説明

エンジン

【課題】燃料油に混入する潤滑油を低減することができるエンジンを提供する。
【解決手段】カム軸19上にガバナウェイト31が設けられ、カム軸19の回転に伴う遠心力によりガバナウェイト31が回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプ1Aを備えるエンジン1において、前記ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡の上側周囲に、ガバナウェイト31の回転による潤滑油Loの飛散を防止する返し部材50を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関し、詳細には燃料油に混入する潤滑油を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カム軸上にガバナウェイトが配置され、カム軸の回転に伴う遠心力によりガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンは公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいては、ガバナウェイトとコントロールラックとを連結するリンク部材が、ガバナ室とラック室とを連通させる連通孔に挿嵌されており、この連通孔を通じて、ガバナウェイトの回転で飛散した潤滑油がラック室に流入することがあった。このラック室に流入した潤滑油がタペット内部に浸入すると、プランジャの摺動面を伝って燃料油に混入する潤滑油が増大する。これにより、燃料油の黒色化及びエンジン性能の低下を招来することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−242128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、燃料油に混入する潤滑油を低減させることができるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、前記ガバナウェイトが最大に開いた外周軌跡の上側周囲に、前記ガバナウェイトの回転による潤滑油の飛散を防止する返し部材が設けられるものである。
【0008】
請求項2においては、前記返し部材は、前記ガバナウェイトが最大に開いた外周軌跡より大きい径の円筒状に形成されて、前記ガバナウェイトを囲うものである。
【0009】
請求項3においては、前記返し部材は、前記ガバナウェイトを覆うガバナケースと一体的に構成されるものである。
【0010】
請求項4においては、カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、前記ガバナウェイトは、断面視流線型に形成されるものである。
【0011】
請求項5においては、カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、前記ガバナウェイトを収納するガバナ室と、前記コントロールラックの一端を収納するラック室とを連通させる連通孔に、前記ガバナウェイトと前記コントロールラックを連結するリンク部材が挿嵌されて、前記リンク部材の外周と前記連通孔の内周との間にシール部材が介装されるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、ガバナウェイトの回転による潤滑油の飛散を防止することができるので、コントロールラック側に流入する潤滑油を低減させて、燃料油に混入する潤滑油を低減させることができる。
【0014】
請求項2においては、返し部材の内周面に沿って潤滑油が流れ落ちるので、ガバナウェイトの回転により飛散した潤滑油を効率よく除去することができる。
【0015】
請求項3においては、部品点数を増やすことなくガバナケースの加工のみで返し部材を設けることができる。
【0016】
請求項4においては、ガバナウェイトを断面視流線型としたことにより、ガバナウェイトの着油時や巻き上げ時に、潤滑油の飛散を防止することができるので、コントロールラック側に流入する潤滑油を低減させて、燃料油に混入する潤滑油を低減させることができる。
【0017】
請求項5においては、シール部材により潤滑油がラック室に流入することを阻止して、燃料油に混入する潤滑油を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジン100の全体構成を示す図。
【図2】燃料噴射ポンプ1Aの全体構成を示す図。
【図3】燃料噴射ポンプ1Aのガバナ機構30の周辺構造を示す右側面断面図。
【図4】燃料噴射ポンプ1Aのガバナ機構30の周辺構造を示す後面図。
【図5】燃料噴射ポンプ1Bのガバナ機構30の周辺構造を示す右側面断面図。
【図6】燃料噴射ポンプ1Bのガバナ機構30の周辺構造を示す後面図。
【図7】燃料噴射ポンプ1Cのガバナ機構30の周辺構造を示す右側面断面図。
【図8】燃料噴射ポンプ1Cのガバナ機構30の周辺構造を示す後面図。
【図9】燃料噴射ポンプ1Dのガバナ機構30の周辺構造を示す右側面断面図。
【図10】燃料噴射ポンプ1Dのガバナ機構30の周辺構造を示す後面図。
【図11】燃料噴射ポンプ1Eのポンプハウジング3のリンク窓3bの周辺構造を示す右側面断面図。
【図12】燃料噴射ポンプ1Eのポンプハウジング3のリンク窓3bの周辺構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の一実施形態に係るエンジン100について説明する。なお、以下の説明においては、冷却ファン104が配置される側をエンジン1の前方として説明を行うこととする。
【0020】
図1に示すように、エンジン100の中央部にシリンダブロック101が配置され、該シリンダブロック101上側にはシリンダヘッド102が載置固定され、該シリンダブロック102の下側にはオイルパン103が配設されている。エンジン100の前部に冷却ファン104が配置され、エンジン100の後部にフライホイールハウジング105が配置される。エンジンの一側方(本実施形態では右方)に燃料噴射ポンプ1Aが配置される。
【0021】
燃料噴射ポンプ1Aは、エンジン100に搭載される燃料噴射装置の一部であり、シリンダヘッド102に配設される燃料噴射弁に、所定のタイミングで所定量の燃料を圧送するためのものである。本実施形態における燃料噴射ポンプ1Aは、燃料噴射弁に燃料を分配・圧送する分配形燃料噴射ポンプである。図2に示すように、燃料噴射ポンプ1Aは、ハイドロリックヘッド2とポンプハウジング3とを上下に接合して構成される。なお、燃料噴射ポンプは列形や独立形であってもよく限定するものではない。
【0022】
ハイドロリックヘッド2には、プランジャバレル4が挿嵌されており、該プランジャバレル4内にプランジャ5が上下摺動自在に内装される。プランジャバレル4とプランジャ5の上端部との間には加圧室6が形成される。プランジャバレル4の下端部からは、プランジャ5が下方に突出される。また、プランジャバレル4の前方には、低温始動タイマ機構7が設けられる。
【0023】
プランジャバレル4の下端部外周には、上部バネ受け8が固設され、プランジャ5の下端部には下部バネ受け9が固設され、これらの間にプランジャ5を下方へ付勢するバネ10が介装される。プランジャバレル4と上部バネ受け8との間には、円筒状のコントロールスリーブ11が設けられ、該コントロールスリーブ11は、プランジャ5と係合して一体的に回動可能とされる。
【0024】
ポンプハウジング3の上部には、不図示のコントロールラックの一端を収納するラック室12が形成される。コントロールラックは、前記コントロールスリーブ11と連結されて、当該コントロールラックを摺動させることで、コントロールスリーブ11とともにプランジャ5を軸心方向に回動させて燃料噴射弁における燃料噴射量が調整可能とされる。
【0025】
ポンプハウジング3の前上部には、タペット13を収納するタペット室14が形成される。タペット室14は、前記ラック室12と連通される。タペット室14には、タペット13が上下方向に往復摺動可能に設けられる。タペット13には、プランジャ5の下端部と、下部バネ受け9と、バネ10の下部と、が挿嵌される。
【0026】
ポンプハウジング3の下部には、カム15を収納するカム室16が形成される。カム室16は、前後方向を長手方向とする略円筒状に形成される。カム室16には、軸受17・18を介して、カム軸19が前後方向に架設されて回動可能に支持される。カム軸19の前端部は、ポンプハウジング3のフランジ3aに連接されたギヤケース106(図1参照)内の動力伝達手段と連結される。
【0027】
ハイドロリックヘッド2には、デリベリバルブ20、分配軸21が設けられ、分配軸21の下端部には、分配軸21と同一軸心上の伝達軸22が連結される。前記伝達軸22の下端部には、ベベルギヤ24に噛合するベベルギヤ23が固設される。
【0028】
このような燃料噴射ポンプ1Aにおいては、エンジン100のクランク軸からの動力が、ギヤケース内の動力伝達手段等を介してカム軸19に伝達されると、カム軸19とともにカム15が回転されて、タペット13を介してプランジャ5が上下に往復動される。そして、プランジャ5の上下往復動によって、加圧室6への燃料の吸入行程と加圧室6からの燃料の吐出行程とが交互に行われる。
【0029】
つまり、吸入行程においてはプランジャ5がバネ10の付勢力によって押し下げられて下降すると、燃料タンク(フィードポンプ)からの燃料が加圧室6に吸入される。吐出行程においてはプランジャ5がバネ10の付勢力に抗して上昇すると、加圧室6に吸入されている燃料が加圧されて分配軸21に圧送される。その後、分配軸21に圧送された燃料は、分配軸21によってデリベリバルブ20へ分配されて噴射管を通って燃料噴射ノズルから噴射される。
【0030】
そして、ポンプハウジング3の後側は、ガバナケース25で覆われてガバナ室26が形成される。ガバナ室26には、カム軸19の回転速度に応じて前記コントロールラックを摺動させて燃料噴射量を調整するガバナ機構30が収納される。カム軸19がポンプハウジング3からガバナケース25内まで延設されて、この延設部にガバナ機構30が設けられる。
【0031】
図3に示すように、ガバナ機構30は、ガバナウェイト31、ガバナスリーブ32、支持台33、等で主に構成される。カム軸19の延設部に、支持台33が固定部材34により固設されて、該支持台33の外周側に設けられた支持部33aにガバナウェイト31の基部が回動軸35により回動自在に支持される。本実施形態においては、四つのガバナウェイト31がカム軸19を中心に90度の位相毎に取り付けられている(図4参照)。カム軸19の後端には、ガバナスリーブ32が前後方向に摺動可能に外嵌されて、該ガバナスリーブ32の鍔部32aが、ガバナウェイト31の爪部31aと当接される。
【0032】
図2に示すように、ガバナケース25内に架設されるガバナ軸41には、テンションレバー42が回動自在に支持されており、該テンションレバー42にガバナレバー43とアングライヒレバー44とが装着されている。ガバナレバー43とアングライヒレバー44とはアングライヒ軸45に回動自在に支持されており、これらがスプリング46により連結されている。
【0033】
リンク部材47の一端は、ガバナレバー43と連結され、該リンク部材47の他端は、前記コントロールラックに連結されている。リンク部材47は、ポンプハウジング3に設けられたリンク窓3bを介して前記コントロールラックに連結されている。ポンプハウジング3のリンク窓3bは、ガバナ室26とラック室12とを仕切る壁面に設けられている。また、テンションレバー42の近傍にはコントロールレバー48が設けられており、該コントロールレバー48はテンションレバー42にガバナスプリング40を介して連結されている。コントロールレバー48は、アクセルペダル等の操作具と接続されている。
【0034】
そして、カム軸19が回転すると、ガバナウェイト31に生じる遠心力とガバナスプリング40の力のつり合いにより、ガバナスリーブ32がカム軸19の軸方向に移動して、ガバナスリーブ32がアングライヒレバー44の下端部を押すことにより、アングライヒレバー44がガバナ軸41を中心に回動し、これに連動してガバナレバー43が回動する。このガバナレバー43の回動により、リンク部材47を介して前記コントロールラックが移動し、燃料噴射ポンプ1Aの燃料噴射量が変化する構成となっている。
【0035】
また、コントロールレバー48が回動操作されることによりガバナスプリング40による付勢力は変化し、テンションレバー42が回動され、このテンションレバー42の回動がガバナレバー43に伝達され、ガバナウェイト31の遠心力とのつり合いにより前記コントロールラックが移動して、燃料噴射ポンプ1Aの燃料噴射量が変化する構成となっている。
【0036】
次に、図3及び図4を用いて、燃料噴射ポンプ1Aにおけるガバナ機構30の周辺の構造について説明する。
【0037】
燃料噴射ポンプ1Aにおいて、ガバナ機構30の上方には、ガバナウェイト31の回転による潤滑油Loの飛散を防止する返し部材50が設けられる。図4に示すように、返し部材50は、後面視にて、カム軸19を中心とする略円弧形状に板材が折り曲げて形成されており、ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡の上側周囲にガバナウェイト31を囲うように配置される。また、返し部材50は、テンションレバー42と接触しないように配置される。図3に示すように、返し部材50の前後幅は、ガバナウェイト31と支持台33を合わせた前後幅と同程度とされる。
【0038】
返し部材50の左端及び右端には、側面視略L字状の取付部50aが形成される。カム軸19の後側の軸受17とガバナ機構30の支持台33との間には、隔壁板27が介設される。隔壁板27の上側後面には、左右の取付部50aが当接されて、ボルト51により取り付けられる。なお、返し部材50の取付位置は、上記に限定するものでなく、ポンプハウジング3の任意位置とすることが可能である。また、ポンプハウジング3側でなく、ガバナケース25側に返し部材50を取り付けることも可能である。
【0039】
このような構成によると、ガバナウェイト31が回転して、潤滑油Loが飛散した場合であっても、この潤滑油Loが返し部材50の下面に付着して下方に流れ落ちることとなるので、潤滑油Loが飛散することを防止することができる。これにより、飛散した潤滑油Loがラック室12に通じるリンク窓3bに到達することがないので、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。なお、矢印αは、ガバナウェイト31の回転方向を示しており、図4に示す黒塗り矢印は、返し部材50の下面に付着して下方に流れ落ちた潤滑油Loを示している。
【0040】
次に、図5及び図6を用いて、他の燃料噴射ポンプ1Bにおけるガバナ機構30の周辺の構造について説明する。
【0041】
燃料噴射ポンプ1Bの返し部材60は、ガバナケース25と一体的に構成される。具体的には、図5に示すように、燃料噴射ポンプ1Bのガバナケース25は、前面61が概ね閉口されており、その前面61の下部には、ガバナ機構30を挿嵌するための開口部61aが形成されている。この開口部61aの上側から後方に向けて延出されて返し部材60が形成される。
【0042】
図6に示すように、返し部材60は、カム軸19を中心とする略円弧形状であり、ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡の上側周囲にガバナウェイト31を囲うように配置される。返し部材60の左端及び右端は、ガバナ室26の壁面にそれぞれ延出されて連続するように構成される。図5に示すように、返し部材60の前後幅は、ガバナウェイト31の前後幅と同程度とされる。
【0043】
このような構成によると、ガバナウェイト31が回転して、潤滑油Loが飛散した場合であっても、この潤滑油Loが返し部材60の下面に付着して下方に流れ落ちることとなるので、潤滑油Loが飛散することを防止することができる。これにより、飛散した潤滑油Loがラック室12に通じるリンク窓3bに到達することがないので、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。また、部品点数を増やすことなくガバナケース25の加工のみで返し部材60を設けることができる。なお、図6に示す黒塗り矢印は、返し部材60の下面に付着して下方に流れ落ちた潤滑油Loを示している。
【0044】
なお、ガバナケース25の前面61が概ね閉口されているため、テンションレバー42やガバナレバー43等をガバナケース25に内装するために、ガバナケース25の何れかの面を開口する必要があるが、従来のガバナケース25の後面に形成された開口部25a(図2参照)を大きく構成するだけでよい。
【0045】
次に、図7及び図8を用いて、他の燃料噴射ポンプ1Cにおけるガバナ機構30の周辺の構造について説明する。
【0046】
燃料噴射ポンプ1Cの返し部材70は、カム軸19を中心とする支持台33より大きい径の円筒状であり、ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡の配置されて、ガバナウェイト31の支持台33の外周部に固設される。つまり、返し部材70は、支持台33とともにガバナウェイト31と一体的に回動するように構成される。返し部材70の前後幅は、ガバナウェイト31の前後幅と同程度とされる。
【0047】
このような構成によると、ガバナウェイト31が回転して潤滑油Loが巻き上げられた場合であっても、この潤滑油Loが返し部材70の内周面に付着してこの内周面に沿って流れ落ちることとなるので、潤滑油Loの飛散を防止することができる。これにより、飛散した潤滑油Loがラック室12に通じるリンク窓3bに到達することがないので、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。また、飛散した潤滑油Loは、返し部材70の内周面に付着した後、この内周面を伝って順に左下方又は右下方に流れ落ちるので、飛散した潤滑油Loを効率良く除去することが可能となる。なお、図8に示す黒塗り矢印は、返し部材70の内周面に付着して左下方又は右下方に流れ落ちた潤滑油Loを示している。
【0048】
なお、返し部材70は、ガバナウェイト31と一体的に回動するように構成せずに、ポンプハウジング3やガバナケース25に設けることも可能である。
【0049】
次に、図9及び図10を用いて、他の燃料噴射ポンプ1Dにおけるガバナ機構30のガバナウェイト81の形状について説明する。
【0050】
燃料噴射ポンプ1Dのガバナウェイト81は、断面視流線型に形成される。該ガバナウェイト81は、図10に示すように、後面断面視において、ガバナウェイト81の回転軌跡に対して外側と内側に湾曲面を有した流線型に形成されており、潤滑油Loの油面に侵入する部分である先端部81bが、回転方向に向かって徐々に滑らかに細くなる形状となっており、前記先端部81bの反対側の後端部も同様に滑らかに細くなる形状となっている。つまり、従来のガバナウェイトは、潤滑油Loの油面に侵入する部分である先端部が平面状である(角張っている)ため、着油時や巻上げ時に潤滑油Loが飛散するが、本実施形態のガバナウェイト81は、先端部81bが回転方向に向かって徐々に細くなる形状(後端部も)であって、滑らかな曲面に形成されている流線型であるので、ガバナウェイト81の着油時や巻き上げ時に、潤滑油Loが撥ね上げられて潤滑油Loが飛散することを防止することができる。これにより、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減させることができる。
【0051】
次に、図11及び図12を用いて、他の燃料噴射ポンプ1Eにおけるポンプハウジング3のリンク窓3bの周辺の構造について説明する。
【0052】
前記ポンプハウジング3のリンク窓3bは、前記ガバナウェイト31を収納するガバナ室26と、前記コントロールラックの一端を収納するラック室12とを連通させる連通孔であり、後面視で円形に穿設されて形成され、前記リンク窓3bには、円柱状のリンク部材47が挿入される。ブッシュ90は、リンク窓3b側に固設されており、リンク部材47がブッシュ90に対して摺動自在に構成される。また、ブッシュ90は、前記リンク部材の外周と前記連通孔の内周との間に介装されるシール部材であり、ガバナウェイト31で巻き上げた潤滑油Loがガバナ室26からラック室12に流入することを阻止することができる。
【0053】
このような構成によると、ガバナウェイト31が回転して潤滑油Loが巻き上げられた場合であっても、この潤滑油Loがブッシュ90の前面に付着して下方に流れ落ちることとなるので、潤滑油Loがガバナ室26からラック室12に流入することを阻止することができ、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。なお、図12に示す黒塗り矢印は、ブッシュ90の前面に付着して下方に流れ落ちた潤滑油Loを示している。
【0054】
なお、リンク部材47は、円柱状に限定するものではなく、平板状であってもよく、ブッシュ90はリンク部材の外形及びリンク窓3bの形状に合わせて隙間ができないように構成される。
【0055】
以上のように、本発明の一実施形態に係るエンジン1によると、カム軸19上にガバナウェイト31が設けられ、前記カム軸19の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイト31が回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプ1A・1B・1Cを備えるエンジン1において、前記ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡の上側周囲に、前記ガバナウェイト31の回転による潤滑油Loの飛散を防止する返し部材50・60・70が設けられるものである。これにより、潤滑油Loの飛散を防止することができるので、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。
【0056】
また、燃料噴射ポンプ1Cを備えるエンジン1において、前記返し部材70は、前記ガバナウェイト31が最大に開いた外周軌跡より大きい径の円筒状に形成されて、前記ガバナウェイト31を囲うものである。これにより、返し部材70の内周面に沿って潤滑油Loが流れ落ちるので、飛散した潤滑油Loを効率よく除去することができる。
【0057】
また、燃料噴射ポンプ1B・1Cを備えるエンジン1において、前記返し部材60(70)は、前記ガバナウェイト31を覆うガバナケース25と一体的に構成されるものである。これにより、部品点数を増やすことなくガバナケース25の加工のみで返し部材60を設けることができる。
【0058】
また、カム軸19上にガバナウェイト31が設けられ、前記カム軸19の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイト31が回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプ1Dを備えるエンジン1において、前記ガバナウェイト81は、断面視流線型に形成されるものである。これにより、ガバナウェイト31の着油時や巻き上げ時に潤滑油Loの付着が少なくなり、飛散する量を減少させることができるので、ラック室12に流入する潤滑油Loを低減させて、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。
【0059】
また、カム軸19上にガバナウェイト31が設けられ、前記カム軸19の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイト31が回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプ1Eを備えるエンジン1において、ガバナ室26とラック室12とを連通させる連通孔であるリンク窓3bに、前記ガバナウェイト31と前記コントロールラックを連結するリンク部材47が挿嵌されて、前記リンク部材47の外周と前記リンク窓3bの内周との間にシール部材となるブッシュ90が介装されるものである。これにより、潤滑油Loがラック室12に流入することを阻止して、燃料油に混入する潤滑油Loを低減することができる。
【符号の説明】
【0060】
1A 燃料噴射ポンプ
1B 燃料噴射ポンプ
1C 燃料噴射ポンプ
1D 燃料噴射ポンプ
1E 燃料噴射ポンプ。
3a リンク窓(連通孔)
12 ラック室
18 カム軸
25 ガバナケース
26 ガバナ室
30 ガバナ機構
31 ガバナウェイト
32 ガバナスリーブ
33 支持台
47 リンク部材
50 返し部材
60 返し部材
81 ガバナウェイト
90 ブッシュ(シール部材)
100 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、
前記ガバナウェイトが最大に開いた外周軌跡の上側周囲に、前記ガバナウェイトの回転による潤滑油の飛散を防止する返し部材が設けられることを特徴とするエンジン。
【請求項2】
前記返し部材は、前記ガバナウェイトが最大に開いた外周軌跡より大きい径の円筒状に形成されて、前記ガバナウェイトを囲うことを特徴とする請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記返し部材は、前記ガバナウェイトを覆うガバナケースと一体的に構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、
前記ガバナウェイトは、断面視流線型に形成されることを特徴とするエンジン。
【請求項5】
カム軸上にガバナウェイトが設けられ、前記カム軸の回転に伴う遠心力により前記ガバナウェイトが回動してコントロールラックが摺動することで調速を行うように構成された燃料噴射ポンプを備えるエンジンにおいて、
前記ガバナウェイトを収納するガバナ室と、前記コントロールラックの一端を収納するラック室とを連通させる連通孔に、前記ガバナウェイトと前記コントロールラックを連結するリンク部材が挿嵌されて、
前記リンク部材の外周と前記連通孔の内周との間にシール部材が介装されることを特徴とするエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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