説明

エンジン音認識装置および駐車場管理システム

【課題】車両のエンジン音の種類を識別するエンジン音認識装置において、エンジン音の認識精度を向上させる。
【解決手段】エンジン音認識装置1は、車両のエンジン音を集音し、音信号として出力するマイク11と、マイク11から出力される音信号のピッチ周期を決定するピッチ周期決定部19と、マイク11から出力される音信号からピッチ周期決定部19により決定されたピッチ周期で音信号を切り出すことにより基本音波形を抽出する基本音波形抽出部18と、抽出された基本音波形に基づいてエンジン音の種類を判定するエンジン音判定部24と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両から発せられるエンジン音の種類を識別するエンジン音認識装置、およびそれを用いた駐車場管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やバイク等の車両のエンジン音を認識するエンジン音認識装置として、従来、エンジン音を集音して得た音信号を周波数分析し、予め登録したデータと照合するという認識方法を採用したものが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。このエンジン音認識装置によれば、エンジン音を認識することによって車両の種類などを特定することが可能であり、特許文献2にあるように車庫監視システムに応用することができる。
【特許文献1】特開平5−81595号公報
【特許文献2】特開2005−146672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、エンジン音の認識精度を向上させて車両の識別を正確に行いたいという要求があり、上記のような周波数分析に基づく従来のエンジン音認識装置では、十分な認識精度を実現することが難しいという問題があった。
【0004】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、車両のエンジン音の種類を識別するエンジン音認識装置において、エンジン音の認識精度を向上させることを目的としている。また、駐車場管理システムにおいて、車両を正しく識別することを可能とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するために、車両のエンジン音を集音し、音信号として出力するマイクと、前記マイクから出力される音信号のピッチ周期を決定するピッチ周期決定手段と、前記マイクから出力される音信号から前記ピッチ周期決定手段により決定されたピッチ周期で音信号を切り出すことにより基本音波形を抽出する基本音波形抽出手段と、前記抽出された基本音波形に基づいて前記エンジン音の種類を判定する判定手段と、を具備することを特徴とするエンジン音認識装置を提供する。
【0006】
この発明において、エンジン音の音信号をピッチ周期で切り出して基本音波形とし、この基本音波形に基づいてエンジン音の種類を判定するようにした。一般に、エンジンはそのエンジン構造に応じた特有のエンジン音を発生させるが、エンジン音は一定の繰り返し単位となる音が連続して繰り返されたものであり、この繰り返し単位の音にエンジン構造に応じた特徴が表れる。したがって、繰り返し単位の音、即ち、ピッチ周期(エンジンの1サイクル)で切り出した上記の基本音波形を用いることで、エンジン音の特徴を効果的に取り入れたエンジン音認識をすることができる。これにより、エンジン音の認識精度を向上させることが可能となる。
なお、ここで基本音波形はエンジン音の音圧の時間変化を示すものであり、エンジンが単気筒エンジンの場合は単発音、エンジンが多気筒エンジンの場合は単発音が気筒数分だけ重畳された音に対応する。
【0007】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、前記ピッチ周期決定手段は、ピッチ周期を所定範囲内のエンジン回転数に対応した値に決定することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、例えばアイドリング時のエンジン回転数に対応したピッチ周期が決定されるので、アイドリング状態のエンジンから発せられるエンジン音から基本音波形を切り出すことができ、エンジン音の認識を行うことが可能である。なお、エンジン回転数の範囲は予めエンジン音認識装置に設定しておくことが考えられる。
【0009】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、前記ピッチ周期決定手段は、前記マイクから出力される音信号の自己相関値を算出する自己相関演算部と、前記自己相関演算部により算出される自己相関値の複数のピークから前記所定範囲内のエンジン回転数に対応したピークを選択する選択部と、を備え、前記選択部により選択されたピークに対応する時間長をピッチ周期と決定することを特徴とする。
【0010】
この発明において、エンジン音の音信号に対して時間軸上で自己相関をとることで、単発音に対応した複数のピークが得られ、それらピークのうち、エンジン回転数に対応したものを選んでピッチ周期を決定している。単気筒エンジンは単発音を発するので、自己相関により得られたピークはエンジンの1サイクル、即ちピッチ周期に相当する。多気筒エンジンの場合は、単発音が重畳されたエンジン音が発せられるので、自己相関により得られた複数のピークのうちエンジン回転数に対応したものがピッチ周期に相当することになる。したがって、この発明によれば、エンジンが単気筒であるか多気筒であるかにかかわらず、自己相関を用いて正確なピッチ周期を求めることができ、これにより、エンジン音の認識を精度良く行なうことが可能である。
【0011】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、車両のエンジン音の基本音波形を予め登録してなる記憶部をさらに具備し、前記判定手段は、前記基本音波形抽出手段により抽出された基本音波形と前記記憶部に登録された基本音波形とを照合することにより前記判定を行うことを特徴とする。
この発明において、予めエンジン音の基本音波形を登録しておき、マイクで集音されたエンジン音の基本音波形と登録されている基本音波形とを照合することでエンジン音を認識する。これにより、エンジン音が登録されたものであるか否かに従ってエンジン音の認識を行うことができる。
【0012】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、車両のエンジン音の基本音波形を予め登録してなる記憶部をさらに具備し、前記判定手段は、前記基本音波形抽出手段により抽出された基本音波形と前記記憶部に登録された基本音波形とを照合して類似度を算出し、該算出した類似度に基づいて前記判定を行うことを特徴とする。
この発明において、予めエンジン音の基本音波形を登録しておき、マイクで集音されたエンジン音の基本音波形と登録されている基本音波形とを照合してその類似度を算出し、得られた類似度に基づいてエンジン音を認識する。これにより、エンジン音が登録されたものであるか否かに従ってエンジン音の認識を行うことができる。
【0013】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、前記基本音波形抽出手段によって抽出された基本音波形を前記記憶部に登録する手段をさらに具備することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、エンジン音の基本音波形を登録することができるので、エンジン音を認識する対象の車両を自由に変更することができる。
【0015】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、前記マイクから出力される音信号から、ノイズ波形に対応する所定の周波数以上の高域成分とゆらぎ波形に対応する所定の周波数以下の低域成分とを除去した信号を、前記基本音波形抽出手段への入力としたことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、ノイズ成分とゆらぎ成分を含まない基本音波形を抽出することができるので、エンジン音の認識の精度を向上させることが可能である。
【0017】
また、本発明は、上記エンジン音認識装置において、前記マイクから出力される音信号から所定の周波数以上の高域成分よりなるノイズ波形を抽出するノイズ波形抽出手段と、前記マイクから出力される音信号から所定の周波数以下の低域成分よりなるゆらぎ波形を抽出するゆらぎ波形抽出手段と、をさらに具備し、前記判定手段は、前記抽出された基本音波形とノイズ波形とゆらぎ波形とに基づいて前記エンジン音の種類を判定することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、基本音波形だけでなく、ノイズ波形とゆらぎ波形を合わせた3つの要素に基づいてエンジン音の認識を行っているので、エンジン音の認識精度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明は、上記のいずれかのエンジン音認識装置を備え、該エンジン音認識装置によるエンジン音の認識結果を用いて、駐車場の利用を許可された車両と許可されていない車両とを判別することを特徴とする駐車場管理システムを提供する。
【0020】
この発明によれば、エンジン音の認識精度が高いので、駐車場の利用を許可された車両と許可されていない車両とを正しく判別可能な駐車場管理システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、車両のエンジン音の種類を識別するエンジン音認識装置において、エンジン音の認識精度を向上させることが可能である。また、駐車場管理システムにおいて、車両を正しく識別することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるエンジン音認識装置1の構成を示すブロック図である。また、図2は、図1のエンジン音認識装置1がエンジン音の波形データ(音信号)を処理する様子を説明したダイアグラムである。
【0023】
図1において、エンジン音認識装置1は、マイク11と、ADC(アナログデジタル変換器)12と、サンプリング部13と、LPF(低域通過フィルタ)14および17と、HPF(高域通過フィルタ)15および16と、基本音波形抽出部18と、ピッチ周期決定部19と、照合データベース20と、類似度判定部21〜23と、エンジン音判定部24とを含んで構成される。
【0024】
マイク11は、自動車や自動二輪車等の車両のエンジンが発するエンジン音を集音して、アナログ信号の波形データをADC12へ出力する。
ADC12は、入力されたアナログ信号の波形データをデジタル信号に変換して、サンプリング部13へ出力する(図2の入力波形データ101)。
【0025】
サンプリング部13は、入力波形データ101から、所定の時間長の波形をサンプリング波形データ102として切り出し、後段のLPF14とHPF16へ出力する。サンプリング部13が切り出す時間長は、その中にエンジンの1サイクル分のエンジン音が含まれている長さであれば十分であり、ここでは例えば数秒程度とする。
【0026】
LPF14は、所定の周波数をカットオフ周波数として低域成分のみを通過させるフィルタであり、入力されたサンプリング波形データ102から高域のノイズ成分を除去して後段のHPF15とLPF17へ波形データ104を出力する。
また、HPF16は、所定の周波数をカットオフ周波数として高域成分のみを通過させるフィルタであり、入力されたサンプリング波形データ102から高域のノイズ成分をノイズ波形データ103として抽出し、類似度判定部21へ出力する。
LPF14およびHPF16のカットオフ周波数は、サンプリング波形データ102からノイズ波形データ103を分離することにより後述する類似度判定部21〜23における各波形データの照合が良好に行えるように、適宜設定すればよい。一例として、このカットオフ周波数の値は5kHz程度とすることができる。
【0027】
上記LPF14の後段に設けられたHPF15は、所定の周波数をカットオフ周波数として高域成分のみを通過させるフィルタであり、入力された波形データ104から低域のゆらぎ成分を除去して基本音波形抽出部18およびピッチ周期決定部19へ波形データ106を出力する。
また、同じく上記LPF14の後段に設けられたLPF17は、所定の周波数をカットオフ周波数として低域成分のみを通過させるフィルタであり、入力された波形データ104から低域のゆらぎ成分をゆらぎ波形データ105として抽出して、類似度判定部22へ出力する。
HPF15およびLPF17のカットオフ周波数は、波形データ104からゆらぎ波形データ105を分離することにより後述する類似度判定部21〜23における各波形データの照合が良好に行えるように、適宜設定すればよい。一例として、このカットオフ周波数の値は200Hz程度とすることができる。
【0028】
基本音波形抽出部18は、入力された波形データ106からピッチ周期の時間長さで波形データを切り出すことで、波形データ106に含まれる繰り返し単位の波形データ、即ち基本音波形データ107を抽出する。そして基本音波形抽出部18は、抽出した基本音波形データ107を類似度判定部23へ出力する。ここで、ピッチ周期はエンジンの1サイクルに対応する時間であると定義する。基本音波形抽出部18によって抽出される基本音波形データ107は、ピッチ周期決定部19から与えられるこのピッチ周期に依存し、エンジンが単気筒エンジンの場合は単発音に対応する波形データ、エンジンが多気筒エンジンの場合は単発音が気筒数分だけ重畳された音に対応する波形データとなる。なお、図2の基本音波形データ107は単発音の例を示したものである。
【0029】
このようにして、入力波形データ101から基本音波形データ107とノイズ波形データ103とゆらぎ波形データ105とが抽出され、これら波形データが照合の対象として各類似度判定部21〜23へ入力される。基本音波形データ107は、LPF14とHPF15とによりノイズ成分およびゆらぎ成分が除去されているので、ノイズやゆらぎが含まれず、照合を精度良く行なうことができる。
【0030】
ピッチ周期決定部19は、基本音波形抽出部18が波形データを切り出すための上記ピッチ周期を決定して、基本音波形抽出部18へ出力する。ピッチ周期は、次に説明するように、波形データ106の自己相関をとった上でエンジン回転数(予め設定した値)を参照して決定される。
【0031】
図3は、ピッチ周期決定部19の詳細な構成を示すブロック図である。また、図4は、ピッチ周期を決定する原理を波形データの具体例により説明する図である。図4の波形データは4気筒エンジンのエンジン音であり、基本音波形は4つの単発音から形成されている。
図3において、ピッチ周期決定部19は、自己相関演算部191と、選択部192と、エンジン回転数設定部193とを含んで構成される。
【0032】
自己相関演算部191は、HPF15からの波形データ106を入力として、この波形データ106に対し時間軸上の自己相関値を算出する。波形データ106は、エンジンが単気筒であるか多気筒であるかにかかわらず、図2や図4に示すように単発音が多数集合して形成されたものであるので、波形データ106の自己相関値には1つ1つの単発音に対応した位置(時間)に複数のピークが現れる(図4)。自己相関演算部191は、これらそれぞれのピークに対応する時間T,T,T,T,T,…を選択部192へ出力する。
【0033】
選択部192は、自己相関演算部191により与えられた複数の時間T,T,T,T,T,…の中から、エンジン回転数設定部193に設定されている条件に合致したものを選択して、その選択した時間Tをピッチ周期に決定する。エンジン回転数設定部193には、上記条件として、エンジン回転数の上限値と下限値とが予め設定されている。選択部192は、このエンジン回転数の上限値と下限値それぞれの逆数で決まる周期の範囲内から、ピッチ周期Tを決定する。
【0034】
具体例として、例えばアイドリング状態または低速回転状態のエンジンから発せられるエンジン音を認識するためには、上限値として“1000回転/分”、下限値として“600回転/分”といった値をエンジン回転数設定部193に設定しておく。この場合、選択部192は、T,T,T,T,T,…のうち、“1000回転/分”に対応する周期である60ms(ミリ秒)と、“600回転/分”に対応する周期である100msとの間にあるTをピッチ周期として決定する。エンジン音認識装置1を後述する駐車場管理システムに適用する場合には、上記具体例の数値が好適である。
【0035】
このようにして、波形データに対する自己相関の結果にエンジン回転数の条件を加味することにより、エンジン音の繰り返し単位を示すピッチ周期Tが決定される。自己相関演算を用いているので正確なピッチ周期が求められるとともに、求めるべきピッチ周期の候補(T,T,T,T,T,…)から所望のエンジン回転数に合致したものを選んでいるので、多気筒エンジンのエンジン音であっても、ピッチ周期を得ることができる。
【0036】
次に、照合データベース20は、複数のエンジン音の波形データを予め登録して記憶するデータベースであり、登録したエンジン音それぞれについて、ノイズ波形照合データ201と、ゆらぎ波形照合データ202と、基本音波形照合データ203とを1セットとして記憶している。
【0037】
類似度判定部21は、HPF16から入力されたノイズ波形データ103と照合データベース20に登録されているノイズ波形照合データ201との類似度を判定し、その判定結果をエンジン音判定部24へ出力する。同様に、類似度判定部22は、LPF17から入力されたゆらぎ波形データ105と照合データベース20のゆらぎ波形照合データ202との類似度を判定し、また類似度判定部23は、基本音波形抽出部18から入力された基本音波形データ107と照合データベース20の基本音波形照合データ203との類似度を判定し、それぞれ判定結果をエンジン音判定部24へ出力する。ここで、各類似度判定部21〜23が一度の判定に用いる照合データ201〜203は、上記1セット分のデータ即ち同一のエンジン音のデータである。
【0038】
なお、各類似度判定部21〜23における類似度判定の方法にはどのような方法を用いてもよい。例えば、照合対象の波形データと照合データとの時間領域における相互相関を求める方法、周波数領域でスペクトルを比較する方法、メルケプストラム分析を用いて求めたメルケプストラルを時系列特徴ベクトルとし、そのベクトル距離を算出する方法、などが適用可能である。
【0039】
エンジン音判定部24は、各類似度判定部21〜23からの判定結果に基づいて、照合対象のエンジン音が照合データベース20に登録されたものであるか否かを判定する。また、照合対象のエンジン音が照合データベース20に登録されたものである場合には、当該エンジン音が照合データベース20内のどのエンジン音に該当するか、即ちエンジン音の種類を判定する。
【0040】
ここで、具体例を用いてエンジン音認識処理についてさらに説明する。
各類似度判定部21〜23は、類似度判定の結果を、規格化したスコア(点数)として算出し、そのスコアをエンジン音判定部24へ出力する。例えば、ノイズ波形データの判定結果スコアが0.85であり、ゆらぎ波形データの判定結果スコアが0.71であり、基本音波形データの判定結果スコアが0.93であったとする。
エンジン音判定部24は、上記3つのスコアの平均スコアを算出し、この平均スコアを所定の閾値と比較して、平均スコアが閾値以上の場合に、照合対象のエンジン音が照合データベース20に登録されたものであると判定する。この場合、エンジン音認識装置1によりエンジン音が認識されたこととなる。一方、平均スコアが閾値未満の場合、エンジン音判定部24は、照合対象のエンジン音は照合データベース20に登録されていないと判定する。この場合、エンジン音認識装置1によりエンジン音は認識されなかったこととなる。上記閾値が例えば0.80であるとすると、ここでの具体例では平均スコアは0.83であり、このエンジン音に対して認識が成功する。
【0041】
なお、照合データベース20に登録された1セット分のデータについてエンジン音の認識ができなかったときは、照合データベース20に登録されている次の1セット分のデータについて、同様の処理を行うこととすることもできる。この処理を、エンジン音が認識されるまで順次照合データベース20内のデータに対して行ってもよい。また、この処理を照合データベース20内の全てのデータに対して行って、最大の平均スコアとなるデータを見つけるようにしてもよい。このようにすると、照合データベース20に複数のエンジン音のデータが登録されている場合に、照合対象のエンジン音がそのうちのどのエンジン音に該当するのか、即ちエンジン音の種類を判別することができる。
【0042】
次に、図5および図6に示すフローチャートを参照して、エンジン音認識装置1の動作を説明する。
【0043】
図5は、車両のエンジン音を登録する場合のエンジン音認識装置1の動作を示すフローチャートである。
まず、エンジン音認識装置1は、図1に図示しない入力部からのユーザ入力を受け付ける(ステップS101)。ユーザが入力する登録情報として、ユーザ名、車種名、ナンバープレートの番号、などがある。ユーザは、エンジン音をエンジン音認識装置1に登録したい場合、これらの情報を入力部から入力する。エンジン音認識装置1は、入力された情報を以下のステップで登録される各波形データとともに登録IDを付して管理するものとする。
【0044】
次いでエンジン音認識装置1は、ユーザからの登録開始の入力を受けてマイク11からの集音を開始する(ステップS102)。この時、ユーザは車両のエンジン音がマイク11に集音されるように車両のエンジンを動作させる。
そして、エンジン音認識装置1は、サンプリング部13により入力波形データ101からサンプリング波形データ102を切り出し(ステップS103)、その後、順次、LPF14、HPF15、HPF16、LPF17、基本音波形抽出部18によりノイズ波形データ103とゆらぎ波形データ105と基本音波形データ107とを抽出する(ステップS104〜ステップS106)。
【0045】
エンジン音認識装置1は、抽出された上記のノイズ波形データ103とゆらぎ波形データ105と基本音波形データ107とを照合データベース20に登録する(ステップS107〜ステップS109)。そして、エンジン音の登録を追加で行うか否かを判断し(ステップS110)、その結果に応じて処理を継続または終了する。
【0046】
図6は、エンジン音認識装置1がエンジン音の認識をする場合の動作を示すフローチャートである。
まず、エンジン音認識装置1は、所定の制御(例えば車両が接近したことをセンサが検知する等)を受けて、マイク11からエンジン音の集音を開始する(ステップS201)。
【0047】
そして、上記のステップS103〜ステップS106と同様にして、エンジン音認識装置1は、サンプリング部13により入力波形データ101からサンプリング波形データ102を切り出し(ステップS202)、その後、順次、LPF14、HPF15、HPF16、LPF17、基本音波形抽出部18によりノイズ波形データ103とゆらぎ波形データ105と基本音波形データ107とを抽出する(ステップS203〜ステップS205)。
【0048】
次いで、エンジン音認識装置1は、類似度判定部21〜23によりそれぞれノイズ波形データ103、ゆらぎ波形データ105、基本音波形データ107の類似度判定を行い(ステップS206〜ステップS208)、エンジン音判定部24によりエンジン音の照合を行う(ステップS209、ステップS210)。
エンジン音が認識できた場合、エンジン音認識装置1は、当該認識されたエンジン音の登録IDや登録情報を図1に図示しない表示部に表示する(ステップS211)。また、エンジン音が認識できなかった場合は、表示部にその旨を表示する(ステップS212)。その後、エンジン音の照合を続けるか否かを入力部からのユーザ入力などに基づいて判断し(ステップS213)、その結果に応じて処理を継続または終了する。
【0049】
次に、上述したエンジン音認識装置1を用いた駐車場管理システムについて説明する。
図7は、駐車場管理システムの構成を示すシステム構成図である。駐車場管理システムは、駐車場内の1台分の駐車スペース毎に、エンジン音認識装置1と、表示装置2と、外部機器制御装置3と、通信装置4とからなるエンジン音認識モジュールを設置して構成される。また、インターネット6等を介して管理センターの管理サーバ5と接続するようにしてもよい。
【0050】
各エンジン音認識モジュールのエンジン音認識装置1には、予め特定の車両のエンジン音を登録しておく。特定の車両とは、例えば、駐車場の利用契約をした契約車両などである。この場合、登録される車両は各エンジン音認識装置1につき1台ずつとなる。また、例えば企業の社員用駐車場など、1つの駐車スペースに何台かの異なった車両を駐車できるようにする場合には、当該複数台分のエンジン音を登録しておく。
【0051】
外部機器制御装置3は、エンジン音認識装置1によるエンジン音の認識結果に基づいて外部機器を制御する。外部機器として、例えばナンバープレート撮影用のカメラや、音声等により警報を発する警報器や、駐車場の出入口を開閉する装置などがある。外部機器制御装置3は、エンジン音の認識ができない車両がエンジン音認識装置1により発見された場合に、それら外部機器を動作させることで、登録された車両以外の車両が駐車場に駐車できないようにする。例えば、上記カメラによりナンバープレートを撮影したり、警報器により警報を発したり、駐車場出入口を閉鎖したりする。このようにして、駐車場の防犯を図ることができる。
【0052】
表示装置2は、エンジン音認識装置1によるエンジン音の認識結果を表示する。
通信装置4は、エンジン音認識装置1によるエンジン音の認識結果や、上記カメラで撮影したナンバープレートの画像データなどを管理サーバ5へ送信する。管理センターはこれらの情報を用いて不正な車両を特定することが可能である。
【0053】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0054】
例えば、ピッチ周期決定部19が決定し出力するピッチ周期を固定値としてもよい。具体的な数値例として、アイドリング状態のエンジン音を認識するためには、ピッチ周期を80msに固定する。こうすると、エンジン回転数600〜1000回転/分のエンジン音の基本音波形を、ほぼ正しく抽出することができる。ただし、基本音波形を厳密に抽出することが望ましい場合には、上述の実施形態のように、自己相関演算も用いるようにした方がよい。
【0055】
また、エンジン音認識装置1において、LPF14とHPF15を省略した構成とすることもできる。この場合、基本音波形データ107にはノイズ成分とゆらぎ成分とが含まれることとなるが、求められる認識の精度によっては影響がほとんどないこともあり得る。
【0056】
また、エンジン音認識装置1において、基本音波形データ107だけを用いてエンジン音の認識を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態によるエンジン音認識装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のエンジン音認識装置がエンジン音の波形データを処理する様子を説明したダイアグラムである。
【図3】ピッチ周期決定部の構成を示すブロック図である。
【図4】ピッチ周期を決定する原理を説明する図である。
【図5】車両のエンジン音を登録する場合のエンジン音認識装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】エンジン音認識装置がエンジン音の認識をする場合の動作を示すフローチャートである。
【図7】駐車場管理システムの構成を示すシステム構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1…エンジン音認識装置 11…マイク 12…ADC(アナログデジタル変換器) 13…サンプリング部 14…LPF(低域通過フィルタ) 15…HPF(高域通過フィルタ) 16…HPF 17…LPF 18…基本音波形抽出部 19…ピッチ周期決定部 20…照合データベース 21〜23…類似度判定部 24…エンジン音判定部 191…自己相関演算部 192…選択部 193…エンジン回転数設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン音を集音し、音信号として出力するマイクと、
前記マイクから出力される音信号のピッチ周期を決定するピッチ周期決定手段と、
前記マイクから出力される音信号から前記ピッチ周期決定手段により決定されたピッチ周期で音信号を切り出すことにより基本音波形を抽出する基本音波形抽出手段と、
前記抽出された基本音波形に基づいて前記エンジン音の種類を判定する判定手段と、
を具備することを特徴とするエンジン音認識装置。
【請求項2】
前記ピッチ周期決定手段は、ピッチ周期を所定範囲内のエンジン回転数に対応した値に決定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン音認識装置。
【請求項3】
前記ピッチ周期決定手段は、
前記マイクから出力される音信号の自己相関値を算出する自己相関演算部と、
前記自己相関演算部により算出される自己相関値の複数のピークから前記所定範囲内のエンジン回転数に対応したピークを選択する選択部と、
を備え、前記選択部により選択されたピークに対応する時間長をピッチ周期と決定する
ことを特徴とする請求項2に記載のエンジン音認識装置。
【請求項4】
車両のエンジン音の基本音波形を予め登録してなる記憶部をさらに具備し、
前記判定手段は、前記基本音波形抽出手段により抽出された基本音波形と前記記憶部に登録された基本音波形とを照合することにより前記判定を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの項に記載のエンジン音認識装置。
【請求項5】
車両のエンジン音の基本音波形を予め登録してなる記憶部をさらに具備し、
前記判定手段は、前記基本音波形抽出手段により抽出された基本音波形と前記記憶部に登録された基本音波形とを照合して類似度を算出し、該算出した類似度に基づいて前記判定を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかの項に記載のエンジン音認識装置。
【請求項6】
前記基本音波形抽出手段によって抽出された基本音波形を前記記憶部に登録する手段をさらに具備することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のエンジン音認識装置。
【請求項7】
前記マイクから出力される音信号から、ノイズ波形に対応する所定の周波数以上の高域成分とゆらぎ波形に対応する所定の周波数以下の低域成分とを除去した信号を、前記基本音波形抽出手段への入力としたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかの項に記載のエンジン音認識装置。
【請求項8】
前記マイクから出力される音信号から所定の周波数以上の高域成分よりなるノイズ波形を抽出するノイズ波形抽出手段と、
前記マイクから出力される音信号から所定の周波数以下の低域成分よりなるゆらぎ波形を抽出するゆらぎ波形抽出手段と、
をさらに具備し、
前記判定手段は、前記抽出された基本音波形とノイズ波形とゆらぎ波形とに基づいて前記エンジン音の種類を判定する
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかの項に記載のエンジン音認識装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかの項に記載のエンジン音認識装置を備え、
該エンジン音認識装置によるエンジン音の認識結果を用いて、駐車場の利用を許可された車両と許可されていない車両とを判別する
ことを特徴とする駐車場管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−215874(P2008−215874A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50176(P2007−50176)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】