説明

エンジンルームの隔壁構造

【課題】エンジンルームに入力された荷重を効率よく吸収することができるエンジンルームの隔壁構造を提供すること。
【解決手段】ほぼ鉛直方向に起立して上端部10bがフードパネル6に当接又は近接する隔壁10を、車両のエンジンルーム1内に設けたエンジンルームの隔壁構造であって、隔壁10は、可撓性部材により形成すると共に、エンジンルーム1に入力した荷重を受ける受圧面13の背面14側に車両上下方向に延びるリブ20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジンルーム内に、ほぼ鉛直方向に起立して、上端部がフードパネルに当接又は近接する隔壁が設けられたエンジンルームの隔壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のエンジンルーム内に、ほぼ鉛直方向に起立して、上端部がこのエンジンルームを覆うフードパネルに当接又は近接する隔壁が設けられ、この隔壁によってエンジンルームの内部を区画するエンジンルームの隔壁構造が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−324267号公報
【特許文献2】特開平11−321708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のエンジンルームの隔壁構造では、エンジンルームの前側上方から荷重が入力した場合、隔壁による反力によって、この入力荷重の吸収効率が低減するおそれがあった。
【0004】
そこで、この発明は、エンジンルームに入力された荷重を効率よく吸収することができるエンジンルームの隔壁構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、ほぼ鉛直方向に起立して上端部がフードパネルに当接又は近接する隔壁を、車両のエンジンルーム内に設けたエンジンルームの隔壁構造であって、前記隔壁は、可撓性部材により形成されると共に、前記エンジンルームに鉛直方向に対して傾斜した角度に沿って入力した荷重を受ける受圧面の背面側に、車両上下方向に延びるリブを設けたことを最も主な特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
このように構成された本発明によると、エンジンルームに鉛直方向に対して傾斜した角度に沿って荷重が入力された際に、受圧面の背面側に設けたリブに曲げ変形応力が作用し、可撓性部材により形成された隔壁を支持するリブが容易に座屈できる。これにより、隔壁の反力を低減させて入力荷重を効率よく吸収することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るエンジンルームの隔壁構造の最良の実施の形態について図面に基づいて説明する。なお、図中適宜示された矢印Xは車両前方を示し、矢印Yは車両外側を示し、矢印Zは車両上方を示している。
【0008】
図1に示す1は、自動車等の車両の前部に形成されたエンジンルームである。このエンジンルーム1は、車幅方向両側部に配置されて車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ2,2と、フロントサイドメンバ2,2のそれぞれの車両外側に形成された一対のストラットタワー3,3と、各ストラットタワー3,3のさらに車両外側に配置されて車両前後方向に延びる一対のフードリッジパネル4,4等とを有している。
【0009】
また、このエンジンルーム1は、後部にダッシュパネル5が設けられて図示しない車室と区画されている。
【0010】
さらに、このエンジンルーム1の上側は、フードパネル6により開閉自在に覆われている。
【0011】
そして、エンジンルーム1内の左右両側部には、一対の隔壁10,10が設けられている。
【0012】
この隔壁10は、ゴム等の柔軟性を有する可撓性部材により帯板形状に形成されている。そして、図3に示すように、下端部10aが、硬質プラスチックにより形成された脚枠7の上端部7aに取り付けられてほぼ鉛直方向に起立している。なお、ここでは、車両外側に位置する端部10cが、脚枠7に設けられたブラケット7bに取り付けられている。
【0013】
さらに、この隔壁10の車両上下方向の長さ(高さ)は、フードパネル6が閉められた際に、上端部10bがこのフードパネル6に当接又は近接する大きさに設定されている(図6(a)参照)。
【0014】
また、隔壁10は、フードリッジパネル4近傍からストラットタワー3の側部に沿って車幅方向内側に延在された後に、ダッシュパネル5に向かって車両後方に湾曲し、ダッシュパネル5近傍で再び車幅方向内側に沿うように湾曲している。これにより隔壁10は、図4に示すように、長手方向の全長にわたって大きく蛇行し、平面視した際にR状に湾曲することとなる。
【0015】
そして、図3に示すように、隔壁10の車両上下方向の中間部には、水平方向に延びる脆弱部としての第一ビード部11と、この第一ビード部11の下方に位置する脆弱部としての第二ビード部12とが形成されている。
【0016】
第一ビード部11及び第二ビード部12は、それぞれ車両前方に向かって突出するビード形状を呈しており、それぞれ隔壁10の上端部10bに対してほぼ平行に延びている。
【0017】
なお、ここでは、隔壁10の車両上下方向の長さ(高さ)に応じて、第二ビード部12の全長の方が第一ビード部11の全長よりも短くなっている。
【0018】
また、図3に示すように、第一、第二ビード部11,12のビード形状は、最も突出した頂部11a,12aの上側部の傾斜が下側部の傾斜よりもなだらかなものとなっている。
【0019】
さらに、この隔壁10の受圧面13の背面14側には、車両上下方向に延びる多数のリブ20が設けられている。
【0020】
ここで、「受圧面13」とは、エンジンルーム1に鉛直方向に対して傾斜した角度に沿って入力した荷重を受ける面であり、ここではエンジンルーム1の前側上方から入力した荷重を受ける面となっており、車両前方側に面している。
【0021】
また、背面14は、受圧面13の裏面側であり、ここでは車両後方側に面している。
【0022】
リブ20は、隔壁10の背面14に一体に形成され、隔壁10と同じ可撓性部材により形成されている。
【0023】
そして、このリブ20は、第一ビード部11及び第二ビード部12と交差すると共に、隔壁10の下端部10aまで延設された複数の大リブ21と、第一ビード部11と交差すると共に、隔壁10の車両上下方向中間部まで延設された複数の小リブ22とを有している。
【0024】
これらの複数の大リブ21と複数の小リブ22とは、隔壁10の長手方向に沿って交互に配置されている。
【0025】
大リブ21は、図5(a)に示すように、下方に向かうにつれて次第に隔壁10から突出し、車両前方に突出した第一、第二ビード部11,12のそれぞれに沿って車両前方に突出する第一、第二突部21b、21cを有している。また、図5(b)に示すように、この大リブ21は、隔壁10の背面14に対して直交せず傾斜した状態で設けられている。
【0026】
そして、大リブ21の下端部21aは、脚部7の上端部7aに形成された嵌合部7cに嵌合している。
【0027】
一方、小リブ22は、図5(a)に示すように、車両前方に突出した第一ビード部11に沿って車両前方に突出する突部22aを有すると共に、図5(b)に示すように、隔壁10の背面14に対して直交せず傾斜した状態で設けられている。
【0028】
次に、この発明のエンジンルームの隔壁構造の作用について説明する。
【0029】
まず、エンジンルーム1を覆うフードパネル6を閉めた場合では、このエンジンルーム1に、図6(a)において矢印αで示すように、ほぼ鉛直方向に沿って荷重が入力される。
【0030】
そして、この入力荷重αは隔壁10に対してもほぼ鉛直方向に沿って入力し、この隔壁10は上方からの圧縮応力を受けることとなる。
【0031】
ここで、隔壁10には車両上下方向に延びるリブ20が設けられているので、隔壁10は上方からの圧縮応力、すなわち法線応力に対して補強され、入力荷重αに対して十分な強度を有している。
【0032】
このため、フードパネル6を閉めた場合に、隔壁10が撓んだり座屈したりせずに起立状態を保持することができ、この隔壁10の上端部10bとフードパネル6との間が遮断されて遮音性及び遮熱性を十分に確保することが可能となる。また、このリブ20により、隔壁10が自重によって撓むことも防止できる。
【0033】
そして、車両の前側上方からエンジンルーム1の荷重が入力した場合では、図6(b)において矢印βで示すように、鉛直方向に対して前方に傾いた方向に沿って荷重が入力される。
【0034】
そして、この入力荷重βは、隔壁10に対しても鉛直方向に対して前方に傾いた方向に沿って入力する。このため、隔壁10は上方からの曲がり変形応力、いわゆるせんだん応力を受けることとなる。なお、この入力荷重βは車両前方から入力されるため、隔壁10の荷重を受ける面である受圧面13は車両前方に面する。
【0035】
ここで、隔壁10及びリブ20は可撓性部材により形成されているので、曲がり変形応力に対して容易に座屈することができ、入力荷重βに対する隔壁10による反力が低減して、入力荷重βを効率よく吸収することができる。
【0036】
特に、リブ20が隔壁10の受圧面13の背面14側に設けられているので、入力荷重βによってリブ20が圧縮される方向に変形し、このリブ20が隔壁10の座屈変形を阻害することはない。
【0037】
また、隔壁10の車両上下方向中間部には、水平方向に延びる第一、第二ビード部11,12が形成されている。
【0038】
このため、隔壁10に入力荷重βが入力された際に、この第一、第二ビード部11,12が座屈変形のトリガーとなって隔壁10の座屈を誘発し、隔壁10の座屈変形がさらに容易に行われて、入力荷重βの吸収効率を向上することが可能となる。
【0039】
特に、この第一、第二ビード部11,12が車両前方に向かって突出したビード形状を呈している。このため、車両の前側上方から入力された入力荷重βに対して、隔壁10が確実に車両後方に向かって倒れるように座屈させることができ、座屈の方向を規制して隔壁10のさらなる反力低減を図ることが可能となる。
【0040】
また、第一、第二ビード部11,12が隔壁10の上端部10bに対してほぼ平行に形成されているので、隔壁10に入力荷重βが作用した際に、この隔壁10は長手方向に沿ってほぼ均一に座屈することとなる。このため、隔壁10の反力をさらに低減させることが可能になり、入力荷重βの吸収効率の向上を図ることができる。
【0041】
そして、第一、第二ビード部11,12が隔壁10の車両上下方向に沿って順に設けられているので、隔壁10の車両上下方向の長さ(高さ)が大きくても、確実に座屈させることが可能となる。
【0042】
さらに、ここでは、隔壁10の受圧面13が車両前方に面しているので、車両前部に配置されたエンジンルーム1に車両の前側上方から入力される入力荷重βに対して大きな効果をあげることができる。
【0043】
また、リブ20の大リブ21及び小リブ22は、各々隔壁10の背面14の面直方向に対して傾斜した状態で設けられている。これにより、各大リブ21及び小リブ22に作用する曲げ変形応力をさらに大きく作用させることができ、隔壁10の反力をさらに低減することが可能となる。
【0044】
また、複数の大リブ21と複数の小リブ22とが隔壁10の長手方向に沿って交互に配置されているので、隔壁10の剛性を適度に保持すると同時に十分な反力の低減を図ることができる。すなわち、隔壁10の剛性の適切なコントロールを容易に行うことができる。
【0045】
なお、上述の実施の形態では、大リブ22が下方に向かうにつれて次第に隔壁10から突出しており、大リブ22は下部が上部よりも太くなる形状となっている。
【0046】
そのため、隔壁10は下端部10aの方が上端部10bよりも強度が高くなり、さらに上端部10b側から座屈変形しやすくなって、十分な反力の低減を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、隔壁10が上面視で長手方向の全長にわたって蛇行するように湾曲しているので、隔壁10の自立力が高まり、自重によって撓んだりすることなくフードパネル6との間に間隙が生じることを防止できる。
【0048】
さらに、上述の実施の形態では、第一、第二ビード部11,12のそれぞれのビード形状が、頂部11a,12aの上側部の方が下側部よりもなだらかな傾斜となっている。このため、隔壁10の前側上方から入力された入力荷重βを受ける面を大きく確保することができ、隔壁10の座屈がさらに容易に行えることができる。また、隔壁10を形成する際の型抜きも円滑に行うことが可能となる。
【0049】
以上、この発明にかかる実施の形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施の形態に限らない。この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等はこの発明に含まれる。
【0050】
例えば、上述の実施の形態では、脆弱部として車両前方に突出する第一、第二ビード部11,12が設けられているが、これに限らず、隔壁10の車両用下方向の中間部において剛性を変化させる構成であればよい。
【0051】
すなわち、脆弱部として水平方向に沿って小穴を連続して形成したり、隔壁10の厚みを薄くしたり、材質を変化させたりしてもよい。
【0052】
また、上述の実施の形態では、受圧面13が車両前方に面しているが、この受圧面13が車両後方に面していてもよい。この場合、リブ20は車両前方に面した側に設けられることとなる。
【0053】
これにより、隔壁10の後側上方から荷重が入力された際に、隔壁10の反力を低減させて荷重吸収効率を向上させることが可能となる。特に、エンジンルーム1が車両後部に形成された場合に有効である。
【0054】
さらに、脆弱部である第一、第二ビード部11,12の設定数も、隔壁10の車両上下方向の長さ(高さ)に応じて適宜増減することができる。
【0055】
これにより、隔壁10の剛性がより適切なものとなり、荷重吸収効率をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るエンジンルームの隔壁構造を備えたエンジンルームを示す斜視図である。
【図2】図1に示す隔壁のうち右側に配置された隔壁の背面側を示す斜視図である。
【図3】図2に示す隔壁を示す側面図である。
【図4】図2に示す隔壁を示す平面図である。
【図5】(a)は図2におけるA部の拡大図であり、(b)は図5(a)におけるB−B断面図である。
【図6】(a)は本発明に係るエンジンルームの隔壁構造においてほぼ鉛直方向に沿って荷重が入力された場合を示す説明図であり、(b)は鉛直方向に対して傾斜した角度に沿って荷重が入力された場合を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジンルーム
6 フードパネル
10 隔壁
10b 上端部
13 受圧面
14 背面
20 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ鉛直方向に起立して上端部がフードパネルに当接又は近接する隔壁を、車両のエンジンルーム内に設けたエンジンルームの隔壁構造であって、
前記隔壁は、可撓性部材により形成されると共に、前記エンジンルームに鉛直方向に対して傾斜した角度に沿って入力した荷重を受ける受圧面の背面側に、車両上下方向に延びるリブを設けたことを特徴とするエンジンルームの隔壁構造。
【請求項2】
前記隔壁には、水平方向に延びる脆弱部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項3】
前記脆弱部は、車両前方に向かって突出したビード形状を呈していることを特徴とする請求項2に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項4】
前記脆弱部は、前記隔壁の上端部に対してほぼ平行に形成されたことを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項5】
前記脆弱部は、車両上下方向に沿って複数設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項6】
前記受圧面は、車両前方側に面していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項7】
前記リブは、前記隔壁の面直方向に対して傾斜した状態で設けられたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項8】
前記リブは、前記脆弱部と交差すると共に前記隔壁の下端部まで延設される大リブと、前記脆弱部と交差すると共に前記隔壁の中間部まで延設される小リブとを有し、前記大リブと前記小リブとが交互に配置されたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のエンジンルームの隔壁構造。
【請求項9】
前記隔壁は、上面視で長手方向の全長にわたって蛇行するように湾曲していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のエンジンルームの隔壁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−29324(P2009−29324A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196981(P2007−196981)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】