説明

エンコーダ付転がり軸受ユニット

【課題】スリンガを構成する円筒部と回転側軌道輪との金属面嵌合部のシール性確保を、エンコーダの検出能力を確保しながら、しかも長期間に亙り十分に図る。
【解決手段】プラスチック磁石製のエンコーダ17aは、表面張力の小さい熱可塑性樹脂をバインダーとする事により撥水性を有し、このエンコーダ17aの内周面に対向するハブ3の端部外周面に段部25を形成し、この段部25に撥水性を有する環状部材26を嵌合固定する。エンコーダ17aの内周面と上記環状部材26の外周面とを全周に亙り近接対向させて、毛細管現象により水分を外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の転がり軸受ユニットのうち、回転側軌道輪と静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在して複数個の転動体を設置した内部空間の端部開口を、エンコーダ付組み合わせシールリングにより塞いで成る、エンコーダ付転がり軸受ユニットの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の転がり軸受ユニットとして、例えば特許文献1には、図6に示す様な構造が記載されている。この図6に示した転がり軸受ユニット1は、静止側軌道輪である外輪2と回転側軌道輪であるハブ3とを互いに同心に配置している。そして、この外輪2の内周面に設けた、それぞれが静止側軌道である複列の外輪軌道4、4と、上記ハブ3の外周面に設けた、それぞれが回転側軌道である複列の内輪軌道5、5との間に、それぞれが転動体である玉6、6を、両列毎に複数個ずつ配置している。これら玉6、6は、それぞれ保持器7、7により、転動自在に保持されている。この様な構成により、懸架装置に支持固定される上記外輪2の内径側に上記ハブ3を、回転自在に支持している。
【0003】
上記外輪2の内周面と上記ハブ3の外周面との間で上記玉6、6を設置した内部空間8の両端開口は、それぞれシールリング9とエンコーダ付組み合わせシールリング10とにより、全周に亙り塞いでいる。このうちのシールリング9は、金属板製の芯金11と弾性材製のシールリップ12とを備える。そして、このうちの芯金11を上記外輪2の一端部に締り嵌めで内嵌した状態で、上記シールリップ12の先端縁を上記ハブ3の中間部外周面に、全周に亙り摺接させている。
【0004】
又、上記エンコーダ付組み合わせシールリング10は、図7に示す様に、スリンガ13とシールリング14とから成る。このうちのシールリング14は、金属板製の芯金18と弾性材製の複数本のシールリップ19、19とを備える。そして、このうちの芯金18は、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成したもので、固定円筒部20と、この固定円筒部20の軸方向端縁から径方向内方に折れ曲がった固定円輪部21とから成る。この様な芯金18は、上記固定円筒部20を上記外輪2の他端部に締り嵌めで内嵌した状態で、上記シールリップ19、19の先端縁を上記スリンガ13の表面に、全周に亙り摺接させている。一方、スリンガ13は、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成したもので、回転円筒部15と、この回転円筒部15の軸方向端縁から径方向外方に折れ曲がった回転円輪部16とから成る。この様なスリンガ13は、上記回転円筒部15を上記ハブ3(ハブ本体と共にこのハブ3を構成する内輪)の端部外周面に締り嵌めで外嵌する事により、このハブ3に対し固定している。
【0005】
さらに、上述の様なエンコーダ付組み合わせシールリング10を構成するスリンガ13の回転円輪部16の軸方向両側面のうち、上記回転円筒部15の折れ曲がり方向の逆側の面に、円輪状のエンコーダ17を、全周に亙り添着固定している。このエンコーダ17は、ゴム磁石、プラスチック磁石等の永久磁石製で、軸方向に着磁している。着磁方向は、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、被検出面である、上記エンコーダ17の軸方向片側面には、S極とN極とが、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で配置されている。この様なエンコーダ17の被検出面には、例えば特許文献2に記載されている様に、センサの検出部を対向させて、上記ハブ3と共に回転する車輪の回転速度を測定自在とする。そして、測定した、車輪の回転速度を表す信号を、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)等、車両の走行安定化装置の制御に利用している。
【0006】
上述した構成により、上記内部空間8の両端開口を前記シールリング9と上記エンコーダ付組み合わせシールリング10とにより、それぞれ全周に亙り塞ぐ事で、上記内部空間8内に存在するグリースの漏洩防止と、外部空間に存在する水分や塵芥等の異物がこの内部空間8内に侵入する事の防止とを図っている。
【0007】
但し、上記エンコーダ付組み合わせシールリング10を構成する上記スリンガ13の回転円筒部15を前記ハブ3の端部に外嵌固定した場合、これら回転円筒部15の内周面とハブ3の端部外周面との嵌合面のシール性を十分に確保できない虞がある。即ち、上記スリンガ13をハブ3に圧入嵌合する時に傷が発生する虞があること、及び回転円筒部15の金属表面の粗さにより、このスリンガ13の回転円筒部15を上記ハブ3の端部外周面に締り嵌めで外嵌した状態でも、この嵌合部には微小な隙間が存在する。
従って、上記回転円筒部15の内周面と上記ハブ3の外周面との嵌合部に微小隙間が存在し、この微小隙間に侵入した水分により、これら両周面のうちの少なくとも一方の周面が腐食して肉痩せしたり、或いは錆により体積が膨張すると、この微小隙間が拡がり、この拡がった隙間を通じて、上記内部空間8内に水分が侵入する可能性がある。この内部空間8内への水分の侵入は、グリースの劣化による転がり軸受ユニットの耐久性低下の原因となる為、好ましくない。
【0008】
この様な事情に鑑みて、特許文献3には、スリンガに添着固定されたゴム磁石製のエンコーダの内周縁に設けたシールリップを、内輪の外周面に全周に亙り当接させた構造が記載されており、これにより、スリンガと内輪との嵌合面から内部空間への雨水等の侵入を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−85478号公報
【特許文献2】特開2001−255337号公報
【特許文献3】特開2002−333035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、耐久性及び検出能力の向上を目的として、上記エンコーダを構成する材料として、磁性粉を50〜80容量%程度含有し、熱可塑性樹脂をバインダーとした磁石コンパウンドが使用されている。このプラスチック磁石製のエンコーダを構成する永久磁石材料、並びに、このエンコーダとスリンガとを接合しつつ、このエンコーダを形成する方法に就いて、以下に説明する。
【0011】
磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄等の希土類磁性粉を用いる事ができ、50〜80容量%の範囲で含有している。又、上記バインダーとしては、ポリアミド6、ポリアミド12等の射出成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。
一方、スリンガの材質としては、エンコーダを構成する永久磁石材料の磁気特性を低下させず、且つ、シールの摺動面として、発錆によるシールリップの損傷を回避する為に、耐食性を有する金属板が好ましい。具体的には、SUS430等の高耐食性フェライト系ステンレス鋼板等の磁性材料が好適に用いられる。
【0012】
又、上記スリンガの円輪部の側面とエンコーダとの接合面は、これら円輪部とエンコーダとを接合する為の接着剤による接合力を向上させる為に、微細な凹凸を設ける事ができる。この様な目的で凹凸を設ける方法としては、ショットブラスト処理や、プレス成形時の金型表面の凹凸の転写による方法等の機械的なものの他、一度表面処理した表面を酸等によって化学エッチングする方法を採用する事もできる。
さらに、円輪部とエンコーダとを接合する為の接着剤は、予め円輪部の表面に塗布しておく。そして、スリンガを、エンコーダを射出成形する為の金型のキャビティ内に設置した状態で、このキャビティ内にこのエンコーダとする為の永久磁石材料を送り込む、インサート成形を行う。このインサート成形時に上記接着剤は、溶融した高圧のプラスチック磁石材料の流動物により上記円輪部から剥れ落ちて流失しない程度まで、半硬化状態になっている。そして、溶融樹脂からの熱、更には、この熱に加えて、成形後の2次加熱によって、完全に硬化状態となる。この様な、円輪部とエンコーダとを接合する為の接着剤としては、溶剤での希釈が可能で、2段階に近い硬化反応が進む、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等が、耐熱性、耐薬品性、ハンドリング性を考慮して使用される。
【0013】
更に、エンコーダの成形を、上記金型に、このエンコーダの厚さ方向に磁場を加えた状態で行えば、異方性を、より完全に近くできる。尚、この様に、金型に磁場を加えつつエンコーダを射出成形する、所謂磁場成形を行う場合、プラスチック磁石材料をキャビティ内に送り込む為のゲートをディスクゲート方式或いはリングゲート方式とすることにより、上記磁性粉の配向を異方化する事ができる。
【0014】
上述した様なプラスチック磁石製のエンコーダを、上述した特許文献3の、ゴム磁石製のエンコーダで、その内径に内輪の外周面と当接するリップを設ける技術に適用すると、次の様な問題点がある。
プラスチック磁石製のエンコーダは、熱可塑性樹脂をバインダーとして成形されており、ゴムの如きエラストマーをバインダーとするゴム磁石のような大きな弾性力を持たないので、大きな変形を与えることが出来ない。従って、射出成形後に金型からエンコーダが成形接着されたスリンガを取り出す際に、所謂無理抜きをすることが出来ない為、エンコーダの内径縁にハブとの間に十分な締め代を持たせたシールリップを形成することが困難である。
又、上記シールリップを形成できたとしても、内輪に当接するエンコーダのシールリップが、エンコーダとスリンガとの接着面にせん断応力を発生させるので、エンコーダがスリンガから剥がれ落ちる虞がある。
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、スリンガを構成する回転円筒部と回転側軌道輪との嵌合部のシール性確保を、エンコーダの検出能力を確保しながら、しかも長期間に亙り十分に図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットは、互いに同心に配置された回転側軌道輪及び静止側軌道輪と、これら回転側軌道輪及び静止側軌道輪の互いに対向する周面にそれぞれ設けられた回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在する内部空間の端部開口を塞ぐ、スリンガとシールリングとから成る組み合わせシールリングとを備えている。このうちのスリンガは、上記回転側軌道輪の周面の一部で上記静止側軌道輪の周面に対向する部分に嵌合固定されたもので、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、円筒部と、この円筒部の軸方向端縁から上記静止側軌道輪に向けて径方向に折れ曲がった円輪部とから成る。上記シールリングは、上記静止側軌道輪の一部で上記スリンガに対向する部分に嵌合固定されたもので、上記静止側軌道輪に嵌合固定される芯金と、この芯金にそれぞれの基端部を支持された複数本のシールリップとを備え、これら各シールリップの先端部を、上記スリンガの表面に全周に亙り摺接させている。さらに、上記スリンガを構成する円輪部の両側面のうち、円筒部と逆側の側面に、永久磁石製で、側面にS極とN極とが交互に配置された円輪状のエンコーダを、全周に亙り添着固定している。
【0017】
特に、本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットに於いては、上記エンコーダの周面は撥水性を有し、このエンコーダの周面と対向する上記回転側軌道輪の周面に設けられた段部に、撥水性を有する環状部材を全周に亙って設けている。
さらに、上記エンコーダを構成する永久磁石が、熱可塑性樹脂中に磁性体粉を含有させたプラスチック磁石であり、上記エンコーダのバインダーが撥水性を有する樹脂である。
又は、エンコーダの周面に撥水性を有する被覆を設けている。
さらに、環状部材の周面に撥水性を有する凸部を設けている。
【発明の効果】
【0018】
上述の様な本発明のエンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、スリンガを構成する回転円筒部と回転側軌道輪との嵌合部のシール性確保を、エンコーダの検出能力を確保しながら、長期間に亙り十分に図れる構造を実現できる。
即ち、本例の場合には、撥水性を有するエンコーダの内周面と、やはり撥水性を有する環状部材の外周面とを僅かな隙間により近接対向させている為、この隙間に存在する水分は毛細管現象により外部に排出され、回転円筒部の内周面と回転側軌道輪の外周面との嵌合部に、水分等の異物が侵入する事がない。しかも、段部に嵌合された上記環状部材と、スリンガに添着固定された上記エンコーダとは非接触である為、エンコーダは外部からストレス等を受ける事がない。この為、上記エンコーダは、長期間に亙る使用により劣化する事が少なく、その検出能力を維持する事ができる。更に、エンコーダ及び環状部材がその撥水性を維持することにより、上記回転円筒部の内周面と上記ハブの外周面との嵌合部のシール性を長期間に亙り保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分断面図。
【図2】本発明の実施の形態の第2例を示す部分断面図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例の変形例を示す部分断面図。
【図4】本発明の実施の形態の第3例を示す部分断面図。
【図5】本発明の実施の形態の第3例の変形例を示す部分断面図。
【図6】従来構造の1例を示す断面図。
【図7】エンコーダ付組み合わせシールリングの構造の例を示す、図6のA部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の特徴は、外輪2とハブ3との間に設けられ、軸端開口を塞ぐエンコーダ付組み合わせシールリング10aと、エンコーダ17aの内周面に近接対向してハブ3の軸端外周部に設けられた環状部材26とにより、ハブ3に圧入嵌合されたスリンガ13との金属嵌合面から浸水する事を防止する構造にある。転がり軸受ユニットの構造を含め、エンコーダ付組み合わせシールリング10a及びハブ3に設けられた環状部材26以外の構造及び作用効果に就いては、先に述べた、図6、7に示した従来構造の場合とほぼ同じであるから、重複する説明並びに図示は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分に就いて説明する。
【0021】
本例の場合、エンコーダ付組み合わせシールリング10aは、スリンガ13とシールリング14とから成る。このうちのスリンガ13は、ハブ3の端部外周面に、締り嵌めにより外嵌固定されたもので、フェライト系ステンレス鋼板等の磁性金属板を曲げ成形する事により、断面L字形で全体を円環状に構成している。即ち、上記スリンガ13は、内周縁部に設けられた回転円筒部15と、この回転円筒部15の軸方向端縁から径方向外方に直角に折れ曲がった回転円輪部16とから成る。又、上記シールリング14は、外輪2の端部内周面に、締り嵌めにより内嵌固定されたもので、金属板を曲げ形成する事により断面略L字形で全体を円環状とした芯金18と、弾性材製で複数本のシールリップ19、19とから成る。このうちの上記芯金18は、外周縁部に設けた固定円筒部20と、この固定円筒部20の軸方向端縁から径方向内方に直角に折れ曲がった固定円輪部21とから成る。上記固定円筒部20を上記外輪2の端部内周面に締り嵌めで内嵌した状態で、上記各シールリップ19、19の先端部を、上記スリンガ13を構成する、上記回転円筒部15の外周面及び上記回転円輪部16の片側面に、それぞれ全周に亙り摺接させている。
【0022】
又、上記スリンガ13の回転円輪部16の軸方向両側面のうち、上記シールリップ19、19を摺接させた面と反対側の面(図1の右側面)乃至外周縁に、永久磁石製で円輪状のエンコーダ17aを、全周に亙って添着固定している。このエンコーダ17aは、軸方向に着磁されており、着磁方向は、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、上記エンコーダ17aの側面には、S極とN極とが、交互に、且つ、等ピッチで配置されている。
上記エンコーダ17aを構成する材料としては、磁性粉を50〜80容量%程度含有し、熱可塑性樹脂をバインダーとした磁石コンパウンド(プラスチック磁石)を使用している。特に、本例の場合には、射出成形可能な上記バインダーとして、炭化水素基、弗化炭化水素基などを持つ、表面張力の小さいテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、等を使用する事により、エンコーダ17aの表面に撥水性を持たせている。
【0023】
更に、本例のエンコーダ付転がり軸受ユニットの場合には、上記エンコーダ17aの内周面に対向する上記ハブ3の端部外周面に段部25を形成し、この段部25に撥水性を有する環状部材26を嵌合している。そして、エンコーダ17aの内周面と上記環状部材26の外周面とを全周に亙り近接対向させている。この環状部材26を構成する材料としては、撥水性の高い、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、シリコンゴム、等を使用する事が出来る。又、上記段部25の外周面は、軸受内部に向かうに従い小径となる傾斜面とし、段部25の外周面と上記環状部材26の内周面とに締め代を設ける事により、段部25に環状部材26を嵌合固定している。
【0024】
上述の様な本例のエンコーダ付転がり軸受ユニットによれば、上記スリンガ13を構成する回転円筒部15と上記ハブ3の外周面との嵌合部のシール性確保を、エンコーダの検出能力を確保しながら、長期間に亙り十分に図れる構造を実現できる。
即ち、本例のエンコーダ付転がり軸受ユニットの場合には、撥水性を有する上記エンコーダ17aの内周面と、やはり撥水性を有する上記環状部材26の外周面とを僅かな隙間により近接対向させている為、この隙間に存在する水分は毛細管現象により外部に排出され、上記回転円筒部15の内周面と上記ハブ3の外周面との嵌合部に、水分等の異物が侵入する事がない。しかも、段部25に嵌合された上記環状部材26と、スリンガ13に固定された上記エンコーダ17aとは非接触である為、エンコーダ17aは外部からストレス等を受ける事がない。従って、上記環状部材25により上記エンコーダ17aが強く押圧されて、スリンガ13との接着面にせん断応力を受けたり、或いは、エンコーダ付転がり軸受ユニットの使用時において、エンコーダ17aに圧縮等の力が加わる事はない。この為、上記エンコーダ17aは、長期間に亙る使用により劣化する事が少なく、その検出能力を維持する事ができる。更に、上記エンコーダ17a及び上記環状部材25がその撥水性を維持することにより、上記回転円筒部15の内周面と上記ハブ3の外周面との嵌合部のシール性を長期間に亙り保持できる。
【0025】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合も、回転側軌道輪であるハブ3の端部外周面にスリンガ13の回転円筒部15を、締り嵌めで外嵌固定している。特に、本例の場合には、環状部材26aの外周面に撥水性を有する短い毛髪状の凸部27を無数に設け、この凸部27の先端部を上記エンコーダ17aの内周面に接触させている。
この様な本例の場合には、エンコーダ17aと環状部材26aとの隙間部分を凸部27で周方向に区切ることにより、隙間がさらに微小となり、毛細管現象による水分の排出効果を高めている。尚、凸部27は、毛髪状の細い突起であり、その先端部が僅かにエンコーダ17aに接触する長さとすることにより、エンコーダ17aにストレスを発生させる事はない。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態の第2例の変形例を示している。本例の場合には、環状部材26bの外周面に撥水性を有する長い毛髪状の凸部27aを無数に設け、エンコーダ付き組み合わせシールリング10aを外輪2とハブ3の間に圧入固定した後に、環状部材26bをハブ3の段部25に装着することで、この凸部27aの先端部を密集した状態で軸受外方に向け、撥水効果を更に高めている。
その他の部分の構成及び作用に就いては、前述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0027】
[実施の形態の第3例]
図4は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、上記ハブ3の端部外周面に設けた段部25aの外周面に、このハブ3の端部外周面より小径の撥水性被膜28を設けている。そして、エンコーダ17bの内周面を軸受外側方向に向かうに従い大径となる部分円錐状に傾斜させ、この円錐状の内周面に撥水性を有する短い毛髪状の凸部27bを無数に設け、この凸部27bの先端部を上記撥水性被膜28の外周面に近接対向或いは接触させている。
尚、本例の場合、上記凸部27bを射出成形する際に上述した無理抜きが必要となるが、エンコーダ17bの内周面を円錐状とし、成形金型の抜き方向と角度を持たせること、磁場成形により磁性粉をエンコーダ17bのセンサとの対向面に集め、内径側の磁性粉を減らすこと、及び、毛髪状の凸部27bの径を十分小さくし、柔軟性を持たせることで、エンコーダ17bの内周面に毛髪状の凸部27bを成形することが可能になる。
本例のエンコーダ付転がり軸受ユニットを組立てる場合、上記撥水性被膜28を形成した状態のハブ3に、エンコーダ付組み合わせシールリング10bを圧入嵌合する。
【0028】
図5は、本発明の実施の形態の第3例の変形例を示している。本例の場合には、エンコーダ17cの内周面に撥水性を有する長い毛髪状の凸部27cを無数に設け、エンコーダ付き組み合わせシールリング10cを外輪2とハブ3の間に圧入固定することで、この凸部27cの先端部を密集した状態で軸受外方に向けて傾斜させることにより、撥水効果を更に高めている。
その他の部分の構成及び作用に就いては、前述した実施の形態の第1,2例の場合と同様である。
【0029】
尚、上述した各実施例ではエンコーダをプラスチック磁石により製造しているが、表面張力の小さいシリコーン基を持つシリコンゴムをバインダーとした磁性ゴムを材料として、ゴム磁石製のエンコーダとすることも出来る。また、エンコーダを磁性ゴム或いは焼結材等の通常の材料により成形後、高い撥水性を持つ材料(テフロン(登録商標)、PPS、ポリエチレン、等)によりコーティングすることも出来る。更に、撥水性に加えて撥油性にも優れる材料(テフロン(登録商標)等)をバインダー(或いはコーティング)にすれば、塵埃を含んだ油分の侵入も防止可能であり、よりシール性能が向上する為、撥油性を持つ材料を、エンコーダ或いは環状部材(或いは撥水性被膜)のどちらか一方に使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットに限らず、水分等、腐食性の異物がスリンガと回転側軌道輪との嵌合部に付着する可能性のある環境下で使用される、各種機械装置の回転支持部に組み込まれるエンコーダ付転がり軸受ユニットに適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 転がり軸受ユニット
2 外輪
3 ハブ
4 外輪軌道
5 内輪軌道
6 玉
7、7a 保持器
8 内部空間
9 シールリング
10、10a、10b、10c エンコーダ付組み合わせシールリング
11 芯金
12 シールリップ
13 スリンガ
14 シールリング
15 回転円筒部
16 回転円輪部
17、17a、17b、17c エンコーダ
18 芯金
19 シールリップ
20 固定円筒部
21 固定円輪部
25、25a 段部
26、26a、26b 環状部材
27、27a、27b、27c 凸部
28 撥水性被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に配置された回転側軌道輪及び静止側軌道輪と、これら回転側軌道輪及び静止側軌道輪の互いに対向する周面にそれぞれ設けられた回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在する内部空間の端部開口を塞ぐ、スリンガとシールリングとから成る組み合わせシールリングとを備え、このうちのスリンガは、上記回転側軌道輪の周面の一部で上記静止側軌道輪の周面に対向する部分に嵌合固定されたもので、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、円筒部と、この円筒部の軸方向端縁から上記静止側軌道輪に向けて径方向に折れ曲がった円輪部とから成り、上記シールリングは、上記静止側軌道輪の一部で上記スリンガに対向する部分に嵌合固定されたもので、上記静止側軌道輪に嵌合固定される芯金と、この芯金にそれぞれの基端部を支持された複数本のシールリップとを備え、これら各シールリップの先端部を、上記スリンガの表面に全周に亙り摺接させており、上記スリンガを構成する円輪部の両側面のうち、円筒部と逆側の側面に、永久磁石製で、側面にS極とN極とが交互に配置された円輪状のエンコーダを、全周に亙り添着固定しているエンコーダ付転がり軸受ユニットに於いて、
上記エンコーダの周面は撥水性を有し、このエンコーダの周面と対向する上記回転側軌道輪の周面に設けられた段部に、撥水性を有する環状部材を全周に亙って設けている事を特徴とするエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項2】
エンコーダを構成する永久磁石が、熱可塑性樹脂中に磁性体粉を含有させたプラスチック磁石であり、上記エンコーダのバインダーが撥水性を有する樹脂である、請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項3】
エンコーダの周面に撥水性を有する被膜を設けた、請求項1に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。
【請求項4】
環状部材の周面或いはエンコーダの周面に撥水性を有する凸部を設けた、請求項1〜3に記載したエンコーダ付転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−104455(P2013−104455A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247224(P2011−247224)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】