説明

エンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット

【課題】実用的構造で、製造時に接着剤のはみ出し等に基づく不具合が発生し難く、しかも、スリンガ13aを構成する円筒部15aと内輪21の外周面の嵌合部のシール性確保を、長期間に亙り十分に図れる構造を実現する。
【解決手段】プラスチック磁石製のエンコーダ20bの内周縁部に、弾性材製で円環状のシールリング24を係止する。そして、このシールリング24により、前記スリンガ13aの曲面部17aと前記内輪21の外周面との間に存在する隙間の開口部を、全周に亙って塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為のハブユニットのうち、回転側軌道輪と静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在して複数個の転動体を設置した環状空間の端部開口を、スリンガとシールリングとから成る組み合わせシールリングにより塞ぐと共に、このうちのスリンガの軸方向内側面にエンコーダを添着固定して成る、エンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットの改良に関する。具体的には、前記回転側軌道輪と前記スリンガとの嵌合面のシール性を、長期間に亙って良好に維持できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為に、図5に示す様なハブユニット1が、特許文献1、2に記載される等により、従来から広く知られている。このハブユニット1は、静止側軌道輪である外輪2と回転側軌道輪であるハブ3とを互いに同心に配置している。そして、この外輪2の内周面に設けた、それぞれが静止側軌道である複列の外輪軌道4、4と、前記ハブ3の外周面に設けた、それぞれが回転側軌道である複列の内輪軌道5、5との間に、それぞれが転動体である玉6、6を、両列毎に複数個ずつ配置している。これら各玉6、6は、それぞれ保持器7、7により、転動自在に保持している。この様な構成により、懸架装置に支持固定される前記外輪2の内径側に前記ハブ3を、回転自在に支持している。
【0003】
前記外輪2の内周面と前記ハブ3の外周面との間で前記各玉6、6を設置した環状空間8の両端開口は、それぞれシールリング9と組み合わせシールリング10とにより、全周に亙り塞いでいる。このうちのシールリング9は、金属板製の芯金11と弾性材製の複数本のシールリップ12とを備える。そして、このうちの芯金11を前記外輪2の一端部に締り嵌めで内嵌した状態で、前記各シールリップ12の先端縁を前記ハブ3の中間部外周面に、全周に亙り摺接させている。
【0004】
又、前記組み合わせシールリング10は、スリンガ13とシールリング14とから成る。このうちのスリンガ13は、金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成したもので、円筒部15と、この円筒部15の軸方向端縁から径方向外方に折れ曲がった円輪部16と、これら円筒部15と円輪部16との連続部に存在する、断面円弧形の曲面部17とから成る。この様なスリンガ13は、前記円筒部15を前記ハブ3(ハブ本体と共にこのハブ3を構成する内輪)の端部外周面に締り嵌めで外嵌する事により、このハブ3に対し固定している。又、前記シールリング14は、金属板製の芯金18と弾性材製の複数本のシールリップ19とを備える。そして、このうちの芯金18を前記外輪2の他端部に締り嵌めで内嵌した状態で、前記各シールリップ19の先端縁を前記スリンガ13の表面に、全周に亙り摺接させている。
【0005】
更に、前記ハブ3に結合固定した車輪の回転速度を測定可能とすべく、上述の様な組み合わせシールリング10を構成するスリンガ13の円輪部16の軸方向内側面(軸方向に関して内とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向中央側で、各図の右側を言う。これに対して、各図の左側である、幅方向端部側を、軸方向に関して外と言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に、図6に示す様に、円輪状のエンコーダ20を、全周に亙り添着固定している。このエンコーダ20は、ゴム磁石、プラスチック磁石等の永久磁石製で、軸方向に着磁している。着磁方向は、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で変化させている。従って、被検出面である、前記エンコーダ20の軸方向内側面には、S極とN極とが、円周方向に関して、交互に、且つ、等間隔で配置されている。この様なエンコーダ20の被検出面には、センサの検出部を対向させて、前記ハブ3と共に回転する車輪の回転速度を測定自在とする。そして、測定した、車輪の回転速度を表す信号を、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)等、車両の走行安定化装置の制御に利用する。尚、前記エンコーダ20を装着する為の前記スリンガ13を、磁性金属製とする事により、このスリンガ13にバックヨークとしての機能を持たせ、エンコーダ20の被検出面から出入りする磁束の強度(密度)を確保している。
【0006】
ところで、単に前記組み合わせシールリング10を構成する前記スリンガ13の円筒部15を前記ハブ3の端部に外嵌固定しただけでは、この円筒部15の内周面とこのハブ3の端部外周面との嵌合面のシール性を必ずしも十分に確保できない。即ち、前記スリンガ13の円筒部15を前記ハブ3の端部に締り嵌めで外嵌した状態でも、この嵌合部に微小隙間が存在する事は避けられず、この微小隙間に侵入した水分により、前記両周面のうちの少なくとも一方の周面が腐食する事により当該部分の体積が増加すると、この微小隙間が拡がり、この拡がった隙間を通じて、前記環状空間8内に水分が侵入する可能性がある。この環状空間8内への水分の侵入は、グリースの劣化によるハブユニットの耐久性低下の原因となる為、好ましくない。
【0007】
この様な原因でのハブユニット1の耐久性低下を防止する為の構造として、特許文献2に記載された構造が知られている。この改良された従来構造の場合には、図7〜8に示す様に、スリンガ13aの曲面部17aの内周面、及び、このスリンガ13aの円輪部16aの軸方向内側面に添着固定したエンコーダ20aの内周縁と、ハブ本体の軸方向内端部に外嵌固定されてこのハブ本体と共にハブを構成する内輪21の外周面との間に存在する隙間22に、油面接着性を有する接着剤23を、全周に亙って充填している。この様な改良された構造によれば、前記スリンガ13aを構成する円筒部15aと前記内輪21との嵌合部のシール性確保を、長期間に亙り十分に図れる。
【0008】
但し、上述した改良された構造の場合には、製造工程中で、前記接着剤23が前記隙間22からはみ出さない様に、十分に注意する必要がある。この理由は、はみ出した接着剤が軌道面やエンコーダ20aの表面に付着して固化すると、ハブユニット1の運転時に有害な振動が発生したり、或いは前記エンコーダ20aを利用した回転速度検出を精度良く行えなくなる可能性がある為である。
【0009】
特許文献3には、弾性材製のエンコーダの内周縁に形成したシールリップを、ハブに隣接した等速ジョイントの外周面に当接させる事で、当該部分のシール性確保を図る構造が記載されている。但し、この様な構造は、ハブに隣接して等速ジョイントが存在する必要がある。又、多量の磁性粉末を混入した弾性材製のシールリップは、必ずしも十分なシール性を確保できない可能性がある。
又、特許文献4には、スリンガを構成する円筒部の内周面に形成した係止溝にシールリングを係止して、この円筒部の内周面とハブの外周面との嵌合部のシール性確保を図る構造が記載されている。但し、スリンガを構成する金属板の厚さ寸法は極く小さい為、このスリンガの強度を確保しつつ、必要なシール性を確保する事は非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−233110号公報
【特許文献2】特開2009−185965号公報
【特許文献3】特開2007−187318号公報
【特許文献4】特開2008−303907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、実用的構造で、製造時に接着剤のはみ出し等に基づく不具合が発生し難く、しかも、スリンガを構成する円筒部と回転側軌道輪の周面との嵌合部のシール性確保を、長期間に亙り十分に図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットは、先に図5〜6により説明した従来構造と同様に、回転側軌道輪及び静止側軌道輪と、複数個の転動体と、組み合わせシールリングと、エンコーダとを備える。
このうちの回転側軌道輪及び静止側軌道輪は、互いに同心に配置されている。
又、前記各転動体は、これら回転側軌道輪及び静止側軌道輪の互いに対向する周面にそれぞれ設けられた回転側軌道と静止側軌道との間に、転動自在に設けられている。
又、前記組み合わせシールリングは、前記回転側軌道輪と前記静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在する環状空間の端部開口を塞ぐ為のもので、スリンガとシールリングとから成る。このうちのスリンガは、前記回転側軌道輪の周面の一部で前記静止側軌道輪の周面に対向する部分に嵌合固定されたもので、磁性金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、円筒部と、この円筒部の軸方向端縁から前記静止側軌道輪に向けて径方向に折れ曲がった円輪部と、これら円筒部と円輪部との連続部に存在する断面円弧形の曲面部とから成る。一方、前記シールリングは、前記静止側軌道輪の一部で前記スリンガに対向する部分に嵌合固定されたもので、この静止側軌道輪に嵌合固定される芯金と、この芯金にそれぞれの基端部を支持された複数本のシールリップとを備える。そして、これら各シールリップの先端部を、前記スリンガの表面に全周に亙り摺接させている。
又、前記エンコーダは、全体を円輪状に造られて、前記スリンガを構成する円輪部の軸方向内側面に、このスリンガと同心に添着固定されており、軸方向内側面の磁気特性を円周方向に関して交互に変化させている。
【0013】
特に、本発明のエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットに於いては、前記エンコーダは、熱可塑性を有する合成樹脂中に強磁性粉末を混入させて成るプラスチック磁石製である。そして、このエンコーダの周縁部に弾性材製で円環状のシールリングを係止し、このシールリングにより前記スリンガの曲面部と前記回転側軌道輪の周面との間に存在する隙間の開口部を、全周に亙り塞いでいる。
【0014】
この様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記エンコーダの周縁部に前記シールリングを、このエンコーダを構成する合成樹脂を溶融変形させて成る抑え部により係止する。
又、この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に、より具体的には、請求項3に記載した発明の様に、前記エンコーダの周縁の一部に形成された、軸方向内側に向いた段差面と、このエンコーダの周縁の残部でこの段差面よりも軸方向内側寄り部分を径方向に溶融変形させて構成した抑え部との間で前記シールリングの径方向片半部を挟持する。そして、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの径方向他端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させる。
【0015】
或いは、請求項4に記載した発明の様に、前記エンコーダの軸方向内側面の一部で、径方向に関してスリンガの円筒部を設置した端部寄り部分に形成された、径方向に向いた段差面と、前記エンコーダの軸方向内側面の残部でこの段差面よりも径方向に関して端縁寄りの部分を径方向に溶融変形させて構成した抑え部との間で前記シールリングの軸方向外半部を挟持する。そして、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの軸方向内端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させる。
【0016】
或いは、請求項5に記載した発明の様に、前記エンコーダの周縁の一部に形成された、軸方向内側に向いた段差面の円周方向複数箇所から軸方向内方に突出する状態で形成された複数本の係止ピン部を、シールリング及びこのシールリングの軸方向内側面側に重ね合わされた円環状の抑え板の互いに整合する部分に形成した通孔に挿通する。更に、前記各係止ピン部の先端部でこの抑え板の軸方向内側面から突出した部分を加熱して外径が大きくなる方向に溶融変形させて成る抑え部により、前記抑え板が前記段差面から離れる方向に変位するのを阻止する。そして、これら抑え板と段差面との間で前記シールリングの径方向片半部を挟持する事により、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの径方向他端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させる。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明のエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットによれば、製造時に接着剤のはみ出し等に基づく不具合が発生し難く、しかも、スリンガを構成する円筒部と回転側軌道輪の周面との嵌合部のシール性確保を、長期間に亙り十分に図れる、実用的な構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、エンコーダを組み付けた組み合わせシールリングの部分拡大断面図。
【図2】同第2〜4例を示す、図1の右下部に相当する図。
【図3】同第5例を示す、図1の右下部に相当する図。
【図4】同第6例を示す、図1の右下部に相当する図。
【図5】従来から知られているエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットの1例を示す断面図。
【図6】図5のX部拡大図。
【図7】シール性を向上させた、従来構造の第2例を示す部分断面図。
【図8】図7のY部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、組み合わせシールリング10aを構成するスリンガ13aの円輪部16aの軸方向内側面に添着固定したエンコーダ20bの内周縁にシールリング24を係止し、このシールリング24により、このエンコーダ20bの内周縁と、ハブを構成する内輪21の外周面との間の隙間を塞ぐ点、及び、その為に前記シールリング24を係止する方法にある。その他の部分の構成及び作用は、基本的には、前述の図5〜8に示した従来構造と同様であるから、重複する図示並びに説明を、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、先に説明しなかった部分を中心に説明する。
【0020】
前記エンコーダ20bは、熱可塑性の合成樹脂中に強磁性粉末を混入させて成るプラスチック磁石製である。又、前記スリンガ13aは、磁性金属板である、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼板にプレス加工を施す事により造っている。そして、前記円輪部16aと前記エンコーダ20bとを、接着剤により添着固定している。そのままでは、ステンレス鋼板の接着性は良好ではないので、前記円輪部16aと前記エンコーダ20bとを接着する為に、特許文献1に記載された様に、この円輪部16aに微小な凹凸を形成してこの凹凸に接着剤を入り込ませる事と、この円輪部16aに塗布した接着剤が半硬化の状態で前記エンコーダ20bの射出成形を行い、この接着剤を二次加熱して硬化を進める事とにより、このエンコーダ20bと前記円輪部16aとの接着強度を高める。この点に就いては、前記特許文献1に記載されており、本発明の要旨でもない為、より詳しい説明は省略する。又、前記エンコーダ20bの組成(磁性粉末の混合割合、合成樹脂の種類)に就いては、特許文献2に記載されている為、詳しい説明は省略する。
【0021】
本例の場合、前記エンコーダ20bの内周縁部に、Oリングの如き、弾性材製で円環状の、前記シールリング24を係止している。この為に本例の場合には、前記エンコーダ20bの内周縁の軸方向中間部に、軸方向内側に向いた段差面25を形成している。又、このエンコーダ20bの内周縁の残部で、この段差面25よりも軸方向内側寄り部分に抑え部26を、全周に亙って、或いは周方向に関して間欠的に形成している。即ち、この抑え部26は、前記シールリング24を抑え付けられれば良く、必ずしも全周に亙って形成する必要はない。例えば、形成し易さを考慮すれば、円周方向複数箇所にスリットを有する(間欠的に形成した)構造が有利である。
【0022】
何れにしても、前記抑え部26を形成する為、前記エンコーダ20bの射出成形時にこのエンコーダ20bの軸方向内側面の径方向内端部に短円筒状若しくは欠円筒状の突壁27を、全周に亙って、若しくは周方向に関して間欠的に形成し、この突壁27を、加熱しつつ径方向内方に溶融変形させる事で、前記抑え部26とする。そして、この抑え部26と、前記段差面25と、前記エンコーダ20の内周縁とにより三方を囲まれた係止溝28に、前記シールリング24を係止する。係止作業は、前記突壁27を前記抑え部26とするのと同時に行う。このシールリング24の断面の直径は、前記係止溝28の径方向深さよりも大きいので、このシールリング24の内径側端部は、この係止溝28の開口部よりも径方向内方に突出した状態となる。尚、図示の例では、前記突壁27の周囲部分に凹溝29を全周に亙って形成している。この凹溝29は、この突壁27を加熱して前記抑え部26とする際に使用するウェルダの進入を容易にして、前記エンコーダ20bの被検出面を損傷せずに、前記抑え部26の加工を行う為に設けている。
【0023】
上述の様に、内周縁部に前記シールリング24を係止したエンコーダ20bを前記円輪部16aの軸方向内側面に添着固定したスリンガ13aを、ハブを構成する内輪21に外嵌すると、前記シールリング24が、この内輪21の外周面と前記係止溝28の底面との間で弾性的に圧縮される。そして、前記シールリング24により、前記スリンガ13aの曲面部17aと前記内輪21の外周面との間に存在する隙間22の開口部が、全周に亙って塞がれる。この結果、前記スリンガ13aを構成する円筒部15aと前記内輪21の外周面との嵌合部のシール性確保を、長期間に亙り十分に図れる。
【0024】
[実施の形態の第2〜4例]
図2は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2〜4例を示している。これら各例の場合には、エンコーダ20bの内周縁に係止するシールリング24a〜24cの形状が、上述した実施の形態の第1例の場合と異なっている。先ず、(A)に示した第2例の場合には、断面形状が半円形で内周面側が凸面となったシールリング24aを使用している。又、(B)に示した第3例の場合には、内周縁側が尖った、断面形状が楔形であるシールリング24bを使用している。更に、(C)に示した第3例の場合には、断面形状が「く」字形であるシールリング24cを使用している。シールリング24a〜24cの形状が異なる点以外の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0025】
尚、前記図2の(C)に示した実施の形態の第4例のシールリング24cは、一般的にシールリングとして使用される、ゴムの如きエラストマー製の材料を使用する必要がある。これに対して、図1及び図2の(A)(B)に示した、実施の形態の第1〜3例のシールリング24、24a、24bは、上述したエラストマー製の材料は勿論、発泡ウレタンの如き、スポンジ状の材料を使用する事もできる。
【0026】
[実施の形態の第5例]
図3は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、エンコーダ20bの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、径方向内方に向いた段差面25aを形成している。又、この軸方向内側面の径方向内端部に設けた、円筒状若しくは欠円筒状の突壁27aを径方向外方に溶融変形させて、抑え部26aを形成している。そして、この抑え部26aと前記段差面25aとの間で、シールリング24dの軸方向外半部を構成する基部30を挟持している。このシールリング24dは、四角形の断面形状を有するこの基部30と、この基部30の内周面の軸方向内端部から径方向内方に突出したシールリップ31とから成る。そして、上述の様にして、前記基部30を前記エンコーダ20bの内周縁部に支持固定した状態で、前記シールリップ31の先端縁(内周縁)を、ハブを構成する内輪21の外周面に、全周に亙って当接させている。尚、本例の場合には、前記突壁27aを径方向外方に溶融変形させて、前記抑え部26aとするので、この突壁27aを全周に連続させた円筒状としても、この抑え部26aを精度良く形成できる。又、本例の構造を組み立てる場合、前記突壁27aを溶融変形させて前記抑え部26aとした後、この抑え部26aと前記段差面25aとの間の係止溝28aに、前記基部30を内嵌する事もできる。シールリング24dの形状及びその支持構造が異なる点以外の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0027】
尚、以上に述べた実施の形態の第1〜5例の場合、前記突壁27、27aを加熱溶融させて前記係止溝28、28aを形成する作業と、前記エンコーダ20bの内径側部分に前記シールリング24、24a、24b、24c、24dを設置する作業との前後は問わない。例えば、予め突壁27、27aを溶融変形させて前記係止溝28、28aを形成してから、前記シールリング24、24a、24b、24c、24dを装着しても良い。或いは、このシールリング24、24a、24b、24c、24dを前記エンコーダ20bの内径側部分に配置してから、前記突壁27、27aを加熱溶融させ、前記係止溝28、28aを形成しても良い。
【0028】
[実施の形態の第6例]
図4は、請求項1、2、5に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の場合には、エンコーダ20bの内周縁部分に、軸方向内側に向いた段差面25bを形成している。そして、この段差面25bの円周方向複数箇所に係止ピン部32を、軸方向内方に突出する状態で形成している。そして、これら各係止ピン部32を、シールリング24e及びこのシールリング24eの軸方向内側面側に重ね合わされた円環状の抑え板33の互いに整合する部分に形成した通孔に挿通している。更に、前記各係止ピン部32の先端部で前記抑え板33の軸方向内側面から突出した部分を加熱して外径が大きくなる方向に溶融変形させ、鍔状の抑え部26bとしている。そして、この抑え部26bと前記段差面25bとの間で、前記シールリング24eと前記抑え板33とを挟持して、このシールリング24eを前記エンコーダ20bの内周縁部に係止している。更に、このシールリング24eの内周縁を、ハブを構成する内輪21の外周面に、全周に亙って当接させている。
【0029】
尚、本例の構造の場合、前記各係止ピン部32の先端部に形成した前記抑え部26bのみでは、前記抑え板33を抑え付ける力を十分に大きくできず、前記シールリング24eと前記段差面25bとの当接部のシール性を必ずしも十分に確保できない可能性がある。この様な点を考慮して本例の場合には、前記シールリング24eの外周縁も、薄肉のリップ形状とし、この外周縁を前記エンコーダ20bの内周縁の一部に全周に亙り当接させて、このエンコーダ20bと前記シールリング24eとの間のシール性を確保している。シールリング24eの形状及びその支持構造が異なる点以外の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
図示の各例は、本発明を内輪回転型のハブユニットに適用した場合に就いて示したが、本発明は、外輪回転型のハブユニットに適用する事もできる。この場合には、各部の構造を、図示の各例の場合とは径方向に関して、内外逆にする。
【符号の説明】
【0031】
1 ハブユニット
2 外輪
3 ハブ
4 外輪軌道
5 内輪軌道
6 玉
7、7a 保持器
8 環状空間
9 シールリング
10、10a 組み合わせシールリング
11 芯金
12 シールリップ
13、13a、13b スリンガ
14、14a シールリング
15、15a、15b 円筒部
16、16a、16b 円輪部
17、17a、17b 曲面部
18、18a 芯金
19、19a シールリップ
20、20a、20b エンコーダ
21 内輪
22 隙間
23 接着剤
24、24a、24b、24c、24d、24e シールリング
25、25a、25b 段差面
26、26a、26b 抑え部
27、27a 突壁
28、28a 係止溝
29 凹溝
30 基部
31 シールリップ
32 係止ピン部
33 抑え板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同心に配置された回転側軌道輪及び静止側軌道輪と、これら回転側軌道輪及び静止側軌道輪の互いに対向する周面にそれぞれ設けられた回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記回転側軌道輪と前記静止側軌道輪との互いに対向する周面同士の間に存在する環状空間の端部開口を塞ぐ、スリンガとシールリングとから成る組み合わせシールリングと、全体を円輪状に造られて軸方向内側面の磁気特性を円周方向に関して交互に変化させたエンコーダとを備え、このうちのスリンガは、前記回転側軌道輪の周面の一部で前記静止側軌道輪の周面に対向する部分に嵌合固定されたもので、磁性金属板を曲げ成形する事により断面L字形で全体を円環状に構成し、円筒部と、この円筒部の軸方向端縁から前記静止側軌道輪に向けて径方向に折れ曲がった円輪部と、これら円筒部と円輪部との連続部に存在する断面円弧形の曲面部とから成り、前記シールリングは、前記静止側軌道輪の一部で前記スリンガに対向する部分に嵌合固定されたもので、この静止側軌道輪に嵌合固定される芯金と、この芯金にそれぞれの基端部を支持された複数本のシールリップとを備え、これら各シールリップの先端部を、前記スリンガの表面に全周に亙り摺接させており、前記エンコーダは、前記スリンガを構成する円輪部の軸方向内側面に、このスリンガと同心に添着固定されているエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニットに於いて、前記エンコーダは、熱可塑性を有する合成樹脂中に強磁性粉末を混入させて成るプラスチック磁石製であり、このエンコーダの周縁部に弾性材製で円環状のシールリングを係止し、このシールリングにより前記スリンガの曲面部と前記回転側軌道輪の周面との間に存在する隙間の開口部を、全周に亙り塞いでいる事を特徴とするエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット。
【請求項2】
前記エンコーダの周縁部に前記シールリングを、このエンコーダを構成する合成樹脂を溶融変形させて成る抑え部により係止している、請求項1に記載したエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット。
【請求項3】
前記エンコーダの周縁の一部に形成された、軸方向内側に向いた段差面と、このエンコーダの周縁の残部でこの段差面よりも軸方向内側寄り部分を径方向に溶融変形させて構成した抑え部との間で前記シールリングの径方向片半部を挟持して、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの径方向他端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させている、請求項2に記載したエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット。
【請求項4】
前記エンコーダの軸方向内側面の一部で、径方向に関してスリンガの円筒部を設置した端部寄り部分に形成された、径方向に向いた段差面と、このエンコーダの軸方向内側面の残部でこの段差面よりも径方向に関して端縁寄りの部分を径方向に溶融変形させて構成した抑え部との間で前記シールリングの軸方向外半部を挟持して、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの軸方向内端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させている、請求項2に記載したエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット。
【請求項5】
前記エンコーダの周縁の一部に形成された、軸方向内側に向いた段差面の円周方向複数箇所から軸方向内方に突出する状態で形成された複数本の係止ピン部を、シールリング及びこのシールリングの軸方向内側面側に重ね合わされた円環状の抑え板の互いに整合する部分に形成した通孔に挿通し、前記各係止ピン部の先端部でこの抑え板の軸方向内側面から突出した部分を加熱して外径が大きくなる方向に溶融変形させて成る抑え部により、前記抑え板が前記段差面から離れる方向に変位するのを阻止して、これら抑え板と段差面との間で前記シールリングの径方向片半部を挟持する事により、このシールリングを前記エンコーダの周縁部に係止し、このシールリングの径方向他端側の周縁を前記回転側軌道輪の周面に、全周に亙って弾性的に当接させている、請求項2に記載したエンコーダ及び組み合わせシールリング付ハブユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−79900(P2013−79900A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220868(P2011−220868)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】