説明

エンジンのシール構造及びそのシール構造に使用されるガスケット

【課題】エンジンの3面合わせ部シール構造において、3面合わせ部の段差において生じるシール追従性不良をなくして、シール性を高めること。
【解決手段】エンジンの3面合わせ部シール構造は、エンジンのシリンダヘッド10及びシリンダブロック12の前面とチェーンカバー14との3面合わせ部にFIPG18が充填されるものであって、3面合わせ部にゴム部22のみが存在するように、芯金付きゴムガスケット16の芯金部20を3面合わせ部から迂回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等における3面合わせ部を有するシール部分(例えば、シリンダブロック及びシリンダヘッドの各端面とチェーンカバーとの合わせ部分)のシール構造、及び、そのシール構造を実現するために使用されるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等に搭載されるエンジンの構成として、シリンダブロックの上面にシリンダヘッドが一体的に組み付けられ、これらシリンダブロック及びシリンダヘッドの各端面(気筒列方向の一方側の面:以下、前面と呼ぶ場合もある)に跨るようにチェーンカバーが取り付けられた構成が知られている。尚、上記シリンダブロックとシリンダヘッドとの重ね合わせ部分(これら両者の境界部分)に対してチェーンカバーが重ね合わされる領域は一般に3面合わせ部と呼ばれている。
【0003】
上述の如く複数の部材が一体的に組み付けられている構成において、これら部材同士の間に隙間(各部材の合わせ面同士の間に隙間)が生じた場合、オイルなどの流体が漏れ出てしまう虞がある。このため、これら各部材の合わせ面同士の間には高いシール性が要求されている。特に、上記3面合わせ部において、その要求は大きい。
【0004】
上記シリンダブロック及びシリンダヘッドの各端面とチェーンカバーとの間のシール構造として、一般的には、液状ガスケットやメタルガスケット等の各種ガスケットが使用されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、3面合わせ部に対応する箇所にゴムガスケットを設けた構成が開示されている。具体的に、この特許文献1に開示されているガスケットは、シリンダブロック及びシリンダヘッドに対するチェーンカバー(この特許文献ではケースカバーと称している)の合わせ部に略合致した形状であって積層構造とされた金属製のメタルガスケットを備えている。そして、このメタルガスケットにおける上記3面合わせ部に対応する箇所の中央部に貫通孔を形成しておき、この貫通孔にゴムガスケットを配設した構成となっている。
【0006】
また、特許文献2には、第1、第2及び第3の部材(シリンダブロック、シリンダヘッド、チェーンカバーにそれぞれ相当)の3部材が突き合わされて成る3部材接合部のシール構造において、第3の部材に第1及び第2の部材が共通に突き合わされる接合面間に、金属板の両面にゴム層を形成してなる板状ガスケットを配設した構成が開示されている。また、この板状ガスケットにおける3面合わせ部に対応する箇所に開口部を設け、この開口部に3面合わせ部をシールするためのペースト状の液状ガスケットを充填した構成となっている。
【0007】
さらに、特許文献3では、内燃機関のシール構造において、シリンダブロックとシリンダヘッドとシリンダヘッドガスケットとの隙間を埋めて、液状ガスケットだけではシールが困難であった3点以上の部品の集合部位のシール性を向上する技術が提案されている。具体的には、チェーンカバーにおけるシリンダヘッドガスケットに対応する部位に溝部を形成し、この溝部に、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に配設されるとともにシリンダヘッドガスケットに当接する弾性部材を設けた構成となっている。
【0008】
図6は従来のエンジンの3面合わせ部シール構造の一例を示す図であって、同図(A)はチェーンカバー104の裏面(シリンダヘッド及びシリンダブロックに対向する側の面)にメタルガスケット106が重ね合わされた状態の一部分を拡大して示す図である。また、同図(B)はメタルガスケット106の拡大断面図(同図(A)においてA―A線に対応する位置でのメタルガスケット106の拡大断面図)である。また、同図(C)はメタルガスケット106によって3面合わせ部がシールされた状態を示す断面図(同図(A)においてB―B線に対応した位置での断面図)である。
【0009】
この図6に示すように、従来のエンジンの3面合わせ部シール構造は、エンジンのシリンダヘッド100、シリンダブロック102及びチェーンカバー104に対し、コーティングされたメタル材ベースのガスケット(以下、「メタルガスケット」という)106で平面部をシールしつつ、3面合わせ部におけるシリンダヘッド100とシリンダブロック102との間にはFIPG(Formed In Gasket)108を充填し、このFIPG108の接着力と弾性によって3面合わせ部のシール性を高めていた。尚、図中、110はメタルガスケット106に形成されているハーフビートである。また、図中、112はシリンダヘッド100の合わせ面の外縁形状を示し、114はシリンダブロック102の合わせ面の外縁形状を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−37295号公報
【特許文献2】特開2000−193093号公報
【特許文献3】特開2002−276462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図6に示したエンジンの3面合わせ部シール構造にあっては、一般平面部、つまり3面合わせ部以外の領域にあっては、メタルガスケット106のビート面圧によって高いシール性を確保することが可能であるが、3面合わせ部のシールについてはFIPG108に頼らざるを得ない。
【0012】
このため、この3面合わせ部では、シリンダヘッド100及びシリンダブロック102の加工公差による段差、さらにはエンジンの冷熱による段差(シリンダヘッド100及びシリンダブロック102の熱膨張差により生じる段差)の変化が繰り返されて部材間の隙間の大きさが変化することに対しては、FIPG108の接着力及び弾性で吸収しなくてはならい。ところが、FIPG108は余圧縮できないので、面圧によるシールができない。よって、FIPG108と、3面合わせ部での各部材との接着が完璧にできていない限り、シール性が十分であるとは言えないことになる。
【0013】
しかしながら、このようにメタルガスケット106とFIPG108とを併用するシール構造では、3面合わせ部のシリンダヘッド100とシリンダブロック102との間に上記段差が生じた場合、図7において円で囲んで示すように、メタルガスケット106が追従できず、密着できなくなり(例えばメタルガスケット106がシリンダヘッド100に密着できなくなり)シール性を損なう原因となる。
【0014】
このように、シリンダヘッド100とシリンダブロック102との間に段差が生じた場合にメタルガスケット106が追従できずシール性が損なわれるといった課題は、3面合わせ部にガスケットの金属部分が存在している上記特許文献1及び特許文献2においても同様に生じる可能性がある。
【0015】
また、FIPG108の接着力を安定して確保するには、各部品の洗浄、FIPG108の塗布位置及び塗布量並びに硬化時間の他、多数の項目の管理が必要である。裏を返すと、製造条件のばらつきに対して非常にリスクの高いシール構造ともいえる。
【0016】
一方、上記特許文献3に開示されているようにチェーンカバーに形成した溝に弾性部材(ゴムガスケット)を装着保持させる構成は、溝からの弾性部材の脱落及び噛み込みによる切れなど、組み付け品質上の課題が多く、実用性に劣る。
【0017】
以上のような課題は、上述したシリンダヘッド、シリンダブロック、チェーンカバーの重ね合わせ部分に限らず、例えばロアケース、シリンダブロック、チェーンカバーの重ね合わせ部分にも同様に生じるものである。つまり、エンジンを構成する部材同士の3面合わせ部が存在するシール部分にあっては同様の課題が生じている。
【0018】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたもので、3面合わせ部の段差が原因となって生じるシール追従性不良をなくして、シール性を高めうる、エンジンのシール構造及びそのシール構造に使用されるガスケットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、芯金部とゴム部とを有するガスケットを各部材間のシールに適用するに際し、各部材間の3面合わせ部に対応する箇所にゴム部のみを存在させるように、芯金部を3面合わせ部から迂回させる。これにより、3面合わせ部に段差が生じた場合に、ゴム部が芯金部の影響を殆ど受けることなく上記段差に追従することでシール性が確保できるようにしている。
【0020】
−解決手段−
具体的に、本発明は、エンジンを構成し且つ互いに重ね合わされた第1の部材及び第2の部材の各端面と、これら各部材の端面に跨って重ね合わされる第3の部材との間をガスケットによってシールする構造を対象とする。このシール構造に対し、上記ガスケットを、芯金部及びゴム部を備えた芯金付きゴムシールにより構成する。そして、上記第1の部材及び第2の部材の各端面と第3の部材との間を芯金付きゴムシールによってシールした状態において、各部材同士の3面合わせ部では上記芯金部が迂回されて上記ゴム部のみが存在した構成としている。
【0021】
上記構成によれば、エンジンの第1の部材(例えばシリンダヘッド)及び第2の部材(例えばシリンダブロック)の各端面と第3の部材(例えばチェーンカバー)との3面合わせ部にゴム部のみが存在するので、第1の部材及び第2の部材の端面同士の間に熱の影響などにより相対的に段差ができたときでも、芯金部の剛性が原因で第1の部材または第2の部材の端面にガスケットが追従できなくなるといったことを抑制できる。そのため、シール面圧の低下を抑制して高いシール性を確保することが可能となる。また、各部材同士の組み付け作業にあっては、上記ガスケットにおいて、第1の部材及び第3の部材の間をシールする部分と、第2の部材及び第3の部材の間をシールする部分とは、芯金部の迂回部分によって連結されているため、ガスケットの形状を安定的に維持することができ、その装着作業(各部材同士の間にガスケットを挟み込む作業)の作業性が良好である。
【0022】
上記エンジンのシール構造においては、上記3面合わせ部から迂回した芯金部の迂回部に、上記各部材の組み付け後に切断される切断部が設けられている。
【0023】
上記構成によれば、芯金部の迂回部を切断することで、第1の部材及び第3の部材の間をシールする部分と、第2の部材及び第3の部材の間をシールする部分とをそれぞれ独立した(芯金部において切り離された)シール構造にできる。このため、上記段差が生じた場合における芯金部の剛性による悪影響を完全に排除してゴム部が上記段差に追従し、高いシール性が確保できる。つまり、芯金部の剛性によるシール面圧の低下を完全に排除することができ、その結果、3面合わせ部のシール性が大幅に向上する。
【0024】
ところで、隣接するボルトよりもさらに広い間隔で芯金部をシール部から外した場合、芯金部本来の目的である、ゴム圧縮率の安定化やボルト軸力の保持などの機能を著しく落とすことになり、これによりゴム部によるシール機能を大幅に損なうことになる。
【0025】
そこで、本発明では、上記エンジンのシール構造において、上記3面合わせ部から迂回した芯金部の迂回部を、3面合わせ部を挟んだ両側の締結用ボルト同士の間に位置させている。
【0026】
尚、上記各部材として具体的に、上記第1の部材はシリンダヘッド、第2の部材はシリンダブロック、第3の部材はシリンダヘッド及びシリンダブロックに跨って重ね合わされるチェーンカバーである。このような3面合わせ部を有するシール部分に本発明を適用することで、チェーンカバー外縁部分からのオイル漏れを確実に防止できる高いシール性が確保されることになる。
【0027】
また、上述したシール構造を実現するために使用されるガスケットも本発明の技術的思想の範疇である。
【0028】
具体的には、エンジンを構成し且つ互いに重ね合わされた第1の部材及び第2の部材の各端面と、これら各部材の端面に跨って重ね合わされる第3の部材との間をシールするガスケットを対象とする。そして、このガスケットに芯金部及びゴム部を備えさせる。また、上記第1の部材及び第2の部材の各端面と第3の部材との間をガスケットによってシールした状態において、各部材同士の3面合わせ部に上記ゴム部のみが存在するように、上記芯金部に、上記3面合わせ部から迂回する迂回部を設けている。
【0029】
また、上記芯金部の迂回部に、上記各部材の組み付け後に切断される切断部を設けている。
【0030】
更に、上記芯金部の迂回部を、3面合わせ部を挟んだ両側において締結用ボルトが挿通されるボルト孔同士の間に位置させている。
【0031】
これら構成のガスケットを用いることにより、上述したシール構造の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、3面合わせ部の段差において生じるシール追従性不良をなくして、シール性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係るエンジンの分解斜視図である。
【図2】実施形態に係るガスケットを示す図であって、図2(A)はガスケットの一部分を拡大して示す図であり、図2(B)は図2(A)におけるC−C線に沿った拡大断面図であり、図2(C)は図2(A)におけるD−D線に沿った拡大断面図である。
【図3】図3(A)はチェーンカバーにガスケットが重ね合わされた状態を示す図2(A)と同部分を示す図であり、図3(B)は3面合わせ部シール構造を示す図3(A)におけるD−D線に対応した位置での断面図である。
【図4】チェーンカバー組み付け後におけるガスケットの芯金部の迂回部周辺を拡大して示す図である。
【図5】実施形態の3面合わせ部におけるガスケットの追従性を図解的に説明するための図である。
【図6】従来のエンジンの3面合わせ部シール構造を示す図であって、図6(A)はチェーンカバーにガスケットが重ね合わされた状態を示す図であり、図6(B)は図6(A)のA―A線に沿った拡大断面図であり、図6(C)は3面合わせ部シール構造を示す図6(A)のB―B線に対応した位置での断面図である。
【図7】従来技術での3面合わせ部におけるガスケットの追従性を図解的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態では、V型エンジンにおけるシリンダブロック及びシリンダヘッドの各端面とチェーンカバーとの合わせ部分に本発明を適用した場合について説明する。
【0035】
−エンジンの概略構成−
図1は、本実施形態に係るエンジンの分解斜視図であって、シリンダブロック12、シリンダヘッド10、ロアケース13を一体的に組み付けた状態であり(各部材10,12,13の端面及びその周辺部のみを示している)、且つこれらに対してガスケット16,17及びチェーンカバー14を組み付ける前の状態を示している。
【0036】
この図1に示すように、本実施形態に係るエンジンは、V型エンジンであって、シリンダブロック12の上部にV型に突出した一対のバンク12L,12Rを有している。各バンク12L,12Rは、シリンダブロック12の上端部に設置されたシリンダヘッド10L,10Rと、その上端に取り付けられた図示しないヘッドカバーとをそれぞれ備えている。上記シリンダブロック12には図示しない複数のシリンダ(例えば各バンク12L,12Rに4個ずつ)が所定の挟み角をもって配設されており、これらシリンダの内部にピストンが往復移動可能に収容されている。
【0037】
そして、上記シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13の前面側(気筒列方向の一端面側)にはガスケット16,17を介してチェーンカバー14が一体的に組み付けられる。これにより、シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13の前面とチェーンカバー14の裏面との間で、図示しないタイミングチェーンを収容するための空間(チェーン収容空間)が形成される。このチェーン収容空間には、タイミングチェーン及びオイルポンプドライブチェーン等を潤滑するためのオイル(エンジンオイル)が循環される。このような構成により、シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13の前面とチェーンカバー14の裏面との間はガスケット16,17によってシールされ、チェーンカバー14の外縁部分からのオイル漏れを防止している。また、本実施形態では、後述するように、ガスケット16,17に併せて液状ガスケットとしてのFIPG18(図3(B)を参照)も使用されている。詳しくは後述する。
【0038】
−ガスケットの構成−
次に、ガスケット16の構成について説明する。ここでは、シリンダヘッド10L,10R、シリンダブロック12、ロアケース13に亘って配設される下側のガスケット16を代表して説明する。尚、上側のガスケット17は、シリンダヘッド10L,10R、シリンダブロック12に亘って配設され、各バンク12L,12R内側における各部材同士の合わせ面に略合致した形状となっている点で下側のガスケット16と異なっているが、その他の構成については下側のガスケット16と略同様である。
【0039】
図2(A)は上記ガスケット16の一部分(図1において一点鎖線の円で囲んだII部分)をシリンダブロック12側から見た図である。また、図2(B)は図2(A)におけるC―C線に沿った拡大断面図であり、図2(C)は図2(A)におけるD―D線に沿った拡大断面図である。
【0040】
図2に示すようにガスケット16は、金属製の芯金部20にゴム部22が加硫接着により一体化された構造の芯金付きゴムガスケットとして構成されている。
【0041】
上記芯金部20は、上記シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13の前面とチェーンカバー14の裏面との合わせ面の形状に略合致した金属製板材により形成されている。
【0042】
また、この芯金部20には、シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13のそれぞれに形成されているボルト孔に対応して同様のボルト孔38,40が形成されている。尚、チェーンカバー14にも同様のボルト孔が形成されていて、シリンダブロック12、シリンダヘッド10L,10R、ロアケース13の前面にガスケット16を介してチェーンカバー14を組み付ける際には、これら互いに対応するボルト孔同士が位置合わせされた状態で、チェーンカバー14側から締結ボルトが挿通されることによって各部材が一体的に組み付けられることになる。
【0043】
この芯金部20において、上記シリンダブロック12とシリンダヘッド10L,10Rとの境界部分である3面合わせ部に対応する部分にあっては、このシリンダブロック12とシリンダヘッド10との合わせ面を迂回するようにエンジン外側(図2(A)における左下側)に湾曲された迂回部21が形成されている。また、この迂回部21の余長部34には、切り欠き36が形成されており、この切り欠き36の形成領域にあっては、迂回部21の幅寸法がその他の領域の幅寸法よりも極端に小さくなっている。この切り欠き36は、チェーンカバー14の組み付け後に迂回部21を切断し易いようにするためのものであって、外側に開放した形状となっている。尚、この切り欠き36に代えて、迂回部21の一部分のみを薄肉化し、この部分を切断し易くした構成としてもよい。
【0044】
また、上記迂回部21は、チェーンカバー14をシリンダヘッド10に締結するための上記締結ボルトが挿通される上記第1のボルト孔38と、チェーンカバー14をシリンダブロック12に締結するための上記締結ボルトが挿通される上記第2のボルト孔40との間に設定されている。つまり、これら第1及び第2のボルト孔38,40は、3面合わせ部を挟んだ両側に設けられている。
【0045】
一方、上記ゴム部22は、上記芯金部20の内縁部(チェーン収容空間側の縁部)に沿って設けられている。詳しくは、このゴム部22は、シール本体部22aと接着片22bとを備えている(図2(B)を参照)。シール本体部22aは、その中央部分(ガスケット16の幅方向の中央部分)における厚さ寸法(図2(B)における上下方向の寸法)が芯金部20の厚さ寸法よりも大きく設定されており、上記シリンダブロック12、シリンダヘッド10、ロアケース13の前面とチェーンカバー14の裏面との間で挟持された際に、弾性変形することで高いシール性が確保できる形状となっている。また、このシール本体部22aの外側端面22c(図2(B)における左側の端面)は、上記芯金部20の内側端面に重ね合わされて加硫接着されている。
【0046】
一方、上記芯金部20の内縁部(図2(B)における右側の縁部)の厚さ寸法は、その内縁部よりも外側部分の厚さ寸法よりも僅かに小さく設定されており、この芯金部20の各表面には段部20aが形成されている。上記ゴム部22の接着片22bは、この段部20aよりも内縁側、つまり、厚さ寸法が小さく設定されている側の表面に重ね合わされて芯金部20に加硫接着されている。
【0047】
更に、このゴム部22において、上記シリンダブロック12とシリンダヘッド10との境界部分である3面合わせ部に対応する位置にあっては、上記芯金部20の迂回部21によって形成された空間を埋めるように外側に膨出する舌片状の膨出部30が形成されている。また、この膨出部30の中央部には、シリンダブロック12及びシリンダヘッド10に重ね合わされる際に、これらシリンダブロック12とシリンダヘッド10との境界部分に入り込むように断面山形形状に突出した突起32が一体形成されている。この突起32の先端角度α1(図2(C)を参照)は所定角度(例えば60°)に設定されている。この値はこれに限定されるものではない。
【0048】
−3面合わせ部シール構造−
図3は本実施形態にかかるエンジンの3面合わせ部シール構造を示す図であって、同図(A)はチェーンカバー14にガスケット16が重ね合わされた状態をシリンダブロック12側から見た図、同図(B)はシリンダブロック12及びシリンダヘッド10に対し、ガスケット16を介してチェーンカバー14が組み付けられた状態を示す図3(A)におけるD−D線に対応した位置での断面図である。
【0049】
図3(B)に示すように、エンジンのシリンダヘッド10及びシリンダブロック12の前面にチェーンカバー14を装着するにあたり、そのシールにはガスケット16を適用し、このガスケット16のゴム部22に余圧縮による面圧を与え、FIPG18の接着力に頼らないシール構造を採用している。
【0050】
このように、ガスケット16を採用する場合、そのビート位置と圧縮率を精度よく組み付ける必要があるが、これを実現する上で、本実施の形態では、上述した如く芯金部20にゴム部22を加硫接着した一体構造のガスケット16とし、金属製の芯金部20において締結ボルトによって各部材を一体的に組み付けているので、締結ボルトの軸力を確保しながらゴム部22の弾性変形量を規定量に設定できて、いわゆる定寸締めが可能となっている。
【0051】
具体的には、本エンジンの3面合わせ部シール構造は、図3(B)に示すように、3面合わせ部におけるシリンダヘッド10とシリンダブロック12との間に形成された凹部にFIPG18が充填されるものである。つまり、3面合わせ部を構成するシリンダヘッド10の下側の隅角部及び同じく3面合わせ部を構成するシリンダブロック12の上側の隅角部は、それぞれ所定角度の面取り加工が成されており、これらシリンダヘッド10とシリンダブロック12とが重ね合わされた際に、上記FIPG18を充填するための凹部が形成されるようになっている。
【0052】
また、ガスケット16には上記迂回部21が形成されていることで、3面合わせ部にはゴム部22のみが存在するようになっている。つまり、上記ゴム部22の膨出部30が3面合わせ部の全体に亘って対向することになり、この3面合わせ部に芯金部20が臨まないようになっている。また、この状態では、ゴム部22の上記突起32が上記シリンダヘッド10とシリンダブロック12との間の凹部に入り込むことになる。この突起32の先端角度α1は、シリンダヘッド10の面取り部からシリンダブロック12に向かって延びる線分L1とシリンダブロック12の面取り部からシリンダヘッド10に向かって延びる線分L2との交差角度α2(例えば90°)よりも小さく設定されている。尚、この値もこれに限定されるものではない。
【0053】
尚、図3(A)中における、24Aはシリンダヘッド10の合わせ面の外縁形状を示し、24Bはシリンダブロック12の合わせ面の外縁形状を示している。また、図中、26Aはシリンダヘッド10の合わせ面の内縁形状(チェーン収容空間側の形状)を示し、26Bはシリンダブロック12の合わせ面の内縁形状(チェーン収容空間側の形状)を示している。また、図中、28はシールラインであって、上述したゴム部22のシール本体部22aのうち最も厚さ寸法が大きい部分に対応する領域を示している。
【0054】
−組み立て手順−
次に、本エンジンの3面合わせ部シール構造の組み立て手順について説明する。
【0055】
まず、ヘッドガスケット50(図3(B)参照)を挟んでシリンダヘッド10とシリンダブロック12とを接合する。
【0056】
そして、チェーンカバー14を被せる直前に、チェーンカバー14との間で3面合わせ部を構成する部位、つまり、上記シリンダヘッド10の面取り部とシリンダブロック12の面取り部とにより形成される上記凹部にFIPG18を塗布(充填)する。
【0057】
そして、シリンダヘッド10及びシリンダブロック12の前面とチェーンカバー14の裏面との間にガスケット16,17を挟み込むようにして、チェーンカバー14を、シリンダヘッド10及びシリンダブロック12の前面に対して被せる(図1を参照)。
【0058】
その後、シリンダブロック12、シリンダヘッド10、ロアケース13のそれぞれに形成されているボルト孔と、ガスケット16,17に形成されているボルト孔38,40と、チェーンカバー14に形成されているボルト孔とが位置合わせされた状態で、それぞれに対しチェーンカバー14側から締結ボルトが挿通されることによって各部材が一体的に組み付けられる。これにより、シリンダブロック12、シリンダヘッド10、ロアケース13の前面と、チェーンカバー14の裏面との間はガスケット16,17によってシールされ、チェーンカバー14の外縁部分からのオイル漏れが防止される。このとき、ガスケット16のゴム部22の突起32がシリンダヘッド10とシリンダブロック12の接合部(上記凹部)のFIPG18に楔状に食い込み、その押圧力によりFIPG18がシンリンダヘッド10の面取り部とシリンダブロック12の面取り部で区画される上記凹部内にまで入り込む。
【0059】
このようにして各部材が一体的に組み付けられた状態では、図4(芯金部20の迂回部21周辺をチェーンカバー14の前面側(シリンダブロック12が配設されている側とは反対側)から見た図)に示すように、上記ガスケット16の芯金部20の迂回部21は、チェーンカバー14の外側に突出した状態となり、この迂回部21に形成されている切り欠き36もチェーンカバー14の外側に位置している。このような状態で、この切り欠き36の形成位置において芯金部20の迂回部21を切断する。例えば、工具(ニッパ等)を使用した作業者の手作業によって切断する。尚、図4におけるBは、チェーンカバー14をシリンダヘッド10に締結するための締結ボルトBである。
【0060】
以上の動作により、シリンダブロック12、シリンダヘッド10、ロアケース13に対するチェーンカバー14の組み付け作業が終了する。
【0061】
以上の説明から明らかなように、本実施の形態によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
【0062】
エンジンのシリンダヘッド10及びシリンダブロック12の前面とチェーンカバー14との3面合わせ部にガスケット16のゴム部22のみが存在するよう、ガスケット16の芯金部20を3面合わせ部から迂回させるようにしているので、シリンダヘッド10及びシリンダブロック12のシール面(前面)が熱等の影響によって相対的な段差を生じたとしても、図5において円で囲んで示すように、芯金部20の剛性の影響を殆ど受けることなく、シリンダヘッド10またはシリンダブロック12側のシール面の段差に追従してガスケット16のゴム部22が変形して密着する。そのため、シール面圧の低下を抑制して高いシール性を確保することが可能となる。
【0063】
また、芯金部20の迂回部21に、チェーンカバー14の組み付け後に切断し易いように切り欠き36を設けているので、芯金部20の剛性によるシリンダヘッド10及びシリンダブロック12側のシール面圧低下を完全に排除することができる。その結果、3面合わせ部の冷熱の動きに対するシール性が大幅に向上する。
【0064】
さらに、3面合わせ部を挟んだ両側の第1及び第2のボルト孔38,40よりもさらに広い間隔で芯金部20をシール部から外した場合、芯金部20本来の目的である、ゴム圧縮率の安定化やボルト軸力の保持などの機能を著しく落とすことになり、これによりガスケット16のシール機能を大幅に損なうことになるが、本実施の形態では、芯金部20を3面合わせ部から迂回させる部位を、3面合わせ部を挟んだ両側の第1及び第2のボルト孔38,40間としているので、そのような危惧はない。
【0065】
さらにまた、上述した如く、ガスケット16のゴム部22の突起32が、シリンダヘッド10とシリンダブロック12との間の凹部のFIPG18に楔状に食い込み、その押圧力によりFIPG18がシンリンダヘッド10の面取り部とシリンダブロック12の面取り部で区画される空間にまで入り込むので、3面合わせ部のシール性がより一層よくなる。
【0066】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本明細書に添付の特許請求の範囲内での種々の設計変更及び修正を加えうることは勿論である。例えば、シリンダヘッド10、シリンダブロック12、チェーンカバー14の重ね合わせ部分に限らず、ロアケース13、シリンダブロック12、チェーンカバー14の重ね合わせ部分に対しても本発明は適用可能である。また、下側のガスケット16に限らず、上側のガスケット17に本発明を適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、自動車用エンジン等における3面合わせ部を有するシール部分に対し、各部材間に段差が生じてもシール性を確保し得るシール構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 シリンダヘッド(第1の部材)
12 シリンダブロック(第2の部材)
14 チェーンカバー(第3の部材)
16 ガスケット(芯金付きゴムシール)
20 芯金部
21 迂回部
22 ゴム部
36 切り欠き(切断部)
38,40 ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを構成し且つ互いに重ね合わされた第1の部材及び第2の部材の各端面と、これら各部材の端面に跨って重ね合わされる第3の部材との間をガスケットによってシールする構造であって、
上記ガスケットは、芯金部及びゴム部を備えた芯金付きゴムシールにより構成されており、上記第1の部材及び第2の部材の各端面と第3の部材との間を芯金付きゴムシールによってシールした状態において、各部材同士の3面合わせ部では上記芯金部が迂回されて上記ゴム部のみが存在した構成とされていることを特徴とするエンジンのシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのシール構造において、
上記3面合わせ部から迂回した芯金部の迂回部には、上記各部材の組み付け後に切断される切断部が設けられていることを特徴とするエンジンのシール構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンのシール構造において、
上記3面合わせ部から迂回した芯金部の迂回部を、3面合わせ部を挟んだ両側の締結用ボルト同士の間に位置させていることを特徴とするエンジンの3面合わせ部シール構造。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のエンジンのシール構造において、
上記第1の部材はシリンダヘッド、第2の部材はシリンダブロック、第3の部材はシリンダヘッド及びシリンダブロックに跨って重ね合わされるチェーンカバーであることを特徴とするエンジンの3面合わせ部シール構造。
【請求項5】
エンジンを構成し且つ互いに重ね合わされた第1の部材及び第2の部材の各端面と、これら各部材の端面に跨って重ね合わされる第3の部材との間をシールするガスケットであって、
芯金部及びゴム部を備えており、上記第1の部材及び第2の部材の各端面と第3の部材との間をシールした状態において、各部材同士の3面合わせ部に上記ゴム部のみが存在するように、上記芯金部には上記3面合わせ部から迂回する迂回部が設けられていることを特徴とするガスケット。
【請求項6】
請求項5に記載のガスケットにおいて、
上記芯金部の迂回部には、上記各部材の組み付け後に切断される切断部が設けられていることを特徴とするガスケット。
【請求項7】
請求項4または5に記載のガスケットにおいて、
上記芯金部の迂回部は、3面合わせ部を挟んだ両側において締結用ボルトが挿通されるボルト孔同士の間に位置していることを特徴とするガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12741(P2011−12741A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156896(P2009−156896)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】