説明

エンジン計測装置

【課題】 サイクル数に対するエンジン状態の変化を観察することができるエンジン計測装置を提供する。
【解決手段】 エンジン100に取り付けられたクランク角センサ32からクランク角情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部5に記憶させるクランク角情報取得部4aと、エンジン100に取り付けられ、エンジン状態を計測する計測センサ36からセンサ値情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部5に記憶させるセンサ値情報取得部4bと、記憶部5に記憶されたクランク角情報及びセンサ値情報に基づいて、多数のサイクルの内から選択された任意の1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを表示する表示制御部4cとを備えるエンジン計測装置10であって、表示制御部4cは、1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを、サイクル数を軸として3次元グラフで表示することが可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、エンジンの構成を示す図である。エンジン100のシリンダブロック140には、上部にシリンダヘッド130が固定されており、内部には中空円筒形のシリンダ142が形成されている。シリンダ142内には、上下に摺動するピストン144が設けられている。ピストン144は、コネクティングロッド146を介してクランクシャフト148に接続されており、クランクシャフト148には、クランク角(クランク角情報)θを検出するクランク角センサ32が取り付けられている。
【0003】
燃焼室は、シリンダ142とピストン144とシリンダヘッド130とで形成されおり、燃焼室には、燃焼室内の圧力(センサ値情報)Pを測定するための圧力センサ36が設けられている。
シリンダヘッド130には、吸入空気が流入する吸気ポート133の開口部を開閉する吸気弁132と、排気が流出する排気ポート135の開口部を開閉する排気弁134と、点火プラグ136とが設けられている。
【0004】
吸気弁132と排気弁134とは、開閉タイミングが可変な可変動弁系を構成する。つまり、電動アクチュエータ162,164は、任意のタイミングでそれぞれの吸気弁132と排気弁134とを開閉することが可能となっている。
シリンダヘッド130には、燃料噴射弁82が設けられている。燃料噴射弁82は、燃料タンク86から燃料ポンプ84によって供給された燃料を、吸気ポート133に噴射する。
【0005】
吸気ポート133には吸気管12が接続されており、排気ポート135には排気管16が接続されている。排気管16には、排気を浄化するための触媒26と、過給器50のタービン52とが設けられている。吸気管12には、過給器50のコンプレッサ54が設けられている。排気によってタービン52が回転するとコンプレッサ54が回転し、エアクリーナ20からの空気を吸気ポート133に圧送する。コンプレッサ54の下流側には、空気を冷却するためのインタークーラ62と、吸気時の圧力波を緩和させるためのサージタンク60と、電動アクチュエータ24によって駆動されるスロットル弁22とが設けられている。
【0006】
このようなエンジン100の動作は、エンジン制御ユニット(以下、ECU)300によって制御されている。ECU300は、エンジン回転速度Neやアクセル開度θacや燃焼室内の圧力Pを検出し、これらに基づいてスロットル弁22の開度や点火プラグ136の点火タイミングや燃料噴射量等を制御する。なお、エンジン回転速度Neはクランク角センサ32によって検出され、アクセル開度θacはアクセルペダルに内蔵されたアクセル開度センサ34によって検出される。また、燃焼室内の圧力Pは圧力センサ36によって検出される。
【0007】
ところで、エンジン100を円滑、効率的に運転するためには、エンジンの回転数や負荷に応じて、燃焼時期を制御する必要がある。
そこで、燃焼室内の圧力Pの上昇率の最大値等に基づいて、燃料噴射量や噴射時期を制御することで、燃焼時期を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
一方、このようなエンジン100を開発して、その運転状態を検討する際には、エンジン計測装置が用いられている。図4は、従来のエンジン計測装置の構成を示す図である。
このようなエンジン計測装置110は、キーボードやタッチパネルやマウスやスタイラスペン等の入力装置1と、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)やプラズマディスプレイ等の表示装置2と、入力装置1から入力される各種命令に応じて処理を実行する制御部104と、制御部104で作成されたデータ等を記憶する記憶部5とにより構成される。
【0009】
制御部104は、クランク角センサ32からクランク角θを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるクランク角情報取得部4aと、圧力センサ36から圧力(センサ値情報)Pを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるセンサ値情報取得部4bと、クランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示する2次元表示制御部104cとを有する。
なお、図5は、エンジン計測装置110によって表示装置2に表示させた2次元グラフの一例を示す図である。図5では、X軸は右方向に伸び、Y軸は上方向に伸びている。そして、X軸にクランク角θ(°)をとり、Y軸に圧力P(atm)をとっている。
【0010】
ここで、エンジン計測装置110を用いてエンジン100の運転状態を検討する検討方法について説明する。
まず、計測者は、測定対象とするエンジン100に、エンジン計測装置110のクランク角センサ32と圧力センサ36とを取り付ける。そして、計測者がエンジン100を所定の時間(例えば、1000サイクル)、運転することにより、クランク角情報取得部4aはクランク角センサ32からクランク角θを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるとともに、センサ値情報取得部4bは圧力センサ36から圧力Pを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させる。
【0011】
次に、計測者はエンジン100の運転を止めて、入力装置1を用いて多数のサイクルの内から任意の1サイクル(例えば、100サイクル目)を選択する。これにより、2次元表示制御部104cは、記憶部5に記憶させたクランク角θと燃焼室内の圧力Pと計測時間tと入力装置1からの入力信号とに基づいて、図5に示すように、選択された1サイクル(例えば、100サイクル目)でのクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示装置2に表示する。そして、計測者は表示された2次元グラフを観察する。
また、表示されたサイクルと異なるサイクルでの2次元グラフを観察したいときには、計測者は、再び入力装置1を用いて多数のサイクルの内から任意の1サイクル(例えば、200サイクル目)を選択して、200サイクル目のクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−323832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、選択された1サイクルでのクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを次々と表示させて観察しただけでは、サイクルが進むにつれて2次元グラフが変化していく様子を観察することが困難であった。また、サイクルが進むにつれてエンジン回転速度や燃焼室内の温度等の運転条件や計測条件を変化させた場合のエンジン100の運転状態を検討することもできなかった。
さらに、サイクルが進むにつれてエンジン回転速度や燃焼室内の温度等の運転条件や計測条件を変化させていない場合でも、多数のサイクルの中から異常燃焼や失火等があったサイクルを見つけ出すことが困難であった。
そこで、本発明は、サイクル数に対するエンジン状態の変化を観察することができるエンジン計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明のエンジン計測装置は、エンジンに取り付けられたクランク角センサからクランク角情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部に記憶させるクランク角情報取得部と、前記エンジンに取り付けられ、エンジン状態を計測する計測センサからセンサ値情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部に記憶させるセンサ値情報取得部と、前記記憶部に記憶されたクランク角情報及びセンサ値情報に基づいて、多数のサイクルの内から選択された任意の1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを表示する表示制御部とを備えるエンジン計測装置であって、前記表示制御部は、1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを、サイクル数を軸として3次元グラフで表示することが可能となるようにしている。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のエンジン計測装置によれば、クランク角とセンサ値とサイクル数との3軸で構成された3次元グラフが表示されるので、サイクル数に対するエンジン状態の変化を観察することができる。よって、サイクルが進むにつれてエンジン回転速度や燃焼室内の温度等の運転条件や計測条件が変化した場合のエンジンの運転状態を検討することもできる。また、多数のサイクルの中から異常燃焼や失火等があったサイクルを見つけ出すことができる。
【0016】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明のエンジン計測装置は、前記計測センサは、圧力センサであるようにしてもよい。
そして、本発明のエンジン計測装置は、前記3次元グラフには、同一のサイクルでのクランク角とセンサ値とを結んだ線が表示されるようにしてもよい。
さらに、本発明のエンジン計測装置は、入力装置を備え、前記表示制御部は、前記入力装置からの入力信号に基づいて、前記3次元グラフを表示する視線方向を変化させることが可能となっているようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るエンジン計測装置の構成を示す図。
【図2】3次元グラフの一例を示す図。
【図3】エンジンの構成を示す図。
【図4】従来のエンジン計測装置の構成を示す図。
【図5】2次元グラフの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0019】
図1は、本発明に係るエンジン計測装置の構成を示す図である。なお、エンジン計測装置110と同様のものについては、同じ符号を付している。
エンジン計測装置10は、キーボードやタッチパネルやマウスやスタイラスペン等の入力装置1と、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)やプラズマディスプレイ等の表示装置2と、入力装置1から入力される各種命令に応じて処理を実行する制御部4と、制御部4で作成されたデータ等を記憶する記憶部5とにより構成される。
【0020】
制御部4は、クランク角センサ32からクランク角θを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるクランク角情報取得部4aと、圧力センサ36から圧力(センサ値情報)Pを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるセンサ値情報取得部4bと、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとの関係を示す3次元グラフを表示することが可能となっている表示制御部4cとを有する。
【0021】
表示制御部4cは、記憶部5に記憶されたクランク角θと圧力Pと計測時間tとに基づいて、クランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示することが可能となっているとともに、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとの3軸で構成される3次元グラフを作成して、3次元グラフを表示装置2に表示することが可能となっている。図2は、エンジン計測装置10によって表示装置2に表示させた3次元グラフの一例を示す図である。
図2では、X軸は右方向に伸び、Y軸は上方向に伸び、Z軸は右上斜め方向に伸びている。そして、X軸にクランク角θ(°)をとり、Y軸に圧力P(atm)をとり、Z軸にサイクル数N(回数)をとっている。つまり、1サイクル目(N=1)でのクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフと、2サイクル目(N=2)でのクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフと、・・・、Nサイクル目(N=N)でのクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフとなるように順番にサイクル数Nを軸として並んでいる。さらに、3次元グラフには、同一のサイクルでのクランク角θと圧力Pとを結んだ線が表示されている。
【0022】
また、計測者が視線方向を入力装置1で指定することにより、表示制御部4cが視線方向を変化させることが可能となっている。つまり、3次元グラフが、図2に示す方向から見た3次元グラフとなったり、図2に示す方向と異なる方向から見た3次元グラフとなったりするようになっている。
【0023】
ここで、エンジン計測装置10を用いてエンジン100の運転状態を検討する検討方法について説明する。
まず、計測者は、測定対象とするエンジン100に、エンジン計測装置10のクランク角センサ32と圧力センサ36とを取り付ける。そして、計測者がエンジン100を所定の時間(例えば、1000サイクル)、運転することにより、クランク角情報取得部4aはクランク角センサ32からクランク角θを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させるとともに、センサ値情報取得部4bは圧力センサ36から圧力Pを順次取得して計測時間tとともに記憶部5に記憶させる。
【0024】
次に、計測者はエンジン100の運転を止めて、入力装置1を用いて3次元グラフの表示を選択する。これにより、表示制御部4cは、記憶部5に記憶させたクランク角度θと燃焼室内の圧力Pと計測時間tと入力装置1からの入力信号とに基づいて、図2に示すように、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとの3軸で構成される3次元グラフを表示装置2に表示する。そして、計測者は表示された3次元グラフを観察する。
【0025】
以上のように、本発明のエンジン計測装置10によれば、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとの3軸で構成される3次元グラフが表示されるので、サイクル数Nに対するエンジン状態の変化を観察することができる。よって、サイクルが進むにつれてエンジン回転速度や燃焼室内の温度等の運転条件や計測条件が変化した場合のエンジン100の運転状態を検討することができる。また、多数のサイクルの中から異常燃焼や失火等があったサイクルを見つけ出すことができる。
【0026】
<他の実施形態>
(1)上述したエンジン計測装置10では、1サイクル数毎にクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示する構成としたが、10サイクル数毎にクランク角θと圧力Pとの関係を示す2次元グラフを表示するような構成としてもよい。
(2)上述したエンジン計測装置10では、同一のサイクルでのクランク角θと圧力Pとを結んだ線が表示されている構成としたが、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとを結んだポリゴンが表示されるような構成としてもよい。
【0027】
(3)上述したエンジン計測装置10では、同一のサイクルでのクランク角θと圧力Pとを結んだ線が同色で表示されている構成としたが、同一のサイクルでのクランク角θと圧力Pとを結んだ線が異なる色で表示されるような構成としてもよく、数値によって異なる色で表示されるような構成としてもよい。
(4)上述したエンジン計測装置10では、クランク角θと圧力Pとサイクル数Nとの3軸で構成される3次元グラフが表示される構成としたが、圧力センサ36に変えて温度センサを取り付け、クランク角θと温度とサイクル数Nとの3軸で構成される3次元グラフが表示されるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、エンジン計測装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
4a: クランク角情報取得部
4b: センサ値情報取得部
4c: 表示制御部
5: 記憶部
10: エンジン計測装置
32: クランク角センサ
36: 圧力センサ(計測センサ)
100: エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに取り付けられたクランク角センサからクランク角情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部に記憶させるクランク角情報取得部と、
前記エンジンに取り付けられ、エンジン状態を計測する計測センサからセンサ値情報を順次取得して、計測時間とともに記憶部に記憶させるセンサ値情報取得部と、
前記記憶部に記憶されたクランク角情報及びセンサ値情報に基づいて、多数のサイクルの内から選択された任意の1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを表示する表示制御部とを備えるエンジン計測装置であって、
前記表示制御部は、1サイクルでのクランク角とセンサ値との関係を示す2次元グラフを、サイクル数を軸として3次元グラフで表示することが可能となっていることを特徴とするエンジン計測装置。
【請求項2】
前記計測センサは、圧力センサであることを特徴とする請求項1に記載のエンジン計測装置。
【請求項3】
前記3次元グラフには、同一のサイクルでのクランク角とセンサ値とを結んだ線が表示されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン計測装置。
【請求項4】
入力装置を備え、
前記表示制御部は、前記入力装置からの入力信号に基づいて、前記3次元グラフを表示する視線方向を変化させることが可能となっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のエンジン計測装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate