説明

エンジンの停止制御装置

【課題】エンジン停止時のクランク位置を分散化して始動時のスタータピニオンとの噛合に起因するリングギヤの局所的な摩耗を抑制できるエンジンの停止制御装置を提供する。
【解決手段】アイドルストップによるエンジン停止指令またはキーのオフ操作があったとき(S22がYes)、パワータードの排気強制開弁機構17を作動させると共に吸気スロットル弁14を閉弁制御し(S28,30)、ディレイ時間Tdlyの経過により排気強制開弁機構17の作動遅れが解消されて実際に排気弁15が強制開弁され始めた後に(S32がYes)、燃料カットによりエンジン1を停止させる(S26)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの停止制御装置に係り、詳しくはエンジン停止後のクランク位置を分散化して始動時のスタータピニオンとの噛合に起因するリングギヤの局所的な摩耗を抑制する停止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両ではエンジン始動がスタータにより行われ、スタータはエンジンのクランク軸の後端に固定されたリングギヤの一側に配設されている。運転者のキー操作に応じて、ソレノイドの励磁によりスタータのピニオンギヤが突出してリングギヤに噛合し、モータの駆動力によりピニオンギヤを介してリングギヤと共にクランク軸が回転駆動され、エンジンがクランキングされて始動する。停止時のエンジンは惰性回転しながら各気筒の圧縮上死点近傍で発生する反力を受けて停止に至ることから、図5に示すように、停止後のエンジンのクランク位置(以下、停止クランク位置という)に規制性が生じ、具体的には各気筒の圧縮上死点の手前に相当するクランク位置で停止する頻度が非常に高くなる。このため多くのエンジン始動ではスタータのピニオンギヤがリングギヤの特定箇所に噛合して回転駆動が開始されることになり、当該噛合箇所で局所的に摩耗が進行して早期に始動不良が発生するという不具合があった。
【0003】
特に、近年普及し始めている信号待ちなどで自動的にエンジンを停止・始動させるアイドルストップスタート車両では、エンジン始動の頻度が飛躍的に高くなるため、上記リングギヤの局所的な摩耗はより深刻なものになる。このため抜本的な対策が要望されており、例えばパワータードを利用した特許文献1の技術が提案されている。周知のようにパワータードは、各気筒の排気弁を圧縮上死点の直前で一時的に強制開弁して筒内から圧縮空気を排出し、続く膨張行程で筒内に発生した負圧によりピストン下降を妨げてエンジンブレーキ力を増大させるシステムである。このようなパワータードの作用が実質的な圧縮仕事の軽減、ひいては圧縮反力の軽減につながることに着目し、特許文献1の技術では、エンジン停止時にパワータードを実行して停止クランク位置の分散化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−152822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術による作用効果を検証すべく、本発明者はエンジン停止時にパワータードを実行して停止クランク位置毎の発生頻度を求める試験を実施した。ところが、得られた試験結果は図5に示したパワータードを実行しない場合とほとんど相違せず、結果として特許文献1の技術では停止クランク位置を分散化できず、リングギヤの局所的な摩耗を抑制する対策として有効でないと言わざるを得なかった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジン停止時のクランク位置を分散化して始動時のスタータピニオンとの噛合に起因するリングギヤの局所的な摩耗を抑制することができるエンジンの停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両に搭載されたエンジンの停止を指示する停止指示手段と、停止指示手段によるエンジンの停止指示に基づき、エンジンに対する燃料噴射を中止して停止させるエンジン停止制御手段と、エンジンの気筒の圧縮上死点近傍で排気弁を一時的に強制開弁する排気強制開弁機構と、排気強制開弁機構の作動遅れが解消されて排気弁の強制開弁が開始されたか否かを判定する作動開始判定手段とを備え、エンジン停止制御手段が、停止指示手段によりエンジンの停止指示がなされたときに排気強制開弁機構の作動を開始させ、作動開始判定手段により排気弁の強制開弁の開始判定が下されるまでは待機し、開始判定が下されたときに燃料噴射の中止によりエンジンを停止させるものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、作動開始判定手段が、排気強制開弁機構の作動開始から排気強制開弁機構の作動遅れに基づき予め設定されたディレイ時間が経過したときに、排気弁の強制開弁の開始判定を下すものである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、閉弁によりエンジンの吸入空気を制限する吸気スロットル弁を備え、エンジン停止制御手段が、排気強制開弁機構の作動開始と共に、吸気スロットル弁を閉弁させるものである。
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段を備え、エンジン停止制御手段が、エンジン温度検出手段により検出されたエンジン温度が予め設定された第1判定値未満のときに排気強制開弁機構の作動を禁止するものである。
【0008】
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、エンジンが走行用動力源として車両に搭載され、予め設定されたエンジン停止条件の成立時にエンジンを停止し、予め設定されたエンジン始動条件の成立時にエンジンを始動するアイドルストップスタート制御手段を備えたものである。
請求項6の発明は、請求項5において、エンジン停止制御手段が、エンジン温度検出手段により検出されたエンジン温度が第1判定値よりも低温側に予め設定された第2判定値未満のときに、エンジン停止条件に基づくエンジンの停止を禁止するものである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように請求項1の発明のエンジンの停止制御装置によれば、停止指示手段によりエンジンの停止指示がなされたときに、エンジン停止制御手段により排気強制開弁機構の作動を開始させ、作動開始判定手段により排気弁の強制開弁の開始判定が下されるまでは待機し、開始判定が下されたときにエンジン停止制御手段により燃料噴射を中止してエンジンを停止させるようにした。
従って、燃料噴射が中止された時点では、既に排気強制開弁機構の作動遅れが解消されて排気弁が正常に強制開弁されている。このため圧縮反力が軽減され、燃料噴射の中止により惰性回転を開始したエンジンは圧縮上死点で極端な反力を受けることなく円滑に回転速度を低下させて停止に至り、その停止クランク位置が分散化される。よって、エンジン始動時のリングギヤの局所的な摩耗を抑制でき、始動不良などのトラブルを未然に防止することができる。
【0010】
請求項2の発明のエンジンの停止制御装置によれば、請求項1に加えて、排気強制開弁機構の作動遅れに基づき予め設定されたディレイ時間が経過したときに排気弁の強制開弁の開始判定を下すようにした。従って、新たにセンサなどを追加することなく強制開弁が開始されたタイミング、即ち適切な燃料噴射の中止タイミングを判定でき、製造コストを高騰させることなく実施することができる。
請求項3の発明のエンジンの停止制御装置によれば、請求項1または2に加えて、排気強制開弁機構の作動開始と共に吸気スロットル弁を閉弁させるようにした。従って、吸気スロットル弁の閉弁により吸入空気量が減少して筒内の実質的な圧縮仕事がさらに軽減されるため、停止クランク値をより分散化することができる。
請求項4の発明のエンジンの停止制御装置によれば、請求項1乃至3に加えて、エンジン温度が第1判定値未満のときに排気強制開弁機構の作動を禁止するようにした。例えば油圧式の排気強制開弁機構などでは低温域で作動油の粘性が高くて正確な作動が望めないが、排気強制開弁機構の作動が禁止されるため、不適切な作動による弊害を未然に防止することができる。
【0011】
請求項5の発明のエンジンの停止制御装置によれば、請求項1乃至4に加えて、エンジン停止条件の成立時にエンジンを停止し、エンジン始動条件の成立時にエンジンを始動するアイドルストップスタート制御手段を備えるようにした。従って、エンジン始動の頻度が飛躍的に高くなり、必然的にリングギヤの局所的な摩耗が進行し易くなるが、この不具合を確実に解消することができる。
請求項6の発明のエンジンの停止制御装置によれば、請求項5に加えて、エンジン温度が第2判定値未満のときにエンジンの停止を禁止するようにした。エンジン冷態時には燃料増量が必要な上に十分な浄化性能が得られないが、エンジン停止が禁止されることにより早期に暖機完了できるため、これらの不具合を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態のエンジンの停止制御装置が搭載された車両を示す全体構成図である。
【図2】ISS−ECUが実行するISSルーチンを示すフローチャートである。
【図3】E/G−ECUが実行するE/G停止ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】実施形態による停止クランク位置毎の発生頻度を示す試験結果である。
【図5】先行技術による停止クランク位置毎の発生頻度を示す試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化したエンジンの停止制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のエンジンの停止制御装置が搭載された車両を示す全体構成図である。後述するように、当該車両は信号待ちなどで走行用動力源であるエンジンを自動的に停止・始動させるアイドルストップスタート機能を備えており、停止制御装置は通常の運転者によるキーオフ操作(停止指示手段)によるエンジン停止時に加えて、アイドルストップ機能(停止指示手段)による自動的なエンジン停止時にも機能して適切にエンジンを制御するようになっている。
車両に搭載されたエンジン1のクランク軸1aの後端にはフライホイール2及びクラッチ3を介して変速機4が接続され、変速機4はプロペラシャフト5、差動装置6、ドライブシャフト7を介して左右の駆動輪8に接続されている。従って、エンジン1の駆動力はクラッチ3の切断時には遮断されて変速機4に伝達されず、一方、クラッチ3の接続時には該クラッチ3を介して変速機4に伝達され、変速機4の変速段に応じて変速された上で駆動輪8側に伝達される。
【0014】
本実施形態の変速機4はいわゆる平行軸式の手動変速機として構成され、クラッチ3もマニュアルクラッチとして構成されている。このため、変速機4の変速時には、運転者がクラッチペダル操作によりクラッチ3を断接しながらシフトレバー操作により変速機4を所望の変速段に切り換えるようになっている。但し、変速機4の形式はこれに限ることはなく、例えば変速操作及びクラッチ操作をアクチュエータで行う自動変速機として構成してもよい。また、独立した2系統のクラッチ及び歯車機構を備え、一方の系統を介した動力伝達中に他方の系統を予め次変速段に切り換えるプリセレクトを実行するいわゆるデュアルクラッチ式自動変速機として構成してもよいし、一般的なトルクコンバータ式の自動変速機やCVTとして構成してもよい。
一方、エンジン1の各気筒には燃料噴射弁10が設けられ、これらの燃料噴射弁10からそれぞれの筒内に燃料が噴射されるようになっている。各気筒の筒内は吸気弁11を介して吸気マニホールド12に接続され、吸気マニホールド12の上流側は互いに集合して吸気通路13に接続されている。吸気通路13には吸気スロットル弁14が設けられ、吸気スロットル弁14の開度に応じて吸気通路13内に流通する吸入空気が制限されるようになっている。また、図示はしないが、各気筒の筒内は排気弁15を介して排気マニホールドに接続され、排気マニホールドの下流側は互いに集合して排気浄化装置を備えた排気通路に接続されている。
【0015】
吸気通路13内に導入された吸入空気は吸気スロットル弁14の開度に応じて制限されながら吸気マニホールド12へと案内され、吸気マニホールド12内で分配されて各気筒の吸気弁11の開弁時に筒内に流入する。燃料噴射弁10から各気筒の筒内に噴射された燃料は圧縮上死点近傍で着火され、その燃焼圧によりピストンを押し下げて機関トルクを発生する。一方、燃焼後の排ガスは、排気弁15の開弁時に各気筒の筒内から排気マニホールドを経て排気通路へと案内され、排気浄化装置により有害成分を浄化された後に外部に排出される。
エンジン1の各気筒の排気弁15には、パワータードの排気強制開弁機構17が設けられている。当該排気強制開弁機構17の構成は種々の文献に開示されているため詳細はしないが、例えば特開2007−247628号公報に記載のものを応用できる。応用例の概略を述べると、カム軸上には各気筒の排気用カムにそれぞれパワータード用カムが併設され、各気筒の圧縮上死点直前で各パワータード用カムにより油圧ピストンが押圧作動される。油圧ピストンは油圧配管を介して排気弁15の直上に配設されたスレーブピストン16と接続され、スレーブピストン16は排気弁15を上方から押圧して一時的に強制開弁し、これにより筒内の圧縮空気を排出し得る。油圧配管にはソレノイド18が介装され、ソレノイド18のオン・オフに応じて油圧ピストンにより発生した油圧が油圧配管を介してスレーブピストン16側に伝達或いは遮断され、それに応じて排気弁15の強制開弁が実行或いは中止されるようになっている。
【0016】
アクセルオフによる車両減速時にパワータードが実行されると、圧縮上死点直前での排気弁15が強制開弁により筒内の圧縮空気が排出され、続く膨張行程でピストンの下降を妨げる力が発生してエンジンブレーキ作用を増大させる。このように本来のパワータードはアクセル操作に連動して作動し、エンジンブレーキ作用の増大によりフットブレーキ操作の頻度を低減して運転者の負担を軽減する役割を果たしている。本実施形態では、以上のパワータードをエンジン停止時にも利用しており、その詳細は後述する。
また、エンジン1には始動用のスタータ19が付設され、当該スタータ19は一般的なものと同一構成となっている。即ち、スタータ19はエンジン始動時において、図示されていない内蔵したソレノイドの励磁によりピニオンギヤ19aを突出させてフライホイール2外周のリングギヤ2aに噛合させると共に、内蔵したモータの駆動力によりピニオンギヤ19aを介してフライホイール2と共にクランク軸1aを回転駆動してエンジン1をクランキングし得る。上記のように車両はアイドルストップスタート機能を備えているため、スタータ19によるエンジン1のクランキングは、通常の運転者によるキーのスタート操作に伴うエンジン始動時に加えて、アイドルストップスタート機能による自動的なエンジン始動時にも実行される。
【0017】
一方、車室内には、エンジン1の運転状態を制御するためのE/G−ECU(エンジン制御ユニット)21、及びアイドルストップスタート機能を司るISS−ECU(アイドルストップスタート制御ユニット)22が設置されている。これらのE/G−ECU21及びISS−ECU22は、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどから構成されている。
E/G−ECU21の入力側には、アクセル操作量θaccを検出するアクセルセンサ23、エンジン1の回転速度Neを検出する回転速度センサ24、エンジン1の冷却水温Twを検出する水温センサ25(エンジン温度検出手段)などのセンサ類が接続され、E/G−ECU21の出力側には、各気筒の燃料噴射弁10、パワータードの排気強制開弁機構17を制御するソレノイド18、吸気スロットル弁14を開閉駆動するアクチュエータ26、スタータ19などのデバイス類が接続されている。
【0018】
また、ISS−ECU22の入力側には、上記アクセルセンサ23、回転速度センサ24、水温センサ25に加えて、クラッチ3の断接状態を検出するクラッチセンサ27、変速機4の変速段を検出するギヤ位置センサ28、車速Vを検出する車速センサ29、アイドルストップスタート機能の有効・無効を指示するISSスイッチ30などのセンサ類が接続されている。また、ISS−ECU22の出力側にはE/G−ECU21が接続され、エンジン1の始動指令や停止指令がE/G−ECU21に出力されるようになっている。
各種センサ類から入力される検出情報に基づき、例えばE/G−ECU21は燃料噴射量や燃料噴射時期を算出し、これらの算出値に基づき燃料噴射弁10を駆動制御しながらエンジン1を運転させる。また、ISS−ECU22は信号待ちなどで自動的にエンジン1を停止・始動させるアイドルストップスタート制御を実行しており、以下、当該制御について説明する。
【0019】
ISS−ECU22は、車両のキーがオン操作され、且つISSスイッチ30がアイドルストップスタート機能の有効側に切り換えられているときに、図2に示すISSルーチンを所定の制御インターバルで実行する。
まず、ステップS2で水温センサ25により検出された冷却水温Twが予め設定された第2判定値Tw2以上であるか否かを判定する。エンジン冷態時には、運転の安定化のために燃料増量を必要とし、また排気浄化装置の触媒が活性温度に達しないため十分な浄化性能が得られない。よって、このような冷態でのエンジン運転を可能な限り早期に脱して暖機完了すべきであり、そのためにはエンジン冷態時にアイドルストップを禁止してエンジン運転を継続することが望ましい。このような観点の下に、アイドルストップを禁止すべき上限付近の温度として上記第2判定値Tw2が設定されている。
従って、ステップS2の判定がNo(否定)のときには、アイドルストップを実行すべきでないとして一旦ルーチンを終了する。また、ステップS2の判定がYes(肯定)のときには、アイドルストップを実行すべきとしてステップS4に移行し、予め設定されたエンジン停止条件が成立したか否かを判定する。エンジン停止条件は、以下に述べる全ての要件が満たされたときに成立したと見なされる。
1)アクセルセンサ23により検出されたアクセル操作量θaccが0であること。
2)車速センサ29により検出された車速Vが0であること。
3)クラッチセンサ27によりクラッチ接続が検出されていること。
4)ギヤ位置センサ28によりニュートラルが検出されていること。
但し、エンジン停止条件は上記内容に限ることはなく任意に変更可能であり、例えばブレーキが踏込み操作されていることを条件に加えてもよい。
【0020】
ステップS4の判定がNoのときには一旦ルーチンを終了し、判定がYesのときにはステップS6に移行してE/G−ECU21にエンジン停止指令を出力する(アイドルストップスタート制御手段)。後述するように、この停止指令に基づきE/G−ECU21により燃料カット(燃料噴射の中止)が行われてエンジン1が停止され(エンジン停止制御手段)、ISS−ECU22は続くステップS8で予め設定されたエンジン始動条件が成立したか否かを判定する。エンジン始動条件は、以下に述べる全ての要件が満たされたときに成立したと見なされる。
5)クラッチセンサ27によりクラッチ切断が検出されていること。
6)ギヤ位置センサ28によりニュートラルが検出されていること。
ステップS8の判定がNoの間は待機し、判定がYesになるとステップS10に移行してE/G−ECU21にエンジン始動指令を出力する(アイドルストップスタート制御手段)。この始動指令に基づき、E/G−ECU21によりエンジン1が始動されて車両の発進が可能となる。
【0021】
以上のようにアイドルストップスタートに際してISS−ECU22から出力されるエンジン停止指令や始動指令に基づき、E/G−ECU21によりエンジン停止やエンジン始動が実行される。また、運転者により手動でキー操作が行われたときにも、スタート操作時にはエンジン始動が実行され、オフ操作時にはエンジン停止が実行される。
エンジン始動時には、スタータ19のピニオンギヤ19aをリングギヤ2aに噛合させて回転駆動することでエンジン1をクランキングすると共に燃料噴射弁10を作動させて燃料噴射を開始するが、ピニオンギヤ19aがリングギヤ2aの特定箇所に噛合して局所的な摩耗を発生させるという不具合がある。その対策として、特許文献1の技術ではエンジン停止時にパワータードを実行しているが、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、停止クランク位置を分散化できずにリングギヤ2aの局所的な摩耗を抑制できない。
この事実は、エンジン停止時にパワータードによるエンジン1の圧縮反力の軽減効果が得られていないことを意味する。本発明者は、エンジン停止時にパワータードを実行する試験を実施し、このときの排気強制開弁機構17の作動状態を検証した。その結果、排気強制開弁機構17が実質的な作動を開始する以前に、より具体的には油圧ピストンで発生した油圧がスレーブピストン16に伝達されて排気弁15を強制開弁し始める以前に、エンジン1が惰性回転を終えて停止してしまう現象が原因であることを突き止めた。そこで、本実施形態では、エンジン停止時にパワータードの開始に対して燃料カットの開始を遅延させる対策を講じており、以下、当該対策について詳述する。
【0022】
E/G−ECU21は車両のキーがオン操作されているときに、図3に示すE/G停止ルーチンを所定の制御インターバルで実行しており、当該ルーチンにより上記アイドルストップによるエンジン停止指令やキーのオフ操作に応じたエンジン停止が実行される。
まず、ステップS22でISS−ECU22からのエンジン停止指令、或いは車両のキーのオフ操作の何れかがあったか否かを判定し、判定がNoのときには一旦ルーチンを終了する。上記のようにISS−ECU22からのエンジン停止指令が入力された場合や車両走行を終えた運転者がキーをオフ操作した場合には、ステップS22でYesの判定を下してステップS24に移行する。なお、キーがオフ操作されても、E/G−ECU21は、当該ルーチンに従ってエンジン1を停止させるまで処理を継続する。
ステップS24では、冷却水温Twが予め設定された第1判定値Tw1以上であるか否かを判定する。以下に述べるようにエンジン停止時にはパワータードの排気強制開弁機構17を作動させるが、油圧を利用して排気弁15を強制開弁する排気強制開弁機構17は、作動油(エンジンオイル)の粘性が高い低温時に正確な作動が望めない。そこで、パワータードを禁止すべき上限付近の温度として第1判定値Tw1が設定されている。当該第1判定値Tw1は、上記アイドルストップを禁止すべき上限温度である第2判定値Tw2よりも高温側に設定され、結果として両判定値Tw1,Tw2に基づき3種の温度域が区分されていることになる。
【0023】
なお、本実施形態では、冷却水温Twを指標としてエンジン1の温度域を区分したが、これに限ることはなく任意に変更可能である。例えば、冷却水温Twに代えてエンジン油温を指標としてもよい。
ステップS24の判定がNoのときにはステップS26に移行し、エンジン1の燃料カットを実行する。これにより、各気筒に対する燃料噴射が中止されて惰性回転の後にエンジン1が停止する。
また、ステップS24の判定がYesのときには、ステップS28で各気筒に設けられたパワータードのソレノイド18をオンすることにより排気強制開弁機構17をそれぞれ作動させる(エンジン停止制御手段)。続くステップS30ではアクチュエータ26の駆動制御により吸気スロットル弁14を閉弁させる(エンジン停止制御手段)。その後にステップS32に移行して排気強制開弁機構17の作動開始から、より具体的にはソレノイド18をオンした時点から予め設定されたディレイ時間Tdlyが経過したか否かを判定し(作動開始判定手段)、判定がNoの間は待機し、判定がYesになると上記ステップS26に移行して燃料カットを実行する(エンジン停止制御手段)。
【0024】
ディレイ時間Tdlyは、排気強制開弁機構17の作動遅れに相当する時間に所定の余裕分を加えた値として予め設定されている。具体的には、排気強制開弁機構17の作動遅れは、ソレノイド18をオンさせてから実際に油圧ピストンからスレーブピストン16への油圧伝達が開始されて排気弁15が強制開弁され始めるまでの時間に相当する。第1判定値Tw1以上の水温域であれば、油温も十分に上昇して作動油の粘性に大きな格差は生じないため、パワータードの作動遅れを単一の値として導き出すことができ、それに基づきディレイ時間Tdlyも確定できる。
以上のISS−ECU22及びE/G−ECU21の処理に基づき、表1に示すようにエンジン1の停止制御が実行され、以下、それぞれの場合を順次説明する。なお、図では燃料カットを「F/C」で表し、パワータードを「PT」で表し、吸気スロットル弁14の閉制御を「吸気TH」で表している。
【表1】

まず、キーのオフ操作については、冷却水温Twに関わらずエンジン1が停止され、冷却水温Twが第1判定値Tw1未満のときには燃料カットのみが実行されるのに対し、第1判定値Tw1以上のときには燃料カットと共にパワータード及び吸気スロットル弁14の閉制御が実行される。
また、アイドルストップについては、冷却水温Twが第2判定値Tw2以上のときに限ってエンジン1が停止され、第2判定値Tw2未満ではエンジン1は停止されずに運転を継続する。そして、冷却水温Twが第2判定値Tw2以上で且つ第1判定値Tw1未満のときには燃料カットのみが実行されるのに対し、第1判定値Tw1以上のときには燃料カットと共にパワータード及び吸気スロットル弁14の閉制御が実行される。
【0025】
即ち、キーのオフ操作とアイドルストップの何れによりエンジン1を停止させる場合であっても、冷却水温Twが第1判定値Tw1以上であれば燃料カットと共にパワータードが実行される。図3のステップS32,26の処理により、排気強制開弁機構17の作動が開始されてディレイ時間Tdlyが経過した後に燃料カットが実行されるため、燃料カットが開始された時点では、既に排気強制開弁機構17の作動遅れが解消されて各気筒の排気弁15が正常に強制開弁されている。この圧縮上死点の直前での排気弁15の強制開弁により各気筒の圧縮反力は軽減され、結果として燃料カットにより惰性回転を開始したエンジン1は、当初から各気筒の圧縮上死点で極端な反力を受けることなく円滑に回転速度を低下させて停止に至り、その停止クランク位置が分散化される。図4はこのときの停止クランク位置毎の発生頻度を示す試験結果を示しており、特許文献1の技術の試験結果を示す図5との比較から明らかなように、停止クランク位置を大幅に分散化できていることが判る。
よって、エンジン始動時には、スタータ19のピニオンギヤ19aの噛合にリングギヤ2aの全周が略均等に用いられ、リングギヤ2aの局所的な摩耗の進行による始動不良を未然に防止することができる。この要因はエンジン1のメンテナンス面にも貢献し、フライホイール2の交換インターバルを延長することによりメンテナンスコストを低減することができる。
【0026】
また、エンジン停止時の各気筒の圧縮反力を軽減することにより、惰性回転中にエンジン1が受ける反力が滑らかに変動するため、結果として停止時のエンジン振動を軽減できるという別の効果も得られる。
特に本実施形態のようにアイドルストップスタート機能を備えた車両ではエンジン始動の頻度が飛躍的に高く、必然的にリングギヤ2aの局所的な摩耗に起因する始動不良やメンテナンスコストの問題がより深刻になるが、これらの不具合を確実に解消できることから一層大きな効果を実現できる。
また、本実施形態では、予め排気強制開弁機構17の作動遅れに基づきディレイ時間Tdlyを設定し、このディレイ時間Tdlyの経過に基づき燃料カットを実行している。このため新たにセンサなどを追加することなく、排気強制開弁機構17の作動遅れの解消により排気弁15の強制開弁が開始されたタイミング、即ち適切な燃料カットの開始タイミングを判定でき、結果として製造コストを高騰させることなく実施することができる。
【0027】
加えて本実施形態では、パワータードの実行時には吸気スロットル弁14の閉制御を併用している。吸気スロットル弁14が閉弁されると吸入空気量の減少に伴って筒内の実質的な圧縮仕事がさらに軽減される。このためパワータードのみを実行した場合に比較して停止クランク値をより分散化でき、これにより上記効果を一層高めることができる。
一方、キーのオフ操作とアイドルストップの何れにおいても、冷却水温Twが第1判定値Tw1以上のときに限ってパワータードを実行し、第1判定値Tw1未満ではパワータードを禁止している。低温域では作動油の粘性が高くて正確な排気強制開弁機構17の作動が望めず、不適切な排気弁15の強制開弁により本来の停止クランク位置の分散化の効果が得られない上に、例えば停止時のエンジン振動が増大するなどの弊害が生じるが、本実施形態ではパワータードを禁止することから、このような弊害を未然に防止することができる。
加えて、アイドルストップにおいては、冷却水温Twが第2判定値Tw2以上のときに限ってアイドルストップを実行し、第2判定値Tw2未満ではアイドルストップを禁止している。エンジン冷態時には燃料増量が必要な上に十分な浄化性能が得られないため、可能な限り早期に暖機完了すべきであるが、本実施形態ではアイドルストップを禁止することから、この要求に対応して上記冷態時の不具合を最小限に抑制することができる。
【0028】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、アイドルストップスタート機能を備えた車両に具体化したが、これに限ることはなく、例えば運転者のキー操作に応じてエンジン1を始動・停止させる一般的な車両に具体化してもよい。また、アイドルストップスタート車両の場合、キーのオフ操作によるエンジン停止よりもアイドルストップによるエンジン停止の方が発生頻度が遥かに高いため、キーのオフ操作に対してはパワータードを実行せず、アイドルストップによるエンジン停止指令に対してだけパワータードを実行するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、パワータードの実行時に吸気スロットル弁14の閉制御を併用したが、吸気スロットル弁14は必ずしも制御する必要はない。そこで、例えば吸気スロットル弁14を廃止して、エンジン停止時にパワータードのみを実行するようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、冷却水温Twが第1判定値Tw1未満のときにはパワータードを禁止し、冷却水温Twが第2判定値Tw2未満のときにはアイドルストップを禁止したが、これに限ることはない。例えば、冷却水温Twが第1判定値Tw1未満でもパワータードを実行したり、或いは冷却水温Twが第2判定値Tw2未満でもアイドルストップを実行したりしてもよい。
また、上記実施形態では、予め排気強制開弁機構17の作動遅れに基づきディレイ時間Tdlyを設定し、このディレイ時間Tdlyの経過に基づき燃料カットの開始タイミングを判定したが、これに限ることはなく、実際の排気強制開弁機構17の作動開始を検出してもよい。例えば、何れかの気筒のスレーブピストン16に油圧センサを設け、検出された油圧の立ち上がりにより排気強制開弁機構17の作動開始を判定した時点で燃料カットを開始するようにしてもよい(作動開始判定手段)。
【符号の説明】
【0030】
1 エンジン
14 吸気スロットル弁
15 排気弁
17 排気強制開弁機構
21 E/G―ECU
(エンジン停止制御手段、作動開始判定手段、アイドルストップスタート制御手段)
22 ISS―ECU
(停止指示手段、アイドルストップスタート制御手段)
25 水温センサ(エンジン温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの停止を指示する停止指示手段と、
上記停止指示手段による上記エンジンの停止指示に基づき、該エンジンに対する燃料噴射を中止して停止させるエンジン停止制御手段と、
上記エンジンの気筒の圧縮上死点近傍で排気弁を一時的に強制開弁する排気強制開弁機構と、
上記排気強制開弁機構の作動遅れが解消されて上記排気弁の強制開弁が開始されたか否かを判定する作動開始判定手段と
を備え、
上記エンジン停止制御手段は、上記停止指示手段により上記エンジンの停止指示がなされたときに上記排気強制開弁機構の作動を開始させ、上記作動開始判定手段により上記排気弁の強制開弁の開始判定が下されるまでは待機し、該開始判定が下されたときに上記燃料噴射の中止により上記エンジンを停止させることを特徴とするエンジンの停止制御装置。
【請求項2】
上記作動開始判定手段は、上記排気強制開弁機構の作動開始から該排気強制開弁機構の作動遅れに基づき予め設定されたディレイ時間が経過したときに、上記排気弁の強制開弁の開始判定を下すことを特徴とする請求項1記載のエンジンの停止制御装置。
【請求項3】
閉弁により上記エンジンの吸入空気を制限する吸気スロットル弁を備え、
上記エンジン停止制御手段は、上記排気強制開弁機構の作動開始と共に、上記吸気スロットル弁を閉弁させることを特徴とする請求項1または2記載のエンジンの停止制御装置。
【請求項4】
上記エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段を備え、
上記エンジン停止制御手段は、上記エンジン温度検出手段により検出されたエンジン温度が予め設定された第1判定値未満のときに上記排気強制開弁機構の作動を禁止することを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載のエンジンの停止制御装置。
【請求項5】
上記エンジンは走行用動力源として車両に搭載され、
予め設定されたエンジン停止条件の成立時に上記エンジンを停止し、予め設定されたエンジン始動条件の成立時に上記エンジンを始動するアイドルストップスタート制御手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載のエンジンの停止制御装置。
【請求項6】
上記エンジン停止制御手段は、上記エンジン温度検出手段により検出されたエンジン温度が上記第1判定値よりも低温側に予め設定された第2判定値未満のときに、上記エンジン停止条件に基づく上記エンジンの停止を禁止することを特徴とする請求項5記載のエンジンの停止制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−50088(P2013−50088A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189069(P2011−189069)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】