説明

エンジン動弁装置

【課題】エンジン回転速度の急激な変化に対して、応答性良く高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制する。
【解決手段】エンジン回転速度を検知し、エンジン回転速度が所定値以上であった場合には、電磁アクチュエータ28が駆動するように通電し、電磁石30によって発生した磁場と永久磁石32aとの反発力によって、円すいコイルばね22の圧縮方向へ、円すいコイルばね22を電流値に応じて変位させる。エンジン回転速度が所定値以上でなければ、電磁アクチュエータ28への通電を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動弁装置にかかり、特に、ジャンプ及びバウンス現象を抑制することができるエンジン動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン動弁装置では、エンジン回転速度が高くなると、吸気バルブ及び排気バルブが慣性力によってカムと同調しなくなり、カム面あるいは弁座に激突して跳ね返るジャンプ及びバウンス現象が発生し、燃料効率の低下や騒音の原因となっている。このジャンプ及びバウンス現象を防止するため、吸気バルブ及び排気バルブにエンジンの最高許容回転速度のジャンプ及びバウンス現象を防止可能なばね定数を有するバルブスプリングを装着し、吸気バルブ及び排気バルブを閉じ方向に付勢し、吸気バルブ及び排気バルブとカムとの同調を図ることが行われている。エンジンの最高許容回転速度は、ジャンプ及びバウンス現象の起こる付近に定められており、一般に5,000rpm以上である。
【0003】
しかし、車両が法定速度で運転する際には、3,000rpm以下のエンジン回転速度で走行することがほとんどであり、急加速する場合でも4,000rpm程度のエンジン回転速度である。したがって、低・中速回転域で走行している場合でも、カムには5,000rpm以上の高回転域に耐えられるだけの負荷抵抗がかかっているため、エネルギロスの原因になる、という問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1には、バルブスプリングの一端を移動自在なスプリングシートで受けるとともに、スプリングシートを油圧によって上下動させることによりバルブスプリングの取付長さを変化させて、バルブスプリングのセット荷重を変化させることにより、ジャンプ及びバウンス現象を防止する動弁装置が提案されている。この動弁装置では、エンジン低回転域ではバルブスプリングのセット荷重を下げることによってヘルツ応力を小さく抑え、また、エンジン高回転域ではバルブスプリングのセット荷重を高めることによって、ジャンプ及びバウンス現象の発生を防いでいる。
【特許文献1】特開平9−228808
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の動弁装置では、油圧によってスプリングを変位させているため、応答性が十分でなく、急加速した場合などのようにエンジン回転速度が急激に高くなった場合に、ジャンプ及びバウンス現象を抑制できない場合がある、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、エンジン回転速度が急激に変化した場合でも、高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる応答性の良いエンジン動弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、エンジンに設けられたバルブを閉じ方向に付勢すると共に、ばね定数がエンジン高回転域でジャンプ及びバウンス現象を抑制できるばねのばね定数より小さな値に設定されたばねと、斥力によって前記ばねを圧縮方向に付勢するように設けられた一対の永久磁石と、コイルを備え、該コイルへ通電されたときに前記ばねを圧縮方向に付勢する磁力が発生するように前記一対の永久磁石間に配置された電磁石と、エンジン回転速度が所定値以上になった場合に、前記ばねの一端を前記圧縮方向に変位させる大きさの磁力が発生するように前記コイルへの通電を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記請求項1の発明によれば、エンジンに設けられたバルブを閉じ方向に付勢するばねを斥力によって圧縮方向に付勢する一対の永久磁石が設けられており、一対の永久磁石間にはコイルへ通電されたときにばねを圧縮方向に付勢する電磁石が設けられている。エンジン回転速度が所定値以上になった場合に、制御手段がばねの一端を圧縮方向に変位させる大きさの磁力が発生するようにコイルへの通電を制御する。
【0009】
このように、永久磁石及び電磁石を用いてばねの一端を変位させているため、エンジン回転速度が急激に変化した場合でも、応答性良く高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1のエンジン動弁装置において、ばねを円すいコイルばねとしたことを特徴とする。
【0011】
上記請求項2の発明によれば、変位量と復元力との関係が非線形特性をもち、変位量が増加するにしたがって急激に復元力が増加する円すいコイルばねを用いているため、エンジン回転速度が急激に変化した場合でも、より応答性良く高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、エンジン回転速度が急激に変化した場合でも、応答性良く高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、本実施の形態に係るエンジン動弁装置10は、シリンダヘッド12に設けられた吸気ポート14を開閉するための吸気バルブ16に設けられている。なお、シリンダヘッド12には、排気ポートを開閉するための排気バルブが設けられ、この排気バルブに本実施の形態に係るエンジン動弁装置10が設けられているが、吸気バルブ16に設けられたエンジン動弁装置10と同様の構成であるため、ここでは、吸気バルブ16側のエンジン動弁装置10について説明し、排気バルブ側に設けられたエンジン動弁装置についての説明は省略する。
【0014】
吸気バルブ16は、傘部16aとステム部16bとステム部16bの先端に形成されたばね受け部16cとで構成されており、シリンダヘッド12に圧入された筒状のバルブガイド18にステム部16bが挿通されている。ばね受け部16cは、カム20に当接しており、当接しているカム20の回転に合わせて吸気バルブ16が摺動自在となるように保持されている。
【0015】
吸気バルブ16は、ばね受け部16cと電磁アクチュエータ28の永久磁石ガイド34との間に圧縮された状態で取り付けられた固定された円すいコイルばね22によって閉じ方向に付勢されており、カム20の回転に応じて、傘部16aがシリンダヘッド12に設けられた吸気ポート14のシリンダ24への開口部周縁に嵌着されたリング状のバルブシート26に間欠的に着座して吸気ポート14を開閉する。
【0016】
この円すいコイルばね22のばね定数は、エンジン高回転域(例えば、5,000rpm以上)でジャンプ及びバウンス現象を抑制できるばねのばね定数より小さな値に設定されている。
【0017】
円すいコイルばね22は、例えば、素線径2mm、コイル最大径30mm、コイル最小径10mm、自然長24.2mm、重さ8.5g、有効巻数4の寸法形状のものを用いることができる。円すいコイルばね22は、ばね定数が非線形性を有するもので、例えば、上記寸法形状の円すいコイルばね22の場合、本実施形態に係る円すいコイルばね22に電磁アクチュエータ28を駆動させた場合と同等のエンジン回転速度までジャンプ及びバウンス現象を抑制できる円筒コイルばねとの比較における、変位量と復元力との関係は図2に示すような関係となる。
【0018】
また、エンジン動弁装置10は、 図3(a)に示すような電磁アクチュエータ28を備えている。電磁アクチュエータ28は、電磁石30と、永久磁石32a、32bと、永久磁石32aの円すいコイルばね22の圧縮方向への移動をガイドするための永久磁石ガイド34とで構成されている。
【0019】
電磁石30は、リング状の鉄芯36にコイル38を巻回して構成されており、例えば、鉄芯の内径19mm、鉄芯の外径39mm、コイル巻数170、重さ371.5g、抵抗0.6Ω、素線径1mmの寸法形状のものを用いることができる。
【0020】
永久磁石32a、32bは、例えば、リング型ネオジム磁石で構成され、永久磁石32aは、例えば、外径39mm、内径19mm、厚み7mm、残留磁束密度350mT、吸着力20Kg、重さ47.8g、永久磁石32bは、例えば、外径59mm、内径19mm、厚み10mm、残留磁束密度450mT、吸着力30Kg、重さ183.7gの寸法形状のものを用いることができる。
【0021】
永久磁石ガイド34は、永久磁石32aを載置するドーナツ型の台座部34aと、台座部34aの一方の面に台座部34aの中心軸と中心軸が同一になるように設けられた円筒状の足部34bと、台座部34aの他方の面に台座部34aと一体となって永久磁石32aを収納することができるカバー部34cとで構成されている。
【0022】
電磁石30、永久磁石32a、32b、永久磁石ガイド34は、それぞれ中心軸を一致させるように配置されている。電磁石30は、シリンダヘッド12のバルブガイド18の周りに形成された凹部内に配置されている。永久磁石32aは、永久磁石ガイド34の台座部34aに固定され、永久磁石32bは、シリンダヘッド12の凹部内に配置されている。永久磁石32aと永久磁石32bとは、同極が対向する向きで、電磁石30を挟むように配置されている。
【0023】
円すいコイルばね22には、例えば、初期変位4mmを与えている。また、永久磁石32aと永久磁石32bとの間に斥力が発生するため、電磁石30のコイル38へ流す電流の電流値を小さくすることもできる。
【0024】
永久磁石ガイド34は、永久磁石ガイドの足部34bがバルブガイド18に沿って移動可能となるように配置されており、台座部34aに固定された永久磁石32aが円すいコイルばね22の圧縮方向へ移動するようガイドする。
【0025】
また、エンジン動弁装置10は、電磁アクチュエータ28を駆動させるための駆動装置40を備えている。駆動装置40は、車載バッテリに接続され電流値を調整する回路で構成され、電磁石30のコイル38と、駆動装置40による電磁アクチュエータ28の駆動を制御するための制御装置42とに接続されている。
【0026】
制御装置42は、CPU、ROM、及びRAMを含んだマイクロコンピュータで構成されている。記憶媒体としてのROMには以下で説明する処理ルーチンのプログラムが記憶されている。制御装置42は、回転速度センサ44と接続されており、回転速度センサ44で検知されたエンジン回転速度を取り込み、駆動装置40の制御を行う。
【0027】
回転速度センサ44としては、例えば、光電式センサや磁気式センサなどを用いることができる。
【0028】
次に、図4を参照して、本実施形態の処理ルーチンについて説明する。
【0029】
ステップ100において、回転速度センサ44で検出されたエンジン回転速度を取り込む。
【0030】
次に、ステップ102で、エンジン回転速度Neが所定値Ne以上か否かを判断する。ここで、車両が通常の法定速度で走行する際のエンジン回転速度が3,000rpm以下であることがほとんどであるため、所定値Neは、例えば3,000rpmに設定されている。
【0031】
エンジン回転速度Neが所定値Ne以上の場合には、ステップ104で、電磁アクチュエータ28のコイル38に通電し、電磁アクチュエータ28を駆動する。コイル38への通電により、電磁石30の中心軸方向に磁束が貫通するような磁場が発生する。このとき、電磁石30による磁場と永久磁石32aに斥力が生じる向きに磁場が発生するよう電流を流す。電磁石30による磁場と永久磁石32aとの斥力により、図3(b)に示すように、永久磁石32aが永久磁石ガイド34にガイドされて、円すいコイルばね22の一端を円すいコイルばね22が圧縮する方向へ移動する。
【0032】
永久磁石32aの移動により、永久磁石32aが固定された永久磁石ガイドの台座部34aと一体となっている永久磁石ガイドのカバー部34cが円すいコイルばね22を圧縮する。これにより、円すいコイルばね22の復元力が増加し、吸気バルブ16を閉じ方向へ付勢する力が強まる。
【0033】
ここで、円すいコイルばね22の圧縮による変位量は、電磁石30へ流す電流の電流値に応じて大きくなる。電流値は一定値でもよいし、エンジン回転速度Neの増加に伴って徐々に大きくした値でも良い。
【0034】
エンジン回転速度Neが所定値Ne以上でなかった場合には、ステップ106で、電磁アクチュエータ28への通電を停止する。通電の停止により、電磁石30による磁場がなくなるため、円すいコイルばね22の復元力により、図3(a)に示す状態に戻る。
【0035】
このように、エンジン回転速度が所定値以上か否かを判断して、所定値以上の場合は電磁アクチュエータ28の駆動を行うため、エンジン回転速度の変化に対して応答性良く円すいコイルばね22の復元力を大きくして、ジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる。
【0036】
図5に、本実施の形態において、上記に例を挙げた寸法形状の円すいコイルばね22を使用した場合のカム回転数33rpsにおける、カム回転角度に対する吸気バルブ16のリフト量を示す。エンジン回転速度が高くなると、カム20のプロフィールに吸気バルブ16が追従できなくなり、ジャンプ及びバウンス現象が発生していることを確認できる。なお、カム回転数はエンジン回転速度の半分であるので、カム回転数33rpsはエンジン回転速度に換算すると3,960rpmであり、高回転領域の回転速度である。
【0037】
図6に、電流20Aを印加して電磁アクチュエータ28を駆動させた場合の、カム回転数33rpsにおける、カム回転角度に対する吸気バルブ16のリフト量を示す。電磁アクチュエータ28駆動前には発生していたジャンプ及びバウンス現象を抑制できたことが確認できる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態では、エンジン回転速度が急激に変化した場合でも、応答性良く高回転域でのジャンプ及びバウンス現象を抑制することができる。
【0039】
なお、本発明は上記の実施の形態に限られるものではなく、種々の形態が可能である。
【0040】
例えば、永久磁石32はリング型である必要はなく、電磁石30により発生する磁場との斥力により、円すいコイルばね22を圧縮させることができるものであれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施の形態に係るエンジン動弁装置を示す構成図である。
【図2】本実施の形態に係るエンジン動弁装置に用いる円すいコイルばねの変位量と復元力との関係を示す線図である。
【図3】本実施の形態に係るエンジン動弁装置の電磁アクチュエータの断面図である。
【図4】本実施の形態に係るエンジン動弁装置の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本実施の形態に係るエンジン動弁装置において、電磁アクチュエータを駆動しない場合のカム回転角度に対するバルブのリフト量の関係を示す線図である。
【図6】本実施の形態に係るエンジン動弁装置において、電磁アクチュエータを駆動した場合のカム回転角度に対するバルブのリフト量の関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0042】
10 エンジン動弁装置
16 吸気バルブ
28 電磁アクチュエータ
30 電磁石
32 永久磁石
34 永久磁石ガイド
36 鉄芯
38 コイル
40 駆動装置
42 制御装置
44 回転速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに設けられたバルブを閉じ方向に付勢すると共に、ばね定数がエンジン高回転域でジャンプ及びバウンス現象を抑制できるばねのばね定数より小さな値に設定されたばねと、
斥力によって前記ばねを圧縮方向に付勢するように設けられた一対の永久磁石と、
コイルを備え、該コイルへ通電されたときに前記ばねを圧縮方向に付勢する磁力が発生するように前記一対の永久磁石間に配置された電磁石と、
エンジン回転速度が所定値以上になった場合に、前記ばねの一端を前記圧縮方向に変位させる大きさの磁力が発生するように前記コイルへの通電を制御する制御手段と、
を含むエンジン動弁装置。
【請求項2】
前記ばねは、円すいコイルばねである請求項1記載のエンジン動弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−291733(P2008−291733A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137817(P2007−137817)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月15日 社団法人日本機械学会関東支部発行の「日本機械学会関東支部第13期総会講演会講演論文集」に発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)