説明

エンジンの燃焼室構造

【課題】高い熱効率を得ることができるエンジンの燃焼室構造を提供する。
【解決手段】混合気を燃焼するエンジンの燃焼室構造であって、着火された混合気の火炎が伝播してくる位置に形成された開口11aと、その開口11aの反対端を閉塞する底11cと、を含む筒穴部11を有する。着火された混合気の火炎が開口11aに伝播し通り過ぎると、開口11aから高速ガスが噴出し燃焼室内の未燃ガスの拡散を促進する。これによって筒内での燃焼速度が速くなり熱効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの燃焼室の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼室に関して従来から種々の構造が提案されている。たとえば特許文献1には副燃焼室を有する燃焼室構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−42411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述した従来構造では、副燃焼室での燃焼が主燃焼室の外部で燃焼する外燃機関となってしまう。そのため冷却による損失エネルギーが大きく、熱効率が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、高い熱効率を得ることができるエンジンの燃焼室構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0007】
本発明は、混合気を燃焼するエンジンの燃焼室構造であって、着火された混合気の火炎が伝播してくる位置に形成された開口(11a)と、その開口(11a)の反対端を閉塞する底(11c)と、を含む筒穴部(11)を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着火された混合気の火炎が開口に伝播し通り過ぎると、開口から高速ガスが噴出し燃焼室内の未燃ガスの拡散を促進する。これによって筒内での燃焼速度が速くなり熱効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるエンジンの燃焼室構造の第1実施形態を示す図である。
【図2】基礎的な燃焼室構造を示す図である。
【図3】図2に示した燃焼室構造による実験結果を示す図である。
【図4】筒穴部から非常に高速のガスが噴出する現象について説明する図である。
【図5】本発明によるエンジンの燃焼室構造の第2実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明によるエンジンの燃焼室構造の第1実施形態を示す図であり、図1(A)は上方から燃焼室を透視した図、図1(B)は側方から燃焼室を透視した図である。
【0011】
エンジンの燃焼室10は、本実施形態ではいわゆるペントルーフタイプが例示されている。ペントルーフ稜線には天井点火プラグ30が設けられる。ペントルーフ稜線を挟んで一方のルーフ(図1では右側のルーフ)には吸気バルブ31が設けられる。ペントルーフ稜線を挟んで他方のルーフ(図1では左側のルーフ)には排気バルブ32が設けられる。なおエンジンの当業者においては重力方向とは別に上死点/下死点という表現が使用される。水平対向エンジン等においては、必ずしも上死点が重力方向の上/下死点が重力方向の下になるとは限らないし、また仮にエンジンを倒立した場合には、上死点が重力方向の下/下死点が重力方向の上になるが、本明細書においては、慣習にしたがい、上死点側を上、下死点側を下、とし、燃焼室の上方をルーフと表現する。
【0012】
またエンジンの燃焼室10の外周にはピストン冠面に平行に4つの筒穴部11が形成される。筒穴部11は、着火された混合気の火炎が伝播してくる位置に形成された開口11aと、その開口11aの反対端を閉塞する底11cと、を含む。筒穴部11の軸線Aの方向は、燃焼室10の半径方向である。このような配置になっているので、筒穴部11の軸線Aは、開口11aの中心11bと点火部25とを結んだ直線Bと交叉し、直線Bに一致しない。また筒穴部11の直径dに対する深さLの比L/dが6よりも大になるように、筒穴部11の開口11aの穴径(直径)d及び筒穴部11の深さLが設定される。たとえば筒穴部11の開口11aの穴径(直径)dが1mmであり、深さLが10mmである。
【0013】
次に本実施形態の作用効果を図2〜図4を参照して説明する。なお図2は本実施形態の作用効果を理解しやすくするための基礎的な燃焼室構造を示す図である。
【0014】
図2に示した燃焼室10では、外周にひとつの点火プラグ30を設けた。図2では、ボア径80mmの燃焼室10の左端に、点火プラグ30を設けた。また燃焼室10には、着火された混合気の火炎が伝播してくる位置の燃焼室内に開口し、反対端は閉塞する筒穴部11を形成した。筒穴部11の大きさは、穴径(直径)dが1mm、深さLが10mmである。筒穴部11の軸線Aの方向は、燃焼室10の半径方向である。このような配置になっているので、筒穴部11の軸線Aは、開口11aの中心11bと点火プラグ30とを結んだ直線Bと交叉し、直線Bに一致しない。
【0015】
図3は、図2に示した燃焼室構造による実験結果を示す図であり、火炎の伝播状態を時間ごとに示してある。なお時間の経過につれて図3(A)→図3(L)と進む。
【0016】
図3(A)で燃焼室内の混合気が点火プラグ30によって着火されると、着火点から火炎が急激に進行する。そして図3(F)で火炎の進行波が筒穴部11の開口11aに到達し、筒穴部11の開口11aを過ぎると、図3(G)から分かるように筒穴部11の開口11aからガスが噴出する。次の瞬間である図3(H)を見ると、点火プラグ30から始まる火炎の進行に比べて、筒穴部11からのガスの噴出が非常に速いことが分かる。このガスによって燃焼室内の未燃ガスの拡散が促進され未燃ガスの火炎に対する接触面積が拡大する。そのため筒内での燃焼速度が速くなり熱効率を高くする作用効果が得られたのである。
【0017】
図4は、筒穴部11から非常に高速のガスが噴出する現象について説明する図である。
【0018】
ガスの噴出現象の生じる理由について本件発明者らは以下のように考察した。
【0019】
混合気が燃焼室内に存在する状態で点火プラグ30が点火すると、図4(A)に示すように火炎が進行する。なお火炎の進行波をW1〜W6で示す。そして火炎が筒穴部11の開口11aに到達すると、開口近傍の混合気が燃焼する。混合気は燃焼すると熱膨張する。そして図4(B)に示すように熱膨張による圧力波が、筒穴部11に存在する混合気(未燃ガス)を筒穴部11の底11cのほうへ押し込めるように作用する。すると筒穴部11の底11cにおいてガス圧力が非常に高圧になる。するとその圧力波の跳ね返りによって、筒穴部11から非常に高速のガスが噴出することで、ガスの噴出現象が生じると考えられる。
【0020】
なお詳細は省略するが、本件発明者らは、筒穴部11の穴径dを変えても実験した。すると穴径dが1〜3mmのときは高速ガスの噴出現象を確認できたが、穴径dが5mmのときはガスの噴出現象が弱かった。これは穴径dが大きすぎたために、開口近傍で燃焼した混合気による圧力閉じ込め現象が生じにくかったためと考えられる。また穴径dが1mmよりも小径であると火炎が筒穴部11の内部に進行しにくく、この場合もガスの噴出現象が弱かった。したがってガスの噴出現象を得るには、適度な穴径にする必要があるということが本件発明者らによって知見された。
【0021】
また本件発明者らは、筒穴部11の深さLを変えても実験した。すると筒穴部11の直径dに対する深さLの比L/dが6よりも大であるときは高速ガスの噴出現象を確認できた。これに対して比L/dが6よりも小さいとガスの噴出現象が弱かった。これは深さLが小さいと筒穴部11に閉じ込められる圧力が小さいためであると考えられる。したがってガスの噴出現象を得るには、適度な深さLにする必要があるということが本件発明者らによって知見された。
【0022】
さらに本件発明者らは、筒穴部11の位置を変えても実験した。すると筒穴部11の軸線Aが、開口11aの中心11bと点火プラグ30の飛火部分とを結んだ直線Bに一致する位置、たとえば筒穴部11が点火プラグ30に対向する位置では、ガスの噴出現象が弱まった。軸線Aが直線Bに一致しては、点火プラグ30からの進行波と、筒穴部11からの噴出ガスと、がエネルギをお互いに相殺するためであると考えられる。したがって高速ガスの噴出現象を得るには、筒穴部11を適切な位置にする必要があるということが本件発明者らによって知見された。
【0023】
上記において燃焼室10の外周にひとつの点火プラグ30とひとつの筒穴部11を設けた場合を例示して説明したが、燃焼室10の天井に点火プラグ30を設け、また燃焼室10の周縁に複数の筒穴部11を設けても同様の現象が生じる。そこで本実施形態では図1に示したように、燃焼室10の天井に点火プラグ30を設け、外周に4つの筒穴部11を設けたのである。このようにすることで4つの筒穴部11から高速ガスが噴出する。このガスによって燃焼室内の未燃ガスの拡散作用が促進され未燃ガスの火炎に対する接触面積が拡大する。そのため筒内での燃焼速度が速くなり熱効率を高くできたのである。
【0024】
(第2実施形態)
図5は、本発明によるエンジンの燃焼室構造の第2実施形態を示す図である。
【0025】
第1実施形態においては、筒穴部11を燃焼室10の側壁面に形成したが、他の場所に形成してもよい。
【0026】
たとえば、シリンダヘッドの天井点火プラグ30の近傍、すなわち天井点火プラグ30と、吸気バルブ31や排気バルブ32と、の間に形成してもよい。点火プラグ30の近傍であれば火炎進行波が早めに筒穴部11を通過するので早期に高速ガスが噴出する。これによって燃焼室内の拡散が早期に生じ燃焼が促進されて熱効率が高くなる。また吸気バルブ31や排気バルブ32の傘表面に形成してもよい。さらにピストン冠面に形成してもよい。いずれにせよ燃焼室の火炎が伝播してくる位置に形成すればよい。そして筒穴部11の軸方向が火炎の伝播方向に一致しない向きに形成すればよい。このように構成することで、筒穴部11から高速ガスが噴出することとなり、筒内での燃焼を促進することができ熱効率を高くできる。
【0027】
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。
【0028】
たとえば、筒穴部は上記例示した個数に限らず適宜設定すればよい。図2〜図4を参照して説明したように、ひとつであっても効果を十分得ることができる。
【0029】
また上記説明においては点火プラグを有するエンジンを例示して説明したが、ディーゼルエンジンであってもよい。ディーゼルエンジンであっても圧縮混合気が自着火し、その自着火ポイントから火炎が伝播する。この火炎が伝播してくる位置に開口を形成すればよい。
【符号の説明】
【0030】
10 燃焼室
11 筒穴部
11a 開口
11b 中心
11c 底
30 点火プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気を燃焼するエンジンの燃焼室構造であって、
着火された混合気の火炎が伝播してくる位置に形成された開口と、その開口の反対端を閉塞する底と、を含む筒穴部を有する、
ことを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
前記混合気に着火する点火プラグを備え、
前記筒穴部の軸線は、前記点火プラグから伝播する火炎の進行方向と交叉する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項3】
前記混合気に着火する点火プラグを備え、
前記筒穴部の軸線は、開口中心と前記点火プラグの点火部とを結んだ直線と交叉する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項4】
前記点火プラグは、燃焼室ルーフに設けられる、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項5】
前記筒穴部は、前記点火プラグの近傍に形成される、
ことを特徴とする請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項6】
前記筒穴部の開口径は、1mm以上3mm以下である、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項7】
前記筒穴部の直径に対する深さの比が6よりも大である、
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項8】
前記筒穴部は、シリンダブロックの内壁面に形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項9】
前記筒穴部は、シリンダヘッドのルーフ面に形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項10】
前記筒穴部は、動弁の傘表面に形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項11】
前記筒穴部は、ピストン冠面に形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−229698(P2012−229698A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161825(P2012−161825)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2008−322015(P2008−322015)の分割
【原出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】