説明

エンジンの駆動装置

【課題】ギヤの歯打ち音を防止するためにエンジンの出力軸回転数を増大させるときに運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制する。
【解決手段】駆動源としてのモータジェネレータのトルクが低下すると、第1運転線によって定められる回転数から第2運転線によって定められる回転数までエンジン回転数が増大される。第1運転線は、車速およびエンジン回転数のうちのいずれかが高いほど、第2運転線から大きく離間する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの駆動装置に関し、特に駆動源としての電動モータが設けられた車両に搭載されたエンジンを駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよび電動モータを駆動源として搭載したハイブリッド車が知られている。このようなハイブリッド車では、電動モータによってエンジンをアシストしたり、電動モータのみを駆動源として用いて走行することが可能である。エンジンと電動モータとは、たとえばプラネタリギヤセットを介して連結される。一例として、エンジンの出力軸がプラネタリキャリヤに接続され、電動モータの出力軸がリングギヤに接続される。サンギヤには発電機が接続される。
【0003】
プラネタリギヤセットを用いてエンジンと電動モータとを連結した場合、たとえば電動モータの出力トルクが零である状態では、エンジンと電動モータとを連結するギヤの間で隙間が生じ得る。ギヤの間に隙間がある状態でエンジンの出力トルクが変動すると、ギヤの歯同士が衝突することによって音が発生し得る。このような音の発生を抑制すべく、特開平11−93725号公報(特許文献1)は、動力源としての内燃機関と、少なくとも3軸を有し3軸のうちの一つに内燃機関の出力軸が、他の一軸に駆動軸が結合されたギヤ機構と、ギヤ機構の残余の一軸に結合された電動機とを備えた動力出力装置において、ギヤ機構のギヤ間で歯打ち音が発生する条件が検出された場合には、内燃機関の回転数を所定値以上に制御する動力出力装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−93725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平11−93725号公報に記載の動力出力装置を用いてエンジンの出力軸回転数を自動的に増大するようにすると、運転者が操作していなくても、エンジンの駆動音が増大する。その結果、運転者に違和感を与え得る。駆動音の増大量を抑制するためには、エンジンの出力軸回転数を比較的高く維持するようにすることによって、ギヤの歯打ち音が発生し得るときの出力軸回転数の増大量を小さくすることが考えられる。しかしながら、このようにした場合、燃費が最適となる運転状態から大きく離れてエンジンを運転することになる。その結果、燃費が悪化し得る。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
駆動源としての電動モータが設けられた車両に搭載されたエンジンの駆動装置は、電動モータがトルクを出力する状態において、第1の出力軸回転数でエンジンを駆動するための駆動手段と、電動モータのトルクが低下した場合、エンジンの出力軸回転数を第1の出力軸回転数から第2の出力軸回転数まで増大するための増大手段とを備える。第1の出力軸回転数は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、第2の出力軸回転数からより大きく離間する。
【0008】
この構成によると、車速または出力軸回転数が高い状態、すなわち、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジンの出力軸回転数の増大量が大きくされる。これにより、増大される前の出力軸回転数をできるだけ低くすることができる。そのため、燃費の向上に寄与することができる。また、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジン100の駆動音の増大量が大きくても、運転者に違和感を与え難い。その結果、運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【0009】
他のエンジンの駆動装置において、増大手段は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、より速く出力軸回転数を増大する。
【0010】
この構成によると、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジンの出力軸回転数の増大速度が大きくされる。これにより、電動モータの出力トルクが低下したことに伴なって、たとえばギヤなどにおいて音が発生する前に、エンジンの出力軸回転数を速やかに増大することができる。そのため、音の発生をより効果的に抑制することができる。また、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジンの駆動音が急増しても、運転者に違和感を与え難い。その結果、運転者に与える違和感を大きくせずに、電動モータの出力トルクが低下したことに伴なう音の発生を効果的に抑制することができる。
【0011】
他のエンジンの駆動装置において、増大手段は、エンジンの出力パワーを維持しながら、エンジンの出力軸回転数を第1の出力軸回転数から第2の出力軸回転数まで増大する。
【0012】
この構成によると、エンジンの出力パワーを維持することによって、車両の挙動の変動を抑えつつ、出力軸回転数を増大させることができる。
【0013】
他のエンジンの駆動装置において、エンジンの出力パワーは、運転者の操作に応じて定められる。第1の出力軸回転数は、エンジンの出力軸回転数と出力トルクとの関係を示す予め定められた第1の線上において、運転者の操作に応じて定められた出力パワーを実現する回転数である。第2の出力軸回転数は、エンジンの出力軸回転数と出力トルクとの関係を示し、第1の線と比べて、同じ出力パワーでの出力軸回転数が高くなる第2の線上において、運転者の操作に応じて定められた出力パワーを実現する回転数である。
【0014】
この構成によると、エンジンの出力軸回転数と出力トルクとを所望の態様で変化させることができる。
【0015】
他のエンジンの駆動装置において、第1の線は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、第2の線からより大きく離間する。
【0016】
この構成によると、第1の線を、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、第2の線からより大きく離間させることによって、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態ではエンジンの出力軸回転数の増大量を大きくすることができる。
【0017】
他のエンジン駆動装置は、駆動源としての電動モータが設けられた車両に搭載されたエンジンの駆動装置である。この駆動装置は、電動モータがトルクを出力する状態において、エンジンの運転点を定める第1の運転線に従ってエンジンを駆動するための手段と、電動モータのトルクが低下した場合に、第1の運転線よりも最適燃費線から離間した、エンジンの運転点を定める第2の運転線に従ってエンジンを駆動するための手段とを備える。第1の運転線は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、最適燃費線により近い。
【0018】
この構成によると、車速または出力軸回転数が高い状態、すなわち、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、最適燃費線により近い運転点でエンジンを駆動することができる。そのため、燃費の向上に寄与することができる。また、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジン100の駆動音が、運転点が第1の運転線から第2の運転線に移動することによって大きく増大しても、運転者に違和感を与え難い。その結果、運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ハイブリッド車のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】エンジンを示す概略構成図である。
【図3】動力分割機構の共線図である。
【図4】変速機の共線図である。
【図5】エンジンの運転状態を示す図である。
【図6】エンジン回転数および出力トルクを定めた第1運転線および第2運転線を示す図である。
【図7】車速が高いほど第2運転線からより大きく離間する第1運転線を示す図である。
【図8】エンジン回転数が高いほど第2運転線からより大きく離間する第1運転線を示す図である。
【図9】ECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0021】
図1を参照して、本実施の形態に係る駆動装置を搭載したハイブリッド車のパワートレーンについて説明する。なお、本実施の形態に係る制御装置は、たとえば、ECU(Electronic Control Unit)1000のROM(Read Only Memory)1002に記録されたプログラムをECU1000が実行することにより実現される。
【0022】
図1に示すように、パワートレーンは、エンジン100と、第1モータジェネレータ(MG1)200と、これらエンジン100と第1モータジェネレータ200との間でトルクを合成もしくは分配する動力分割機構300と、第2モータジェネレータ(MG2)400と、変速機500とを主体として構成されている。
【0023】
エンジン100は、燃料を燃焼させて動力を出力する公知の動力装置であって、スロットル開度(吸気量)や燃料供給量、点火時期などの運転状態を電気的に制御できるように構成されている。その制御は、例えば、マイクロコンピュータを主体とするECU1000によって行なわれる。
【0024】
図2を参照して、エンジン100には、エアクリーナ102から空気が吸入される。吸入空気量は、スロットルバルブ104により調整される。スロットルバルブ104はモータにより駆動される電子スロットルバルブである。
【0025】
空気は、シリンダ106(燃焼室)において燃料と混合される。シリンダ106には、インジェクタ108から燃料が直接噴射される。すなわち、インジェクタ108の噴射孔はシリンダ106内に設けられている。燃料は、シリンダ106の吸気側(空気が導入される側)から噴射される。
【0026】
燃料は吸気行程において噴射される。なお、燃料が噴射される時期は、吸気行程に限らない。また、本実施の形態においては、インジェクタ108の噴射孔がシリンダ106内に設けられた直噴エンジンとしてエンジン100を説明するが、直噴用のインジェクタ108に加えて、ポート噴射用のインジェクタを設けてもよい。さらに、ポート噴射用のインジェクタのみを設けるようにしてもよい。
【0027】
シリンダ106内の混合気は、点火プラグ110により着火され、燃焼する。燃焼後の混合気、すなわち排気ガスは、三元触媒112により浄化された後、車外に排出される。混合気の燃焼によりピストン114が押し下げられ、クランクシャフト116が回転する。
【0028】
シリンダ106の頭頂部には、吸気バルブ118および排気バルブ120が設けられる。シリンダ106に導入される空気の量および時期は吸気バルブ118により制御される。シリンダ106から排出される排気ガスの量および時期は排気バルブ120により制御される。吸気バルブ118はカム122により駆動される。排気バルブ120はカム124により駆動される。
【0029】
吸気バルブ118は、VVT(Variable Valve Timing)機構126により、開閉タイミング(位相)が変更される。なお、排気バルブ120の開閉タイミングを変更するようにしてもよい。
【0030】
本実施の形態においては、カム122が設けられたカムシャフト(図示せず)がVVT機構126により回転されることにより、吸気バルブ118の開閉タイミングが制御される。なお、開閉タイミングを制御する方法はこれに限らない。本実施の形態において、VVT機構126は、油圧により作動する。
【0031】
エンジン100は、ECU1000により制御される。ECU1000は、エンジン100が所望の運転状態になるように、スロットル開度、点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量、吸気バルブ118の開閉タイミングを制御する。ECU1000には、カム角センサ800、クランク角センサ802、水温センサ804、エアフローメータ806から信号が入力される。
【0032】
カム角センサ800は、カムの位置を表す信号を出力する。クランク角センサ802は、クランクシャフト116の回転数(エンジン回転数)NEおよびクランクシャフト116の回転角度を表す信号を出力する。水温センサ804は、エンジン100の冷却水の温度(以下、水温とも記載する)を表す信号を出力する。エアフローメータ806は、エンジン100に吸入される空気量KL表す信号を出力する。
【0033】
ECU1000は、これらのセンサから入力された信号、ROM1002に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン100を制御する。
【0034】
図1に戻って、第1モータジェネレータ200は、一例として三相交流回転電機であって、電動機(モータ)としての機能と発電機(ジェネレータ)としての機能とを生じるように構成される。インバータ210を介してバッテリなどの蓄電装置700に接続されている。インバータ210を制御することにより、第1モータジェネレータ200の出力トルクあるいは回生トルクを適宜に設定するようになっている。その制御は、ECU1000によって行なわれる。なお、第1モータジェネレータ200のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0035】
動力分割機構300は、外歯歯車であるサンギヤ(S)310と、そのサンギヤ(S)310に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ(R)320と、これらサンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合しているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤ(C)330とを三つの回転要素として差動作用を生じる公知の歯車機構である。エンジン100の出力軸がダンパを介して第1の回転要素であるキャリヤ(C)330に連結されている。言い換えれば、キャリヤ(C)330が入力要素となっている。
【0036】
これに対して第2の回転要素であるサンギヤ(S)310に第1モータジェネレータ200のロータ(図示せず)が連結されている。したがってサンギヤ(S)310がいわゆる反力要素となっており、また第3の回転要素であるリングギヤ(R)320が出力要素となっている。そして、そのリングギヤ(R)320が、駆動輪(図示せず)に連結された出力軸600に連結されている。出力軸600の回転数は、出力軸回転数センサ602により検出され、出力軸回転数を表わす信号がECU1000に入力される。
【0037】
図3に、動力分割機構300の共線図を示す。図3に示すように、キャリヤ(C)330に入力されるエンジン100の出力するトルクに対して、第1モータジェネレータ200による反力トルクをサンギヤ(S)310に入力すると、これらのトルクを加減算した大きさのトルクが、出力要素となっているリングギヤ(R)320に現れる。その場合、第1モータジェネレータ200のロータがそのトルクによって回転し、第1モータジェネレータ200は発電機として機能する。また、リングギヤ(R)320の回転数(出力回転数)を一定とした場合、第1モータジェネレータ200の回転数を大小に変化させることにより、エンジン100の回転数を連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン100の回転数を例えば燃費が最もよい回転数に設定する制御を、第1モータジェネレータ200を制御することによって行なうことができる。その制御は、ECU1000によって行なわれる。
【0038】
走行中にエンジン100を停止させていれば、第1モータジェネレータ200が逆回転しており、その状態から第1モータジェネレータ200を電動機として機能させて正回転方向にトルクを出力させると、キャリヤ(C)330に連結されているエンジン100にこれを正回転させる方向のトルクが作用し、第1モータジェネレータ200によってエンジン100を始動(モータリングもしくはクランキング)することができる。その場合、出力軸600にはその回転を止める方向のトルクが作用する。したがって走行のための駆動トルクは、第2モータジェネレータ400の出力するトルクを制御することにより維持でき、同時にエンジン100の始動を円滑におこなうことができる。なお、この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称されている。
【0039】
図1に戻って、第2モータジェネレータ400は、一例として三相交流回転電機であって、電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成される。インバータ310を介してバッテリなどの蓄電装置700接続されている。インバータ310を制御することにより、力行および回生ならびにそれぞれの場合におけるトルクを制御するように構成されている。なお、第2モータジェネレータ400のステータ(図示せず)は固定されており、回転しないようになっている。
【0040】
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。それぞれ外歯歯車である第1サンギヤ(S1)510と第2サンギヤ(S2)520とが設けられており、その第1サンギヤ(S1)510に第1のピニオン531が噛合するとともに、その第1のピニオン531が第2のピニオン532に噛合し、その第2のピニオン532が各サンギヤ510,520と同心円上に配置されたリングギヤ(R)540に噛合している。
【0041】
なお、各ピニオン531,532は、キャリヤ(C)550によって自転かつ公転自在に保持されている。また、第2サンギヤ(S2)520が第2のピニオン532に噛合している。したがって第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R)540とは、第2のピニオン532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0042】
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。これらのブレーキ561,562は摩擦力によって係合力を生じるいわゆる摩擦係合要素であり、多板形式の係合装置あるいはバンド形式の係合装置を採用することができる。そして、これらのブレーキ561,562は、油圧による係合力に応じてそのトルク容量が連続的に変化するように構成されている。さらに、第2サンギヤ(S2)520に前述した第2モータジェネレータ400が連結される。キャリヤ(C)550が出力軸600に連結される。
【0043】
したがって、上記の変速機500は、第2サンギヤ(S2)520がいわゆる入力要素であり、またキャリヤ(C)550が出力要素となっており、B1ブレーキ561を係合させることにより変速比が“1”より大きい高速段が設定される。B1ブレーキ561に替えてB2ブレーキ562を係合させることにより、高速段より変速比の大きい低速段が設定される。
【0044】
この各変速段の間での変速は、車速や要求駆動力(もしくはアクセル開度)などの走行状態に基づいて実行される。より具体的には、変速段領域を予めマップ(変速線図)として定めておき、検出された運転状態に応じていずれかの変速段を設定するように制御される。
【0045】
図4に、変速機500の共線図を示す。図4に示すように、B2ブレーキ562によってリングギヤ(R)540を固定すれば、低速段Lが設定され、第2モータジェネレータ400の出力したトルクが変速比に応じて増幅されて出力軸600に付加される。これに対してB1ブレーキ561によって第1サンギヤ(S1)510を固定すれば、低速段Lより変速比の小さい高速段Hが設定される。この高速段Hにおける変速比も“1”より大きいので、第2モータジェネレータ400の出力したトルクがその変速比に応じて増大させられて出力軸600に付加される。
【0046】
なお、各変速段L,Hが定常的に設定されている状態では、出力軸600に付加されるトルクは、第2モータジェネレータ400の出力トルクを変速比に応じて増大させたトルクとなるが、変速過渡状態では各ブレーキ561,562でのトルク容量や回転数変化に伴う慣性トルクなどの影響を受けたトルクとなる。また、出力軸600に付加されるトルクは、第2モータジェネレータ400の駆動状態では、正トルクとなり、被駆動状態では負トルクとなる。
【0047】
図5に示すように、ハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値より小さいと、第2モータジェネレータ400の駆動力のみを用いてハイブリッド車が走行する。
【0048】
一方、ハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値以上になると、エンジン100が駆動される。これにより、第2モータジェネレータ400の駆動力に加えて、もしくは代わりに、エンジン100の駆動力を用いてハイブリッド車が走行する。また、エンジン100の駆動力を用いて第1モータジェネレータ200が発電した電力が第2モータジェネレータ400に直接供給される。
【0049】
走行パワーは、たとえば、ドライバにより操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)および車速などをパラメータに有するマップに従ってECU1000により算出される。すなわち、本実施の形態において、ハイブリッド車の走行パワーは、運転者が要求するパワーを表わす。なお、走行パワーを算出する方法はこれに限らない。なお、本実施の形態において、パワーの単位はkW(キロワット)である。
【0050】
ハイブリッド車は、走行パワーを、エンジン100と第2モータジェネレータ400とで分担して実現するように制御される。たとえば、第1モータジェネレータ200が発電しない場合であれば、エンジン100の出力パワーと第2モータジェネレータ400の出力パワーとの和が、走行パワーと略同じになるように制御される。したがって、エンジン100の出力パワーが零であると、第2モータジェネレータ400の出力パワーが、走行パワーと略同じになるように制御される。第2モータジェネレータ400の出力パワーが零であると、エンジン100の出力パワーが走行パワーと略同じになるように制御される。
【0051】
エンジン100を駆動する場合、たとえば、車速が高いほど、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下されて、走行パワーに対するエンジン100の出力パワーの比率が大きくされる。一例として、車速がしきい値よりも高い場合には、第2モータジェネレータ400の出力トルクが零まで低下されて、エンジン100の駆動力のみを用いてハイブリッド車が走行する。なお、出力パワーの制御態様はこれに限らない。
【0052】
エンジン100の出力軸回転数(エンジン回転数)NEおよび出力トルクは、図6において破線で示す第1運転線および実線で示す第2運転線に従って定められる。第1運転線および第2運転線は、エンジン回転数NEと出力トルクとの関係を示す。すなわち、第1運転線および第2運転線は、エンジン100の運転点を定める。第1運転線および第2運転線は、実験およびシミュレーションなどの結果に基づいて開発者により予め定められる。第2運転線は、第1運転線と比べて、同じ出力パワーを実現するときのエンジン回転数NEが高い。
【0053】
エンジン100のエンジン回転数NEおよび出力トルクは、第1運転線または第2運転線と、運転者の操作に応じて定められたエンジン100の出力パワーを示す等パワー線との交点として定められる。すなわち、エンジン100のエンジン回転数NEは、第1運転線上または第2運転線上において、運転者の操作に応じて定められたエンジン100の出力パワーを実現する回転数である。
【0054】
したがって、第1運転線に従ってエンジン100を駆動する状態から、第2運転線に従ってエンジン100を駆動する状態に移行する際には、たとえば、エンジン100の出力パワーを維持しながら、第1運転線によって定められる回転数から第2運転線によって定められる回転数までエンジン回転数NEが増大される。
【0055】
一例として、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下することに伴なってエンジン100の出力パワーが増大した場合には、第1運転線に沿って一旦エンジン100の出力パワーが増大した後、増大後の出力パワーを維持しながら、第1運転線によって定められる回転数から第2運転線によって定められる回転数までエンジン回転数NEが増大される。
【0056】
図6中の一点鎖線は、燃費が最適になるように定められた最適燃費線である。燃費を向上するためには、最適燃費線に近いエンジン回転数NEおよび出力トルクで運転することが好ましい。図6から明らかなように、エンジン100の出力パワーが同じであれば、第1運転線のエンジン回転数NEは第2運転線のエンジン回転数NEよりも最適燃費線に近い。すなわち、第2運転線は、第1運転線よりも最適燃費線から離間する。したがって、第2運転線よりも第1運転線に従ってエンジン100を駆動する方が燃費が向上する。
【0057】
第2運転線は、たとえば第2モータジェネレータ400が零である状態において、動力分割機構300または変速機500のギヤの歯同士が衝突することによる音の発生を、エンジン100の出力トルクの変動を小さくすることによって抑制するために用いられる。
【0058】
すなわち、第2運転線によって定められるエンジン回転数NEおよび出力トルクでエンジン100を駆動すると、エンジン100の出力トルクの変動が小さくなる。したがって、ギヤの歯同士が衝突することにより発生する音が低減される。第2運転線は、このような機能を実現し得るように定められる。
【0059】
本実施の形態では、一例として、第2モータジェネレータ400がトルクを出力しない状態(トルクが零である状態)、またはトルクが零付近(零を含む予め定められた範囲内)である状態において、第2運転線に従って定められたエンジン回転数NEおよび出力トルクでエンジン100が駆動される。
【0060】
一方、常に第2運転線に従ってエンジン100を駆動することは、燃費の観点から好ましくない。したがって、ギヤの歯同士が衝突することによる音が発生し難い状態、たとえば、第2モータジェネレータ400が出力するトルクによって、動力分割機構300または変速機500のギヤの歯同士の接触を維持し得る状態では、最適燃費線によって定められるエンジン回転数NEおよび出力トルクでエンジン100を駆動することが好ましい。
【0061】
ところが、最適燃費線によって定められる回転数から第2運転線によって定められる回転数までエンジン回転数NEを増大する際、エンジン回転数NEの増大量が大きいと、エンジン100の駆動音が急増し得る。駆動音の急増は、運転者に違和感を与え得る。そこで、駆動音の増大量を低減すべく、本実施の形態では、一例として、第2モータジェネレータ400がトルクを出力する状態(出力トルクが零より大きい状態)、または第2モータジェネレータ400がしきい値(零より大きい)より大きい状態においては、同じ出力パワーでは最適燃費線よりもエンジン回転数NEが高い第1運転線に従って定められたエンジン回転数NEおよび出力トルクでエンジン100が駆動される。第1運転線は、駆動音の増大量が許容範囲となるように定められる。
【0062】
図7に示すように、第1運転線は、車速が高いほど、最適燃費線により近づく、よって、第1運転線は、車速が高いほど、第2運転線からより大きく離間する。すなわち、第1運転線によって定められるエンジン回転数NEは、車速が高いほど、第2運転線によって定められるエンジン回転数NEからより大きく離間する。そのため、車速が高いほど、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下したときのエンジン回転数NEの増大量が大きくなる。これにより、増大する前のエンジン回転数NE、すなわち、第2モータジェネレータ400がトルクを出力する状態において定められるエンジン運転点が最適燃費線により近づけられる。そのため、燃費の向上に寄与することができる。また、車速が高い場合など、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジン回転数NEの増大量が大きくても、運転者に違和感を与え難い。その結果、エンジン回転数NEを増大させるときに運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【0063】
車速が高いほど第1運転線を第2運転線からより大きく離間させるとともに、もしくは代わりに、図8に示すように、エンジン回転数NEが高いほど、第1運転線を最適燃費線により近づけてもよい。言い換えると、エンジン回転数NEが高いほど、第1運転線を第2運転線からより大きく離間させてもよい。すなわち、第1運転線によって定められるエンジン回転数NEは、エンジン回転数NEが高いほど、第2運転線によって定められるエンジン回転数NEからより大きく離間する。このようにしても、エンジン回転数NEを増大させるときに運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【0064】
さらに、エンジン回転数NEを増大する場合、車速およびエンジン回転数NEのうちのいずれかが高いほど、より速くエンジン回転数NEを増大するようにしてもよい。これにより、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下したことに伴なってギヤなどにおいて音が発生する前に、エンジン回転数NEを速やかに増大することができる。そのため、音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0065】
本実施の形態においては、車速もしくはエンジン回転数が高いほど、第1運転線を第2運転線からより大きく離間させているが、必ずしも全ての運転領域において、車速もしくはエンジン回転数が高いほど、第1運転線を第2運転線からより大きく離間させなくてもよい。
【0066】
図9を参照して、本実施の形態においてECU1000が実行する処理について説明する。なお、以下に説明する処理はソフトウェアにより実現してもよく、ハードウェハにより実現してもよく、ソフトウェアとハードウェハとの協働により実現してもよい。
【0067】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU1000は、たとえば変速機500の出力軸回転数に基づいて車速を検出する。
【0068】
S102にて、ECU1000は、車速に応じて第1運転線を選択する。車速が高いほど第2運転線からより大きく離間した第1運転線が選択される。
【0069】
S104にて、ECU1000は、第1運転線を用いて定められたエンジン回転数NEおよび出力トルクで、エンジン100を駆動する。上述したように、本実施の形態においては、一例として、第2モータジェネレータ400がトルクを出力する状態、または出力トルクがしきい値より大きい状態において、第1運転線に従って定められたエンジン回転数NEおよび出力トルクでエンジン100が駆動される。
【0070】
S106にて、ECU1000は、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下したか否かを判断する。たとえば、第2モータジェネレータ400の出力トルクが零まで、あるいは零を含む予め定められた範囲まで低下したか否かが判断される。なお、ECU1000自身が第2モータジェネレータ400の出力トルクを設定しているため、第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下したか否かは、ECU1000自身が設定した第2モータジェネレータ400の出力トルクに基づいて判断される。
【0071】
第2モータジェネレータ400の出力トルクが低下すると(S106にてYES)、処理はS108に移される。もしそうでないと(S106にてNO)、処理はS100に戻される。
【0072】
S108にて、ECU100は、第2運転線を用いて定められたエンジン回転数NEおよび出力トルクで、エンジン100を駆動する。したがって、第1運転線を用いて定められた回転数から、第2運転線を用いて定められた回転数まで、エンジン回転数NEが増大される。
【0073】
以上のように、本実施の形態によれば、車速またはエンジン回転数NEが高い状態、すなわち、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジン回転数NEの増大量が大きくされる。これにより、増大される前のエンジン回転数NEをできるだけ低くすることができる。そのため、燃費の向上に寄与することができる。また、車両の走行に伴なう騒音が大きい状態では、エンジン100の駆動音の増大量が大きくても、運転者に違和感を与え難い。その結果、エンジン回転数NEを増大させるときに運転者に与える違和感を大きくせずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【0074】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0075】
100 エンジン、200 第1モータジェネレータ、300 動力分割機構、400 第2モータジェネレータ、500 変速機、802 クランク角センサ、1000 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源としての電動モータが設けられた車両に搭載されたエンジンの駆動装置であって、
前記電動モータがトルクを出力する状態において、第1の出力軸回転数で前記エンジンを駆動するための駆動手段と、
前記電動モータのトルクが低下した場合、前記エンジンの出力軸回転数を前記第1の出力軸回転数から第2の出力軸回転数まで増大するための増大手段とを備え、
前記第1の出力軸回転数は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、第2の出力軸回転数からより大きく離間する、エンジンの駆動装置。
【請求項2】
前記増大手段は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、より速く前記出力軸回転数を増大する、請求項1に記載のエンジンの駆動装置。
【請求項3】
前記増大手段は、前記エンジンの出力パワーを維持しながら、前記エンジンの出力軸回転数を前記第1の出力軸回転数から第2の出力軸回転数まで増大する、請求項1に記載のエンジンの駆動装置。
【請求項4】
前記エンジンの出力パワーは、運転者の操作に応じて定められ、
前記第1の出力軸回転数は、前記エンジンの出力軸回転数と出力トルクとの関係を示す予め定められた第1の線上において、運転者の操作に応じて定められた出力パワーを実現する回転数であり、
前記第2の出力軸回転数は、前記エンジンの出力軸回転数と出力トルクとの関係を示し、前記第1の線と比べて、同じ出力パワーでの出力軸回転数が高くなる第2の線上において、運転者の操作に応じて定められた出力パワーを実現する回転数である、請求項1に記載のエンジンの駆動装置。
【請求項5】
前記第1の線は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、前記第2の線からより大きく離間する、請求項4に記載のエンジンの駆動装置。
【請求項6】
駆動源としての電動モータが設けられた車両に搭載されたエンジンの駆動装置であって、
前記電動モータがトルクを出力する状態において、前記エンジンの運転点を定める第1の運転線に従って前記エンジンを駆動するための手段と、
前記電動モータのトルクが低下した場合に、前記第1の運転線よりも最適燃費線から離間した、前記エンジンの運転点を定める第2の運転線に従って前記エンジンを駆動するための手段とを備え、
前記第1の運転線は、車速および出力軸回転数のうちのいずれかが高いほど、前記最適燃費線により近い、エンジンの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−56390(P2012−56390A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199895(P2010−199895)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】