのに使用できる。上記エレメントを相互に独立して供給することにより、同時の、連続のまたは重複した熱的効果が提供される。図4において、エレメントLおよびPは基材Sの異なる部分中の分離したループに表示されるが、それらはLおよびPエレメントが平行に進行するネスト化されたループであってよいことが理解される。
【0081】
本発明の実施形態の一例は、Lエレメントのみまたは複数のLエレメントを有する層S2に示される。
【0082】
層S3は、LまたはPエレメントがアンテナをも実現する本発明の実施形態を示す。アンテナ(Ant)は図に矢印で示されるラジオ周波数信号RFを送信および/または受信する。透明な基材、アンテナ(Ant)、およびLエレメントおよび/またはPエレメントを有する本発明の実施形態は特に有用である。本発明のそのような実施形態によるエレメントは、たとえば、自動車または船舶、列車、航空機のような他の乗り物の風防に用いうる。
【0083】
図4においても、アンテナはその基材の積層構造の一部として示されているが、本発明の実施形態において、アンテナはS1、SおよびS2のような他の基材の1つの上に置かれてもよい。
【0084】
図5は、本発明の実施形態によるLエレメントおよびPエレメントの組成を示す。また、図5は代替的な組成によるエレメントL1の組成を示す。
【0085】
本発明の実施形態によるエレメントにおいて、電流によるフィルム状構造における熱的効果を達成するために少なくとも1つのフィルム状材料を蒸散することにより基材の上に一定厚さの導電性フィルム状構造が提供される。本発明の実施形態によるエレメントはLエレメントとして用いられる加熱可能な部分をそのフィルム状構造の中に有する。その加熱可能な部分は、電気抵抗および/または誘導的に組合させた電流によって加熱されるように配置される。ある実施形態では、エレメントは第1コイルおよび第2コイルを有し、その間に両コイルの間に電力を移送するための誘導結合が存在する。コイルの1つは優先日において知られているような電気抵抗材料から形成してよいが、コイルの間にワイヤーが不要になるようにフィルムに蒸散される。従って、このような積層された構造は完全に密でしかも加熱されることが必要な、たとえば、窓構造を実現するために用いうる。
【0086】
本発明の実施形態によれば、エレメントはフィルム状構造の中にPエレメントとして配置された冷却可能な部分を有する。好ましくは、冷却部分は公知のものであってよい一体化されたペルチェエレメントとして基材上に配置される。本発明の実施形態によれば、このようなペルチェエレメントはそのエレメントを提供するのに必要な蒸散材料により製造される。次いで、本発明による冷間蒸散によりその材料から提供されるフィルムがペルチェエレメントを製造するための均一な品質でエレメントの基材上に形成されると共に、基材が窓やその他の透明もしくは半透明な表面として機能することが意図される場合に、本発明の実施形態のために十分に薄い層が形成されることがフィルムの製造において得られる利点である。ある種のPエレメントを形成するために複数のペルチェエレメントを配置してもよい。
【0087】
本発明の本実施形態において、熱的効果によってその温度が制御されうる容器またはコンデンサーが実現されうる。次いで、たとえば本発明の実施形態によれば、それらの表面上に蒸散の方法によって加熱可能エレメントが備えられたような本発明の実施形態による漏斗を作製することが可能である。本発明の実施形態では、同一または異なる漏斗の表面上に対する蒸散の方法によってペルチェエレメントを提供することができ、そのことにより冷却の熱的効果が達成される。次いで、たとえば漏斗の表面上に直接または漏斗の上のフィルターの上に微生物が成長するのを制御するために、または液体の粘度を制御してろ過を調節するために温度の制御を用いることができる。従って、本発明の実施形態によれば、一定の温度においてその流動性自体を制御できる、冷却することによって凝結した流体の液相を収集および/または貯蔵できるように調整された漏斗部分および/またはコンテナを有する容器が得られる。
【0088】
本発明の実施形態によれば、そのエレメントは実質的に透明な単純なフィルム状構造または積層されたフィルム状構造を得るために用いることができる。完全な透明性はその波長における照射の損失のない伝播を要求し、現実には達成できないが、通常の窓ガラスのように可視光の波長における数%の損失であれば透明と考えてよい。たとえば、5%を上回る不透明性は実質的に透明と考えてよいが、その場合は透明性がおよそ70%の水準である場合である。また、当業者は与えられた材料から形成される窓について照射の透過性は可視光の範囲外の波長では波長の機能に依存して変化する事実を知っている。また、加熱可能な窓および/または透明フィルムに関する実施形態は窓の例として挙げられるけれども、本発明は人の目によって感知される波長における透明性には限定されない。本発明の実施形態によるLエレメントは少なくとも400〜700nmの波長範囲において実質的に透明である。本発明の実施形態によるLエレメントは少なくとも80〜700nmの波長範囲において実質的な透明性を有する。本発明の実施形態によるLエレメントは650〜2000nmの波長範囲に少なくとも入る波長において実質的な透明性を有する。
【0089】
本発明の実施形態によれば、Lエレメントはたとえば光学的窓および/または構成要素と組み合わせて赤外線を選別するのに用いうる。本発明の実施形態によれば、適用可能な一方の側において基材を完全に被覆することによる赤外線照射を選別可能な構造を実現できる。たとえば、軍服では、布地の繊維構造の中に、Lフィルムを用いて赤外線選別を達成しうる。
【0090】
本発明の実施形態では、エレメントはフィルム状構造の中にその中を移動する電流によってその温度を変化させるように調整された薄いフィルムおよび/または厚いフィルムを有する。また、係るフィルムはナノスケールにおける非常に薄い厚さを有するように調整されてよく、そのことである実施形態はたとえば厚さ500nm未満である。本発明の実施形態によれば、フィルムの厚さは200nm未満である。本発明の実施形態よれば、フィルムの厚さは100nm未満である。本発明の他の実施形態よれば、フィルムの厚さ50nmである。本発明の第3の実施形態よれば、フィルムの厚さは25nm未満である。本発明の第4の実施形態よれば、フィルムの厚さは13nm未満である。本発明の第4の実施形態によれば、フィルムの厚さは6nm未満である。具体例としてフィルムに伴う最大フィルムの厚さは上述したけれども、本発明はフィルムの数を制限しない。従って、本発明の実施形態は複数のフィルムであってよい。しかしながら、そのフィルムの厚さに係わらず、そのフィルムはある一定の波長範囲の透明性は存在することが好ましい。本発明の実施形態によれば、1つのフィルムが残りのフィルムから分離されてよい。その場合には、問題のフィルムが残りのフィルムに対して基材の別の側に設けられてよい。
【0091】
フィルムは組成、構造および材料に関して均質であってよいが、この局面に関して本発明は限定されない。本発明の実施形態による実施例は、基材の上の材料組成がインジウム、スズおよび/または他の材料を包含する。
【0092】
実施形態の第1の群によれば、Lエレメントのフィルムはその組成中にインジウムおよびスズを含有する。インジウムおよびスズの割合については、本発明の実施形態の1つにおいては、フィルムの質量の100%未満がインジウムを含んでいる。本発明のもう1つの実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の90%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明の第3の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の80%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の70%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の60%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の50%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の40%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の30%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の20%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。本発明のさらに他の実施形態によれば、フィルムはフィルムの質量の10%未満がインジウムになるようにインジウムおよびスズを含んでいる。
【0093】
本発明の実施形態の他の群によれば、Lフィルムは、実施形態の第1群に関連してインジウムについて与えられた割合においてインジウムおよびスズから構成される。しかし、実施形態のこの他の群からインジウムはフィルム構造中に酸化物の形態で存在する。本発明の実施形態の変形によれば、フィルムの質量中のインジウムに伴われる酸素の割合もインジウムとして計算される。
【0094】
本発明の実施形態の第3の群によれば、Lフィルムは、実施形態の第1の群に関連してインジウムについて与えられた割合においてインジウムおよびスズから構成される。しかし、実施形態の第3の群では、スズはフィルム構造中に酸化物の形態で存在する。本発明の実施形態の変形例によれば、フィルムの質量中のスズに伴われる酸素の割合もスズとして計算される。
【0095】
実施形態の第4の群では、フィルムおよび/または周囲の構造はそれぞれのより特定の実施形態による本発明の実施形態によるエレメントのフィルム構造のその他の特性を達成するための他の物質の群から他の物質を含有してよい。
【0096】
実施形態の第5の群によれば、フィルムは実施形態の第1の群に関連してインジウムについて与えられた割合でインジウムおよびスズから構成される。しかし、実施形態の第5の群では、スズはフィルム構造中でハロゲン化合物および/またはカルコゲン化合物の形態で存在する。本発明の実施形態の変形によれば、スズに化学的に伴われる他の物質の割合もスズとして計算される。
【0097】
実施形態の第6の群によれば、フィルムは実施形態の第1群に関連してインジウムについて与えられた割合でインジウムおよびスズから構成される。しかし、実施形態の第6群では、スズはフィルム構造中で本発明の実施形態の変形によれば、フィルムの質量中のインジウムに化学的に伴われるその他の物質の割合もインジウムとして計算される。
【0098】
実施形態の第7群によれば、Lエレメントはニッケルも含む。
【0099】
本発明の実施形態によれば、エレメント中のフィルムは熱的効果を達成するように配置される。本発明の実施形態のその変形によれば、該エレメントは電力を該導電性フィルム状構造に結合するために基材上に一体化された電気スイッチ構成要素を有してもよい。本発明の実施形態によれば、上記電気スイッチ構成要素には、FET、トランジスタ、サイリスタ、ジアック、トリアックおよび/またはこれまで述べられているものから成る回路が挙げられ、これらは少なくとも部分的に電力を上記導電性フィルム状構造に結合するように配置される。
【0100】
本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成は、それらの材料の表面抵抗が0.0005Ω/mになるように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が0.005Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が0.05Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が0.5Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が5Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が50Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が500Ω/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が5kΩ/mを下回るように調整される。本発明の実施形態によれば、Lエレメントの組成はそれらの材料の表面抵抗が5kΩ/mを上回るように調整される。本発明の実施形態によれば、上記抵抗の値は本発明の実施形態によるLエレメントのインジウム−スズフィルムの抵抗であり、つまりフィルム中に他の物質も存在してよい。本発明の実施形態によれば、インジウムの少なくとも幾分かはニッケルに置換されてよい。
【0101】
本発明の実施形態によれば、本発明の実施形態によるエレメントの組成は、基材の熱膨張の係数に基づいて整合させる。本発明の実施形態によれば、本発明の実施形態によるエレメントは抵抗をある値に予め設定するために他の材料に関連するエレメントのフィルム構造内に蒸散された材料を含む。本発明の実施形態によれば、本発明の実施形態によるエレメントは、基材についてのある値における熱膨張の係数を予め設定するためにその他の材料に関連したエレメントのフィルム構造の中に蒸散された材料を含む。本発明の実施形態によれば、上記材料はインジウム−スズフィルムの添加剤であり、つまり他の材料もまたフィルム中に存在してよい。
【0102】
本発明の実施形態によるエレメントは、アンテナ構造および/または導電性フィルム状構造をアンテナとして使用する手段および/またはその一部を有するように調整される。本発明の実施形態によれば、アンテナは、送信アンテナ、受信アンテナ、またはこの2つの組み合わせである。より特定には、アンテナはGPSアンテナ、モバイル基地アンテナ、ラジオアンテナ、TVアンテナ、デジタル信号および/またはアナログ信号の送信/受信のためのアンテナとして機能する実施形態の特定の特徴に合致するように設計される。誘導ループまたは同様のコイルもある種のヘリックスアンテナとして機能し、同時に熱的効果を提供するエレメントとして機能しうることに注意すべきである。
【0103】
本発明の実施形態によれば、エレメントは第1のフィルム構造に加えて、第1の熱的効果および第2の熱的効果を達成するために第2のフィルム構造を有してもよい。これは図4に描かれた実施例に示される。これらの熱的効果は異なってよく、異なる時間に生じてよく、および/または基材の異なる側に向けられてもよい(図2)、しかしながら、それらに限定されない。
【0104】
たとえば、図4を参照して、エレメント中の上記第1のフィルム構造は、Lエレメントが温度を増大させるように調整され、そして上記第2のフィルム構造はPエレメントが温度を減少させるように調整される。本発明の実施形態によれば、エレメントは本発明の実施形態による一部のエレメントとしてアンテナ構造をさらに有する。
【0105】
特にエレメントが複数のフィルム構造を有する場合は、基材の一部の表面上にフィルム構造が一体化されるような様式で本発明の実施形態によって製造可能であり、そのことにより、上記エレメントは同様に形成されるエレメント、たとえば図4によるラミネート形状に積層されたもの、の群の一つである。しかしながら、それ一つには限定されない。導電性の層/部品が相互に直接接触するのを防止するために積層を使うことができる。たとえば、層がたとえば加熱可能なエレメント(基材SおよびS2)の中にスズおよび/またはインジウムを有し、他の層(基材SおよびS1)の中に形成されペルチェエレメントが存在する場合、必要であればそのことによってこれらの層の間の直接的な接触が回避される。加熱可能なエレメントは抵抗として(図1中のLエレメント)、すなわちオームの法則に従う熱抵抗として製造することができ、しかしながら、本発明の他の実施形態においては、これは誘導的に機能するように設計されてよい(図4は誘導的およびオーム的の両方を示す。)。しかしこれも渦電流の原則に従う。
【0106】
本発明の実施形態によれば、基材は平坦な基材である。本発明の実施形態によれば、基材はシリンダー、糸または繊維でもよい。本発明の実施形態によれば、エレメントの基材は、プラスチック、紙、織物、布、ガラス、セラミック、石、金属、顔料またはこれらのいずれかの組み合わせである。本発明の実施形態によれば、フィルムを構成するエレメントおよび基材は曲げることができる。本発明の実施形態によれば、曲げることのできるフィルムは基材に接着して取り付けられるように調整される。
【0107】
また、本発明の実施形態によれば、熱的効果はこのような繊維の表面の上に配置されたエレメントによって達成されてよく、そのことで、たとえば繊維はウェブ状構造の一部として用いうる。本発明の実施形態によれば、ウェブ状構造のようなものは濾過される材料の特性の観点から濾過工程の事前および/または事後の最適化のために濾過に関する熱的効果を提供するために濾過の目的のために配置される。それ故、たとえば繊維の最も外側または最も外側の次の表面が電気的に絶縁されていることが好ましい。本発明のある実施形態では、上記種類の繊維の最も外側または最も外側の次の表面が有機物を分解するための光触媒を有してよい。そのことによって、たとえば、フィルターおよび/または漏斗を冷却して、光によって光触媒がフィルターの微生物を分解することができるように保持して、微生物の増殖を低く保つことができる。また、フィルターを高温にして微生物を殺すことができる。フィルターおよび/またはそのホルダーは繰返し冷却および加熱を周期的に行ってもよい。その周期の長さは同一または冷却周期相互で加熱および冷却周期を変化させて異なってよい。加熱および/または冷却はエレメントの温度を所定の値に保持するために用いてもよい。
【0108】
本発明の実施形態によるエレメントの用途の1つは、たとえば地上、海および/または空中を移行するために設計された工作物のレーダーにおけるレーダーアンテナの部分である。本発明の実施形態によれば、固定レーダーにおいても本発明の適当な実施形態を用いることができる。
【0109】
フィルター用途に関係する加熱エレメントの使用を上述したが、たとえば、適当な場合は、乗物の一部のために同様にして熱的効果を達成しうる。たとえば、熱的効果は航空機、飛行船、船またはその他の水系工作物の表面に向けられてよく、またはその表面はスタビライザー、ラダー、ウィングおよび/またはハルの部分でありうる。そしてその乗物は、たとえば、ボート、船、潜水艦、自動車、トラック、バス、鉄道車両、エンジン、トロリーバス、ドラム、地下鉄車両、飛行船、風船、ヘリコプター、航空機、パラシュート、その他の空中乗物でありうる。乗物は、適当な場合、人員輸送乗物および戦車のような軍隊輸送および/または戦闘目的に設計された乗物であってもよい。
【0110】
本発明の実施形態によれば、軍事的な乗物は冬の条件において、核形成および/または凝結およびそして結晶化される空気中の水蒸気を用いてカムフラージュされうる。カムフラージュされる車両の表面のPエレメントが十分に効率的であれば、零下の温度において核形成および凝結の開始を速くすることができるが、より高い温度においてもそれはPエレメントの冷却力に依存する。逆に、軍用乗物の表面から氷、霜または湿分が除去されるべき状況では、適切に設計されたエレメントを用いてそれを行いうる。
【0111】
本発明の実施形態によれば、上記軍用乗物は、いわゆるダミーであり、それは敵が本来の標的の代わりにダミーに対して発砲させる目的で、高価なステルス被覆された走行車両のようなより重要な標的から距離を置いて牽引、引っ張りおよび/またはラジオコントロールされるものである。このようにPエレメントを用いて、たとえば、ダミーの表面構造の中における、そのダミーの上に氷/水の被覆を提供することができ、それはある種のレーダーを適用して視認することができ、敵がその視認可能な標的に対して発砲することが推測され、そのことにより、戦闘下においても戦闘乗物が適切に生き残る可能性が高まる。本発明の実施形態によれば、ダミーにはLエレメントが配置され、そのことにより赤外線レンジによって特によく視認可能となる。
【0112】
図6〜9は、種々の乗物を具体例として用いて、本発明の実施形態によるエレメントの使用例を示した図である。図6において、エレメントは乗物と結合して使用される。太い線は乗物の風防および/または後部窓、並びに側部窓を強調することを意図しており、乗物のその他の場所でもLおよび/またはP型エレメントのための基材(S)として機能するが、アンテナ機能を有するエレメントは非金属部分、特に窓に最も適する。さらに、本発明の実施形態によるエレメントはたとえば、自動車、ビルディング、温室における天窓に用いうる。加熱/冷却の目的のために、本発明の実施形態によるエレメントはランプの球に備えてもよい。従って、たとえば、乗物のヘッドライトは、たとえば、Lエレメントによって点灯装置の表面を加熱することにより、冬の条件において氷結/氷雪/雪から解放されうる。
【0113】
図7では、基材Sが熱気球の一部とされ、空中工作物700に向けられた熱的効果を達成するために本発明の実施形態によるエレメントの使用が示される。十分な電気を提供することによって、たとえば、エレメント上に凝結した水による空中工作物の重量を制御するために基材S上のエレメントを十分に長期間使うことができる。しかしながら、本発明の優先日において知られているペルチェエレメントを用いて凝結単独によって大規模な空中乗物について重量制御の目的のために十分な凝結を提供するための本発明の実施形態では、冷却のみを以って十分な重量増加を達成するには、このようなエレメントの効率が不十分である。しかしながら、本発明の実施形態では、そのそれぞれの温度を核形成が開始するのに十分低下させることができる多数のPエレメントから特定のものを選択することができるような、選択可能に配置された複数のPエレメントであり得、そのことにより、十分に小さいエレメントを用いて操作中にエレメントを制御することにより核形成すなわち氷の形成を制御しうる。Pおよび/またはLエレメントの設置は空中工作物の安定制御にも寄与する。
【0114】
しかしながら、たとえば、熱気球またはその他の空中工作物の外面および/または内面上に、たとえば、宣伝を達成するために凝結および照明によりPエレメントを用いて光学的に視認可能な層を提供しうることにも注意すべきである。
【0115】
図8は飛行機を示し、そのウィングの表面、ラダーおよび/または風防の表面が、たとえばL型エレメントを適用することができて、加熱を達成して氷の形成を低減可能な場所である。基材Sは、たとえば、飛行機の胴体であってもよい。図9は三枚翼機を示すが、本発明の実施形態によるエレメントが近代旅客機、戦闘機および/または練習機、およびヘリコプターにも用いうることは、当業者にとって明らかである。さらに、本発明の実施形態によるエレメントがその一部として宇宙船の製造にも用いうることが注意されるべきである。
【0116】
図9は水系構造物に関連するエレメントの使用を示す。図面の太い線はボートの風防におけるエレメントの使用を強調するが、その他の表面もエレメントのための設置場所として機能することが当業者には明らかである。ボートは水系構造物の具体例に過ぎず、それには、種々の潜水艦および/または潜水ベル、水陸両用乗物、船、双胴船、帆船の種々の表面、および水上機なども含まれる。さらに、ドライバーマスクの透明部分にそのエレメントを用いて、熱的効果を達成するために十分な電力を提供することでそのマスクの曇りを低減することができる。
【0117】
図10に示すように、エレメントはビルディングなどの表面上に用いてもよい。ツインタワーの「コマーシャル領域」の文字に示されるように、エレメントは宣伝表面を作り出すのに用いられてもよく、他方、「ms」の文字はこのエレメント又はエレメントの群を用いて技術的に実現できる芸術作品を示す。次いで、たとえば、夏および/または冬の条件における熱的効果によって、液相の変化によって、上記技術を用いて芸術的効果を創造するために照明されてよい表面の変化を達成することができる。このエレメントの用途の一つは宣伝表面またはある目的物の表面である。たとえば、それによって熱的効果が達成されるエレメントとして少なくとも彫像の一部に配置されるように本発明の実施形態によるフィルム構造を用いて全体的にまたは適用可能な部分について処理された、「デビッド」という彫像を複製することを考えてみる。熱的効果がたとえば、冷却である場合は、蒸気が飽和した条件において彫像の冷却部分について、たとえば、凝結の効果が達成される。次いで、凝結した水滴に照明を向けることにより、照明効果が達成され、そのことでこの本質的に技術的な解決策は芸術作品の外観の効果を有しうる。その芸術的効果が加熱である場合は、たとえば、屋外に置かれた彫像は冬に加熱されて、それを覆う可能性がある霜が除去されうる。そして、熱的効果に向けられた表面はエレメントのフィルム構造に基づいてより具体的に配置されることができ、それは熱的効果の結果として凝結された流体から蒸発されたガスおよび/またはその中の粒子から形成された少なくとも一つの光学的エレメントの助けを伴う、屈折/反射された光によるパターンを提供するように表面が適合されるような形式である。表面は凝結する流体の特性を考慮するようにそれぞれ分離して適合された表面の群の一つでありうる。
【0118】
本発明の用途の一つは、その表面を覆う気相の成分、たとえば水を凝結させる外側表面の構造を提供するのにPエレメントを用いることである。そして、適当な閉じた空間において、Pエレメントによって水が表面上に凝結されて、いずれかの場所、すなわちPエレメントの直近以外の場所で、気相の水蒸気の割合が低減され、たとえば、電気器具の動作信頼性が向上する。
【0119】
本発明の実施形態による表面を有する表面はフィルム構造によって配置され、また二つの分離した表面を有しうる。この表面は、表面上に本発明の実施形態によるエレメントが存在する場合にそのために熱的効果を達成することができる窓表面および/または装飾表面であってよい。本発明の第1の実施形態によれば、エレメントは製造段階における蒸散による表面の固定部分として予め一体化される。本発明の第2の実施形態によれば、エレメントは固定することによって表面に後から一体化されるが、蒸散により表面を製造した後である。本発明の第3の実施形態によれば、エレメントはフィルム上にあり、これがビルディングまたは自動車の窓に糊付けまたは接着されていくつかの具体例を形成する。
【0120】
本発明の実施形態によれば、本発明の実施形態によるエレメントは蒸散によって基材の表面上に作製される。次いで、図11により、この方法は第1のフィルム材料1101および/または第2のフィルム材料1102を蒸散させて導電性フィルム構造を達成する工程を含む。この方法は、完成したエレメントに何らかの熱的効果が提供されるように蒸散される少なくとも1つのフィルム材料が選択される工程を含むことが好ましい。図11はそのような選択工程を示さないが、工程1102に関して破線を用いて示している。この方法において、蒸散されたフィルム材料のジェットがエレメントの意図される用途に依存する所定の様式で材料が接着および/または取り付けられる基材1104の上に導かれる1103。その方法において、よりよい結果を達成するために基材および/または蒸散される材料を加熱してもよい1105。
【0121】
本発明の実施形態によれば、エレメントを製造する装置は、蒸散標的からフィルム材料を蒸散するための蒸散の手段、蒸散されたフィルム材料のジェットを基材に向けて1103フィルム構造を提供するための手段、蒸散および/または接着を向上させるために基材および/または蒸散標的を予備加熱する1105ための加熱手段を有する。本発明の実施形態による製造装置では、上記蒸散手段はレーザー起源である。本発明の実施形態によれば、上記レーザー起源はピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーおよび/またはアト秒レーザーを含む。従って、蒸散される材料を予備加熱し、被覆される基材を加熱するために異なるフィルム材料のために異なるレーザーを用いることもできる。その場合、それは第1のフィルム材料を蒸散するように配置された第1の繰返し周波数、第1の照射波長、第1のパルス長および/または第1の強度を有する。第2のフィルム材料については第2のレーザーが用いられ、これは第2のフィルム材料を蒸散するように配置された第2の繰返し周波数、第2の照射波長、第2のパルス長および/または第2の強度を有する。
【0122】
好ましくは、本発明の実施形態による製造装置は、蒸散手段に関連してレーザー照射のための照射伝達ラインを有する。十分な繰返し周波数を達成する、および/または照射伝達ライン材料の組成および/または構造を維持するために、それはレーザー照射のためのタービンスキャナーを有する。そのことで、本発明の実施形態による製造装置のための照射手段の繰返し周波数は5MHz未満であるが、1MHzを超えるように調整することが可能である。本発明の他の実施形態によれば、繰返し周波数は5MHzを超えるが、20MHz未満である。本発明のさらに他の実施形態によれば、繰返し周波数は15MHzを超えるが、好ましくは30MHz未満である。本発明の実施形態によれば、繰返し周波数は25MHzを超えるが、60MHz未満である。本発明のさらに他の実施形態によれば、繰返し周波数は40MHzを超えるが、100MHz未満である。繰返し周波数の上限は、実際は、照射の伝播方向を変更するタービンスキャナー部分の機械的強度により決定される。すなわち、回転速度の影響を考慮し、好ましい強い材料を用いることにより、回転の速度またはベアリングの耐久性のためにタービンスキャナーが壊れない範囲における高い繰返し周波数を達成することができるように決定されるのである。
【0123】
エレメント自体のフィルム構造の製造は、十分な純度を達成するために保護ガス雰囲気および/または真空の中で行うように調整され、その末端部において、本発明の実施形態による製造装置は真空手段および/またはエレメントを被覆するように取り付けられた保護ガス手段を有する。本発明の実施形態によれば、エレメントのフィルムは蒸散により起源材料から直接製造されうる。次いで、好ましいフィルム材料の化合物の所定の組成物を達成するために反応性保護ガスをも使用可能である。本発明の実施形態では、Lエレメントのフィルムは蒸散されたインジウムおよび酸素が相互に反応し、および/または蒸散したスズおよび酸素が相互に反応した場合にフィルム材料が基材上に形成される条件において、酸素雰囲気中の純粋なインジウムおよび/またはスズから作製される。
【0124】
蒸散により提供される物質のジェットの中に元素を注入すると、加速/減速運動が生じ、結果として蒸散のある点、例えば、基材の表面に当たるときに、X線が生成することがよくある。本発明の実施形態による製造装置は、加速運動における電荷によって生成される放射線を吸収するための減速および/または他の放射線についての放射線シールドを有する。本発明の実施形態による製造装置は、余剰物からなり、エレメントの製造において放出される排出ガス中に存在する物質のための蒸気カップボード、デシケータおよび/または循環および抽出手段を有する。
【0125】
本発明の実施形態によるエレメントは本発明の実施形態による窓構造を提供するのに用いることができ、そのことにより該窓構造中のエレメントにより熱的効果が達成される。本発明の第1の実施形態の変形では、窓構造は、第1の副層が第2の副層から分離されている、第1の副層および第2の副層を有し、該第1の副層は第1のコイルの形状に調整された本発明の実施形態によるエレメントを有し、該第2の副層は、第1のコイルに対して誘導的に電力を供給するための第2のコイルの形態に調整された本発明の実施形態による実施形態を包含する。達成される熱的効果は次のとおりである。加熱、冷却、温度の保持、加熱および冷却の変更。
【実施例】
【0126】
以下の項で、本発明による方法および製品を説明するが、本発明が以下に提示される実施例に限定されるわけではない。Corelase Oy製の10Wピコ秒レーザ X‐laseおよびCorelase製の20W‐80Wピコ秒レーザ X‐laseの両者を使用して、表面を製造した。パルスエネルギーは、1パルスの合計エネルギーを指し、光学系によって所望の領域へと焦点を合わせた。レーザージェットは13.6〜20μmの直径を有するスポットに焦点した。実施例において、フルエンス(パルスエネルギー/面積)は、典型的には0.3〜5.6J/cmの間で変化させた。被覆の過程で使用した波長は1064nmであった。異なる被覆距離および出力を用い、異なる試験について異なる厚さにフィルムを成長させないため、数分から3時間の間で被覆時間を変化させた。実施例において、見かけレーザー出力を表示した。この見かけ出力は、パルスが標的の表面に移行するまでに種々の出力損失によって一部消失することを、当業者は理解すべきである。かかる出力損失は、例えば、レンズおよび光学ファイバーにおいて生じる。
【0127】
実施例1
本実施例では、ガラスプレートをインジウム−スズオキシド(In:SnO、9:1、Sigma Technology、中国)で被覆した(Pilkington、異なる種類の、純粋な、クラッドガラス、着色ガラス、活性ガラスの厚さ3〜5mmのガラス。)。同一の試行において、シリコン片、実験室ガラス片(ボロンシリケートガラスの厚さ2mm、2cm×3cm片。)、SS(ステンレス鋼)、銅、大理石板、およびプラスチックバックグラウンド(PC、カプトン、マイラー)も用いた。後者の試料の寸法は、1×1cm〜10×10cmおよび厚さ0.1〜10mmの範囲で異なる。レーザー装置の設定値は次のとおりである。
【0128】
見かけ出力20W
繰り返し周波数1〜4MHz
パルスエネルギー2〜10μJ
パルス長さ20ps
標的と基材との距離50mmまたは30mm
真空度(蒸着前のベースレベル):10−5mbar;蒸着中10−3mbar〜5×10−2mbar、酸素雰囲気
【0129】
得られたインジウム−スズオキシド表面を原子間力顕微鏡(AFM)、光学顕微鏡、およびESEM顕微鏡で試験した。一連の試験で、インジウム−スズオキシド表面の厚さは50〜500nmの範囲で変化し、および1μmの領域から測定した表面の均一性は±0.3〜5nmであった。表面上に微粒子は検出されなかった。ITOで被覆されたガラスは光学的に完全に透明であった。被覆の密着性は良好で、テープ試験を用い、および引っ掻きにより初期試験した。被覆の上に穴は検出されなかった。
【0130】
実施例2
本実施例では、インジウム−スズオキシドで被覆したガラス片をアルミニウム−チタンオキシドで被覆して、インジウム−スズオキシドの表面に硬いいわゆる耐擦り傷被覆を提供した。このアルミニウム−チタンオキシド被覆において0.5〜0.8J/cmのフルエンスを使用した。レーザー装置の設定値は次のとおりである。
【0131】
見かけ出力20W
繰り返し周波数1MHz
パルスエネルギー2〜10μJ
パルス長さ20ps
標的と基材との距離30mm
真空度:10−5mbar
【0132】
得られたアルミニウム−チタンオキシド表面を原子間力顕微鏡(AFM)およびESEM顕微鏡で試験した。試験試料において、得られた表面の厚さは50〜400nmの範囲で変化し、および1μmの領域から測定した表面の均一性は±10nm未満であった。表面上に微粒子は検出されなかった。表面にITO被覆およびアルミニウム−チタンオキシド被覆を有するガラスの完成片は光学的に透明であった。引っ掻き試験およびピン・オン・ディスク試験に基づいて、そのオキシドで被覆した構造の耐摩擦性は、オキシド被覆が無い場合よりも著しく優れていた。多層被覆の密着性は良好であった。10−3気圧の真空度においても同様の被覆結果が達成された。真空度を低くする場合は、標的と基材との間の距離をより短縮することが有利である。
【0133】
実施例3
本実施例では、図1に示された態様で被覆されたガラス片を、更にイットリウム−安定化ジルコニウムオキシドで被覆して、インジウム−スズオキシドの表面に硬いいわゆる耐擦り傷被覆を提供した。このY−ZrO被覆において0.5〜1.0J/cmのフルエンスを使用した。レーザー装置の設定値は次のとおりである。
【0134】
見かけ出力20W
繰り返し周波数1MHz
パルスエネルギー2〜10μJ
パルス長さ20ps
標的と基材との距離10mm
真空度:10−5mbar
【0135】
得られたジルコニウムオキシド表面を原子間力顕微鏡(AFM)およびESEM顕微鏡で試験した。得られた表面の厚さは約100〜300nmの範囲で変化し、および1μmの領域から測定した表面の均一性は±2nmであった。表面上に微粒子は検出されなかった。表面にITO被覆およびジルコニウムオキシド被覆を有するガラスの完成片は光学的に透明であった。引っ掻き試験およびピン・オン・ディスク試験に基づいて、そのオキシドで被覆した構造の耐摩擦性は、オキシド被覆が無い場合よりも著しく優れていた。
【0136】
実施例4
本実施例では、ガラスおよびポリカーボネートのシート片(3cm×3cm、厚さ1.2mm)を、インジウム−スズ合金が反応性酸素相中でレーザーで蒸散されるやり方でインジウム−スズオキシドで被覆した。最初に、チャンバーを約10−5mbarの圧力に吸引した。吸引は、反応ガスを入れる前に、点検バルブを用いて好適に調整された。酸素ガスの圧力は、ガス供給バルブによって真空ゲージに従って、典型的には10−4から10−1mbarに調整した。レーザー照射量はそれぞれのガス圧において、標的が過剰にスパークせず巨大粒子が視認的に外れてこない条件で、蒸散閾値に達し、安定した蒸散段階が達成されるように調節された。レーザー装置の設定値は次のとおりである。
【0137】
見かけ出力20W
繰り返し周波数1〜4MHz
パルスエネルギー2〜10μJ
パルス長さ20ps
標的と基材との距離10〜70mm
真空度:反応ガスを供給する前で10−5mbar
【0138】
得られたアルミニウム−チタンオキシド表面を原子間力顕微鏡(AFM)およびESEM顕微鏡で試験した。インジウム−スズオキシド表面の厚さは約50〜100nmの範囲であり、および1μmの領域から測定した表面の均一性は±1nm未満であった。表面上に微粒子は検出されなかった。被覆の密着性は良好であり、テープ試験および引っ掻きを用いて初期試験した。正確なマルチメーター(Fluke189)を用いる表面測定によって提供された表面の導電性を初期試験した。この表面は導電性を示し、他の方法によって提供され同様に試験されたITO表面と同様に挙動した。
【0139】
実施例5
本実施例では、鉄物品をチタンオキシドで被覆した。レーザー装置の設定値は以下の通りであり、その表面は酸素を含むヘリウム雰囲気中でチタンを蒸散させることによって提供した。試験は、真空合計圧を真空ゲージにより0.5〜10−2mbarに変化させて異なるガス圧にて行った。
【0140】
見かけ出力20〜80W
繰り返し周波数1〜20MHz
パルスエネルギー2〜10μJ
パルス長さ10、20ps
標的と基材との距離約1mm
真空度:5×10−1〜10−2mbar(酸素およびヘリウム両方の供給)
【0141】
得られたチタンオキシド表面を原子間力顕微鏡(AFM)、光学顕微鏡、およびESEM顕微鏡で試験した。チタンオキシド表面の厚さは約50nmであり、および1μmの領域から測定した表面の均一性は±3nmであった。そのフィルムはTiO起源を用いて我々が蒸散により製造した同様のフィルムと同等と考えられた。
【0142】
実施例6
活性酸素、10−4〜10−1mbar中でインジウム−スズ金属標的(9:1)を蒸散することにより、大理石の厚板(100mm〜100mm)を被覆した。使用したパルス周波数は4MHz、パルス長さは5μJ、およびパルス長さは20psであった。標的と基材との距離は35mmであった。活性ガスを供給する前の真空度は10−5気圧であった。本方法により、約100nmの厚さの連続、透明および穴がない被覆が得られた。1μmの領域から測定した表面の均一性は3nm未満であった(AFM)。電気抵抗を測定したところ2.2×10−3Ωcmであった。
【0143】
実施例7
パルス周波数が3MHz、パルスエネルギーが5μJおよびパルス長さが20psの条件で、酸化物の形態のITO(In90w−%;SnO10w−%)を蒸散することによりコピー用紙の1枚(80g/m、100mm×100mm)を被覆した。標的と基材との距離は40mmであった。被覆工程の間における真空度は10−6気圧であった。本方法により、連続、透明な被覆が得られた。被覆の厚さは570nmであった。
【0144】
従来技術の欠点を示す実例
図13は、異なるITO薄膜厚さ(30nm、60nm、および90nm)について、従来技術による光学スキャナー、つまり前後運動(ガルバノスキャナー)を用いてポリカーボネートシートの一枚(〜100mm×30mm)の上にITO被覆(インジウム−スズ−オキシド)を蒸着させた例を示す。図13は、特に超短パルスレーザー蒸着(USPLD)を伴う光学スキャナーを用いる解決においてばかりでなくレーザー補助被覆一般において、前後運動ミラーに伴う欠点を明確に示した。前後運動ミラーはその回転運動の方向がその端部において変化し、その内部にモーメントを有するため、運動の端点の近傍においてミラーの角速度は一定でない。前後運動のために、ミラーは定常的に減速または停止し、その後再び加速するため、走査領域の周辺部において標的の処理が不均一になる。このことによって、プラズマの品質が低くなり、特に走査領域の周辺部において粒子を含み易く、結果として、図に示されるように不均一な被覆が形成される。この実例における蒸着の設定値は、スキャナーの特性を明確にすべく、蒸散物質の不均一な分布が示されるように選択した。しかし、仮に同じスキャナーを用いて設定値をフィルムの品質が向上するように適切に選択したとしても、問題は裸眼によっては認められなくなるが、排除されるわけではない。
【0145】
これらの問題は、一般にナノ秒レーザーでは一般的であるが、従来技術によるスキャナーと組み合わせて用いられる場合はピコ秒レーザーにおいても発生する。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明の実施形態によるエレメントを示している。
【図2】本発明の実施形態によるエレメントのフィルム構造の変形を示している。
【図3】曲面形状における本発明の実施形態によるエレメントを示している。
【図4】本発明の実施形態によるエレメントの群を示している。
【図5】本発明の実施形態によるエレメントのフィルム構造のフィルム組成を示している。
【図6】乗り物と組み合わせた本発明の実施形態によるエレメントの使用を示している。
【図7】空中工作物と組み合わせた本発明の実施形態によるエレメントの使用を示している。
【図8】航空機の一部としての本発明の実施形態によるエレメントの使用を示している。
【図9】水系工作物の一部としての本発明の実施形態によるエレメントの使用を示している。
【図10】宣伝および芸術目的のための本発明の実施形態によるエレメントの使用を示している。
【図11】本発明の実施形態によるエレメントの製造方法を示している。
【図12】本発明の実施形態による製品の例を示している。
【図13】従来技術の欠点を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高品位プラズマで蒸散することにより基材の上に設けられた所定の厚さの導電性フィルム状構造、電流によりそのフィルム状構造中に熱的な効果を達成するための少なくとも1つのフィルム材料を有することを特徴とするエレメント。
【請求項2】
前記フィルム状構造中に加熱可能部分を有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項3】
前記エレメント中において、加熱可能部分が電気抵抗および/または誘導結合電流によって加熱されるように配置されていることを特徴とする請求項2記載のエレメント。
【請求項4】
前記フィルム状構造中に冷却可能部分を有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項5】
前記エレメント中において、冷却可能部分が基材上に一体化されたペルチェエレメントになるように配置されることを特徴とする請求項4記載のエレメント。
【請求項6】
ある温度で冷却されることにより発生する凝結した流体の液相を収集および/または貯蔵するように配置された漏斗部分および/または容器を有することを特徴とする請求項4記載のエレメント。
【請求項7】
前記エレメント中において、フィルム状構造が実質的に透明であることを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項8】
その中を通過する電流によって温度が変化するように配置された薄いフィルムおよび/または厚いフィルムをフィルム状構造中に有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項9】
前記エレメント中において、フィルムの厚さが100nm以下であることを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項10】
前記エレメント中において、フィルムの厚さが50nm以下であることを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項11】
前記エレメント中において、フィルムの厚さが25nm以下であることを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項12】
前記エレメント中において、フィルムの厚さが13nm以下であることを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項13】
前記エレメント中において、前記導電性フィルム状構造に電力を結合するための基材上に一体化された電気スイッチ部品をさらに有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項14】
前記エレメント中において、電気スイッチ部品が、導電性フィルム状構造に電力を少なくとも部分的に結合するように配置された、FET、トランジスタ、サイリスタ、ジアック、トリアックおよび/またはこれらからなる回路を有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項15】
前記エレメント中において、アンテナ構造および/または導電性フィルム状構造をアンテナおよび/またはその一部として使用するための手段を有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項16】
前記エレメント中において、アンテナが、送信アンテナ、受信アンテナ、またはその2つの組み合わせのうちの1つであることを特徴とする請求項15記載のエレメント。
【請求項17】
前記エレメント中において、アンテナが、GPSアンテナ、携帯電話アンテナ、ラジオアンテナ、TVアンテナ、デジタル信号および/またはアナログ信号を送信/受信するためのアンテナの1つを包含することを特徴とする請求項16記載のエレメント。
【請求項18】
第1の熱的効果を達成するため、および第2の熱的効果を達成するための第1フィルム構造および第2フィルム構造を有することを特徴とする請求項1記載のエレメント。
【請求項19】
前記エレメント中において、第1フィルム構造が温度を上昇させるように配置され、前記第2フィルム構造が温度を低下させるように配置されていることを特徴とする請求項18記載のエレメント。
【請求項20】
アンテナ構造をさらに有することを特徴とする請求項19記載のエレメント。
【請求項21】
基材の一部の表面上に一体化されたフィルム状構造を有し、そのことによりラミネートとして積層された他の同様に形成されたエレメントの群の1つとなることを特徴とする請求項1〜20のいずれか記載のエレメント。
【請求項22】
前記フィルム状構造中の一構成物としてスズを含有することを特徴とする請求項1〜21のいずれか記載のエレメント。
【請求項23】
前記フィルム状構造中の一構成物としてインジウムを含有することを特徴とする請求項1〜22のいずれか記載のエレメント。
【請求項24】
前記フィルム状構造中の一構成物としてビスマスを含有することを特徴とする請求項1〜23のいずれか記載のエレメント。
【請求項25】
インジウムおよびスズから構成されるフィルム状材料から抵抗を得ることを特徴とする請求項1〜24のいずれか記載のエレメント。
【請求項26】
前記エレメント中において、エレメントの基材が、プラスチック、紙、織物、布、ガラス、セラミック、石、金属、色素またはこれらの組み合わせの1つであることを特徴とする請求項1〜25のいずれか記載のエレメント。
【請求項27】
前記エレメントおよび基材が曲げることのできるフィルムを構成することを特徴とする請求項26記載のエレメント。
【請求項28】
繊維の表面上に配置されてウェブ状構造を達成することを特徴とする請求項26記載のエレメント。
【請求項29】
繊維の表面上に配置されてフィルター構造中における熱的効果を達成することを特徴とする請求項26記載のエレメント。
【請求項30】
前記エレメント中において、繊維の最も外側または最も外側の次の表面が電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項29記載のエレメント。
【請求項31】
前記エレメント中において、繊維の最も外側または最も外側の次の表面が有機物質を分解するための光触媒を有していることを特徴とする請求項29記載のエレメント。
【請求項32】
請求項1記載のエレメントの表面上における熱的効果を達成するための使用。
【請求項33】
請求項32記載のエレメントの使用であって、前記熱的効果が温度を上昇させることである使用。
【請求項34】
請求項32記載のエレメントの使用であって、前記熱的効果が設定された温度を維持することである使用。
【請求項35】
請求項32記載のエレメントの使用であって、前記熱的効果が温度を減少させることである使用。
【請求項36】
前記表面がスタビライザー、ラダー、ウイングおよび/またはハルであることを特徴とする請求項32記載のエレメントの使用。
【請求項37】
前記表面がアンテナまたはレーダーの一部であることを特徴とする請求項32記載のエレメントの使用。
【請求項38】
前記表面が乗り物の一部であることを特徴とする請求項32記載のエレメントの使用。
【請求項39】
前記乗り物がボート、船、潜水艦、自動車、トラック、バス、列車車両、エンジン、トロリーバス、トラム、地下鉄車両、航空機、気球、ヘリコプター、飛行機、パラシュートその他の空中の乗り物であることを特徴とする請求項38記載のエレメントの使用。
【請求項40】
前記表面がビルディングの一部の表面であることを特徴とする請求項32記載のエレメントの使用。
【請求項41】
前記表面が広告の表面であることを特徴とする請求項38、39または40記載のエレメントの使用。
【請求項42】
前記表面が変化する美術品の表面であることを特徴とする請求項38、39または40記載のエレメントの使用。
【請求項43】
前記表面が、熱的効果の結果凝結した液体から昇華したガスの助けにより、および/またはそれから形成された粒子から形成された少なくとも1つの光学的要素により屈折/反射される光によるパターンを提供するように適合されていることを特徴とする請求項41または42記載のエレメントの使用。
【請求項44】
前記表面が、それぞれ分離して凝結された液体が配置されている表面の群の1つであることを特徴とする請求項43記載のエレメントの使用。
【請求項45】
前記群が少なくとも2つの異なる表面を有することを特徴とする請求項44記載のエレメントの使用。
【請求項46】
前記表面が、窓の表面であることを特徴とする請求項38、39または40記載のエレメントの使用。
【請求項47】
前記表面が装飾表面であることを特徴とする請求項38、39または40記載のエレメントの使用。
【請求項48】
蒸散を行って、高品位プラズマ、第1フィルム材料および/または第2フィルム材料を製造して、導電性フィルム状構造を達成する工程を包含する方法であることを特徴とするエレメントの製造方法。
【請求項49】
完成したエレメントについて所定の熱的効果を達成するために少なくとも1つのフィルム材料が選択されて蒸散される工程を包含することを特徴とする請求項48記載の方法。
【請求項50】
蒸散標的からフィルム材料を蒸散して高品位プラズマを提供するのに加えて、フィルム物質のジェットをエレメントの基材上に向けてフィルム構造を提供し、そしてその基材および/または蒸散標的上の蒸散スポットは基材上における蒸散および/または接着を改良するために予め加熱されることを特徴とするエレメントの製造方法。
【請求項51】
蒸散標的からフィルム材料を蒸散して高品位プラズマを提供するために蒸散の手段、蒸散されたフィルム物質のジェットをエレメントの基材上に向けてフィルム構造を提供する手段、蒸散および/または接着を改良するために基材および/または蒸散標的を予備加熱する加熱手段を有することを特徴とするエレメント製造装置。
【請求項52】
前記エレメント製造装置において、該蒸散手段が高品位プラズマを提供するためのレーザー起源を包含することを特徴とする請求項51記載のエレメント製造装置。
【請求項53】
前記エレメント製造装置において、レーザー起源が高品位プラズマを提供するためのピコ秒レーザー、フェムト秒レーザーおよび/またはアト秒レーザーを包含することを特徴とする請求項52記載のエレメント製造装置。
【請求項54】
前記エレメント製造装置において、蒸散手段が高品位プラズマを提供するためのレーザー放射のための放射線透過ラインを包含することを特徴とする請求項52記載のエレメント製造装置。
【請求項55】
前記エレメント製造装置において、前記蒸散手段が、放射透過ラインにおいて、高品位プラズマを提供するためのレーザー放射のためのタービンスキャナを有することを特徴とする請求項54記載のエレメント製造装置。
【請求項56】
前記エレメント製造装置において、蒸散手段が高品位プラズマを提供するために30MHz以上、有利には60MHz以上、好ましくは100MHz以上の繰返し周波数を有するように調整されることを特徴とする請求項51〜55のいずれか記載のエレメント製造装置。
【請求項57】
高品位プラズマを提供するように調整された、エレメントを被覆するための真空手段および/または保護ガス手段を有することを特徴とする請求項51記載のエレメント製造装置。
【請求項58】
高品位プラズマを提供するための減速放射のための放射シールドを包含することを特徴とする請求項51記載のエレメント製造装置。
【請求項59】
高品位プラズマを提供することを目的として、エレメントの製造において放出される排気ガス中に存在する余剰材料について蒸気カップボート、デシケーターおよび/または循環および貯蔵手段を有することを特徴とする請求項51記載のエレメント製造装置。
【請求項60】
熱的効果を提供するための請求項1記載のエレメントを有することを特徴とする窓構造物。
【請求項61】
第1副層および第2副層を有し、該第1副層は該第2副層から独立しており、該第1副層は第1コイルの形状に調整された請求項1記載のエレメントであり、該第2副層は該第1コイルに電力を誘導的に供給するための第2コイルの形態に調整された請求項1記載のエレメントであることを特徴とする請求項60記載の窓構造物。
【請求項62】
前記窓構造物についての熱的効果が、加熱、冷却、温度保持、加熱および冷却の変更の1つであることを特徴とする請求項61記載の窓構造物。
【請求項63】
その放射透過ラインにおいて、高品位プラズマを用いてワークピースを加工および/または被覆するためのタービンスキャナを有することを特徴とする表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−527643(P2009−527643A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555815(P2008−555815)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/FI2007/000048
【国際公開番号】WO2007/096463
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508257577)ピコデオン・リミテッド・オサケユキテュア (6)
【氏名又は名称原語表記】PICODEON LTD OY
【Fターム(参考)】