説明

エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、幹細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤及びプロオピオメラノコルチンmRNA発現上昇抑制剤

【課題】エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用又はPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有するフラボン化合物を有効成分とするエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇抑制剤の提供。
【解決手段】エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇抑制剤に、「カランボラフラボン」化合物を有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、幹細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤、塩基性線維芽細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤及びプロオピオメラノコルチンmRNA発現上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、ソバカス、日焼け後の皮膚色素沈着症等は、皮膚内に存在する色素細胞(メラノサイト)が活性化することにより、メラニンの産生が著しく亢進した結果として生じるものであり、中高年齢層における肌の悩みの一つになっている。
【0003】
従来の美白剤開発は、メラニン生成の律速酵素であるチロシナーゼに注力して進められてきたが、近年、紫外線UV−B照射後に表皮ケラチノサイトから産生され、メラノサイトを活性化するサイトカインとして、α−メラノサイト刺激ホルモン(α−MSH)、エンドセリン−1、一酸化窒素(NO)等が知られており、これらが関与する情報伝達系を遮断することによりメラニンの産生を抑制して美白効果を導く各種作用剤の開発が盛んに行われてきている。
【0004】
また、循環器系疾患(例えば、心筋梗塞、高血圧、虚血性心疾患等)や腎疾患(例えば、急性腎不全等)の患者において、血中エンドセリン−1濃度が上昇していることが知られているため、エンドセリン−1の過剰分泌を抑制すること、すなわちエンドセリン−1mRNAの発現上昇を抑制することによって、これらの疾患の予防・治療効果が期待できると考えられる。
【0005】
このような考えに基づき、エンドセリン−1のメラノサイトへの作用を阻害する生薬としては、カミツレ抽出物・アルテア抽出物(非特許文献1参照)等が知られており、表皮ケラチノサイトからのエンドセリン−1産生を抑制する生薬としては、ジユ抽出物(非特許文献1参照)、β−グリチルレチン酸ステアリル(特許文献1参照)等が知られている。
【0006】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Mast Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献2参照)。
【0007】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。また、分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。さらに、SCFは、急性骨髄性白血病患者において、インターロイキン−3(Interleukin-3,IL−3)や顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor,GM−CSF)の共存下で骨髄芽球の増殖を促進することが知られている(非特許文献3参照)。
【0008】
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor,bFGF)は、FGF−2とも呼ばれ、紫外線照射により角化細胞からの遊離が促進され、遊離されたbFGFが色素細胞に作用してメラニン合成を促進し、かつ色素細胞の細胞分裂をも促進すると考えられている(非特許文献4参照)。また、bFGFは、血管新生促進因子として知られており、腫瘍細胞(特に、悪性腫瘍細胞)における血管新生を促進すること等が知られている。
【0009】
そのため、SCF及びbFGFの異常産生は、色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、シミ、ソバカス、くすみ等の原因となると考えられる。また、SCFの異常産生は、骨髄芽球の異常増殖につながり、それにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病(AML)等の疾患を引き起こすものと考えられ、bFGFの異常産生は、腫瘍細胞における血管新生を促進し、それにより腫瘍細胞の増殖につながるものと考えられる。
【0010】
したがって、SCFmRNA及びbFGFmRNAの発現上昇を抑制することは、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に有用であると考えられる。また、SCFの発現上昇を抑制することは、骨髄芽球の異常増殖を抑制し、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用であると考えられ、bFGFの発現上昇を抑制することは、腫瘍細胞における血管新生を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制することで、がん治療等に有用であると考えられる。
【0011】
このような考えに基づき、SCFの産生・放出を抑制する作用を有するものとして、例えば、バラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキス等が知られている(特許文献2参照)。また、bFGFの作用を抑制し得るものとして、例えば、オノニスエキス等が知られている(特許文献3参照)。
【0012】
皮膚表皮細胞から分泌されてメラニンの生成に関与するホルモンであるACTHやメラノサイトを活性化するサイトカインとしてのα−MSHは、プロオピオメラノコルチン(POMC)を前駆体として産生されることが知られている。そのため、POMCの産生を抑制すること、すなわちPOMCmRNAの発現上昇を抑制することで、結果的にメラニンの生成を抑制することができ、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等を予防又は改善することができると考えられる。
【0013】
従来、POMCの発現を抑制する作用を有するものとしては、例えば、パンテノール、塩酸ピリドキシン及びニコチン酸アミド等が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−300048号公報
【特許文献2】特開2003−194809号公報
【特許文献3】特開2005−104904号公報
【特許文献4】特開2007−176810号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「フレグランスジャーナル」,2000年,第28巻,第9号,p.65−71
【非特許文献2】Hachiya A et al.,J. Invest. Dermatol.,No.116,2001,p.578-586
【非特許文献3】Virginia C. Broudy et al.,Blood,Vol.80,No.1,1992,p.60-67
【非特許文献4】Halaban R. et al.,J. Cell. Biol.,No.107,1988,p.1611-1619
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用及びPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有する物質を見出し、それを有効成分とするエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、POMCmRNA発現上昇抑制剤、エンドセリン−1mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、bFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びPOMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、スターフルーツ抽出物からエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用及びPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有するフラボン化合物を単離・同定ことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有するエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、POMCmRNA発現上昇抑制剤、エンドセリン−1mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、bFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びPOMCmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供する。
【0019】
【化1】

【発明の効果】
【0020】
安全性の高い天然物であるスターフルーツから得られる上記式(I)で表されるフラボン化合物は、エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用及びPOMCmRNA発現上昇抑制作用を示すため、これをエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇抑制剤として利用することにより、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等を予防、治療又は改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明する。
本発明のフラボン化合物は、下記式(I)で表されるものである。以下、下記式(I)で表されるフラボン化合物を「カランボラフラボン」と称する。
【0022】
【化2】

【0023】
カランボラフラボンは、スターフルーツから単離することができるが、スターフルーツ以外の植物にも存在する可能性がある。したがって、カランボラフラボンの単離源は、スターフルーツに限定されるものではなく、カランボラフラボンを含有するいずれの植物を用いてもよい。
【0024】
カランボラフラボンは、例えば、スターフルーツ抽出物に、液−液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離等のフラボン化合物を濃縮するのに有効な精製操作を施した後、ポリビニルアルコール系ポリマー等を固定相として用いた液体クロマトグラフィーにより処理することで得ることができる。
【0025】
具体的には、まず、スターフルーツを水、親水性有機溶媒又はこれらの混合溶媒による抽出処理に付し、スターフルーツ抽出物を得る。
【0026】
抽出原料として使用するスターフルーツの構成部位は、特に限定されるものではなく、例えば、葉部、茎部、果実部、根部等が挙げられる。これらのうち、特に葉部を抽出原料として使用することが好ましく、これらを単独で使用してもよいし、併用してもよい。ここで「葉部」には、完全葉の他、葉の一部(例えば、葉身、葉柄、托葉、葉鞘等)も含まれる。なお、スターフルーツ(Averrhoa carambola L.)は、カタバミ科に属し、新鮮な果実は食用にされており、その果実は断面が星形であることからスターフルーツと呼ばれている。スターフルーツは、沖縄、中国東南部や雲南その他熱帯各地で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。
【0027】
スターフルーツ抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、スターフルーツの極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0028】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用するのが好ましい。
【0029】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0030】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0031】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0032】
抽出処理は、少なくとも抽出原料に含まれるカランボラフラボンを抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0033】
次に、得られたスターフルーツ抽出物を吸着剤に吸着させた後、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で溶出させて、フラボン化合物を含有する画分を分画する。
【0034】
スターフルーツ抽出物に含まれ得る親水性有機溶媒は、吸着剤に吸着させる前に、必要に応じて留去する。親水性有機溶媒を留去した抽出物は、例えば、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒に溶解又は懸濁させた後、吸着剤に吸着させる。
【0035】
溶解、懸濁又は溶出に用いられる水溶性溶媒として、上記親水性有機溶媒を用いることができ、上記炭素数1〜5の低級アルコール、この中でも特にメタノール、エタノールを用いるのが好ましい。水及び水溶性溶媒の混合溶媒を用いる場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とメタノールとの混合溶媒を使用する場合、水とメタノールとの混合比を0:100〜100:0(容量比)、好ましくは40:60〜60:40(容量比)とすることができる。
【0036】
吸着剤は、フラボン化合物を吸着し得る限り特に限定されるものではないが、イオン交換樹脂、合成吸着樹脂、活性炭、キレート樹脂、シリカゲル、アルミナゲル系吸着剤、多孔質ガラス等の公知の吸着剤を単独で又は組み合わせて用いることができる。好ましくは、多孔質性合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP−20(いずれも三菱化学社製)等の多孔性合成吸着剤を用いたカラムクロマトグラフィーと、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)であるクロマトレックスODS DM1020T(富士シリシア化学社製)等を充填剤として用いた逆相カラムクロマトグラフィーとを併用する。
【0037】
最後に、得られた溶出液を、移動相として水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒を用いた液体カラムクロマトグラフィーにより分画し、精製されたフラボン化合物を得る。
【0038】
液体クロマトグラフィーによる分画方法は、特に制限されるものではなく、通常の方法で行うことができる。例えば、固定相としては、シリカゲル(例えば、シリカゲル60(製品名),メルク社製)、オクタデシルシリル(Octa Decyl Silyl,C1837Si)基で表面が修飾された化学結合型多孔性球状シリカゲル(例えば、クロマトレックスODS DM1020T(製品名),富士シリシア化学社製)、ヒドロキシプロピル化したデキストラン等のゲル(例えば、SEPHADEX LH-20(製品名),GEヘルスケア・ジャパン社製)等を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0039】
水溶性溶媒としては、上記親水性有機溶媒を用いることができ、特にメタノール、エタノール、アセトニトリル等を用いることが好ましい。水及び水溶性溶媒を用いる場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水とアセトニトリルとの混合溶媒を使用する場合、水とアセトニトリルとの混合比を20:80〜80:20(容量比)、好ましくは60:40(容量比)とすることができる。
【0040】
このようにして、液体クロマトグラフィーを利用してカランボラフラボンを含有する画分を分画することにより、精製されたカランボラフラボンを得ることができる。
【0041】
以上のようにして得られるカランボラフラボンは、エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用又はPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有しているため、それらの作用を利用してエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤の有効成分として使用することができる。
【0042】
また、カランボラフラボンは、そのエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を利用して、エンドセリン−1mRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、心筋梗塞治療剤、高血圧治療剤、虚血性心疾患治療剤、急性腎不全治療剤等)の有効成分として用いることもできる。
【0043】
さらに、カランボラフラボンは、そのSCFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、SCFmRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、骨髄異形成症候群予防・治療剤、急性骨髄性白血病予防・治療剤、抗腫瘍剤等)の有効成分として用いることもできる。
【0044】
さらにまた、カランボラフラボンは、そのbFGFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、bFGFmRNAの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、血管新生抑制剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、がん細胞の転移を抑制する医薬組成物等)の有効成分として用いることもできる。
【0045】
また、カランボラフラボンは、そのPOMCmRNA発現上昇抑制作用を利用して、POMCmRNAの発現上昇に起因する疾患(例えば、ストレス性の皮膚掻痒症等)の予防・治療剤の有効成分として用いることもできる。
【0046】
本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンのみからなるものでもよいし、カランボラフラボンを製剤化したものでもよい。
【0047】
カランボラフラボンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。カランボラフラボンを製剤化したエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等が挙げられる。
【0048】
なお、本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、必要に応じて、エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用、SCFmRNA発現上昇抑制作用、bFGFmRNA発現上昇抑制作用又はPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有する天然抽出物等を、カランボラフラボンとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0049】
本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0050】
本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を通じて、エンドセリン−1の産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等を予防・改善することができる。また、本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を通じて、心筋梗塞、高血圧、虚血性心疾患、急性腎不全等の疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0051】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、SCFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、骨髄芽球の異常増殖を抑制することができ、これにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもSCFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0052】
本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、bFGFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、腫瘍細胞における異常な血管新生を抑制し、がん等の疾患を予防、治療又は改善をすることができる。ただし、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもbFGFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0053】
本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するPOMCmRNA発現上昇抑制作用を通じて、POMCの発現の上昇を抑制することができ、これによりメラノサイトを活性化するサイトカインとしてのα−MSHの生合成を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、カランボラフラボンが有するPOMCmRNA発現上昇抑制作用を通じて、ストレス性の皮膚掻痒症等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもPOMCmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0054】
なお、本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤又はPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0055】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0056】
〔製造例1〕カランボラフラボンの製造
抽出原料としてのスターフルーツの葉部の粉砕物5kgを50容量%エタノール20Lに投入し、穏やかに攪拌しながら3時間、80℃にて加熱抽出した後、熱時濾過した。残渣について同様の抽出操作を繰り返し、得られた濾液を合わせ、40℃で減圧下に濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥して粉末状のスターフルーツ抽出物1815gを得た(収率36.3%)。
【0057】
得られたスターフルーツ抽出物1815gを、水1000mLを加えて懸濁させ、多孔性樹脂(ダイアイオンHP−20,6kg)に付し、水30L、40容量%メタノール30L、80容量%メタノール30L、メタノール30Lの順で溶出させた。次いで、80容量%メタノール30Lで溶出させた画分に含まれる80容量%メタノールを留去して、80容量%メタノール溶出画分169.8gを得た。得られた80容量%メタノール溶出画分169.8gを、クロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)の混合溶媒に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、シリカゲルに吸着させた。次いで、移動相としてクロロホルム:メタノール:水=10:5:1(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、フラボン化合物濃縮物42.8gを得た。
【0058】
得られたフラボン化合物濃縮物42.8gを、アセトニトリル:水=2:5(容量比)の混合溶媒に溶解し、ODS(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、ODSに吸着させた。次いで、移動相としてアセトニトリル:水=2:5(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、フラボン化合物濃縮物22.0gを得た。
【0059】
得られたフラボン化合物濃縮物22.0gを、メタノールに溶解し、疎水性基を有するゲル(Sephadex LH-20,GEヘルスケア・ジャパン社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、吸着させた。次いで、移動相としてメタノールを流し、その溶出液を集め、脱溶媒して、フラボン化合物濃縮物16.2gを得た。
【0060】
得られたフラボン化合物濃縮物16.2gを下記の条件で高速液体クロマトグラフィーを用いて分画し、カランボラフラボン(1.2g)を単離した。
【0061】
<高速液体クロマトグラフィー条件1>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)を2本連結
カラム径:20mm
カラム長:500mm
移動相:メタノール
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0062】
<高速液体クロマトグラフィー条件2>
固定相:Develosil RPAQUEOUS−AR−5(野村化学社製)
カラム径:20mm
カラム長:250mm
移動相:アセトニトリル:水=3:7(容量比)
移動相流量:9mL/min
検出:RI
【0063】
単離したカランボラフラボンについてH−NMR及び13C−NMR分析を行なった。結果を下記に示す。
【0064】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
0.54(3H, d, J=5.6Hz, Rha-6-H), 1.14(3H, d, J=6.0H1, Fuc-6-H), 2.38(1H, m, Rha-5-H), 2.92(1H, br.s, Rha-4-H), 3.17(1H, overlapped, Rha-3-H), 3.54(1H, br.s, Fuc-4-H), 3.62(1H, overlapped, Rha-2-H), 3.62(1H, overlapped, Fuc-3-H), 3.72(1H, br.q, J=6.0Hz, Fuc-5-H), 4.16(1H, br.t, J=8.8Hz, Fuc-2-H), 4.39(1H, d, J=9.6Hz, Fuc-1-H), 5.01(1H, s, Rha-1-H), 6.51(1H, s, 8-H), 6.74(1H, s, 3-H), 6.92(2H, d, J=8.8Hz, 3', 5'-H), 7.90(2H, d, J=8.8Hz, 2', 6'-H)
【0065】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
16.8(Fuc-6-C), 17.5(Rha-6-C), 68.0(Rha-5-C), 70.3(Rha-3-C), 70.4(Rha-2-C), 71.2(Fuc-1-C), 71.3(Rha-4-C), 72.0(Fuc-4-C), 73.6(Fuc-2- C), 73.6(Fuc-5-C), 75.7(Fuc-3-C), 94.4(8-C), 100.3(Rha-1-C), 102.7(3-C), 103.4(10-C), 108.8(6-C), 115.8(3', 5'-C), 120.9(1'-C), 128.1(2', 6'-C), 156.3(9-C), 158.9(5-C), 160.9(4'-C), 162.5(7-C), 163.3(2-C), 181.5(4-C)
【0066】
以上の結果から、スターフルーツ抽出物から単離されたカランボラフラボンが、下記式(I)で表されるフラボン化合物であることが確認された。
【0067】
【化3】

【0068】
〔試験例1〕エンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用試験
上記カランボラフラボン(試料1)について、以下のようにしてエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0069】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte,NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0070】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0071】
この総RNAを鋳型とし、エンドセリン−1及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。エンドセリン−1のmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0072】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、カランボラフラボンは、優れたエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【0075】
〔試験例2〕SCFmRNA発現上昇抑制作用試験
上記カランボラフラボン(試料1)について、以下のようにしてSCFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0076】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0077】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表2を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0078】
この総RNAを鋳型とし、SCF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SCFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSCFmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0079】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示すように、カランボラフラボンは、優れたSCFmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【0082】
〔試験例3〕bFGFmRNA発現上昇抑制作用試験
上記カランボラフラボン(試料1)について、以下のようにしてbFGFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0083】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0084】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表3を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0085】
この総RNAを鋳型とし、bFGF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。bFGFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりbFGFmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0086】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3に示すように、カランボラフラボンは、優れたbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【0089】
〔試験例4〕POMCmRNA発現上昇抑制作用試験
上記カランボラフラボン(試料1)について、以下のようにしてPOMCmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0090】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0091】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表4を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(NIPPON GENE社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0092】
この総RNAを鋳型とし、POMC及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。POMCのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりPOMCmRNA発現上昇抑制率(%)を算出した。
【0093】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
表4に示すように、カランボラフラボンは、優れたPOMCmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤及びPOMCmRNA発現上昇抑制剤は、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等の予防・改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリン−1mRNA発現上昇抑制剤。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とするプロオピオメラノコルチン(POMC)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項5】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とするエンドセリン−1mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。
【請求項6】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。
【請求項7】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。
【請求項8】
請求項1に記載の式(I)で表されるフラボン化合物を有効成分として含有することを特徴とするプロオピオメラノコルチン(POMC)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。

【公開番号】特開2011−190209(P2011−190209A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57264(P2010−57264)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】