説明

エンジンピストンのコーティングのための耐摩耗性減摩ラッカー

フェノール樹脂と、黒鉛、MoS、WS、BNおよびPTFEのうち少なくとも1つの固体潤滑剤、およびカーボンファイバーからなるコーティング配合物について述べる。該コーティングは有利な耐磨耗性を有するとともに、有利な摩擦係数を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンピストンのコーティング、特に内燃機関のピストンシャフトのコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンシャフトのコーティングは、高い耐摩耗性と同時に低い摩擦係数を示すべきである。繰り返しの冷態始動等の高度の摩耗のために、特に高い耐久性と耐摩耗性がエンジン操作状態において要求される。これに関して、ピストンシャフトの耐力領域におけるコーティングの消耗は上記の全てを避けるべきである。
【0003】
様々な内燃機関のピストンのコーティングが先行技術において知られている。
【0004】
例えば、特許文献1において、アルコールまたは非石油製品を燃料として用いるエンジンのピストンおよび/またはシリンダーの表面のコーティングのための潤滑剤配合物が述べられている。この潤滑剤配合物は、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)のマトリクス内の黒鉛、MoSおよびPTFEの混合物からなる。
【0005】
特許文献2において、未硬化ポリアミドイミド(PAI)と、PTFE、酸化チタン粉末またはシランカップリング剤等の固体潤滑剤との混合によって得られるピストンのコーティング配合物が述べられている。
【0006】
特許文献3においても、PAIラッカーからなるピストンのコーティングが述べられている。このコーティングはPTFEを含まず、5〜15重量%の硫化亜鉛、5〜15重量%の黒鉛またはMoS2および5〜15重量%のTiOを含む。硫化亜鉛およびTiOは、粒子サイズ0.7μm以下の微粒子の形態で用いられる。
【0007】
特許文献4において、エポキシ樹脂内の黒鉛、MoSおよびBNの固体潤滑剤でコーティングされる、ウェブの浮き彫りの方式で形成されるピストンスカートを有するピストンからなる往復ピストン配置が述べられている。
【0008】
特許文献5において、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリオレフィンワックスを潤滑剤として含む、ヒンジ等の防食潤滑剤が述べられている。このコーティングはまた、腐食防止剤としてのアルミニウム粒子、亜鉛粒子または金属リン酸塩、および溶媒を含む。
【0009】
特許文献6において、例えばエポキシ樹脂またはPEEKから構成されうる高分子マトリクスを有する、スライドベアリングのための高分子複合材料が述べられている。フィルター材料およびナノスケール粒子がこの高分子マトリクスに埋め込まれる。アラミド繊維、グラスファイバー、カーボンファイバー、ガラス球、PTFE、黒鉛およびシリコンをフィルター材料として用いることができる。ナノスケール粒子は、TiO、Al、MgO、ZeO、SiC、Si、BN、ガラスおよび硬質固体金属材料から形成されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許5 486 299
【0011】
【特許文献2】欧州特許1 469 050 A1
【0012】
【特許文献3】ドイツ特許10 2005 026 664 A1
【0013】
【特許文献4】ドイツ特許43 43 439 A1
【0014】
【特許文献5】欧州特許0 976 795 A2
【0015】
【特許文献6】ドイツ特許103 29 228 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、向上した耐磨耗性を示すとともにエンジンの摩擦損失を最小化するピストンのコーティング配合物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1に係るコーティング配合物によって達成される。
【0018】
驚いたことに、このような配合によって低摩擦、耐磨耗性および極度な付着性のピストンコーティング、特にピストン軸コーティングが得られることが発見されており、その特性は先行技術のシステムと同等またはそれ以上である。
【0019】
本発明に係る配合物は、熱硬化性フェノール樹脂からなる。熱硬化性フェノール樹脂、いわゆるレゾールは、ノボラックとは対照的に、水酸基を介して架橋することができる。好ましくは、平均分子量500〜1500g/molのフェノール樹脂を用いる。
【0020】
有利な実施形態において、本発明に係る配合物はエポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂の添加は、概して層の金属表面への付着力および柔軟性を高める。このため、好ましくは分子量2000〜4000g/molおよび700g/molより大きいエポキシ当量のビスフェノールAが用いられる。
【0021】
本発明に関しては、これらの樹脂は溶媒内の液体として用いることが好ましい。溶媒の選択は、本質的に、ラッカー塗布の性質に拠るとともに、硬化したコーティングの特性には影響しない。ピストンのコーティングはしばしばスクリーン印刷法でなされる。この適用のためには、高融点の溶媒が好ましい。適した溶媒は、例えばブチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールブチルエーテルおよびブトキシルエタノールを含む。
【0022】
フェノール樹脂、および随意にエポキシ樹脂を、水希釈性分散として用いてもよい。
【0023】
黒鉛、MoS、WS、BNおよび/またはPTFEを固体潤滑剤として配合物に加える。これに関して、概して当業者に知られるグレードを固体潤滑剤として用いることができる。好ましくは平均粒径1〜100μm、特に好ましくは5〜50μmの黒鉛を用いる。好ましくは平均粒径0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜10μmの二硫化モリブデンを用いる。好ましくは平均粒径1〜100μm、特に好ましくは1〜20μmの六方晶変態の窒化硼素を用いる。好ましくは平均粒径1〜100μm、特に好ましくは1〜20μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)原料を用いる。
【0024】
黒鉛を固体潤滑剤として用いる場合、全配合物の2〜8重量%の量で用いるのが好ましい。
【0025】
MoSを固体潤滑剤として用いる場合、全配合物の10〜20重量%の量で用いるのが好ましい。
【0026】
前記固体潤滑剤の粒径は、当業者に知られる方式の光散乱測定によって決定することができる。
【0027】
なお、本発明に係る配合物はカーボンファイバーを含む。好ましくはそれは全配合物の2〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%の量で用いる。カーボンファイバーは平均繊維厚100μm以下、好ましくは1〜10μmであるとともに、平均繊維長1000μm以下、好ましくは10〜500μmであることが好ましい。本発明に係る配合物はまた、いわゆるカーボンナノファイバーを含んでもよく、その平均繊維厚は従来のカーボンファイバーと対照的に1μm未満、好ましくは10〜500nmであるものとする。これに関して、従来のカーボンファイバーの厚さおよび長さは光学顕微鏡で測定している。カーボンナノファイバーの厚さおよび長さは走査型電子顕微鏡で測定することができる。
【0028】
前記の配合物に加えて、配合物はまた、流れ調整剤、消泡剤、湿潤剤、分散剤または流動添加剤といった添加剤および補助剤を含みうる。
【0029】
本発明に係るコーティング配合物の特に好ましい実施形態を以下の表に示す(量はg/全配合100gで示され、樹脂の量は固形分を参照する)。
【表1】

【0030】
本発明は以下の例によってより詳細に述べられるが、それは本発明の主題を制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
全ての量は全配合についての重量%で示される。樹脂の量は固形分を参照する。添加剤および補助剤の量は供給された形態を参照する。
【表2】

【0032】
層の摩擦学的性質は、キャメロン プリント TE−77 トライボテスターによって調査された(摩擦摩耗試験)。この目的のために、アルミニウム試料を本発明に係るラッカー配合でコーティングし、カウンターピースとしての鋳鉄と組み合わされた層の摩擦係数を測定した。測定は、150Nの負荷のもとで25Hzの振動周波数において油を差していない状態で行われた。
【0033】
摩擦係数は別として、エンジン動作条件における層の耐摩耗性は特に重要である。この目的のために、対応するピストンをエンジン試験ベンチでの摩耗試験にかけた。これは従来の4気筒ガソリンエンジンでの50回の連続した−10℃における冷態始動からなる。試験の後でピストン軸上の減摩ラッカーコーティングの摩耗を視覚的に評価し、1から5の評点を与えた。評点1では層の可視の摩耗が示されず、評点5ではピストン軸の負荷がかかる領域全体においてピストンの材料に高度の摩耗が示される。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、
黒鉛、MoS、WS、BNおよびPTFEのうち少なくとも1つの固体潤滑剤と、
カーボンファイバーと、
からなるコーティング配合物。
【請求項2】
厚さ100μm以下かつ長さ500μm以下のカーボンファイバーを用いる、請求項1に記載のコーティング配合物。
【請求項3】
添加剤および補助剤をさらに含む、請求項1または2に記載のコーティング配合物。
【請求項4】
エポキシ樹脂をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティング配合物。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は全配合物の10〜30重量%の量で用いるものとする、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティング配合物。
【請求項6】
前記カーボンファイバーは全配合物の3〜10重量%の量で用いるものとする、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティング配合物。
【請求項7】
前記請求項のいずれか一項に記載のコーティング配合物の、ピストンへの使用。
【請求項8】
ピストン軸への、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記ピストンは内燃機関のピストンであるものとする、請求項7または8のいずれかに記載の使用。

【公表番号】特表2012−525457(P2012−525457A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507713(P2012−507713)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055619
【国際公開番号】WO2010/125060
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(510330840)フェデラル−モグル ニュルンベルク ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】