説明

エンジン始動装置

【課題】ハイブリッド車両において、エンジンを始動させる際の消費電力量を低減する。
【解決手段】エンジン始動装置(100)は、可変動弁機構(116)を有するエンジン(11)と、該エンジンに連結された回転電機(12)と、エンジンを始動する際に、エンジンをクランキングするように回転電機を制御し、更に、エンジンが完爆した後もエンジンのクランキングを継続するように回転電機を制御する制御手段(20)と、を備えるハイブリッド車両(1)に搭載される。エンジン始動装置は、エンジンの始動中に制御手段が、エンジンの吸入空気量を変更するように可変動弁機構を制御する場合、可変動弁機構に起因するエンジンの吸気弁の進角量に応じて、回転電機に係るクランキングトルクを減量するトルク減量手段(20)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド自動車等の車両に搭載されたエンジンを始動するエンジン始動装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば、エンジンのクランキングを開始するときに、吸気弁の閉タイミングを最遅角位置から下死点方向に進角させる進角量を決定する装置が提案されている。ここでは特に、(i)決定された進角量に応じて、クランキングの際のモータのクランキングトルクを補正すること、(ii)低温環境下では、温度が低いほどクランキングトルクの補正量をより大きくすること、が記載されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−167920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、低温環境下では、エンジンに係るフリクションが増加するために、完爆判定がなされた後でも、エンジンのクランキングが継続されることが多い。すると、特許文献1に記載された技術では、エンジンを始動させる際に消費される電力量が比較的大きくなる可能性があるという技術的問題点がある。
【0005】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンを始動させる際の消費電力量を低減することができるエンジン始動装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン始動装置は、上記課題を解決するために、可変動弁機構を有するエンジンと、前記エンジンに連結された回転電機と、前記エンジンを始動する際に、前記エンジンをクランキングするように前記回転電機を制御し、更に、前記エンジンが完爆した後も前記エンジンのクランキングを継続するように前記回転電機を制御する制御手段と、を備えるハイブリッド車両に搭載され、前記エンジンの始動中に前記制御手段が、前記エンジンの吸入空気量を変更するように前記可変動弁機構を制御する場合、前記可変動弁機構に起因する前記エンジンの吸気弁の進角量に応じて、前記回転電機に係るクランキングトルクを減量するトルク減量手段を備える。
【0007】
本発明のエンジン始動装置によれば、当該エンジン始動装置は、可変動弁機構を有するエンジンと、該エンジンに連結された回転電機と、エンジンを始動する際に、エンジンをクランキングするように回転電機を制御し、更に、エンジンが完爆した後もエンジンのクランキングを継続するように回転電機を制御する制御手段と、を備えるハイブリッド車両に搭載される。
【0008】
回転電機は、例えば力行及び発電(即ち、電力回生)が可能な各種モータ・ジェネレータ等である。可変動弁機構は、油圧駆動式であってもよいし、電動式であってもよい。尚、エンジンが完爆したか否かの判定には、公知の各種態様を適用可能であるので、その詳細についてはここでは割愛する。ここで、「完爆した」とは、「エンジンが自立して回転できる状態に達した」ことを意味する。
【0009】
本願発明者の研究によれば以下の事項が判明している。即ち、ハイブリッド車両では、エンジンの燃料消費効率を向上させるために、高膨張比を採用しており、そのエンジン特性により、通常のエンジンと比べて筒内圧力が低い。特に、可変動弁機構を作動させることが困難なエンジンの始動時では、着火しても筒内圧力が低いため爆発力も低くなってしまう。例えば摂氏−30度等の極低温環境下では、エンジンが完爆したと判定された場合であっても、エンジンの機械系のフリクション(例えば、ピストン等のフリクション)の上昇に加えて、潤滑オイルの粘度が極端に上昇してしまい、エンジン全体のフリクションが高くなる可能性があり、予期せずエンジンストールに至る場合がある。そこで、エンジンが完爆したと判定された後も、エンジンストールを防止するために、回転電動機によりエンジンのクランキングがある程度継続されることが望ましい。しかしながら、単に、エンジンのクランキングが継続されたのでは、回転電機において消費される電力量が増大する可能性がある。加えて、該電力量を供給するために、比較的大容量の電池をハイブリッド車両に搭載しなければならず、該ハイブリッド車両の製造コスト等が比較的高くなる可能性がある。
【0010】
そこで本発明では、トルク減量手段により、エンジンの始動中に制御手段が、エンジンの吸入空気量を変更(例えば増量)するように可変動弁機構を制御する場合、可変動弁機構に起因するエンジンの吸気弁の進角量に応じて、回転電機に係るクランキングトルクが減量される。ここで、可変動弁機構によって吸気弁の進角量が増大されるとエンジンにより発生されるトルクが大きくなるので、クランキングトルクを減量しても、エンジンの回転数が低下しないことが、本願発明者の研究により判明している。
【0011】
このため、本発明のエンジン始動装置によれば、エンジンの始動時における消費電力量を低減しつつ、エンジンストールを防止することができる。加えて、電池容量を抑制することができるので、製造コスト等を抑制することができ、実用上非常に有利である。
【0012】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン始動装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエンジン始動装置が実行するエンジン始動制御処理を示すフローチャートである。
【図3】吸気弁の進角量と補正係数との関係の一例を示す特性図である。
【図4】モータ・ジェネレータに係るトルク、エンジン回転数及び吸気弁の進角量の各々の時間変動の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエンジン始動制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
(車両の構成)
本発明の実施形態に係るエンジン始動装置が搭載される車両の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るエンジン始動装置が搭載される車両の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、本実施形態に直接関係する部材のみを示し、その他の部材については図示を省略している。
【0016】
図1において、車両1は、エンジン11、モータ・ジェネレータ(MG1)12、モータ・ジェネレータ(MG2)13、動力分配機構14、バッテリ15、パワーコントロールユニット(Power Control Unit:PCU)16及びECU(Electronic Control Unit)20を備えて構成されている。
【0017】
エンジン11は、クランクシャフト111、吸気弁112、排気弁113、点火プラグ114、ピストン115及び可変動弁機構(VVT)116を備えて構成されている。
【0018】
可変動弁機構116は、クランクシャフト111の回転位相に対する吸気カムシャフト(図示せず)の回転位相を変更することによって、該吸気カムシャフトによって開閉される吸気弁112の開閉タイミングを変更する。尚、可変動弁機構116は、油圧駆動式であってもよいし、電動式であってもよい。
【0019】
動力分配機構14は、サンギヤと、ピニオンギヤと、該ピニオンギヤを自転及び公転可能に支持するキャリアと、リングギヤとを含んでなる遊星歯車機構を備えて構成されている。
【0020】
動力分配機構14のキャリア軸141は、エンジン11のクランクシャフト111に接続されている。動力分配機構14のサンギヤ軸142は、モータ・ジェネレータ12の回転軸に接続されている。動力分配機構14のリングギヤ軸(即ち、駆動軸)143は、駆動輪18に接続された減速機構17、及びモータ・ジェネレータ13に接続されている。尚、キャリア軸141、サンギヤ軸142及びリングギヤ軸143は、実際には同軸上に配置されているが、ここでは説明の便宜上、軸が延びる方向を互いに異ならしめている。
【0021】
バッテリ15は、直流電流と交流電流とを適切に制御可能なパワーコントロールユニット16を介して、モータ・ジェネレータ12及び13各々に電気的に接続されている。バッテリ15は、モータ・ジェネレータ12及び13各々に対して電力を供給可能、且つモータ・ジェネレータ12及び13各々の回生電力により充電可能に構成されている。
【0022】
本実施形態に係る「モータ・ジェネレータ12」及び「ECU20」は、夫々、本発明に係る「回転電機」及び「制御手段」の一例である。
【0023】
以上のように構成された車両1において、エンジン11が始動される際、ECU20は、先ず、エンジン11をクランキングするようにモータ・ジェネレータ12を制御する。クランキング開始後、ECU20は、エンジン11の回転数が所定値に達したことを条件に、例えばガソリン等の燃料を供給するように燃料噴射弁(図示せず)を制御すると共に、点火するように点火プラグ114を制御する。
【0024】
続いて、ECU20は、エンジン11の回転数が所定閾値より大きいか否かを判定する。エンジン11の回転数が所定閾値より大きいと判定された場合、ECU20は、エンジン11が完爆したと判定する。他方、エンジン11の回転数が所定閾値より小さいと判定された場合、ECU20は、エンジン11が完爆していないと判定する。尚、エンジン11の回転数と所定閾値とが「等しい」場合には、どちらかの場合に含めて扱えばよい。
【0025】
ここで、「所定閾値」は、エンジン11が完爆したか否かを決定する値であり、予め固定値として、或いは、何らかの物理量又はパラメータに応じた可変値として設定されている。このような所定閾値は、実験又はシミュレーションにより、例えば、エンジンの回転数とエンジンが完爆する確率との関係を求めて、該求められた関係に基づいて、エンジンが確実に完爆すると予測されるエンジンの回転数として設定すればよい。
【0026】
本実施形態では特に、ECU20は、例えば摂氏−30度等の極低温環境下では、予期しないエンジンストールを防止するために、エンジンが完爆したと判定された後も、所定期間、エンジン11のクランキングを継続するようにモータ・ジェネレータ12を制御する。また、エンジン始動の際、ECU20は、吸気弁112の開閉タイミングを変更して(即ち、吸気弁112の進角量又は遅角量を変更して)、エンジン11に吸入される空気量である吸入空気量を変更するように、可変動弁機構116を制御する。尚、吸気弁112の開閉タイミングをどの程度変更するかは、例えばエンジン11の特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
(エンジン始動装置)
エンジン始動装置100は、エンジン11の始動中にECU20が、エンジン11の吸入空気量を変更するように可変動弁機構116を制御する場合、該可変動弁機構116に起因するエンジン11の吸気弁112の進角量に応じて、モータ・ジェネレータ12に係るクランキングトルクを減量する、本発明に係る「トルク減量手段」の一例としての、ECU20を備えて構成されている。本実施形態では、車両1の各種電子制御用のECU20の一部をエンジン始動装置100の一部として用いている。
【0028】
(エンジン始動制御処理)
次に、以上のように構成されたエンジン始動装置100の一部としてのECU20が実行するエンジン始動制御処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0029】
図2において、先ず、ECU20は、エンジン11の始動制御開始後である(即ち、モータ・ジェネレータ12によりエンジン11がクランキングされている)か否かを判定する(ステップS101)。エンジン11の始動制御開始前、或いは始動制御終了であると判定された場合(ステップS101:No)、一旦処理が終了される。
【0030】
エンジン11の始動制御開始後であると判定された場合(ステップS101:Yes)、ECU20は、始動制御開始からA msec(ミリ秒)以内であるか否かを判定する(ステップS102)。尚、所定時間“A”は、停止しているエンジン11の回転数を比較的速やかに上昇させるために、モータ・ジェネレータ12に、比較的大きなクランキングトルクを出力させる時間として設定されている。このように構成すれば、例えば、エンジン11の回転数が車両1に係る共振帯域を通過する時間を短縮することができる。
【0031】
始動制御開始からA msec以内であると判定された場合(ステップS102:Yes)、ECU20は、比較的大きなトルクである初期トルクが出力されるように(図4における時刻t1〜t2参照)、モータ・ジェネレータ12等を制御する(ステップS109)。その後ECU20は、後述するステップS107の処理を実行する。
【0032】
始動制御開始からA msecを超えていると判定された場合(ステップS102:No)、ECU20は、エンジン11の回転数Neが、上記「所定閾値」の一具体例としての、C rpm(rotation per minute)以上であるか否かを判定する(即ち、エンジン11が完爆したか否かを判定する)(ステップS103)。
【0033】
エンジン11の回転数NeがC rpm未満であると判定された場合(ステップS103:No)、ECU20は、エンジン11の回転数NeがB rpm以上であるか否かを判定する(ステップS104)。エンジン11の回転数NeがB rpm未満であると判定された場合(ステップS104:No)、ECU20は、上述したステップS109の処理を実行した後に、後述するステップS107の処理を実行する。
【0034】
ステップS104の処理において、エンジン11の回転数NeがB rpm以上であると判定された場合(ステップS104:Yes)、ECU20は、第2始動トルクを演算すると共に、該演算された第2始動トルクが出力されるように(図4における時刻t2〜t5参照)、モータ・ジェネレータ12等を制御する(ステップS105)。
【0035】
所定回転数“B”は、第2始動トルクを演算するか否かを決定する値であり、予め固定値として、或いは、何らかの物理量又はパラメータに応じた可変値として設定されている。このような所定回転数“B”は、経験的に、或いは、実験又はシミュレーションにより、例えば、エンジンの回転数と、エンジンのフライホイール等に起因する慣性力との関係を求めて、該求められた関係に基づいて、クランキングトルクをある程度減らしてもエンジンの回転数が低下しないようなエンジンの回転数、且つ、共振回転数より高い回転数、として設定すればよい。尚、エンジン11を始動させる際に消費される電力量を抑制するという観点からは、所定回転数“B”は比較的小さいことが望ましい。
【0036】
「第2始動トルク」は、エンジン11の回転数を、所定回転数“B”から、エンジン11が完爆可能な回転数まで、所定期間内に上昇可能なクランキングトルクとして設定されている。
【0037】
ここで、エンジン11の回転数NeがB rpmに達した後に、図4に示すように、燃料噴射実行フラグが“ON”になる。この結果、ECU20は、燃料を噴射するように燃料噴射弁を制御すると共に、点火するように点火プラグ114を制御する。
【0038】
次に、ECU20は、共振帯域通過後のタイミングで(即ち、エンジン11の回転数が所定回転数“B”に達した以降に)、吸気弁112の開閉タイミングを変更(ここでは、進角)するように、可変動弁機構116を制御する(図4における時刻t3参照)と共に、該吸気弁112の進角量に応じて、モータ・ジェネレータ12から出力される第2始動トルクを減算補正する(ステップS106)。
【0039】
具体的には例えば、ECU20は、吸気弁112の進角量を検出し、該検出された進角量と、予めECU20に格納されている、吸気弁112の進角量と補正係数との関係を定めるマップ(図3参照)と、に基づいて補正係数を求め、該求められた補正係数を第2始動トルクに乗算することによって、クランキングトルクを補正する(図4における時刻t3〜t5参照)。
【0040】
続いて、ECU20は、ステップS106、後述するステップS108、又はステップS109の処理において設定されたトルクに対して、所定のなまし処理を施し、該所定のなまし処理が施されたトルクを出力するように、モータ・ジェネレータ12を制御する(ステップS107)。このように構成すれば、急激なトルク段差の発生を抑制することができる。このため、例えば、車両1の運転者がトルク段差に起因する違和感を覚えることを回避することができる、或いは、動力伝達系を構成する部材が損傷することを防止することができる。
【0041】
ステップS103の処理において、エンジン11の回転数NeがC rpm以上であると判定された場合(ステップS103:Yes)、ECU20は、始動トルクをクリアして(ステップS108)、ステップS107の処理を実行する。ここで、ステップS107の処理では、上述の如く、所定のなまし処理が施されるので、始動トルクがクリアされても、直ちにモータ・ジェネレータ12に係るクランキングトルクがゼロになるのではなく、所定期間はモータ・ジェネレータ12からクランキングトルクが出力される(図4における時刻t4付近参照)。
【0042】
以上の結果、本実施形態に係るエンジン始動装置100によれば、クランキングトルクを補正しない場合(図4最上段の破線参照)に比べて、消費電力量を抑制することができる。具体的には、図4の領域aに対応する電力量だけ抑制することができる。
【0043】
図3は、吸気弁の進角量と補正係数との関係の一例を示す特性図であり、図4は、モータ・ジェネレータに係るトルク、エンジン回転数及び吸気弁の進角量の各々の時間変動の一例を示すタイムチャートである。
【0044】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うエンジン始動装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
1…車両、11…エンジン、12、13…モータ・ジェネレータ、14…動力分配機構、15…バッテリ、16…パワーコントロールユニット、20…ECU、100…始動制御装置、112…吸気弁、113…排気弁、116…可変動弁機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変動弁機構を有するエンジンと、前記エンジンに連結された回転電機と、前記エンジンを始動する際に、前記エンジンをクランキングするように前記回転電機を制御し、更に、前記エンジンが完爆した後も前記エンジンのクランキングを継続するように前記回転電機を制御する制御手段と、を備えるハイブリッド車両に搭載され、
前記エンジンの始動中に前記制御手段が、前記エンジンの吸入空気量を変更するように前記可変動弁機構を制御する場合、前記可変動弁機構に起因する前記エンジンの吸気弁の進角量に応じて、前記回転電機に係るクランキングトルクを減量するトルク減量手段を備える
ことを特徴とするエンジン始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218580(P2012−218580A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86466(P2011−86466)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】