エンジン制御方法及びエンジン制御装置
【課題】エンジンの排気音によって多彩な音表現をして、車両の新たな楽しみ方を提供できるエンジン制御方法及びエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置2によりエンジン4の運転状態を制御するエンジン制御方法およびエンジン制御装置1である。そして、エンジン4の無負荷運転状態で、電子制御装置2のパターンプログラムに基づいて少なくとも前記エンジン4の回転数(Ne)の制御により、排気音が変化する特定パターン(P)を生じさせることを特徴とする。
【解決手段】電子制御装置2によりエンジン4の運転状態を制御するエンジン制御方法およびエンジン制御装置1である。そして、エンジン4の無負荷運転状態で、電子制御装置2のパターンプログラムに基づいて少なくとも前記エンジン4の回転数(Ne)の制御により、排気音が変化する特定パターン(P)を生じさせることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン制御方法及びエンジン制御装置に関し、特に、エンジンの排気音を変化させることのできるエンジン制御方法及びエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツカーにおいて、例えば特許文献1にエンジン回転を制御して排気音におけるスポーツカーサウンド楽しむ技術が開示されている。この特許文献1に開示されたものは、例えばアイドリング時のエンジン状態を、スポーツカーサウンドとなるように排気音中の重低音を増大させて運転者の満足度を増すという技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−109014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術においては、排気音の重低音を増やすといった程度の制御であり、より多彩の音を出して例えば排気音のパターン変化までさせるようなものは無いのが現状であった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの排気音によって多彩な音表現ができる新たな楽しみ方を提供できるエンジン制御方法及びエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、電子制御装置によりエンジンの運転状態を制御するエンジン制御方法であって、
前記エンジンの無負荷運転状態で、前記電子制御装置のパターンプログラムに基づいて少なくともスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータにより前記エンジンの回転数を制御して排気音が変化する特定パターンを生じさせることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記エンジンの回転数の複数の高低区分を、前記エンジンの前記排気音の音階の複数の音程に一対一対応する音階テーブルを設定しておき、前記パターンプログラムを前記エンジンの回転数の制御にて演奏するときに、前記特定パターンを前記音階にて表すことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、前記音階の1音長さを、前記回転数の制御時間の長さで表す音長テーブルを設定しておき、前記パターンプログラムを前記回転数の制御にて演奏するときに、前記特定パターンを前記音長テーブルに基づいて前記1音長さにて表すことを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記エンジンを搭載する車両の状態検出部からの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の排気ガスセンサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の水温センサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のオイル温センサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のニュートラルスイッチまたはクラッチスイッチの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のメインスタンドスイッチの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0015】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏を、前記エンジンの予め設定された回転数以下で行うことを特徴とする。
【0016】
請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムを前記電子制御装置の外部から取得することを特徴とする。
【0017】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を、前記パターンプログラムが記録されたメディアの装着にて行うことを特徴とする。
【0018】
請求項13に係る発明は、請求項11に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を、前記電子制御装置の無線通信部を介して行うことを特徴とする。
【0019】
請求項14に係る発明は、請求項13に記載の構成に加えて、前記無線通信部を介して複数の車両間で同期させて前記パターンプログラムの合奏運転を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項15に係る発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される前記パターンプログラムを演奏することを特徴とする。
【0021】
請求項16に係る発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムを演奏するときに、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される固有の演奏変化を付けて演奏することを特徴とする。
【0022】
請求項17に係る発明は、吸気制御系、燃料制御系、点火制御系の少なくともいずれかを制御してエンジンの運転状態をコントロールする電子制御装置を備えたエンジン制御装置であって、
前記電子制御装置には、前記エンジンの運転状態を、無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において排気音を特定パターンで変化させるパターンプログラムを駆動する演奏プログラム部が設けられ、前記エンジンの排気音を前記パターンプログラムに基づいて変化させることを特徴とする。
【0023】
請求項18に係る発明は、請求項17に記載の構成に加えて、音階テーブルおよび音長テーブルを有する前記パターンプログラムが演奏プログラム部により駆動されて前記特定パターンを演奏することを特徴とする。
【0024】
請求項19に係る発明は、請求項17または18に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムが記録されたメディアの着脱が自在に構成された装着部を備えたことを特徴とする。
【0025】
請求項20に係る発明は、請求項19に記載の構成に加えて、前記装着部がスピードメータ部に設けられるとともに、前記メディアを用いる前記パターンプログラムの演奏を選択する操作スイッチが前記装着部の近傍に設けられたことを特徴とする。
【0026】
請求項21に係る発明は、請求項17〜20のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を行う無線通信部が設けられたことを特徴とする。
【0027】
請求項22に係る発明は、請求項17〜21のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部を備え、前記車両診断検出部が前記車両の診断信号を前記電子制御装置に送ることにより、前記診断信号に対応する固有の演奏を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、エンジンの運転状態を特定パターンで変化させるパターンプログラムによって、エンジンの運転状態を変化させて該エンジンの排気音を特定パターンで変化させることができるので、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することが可能となり、車両のこれまでの運転目的とは異なった新たな利用方法や楽しみ方を提供することができる。
【0029】
請求項2の発明によれば、エンジンの回転数の複数の高低区分の設定を、エンジンの排気音の音階の複数の音程に一対一対応する音階テーブルに基づいているので、エンジン回転数の制御による排気音によって音程を表現できて、排気音にて楽曲の演奏が可能となる。
【0030】
請求項3の発明によれば、特定パターンの音階の1音長さを、回転数の制御時間の長さで表す音長テーブルに基づいて表現することができるので、エンジンの運転状態を小刻みに変化させるなど可能になり排気音の特定パターンのテンポ変化を作り出すことができ、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することができる。
【0031】
請求項4の発明によれば、車両の状態検出部からの信号に応じて排気音のパターンプログラムの演奏の可否を判断するので、車両ならびにエンジンの最適状態を認識して、良好な特定パターンの演奏をすることができる。
【0032】
請求項5の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部の排気ガスセンサの信号に基づき行うので、排気ガスセンサの信号に基づいて特定パターンの演奏を行うときの排気ガスのクリーン化に寄与できる。
【0033】
請求項6の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の水温センサの信号に基づき行うので、例えば暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な運転を回避でき、エンジンへの不要な負荷を回避してエンジン耐久性の向上に寄与することができる。また、エンジンの低温運転による音質の低下が回避されて良いエンジン状態での演奏が可能となるので、良好な演奏を実施することができる。
【0034】
請求項7の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のオイル温センサの信号に基づき行うので、例えば暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な運転を回避でき、エンジンへの不要な負荷を回避してエンジン耐久性の向上に寄与することができる。また、エンジンの低温運転によるエンジン回転のレスポンスの悪化が回避されて良いエンジン状態での演奏が可能となるので、良好な演奏を行うことができる。
【0035】
請求項8の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のニュートラルスイッチまたはクラッチスイッチの信号に基づき行うので、エンジンの駆動力を切断した状態での演奏ができるので、車両の安全性を確保することができる。
【0036】
請求項9の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のメインスタンドスイッチの信号に基づき行うので、車両が確実に止められた状態での演奏ができ、車両の安全性を確保することができる。
【0037】
請求項10の発明によれば、パターンプログラムの演奏を、エンジンの予め設定された回転数以下で行うので、特定パターンに対応する音階を、エンジンの演奏運転時の音域(回転数の範囲)を設定することができ、例えば演奏場所に応じた音域で演奏が可能になり、周囲に雰囲気に合わせることができるなど対応性のある演奏を行うことができる。
【0038】
請求項11の発明によれば、パターンプログラムを電子制御装置の外部から取得することができるので、パターンプログラムの追加あるいは変更を容易にすることができる。
【0039】
請求項12の発明によれば、パターンプログラムの取得を、パターンプログラムが記録されたメディアの装着にて行うので、例えばカードタイプのメディアを使用してパターンプログラムの追加あるいは変更を容易にすることができる。
【0040】
請求項13の発明によれば、パターンプログラムの取得を、電子制御装置の無線通信部を介して行うので、パターンプログラムの追加あるいは変更が容易にできる。
【0041】
請求項14の発明によれば、無線通信部により複数の車両間で同期させてパターンプログラムの合奏運転を行うことができるので、異なった車種の車両によって複数の音色での演奏を同時に行えるだけでなく、例えば各車両の特徴を生かした部分的演奏の組み合わせなどを行うことができて、幅広い演奏ならびに楽しみ方が可能になる。
【0042】
請求項15の発明によれば、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、診断信号で特定されるパターンプログラムを演奏するので、車両の走行前に車両状態をチェックでき、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0043】
請求項16の発明によれば、パターンプログラムを演奏するときに、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、診断信号で特定される固有演奏を行うことができるので、この固有演奏として、例えばエンジンオイル量が少ない場合には、演奏楽曲のリズム、テンポ、音程等の変化、さらには通常の演奏楽曲に固有変化を持たせるような音を適宜挿入するなどの演奏を行うことで、車両の走行前に車両状態のチェックを演奏から認識することができ、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0044】
請求項17の発明によれば、エンジンの運転状態を変化させて排気音の特定パターンを生じさせるパターンプログラムを駆動する電子制御装置により、エンジンの運転状態を変化させて該エンジンの排気音を特定パターンで変化させることができるので、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することが可能となり、車両のこれまでの運転目的とは異なった新たな利用方法や楽しみ方を提供することができる。
【0045】
請求項18の発明によれば、音階テーブルおよび音長テーブルを有するパターンプログラムが演奏プログラム部により駆動されて特定パターンを演奏するので、エンジン回転数の制御による排気音によって音程を表現およびテンポ変化を作り出すことができ、排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することができる排気音の楽曲の演奏が可能となる。
【0046】
請求項19の発明によれば、パターンプログラムが記録されたメディアの着脱が自在に構成された装着部を備えるので、メディアの装着によって特定パターンを後から自在に追加や変更ができる。
【0047】
請求項20の発明によれば、装着部がスピードメータ部に設けられるとともに、メディアを用いるパターンプログラムの実行を選択する操作スイッチが装着部の近傍に設けられたので、メディアの装着と操作スイッチの操作が連続的にできる。また、メディアの装着部と操作スイッチがスピードメータ部の近傍に設けられることにより、車両の状態等を表示する表示部と操作スイッチ等の操作部を集中配置でき、小型化が可能である。
【0048】
請求項21の発明によれば、パターンプログラムの取得を行う無線通信部が設けられたので、無線通信手段を介してパターンプログラムの追加あるいは変更が容易にできる。
【0049】
請求項22の発明によれば、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部を備え、この車両診断検出部が車両の診断信号を電子制御装置に送ることにより、診断信号に対応する固有の演奏を行うように構成されたので、車両の走行前に車両状態を排気音の演奏にてチェックでき、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るエンジン制御装置を搭載した鞍乗型車両である自動二輪車の右側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車におけるエンジン制御の模式図である。
【図3】本発明に係る実施形態におけるエンジン制御における機能ブロック図である。
【図4】本発明に係る実施形態におけるスピードメータ部の概略斜視図である。
【図5】本発明に係る実施形態における音階、周波数、エンジンの回転数の対応関係を示す音階テーブルである。
【図6】本発明に係る実施形態における1音の長さを表す音長テーブルである。
【図7】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏の可否判断を行う制御フローチャートである。
【図8】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときの制御フローチャートである。
【図9】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときの1音符の演奏長さ(時間)の設定の仕方を説明する概念説明図である。
【図10】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときのエンジン回転を高速で目標値にするための制御フローチャートである。
【図11】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムにおける加算TH開度とエンジンの回転差の関係を示したグラフである。
【図12】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムにおける減算TH開度と点火・噴射の間引き率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
まず、本発明にかかる第1実施形態について、図1〜図12を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、鞍乗型車両である自動二輪車に適応したものについて以下説明する。
なお、本実施形態における説明中、前後左右及び上下などの方向の記載は、車体に対してのものとする。そして、図面については、図中に記載した符号の向きに見るものとし、図中におけるFrは車両前方を、Rrは車両後方を、Upは車両上方を、Dwは車両下方を示すものとする。
【0052】
先ず自動二輪車100の全体構成について説明する。
図1に示すように、この自動二輪車100は、車体フレーム102と、車体フレーム102の前部に回動自在に支持された左右一対のフロントフォーク103と、フロントフォーク103のトップブリッジ103Aに取り付けられた操舵用のハンドル24と、フロントフォーク103に回転自在に支持された前輪25と、車体の略中央で車体フレーム102に支持されたエンジン4と、エンジン4の前方に配置されたラジエータ70と、エンジン4の後端と車体フレーム102に上下に揺動自在に支持されたスイングアーム28と、このスイングアーム28の後端部に回転自在に支持された後輪19と、スイングアーム28と車体フレーム102との間に配設されたリヤクッション109と、車体フレーム102の上部に配置された燃料タンク108と、この燃料タンク108の後方に配置されたシート112とを備えている。
【0053】
また、フロントフォーク103のトップブリッジ103Aとボトムブリッジ103Bとの間には、ブラケット113が取り付けられ、このブラケット113にはヘッドライト114及びメータ類や適宜操作部材がスピードメータ部40に取り付けられている。
また、車体フレーム102の後部には、リヤカウル117及びリヤフェンダ119が取り付けられ、リヤフェンダ119には、テールライト及びウィンカ等が取り付けられている。
【0054】
車体フレーム102は、ヘッドパイプ130から車体後方に延びる左右一対のメインパイプ131と、後輪19を支持するスイングアーム28を揺動自在に支持するピボットプレート部135に向けてメインパイプ131から車体斜め下方に延びる左右一対のミドルフレーム132と、ヘッドパイプ130からメインパイプ131の下側を車体下方に延びた後に車体後方へ延びる左右一対のダウンチューブ133とを備えている。
【0055】
このダウンチューブ133は、車体後方へ延びた後にピボットプレート部135に向けて車体斜め上方に延出し、このダウンチューブ133及びミドルフレーム132に上記ピボットプレート部135が接合され、このダウンチューブ133の端部には左右一対のシートレール128が連結されている。
このシートレール128は、前端がミドルフレーム132の上部間に配設されたクロスメンバ(図示せず)に支持され、車体後方に延出してシート112やリヤカウル117を支持している。
なお、車体フレーム102には、上記以外にもクロスメンバが適宜配設され、これらクロスメンバによって車体フレーム102の剛性が高められている。
【0056】
ミドルフレーム132及びダウンチューブ133には、エンジンハンガ139が各々設けられ、これらエンジンハンガ139を介してエンジン4が支持されている。これにより、エンジン4は、その上方にメインパイプ131が位置し、その後方にミドルフレーム132が位置し、その前方及び下方にダウンチューブ133が位置するように支持され、すなわち、エンジン4は、メインパイプ131、ミドルフレーム132及びダウンチューブ133に囲まれた間隙内に支持されている。
【0057】
エンジン4は、クランクケース140と、クランクケース140の前部から略上方に延出するシリンダブロック141と、シリンダブロック141の上部に連結されるシリンダヘッド142と、シリンダヘッド142の上部に連結されるヘッドカバー143とを備え、シリンダブロック141内に1つのシリンダを配置した単気筒エンジンである。
【0058】
シリンダブロック141には、各シリンダ内にピストンが往復移動自在に収容され、クランクケース140には、ピストンにコンロッドを介して連結されたクランクシャフト6や当該エンジンの出力軸145が軸支されると共に、このクランクシャフト6と出力軸145との間の動力伝達機構を構成するクラッチ機構や変速機構等が収容されている。また、クランクシャフト6には、後述するクランクパルス検出器6a(図3参照)が設けられており、クランクシャフト6の回転数を検出する。
なお、出力軸145と後輪19には、各々スプロケット(図示せず)が設けられ、これらスプロケットに巻回されたドライブチェーンを介してエンジン4の動力が後輪19に伝達される。
【0059】
本実施形態における排気系20について説明する。
シリンダヘッド142の前面には、シリンダの排気ポートに連通する排気口142Aが設けられ、この排気口142Aには、排気管150が各々接続される。この排気管150は、排気口142Aから車体下方へ延び、クランクケース140の下方を車体後方へ延出して、後輪19の前方を右側に抜けて後輪19の右側に沿って延びるマフラー152が接続されている。
【0060】
一方、吸気系について、シリンダヘッド142の背面には、シリンダヘッド142の吸気ポート(図示せず)に連通する吸気口に、例えばインシュレータを介して吸気通路110(図2参照)を構成するスロットルボディが接続されている。そして、このスロットルボディの周りにインジェクタ160並びにスロットルバルブ開閉制御装置137が設けられている。
【0061】
本実施形態における自動二輪車100では、スロットルバルブ開閉制御にTBW方式スロットル・バイ・ワイヤ方式)と称される方式が採用されている。これは、図2に示すように、運転者のアクセル操作部121(スロットルグリップ)の操作量を、ワイヤ連動部材120を介してスロットルドラム138を回転させ、スロットルドラム138の動作量をアクセルポジションセンサ134(APS)により検出し、合わせてエンジン4の運転状況やスロットルポジションセンサ169によるバルブ開動位置を検出して、これらの検出信号に基づいてエンジン制御装置1によってスロットルアクチュエータ168(本実施形態の場合、モータが使用されている)を駆動して、吸気通路110内に設けられているスロットルバルブ111のバルブ回転軸111aを作動制御する。このバルブ回転軸111aの作動制御によって、吸気空気量を調整されて混合気50がエンジン本体4aの燃焼室5に供給される。
【0062】
なお、図2に示すように、スロットルバルブ111の動作は、運転者によるスロットル操作を電気的信号に変えて行うため、様々な状況を想定した制御プログラムにより、スロットルアクチュエータ168を駆動させている。また、本実施形態においては、自動二輪車100が走行していないときに後述するパターンプログラムに基づく信号によってスロットルアクチュエータ168を駆動させる。
【0063】
本実施形態のエンジン制御装置1ならびに該装置1を用いたエンジン制御方法について説明する。
エンジン制御装置1は、前掲の混合気50の量を制御する吸気制御系7、燃料を制御する燃料制御系8、点火プラグ136の点火を制御する点火制御系9の少なくともいずれかを制御してエンジン4の回転数などの運転状態をコントロールする電子制御装置2(ECU)を備えている。
【0064】
本実施形態における電子制御装置2は、自動二輪車100が走行していない状態において排気音を特定パターンPで変化させるように制御することができる。すなわち、エンジン4の運転状態を、走行状態でない無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において、排気音を使って例えば所望の楽曲等の特定パターンPで変化させる制御を行うことができる。
これは、エンジン制御装置1には、パターンプログラムを有するか或いは該パターンプログラムを保持可能な演奏プログラム部2bが設けられており、このパターンプログラムに基づいてエンジン4の排気音を変化させる。
【0065】
なお、本発明では、特定パターンの音は、実際には、エンジン回転によるエンジン回転音も含まれているが、本明細書ではエンジン回転音も含めて総称して排気音と云う。
また、本発明における特定パターンとは、エンジンの回転数を少なくとも音階に相当する音程変化を予め決められたパターンで変化すること云う。そして、この特定パターンを実施するパターンプログラムは、例えば音階の変化、テンポの変化、リズムの変化、旋律の変化等を変化させる演奏プログラムである。また、特定パターンとしては、エンジンの回転数による音のみでなく、例えば、バックファイヤーによる音表現も含むものである。
【0066】
前掲の排気音による特定パターンPを演奏するための機能ブロック図である図3を参照して以下説明する。
図3に示すように、電子制御装置2は、エンジン制御部2a、演奏プログラム部2b、回転数検出部2c、フィードバック部2dおよび可否判断部2eを備えている。
エンジン制御部2aは、演奏プログラム部2b、回転数検出部2c、フィードバック部2dおよび可否判断部2eから入力された信号に基づいて、吸気制御系7、燃料制御系8および点火制御系9に対して信号を出力する。
吸気制御系7、燃料制御系8および点火制御系9への適宜信号によってそのいずれか或いは複数が動作して、エンジン本体4aの燃焼室5の制御が行われる。この制御によって回転数が小刻みに変化して、エンジン回転音とともに排気系20における排気音が特定パターンPを奏でる。
【0067】
演奏プログラム部2bは、パターンプログラムを予め設けられたものでも良いが、本実施形態のように、データ記録部3が設けられて、このデータ記録部3に外部からのデータを入力できるようなパターンプログラムを保持可能な構成とすることができる。
なお、このデータ記録部3は、パターンプログラムを有する例えばカード式のメディア30(図4参照)からデータを読みとるか若しくは読みとったデータを適宜記録する。このように、パターンプログラムを外部から取り入れることができる構成であることで、演奏楽曲を変えたり、追加したりできるので使い勝手がよい。
また、演奏プログラム部2bには、車両診断検出部17からの診断信号が直接入力されるが、この動作については後述する。
【0068】
回転数検出部2cは、クランクシャフト6の回転数を検出するクランクパルス検出器6aから得られた情報を検出してフィードバック部2dに出力する。
【0069】
そして、フィードバック部2dは、回転数検出部2cからの信号に基づいてエンジン制御部2aにエンジン回転数の情報をフィードバックする。
【0070】
可否判断部2eは、エンジン4の状態検出部10からの信号に基づいてパターンプログラムの実行の可否判断をする。この状態検出部10としては、例えば排気ガスセンサ11、水温センサ12、オイル温センサ15、ギヤのニュートラルスイッチ14(図3ではニュートラルSWと表記)、クラッチスイッチ13(図3ではクラッチSWと表記)などのエンジン4に付属する検出部ならびにメインスタンド16aを立てているか否かを検出するメインスタンドスイッチ16(図3ではメインスタンドSWと表記)などを備えている。
【0071】
可否判断部2eによる可否判断について説明する。
図7に示すように、操作スイッチ47がオフ状態(OFF)であれば、どのような動作をしても作動禁止(PH)である。
そして、操作スイッチ47をオン(ON)にする。次ぎに、ギヤがニユートラルか否かを見るのであるが、これはニュートラルスイッチ14においてギヤがニュートラルか否かを検出する。ここで、ニュートラルスイッチ14がオン(ON)、すなわちニュートラルである場合は水温センサ12による可否判断側に進む。しかし、ニュートラルでないオフ(OFF)である場合は、クラッチスイッチ13によってクラッチが切断されているか否かを検出するステップに進む。そして、クラッチスイッチ13が切断されていないオフである場合は作動禁止(PH)となる。
【0072】
一方、クラッチスイッチ13が切断されている場合は、次の水温センサ12による可否判断側に進む。
水温センサ12の検出において、抽出されたデータが冷機と判断されたときは作動禁止(PH)となる。一方、暖機と判断したときは、排気ガスセンサ11による検出へ進む。
この排気ガスセンサ11において、抽出されたデータにおいて排気ガスが不活性であると判断されたときは、作動禁止(PH)となる。一方、排気ガスが活性と判断されたときは作動を許可(OK)する。
【0073】
このように、エンジン4の状態検出部10からの信号に応じて排気音のパターンプログラムの実行の可否を判断するように構成されたことで、演奏実行にあたってエンジン4の最適状態を認識することができる。これは、例えば、水温センサ12やオイル温センサ15によってエンジン暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な状態が回避でき、エンジン4への不要な負荷を回避できる。
なお、オイル温センサ15によれば、空冷式のエンジンの場合にも適用できる。
また、エンジンの低温運転による音質の低下が回避されて良質な演奏が可能になる。また、エンジン4の暖機後の演奏が保障されることで、エンジン回転の回転変化のレスポンスを良い状態にできるので、良質な演奏が可能になる。
【0074】
また、排気ガスセンサ11の信号に基づいて特定パターンPを実行することで、自動運転や自動運転開始に伴う排気ガスのクリーン化に寄与できる。
【0075】
さらに、ニュートラルスイッチ14、クラッチスイッチ13ならびにメインスタンドスイッチ16を動作条件としたことより、演奏時の安全性を確保することができる。
【0076】
本実施形態においては、データ記録部3は、例えば図4に示すように、パターンプログラムを有するカード式のメディア30を介してデータを読み取りする部分であり、メディア30そのものがデータ記録部3として機能してもよく、また、読みとったデータを別の記憶装置にて適宜記録して置くような構成であってもよい。
【0077】
また、操作スイッチ47は、パターンプログラムを実施するための条件であって、使用者の意思表示を可否判断部2eに出力する。
【0078】
無線通信部49は、パターンプログラムを取得する方法として、例えばブルートゥース等によって外部から容易にパターンプログラムのデータを取得することができる。なお、この無線通信部49は、メディア30を使用する形態であっても使用しない独立した形態の何れでもよい。
【0079】
また、本実施形態における無線通信部49は、前掲のごとくパターンプログラムのデータを取得するだけでなく、その他に無線通信部49により複数の車両100間で同期させてパターンプログラムの合奏運転を行うための通信部としても機能することができる。このように構成されていることにより、例えば異なった車種の車両によって複数の音色での演奏を同時にしたり、更には、例えば各車両100の特徴を生かした部分的演奏の組み合わせなどを行ったりすることで、二輪車のみならず多種多様な車両を使ってオーケストラのような演奏も可能になり、幅広い演奏ならびに楽しみ方ができる。
【0080】
本実施形態においては、図4に示すように、パターンプログラムが記録されたメディア30の着脱が自在に構成された装着部48を備えている。
このスピードメータ部40は、例えば文字表記可能な液晶表示器による回転計41や速度計42を備えており、さらに、その後方側には、例えばギヤのニュートラル表示部43、オイル表示部44、ヘッドライト表示部45およびウィンカ表示部46を備え、このウィンカ表示部46の右隣りに押しボタン式の操作スイッチ47が設けられている。そして、この操作スイッチ47のすぐ下側に、メディア30を挿入する装着部48が設けられている。
また、装着部48には、例えば挿入用スリット48aを閉じる回動自在な防水蓋48bが設けられている。
【0081】
このように、操作スイッチ47が装着部48の近傍に設けられていると、メディア30の装着と操作スイッチ47の操作が連続的にできだけでなく、車両の状態等を表示する表示部と操作スイッチ等の操作部を集中配置できる。
【0082】
本実施形態における車両診断検出部17は、例えば、タイヤの空気圧センサやオイル量センサ(図示せず)など車両走行前にチェックが必要な項目を検出できるセンサを含む構成とすることができる。そして、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能する車両診断検出部17により、車両の状態を診断して、例えばタイヤの空気圧が少ない場合、乗車に不適切との情報を認識させる固有のパターンプログラムによる楽曲を演奏することで、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態における車両診断検出部17は、車両状態のチェック結果を、特定のパターンプログラムの演奏をさせる機能に限るものではない。すなわち、車両診断検出部17からの診断信号に基づき、通常のパターンプログラムの演奏に対して演奏楽曲のリズム、テンポ、音程等の変化や楽曲本来とは異なった音を挿入したり音を間引いたりする固有の演奏を行うこともでき、これによって車両状態チェックを演奏から認識させることができる。
【0084】
本実施形態においては、パターンプログラムは図5に示す音階テーブル(ST)を用いることによって、所定の音階(S)における音程(ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド)を、対応する周波数(H)を生ずることができるエンジン4の所定の回転数(Ne)によって表すことができる。なお、図5は音階テーブル(ST)を模式化した図であるが、音階(S)は図示したものに限定されず適宜変更可能である。
また、パターンプログラムにおいては図6に示す音長テーブル(TT)は、例えば一番左側の列は、全音符(T1)に対して例えば5つの各テンポ(拍/分)における音長を示す。したがって、図6の音長テーブル(TT)は全音符(T1)から128分音符(T8)までを各テンポの音長を対応させることができる。
このように、音長テーブル(TT)と音階テーブル(ST)とをパターンプログラムによって同時に実行することで、楽曲に必要な音程、テンポ・リズムといった表現をすることができる。
【0085】
以下、パターンプログラムの演奏において、1音の演奏長さ(時間)を出すための制御方法について図8および図9を参照して説明する。
先ず初めに、音楽データの読み込みを行い予め設定を行っておく(S1)。この結果、タイマーに対して最小音符長さ(時間)を、例えば“C_PITCH”としてセットする(S2)。ここで、この最小音符長さ(時間)の“C_PITCH”について、図9を参照して説明する。なお、図9は、1音符の演奏長さ(時間)の設定の仕方を説明する概念説明図である。
【0086】
図9は、音符が6個並んだ図中上方側の楽譜Aを、ある音楽の1小節と仮定した場合、楽譜Aにおける各音符の長さ(演奏時間)を図中下側に示す出力イメージBに置き換えた場合である。
図9における楽譜Aは、四分音符と八分音符を使用した一小節である。そして、出力イメージBが音符の長さのみを電子制御できるデータ情報に変換している。この楽譜Aから出力イメージBへの変換のベースになるのが最小音符長さである“C_PITCH”である。この“C_PITCH”を八分音符とし、その音の長さをt秒と設定した場合について説明する。
この場合、図9においては、仮に最小音符長さを八分音符として設定してあることから、楽譜Aにおける一番左側の音符は四分音符であるので、時間の長さとしては2t秒で表される。また、楽譜Aにおける二番目の音符は八分音符でるので、時間の長さとしてはt秒で表される。このようにして楽譜Aの音符がt秒を最小単位とした音の長さに置き換えられる。この置き換えられた時間データは電子データとして容易に利用することができる。
【0087】
したがって、図8に戻って説明すると、最小音符長さ(時間)の“C_PITCH”がセット(S2)された状態において、演奏を開始する場合、先ずタイマーがセットされる(S3)。そして、演奏時の1音符(C_PITCH)の長さに対してタイマーが所定時間となった否かを判断し(S4)、所定時間にならない場合(NOの場合)はこの比較を繰り返し行い、所定時間になった場合(YESの場合)は、予め設定された(読み込まれた)音符の音程(S5)の情報に基づき目標回転数を算出する(S6)。ここでは例えば図5に示す音階テーブルSTを利用する。そして、目標回転数に対応するTBWのスロットル開度を算出し(S7)、エンジン回転を所定の音程と該音程の音長(時間)を制御して1音符が出力される(S8)。
この1音符の出力を、パターンプログラムに基づいて繰り返されることで排気音の特定パターンとして楽曲を演奏する。
【0088】
図10、図11および図12を参照して、高速にエンジン回転数を目標回転数に合わせる方法を説明する。
高速にエンジン回転数を目標回転数に合わせる方法としては、エンジン4が駆動されている状態において点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射を停止する、所謂“点火・噴射カット”による制御方法である。
【0089】
先ず、図10において、最初のステップとしては“点火・噴射カット中”であるか否かを比較する(S0)。すなわち、エンジン4が駆動されている状態で点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射をカットしているか否かを見ることでエンジン状態が回転数を上昇させる方向にあるのか或いは回転数を降下させる方向にあるのかを判断して高速対応を行う制御である。なお、以下の説明および図面においては、スロットルについては“TH”、エンジン回転数については“Ne”と表示する場合もある。
【0090】
そして、“点火・噴射カット中”であるか否かにおいて、“点火・噴射カット中”でない場合(NOの場合)、すなわち、エンジン回転を上げる場合(U)について説明する。
この場合、例えば1音符の音程を表現するために予め決められたエンジンの目標回転から現状の回転数との回転数差算出をする(S10)。その回転差からスロットルの開度を決定する場合、TH開度加算テーブルを検索(図10においては、“TH開度加算テーブル検索”と表記する)して行う(S11)。そして、このTH開度加算テーブルの検索によって、スロットルの現状開度に対して必要な分を加算して目標開度を決定する(S12)。
【0091】
ここで、“TH開度加算テーブル”とは、図11に示す曲線のグラフにて表される予め求められたデータである。すなわち、横軸をエンジン4の回転差(rpm)、縦軸を角度で表される加算TH開度(°)とし、エンジン4の回転差から加算TH開度(°)を求めることができる。なお、“TH開度加算テーブル”は、エンジン4の排気量やタイプによって異なる固有のデータとして示される。
【0092】
また制御フローに戻って、“TH開度加算テーブル”を用いた目標開度(S12)の設定の次に、スロットルの目標開度になるようにTBWの駆動によって開度を目標値まで上げる(S13)。その後、実際のエンジン回転数(Ne)が目標回転よりも小さいか否かを見て小さい場合はTBW開度の調整を再度おこない、小さくない場合(NO)には目標回転数である場合(S20)としてそのまま出力(EXSIT)する(S21)。
【0093】
次に、“点火・噴射カット中”であるか否かにおいて、“点火・噴射カット中”の場合(YESの場合)、すなわち、エンジン回転を下げる場合(D)について説明する。
この場合、例えばある音符の音程を表現するために予め決められたエンジンの目標回転にするとき、点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射を間引き停止する間引き率(%)を算出し(S15)、引き続いて、TH開度減算テーブルを検索(図10においては、“TH開度減算テーブル検索”と表記する)する(S16)。そして、TH開度減算テーブルを検索して、間引き率の現状の率に対して必要な分を減算してスロットルの目標開度にする(S17)。
【0094】
ここで、“TH開度減算テーブル”について説明すると、図12に示す例えば右肩上がりの曲線のグラフにて表される予め求められたデータである。すなわち、横軸を間引き率(%)、縦軸を角度で表される減算TH開度(°)とし、間引き率から減算TH開度(°)を求めることができる。この“TH開度減算テーブル”においても、エンジン4の排気量やタイプによって異なる固有のデータとして示される。
【0095】
また制御フローに戻って、“TH開度減算テーブル”を用いた目標開度(S17)の設定の次に、スロットルの目標開度になるようにTBWの駆動によって開度を目標値まで下げる(S18)。その後、実際のエンジン回転数(Ne)が目標回転よりも大きいか否かを見て大きい場合はTBW開度の調整を再度おこない、大きくない場合(NO)には目標回転数である場合(S20)としてそのまま出力(EXIT)する(S21)。
【0096】
図10に示すようにエンジン回転を制御することにより、高速にエンジンの運転状態を変化させることができ、例えば高速テンポの楽曲の演奏が可能となる。
【0097】
以上、本発明を適用した一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、上記実施形態における音階テーブルや音長テーブル等は必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明は多気筒エンジンや四輪車両やその他種々の車両に適用することがでる。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン制御装置
2 電子制御装置
2a エンジン制御部
2b 演奏プログラム部
2c 回転数検出部
2d フィードバック部
2e 可否判断部
3 データ記録部
4 エンジン
5 燃焼室
6 クランクシャフト
6a クランクパルス検出器
7 吸気制御系
8 燃料制御系
9 点火制御系
10 状態検出部
11 排気ガスセンサ
12 水温センサ
13 クラッチスイッチ
14 ニュートラルスイッチ
15 オイル温センサ
16 メインスタンドスイッチ
17 車両診断検出部
20 排気系
47 操作スイッチ
49 無線通信部
100 自動二輪車(車両)
P 特定パターン
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン制御方法及びエンジン制御装置に関し、特に、エンジンの排気音を変化させることのできるエンジン制御方法及びエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツカーにおいて、例えば特許文献1にエンジン回転を制御して排気音におけるスポーツカーサウンド楽しむ技術が開示されている。この特許文献1に開示されたものは、例えばアイドリング時のエンジン状態を、スポーツカーサウンドとなるように排気音中の重低音を増大させて運転者の満足度を増すという技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−109014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術においては、排気音の重低音を増やすといった程度の制御であり、より多彩の音を出して例えば排気音のパターン変化までさせるようなものは無いのが現状であった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの排気音によって多彩な音表現ができる新たな楽しみ方を提供できるエンジン制御方法及びエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、電子制御装置によりエンジンの運転状態を制御するエンジン制御方法であって、
前記エンジンの無負荷運転状態で、前記電子制御装置のパターンプログラムに基づいて少なくともスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータにより前記エンジンの回転数を制御して排気音が変化する特定パターンを生じさせることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、前記エンジンの回転数の複数の高低区分を、前記エンジンの前記排気音の音階の複数の音程に一対一対応する音階テーブルを設定しておき、前記パターンプログラムを前記エンジンの回転数の制御にて演奏するときに、前記特定パターンを前記音階にて表すことを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、前記音階の1音長さを、前記回転数の制御時間の長さで表す音長テーブルを設定しておき、前記パターンプログラムを前記回転数の制御にて演奏するときに、前記特定パターンを前記音長テーブルに基づいて前記1音長さにて表すことを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記エンジンを搭載する車両の状態検出部からの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の排気ガスセンサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の水温センサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のオイル温センサの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のニュートラルスイッチまたはクラッチスイッチの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0014】
請求項9に係る発明は、請求項4に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部のメインスタンドスイッチの信号に基づき行うことを特徴とする。
【0015】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの演奏を、前記エンジンの予め設定された回転数以下で行うことを特徴とする。
【0016】
請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムを前記電子制御装置の外部から取得することを特徴とする。
【0017】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を、前記パターンプログラムが記録されたメディアの装着にて行うことを特徴とする。
【0018】
請求項13に係る発明は、請求項11に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を、前記電子制御装置の無線通信部を介して行うことを特徴とする。
【0019】
請求項14に係る発明は、請求項13に記載の構成に加えて、前記無線通信部を介して複数の車両間で同期させて前記パターンプログラムの合奏運転を行うことを特徴とする。
【0020】
請求項15に係る発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される前記パターンプログラムを演奏することを特徴とする。
【0021】
請求項16に係る発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムを演奏するときに、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される固有の演奏変化を付けて演奏することを特徴とする。
【0022】
請求項17に係る発明は、吸気制御系、燃料制御系、点火制御系の少なくともいずれかを制御してエンジンの運転状態をコントロールする電子制御装置を備えたエンジン制御装置であって、
前記電子制御装置には、前記エンジンの運転状態を、無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において排気音を特定パターンで変化させるパターンプログラムを駆動する演奏プログラム部が設けられ、前記エンジンの排気音を前記パターンプログラムに基づいて変化させることを特徴とする。
【0023】
請求項18に係る発明は、請求項17に記載の構成に加えて、音階テーブルおよび音長テーブルを有する前記パターンプログラムが演奏プログラム部により駆動されて前記特定パターンを演奏することを特徴とする。
【0024】
請求項19に係る発明は、請求項17または18に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムが記録されたメディアの着脱が自在に構成された装着部を備えたことを特徴とする。
【0025】
請求項20に係る発明は、請求項19に記載の構成に加えて、前記装着部がスピードメータ部に設けられるとともに、前記メディアを用いる前記パターンプログラムの演奏を選択する操作スイッチが前記装着部の近傍に設けられたことを特徴とする。
【0026】
請求項21に係る発明は、請求項17〜20のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記パターンプログラムの取得を行う無線通信部が設けられたことを特徴とする。
【0027】
請求項22に係る発明は、請求項17〜21のいずれか一項に記載の構成に加えて、前記エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部を備え、前記車両診断検出部が前記車両の診断信号を前記電子制御装置に送ることにより、前記診断信号に対応する固有の演奏を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明によれば、エンジンの運転状態を特定パターンで変化させるパターンプログラムによって、エンジンの運転状態を変化させて該エンジンの排気音を特定パターンで変化させることができるので、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することが可能となり、車両のこれまでの運転目的とは異なった新たな利用方法や楽しみ方を提供することができる。
【0029】
請求項2の発明によれば、エンジンの回転数の複数の高低区分の設定を、エンジンの排気音の音階の複数の音程に一対一対応する音階テーブルに基づいているので、エンジン回転数の制御による排気音によって音程を表現できて、排気音にて楽曲の演奏が可能となる。
【0030】
請求項3の発明によれば、特定パターンの音階の1音長さを、回転数の制御時間の長さで表す音長テーブルに基づいて表現することができるので、エンジンの運転状態を小刻みに変化させるなど可能になり排気音の特定パターンのテンポ変化を作り出すことができ、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することができる。
【0031】
請求項4の発明によれば、車両の状態検出部からの信号に応じて排気音のパターンプログラムの演奏の可否を判断するので、車両ならびにエンジンの最適状態を認識して、良好な特定パターンの演奏をすることができる。
【0032】
請求項5の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部の排気ガスセンサの信号に基づき行うので、排気ガスセンサの信号に基づいて特定パターンの演奏を行うときの排気ガスのクリーン化に寄与できる。
【0033】
請求項6の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部の水温センサの信号に基づき行うので、例えば暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な運転を回避でき、エンジンへの不要な負荷を回避してエンジン耐久性の向上に寄与することができる。また、エンジンの低温運転による音質の低下が回避されて良いエンジン状態での演奏が可能となるので、良好な演奏を実施することができる。
【0034】
請求項7の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のオイル温センサの信号に基づき行うので、例えば暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な運転を回避でき、エンジンへの不要な負荷を回避してエンジン耐久性の向上に寄与することができる。また、エンジンの低温運転によるエンジン回転のレスポンスの悪化が回避されて良いエンジン状態での演奏が可能となるので、良好な演奏を行うことができる。
【0035】
請求項8の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のニュートラルスイッチまたはクラッチスイッチの信号に基づき行うので、エンジンの駆動力を切断した状態での演奏ができるので、車両の安全性を確保することができる。
【0036】
請求項9の発明によれば、パターンプログラムの演奏の可否判断を、状態検出部のメインスタンドスイッチの信号に基づき行うので、車両が確実に止められた状態での演奏ができ、車両の安全性を確保することができる。
【0037】
請求項10の発明によれば、パターンプログラムの演奏を、エンジンの予め設定された回転数以下で行うので、特定パターンに対応する音階を、エンジンの演奏運転時の音域(回転数の範囲)を設定することができ、例えば演奏場所に応じた音域で演奏が可能になり、周囲に雰囲気に合わせることができるなど対応性のある演奏を行うことができる。
【0038】
請求項11の発明によれば、パターンプログラムを電子制御装置の外部から取得することができるので、パターンプログラムの追加あるいは変更を容易にすることができる。
【0039】
請求項12の発明によれば、パターンプログラムの取得を、パターンプログラムが記録されたメディアの装着にて行うので、例えばカードタイプのメディアを使用してパターンプログラムの追加あるいは変更を容易にすることができる。
【0040】
請求項13の発明によれば、パターンプログラムの取得を、電子制御装置の無線通信部を介して行うので、パターンプログラムの追加あるいは変更が容易にできる。
【0041】
請求項14の発明によれば、無線通信部により複数の車両間で同期させてパターンプログラムの合奏運転を行うことができるので、異なった車種の車両によって複数の音色での演奏を同時に行えるだけでなく、例えば各車両の特徴を生かした部分的演奏の組み合わせなどを行うことができて、幅広い演奏ならびに楽しみ方が可能になる。
【0042】
請求項15の発明によれば、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、診断信号で特定されるパターンプログラムを演奏するので、車両の走行前に車両状態をチェックでき、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0043】
請求項16の発明によれば、パターンプログラムを演奏するときに、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部からの診断信号に基づき、診断信号で特定される固有演奏を行うことができるので、この固有演奏として、例えばエンジンオイル量が少ない場合には、演奏楽曲のリズム、テンポ、音程等の変化、さらには通常の演奏楽曲に固有変化を持たせるような音を適宜挿入するなどの演奏を行うことで、車両の走行前に車両状態のチェックを演奏から認識することができ、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0044】
請求項17の発明によれば、エンジンの運転状態を変化させて排気音の特定パターンを生じさせるパターンプログラムを駆動する電子制御装置により、エンジンの運転状態を変化させて該エンジンの排気音を特定パターンで変化させることができるので、例えば排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することが可能となり、車両のこれまでの運転目的とは異なった新たな利用方法や楽しみ方を提供することができる。
【0045】
請求項18の発明によれば、音階テーブルおよび音長テーブルを有するパターンプログラムが演奏プログラム部により駆動されて特定パターンを演奏するので、エンジン回転数の制御による排気音によって音程を表現およびテンポ変化を作り出すことができ、排気音の音変化を楽しむ、或いは所定の目的のために楽音変化を利用することができる排気音の楽曲の演奏が可能となる。
【0046】
請求項19の発明によれば、パターンプログラムが記録されたメディアの着脱が自在に構成された装着部を備えるので、メディアの装着によって特定パターンを後から自在に追加や変更ができる。
【0047】
請求項20の発明によれば、装着部がスピードメータ部に設けられるとともに、メディアを用いるパターンプログラムの実行を選択する操作スイッチが装着部の近傍に設けられたので、メディアの装着と操作スイッチの操作が連続的にできる。また、メディアの装着部と操作スイッチがスピードメータ部の近傍に設けられることにより、車両の状態等を表示する表示部と操作スイッチ等の操作部を集中配置でき、小型化が可能である。
【0048】
請求項21の発明によれば、パターンプログラムの取得を行う無線通信部が設けられたので、無線通信手段を介してパターンプログラムの追加あるいは変更が容易にできる。
【0049】
請求項22の発明によれば、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能な車両診断検出部を備え、この車両診断検出部が車両の診断信号を電子制御装置に送ることにより、診断信号に対応する固有の演奏を行うように構成されたので、車両の走行前に車両状態を排気音の演奏にてチェックでき、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るエンジン制御装置を搭載した鞍乗型車両である自動二輪車の右側面図である。
【図2】図1に示す自動二輪車におけるエンジン制御の模式図である。
【図3】本発明に係る実施形態におけるエンジン制御における機能ブロック図である。
【図4】本発明に係る実施形態におけるスピードメータ部の概略斜視図である。
【図5】本発明に係る実施形態における音階、周波数、エンジンの回転数の対応関係を示す音階テーブルである。
【図6】本発明に係る実施形態における1音の長さを表す音長テーブルである。
【図7】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏の可否判断を行う制御フローチャートである。
【図8】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときの制御フローチャートである。
【図9】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときの1音符の演奏長さ(時間)の設定の仕方を説明する概念説明図である。
【図10】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムの演奏をするときのエンジン回転を高速で目標値にするための制御フローチャートである。
【図11】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムにおける加算TH開度とエンジンの回転差の関係を示したグラフである。
【図12】本発明に係る実施形態におけるパターンプログラムにおける減算TH開度と点火・噴射の間引き率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
まず、本発明にかかる第1実施形態について、図1〜図12を参照しながら詳細に説明する。本実施形態は、鞍乗型車両である自動二輪車に適応したものについて以下説明する。
なお、本実施形態における説明中、前後左右及び上下などの方向の記載は、車体に対してのものとする。そして、図面については、図中に記載した符号の向きに見るものとし、図中におけるFrは車両前方を、Rrは車両後方を、Upは車両上方を、Dwは車両下方を示すものとする。
【0052】
先ず自動二輪車100の全体構成について説明する。
図1に示すように、この自動二輪車100は、車体フレーム102と、車体フレーム102の前部に回動自在に支持された左右一対のフロントフォーク103と、フロントフォーク103のトップブリッジ103Aに取り付けられた操舵用のハンドル24と、フロントフォーク103に回転自在に支持された前輪25と、車体の略中央で車体フレーム102に支持されたエンジン4と、エンジン4の前方に配置されたラジエータ70と、エンジン4の後端と車体フレーム102に上下に揺動自在に支持されたスイングアーム28と、このスイングアーム28の後端部に回転自在に支持された後輪19と、スイングアーム28と車体フレーム102との間に配設されたリヤクッション109と、車体フレーム102の上部に配置された燃料タンク108と、この燃料タンク108の後方に配置されたシート112とを備えている。
【0053】
また、フロントフォーク103のトップブリッジ103Aとボトムブリッジ103Bとの間には、ブラケット113が取り付けられ、このブラケット113にはヘッドライト114及びメータ類や適宜操作部材がスピードメータ部40に取り付けられている。
また、車体フレーム102の後部には、リヤカウル117及びリヤフェンダ119が取り付けられ、リヤフェンダ119には、テールライト及びウィンカ等が取り付けられている。
【0054】
車体フレーム102は、ヘッドパイプ130から車体後方に延びる左右一対のメインパイプ131と、後輪19を支持するスイングアーム28を揺動自在に支持するピボットプレート部135に向けてメインパイプ131から車体斜め下方に延びる左右一対のミドルフレーム132と、ヘッドパイプ130からメインパイプ131の下側を車体下方に延びた後に車体後方へ延びる左右一対のダウンチューブ133とを備えている。
【0055】
このダウンチューブ133は、車体後方へ延びた後にピボットプレート部135に向けて車体斜め上方に延出し、このダウンチューブ133及びミドルフレーム132に上記ピボットプレート部135が接合され、このダウンチューブ133の端部には左右一対のシートレール128が連結されている。
このシートレール128は、前端がミドルフレーム132の上部間に配設されたクロスメンバ(図示せず)に支持され、車体後方に延出してシート112やリヤカウル117を支持している。
なお、車体フレーム102には、上記以外にもクロスメンバが適宜配設され、これらクロスメンバによって車体フレーム102の剛性が高められている。
【0056】
ミドルフレーム132及びダウンチューブ133には、エンジンハンガ139が各々設けられ、これらエンジンハンガ139を介してエンジン4が支持されている。これにより、エンジン4は、その上方にメインパイプ131が位置し、その後方にミドルフレーム132が位置し、その前方及び下方にダウンチューブ133が位置するように支持され、すなわち、エンジン4は、メインパイプ131、ミドルフレーム132及びダウンチューブ133に囲まれた間隙内に支持されている。
【0057】
エンジン4は、クランクケース140と、クランクケース140の前部から略上方に延出するシリンダブロック141と、シリンダブロック141の上部に連結されるシリンダヘッド142と、シリンダヘッド142の上部に連結されるヘッドカバー143とを備え、シリンダブロック141内に1つのシリンダを配置した単気筒エンジンである。
【0058】
シリンダブロック141には、各シリンダ内にピストンが往復移動自在に収容され、クランクケース140には、ピストンにコンロッドを介して連結されたクランクシャフト6や当該エンジンの出力軸145が軸支されると共に、このクランクシャフト6と出力軸145との間の動力伝達機構を構成するクラッチ機構や変速機構等が収容されている。また、クランクシャフト6には、後述するクランクパルス検出器6a(図3参照)が設けられており、クランクシャフト6の回転数を検出する。
なお、出力軸145と後輪19には、各々スプロケット(図示せず)が設けられ、これらスプロケットに巻回されたドライブチェーンを介してエンジン4の動力が後輪19に伝達される。
【0059】
本実施形態における排気系20について説明する。
シリンダヘッド142の前面には、シリンダの排気ポートに連通する排気口142Aが設けられ、この排気口142Aには、排気管150が各々接続される。この排気管150は、排気口142Aから車体下方へ延び、クランクケース140の下方を車体後方へ延出して、後輪19の前方を右側に抜けて後輪19の右側に沿って延びるマフラー152が接続されている。
【0060】
一方、吸気系について、シリンダヘッド142の背面には、シリンダヘッド142の吸気ポート(図示せず)に連通する吸気口に、例えばインシュレータを介して吸気通路110(図2参照)を構成するスロットルボディが接続されている。そして、このスロットルボディの周りにインジェクタ160並びにスロットルバルブ開閉制御装置137が設けられている。
【0061】
本実施形態における自動二輪車100では、スロットルバルブ開閉制御にTBW方式スロットル・バイ・ワイヤ方式)と称される方式が採用されている。これは、図2に示すように、運転者のアクセル操作部121(スロットルグリップ)の操作量を、ワイヤ連動部材120を介してスロットルドラム138を回転させ、スロットルドラム138の動作量をアクセルポジションセンサ134(APS)により検出し、合わせてエンジン4の運転状況やスロットルポジションセンサ169によるバルブ開動位置を検出して、これらの検出信号に基づいてエンジン制御装置1によってスロットルアクチュエータ168(本実施形態の場合、モータが使用されている)を駆動して、吸気通路110内に設けられているスロットルバルブ111のバルブ回転軸111aを作動制御する。このバルブ回転軸111aの作動制御によって、吸気空気量を調整されて混合気50がエンジン本体4aの燃焼室5に供給される。
【0062】
なお、図2に示すように、スロットルバルブ111の動作は、運転者によるスロットル操作を電気的信号に変えて行うため、様々な状況を想定した制御プログラムにより、スロットルアクチュエータ168を駆動させている。また、本実施形態においては、自動二輪車100が走行していないときに後述するパターンプログラムに基づく信号によってスロットルアクチュエータ168を駆動させる。
【0063】
本実施形態のエンジン制御装置1ならびに該装置1を用いたエンジン制御方法について説明する。
エンジン制御装置1は、前掲の混合気50の量を制御する吸気制御系7、燃料を制御する燃料制御系8、点火プラグ136の点火を制御する点火制御系9の少なくともいずれかを制御してエンジン4の回転数などの運転状態をコントロールする電子制御装置2(ECU)を備えている。
【0064】
本実施形態における電子制御装置2は、自動二輪車100が走行していない状態において排気音を特定パターンPで変化させるように制御することができる。すなわち、エンジン4の運転状態を、走行状態でない無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において、排気音を使って例えば所望の楽曲等の特定パターンPで変化させる制御を行うことができる。
これは、エンジン制御装置1には、パターンプログラムを有するか或いは該パターンプログラムを保持可能な演奏プログラム部2bが設けられており、このパターンプログラムに基づいてエンジン4の排気音を変化させる。
【0065】
なお、本発明では、特定パターンの音は、実際には、エンジン回転によるエンジン回転音も含まれているが、本明細書ではエンジン回転音も含めて総称して排気音と云う。
また、本発明における特定パターンとは、エンジンの回転数を少なくとも音階に相当する音程変化を予め決められたパターンで変化すること云う。そして、この特定パターンを実施するパターンプログラムは、例えば音階の変化、テンポの変化、リズムの変化、旋律の変化等を変化させる演奏プログラムである。また、特定パターンとしては、エンジンの回転数による音のみでなく、例えば、バックファイヤーによる音表現も含むものである。
【0066】
前掲の排気音による特定パターンPを演奏するための機能ブロック図である図3を参照して以下説明する。
図3に示すように、電子制御装置2は、エンジン制御部2a、演奏プログラム部2b、回転数検出部2c、フィードバック部2dおよび可否判断部2eを備えている。
エンジン制御部2aは、演奏プログラム部2b、回転数検出部2c、フィードバック部2dおよび可否判断部2eから入力された信号に基づいて、吸気制御系7、燃料制御系8および点火制御系9に対して信号を出力する。
吸気制御系7、燃料制御系8および点火制御系9への適宜信号によってそのいずれか或いは複数が動作して、エンジン本体4aの燃焼室5の制御が行われる。この制御によって回転数が小刻みに変化して、エンジン回転音とともに排気系20における排気音が特定パターンPを奏でる。
【0067】
演奏プログラム部2bは、パターンプログラムを予め設けられたものでも良いが、本実施形態のように、データ記録部3が設けられて、このデータ記録部3に外部からのデータを入力できるようなパターンプログラムを保持可能な構成とすることができる。
なお、このデータ記録部3は、パターンプログラムを有する例えばカード式のメディア30(図4参照)からデータを読みとるか若しくは読みとったデータを適宜記録する。このように、パターンプログラムを外部から取り入れることができる構成であることで、演奏楽曲を変えたり、追加したりできるので使い勝手がよい。
また、演奏プログラム部2bには、車両診断検出部17からの診断信号が直接入力されるが、この動作については後述する。
【0068】
回転数検出部2cは、クランクシャフト6の回転数を検出するクランクパルス検出器6aから得られた情報を検出してフィードバック部2dに出力する。
【0069】
そして、フィードバック部2dは、回転数検出部2cからの信号に基づいてエンジン制御部2aにエンジン回転数の情報をフィードバックする。
【0070】
可否判断部2eは、エンジン4の状態検出部10からの信号に基づいてパターンプログラムの実行の可否判断をする。この状態検出部10としては、例えば排気ガスセンサ11、水温センサ12、オイル温センサ15、ギヤのニュートラルスイッチ14(図3ではニュートラルSWと表記)、クラッチスイッチ13(図3ではクラッチSWと表記)などのエンジン4に付属する検出部ならびにメインスタンド16aを立てているか否かを検出するメインスタンドスイッチ16(図3ではメインスタンドSWと表記)などを備えている。
【0071】
可否判断部2eによる可否判断について説明する。
図7に示すように、操作スイッチ47がオフ状態(OFF)であれば、どのような動作をしても作動禁止(PH)である。
そして、操作スイッチ47をオン(ON)にする。次ぎに、ギヤがニユートラルか否かを見るのであるが、これはニュートラルスイッチ14においてギヤがニュートラルか否かを検出する。ここで、ニュートラルスイッチ14がオン(ON)、すなわちニュートラルである場合は水温センサ12による可否判断側に進む。しかし、ニュートラルでないオフ(OFF)である場合は、クラッチスイッチ13によってクラッチが切断されているか否かを検出するステップに進む。そして、クラッチスイッチ13が切断されていないオフである場合は作動禁止(PH)となる。
【0072】
一方、クラッチスイッチ13が切断されている場合は、次の水温センサ12による可否判断側に進む。
水温センサ12の検出において、抽出されたデータが冷機と判断されたときは作動禁止(PH)となる。一方、暖機と判断したときは、排気ガスセンサ11による検出へ進む。
この排気ガスセンサ11において、抽出されたデータにおいて排気ガスが不活性であると判断されたときは、作動禁止(PH)となる。一方、排気ガスが活性と判断されたときは作動を許可(OK)する。
【0073】
このように、エンジン4の状態検出部10からの信号に応じて排気音のパターンプログラムの実行の可否を判断するように構成されたことで、演奏実行にあたってエンジン4の最適状態を認識することができる。これは、例えば、水温センサ12やオイル温センサ15によってエンジン暖気前の乗車運転をしてしまうようなエンジン状態の無理な状態が回避でき、エンジン4への不要な負荷を回避できる。
なお、オイル温センサ15によれば、空冷式のエンジンの場合にも適用できる。
また、エンジンの低温運転による音質の低下が回避されて良質な演奏が可能になる。また、エンジン4の暖機後の演奏が保障されることで、エンジン回転の回転変化のレスポンスを良い状態にできるので、良質な演奏が可能になる。
【0074】
また、排気ガスセンサ11の信号に基づいて特定パターンPを実行することで、自動運転や自動運転開始に伴う排気ガスのクリーン化に寄与できる。
【0075】
さらに、ニュートラルスイッチ14、クラッチスイッチ13ならびにメインスタンドスイッチ16を動作条件としたことより、演奏時の安全性を確保することができる。
【0076】
本実施形態においては、データ記録部3は、例えば図4に示すように、パターンプログラムを有するカード式のメディア30を介してデータを読み取りする部分であり、メディア30そのものがデータ記録部3として機能してもよく、また、読みとったデータを別の記憶装置にて適宜記録して置くような構成であってもよい。
【0077】
また、操作スイッチ47は、パターンプログラムを実施するための条件であって、使用者の意思表示を可否判断部2eに出力する。
【0078】
無線通信部49は、パターンプログラムを取得する方法として、例えばブルートゥース等によって外部から容易にパターンプログラムのデータを取得することができる。なお、この無線通信部49は、メディア30を使用する形態であっても使用しない独立した形態の何れでもよい。
【0079】
また、本実施形態における無線通信部49は、前掲のごとくパターンプログラムのデータを取得するだけでなく、その他に無線通信部49により複数の車両100間で同期させてパターンプログラムの合奏運転を行うための通信部としても機能することができる。このように構成されていることにより、例えば異なった車種の車両によって複数の音色での演奏を同時にしたり、更には、例えば各車両100の特徴を生かした部分的演奏の組み合わせなどを行ったりすることで、二輪車のみならず多種多様な車両を使ってオーケストラのような演奏も可能になり、幅広い演奏ならびに楽しみ方ができる。
【0080】
本実施形態においては、図4に示すように、パターンプログラムが記録されたメディア30の着脱が自在に構成された装着部48を備えている。
このスピードメータ部40は、例えば文字表記可能な液晶表示器による回転計41や速度計42を備えており、さらに、その後方側には、例えばギヤのニュートラル表示部43、オイル表示部44、ヘッドライト表示部45およびウィンカ表示部46を備え、このウィンカ表示部46の右隣りに押しボタン式の操作スイッチ47が設けられている。そして、この操作スイッチ47のすぐ下側に、メディア30を挿入する装着部48が設けられている。
また、装着部48には、例えば挿入用スリット48aを閉じる回動自在な防水蓋48bが設けられている。
【0081】
このように、操作スイッチ47が装着部48の近傍に設けられていると、メディア30の装着と操作スイッチ47の操作が連続的にできだけでなく、車両の状態等を表示する表示部と操作スイッチ等の操作部を集中配置できる。
【0082】
本実施形態における車両診断検出部17は、例えば、タイヤの空気圧センサやオイル量センサ(図示せず)など車両走行前にチェックが必要な項目を検出できるセンサを含む構成とすることができる。そして、エンジンを搭載する車両の状態を検出可能する車両診断検出部17により、車両の状態を診断して、例えばタイヤの空気圧が少ない場合、乗車に不適切との情報を認識させる固有のパターンプログラムによる楽曲を演奏することで、エンジンの故障原因の事前回避や安全性を向上させることができる。
【0083】
また、本実施形態における車両診断検出部17は、車両状態のチェック結果を、特定のパターンプログラムの演奏をさせる機能に限るものではない。すなわち、車両診断検出部17からの診断信号に基づき、通常のパターンプログラムの演奏に対して演奏楽曲のリズム、テンポ、音程等の変化や楽曲本来とは異なった音を挿入したり音を間引いたりする固有の演奏を行うこともでき、これによって車両状態チェックを演奏から認識させることができる。
【0084】
本実施形態においては、パターンプログラムは図5に示す音階テーブル(ST)を用いることによって、所定の音階(S)における音程(ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド)を、対応する周波数(H)を生ずることができるエンジン4の所定の回転数(Ne)によって表すことができる。なお、図5は音階テーブル(ST)を模式化した図であるが、音階(S)は図示したものに限定されず適宜変更可能である。
また、パターンプログラムにおいては図6に示す音長テーブル(TT)は、例えば一番左側の列は、全音符(T1)に対して例えば5つの各テンポ(拍/分)における音長を示す。したがって、図6の音長テーブル(TT)は全音符(T1)から128分音符(T8)までを各テンポの音長を対応させることができる。
このように、音長テーブル(TT)と音階テーブル(ST)とをパターンプログラムによって同時に実行することで、楽曲に必要な音程、テンポ・リズムといった表現をすることができる。
【0085】
以下、パターンプログラムの演奏において、1音の演奏長さ(時間)を出すための制御方法について図8および図9を参照して説明する。
先ず初めに、音楽データの読み込みを行い予め設定を行っておく(S1)。この結果、タイマーに対して最小音符長さ(時間)を、例えば“C_PITCH”としてセットする(S2)。ここで、この最小音符長さ(時間)の“C_PITCH”について、図9を参照して説明する。なお、図9は、1音符の演奏長さ(時間)の設定の仕方を説明する概念説明図である。
【0086】
図9は、音符が6個並んだ図中上方側の楽譜Aを、ある音楽の1小節と仮定した場合、楽譜Aにおける各音符の長さ(演奏時間)を図中下側に示す出力イメージBに置き換えた場合である。
図9における楽譜Aは、四分音符と八分音符を使用した一小節である。そして、出力イメージBが音符の長さのみを電子制御できるデータ情報に変換している。この楽譜Aから出力イメージBへの変換のベースになるのが最小音符長さである“C_PITCH”である。この“C_PITCH”を八分音符とし、その音の長さをt秒と設定した場合について説明する。
この場合、図9においては、仮に最小音符長さを八分音符として設定してあることから、楽譜Aにおける一番左側の音符は四分音符であるので、時間の長さとしては2t秒で表される。また、楽譜Aにおける二番目の音符は八分音符でるので、時間の長さとしてはt秒で表される。このようにして楽譜Aの音符がt秒を最小単位とした音の長さに置き換えられる。この置き換えられた時間データは電子データとして容易に利用することができる。
【0087】
したがって、図8に戻って説明すると、最小音符長さ(時間)の“C_PITCH”がセット(S2)された状態において、演奏を開始する場合、先ずタイマーがセットされる(S3)。そして、演奏時の1音符(C_PITCH)の長さに対してタイマーが所定時間となった否かを判断し(S4)、所定時間にならない場合(NOの場合)はこの比較を繰り返し行い、所定時間になった場合(YESの場合)は、予め設定された(読み込まれた)音符の音程(S5)の情報に基づき目標回転数を算出する(S6)。ここでは例えば図5に示す音階テーブルSTを利用する。そして、目標回転数に対応するTBWのスロットル開度を算出し(S7)、エンジン回転を所定の音程と該音程の音長(時間)を制御して1音符が出力される(S8)。
この1音符の出力を、パターンプログラムに基づいて繰り返されることで排気音の特定パターンとして楽曲を演奏する。
【0088】
図10、図11および図12を参照して、高速にエンジン回転数を目標回転数に合わせる方法を説明する。
高速にエンジン回転数を目標回転数に合わせる方法としては、エンジン4が駆動されている状態において点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射を停止する、所謂“点火・噴射カット”による制御方法である。
【0089】
先ず、図10において、最初のステップとしては“点火・噴射カット中”であるか否かを比較する(S0)。すなわち、エンジン4が駆動されている状態で点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射をカットしているか否かを見ることでエンジン状態が回転数を上昇させる方向にあるのか或いは回転数を降下させる方向にあるのかを判断して高速対応を行う制御である。なお、以下の説明および図面においては、スロットルについては“TH”、エンジン回転数については“Ne”と表示する場合もある。
【0090】
そして、“点火・噴射カット中”であるか否かにおいて、“点火・噴射カット中”でない場合(NOの場合)、すなわち、エンジン回転を上げる場合(U)について説明する。
この場合、例えば1音符の音程を表現するために予め決められたエンジンの目標回転から現状の回転数との回転数差算出をする(S10)。その回転差からスロットルの開度を決定する場合、TH開度加算テーブルを検索(図10においては、“TH開度加算テーブル検索”と表記する)して行う(S11)。そして、このTH開度加算テーブルの検索によって、スロットルの現状開度に対して必要な分を加算して目標開度を決定する(S12)。
【0091】
ここで、“TH開度加算テーブル”とは、図11に示す曲線のグラフにて表される予め求められたデータである。すなわち、横軸をエンジン4の回転差(rpm)、縦軸を角度で表される加算TH開度(°)とし、エンジン4の回転差から加算TH開度(°)を求めることができる。なお、“TH開度加算テーブル”は、エンジン4の排気量やタイプによって異なる固有のデータとして示される。
【0092】
また制御フローに戻って、“TH開度加算テーブル”を用いた目標開度(S12)の設定の次に、スロットルの目標開度になるようにTBWの駆動によって開度を目標値まで上げる(S13)。その後、実際のエンジン回転数(Ne)が目標回転よりも小さいか否かを見て小さい場合はTBW開度の調整を再度おこない、小さくない場合(NO)には目標回転数である場合(S20)としてそのまま出力(EXSIT)する(S21)。
【0093】
次に、“点火・噴射カット中”であるか否かにおいて、“点火・噴射カット中”の場合(YESの場合)、すなわち、エンジン回転を下げる場合(D)について説明する。
この場合、例えばある音符の音程を表現するために予め決められたエンジンの目標回転にするとき、点火プラグ136の点火ならびに燃料の噴射を間引き停止する間引き率(%)を算出し(S15)、引き続いて、TH開度減算テーブルを検索(図10においては、“TH開度減算テーブル検索”と表記する)する(S16)。そして、TH開度減算テーブルを検索して、間引き率の現状の率に対して必要な分を減算してスロットルの目標開度にする(S17)。
【0094】
ここで、“TH開度減算テーブル”について説明すると、図12に示す例えば右肩上がりの曲線のグラフにて表される予め求められたデータである。すなわち、横軸を間引き率(%)、縦軸を角度で表される減算TH開度(°)とし、間引き率から減算TH開度(°)を求めることができる。この“TH開度減算テーブル”においても、エンジン4の排気量やタイプによって異なる固有のデータとして示される。
【0095】
また制御フローに戻って、“TH開度減算テーブル”を用いた目標開度(S17)の設定の次に、スロットルの目標開度になるようにTBWの駆動によって開度を目標値まで下げる(S18)。その後、実際のエンジン回転数(Ne)が目標回転よりも大きいか否かを見て大きい場合はTBW開度の調整を再度おこない、大きくない場合(NO)には目標回転数である場合(S20)としてそのまま出力(EXIT)する(S21)。
【0096】
図10に示すようにエンジン回転を制御することにより、高速にエンジンの運転状態を変化させることができ、例えば高速テンポの楽曲の演奏が可能となる。
【0097】
以上、本発明を適用した一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、上記実施形態における音階テーブルや音長テーブル等は必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明は多気筒エンジンや四輪車両やその他種々の車両に適用することがでる。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン制御装置
2 電子制御装置
2a エンジン制御部
2b 演奏プログラム部
2c 回転数検出部
2d フィードバック部
2e 可否判断部
3 データ記録部
4 エンジン
5 燃焼室
6 クランクシャフト
6a クランクパルス検出器
7 吸気制御系
8 燃料制御系
9 点火制御系
10 状態検出部
11 排気ガスセンサ
12 水温センサ
13 クラッチスイッチ
14 ニュートラルスイッチ
15 オイル温センサ
16 メインスタンドスイッチ
17 車両診断検出部
20 排気系
47 操作スイッチ
49 無線通信部
100 自動二輪車(車両)
P 特定パターン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子制御装置(2)によりエンジン(4)の運転状態を制御するエンジン制御方法であって、
前記エンジン(4)の無負荷運転状態で、前記電子制御装置(2)のパターンプログラムに基づいて少なくともスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータ(168)により前記エンジン(4)の回転数(Ne)を制御して、排気音が変化する特定パターン(P)を生じさせることを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項2】
前記エンジン(4)の回転数(Ne)の複数の高低区分を、
前記エンジン(4)の前記排気音の音階(S)の複数の音程(ド、レ、ミ、・・ド)に一対一対応する音階テーブル(ST)を設定しておき、前記パターンプログラムを前記エンジン(4)の回転数(Ne)の制御にて演奏するときに、前記特定パターン(P)を前記音階(S)にて表すことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御方法。
【請求項3】
前記音階(S)の1音長さ(T1,T2,・・T8)を、前記回転数(Ne)の制御時間の長さで表す音長テーブル(TT)を設定しておき、前記パターンプログラムを前記回転数(Ne)の制御にて実行するときに、前記特定パターン(P)を前記音長テーブル(TT)に基づいて前記1音長さ(T1,T2,・・T8)にて表すことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御方法。
【請求項4】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態検出部(10)からの信号に基づき行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項5】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)の排気ガスセンサ(11)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項6】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)の水温センサ(12)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項7】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のオイル温センサ(15)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項8】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のニュートラルスイッチ(14)またはクラッチスイッチ(13)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項9】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のメインスタンドスイッチ(16)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項10】
前記パターンプログラムの演奏を、前記エンジン(4)の予め設定された回転数以下で行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項11】
前記パターンプログラムを前記電子制御装置(2)の外部から取得することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項12】
前記パターンプログラムの取得を、前記パターンプログラムが記録されたメディア(30)の装着にて行うことを特徴とする請求項11に記載のエンジン制御方法。
【請求項13】
前記パターンプログラムの取得を、前記電子制御装置(2)の無線通信部(49)を介して行うことを特徴とする請求項11に記載のエンジン制御方法。
【請求項14】
前記無線通信部(49)を介して複数の車両(100)間で同期させて前記パターンプログラムの合奏運転を行うことを特徴とする請求項13に記載のエンジン制御方法。
【請求項15】
前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される前記パターンプログラムを演奏することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項16】
前記パターンプログラムを演奏するときに、前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される固有の演奏変化を付けて演奏することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項17】
吸気制御系(7)、燃料制御系(8)、点火制御系(9)の少なくともいずれかを制御してエンジン(4)の運転状態をコントロールする電子制御装置(2)を備えたエンジン制御装置(1)であって、
前記電子制御装置(2)には、前記エンジン(4)の運転状態を、無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において排気音を特定パターン(P)で変化させるパターンプログラムを駆動する演奏プログラム部(2b)が設けられ、前記エンジン(4)の排気音を前記パターンプログラムに基づいて変化させることを特徴とするエンジン制御装置(1)。
【請求項18】
音階テーブル(ST)および音長テーブル(TT)を有する前記パターンプログラムが演奏プログラム部(2b)により駆動されて前記特定パターン(P)を演奏することを特徴とする請求項17に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項19】
前記パターンプログラムが記録されたメディア(30)の着脱が自在に構成された装着部(48)を備えたことを特徴とする請求項17または18に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項20】
前記装着部(48)がスピードメータ部(40)に設けられるとともに、前記メディア(30)を用いる前記パターンプログラムの実行を選択する操作スイッチ(47)が前記装着部(48)の近傍に設けられたことを特徴とする請求項19に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項21】
前記パターンプログラムの取得を行う無線通信部(49)が設けられたことを特徴とする請求項17〜20のいずれか一項に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項22】
前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)を備え、前記車両診断検出部(17)が前記車両(100)の診断信号を前記電子制御装置(2)に送ることにより、前記診断信号に対応する固有の演奏を行うことを特徴とする請求項17〜21のいずれか一項に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項1】
電子制御装置(2)によりエンジン(4)の運転状態を制御するエンジン制御方法であって、
前記エンジン(4)の無負荷運転状態で、前記電子制御装置(2)のパターンプログラムに基づいて少なくともスロットル開度を制御するスロットルアクチュエータ(168)により前記エンジン(4)の回転数(Ne)を制御して、排気音が変化する特定パターン(P)を生じさせることを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項2】
前記エンジン(4)の回転数(Ne)の複数の高低区分を、
前記エンジン(4)の前記排気音の音階(S)の複数の音程(ド、レ、ミ、・・ド)に一対一対応する音階テーブル(ST)を設定しておき、前記パターンプログラムを前記エンジン(4)の回転数(Ne)の制御にて演奏するときに、前記特定パターン(P)を前記音階(S)にて表すことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御方法。
【請求項3】
前記音階(S)の1音長さ(T1,T2,・・T8)を、前記回転数(Ne)の制御時間の長さで表す音長テーブル(TT)を設定しておき、前記パターンプログラムを前記回転数(Ne)の制御にて実行するときに、前記特定パターン(P)を前記音長テーブル(TT)に基づいて前記1音長さ(T1,T2,・・T8)にて表すことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御方法。
【請求項4】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態検出部(10)からの信号に基づき行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項5】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)の排気ガスセンサ(11)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項6】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)の水温センサ(12)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項7】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のオイル温センサ(15)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項8】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のニュートラルスイッチ(14)またはクラッチスイッチ(13)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項9】
前記パターンプログラムの演奏の可否判断を、前記状態検出部(10)のメインスタンドスイッチ(16)の信号に基づき行うことを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御方法。
【請求項10】
前記パターンプログラムの演奏を、前記エンジン(4)の予め設定された回転数以下で行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項11】
前記パターンプログラムを前記電子制御装置(2)の外部から取得することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項12】
前記パターンプログラムの取得を、前記パターンプログラムが記録されたメディア(30)の装着にて行うことを特徴とする請求項11に記載のエンジン制御方法。
【請求項13】
前記パターンプログラムの取得を、前記電子制御装置(2)の無線通信部(49)を介して行うことを特徴とする請求項11に記載のエンジン制御方法。
【請求項14】
前記無線通信部(49)を介して複数の車両(100)間で同期させて前記パターンプログラムの合奏運転を行うことを特徴とする請求項13に記載のエンジン制御方法。
【請求項15】
前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される前記パターンプログラムを演奏することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項16】
前記パターンプログラムを演奏するときに、前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)からの診断信号に基づき、前記診断信号で特定される固有の演奏変化を付けて演奏することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のエンジン制御方法。
【請求項17】
吸気制御系(7)、燃料制御系(8)、点火制御系(9)の少なくともいずれかを制御してエンジン(4)の運転状態をコントロールする電子制御装置(2)を備えたエンジン制御装置(1)であって、
前記電子制御装置(2)には、前記エンジン(4)の運転状態を、無負荷運転状態でアイドリング回転数以上において排気音を特定パターン(P)で変化させるパターンプログラムを駆動する演奏プログラム部(2b)が設けられ、前記エンジン(4)の排気音を前記パターンプログラムに基づいて変化させることを特徴とするエンジン制御装置(1)。
【請求項18】
音階テーブル(ST)および音長テーブル(TT)を有する前記パターンプログラムが演奏プログラム部(2b)により駆動されて前記特定パターン(P)を演奏することを特徴とする請求項17に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項19】
前記パターンプログラムが記録されたメディア(30)の着脱が自在に構成された装着部(48)を備えたことを特徴とする請求項17または18に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項20】
前記装着部(48)がスピードメータ部(40)に設けられるとともに、前記メディア(30)を用いる前記パターンプログラムの実行を選択する操作スイッチ(47)が前記装着部(48)の近傍に設けられたことを特徴とする請求項19に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項21】
前記パターンプログラムの取得を行う無線通信部(49)が設けられたことを特徴とする請求項17〜20のいずれか一項に記載のエンジン制御装置(1)。
【請求項22】
前記エンジン(4)を搭載する車両(100)の状態を検出可能な車両診断検出部(17)を備え、前記車両診断検出部(17)が前記車両(100)の診断信号を前記電子制御装置(2)に送ることにより、前記診断信号に対応する固有の演奏を行うことを特徴とする請求項17〜21のいずれか一項に記載のエンジン制御装置(1)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−36417(P2013−36417A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174185(P2011−174185)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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