説明

エンジン油組成物

【課題】 排ガス浄化触媒の劣化を抑制するとともにパティキュレートフィルターの閉塞がなく、腐食防止性能、さらには省燃費性に優れたエンジン油を提供する。
【解決手段】 潤滑油基油に、無灰系摩擦調整剤を0.1質量%以上と脂環式エポキシ化合物を含有し、好ましくは、前記脂環式エポキシ化合物として、エステル結合と2個のエポキシ化シクロアルカンを有するものを含有し、より好ましくはベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体を0.005質量%以上含有するエンジン油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食防止性能に優れたエンジン油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために自動車の燃費を向上させ、CO2の排出を抑制する要求が非常に高まっている。自動車の燃費を向上させるにはエンジンの効率化が重要である一方、エンジンの摩擦を低減することも燃費向上に貢献できることから、摺動部品への低摩擦材料の使用や省燃費型エンジン油の採用が図られている。
【0003】
省燃費型エンジン油としては、SAE(米国自動車技術会)J300に規定されている粘度分類で5W−30や0W−30という低粘度化のものや、摩擦を低下させる添加剤(摩擦調整剤、以下FMと称することもある)であるモリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などの有機モリブデン系FMを添加したものが用いられている。しかし、MoDTCなどは硫黄を含んでいるので、排出ガスを浄化する触媒を劣化させることが知られ、エンジン油中の硫黄化合物は極力低減することが望ましい。
【0004】
また、ディーゼルエンジンにおいては、パティキュレートマターの排出量を低減するため、エンジンの排気装置にパティキュレートフィルターを装着することが検討されている。エンジン油の一部はピストン・シリンダー間から燃焼室に侵入し、高温高圧に曝された後、燃焼ガスとともに、排気装置まで到達する。エンジン油中の金属分や硫黄分は燃焼後も灰分として残存し、これがパティキュレートフィルターを詰まらせる原因であることが知られている。
したがって、エンジン油中の金属分や硫黄分はできるだけ低くする方が望ましく、摩擦調整剤としては、MoDTCの代わりに長鎖脂肪酸、長鎖脂肪族アミン、長鎖脂肪酸エステルなどの無灰型摩擦調整剤を配合することも検討されている。
【0005】
しかし、一般的にこれら無灰型摩擦調整剤は金属の腐食に寄与するため、無灰型摩擦調整剤を配合しても腐食防止性に優れたエンジン油が強く求められている。
この腐食防止を向上させたエンジン油組成物として、潤滑油基油に、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、酸アミド化合物、脂肪酸部分エステル化合物及び/または脂肪族アミン化合物などの無灰型摩擦調整剤、及びベンゾトリアゾール誘導体を含むものが提案されている(特許文献1)。しかしながら、この潤滑油組成物では、有機モリブデン系FMが配合され、排ガス浄化触媒の劣化やパティキュレートフィルターに閉塞の問題がある。
【0006】
一方、鉛及び銅に対する耐食性を改善した広汎なエポキシ化エステル化合物を含む潤滑油が提案され(特許文献2)、ここにはシクロアルキル基を含む各種のエポキシ化エステル化合物が列記されているが、具体的な化合物としては、エポキシ化トロール油脂肪酸2‐エチルヘキシルのみしか開示されておらず、また摩擦調整剤として、有機モリブデン化合物と並列的に脂肪酸エステル及びアミドを添加できるという記載はあるものの、その効果については何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−106199号公報
【特許文献2】特開2008−518080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、無灰型摩擦調整剤を用いた、排ガス浄化触媒の劣化を抑制するとともに、パティキュレートフィルターの閉塞がなく、腐食防止性能、さらには省燃費性に優れたエンジン油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、エンジン油を構成するさまざまな潤滑油基材、潤滑油添加剤に関して鋭意研究を進めた結果、潤滑油添加剤として特定のエポキシ化合物と、無灰型摩擦調整剤を組み合わせて配合したエンジン油組成物が優れた腐食防止性能を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、潤滑油基油に、無灰型摩擦調整剤を0.1質量%以上と脂環式エポキシ化合物を含有するエンジン油組成物で、好ましくは、前記脂環式エポキシ化合物として、エステル結合及び2個のエポキシ化シクロアルカンを有するものを用い、また、さらにベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体を0.005質量%以上含有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエンジン油組成物は、摩擦低減のため無灰型摩擦調整剤を用いるため、排ガス浄化触媒の劣化を抑制するとともにパティキュレートフィルターの閉塞がなく、長い期間使用してもエンジン部材の腐食が少なく、省燃費性能に優れるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエンジン油組成物に用いる潤滑油基油については、特に制限はなく、従来、エンジン油の基油として使用されている鉱油、合成油、及びその混合物のいずれも使用できる。
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧下で蒸留して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製などの処理を行って精製することにより得ることができる。もしくは、ワックスの水素異性化或いは重質油の水素化分解で得られた生成油を溶剤脱蝋又は水素化脱蝋することにより得ることができる。
【0013】
また、合成油としては、α‐オレフィンのオリゴマー、アジピン酸等の二塩基酸と一価アルコールから合成されるジエステルやネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと一塩基酸とから合成されるポリオールエステル、及びこれらの混合物等が挙げられる。
さらに、適宜の鉱油と合成油を組み合わせた混合油も、本エンジン油の基油として用いることができる。
【0014】
基油の粘度については、エンジン油組成物の用途に応じて異なるが、通常100℃における動粘度が、好ましくは2〜30mm2/s、より好ましくは3〜15mm2/s、特に好ましくは3〜10mm2/sである。100℃における動粘度が2mm2/s以上であると、蒸発損失が少なく、また30mm2/s以下であると、流体潤滑領域において粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が得られる。また、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さい。
【0015】
本発明のエンジン油組成物は、無灰型摩擦調整剤を0.1質量%以上含有する。無灰型摩擦調整剤としては、潤滑油用の無灰型摩擦調整剤として用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜34の炭化水素基を分子中に少なくとも1個有する脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、アミン化合物などが挙げられる。
【0016】
より好ましい具体的な化合物の例として、ノナイコシル‐1,2‐ジオール、ヘントリアンコチル‐1,2‐ジオール、トリトリアンコチル‐1,2‐ジオールなどの炭素数26〜34の脂肪族二価アルコール、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノステアレートなどの脂肪酸エステル、ドデシルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどのアミン、オレイルアミド、オレイン酸とオレイルアミンとのアミド、ステアリルアミド、ステアリン酸とステアリルアミンとのアミドの化合物、グリセリンモノオレイルエーテル、グリセリンモノステアリルエーテルなどのエーテルを挙げることができる。
【0017】
本発明のエンジン油組成物における無灰型摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、0.1質量%以上である。無灰型摩擦調整剤の含有量が0.1質量%未満であると、十分な摩擦低減効果が得られない。無灰型摩擦調整剤の含有量の上限については特に制限は無いが、経済性や添加剤の溶解性の観点から1.5質量%以下が好ましい。
【0018】
本発明において、脂環式エポキシ化合物としては、エポキシ化シクロアルカン及びその誘導体が挙げられる。エポキシ化シクロアルカンとしては、炭素数3〜12が好ましい。エポキシ化シクロアルカンとして具体的には、エポキシ化シクロプロパン、エポキシ化シクロブタン、エポキシ化シクロペンタン、エポキシ化ジシクロペンタン、エポキシ化シクロヘキサン、エポキシ化シクロヘプタン、エポキシ化シクロオクタン、エポキシ化シクロノナン、エポキシ化シクロデカン、エポキシ化シクロドデカン、エポキシ化ノルボルナン等が挙げられる。
【0019】
エポキシ化シクロアルカン誘導体としては、脂環部分にアルキル基又はアルケニル基が1個以上導入されたアルキル化又はアルケニル化エポキシシクロアルカン、脂環部分に脂肪族若しくは芳香族のアルコキシ基が1個以上導入されたエーテル化合物、脂環部分にイミド基が1個以上導入されたイミド化合物及びビスイミド化合物、脂環部分にアミド基が1個以上導入されたアミド化合物等が挙げられ、特に好ましくは脂環部分にカルボキシル基が1個以上導入されたエステル化合物が挙げられる。さらに好ましくは、エポキシ化シクロアルカンを2個有することが望ましい。これら脂環式エポキシ化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
この脂環式エポキシ化合物の含有量は、有効量含有させればよく、エンジン油組成物全量基準で0.01〜1質量%の範囲で適宜選定すればよい。
【0020】
本発明のエンジン油には、さらにベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体を含有させることにより、銅に対する耐摩耗性を向上させることができるが、このベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体としては、下記一般式(1)又は(2)で表わされる化合物を用いることが好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
なお、上記式(1)及び(2)中、R1、R3は、水素原子又はメチル基を示し、R2、R4は、水素原子、水酸基、又は窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数0〜20の基を示す。銅の耐摩耗性を向上させることから、特には、ベンゾトリアゾール誘導体が好ましく、さらに、R2、R4が窒素原子を含有する炭素数10〜20の基であることが好ましい。
より好ましい具体的な化合物としては、としては、1H‐ベンゾトリアゾール、又は2H‐ベンゾトリアゾール、1‐ヒドロキシベンゾトリアゾール、2‐ヒドロキシベンゾトリアゾール等が挙げられる。
このベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよく、これらの合計量として、エンジン油組成物全量基準で、0.005質量%以上含有させる。0.005質量%未満では、銅の腐食を十分に抑制することができない。なお、多すぎると、添加量に見合う効果が得られないばかりでなく、場合によってはスラッジ生成の原因となるので、5.0質量%以下含有させることが好ましい。
【0024】
本発明のエンジン油組成物は、潤滑油としての性能をバランスよく確保するために上記以外の各種の添加剤を配合することができる。特には優れた清浄性及びスラッジ分散性、摩耗防止性能を確保するために、金属系清浄剤や無灰分散剤、摩耗防止剤を含有することが好ましい。
【0025】
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属清浄剤を用いることが好ましい。
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、特に好ましくは400〜700のアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。
【0026】
アルカリ土類金属フェネートとしては、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を有するアルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
アルカリ土類金属サリシレートとしては、炭素数1〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を有するアルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特に好ましくは、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
上記金属系清浄剤の含有量は任意であるが、エンジン油組成物全重量に対して、金属量で0.05〜0.22質量%、好ましくは0.1〜0.2重量%含有させることが望ましい。
【0027】
また、無灰分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド及びそれらの誘導体が挙げられる。代表的なコハク酸イミドは、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基で置換されたコハク酸無水物と、1分子当たり平均4〜10個、より好ましくは5〜7個の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。特には、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基として、数平均分子量が700〜5000のポリイソブテン、特に数平均分子量が900〜3000のポリイソブテンを有するポリブテニルコハク酸イミドがより好ましい。
【0028】
このポリブテニルコハク酸イミドは、高純度イソブテンあるいは1‐ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒あるいは塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られるポリブテンから得られるものであり、ポリブテン末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100mol%含有される。なお、ポリアルキレンポリアミン鎖には優れたスラッジ抑制効果を得る観点から2〜5個、特には3〜4個の窒素原子を含むものが好ましい。
また、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記ポリブテニルコハク酸イミドに、ホウ酸等のホウ素化合物や、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等の含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドとして用いることができる。特に、ホウ酸等のホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で優れている。
この無灰分散剤の含有量は任意であるが、エンジン油組成物全重量に対して、0.5〜15質量%含有することが好ましい。
【0029】
本発明のエンジン油組成物は、摩耗防止剤としてジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を、エンジン油組成物全重量基準で、リン(P)量として0.01〜0.12質量%含有させることが好ましく、0.05〜0.10質量%がより好ましい。エンジン油全重量に対するZnDTPに含まれるリン金属元素重量が0.01質量%未満では十分な摩耗防止性能を得ることができず、0.12質量%より大きい場合では自動車の排ガス浄化触媒に与える被毒の影響が大きくなる。
ZnDTPとしては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基を有する化合物が好ましい。なお、このアルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0030】
ジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
ZnDTPの含有量は、エンジン油全重量に対して、ZnDTPに含まれるリン(P)金属元素重量で0.01〜0.12質量%が好ましく、0.05〜0.10質量%がより好ましい。
【0031】
本発明のエンジン油には、所望により、さらに無灰系の酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、防錆剤や消泡剤等の添加剤を添加することができる。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
基油として、重質油の水素化分解で得られた生成油を水素化脱ロウすることで得られた鉱油系基油〔動粘度;24.4mm2/s(40℃)、4.9mm2/s(100℃)〕を用いた。
【0033】
上記基油に、添加剤として下記に説明する無灰系摩擦調整剤、脂環式エポキシ化合物、またはベンゾトリアゾール誘導体(BTA)、粘度指数向上剤(VM)及びその他添加剤を表1に示す割合で配合して実施例1〜4及び比較例1〜4のエンジン油を調製した。なお、その他の添加剤は、アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、Caスルホネート、Caフェネート、Caサリシレート、アルケニルコハク酸イミド、流動点降下剤からなる添加剤混合物であり、実施例及び比較例全部に共通して同じ添加量で添加した。粘度指数向上剤は、実施例及び比較例全部について組成物の100℃における動粘度が9.9〜10.1mm2/s(SAEエンジン油粘度分類の30に相当)になるよう添加した。
【0034】
無灰系摩擦調整剤としては、ノナイコシル‐1,2‐ジオール、ヘントリアンコチル‐1,2‐ジオール、トリトリアンコチル‐1,2‐ジオールの混合物〔無灰系FM(ジオール)〕およびグリセリンモノオレート〔無灰系FM(GMO)〕を使用した。
脂環式エポキシ化合物としては3,4‐エポキシシクロヘキシルメチル‐3,4‐エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを用いた。
非脂環式エポキシ化合物として2‐エチルヘキシルグリシジルエーテル(非脂環式エポキシ1)、またはネオデカン酸グリシジルエステル(非脂環式エポキシ2)を用いた。
ベンゾトリアゾール誘導体(BTA)として、N,N-ビス[(2-エチルヘキシル)アミノメチル]‐1H‐ベンゾトリアゾール(チバスペシャリティ社製、Irgamet 39)を使用した。
粘度指数向上剤(VM)として、オレフィンコポリマー及びスターポリマーを併用した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の実施例及び比較例のエンジン油それぞれについて、腐食酸化安定性試験を実施して、試験後のオイルを誘導結合プラズマ‐原子発光分光法(ICP‐AES)で元素分析を行った。腐食酸化安定性試験はJIS K2503に準拠して行ったが、試験条件は試験温度を135℃、試験片を銅(Cu)、鉛(Pb)、錫(Sn)に変更した。
これらの結果を表2に示す。Pbの溶出量の上限としては100ppmを目安に実施例と比較例を分けている。
【0037】
【表2】

【0038】
無灰系摩擦調整剤と脂環式エポキシ化合物を使用した結果、表2の実施例1〜5のエンジン油組成物に示すとおり、腐食酸化安定性試験でのCuやPb、Snの溶出が少ないことが分かる。実施例1と実施例2及び4と5の比較から、脂環式エポキシ化合物の添加量を増やすことでPbの溶出が減少することが分かる。一方、脂環式エポキシ化合物の増量によりCuの溶出量が増加するが、実施例3のようにベンゾトリアゾール誘導体を添加することにより、Cuの溶出を抑制することができる。
一方、脂環式エポキシ化合物を添加していない比較例1では、腐食酸化安定性試験でのPbの溶出が多い。脂環式ではないエポキシ化合物を用いた場合、比較例2では、Pbの溶出を低減できるものの、Cuの溶出が増加した。また、比較例3ではCu、Pbのどちらについても溶出量が増加し腐食酸化安定性に劣る。
したがって、無灰系摩擦調整剤と脂環式エポキシ化合物、またさらにベンゾトリアゾール誘導体を用いることで、無灰系摩擦調整剤を使用しつつも腐食摩耗防止性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、腐食防止性能に優れており、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジンなどの内燃機関用のエンジン油として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、無灰系摩擦調整剤として0.1質量%以上と脂環式エポキシ化合物を含有することを特徴とするエンジン油組成物。
【請求項2】
脂環式エポキシ化合物がエステル結合を有することを特徴とする請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項3】
脂環式エポキシ化合物が2個のエポキシ化シクロアルカンを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン油組成物。
【請求項4】
ベンゾトリアゾール又はベンゾトリアゾール誘導体を0.005質量%以上含有する請求項1から3のいずれかに記載のエンジン油組成物

【公開番号】特開2012−97159(P2012−97159A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244189(P2010−244189)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】