説明

エンジンの触媒劣化検出装置

【課題】排気に対する燃料の添加量に誤差が発生し、また、添加燃料の性状が変化しても、酸化触媒における発熱量から、酸化触媒の劣化を高精度に検出できるようにする。
【解決手段】劣化検出の対象である酸化触媒(DOC)とは別に、基準酸化触媒を設け、劣化検出時に、燃料を添加した排気ガスを基準酸化触媒に流入させ(S102)、そのときの基準酸化触媒での基準発熱量を演算する(S112)。次に、劣化検出の対象である酸化触媒に対して、燃料を添加した排気ガスを流入させ(S113)、そのときの酸化触媒での発熱量を演算する(S119)。そして、発熱量と基準発熱量との比に基づき、酸化触媒での発熱量が低下したか否かを判断し(S120)、酸化触媒での発熱量が低下したときに、酸化触媒の劣化を判定する(S121)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気管に設けられる酸化触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒劣化検出装置として、排気に対して燃料を添加したときの酸化触媒での発熱量を演算し、前記発熱量に基づいて酸化触媒の劣化を検出する装置があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−197735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の発熱量に基づく劣化検出では、酸化触媒が劣化していない状態での基準発熱量を予め記憶しておき、係る初期状態での発熱量からの低下代に基づいて、酸化触媒の劣化を検出していた。
しかし、酸化触媒で発熱させるために排気中に添加した実際の燃料量が、燃料噴射弁の詰まりなどによって指示量からずれていたり、また、基準発熱量を設定したときに用いた燃料と、劣化検出の実施時に用いた燃料とで性状(単位燃料量当たりの発熱量)が異なっていたりすると、劣化の有無とは無関係に酸化触媒における発熱量が変化し、劣化検出の精度が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、燃料添加の条件(実噴射量、燃料性状など)が変化しても、酸化触媒の劣化検出の精度が低下することを抑制できる、エンジンの触媒劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明に係る触媒劣化検出装置は、酸化触媒とは別に、前記酸化触媒の劣化検出を行う際に排気を流入させる基準酸化触媒を備え、燃料が添加された排気を前記基準酸化触媒に流入させたときの前記基準酸化触媒における発熱量と、燃料が添加された排気を前記酸化触媒に流入させたときの前記酸化触媒における発熱量とから、前記酸化触媒の劣化を検出するようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料添加の条件が同じ状態で、基準酸化触媒における発熱量及び酸化触媒における発熱量が求められるので、劣化による発熱量の低下を高精度に判定して、酸化触媒の劣化を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態におけるディーゼルエンジンを示す概略図
【図2】酸化触媒の劣化検出の流れを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本願発明に係る触媒劣化検出装置を適用する、車両用のディーゼルエンジン(内燃機関)10を示す。
【0010】
ディーゼルエンジン10は、吸気管14及び吸気マニホールド12を介して空気を吸引する。吸気管14には、上流側から順に、空気中の埃などをろ過するエアクリーナ16、吸気過給を行うターボチャージャ18のコンプレッサ18A、コンプレッサ18Aを通過して高温になった吸気を冷却するインタークーラ20を設けてある。
【0011】
一方、ディーゼルエンジン10は、排気マニホールド22及び排気管24を介して排気を放出する。排気管24には、上流側から順に、ターボチャージャ18の排気タービン18B、燃料軽油を排気管24内に噴射する噴射ノズルを有する排気管噴射装置25、連続再生式DPF装置26、還元剤前駆体としての尿素水溶液を噴射供給する噴射ノズルを有する還元剤噴射装置28、尿素水溶液から生成されるアンモニア(還元剤)を用いてNOxを還元するSCR触媒30、SCR触媒30を通過したアンモニアを酸化させるアンモニア酸化触媒32を設けてある。
【0012】
連続再生式DPF装置26は、NO(一酸化窒素)をNO2(二酸化窒素)へと酸化させるDOC(Diesel Oxidation Catalyst)26Aと、排気中のPM(Particulate Matter)を捕集・除去するDPF(Diesel Particulate Filter)26Bとを備える。
尚、排気浄化フィルタとして、前記DPF26Bの代わりに、フィルタ表面に触媒(活性成分及び添加成分)を担持させたCSF(Catalyzed Soot Filter)を使用できる。
【0013】
また、ディーゼルエンジン10は、排気の一部を吸気側に還流させることで燃焼温度を低下させ、排気中のNOx濃度を低減するEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置34を備えている。
EGR装置34は、排気管24を流れる排気の一部を吸気管14に還流させるEGR管34Aと、EGR管34Aを流れる排気を冷却するEGRクーラ34Bと、吸気管14に還流させる排気量(EGR率)を制御するEGR制御弁34Cとを備える。
【0014】
また、排気管噴射装置25よりも下流側で、かつ、連続再生式DPF装置26よりも上流側の排気管24から分岐し、当該分岐点よりも下流側で、かつ、連続再生式DPF装置26よりも上流側の排気管24に合流する診断用排気管35を設けてある。
そして、診断用排気管35には、DOC26Aと同様な酸化触媒である基準酸化触媒36を設けてある。尚、基準酸化触媒36として、DOC26Aの容量と同等又はより小さい容量のものを用いることができる。
【0015】
また、基準酸化触媒36よりも上流側の診断用排気管35には、診断用排気管35を開閉する電磁式の第1開閉弁37を設けてあり、診断用排気管35の分岐部よりも下流側でかつ合流部よりも上流側の排気管24には、排気管24を開閉する電磁式の第2開閉弁38を設けてある。
これにより、第1開閉弁37を開け、かつ、第2開閉弁38を閉じると、排気タービン18Bを通過した排気ガスは、基準酸化触媒36及びDOC26Aをこの順に通過する。一方、第1開閉弁37を閉じ、かつ、第2開閉弁38を開けると、排気タービン18Bを通過した排気ガスは、基準酸化触媒36をバイパスしてDOC26Aを通過し、基準酸化触媒36に排気ガスが流入しない。
【0016】
即ち、第1開閉弁37の及び第2開閉弁38は、基準酸化触媒36に排気を流入させる状態と、基準酸化触媒36をバイパスしてDOC26A(酸化触媒)に排気を流入させる状態とに切り替える流路切替え手段の一例である。
尚、第1開閉弁37の及び第2開閉弁38に代えて、診断用排気管35の分岐部に、診断用排気管35を開け排気管24を閉じる位置と、断用排気管35を閉じ排気管24を開ける位置とに切り替わる流路切替え弁を設けることができる。
【0017】
コンピュータを内蔵したエンジンコントロールユニット(ECU)42は、ディーゼルエンジン10の回転速度NEを検出する回転速度センサ44、及び、ディーゼルエンジン10の負荷Qを検出する負荷センサ46、排気温度を検出する温度センサ47a〜47d、車両の走行速度(車速)VSを検出する車速センサ48、車両の停車ブレーキの作動状態のオン/オフを検出するブレーキスイッチ49などの各種センサ,スイッチの出力信号を入力する。
【0018】
ここで、負荷センサ46は、ディーゼルエンジン10の負荷Qを示す状態量として、吸気流量、吸気圧力、過給圧力、アクセル開度、吸気絞り弁の開度など、ディーゼルエンジン10のトルクと密接に関連する状態量を検出する。
温度センサ47aは、基準酸化触媒36の直前の診断用排気管35に配置され、基準酸化触媒36に流入する排気の温度(入口排気温度)を検出する。
【0019】
温度センサ47bは、基準酸化触媒36の直後の診断用排気管35に配置され、基準酸化触媒36を通過した排気の温度(出口排気温度)を検出する。
温度センサ47cは、DOC26Aの直前の排気管24に配置され、DOC26Aに流入する排気の温度(入口排気温度)を検出する。
温度センサ47dは、DOC26Aの直後の排気管24に配置され、DOC26Aを通過した排気の温度(出口排気温度)を検出する。
【0020】
エンジンコントロールユニット42は、内蔵するROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリに記憶した制御プログラムを実行することで、各種センサ,スイッチからの信号に基づいて、ディーゼルエンジン10への燃料噴射、還元剤噴射装置28による尿素水溶液の噴射、EGR装置34による排気還流量、ターボチャージャ18における可変ノズルの開度などの操作信号を出力することで、ディーゼルエンジン10の運転を制御する。
また、エンジンコントロールユニット42は、予め記憶した制御プログラムを実行することで、酸化触媒であるDOC26Aの劣化の有無を検出する。
【0021】
図2は、エンジンコントロールユニット42が実行する、DOC26Aの劣化検出処理の流れを示すフローチャートであり、以下では、このフローチャートを参照しつつ劣化検出処理を詳細に説明する。
まず、ステップS101では、劣化検出の実行条件が成立しているか否かを判断する。
【0022】
具体的には、車両の停車状態であることを劣化検出の実行条件とし、詳細には、車速センサ48が検出する車速VSが0km/hで、かつ、ブレーキスイッチ49がオンであって停車ブレーキの作動状態である場合に、車両が停車状態であると判断する。
そして、車速が0km/hでかつ停車ブレーキの作動状態であって車両が停車状態であると判断される場合には、劣化検出の実行条件が成立していると判定して、ステップS102以降の劣化検出処理に進む。このように、車両が停車状態で劣化検出を行わせるようにすることで、劣化検出のためのトルク変動などが車両の運転性に影響しないようにする。
【0023】
一方、車速が0km/hでないか、及び/又は、停車ブレーキの非作動状態であって、車両の停車状態とは認められない場合(車両の走行状態又は一時停止状態)には、劣化検出の実行条件が成立していないと判定して、ステップS101の判定処理を繰り返す。
尚、車両の停車状態を判定するための条件として、変速機がニュートラルであること、アクセルペダルが全閉位置であることなどを判定させることができ、更に、車速、停車ブレーキ、ニュートラル、アクセル全閉のうちの複数を組み合わせて、車両の停車状態を判定させることができる。
【0024】
また、劣化検出の実行条件として、車両が停車状態であることに加えて、前回の劣化検出処理から一定以上の期間が経過していることを条件とすることができる。
具体的には、ディーゼルエンジン10が始動されてから一度も劣化検出処理を実行していないこと、前回に劣化検出処理を実行した時点からのディーゼルエンジン10の運転時間や車両の走行距離などが閾値以上になっていることなどを、劣化検出の実行条件とすることができる。また、DPF26Bの再生処理に同期させて、劣化検出処理を実行させることもできる。
【0025】
劣化検出の実行条件が成立していてステップS102へ進むと、排気流路の切り替えを行う。
劣化検出時以外のディーゼルエンジン10の運転状態では、第1開閉弁37を閉状態に、第2開閉弁38を開状態に保持することで、排気ガスが基準酸化触媒36に流入しないようにし、基準酸化触媒36が初期状態に維持されるようにする。このとき、排気ガスは、DOC26A、DPF26B、SCR触媒30、アンモニア酸化触媒32をこの順に通過して浄化される。
【0026】
一方、劣化検出時で、ステップS102へ進んだ場合には、それまでの第1開閉弁37が閉、第2開閉弁38が開の状態から、第1開閉弁37が開、第2開閉弁38が閉の状態に切り替えることで、排気ガスを基準酸化触媒36に流入させる。このとき、排気ガスは、基準酸化触媒36、DOC26A、DPF26B、SCR触媒30、アンモニア酸化触媒32をこの順に通過して浄化される。
【0027】
このように、基準酸化触媒36に排気ガスが流入するのは、DOC26Aの劣化検出時に限られるから、ディーゼルエンジン10の運転状態で常時排気ガスが流入するDOC26Aに比べて、基準酸化触媒36に排気ガスが流入する期間は大幅に短くなる。従って、DOC26Aが劣化するほどにディーゼルエンジン10の運転期間が長くなっても、基準酸化触媒36を略初期状態に維持されることになる。
【0028】
排気ガスが基準酸化触媒36に流入する状態に排気経路を切り替えると、続いてステップS103へ進み、排気温度を上昇させるための運転条件の設定を行う。
具体的には、エンジン回転速度、燃料噴射条件(ポスト噴射など)、EGR制御弁34Cの開度、ターボチャージャ18における可変ノズルの開度などについて、排気昇温用に予め記憶してある目標を読み出す。
【0029】
前記排気昇温用のエンジン回転速度などの目標値は、後述する目標温度を達成し得る値として、予め実験やシミュレーションに基づき決定してある。
そして、次のステップS104では、ステップS103での設定に従って、燃料噴射、EGR制御弁34Cの開度、ターボチャージャ18における可変ノズルの開度などを制御し、実際に排気温度を上昇させる。
【0030】
次のステップS105では、基準酸化触媒36の出口排気温度(基準酸化触媒36直後の排気温度)を、温度センサ47bの出力に基づいて検出すると共に、燃料添加開始の基準となる目標出口排気温度を設定する。
目標出口排気温度は、排気ガスに燃料を添加したときに、添加した燃料を基準酸化触媒36で十分に酸化反応させることができる温度として、予め記憶されている。
【0031】
ステップS106では、基準酸化触媒36の出口排気温度が、目標出口排気温度を超えたか否かを判断し、基準酸化触媒36の出口排気温度が目標出口排気温度を超えるようになるまでは、ステップS105へ戻って基準酸化触媒36の出口排気温度の検出を繰り返す。
そして、基準酸化触媒36の出口排気温度が目標出口排気温度を超えると、ステップS107へ進み、基準酸化触媒36で燃料を酸化反応させるために、排気管噴射装置25から噴射させる燃料量として予め記憶してある噴射量を読み出す。
【0032】
次にステップS108では、ステップS107で読み出した指示噴射量に基づき、排気管噴射装置25から燃料(軽油燃料)を噴射させる。
ステップS109では、温度センサ47bの出力に基づいて検出される、基準酸化触媒36の出口排気温度(基準酸化触媒36直後の排気温度)が、上昇変化を示した後に安定状態(平衡状態)に移行したか否かを判断する。
【0033】
排気管噴射装置25から燃料が噴射され、燃料が添加された排気ガスが基準酸化触媒36に流入するようになると、排気ガス中の燃料が基準酸化触媒36で酸化反応し、これによって基準酸化触媒36の出口排気温度が上昇変化し、基準酸化触媒36での発熱量に応じた温度を維持するようになる。
そこで、基準酸化触媒36の出口排気温度の安定したときに、基準酸化触媒36での発熱量に応じた温度にまで出口排気温度が上昇したものと判断する。
【0034】
基準酸化触媒36の出口排気温度が安定しているか否かは、例えば、前回検出温度に対する今回検出温度の差(検出温度の時間微分値)が閾値を下回る状態が、設定時間以上継続していれば、出口排気温度の安定状態(平衡状態)であると判断する。
ステップS109で基準酸化触媒36の出口排気温度が安定したと判断すると、ステップS110で排気管噴射装置25による燃料噴射を終了させる。
【0035】
次のステップS111では、燃料噴射の終了直前の平衡状態における、基準酸化触媒36の出口排気温度(基準酸化触媒36直後の排気温度)の検出値、基準酸化触媒36の入口排気温度(基準酸化触媒36直前の排気温度)の検出値、更に、排気ガス流量を読み込む。
そして、ステップS112では、基準酸化触媒36の出口排気温度、入口排気温度、排気ガス流量から、基準酸化触媒36における発熱量(以下、基準発熱量という)を演算して、エンジンコントロールユニット(ECU)42に内蔵されているメモリに記憶させる。
【0036】
発熱量は、基準酸化触媒36の入口温度,出口温度から求めた基準酸化触媒36における温度上昇分と、排気ガス流量と、定数として予め記憶した排気ガス比熱とから、単位時間当たりの発熱量として演算できる。
ここで、基準酸化触媒36の入口排気温度から、排気に燃料が添加されない場合の出口排気温度を推定し、推定した出口排気温度と実際の出口排気温度との差として、基準酸化触媒36に燃料が添加された排気が流入するときの基準酸化触媒36での温度上昇分を求めることができる。また、排気ガス流量は、吸気流量の計測値で代用又は推定することができる。
【0037】
続いてステップS113では、第1開閉弁37を開、第2開閉弁38を閉として、排気ガスを基準酸化触媒36に流入させていた排気流路を、第1開閉弁37を閉、第2開閉弁38を開に切り替えることで、排気ガスが基準酸化触媒36をバイパスしてDOC26Aに流入する排気流路に切り替える。
次のステップS114では、DOC26Aで燃料を酸化反応させるために、排気管噴射装置25から噴射させる燃料量として予め記憶してある噴射量を読み出す。
【0038】
そして、ステップS115では、ステップS114で読み出した指示噴射量に基づき、排気管噴射装置25から燃料(軽油燃料)を噴射させる。
次のステップS116では、温度センサ47dの出力に基づいて検出される、DOC26Aの出口排気温度(DOC26A直後の排気温度)が、上昇変化を示した後、安定状態(平衡状態)に移行したか否かを判断する。
【0039】
DOC26Aの出口排気温度が安定しているか否かは、例えば、前回検出温度に対する今回検出温度の差(検出温度の時間微分値)が閾値を下回る状態が、設定時間以上継続していれば、出口排気温度の安定状態(平衡状態)であると判断する。
排気管噴射装置25から燃料が噴射され、燃料が添加された排気ガスがDOC26Aに流入するようになると、排気ガス中の燃料がDOC26Aで酸化反応し、DOC26Aの出口排気温度を上昇変化し、DOC26Aでの発熱量に応じた温度を維持するようになる。
【0040】
そこで、DOC26Aの出口排気温度の安定したときに、DOC26Aでの発熱量に応じた温度にまで出口排気温度が上昇したものと判断する。
ステップS116でDOC26Aが安定したと判断すると、ステップS117で排気管噴射装置25による燃料噴射を終了させる。
【0041】
次のステップS118では、燃料噴射の終了直前の平衡状態における、DOC26Aの出口排気温度(DOC26A直後の排気温度)の検出値、DOC26Aの入口排気温度(DOC26A直前の排気温度)の検出値、更に、排気ガス流量を読み込む。
そして、ステップS119では、DOC26Aの出口排気温度、入口排気温度、排気ガス流量から、DOC26Aにおける発熱量を演算する。ここでの発熱量の演算は、ステップS112と同様に行われる。
【0042】
ステップS120では、DOC26Aにおける発熱量と、基準酸化触媒36における基準発熱量との比(比=発熱量/基準発熱量)が、劣化判定用の閾値よりも小さいか否か、即ち、「発熱量/基準発熱量<閾値」が成立しているか否かを判断する。
DOC26Aの劣化が進行すると、酸化触媒としての機能が低下し、燃料が添加された排気が流入する状態での発熱量が初期状態(劣化発生前)よりも低下することになる。
【0043】
一方、基準酸化触媒36は、DOC26Aの劣化検出時に排気が流入するが、それ以外の運転時には排気が流入しないため、劣化の進行がDOC26Aに比べて大幅に遅く、略初期の触媒性能(初期状態)を維持することになる。
即ち、基準酸化触媒36における基準発熱量が、劣化の影響で低下することは殆どないのに対し、DOC26Aでは、劣化の進行に伴って発熱量が低下するから、DOC26Aの劣化が進行するほど、「発熱量/基準発熱量」はより小さい値に変化することになる。
【0044】
ここで、劣化判定用の閾値は、DOC26Aの劣化が許容範囲内であるときに、発熱量/基準発熱量≧閾値となるように、予め実験やシミュレーションに基づき設定されている。
従って、「発熱量/基準発熱量」が、DOC26Aの劣化の進行に伴って徐々に小さくなり、「発熱量/基準発熱量<閾値」が成立するようになった時点では、DOC26Aの劣化が許容範囲を超えるまでに進行したこと、換言すれば、DOC26Aの劣化故障の発生を示すことになる。
【0045】
このため、「発熱量/基準発熱量≧閾値」であれば、DOC26Aの劣化が許容範囲内であって、劣化故障が発生していないと判断できるので、ステップS120から触媒劣化を判定するステップを迂回して、本ルーチンを終了させる。
一方、「発熱量/基準発熱量<閾値」であれば、ステップS121へ進み、DOC26Aが劣化故障している(許容レベルを超える劣化が発生している)と判定し、DOC26Aの劣化信号(DOC26Aが劣化していることを示す信号)を出力する。
【0046】
例えば、DOC26Aの劣化信号は、診断履歴として記憶される他、前記劣化信号に基づき、DOC26Aの劣化(排気系の故障)を車両の運転者に警告する警告手段を作動させることができる。
ここで、DOC26Aの発熱量は、排気管噴射装置25によって噴射される燃料の性状、詳細には単位量当たりの発熱量が異なることで変化するが、例えば、単位量当たりの発熱量が基準値よりも小さい燃料が使用された場合、DOC26Aにおける発熱量及び基準酸化触媒36における基準発熱量が共に低下することになり、両発熱量の比に基づいて劣化検出を行えば、燃料性状に影響されることなく、劣化による発熱量の低下を判断できることになる。
【0047】
また、例えば、排気管噴射装置25の噴射孔の詰まりなどによって、指示噴射量に対して実際に噴射される燃料量が低下している場合、DOC26Aにおける発熱量及び基準酸化触媒36における基準発熱量が共に低下するから、両発熱量の比に基づいて劣化検出を行えば、排気管噴射装置25における指示噴射量と実噴射量との差(噴射量誤差)に影響されることなく、劣化による発熱量の低下を判断できることになる。
即ち、基準酸化触媒36を設け、図2のフローチャートに示した劣化検出処理を実行すれば、燃料性状の変化や排気管噴射装置25の噴射量誤差などに影響されることなく、DOC26Aの劣化を高精度に検出することができる。
【0048】
これに対し、DOC26Aにおける発熱量と予め記憶してある基準発熱量とを比較させる場合、基準発熱量は、基準燃料を用いたときの発熱量であって、かつ、排気管噴射装置25が指示噴射量を実際に噴射することを前提として設定される。
このため、実際に劣化検出を行うときに、基準燃料とは異なる性状(単位量当たりの発熱量)の燃料が用いられたり、噴射量誤差が発生したりすると、基準発熱量はこれらに影響されない固定値であるのに対し、DOC26Aにおける発熱量が変化してしまう。
【0049】
従って、実際にはDOC26Aに許容レベルを超える劣化が発生しているのに、劣化が発生していないと誤判定し、逆に、実際にはDOC26Aが劣化していないのに、劣化していると誤判定する可能性がある。
一方、基準酸化触媒36における発熱量は、DOC26Aの発熱量と同様に、そのときの使用燃料の性状に影響されて変化し、また、添加燃料量の誤差が発生すれば、基準酸化触媒36の発熱量及びDOC26Aの発熱量の双方に影響することになるから、基準酸化触媒36の発熱量とDOC26Aの発熱量とを比較すれば、使用燃料の性状及び添加燃料量の誤差の影響を排除し、劣化による発熱量の低下分を抽出して劣化検出を行える。
【0050】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
例えば、基準酸化触媒36が十分な容量を備える場合には、診断用排気管35を、DOC26AとDPF26Bとの間に合流させ、基準酸化触媒36に排気を流入させる劣化検出時に、排気ガスがDOC26Aをバイパスして流れるようにすることができる。
【0051】
但し、図1に示したように、診断用排気管35を、DOC26Aの上流側に合流させるようにすれば、劣化検出時に、燃料が添加された排気が基準酸化触媒36及びDOC26Aを通過するから、基準酸化触媒36を燃料が通過することがあっても、その下流のDOC26Aで燃料を酸化させることが可能で、DOC26Aよりも下流側への燃料の流入を抑制することができる。
従って、DOC26Aよりも下流側への燃料の流入を抑制しつつ、基準酸化触媒36の容量を小さく抑制することができ、排気装置の大型化を抑制し、また、触媒のコストを削減できる。
【0052】
また、診断対象としての酸化触媒を備えるエンジンであれば、本発明の劣化検出装置の適用が可能であり、診断対象として酸化触媒を連続再生式DPF装置26に含まれるDOC26Aに限定するものではない。
また、DPF26Bを備えるディーゼルエンジン10において、DPF26Bの再生処理を行うときに、再生処理の実行に先立って本発明の劣化検出を実行させ、劣化検出処理の終了に続けてDPF再生処理を行わせることができる。
【0053】
また、排気中に燃料を添加する手段は、排気管24に設ける排気管噴射装置25に限定されるものではなく、ディーゼルエンジン10のシリンダ内に燃料を噴射する燃料噴射装置により、メインの噴射時期から遅らせたタイミングで燃料を噴射させるポスト噴射によって、排気中に燃料を添加させることができる。
また、DOC26Aの劣化検出に並行して、排気管噴射装置25の故障診断を行うことができる。
【0054】
排気管噴射装置25の故障診断においては、まず、基準酸化触媒36における発熱量として、排気管噴射装置25の初期状態であって噴射量誤差が十分に小さいときの発熱量を、設計値として予め記憶しておくか、又は、排気管噴射装置25の初期状態におけるDOC26Aの劣化検出で実際に計測した、基準酸化触媒36での発熱量を記憶する。
【0055】
そして、予め記憶してある排気管噴射装置25の初期状態における基準酸化触媒36での発熱量と、DOC26Aの劣化検出で計測した基準酸化触媒36での発熱量とを比較し、基準酸化触媒36での発熱量の所定以上の低下が認められた場合に、排気管噴射装置25の噴口部の詰まりなどによって、排気管噴射装置25から噴射される燃料量が指令値よりも少なくなっている、即ち、排気管噴射装置25が故障していると判定することができる。
排気管噴射装置25の故障判定信号は、例えば、診断履歴として記憶される他、前記故障判定信号に基づき、排気管噴射装置25(排気浄化装置)の故障を車両の運転者に警告する警告手段を作動させることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 ディーゼルエンジン
24 排気管
25 排気管噴射装置
26 連続再生式DPF装置
26A DOC
26B DPF
28 還元剤噴射装置
30 SCR触媒
32 アンモニア酸化触媒
35 診断用排気管
36 基準酸化触媒
37 第1開閉弁
38 第2開閉弁
42 コントロールユニット
47a〜47d 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気管に設けられる酸化触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置であって、
前記酸化触媒とは別に、前記酸化触媒の劣化検出を行う際に排気を流入させる基準酸化触媒を備え、
燃料が添加された排気を前記基準酸化触媒に流入させたときの前記基準酸化触媒における発熱量と、燃料が添加された排気を前記酸化触媒に流入させたときの前記酸化触媒における発熱量とから、前記酸化触媒の劣化を検出する、エンジンの触媒劣化検出装置。
【請求項2】
前記酸化触媒の上流側の排気管から分岐する診断用排気管に、前記基準酸化触媒を設けると共に、前記基準酸化触媒に排気を流入させる状態と、前記基準酸化触媒をバイパスして前記酸化触媒に排気を流入させる状態とに切り替える流路切替え手段を備えた、請求項1記載のエンジンの触媒劣化検出装置。
【請求項3】
前記酸化触媒の入口排気温度及び出口排気温度、及び、前記酸化触媒に流入する排ガス流量から、前記酸化触媒での発熱量を演算し、
前記基準酸化触媒の入口排気温度及び出口排気温度、及び、前記基準酸化触媒に流入する排ガス流量から、前記基準酸化触媒での発熱量を演算する、請求項1又は2記載のエンジンの触媒劣化検出装置。
【請求項4】
前記基準酸化触媒における発熱量と前記酸化触媒における発熱量との比と、閾値との比較に基づき、前記酸化触媒における劣化の有無を判定する、請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの触媒劣化検出装置。
【請求項5】
前記酸化触媒の劣化検出を、前記エンジンを搭載する車両の停車状態で行う、請求項1〜4のいずれか1つに記載のエンジンの触媒劣化検出装置。
【請求項6】
前記診断用排気管の分岐部よりも上流側の排気管に、排気中に燃料を噴射する燃料噴射装置を備える、請求項2〜5のいずれか1つに記載のエンジンの触媒劣化検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−113210(P2013−113210A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260072(P2011−260072)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】