説明

エンジンの排気浄化装置

【課題】還元剤又はその前駆体の有効利用を図りつつ、過渡期におけるNOx浄化率を向上させる。
【解決手段】排気通路に配設される触媒担体20Aに、排気上流から下流に向けて、触媒活性温度未満で還元剤を一時的に吸着する還元剤吸着層20Bと、還元剤の供給を受けてNOxを選択還元反応により浄化する選択還元層20Cと、をこの順番で交互かつ複数塗布すると共に、各還元剤吸着層20Bにおける還元剤吸着能力を、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなるようにする。そして、触媒活性温度未満のときには、還元剤吸着層20Bで還元剤を吸着する一方、触媒活性温度以上のときには、還元剤吸着層20Bから離脱された還元剤を使用してNOxを還元浄化することで、大気中に放出される還元剤を減少させつつ、過渡期における還元剤不足を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置(以下「排気浄化装置」という)において、還元剤を用いて排気中の窒素酸化物(NOx)を選択的に還元浄化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン排気に含まれるNOxを浄化する触媒浄化システムとして、特開2000−27627号公報(特許文献1)に記載された排気浄化装置が提案されている。かかる排気浄化装置は、排気通路に配設されたNOx還元触媒の排気上流に、エンジン運転状態に応じた還元剤又はその前駆体を噴射供給することで、排気中のNOxと還元剤とを選択還元反応させて、NOxを無害物質に浄化処理するものである。
【特許文献1】特開2000−27627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、排気温度が低温である状態が長時間持続すると、NOx還元触媒の温度が活性温度以下まで低下するため、エンジン運転状態に応じて還元剤又はその前駆体を噴射供給しても、その全量がNOxの選択還元反応に利用されないおそれがある。また、エンジン負荷が変動する過渡期には、還元剤又はその前駆体の噴射供給量は、電気的又は機械的な要因により多少の遅延をもって増減するため、NOx還元触媒に供給される還元剤が過不足し、還元剤又はその前駆体が有効利用されなかったり、所要のNOx浄化率が発揮できないおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、排気通路に配設される触媒担体に、還元剤を一時的に吸着する還元剤吸着層と、還元剤を用いてNOxを選択還元する選択還元層と、を交互に複数塗布すると共に、還元剤吸着層における吸着能力を適宜変化させることで、還元剤又はその前駆体の有効利用を図りつつ、過渡期におけるNOx浄化率を向上させた排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1記載の発明では、排気通路に配設される触媒担体に、排気上流から下流に向けて、触媒活性温度未満で還元剤を一時的に吸着する還元剤吸着層と、還元剤の供給を受けてNOxを選択還元反応により浄化する選択還元層と、をこの順番で交互かつ複数塗布すると共に、各還元剤吸着層における還元剤吸着能力を、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなるようにしたことを特徴とする。ここで、「触媒活性温度未満で還元剤を一時的に吸着する」とは、触媒活性温度未満のときには還元剤を吸着する一方、触媒活性温度以上のときには還元剤を離脱することを意味する。
【0006】
請求項2記載の発明では、前記還元剤吸着層における還元剤吸着能力は、前記触媒担体に対する基材の塗布密度により変化させていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、触媒担体温度が触媒活性温度未満のときには、触媒担体に供給された還元剤は、排気最上流に位置する還元剤吸着層に吸着される。還元剤吸着層における還元剤吸着量が飽和状態に達すると、還元剤は、還元剤吸着層を通過してその排気下流に位置する選択還元層へと供給される。選択還元層では、触媒活性温度未満であるため所要NOx浄化率が発揮されないが、その温度に応じた活性により還元剤の一部を使用してNOxが還元浄化される。NOx還元浄化に寄与しなかった還元剤は、その排気下流に位置する還元剤吸着層へと供給され、飽和状態に達するまで吸着される。このとき、還元剤吸着層には、その排気上流に位置する還元剤吸着層及び選択還元層で処理し切れなかった還元剤のみが供給されるので、還元剤吸着量が飽和状態に達するまである程度の時間を要し、その排気下流に還元剤が流れていくことを抑制できる。その後、その排気下流に位置する選択還元層で同様な処理が行われる。このため、触媒担体温度が触媒活性温度未満であっても、大気中に放出される還元剤を減少させることができる。また、還元剤吸着層における還元剤吸着能力は、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなっているので、排気中の還元剤濃度に応じて還元剤を効率良く吸着することができる。
【0008】
一方、エンジン負荷の変化に伴って排気温度が上昇し、触媒担体温度が触媒活性温度に達すると、還元剤吸着層に吸着されていた還元剤が離脱し、その排気下流に位置する選択還元層へと供給される。選択還元層では、触媒活性温度に達しているため、還元剤吸着層から離脱した還元剤を使用して排気中のNOxが還元浄化される。このため、電気的又は機械的な要因により、還元剤供給量が多少遅延して増量されたとしても、還元剤吸着層に一時的に吸着されていたアンモニアによりNOx還元浄化が行われるため、還元剤の有効利用を図りつつ、過渡期におけるNOx浄化率を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、触媒担体に対する基材の塗布密度を変化させることで、還元剤吸着層における還元剤吸着能力を任意に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、還元剤前駆体たる尿素水溶液を使用し、エンジン排気に含まれるNOxを選択還元反応により浄化する排気浄化装置の全体構成を示す。
エンジン10の排気マニフォールド12に接続される排気管14には、排気流通方向に沿って、一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO2)へと酸化させる窒素酸化触媒16と、尿素水溶液を噴射供給する噴射ノズル18と、尿素水溶液を加水分解して生成されるアンモニアを用いてNOxを還元浄化するNOx還元触媒20と、NOx還元触媒20を通過したアンモニアを酸化させるアンモニア酸化触媒22と、が夫々配設される。また、還元剤タンク24に貯蔵される尿素水溶液は、その底部で吸込口が開口する供給配管26を介して、ポンプ及び流量制御弁が内蔵された還元剤添加装置28に供給される。
【0011】
窒素酸化触媒16及びアンモニア酸化触媒22は、夫々、セラミックのコーディライトやFe−Cr−Al系の耐熱鋼からなるモノリスタイプの触媒担体に、各酸化機能を発揮する白金Ptなどの活性成分を塗布することで構成される。
NOx還元触媒20は、図2に示すように、セラミックのコーディライトやFe−Cr−Al系の耐熱鋼からなるモノリスタイプの触媒担体20Aに、排気上流から下流に向けて、触媒活性温度未満でアンモニアを一時的に吸着するアンモニア吸着層20Bと、アンモニアの供給を受けてNOxを選択還元反応により浄化する選択還元層20Cと、をこの順番で交互かつ複数塗布することで構成される。また、アンモニア吸着層20Bにおけるアンモニア吸着能力は、例えば、スラリー中の基材濃度を変化、即ち、触媒担体20Aに対する基材の塗布密度を変化させることで、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなるようにする。触媒担体20Aにアンモニア吸着層20B及び選択還元層20Cを塗り分ける具体的方法としては、図3に示すように、触媒担体20Aを構成する基本担体A〜Fにアンモニア吸着層20B又は選択還元層20Cを適宜塗布し、これらを積層して一体化すればよい。なお、本実施形態では、触媒担体20Aにアンモニア吸着層20B及び選択還元層20Cを3つずつ塗布するようにしたが、これに限られるものではない。
【0012】
排気浄化装置の制御系として、噴射ノズル18とNOx還元触媒20との間に位置する排気管14には、NOx還元触媒20に導入される排気の温度(排気温度)を検出する温度センサ30が取り付けられる。温度センサ30の出力信号は、コンピュータを内蔵した還元剤添加コントロールユニット(以下「還元剤添加ECU」という)32へと入力される。また、還元剤添加ECU32は、エンジン運転状態としての回転速度及び負荷を適宜読み込むべく、CAN(Controller Area Network)などのネットワークを介して、エンジンコントロールユニット(以下「エンジンECU」という)34と通信可能に接続される。なお、エンジン負荷としては、燃料噴射量,トルク,アクセル開度,スロットル開度,吸気流量,吸気負圧,過給圧力などの公知の状態量を適用することができる。
【0013】
そして、還元剤添加ECU32は、そのROM(Read Only Memory)などに記憶された制御プログラムを実行することで、排気温度,エンジン回転速度及びエンジン負荷に応じた尿素水溶液添加量を演算し、その添加量に応じた制御信号を還元剤添加装置28に出力する。還元剤添加装置28では、還元剤添加ECU32からの制御信号に基づいて、内蔵されたポンプ及び流量制御弁が制御され、エンジン運転状態に応じた流量の尿素水溶液が噴射ノズル18に供給される。
【0014】
かかる排気浄化装置において、噴射ノズル18から排気管14内に噴射供給された尿素水溶液は、排気熱及び排気中の水蒸気により加水分解されてアンモニアへと転化され、排気流に乗ってNOx還元触媒20へと導入される。そして、NOx還元触媒20の温度が触媒活性温度未満であるときには、ここに導入されたアンモニアは、排気最上流に位置するアンモニア吸着層20Bに吸着される。アンモニア吸着層20Bにおけるアンモニア吸着量が飽和状態に達すると、アンモニアは、アンモニア吸着層20Bを通過してその排気下流に位置する選択還元層20Cへと供給される。選択還元層20Cでは、触媒活性温度未満であるため所要のNOx浄化率が発揮されないが、その温度に応じた活性によりアンモニアの一部を使用してNOxが還元浄化される。NOx還元浄化に寄与しなかったアンモニアは、その排気下流に位置するアンモニア吸着層20Bへと供給され、排気最上位に位置するアンモニア吸着層20Bと同様に吸着される。このとき、アンモニア吸着層20Bには、その排気上流に位置するアンモニア吸着層20B及び選択還元層20Cで処理し切れなかったアンモニアのみが供給されるので、アンモニア吸着量が飽和状態に達するまである程度の時間を要し、その排気下流にアンモニアが流れていくことを抑制できる。その後、その排気下流に位置する選択還元層20C,アンモニア吸着層20B及び選択還元層20Cで同様な処理が行われる。
【0015】
このため、NOx還元触媒20の温度が触媒活性温度未満であっても、大気中に放出されるアンモニア量を減少させることができる。また、アンモニア吸着層20Bにおけるアンモニア吸着能力は、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなっているので、排気中のアンモニア濃度に応じてアンモニアが効率良く吸着される。
一方、エンジン負荷の変化に伴って排気温度が上昇し、NOx還元触媒20の温度が触媒活性温度に達すると、アンモニア吸着層20Bに吸着されていたアンモニアが離脱し、その排気下流に位置する選択還元層20Cへと供給される。選択還元層20Cでは、触媒活性温度に達しているため、アンモニア吸着層20Bから離脱したアンモニアを使用して排気中のNOxが還元浄化される。このため、電気的又は機械的な要因により、尿素水溶液の噴射供給量が多少遅延して増量されたとしても、アンモニア吸着層20Bに一時的に吸着されていたアンモニアによりNOx還元浄化が行われるため、尿素水溶液の有効利用を図りつつ、過渡期におけるNOx浄化率を向上させることができる。
【0016】
このとき、NOx還元触媒20におけるNOx浄化率を向上させるべく、窒素酸化触媒16によりNOがNO2へと酸化され、排気中のNOとNO2との比率が選択還元反応に適したものに改善される。また、NOx還元触媒20を通過したアンモニアは、その排気下流に配設されるアンモニア酸化触媒22により酸化されるので、アンモニアがそのまま大気中に放出されることを抑制できる。
【0017】
なお、以上説明した実施形態では、還元剤又はその前駆体として、尿素水溶液を用いるものを前提としたが、NOxの選択還元反応メカニズムに応じて、炭化水素,アルコール,軽油,固体尿素なども適用可能である。また、排気管14内に還元剤又はその前駆体を噴射供給するものに限らず、触媒を用いて排気中の成分から還元剤を生成するものにも適用可能である。さらに、NO還元触媒20におけるアンモニア吸着層20B及び選択還元層20Cの基材を適切に選択すると共に、それらの容積及び数などを最適に設定すれば、その排気下流に流れるアンモニアが極微量となり、アンモニア酸化触媒22を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した排気浄化装置の全体構成図
【図2】NOx還元触媒の詳細を示す斜視図
【図3】NOx還元触媒の具体的構成を示す斜視図
【符号の説明】
【0019】
10 エンジン
14 排気管
20 NOx還元触媒
20A 触媒担体
20B アンモニア吸着層
20C 選択還元層
A〜F 基本担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に配設される触媒担体に、排気上流から下流に向けて、触媒活性温度未満で還元剤を一時的に吸着する還元剤吸着層と、還元剤の供給を受けて窒素酸化物を選択還元反応により浄化する選択還元層と、をこの順番で交互かつ複数塗布すると共に、各還元剤吸着層における還元剤吸着能力を、排気上流から下流に向かうにつれて徐々に弱くなるようにしたことを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記還元剤吸着層における還元剤吸着能力は、前記触媒担体に対する基材の塗布密度により変化させていることを特徴とする請求項1記載のエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−291672(P2008−291672A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135652(P2007−135652)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】