説明

エンドソーム脱出機能を有するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物、及びその核酸デリバリーへの応用

【課題】りん酸カルシウム法の欠点を解消し、簡便かつ効率的な核酸デリバリーを達成する方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーの酸性又は塩基性アミノ酸ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)が結合していることを特徴とする、チャージコンバージョンポリマー;少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物;及びその調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なチャージコンバージョンポリマー、少なくとも1種の生物活性物質を担持する、チャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物、及びその調製方法に関する。また本発明は、細胞内に生物活性物質(特に、siRNAなどに代表される核酸医薬)を導入するための方法における該水性分散組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
RNAi(RNA interference:RNA干渉)を利用した遺伝子機能解析法は、容易にターゲット遺伝子をノックダウンできる手法として注目され、幅広く活用されている。さらに近年では、ターゲット遺伝子と同じ配列を持つsiRNA(small interfering RNA)などの人工RNAを生体内へ導入し、ターゲット遺伝子の発現を特異的に抑制することによる分子標的治療法としての応用が期待され、様々な研究がなされている。いずれの場合も、人工RNAの標的細胞への効率的なデリバリーが必要とされる。
【0003】
細胞への遺伝子導入法として、リン酸カルシウム法が古くから知られ、核酸医薬デリバリーへの応用も検討されている。古典的なリン酸カルシウム法では、先ずリン酸溶液に核酸物質を含む塩化カルシウム溶液を撹拌しながら加え、核酸−リン酸カルシウムの微細な粒子を形成する。次いでこの溶液を培養細胞に加えることにより、核酸−リン酸カルシウム粒子が細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれる。その大部分はエンドソームを介してリソソームへと送られ代謝されることになるが、一部のフラクションはエンドソームから脱出し、核酸を細胞質、ときには核へと運ぶことが可能となる。しかしながら、リン酸カルシウム粒子は凝集しやすく、細胞や、況してや生体への適用可能な粒径(nmサイズ)を保つのが難しいという欠点がある。
【0004】
このリン酸カルシウム法の欠点を解消すべく、種々の研究がなされている。例えば、Victoria V. Sokolovaらは、リン酸カルシウムのナノ粒子をコアとして、その表面にDNAを吸着・被覆することにより形成する、多層シェル構造のDNA−リン酸カルシウム粒子について報告している(例えば、非特許文献1参照)。また、Jun Liらは、siRNA−リン酸カルシウムのナノ粒子を形成後、これをリポソームに封入した、脂質コーティングされたsiRNA−リン酸カルシウムのナノ粒子について報告している(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
本発明者らの研究グループもまた、このリン酸カルシウム法の欠点を解消し、簡便且つ効率的な核酸デリバリーを達成すべく鋭意検討を重ねてきた。例えば、カルシウム/DNA及びリン酸/ポリエチレングリコールとポリ(α,β−アスパラギン酸)のブロックコポリマー(以下、「PEG−b−PAA」という)溶液を混合すると、自己組織化により、リン酸カルシウム、DNA及びPEG−b−PAAからなるナノ粒子が容易に得られること、PEG−b−PAAのポリエチレングリコール(PEG)部分がシェルのように働き、リン酸カルシウムの凝集を阻害することを報告している(例えば、非特許文献3、特許文献1参照)。また、別のアプローチとして、ジスルフィド結合が細胞内還元環境で切断されやすいことに着目し、ジスルフィド結合を介して予めPEG化したsiRNA(PEG−S−S−siRNA)を用い、これとリン酸カルシウムからなるナノ粒子を調製したこと、同様にPEG部分がシェルのように働き、リン酸カルシウムの凝集を阻害すること、そして細胞内に取り込まれた後、ジスルフィド結合部分の切断により脱PEG化されたsiRNAが核内へ取り込まれることを報告している(例えば、非特許文献4、特許文献2参照)。
【0006】
一方、細胞への遺伝子導入法として、非ウイルス性合成ベクターである、プラスミドDNA(pDNA)とカチオン性ポリマーとの複合体(ポリプレックス)を用いるポリフェクション法も知られている。ポリプレックスがエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれた後、エンドソームからの脱出にはそのカチオン性セグメントが重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながら、カチオン性セグメントはその正に帯電する性質によって、負に帯電した血清成分と非特異的に相互作用を起こして毛細血管で血栓を形成したり、原形質膜の構造を乱し高い細胞毒性と過剰な免疫応答を誘導するリスクをもたらすという欠点を有することも知られている。そこで本発明者らの研究グループは、ポリプレックスを構成するカチオン性ポリマーに、中性条件下では安定であるが、弱酸性条件下では速やかに脱離するアニオン性構造を組み込んだチャージコンバージョンポリマーを開発し、カチオン性セグメントと共に三元系ポリプレックスを調製することで、高トランスフェクション活性と低毒性の両方の特性を発揮することを報告している(例えば、非特許文献5、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/018690号公報
【特許文献2】国際公開第2009/057812号公報
【特許文献3】国際公開第2009/133968号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biomaterials 27 (2006) 3147-3153
【非特許文献2】Journal of Controlled Release 142 (2010) 416-421
【非特許文献3】Langmuir 18 (2002) 4539-4543
【非特許文献4】Adv. Mater. 21 (2009) 3520-3525
【非特許文献5】Angew. Chem. 120 (2008) 5241-5244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規なチャージコンバージョンポリマーを提供する。本発明はまた、少なくとも1種の生物活性物質を担持する、チャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物及びその調製方法を提供する。さらに本発明は、該水性分散組成物を用いる、細胞内に生物活性物質(特に、核酸医薬)を導入するための方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の構造を有するチャージコンバージョンポリマーを生物活性物質(特に、siRNAなどの核酸医薬)−リン酸カルシウム粒子の形成に用いると、リン酸カルシウム粒子に組み込まれたチャージコンバージョンポリマーが、粒子の凝集を抑制すると同時に、細胞外ではアニオン性ポリマーとして低毒性であるが、細胞へ取り込まれた後のエンドソーム内の弱酸性環境において、カチオン性ポリマーとなることにより(すなわち、チャージコンバージョンにより)エンドソームから細胞質への速やかな移行に寄与することを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下のとおりである。
【0011】
1.ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーであって、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)が結合していることを特徴とする、チャージコンバージョンポリマー。
【0012】
2.ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックが、ポリリシン、ポリオルニチン、ポリアスパラギン酸又はポリグルタミン酸から選択されるブロックである、上記1記載のポリマー。
【0013】
3.下記式(I):
【化1】


〔式中、
1及びR2の一方は、下記式:
【化2】


(式中、Rは、水素又はC1〜6アルキルであり;Lは、ポリエチレングリコールブロックとポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックとをつなぐリンカーであり、oは、ポリエチレングリコールブロックの分子量が2,000〜20,000になるような数である)の基であり、他方は、R1の場合、ヒドロキシであるか、又はカルボキシルの保護基であり、R2の場合、水素であるか、又はアミノの保護基であり;
Xは、−NH−又は−C(O)−であり;
1は、カチオン性セグメントであるが、Xが−NH−の場合、単結合であってもよく;
1は、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメントであり;そして
mは、1〜5であり、nは、10〜200であり、p、q及びrは、独立して0又は1であるが、p、q及びrが同時に0であることはなく、またq及びrが同時に1であることもない〕で表される上記1に記載のポリマー。
【0014】
4.Lが、下記式:
【化3】


(式中、sは、1〜10である)の2価基から選択される、上記3に記載のポリマー。
【0015】
5.T1が、脂肪族不飽和ジ−又はトリカルボン酸から誘導されるモノアシル基である、上記3に記載のポリマー。
【0016】
6.式(Ia):
【化4】


(式中、R1、R2、X、S1、m、n、p、q及びrは、上記のとおりであり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表される、上記5に記載のポリマー。
【0017】
7.Xが−C(O)−であり;rが0である、上記3〜6のいずれかに記載のポリマー。
【0018】
8.式(Ib):
【化5】


(式中、R、n及びoは、上記のとおりであり;S1は、カチオン性セグメントであり;R2は、水素又はアミノ保護基であり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表される、上記7に記載のポリマー。
【0019】
9.S1が、−NH−(C2〜20アルキレン)−NH−(ここで、前記アルキレン部分は、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、1個以上の−NH−若しくは−N(C1〜6アルキル)−で中断されていてもよい)である、上記7又は8に記載のポリマー。
【0020】
10.S1が、−(NH−CH2CH2−NH−(ここで、tは、1〜5である)である、上記9に記載のポリマー
【0021】
11.少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物の調製方法であって、
(i)カルシウムイオンを含む水性溶液を調製する工程、
(ii)生物活性物質、リン酸イオン、及び上記1〜10のいずれかに記載のポリマーを含む水性溶液を調製する工程、及び
(iii)溶液(i)を溶液(ii)に一定速度で加える工程
を含む方法。
【0022】
12.上記11に記載の方法により得られる、少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物。
【0023】
13.少なくとも1種の生物活性物質、リン酸イオン、カルシウムイオン、及び上記1〜10のいずれかに記載のポリマーから構成されるハイブリッド粒子を含む水性分散組成物。
【0024】
14.粒子の平均粒径が、10〜500nmの範囲である、上記12又は13に記載の水性分散組成物。
【0025】
15.生物活性物質が、核酸である、上記12〜14のいずれかに記載の水性分散組成物。
【0026】
16.in vitroで細胞内に生物活性物質を導入するための方法であって、
(i)上記12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を標的細胞に添加する工程;
(ii)所与の条件で培養する工程
を含む方法。
【0027】
17.in vivoで細胞内に生物活性物質を導入するための方法であって、上記12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を、被験対象に投与する工程を含む方法。
【0028】
18.上記12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を有効成分として含むことを特徴とする、遺伝子研究用又は治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0029】
本発明のチャージコンバージョンポリマーは、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)が結合していることを特徴とする。この側鎖末端のアニオン性セグメント(T1)により、本発明のチャージコンバージョンポリマーは、通常の生理環境下ではアニオン性ポリマーとして働くので、カチオン性ポリマーに懸念される生体物質との非特異的な相互作用や細胞毒性などのリスクを回避することができる。そして本発明のチャージコンバージョンポリマーは、一旦、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれると、酸性環境である後期エンドソーム(リソソーム)内で側鎖末端のアニオン性セグメントが脱離し、カチオン性ポリマーとなる。すなわち、チャージ(電荷)コンバージョンにより、アニオン性ポリマーがエンドソームからの速やかな脱出に有利なカチオン性ポリマーとなる。したがって、本発明のチャージコンバージョンポリマーを生物活性物質(特に、siRNA)−リン酸カルシウム粒子の形成に用いると、低毒性で高トランスフェクション活性を奏するハイブリッド粒子を得ることができる。また、ハイブリッド粒子は、水性溶液中で静電的相互作用による自己組織化により、容易にナノサイズで調製することができ、且つそのリン酸カルシウム粒子の凝集もチャージコンバージョンポリマーにより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る、siRNAを担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子の模式図である。
【図2】実施例1で得られたチャージコンバーションポリマー(mPEG−pAsp(DET−Aco))の1H−NMRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られたチャージコンバーションポリマー(mPEG−pAsp(EDA−Aco))の1H−NMRスペクトルである。
【図4】比較例1で得られたブロックコポリマー(mPEG−pAsp(DET−Car))の1H−NMRスペクトルである。
【図5】(A)は実施例3;(B)は実施例4;(C)は比較例3;そして(D)は比較例4で調製したsiLuc担持CaPナノ粒子の動的光散乱法による粒径分布を示すヒストグラムである。
【図6】siRNA担持CaPナノ粒子の調製時にポリマー濃度を変更したときの、流体力学直径(A)及び多分散指数(B)の評価を示したグラフである。
【図7】siRNA担持CaPナノ粒子の調製時に、ナノ粒子に封入されたsiRNAの割合(パーセンテージ)を示す。
【図8】PanC−1細胞を用いたsiVEGF担持CaPナノ粒子のCCK−8細胞毒性アッセイの結果を示す。
【図9】PanC−1細胞における、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(DET−Aco)含有CaPナノ粒子を用いた、siGL3の細胞内動態(エンドソーム脱出)の観察結果を示す。(A)は3時間後、(B)は24時間後の共焦点画像を示す。
【図10】PanC−1細胞における、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(EDA−Aco)含有CaPナノ粒子を用いた、siGL3の細胞内動態(エンドソーム脱出)の観察結果を示す。(A)は3時間後、(B)は24時間後の共焦点画像を示す。
【図11】PanC−1細胞における、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(DET−Car)含有CaPナノ粒子を用いた、siGL3の細胞内動態(エンドソーム脱出)の観察結果を示す。(A)は3時間後、(B)は24時間後の共焦点画像を示す。
【図12】PanC−1細胞における、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp含有CaPナノ粒子を用いた、siGL3の細胞内動態(エンドソーム脱出)の観察結果を示す。(A)は3時間後、(B)は24時間後の共焦点画像を示す。
【図13】各実施例及び比較例のナノ粒子に細胞を3時間曝し、24時間後のPanC−1細胞におけるVEGF遺伝子のノックダウンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明について詳細に説明する。但し、以下に示される本発明の具体的態様は、本発明を説明するために提示されるものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0032】
1.チャージコンバージョンポリマー
本発明のチャージコンバージョンポリマーは、ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーであって、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)が結合していることを特徴とする。ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックは、ポリアスパラギン酸ブロック又はポリグルタミン酸などの、側鎖にカルボン酸を有する酸性アミノ酸ブロック、あるいはポリリシン又はポリオルニチンなどの、側鎖に1級アミンを有する塩基性アミノ酸ブロックであるのが好ましく、特にはポリ−α及び/又はβ−アスパラギン酸ブロック、ポリ−γ−グルタミン酸ブロック、ポリ−α−オルニチンブロック、あるいはポリ−α及び/又はε−リシンブロックであるのが好ましい。なお、ポリ(塩基性アミノ酸)ブロックはそれ自体がカチオン性ポリマーの性質を有するため、アニオン性セグメント(T1)の結合にカチオン性セグメント(S1)を介さなくともよい。すなわち「場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して」とは、塩基性アミノ酸の場合に、アニオン性セグメント(T1)の結合に、カチオン性セグメント(S1)を介してもよいが、介さなくともよいことを意味する。ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの重合度(n)は、特に限定されないが、好ましくは約10〜200、より好ましくは約20〜100である。
【0033】
具体的に、そのようなポリマーとして、下記式(I):
【0034】
【化6】

【0035】
〔式中、
1及びR2の一方は、下記式:
【0036】
【化7】

【0037】
(式中、Rは、水素又はC1〜6アルキルであり;Lは、ポリエチレングリコールブロックとポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックとをつなぐリンカーであり、oは、ポリエチレングリコールブロックの分子量が2,000〜20,000になるような数である)の基であり、他方は、R1の場合、ヒドロキシであるか、又はカルボキシルの保護基であり、R2の場合、水素であるか、又はアミノの保護基であり;
Xは、−NH−又は−C(O)−であり;
1は、カチオン性セグメントであるが、Xが−NH−の場合、単結合であってもよく;
1は、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメントであり;そして
mは、1〜5であり、nは、10〜200であり、p、q及びrは、独立して0又は1であるが、p、q及びrが同時に0であることはなく、またq及びrが同時に1であることもない〕で表されるものが挙げられる。
【0038】
本発明の式(I)で表されるポリマーにおいて、[]内に記載された構造式は、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックを構成する繰り返し単位を意味する。一般に酸性アミノ酸は分子内に2個のカルボン酸と1個の1級アミンを有し、塩基性アミノ酸は分子内に2個の1級アミンと1個のカルボン酸を有するため、その繰り返し単位は、単一の構造式からなるホモポリマーである場合(すなわち、p、q及びrのいずれか一つが1であり、残りの二つが0である場合)と、ペプチド結合とイソペプチド結合が混在する不規則性コポリマーである場合(すなわち、pが1であり、q及びrの一方が0で、他方が1である場合)とがある。前者の例としては、ポリ−α−アスパラギン酸ブロック又はポリ−α−リシンブロック(p=1、q及びr=0)、ポリ−β−アスパラギン酸ブロック又はポリ−γ−グルタミン酸ブロック(q=1、p及びr=0)、あるいはポリ−ε−リシンブロック(r=1、p及びq=0)などが挙げられ、後者の例としては、ポリ−α,β−アスパラギン酸ブロック(p及びq=1、r=0)などが挙げられる。
【0039】
なお、本明細書において、他に断りの無い限り、「C1〜6アルキル」とは、炭素数1〜6の直鎖状のアルキル(メチル、エチル、n−プロピル、n−ヘキシル等)、あるいは炭素数3〜6の分岐鎖状のアルキル(i−プロピル、i−ブチル、t−ブチル等)又は環状のアルキル(シクロプロピル、シクロヘキシル等)を意味する。
【0040】
また本明細書における「カルボキシルの保護基」及び「アミノの保護基」は、公知技術、例えばGreene’s Protective Groups in Organic Synthesis, 4th edition, 2007 by John Wiley & Sons, Inc.に「カルボキシルの保護基」及び「アミノの保護基」として記載されたもの中から、当業者であれば適宜選択することができる。例えば、前者の代表的な例としては、メチル、エチル、t−ブチル、ベンジルなどが挙げられ、後者の代表的な例としては、アセチル、t−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニルなどが挙げられる。
【0041】
本発明のチャージコンバージョンポリマーは、先ず、ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーを調製し、次いで、そのポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を導入し、続いて酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)を導入することにより合成することができる。
【0042】
ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーの調製は、公知の方法により行うことができる。例えば、市販のPEG化試薬と市販のポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)の末端官能基(N末端又はC末端)を適宜反応させることにより、調製してもよい。したがって、式(I)及び(Ia)のポリマーにおいて、R1及びR2の一方が、下記式:
【0043】
【化8】

【0044】
(式中、R、L、及びoは、上記のとおりである)の基であるとは、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)のN末端又はC末端のいずれか一方がPEG化されていることを意味し、リンカーLは、PEG化されるポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)の末端官能基(N末端又はC末端)に応じて適宜選択されるPEG化試薬の反応性基に由来するものであればよい。そのようなPEG化試薬は、例えば、日油株式会社からSUNBRIGHT(登録商標)の名称で市販されている。具体的にリンカーLとしては、以下のようなものが挙げられる。
【0045】
【化9】

【0046】
(式中、sは、1〜10である)。エチレングリコール単位の数を表す「o」は、ポリエチレングリコールブロックの分子量が2,000〜20,000になるような数であるが、より好ましくは5,000〜20,000になるような数であり、特に好ましくは、12,000〜20,000になるような数である。また、Rは、水素又はC1〜6アルキルであるが、より好ましくは水素又はメチルである。
【0047】
また、ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーの調製は、PEG化試薬を開始剤として、アミノ酸N−カルボン酸無水物を用いたアミノ酸ホモポリマーの重縮合により行ってもよい。例えば、下記式(1):
【0048】
【化10】

【0049】
のブロックコポリマー(以下、「mPEG−b−PBLA」と称する)は、PEG化試薬であるα−メトキシ−ω−アミノ−ポリ(エチレングリコール)(以下、「mPEG−NH2」と称する)と、β−ベンジル−N−カルボキシ−L−アスパラギン酸無水物(以下、「BLA−NCA」と称する)を用い、公知の方法、例えば特開平8−310970号公報に記載の方法に従い調製することができる。
【0050】
次いで、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、カチオン性セグメント(S1)を導入し、カチオン性ポリマーを調製する。側鎖カルボン酸又は1級アミンが保護されている場合は、カチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬との反応前に、公知の方法に従い脱保護してもよい。例えば、式(1)のように、ポリ(酸性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸がベンジルエステルとして保護されている場合は、カチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬との反応前に、公知のアルカリ加水分解反応に付して脱保護してもよいが(例えば、特開平8−310970号参照)、かかる試薬の塩基性度によっては脱保護工程に付す必要はなく、カルボン酸エステルと直接反応させてもよい。
【0051】
カチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬としては、2個以上の1級、2級、3級アミノ基、及び/又は4級アンモニウム基と、側鎖カルボン酸又は1級アミンと反応する官能基を含む脂肪族化合物であればよい。例えば、ポリ(酸性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸にカチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬として、好ましくは、H2N−(C2〜20アルキレン)−NH2(ここで、前記アルキレン部分は、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、1個以上の−NH−若しくは−N(C1〜6アルキル)−で中断されていてもよい)、特には、H(HN−CH2CH2−NH2(ここで、tは、1〜5である)が挙げられる。具体的には、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DET)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンを挙げることができる。
【0052】
例えば、式(1)のポリエチレングリコール−ポリ(アスパラギン酸)ブロックコポリマーの側鎖カルボン酸又はそのエステルとカチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬との反応は、公知の方法、例えば特許文献3に記載の方法に従い実施することができる。反応は、過剰量の、例えば、側鎖カルボン酸又はそのエステルに対して10〜200当量のカチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬を使用し、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒中で実施することができる。
【0053】
上記反応は、−20〜150℃、好ましくは−10〜40℃、より好ましくは0〜20℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは5分〜20時間、より好ましくは10分〜16時間反応することによって行うことができる。反応は、例えば希酢酸(例えば、10%酢酸)を反応系に滴下することにより、停止させることができる。
【0054】
なお、本反応では、エステル基のアルカリ加水分解反応で、あるいはカチオン性セグメント(S1)を導入するための試薬との反応により、ポリアスパラギン酸の一部がβ−アミド化することが知られている(例えば、特開平8−310970号参照)。したがって、上記式(1)のmPEG−b−PBLAと、DETとの反応により得られるカチオン性ポリマー(以下、「mPEG−pAsp(DET)」と称する)は、下記式(2a):
【0055】
【化11】

【0056】
で表されるように、α−位のアミノ基とα−位のカルボキシ基との反応により得られる一般的なペプチド構造単位に加えて、α−位のアミノ基とβ−位のカルボキシ基との反応により得られるイソペプチド様構造単位を不規則に含むものとなる。
【0057】
続いて、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)を、カチオン性ポリマーの側鎖末端に導入し、本発明のチャージコンバージョンポリマーを得る。なお上述のように、ポリ(塩基性アミノ酸)ブロックの場合、その側鎖1級アミンによりそれ自体がカチオン性ポリマーの性質を有するため、上述のカチオン性セグメント(S1)を導入する工程を経ずに、直接、アニオン性セグメント(T1)を導入し、本発明のチャージコンバージョンポリマーを得てもよい。アニオン性セグメント(T1)を導入するための試薬としては、脂肪族不飽和ジ−又はトリカルボン酸であればよく、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、cis−若しくはtrans−アコニット酸、又はそれらの無水物など、特には、マレイン酸、シトラコン酸、cis−アコニット酸又はそれらの無水物を挙げることができる。
【0058】
具体的に、そのようなポリマーとして、下記式(Ia):
【0059】
【化12】

【0060】
(式中、R1、R2、X、S1、m、n、p、q及びrは、上記のとおりであり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表されるものが挙げられる。
【0061】
カチオン性ポリマーと、脂肪族不飽和ジ−又はトリカルボン酸の無水物又はその他の活性エステル体との反応は、ピリジンや炭酸水素ナトリウム溶液などの塩基性溶媒中で実施することができる。反応は、過剰量の、例えば、カチオン性ポリマーの1級アミノ基に対して20〜200当量のアニオン性セグメント(T1)を導入するための試薬を使用し、−20〜150℃、好ましくは−10〜40℃、より好ましくは0〜20℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは5分〜20時間、より好ましくは10分〜16時間反応することによって行うことができる。
【0062】
例えば、式(Ib):
【0063】
【化13】

【0064】
(式中、R、n及びoは、上記のとおりであり;S1は、カチオン性セグメントであり;R2は、水素又はアミノ保護基であり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表されるポリマーの具体的態様として、上記式(2a)のmPEG−pAsp(DET)と、cis−アコニット酸無水物との反応により、下記式(3a):
【0065】
【化14】

【0066】
で表されるチャージコンバージョンポリマー(以下、「mPEG−pAsp(DET−Aco)」と称する)が得られる。
【0067】
2.チャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子
本発明のチャージコンバージョンポリマーは、少なくとも1種の生物活性物質、リン酸イオン、及びカルシウムイオンと水溶液中で混合することにより、静電的相互作用による自己組織化により、水中に分散するナノサイズのハイブリッド粒子を調製することができる(図1参照)。すなわち、少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物は、
(i)カルシウムイオンを含む水性溶液を調製する工程、
(ii)生物活性物質、リン酸イオン、及び本発明のチャージコンバージョンポリマー(以下、「CCP」と略す)を含む水性溶液を調製する工程、及び
(iii)溶液(i)を溶液(ii)に一定速度で加える工程
を含む方法により調製することができる。
【0068】
工程(i)のカルシウムイオンを含む水性溶液の調製は、市販の塩化カルシウム(CaCl2)又はその水溶液を、水、あるいはTris/HCl、HEPES又はBESなどの緩衝液により、適宜、所望の濃度(例えば、約0.01〜0.5M)及びpH(例えば、約7.5〜10)となるよう希釈すればよく、特に限定はない。
【0069】
工程(ii)の生物活性物質、リン酸イオン、及びCCPを含む水性溶液の調製は、所望の濃度の生物活性物質、CCP、及びリン酸一水素二ナトリウム(Na2HPO4)、リン酸ナトリウム(Na3PO4)などのリン酸イオン(PO43-)の供給源を、水、あるいはTris/HCl、HEPES又はBESなどの緩衝液により、適宜、所望の濃度及びpH(例えば、約7.5〜10)となるよう希釈すればよく、特に限定はない。工程(ii)の水性溶液中、生物活性物質、CCP、及びPO43-の所望の濃度は、工程(i)の水性溶液中のカルシウムイオン(Ca2-)の濃度に応じて、適宜調製すればよいが、生物活性物質の濃度としては約0.1〜20μM、CCPの濃度としては約10〜3000μg/mL、及びPO43-の濃度としては約0.01〜5mMを挙げることができる。
【0070】
カルシウムイオンとリン酸イオンの含有割合は、両者が反応してリン酸カルシウム〔Ca3(PO42、但し、本明細書における「リン酸カルシウム」は、ヒドロキシアパタイトCa10(OH)2(PO46を含んでいてもよい〕を生成するのに必要な当量より、カルシウムイオンが過剰量で存在することが好ましい。具体的には、Ca2-対PO43-は、モル濃度で、1〜1000対1、好ましくは50〜500対1、より好ましくは200〜400対1であることが好ましい。このような割合でカルシウムイオンとリン酸イオンが存在すると、これらとCCPとが都合よく相互作用しうる。
【0071】
また、CCPの含有割合は、特に限定されるものでないが、具体的には、Ca2-(1mol)に対し、CCP0.1〜10g、好ましくは0.5〜5gであることが好ましい。生物活性物質の含有割合もまた、特に限定されるものでないが、具体的には、Ca2-(1mol)に対し、生物活性物質0.1〜1000μmol、好ましくは1〜300μmolであることが好ましい。しかし、上述の濃度及び割合を超える範囲で各成分を用いても、本発明の目的に沿う水性分散組成物を提供できる。
【0072】
本発明の水性分散組成物は、溶液(i)を溶液(ii)に一定速度で加えることにより調製することができる。このような簡便な方法により、水性溶液中で静電的相互作用による自己組織化が起こり、平均粒径が1〜1000nm、好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmの範囲にある、少なくとも1種の生物活性物質、リン酸イオン、カルシウムイオン、及び請求項1〜8のいずれかに記載のポリマーから構成されるハイブリッド粒子を含む水性分散組成物が得られる。なお、ここでいう平均粒径とは、動的光散乱法により得られる流体力学直径を意味する。
【0073】
本発明により得られるハイブリッド粒子は、少なくとも1種の生物活性物質を担持する。ここで、生物活性物質としては、好ましくは、DNA、RNAなどの核酸(医薬);タンパク質;抗がん剤、造影剤などの低分子化合物が挙げられる。本発明のチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子は、特にsiRNAのような重合度の低いオリゴヌクレオチドを担持するのに好適である。
【0074】
本発明の水性分散組成は、in vivo又はin vitroで被験対象に投与することにより、細胞に効率よく取り込まれる。そのようにして取り込まれたハイブリッド粒子は、通常、カルシウムイオン濃度の低い細胞内で徐々に崩壊すると共に、チャージコンバージョンポリマーがエンドソーム内の弱酸性環境において、カチオン性ポリマーとなることにより(すなわち、チャージコンバージョンにより)エンドソームから細胞質への速やかに脱出し、細胞質で放出された生物活性物質が核内へ移行することにより、所望のトランスフェクションが達成される。したがって、本発明の水性分散組成物は、遺伝子研究用の組成物として、あるいは治療用の医薬組成物として有用である。この際、本発明の水性分散組成物は、例えば、凍結乾燥法により乾燥形態にすることもできる。このような乾燥形態の組成物は水性媒体で、再度、安定な水分散体に構成することもできる。また、乾燥形態のまま、必要により他の結合剤等を用いて、他の形態の製剤に調製してもよい。
【実施例】
【0075】
以下で使用いたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)及びcis−アコニット酸無水物はSigma社から;β−ベンジル−N−カルボキシ−L−アスパラギン酸無水物(BLA−NCA)は日油株式会社から;エチレンジアミン(1,2−ジアミノメタン)及びジエチレントリアミン(ビス(2−アミノエチル)アミン)は東京化成工業株式会社;そして酢酸及び塩酸は和光純薬工業株式会社から購入した。
【0076】
[合成例1]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ(2−[(2−アミノエチル)アミノ]エチルアスパルトアミド):mPEG−pAsp(DET)(2a)の合成
【0077】
【化15】

【0078】
特開平8−310970号公報に開示された方法に従い、α−メトキシ−ω−アミノ−ポリ(エチレングリコール)(mPEG−NH2、MW:12,000)を開始剤として、β−ベンジル−N−カルボキシ−L−アスパラギン酸無水物(BLA−NCA)を開環重合させ、上記式(1)で表されるポリ(エチレングリコール)−b−ポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)(mPEG−b−PBLA)を得た。mPEG−b−PBLA中の「PBLA」単位の重合度は、1H−NMR測定によると96であった。
次いで、ChemMedChem 1 (2006) 439-444に記載の方法に従い、mPEG−b−PBLAをNMPに氷浴中で溶解し、同容量のNMPで希釈したジエチレントリアミン(DET、PBLAセグメントのベンジル基に対して100当量)を加え、0℃(氷浴)で4時間撹拌しながら反応させた。反応を、冷10%酢酸を少しずつ加えて停止させた(溶液の容量の2倍)。中和溶液を0.01M塩酸溶液(×3)及び蒸留水(×3)に対して4℃で透析した。凍結乾燥後、透析した溶液から白色粉末を得た。得られたmPEG−pAsp(DET)は、単峰型分子量分布かつPBLAからpAsp(DET)へほぼ100%変換したことが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及び1H−NMR測定によりそれぞれ確認された。
【0079】
[合成例2]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ[(2−アミノエチル)アスパルトアミド]:mPEG−pAsp(EDA)(2b)の合成
【0080】
【化16】

【0081】
ChemMedChem 1 (2006) 439-444に記載の方法に従い、合成例1で得られたmPEG−b−PBLAをNMPに氷浴中で溶解し、同容量のNMPで希釈したエチレンジアミン(EDA、PBLAセグメントのベンジル基に対して50当量)を加え、0℃(氷浴)で2時間撹拌しながら反応させた。反応を、冷10%酢酸を少しずつ加えて停止させた(溶液の容量の2倍)。中和溶液を0.01M塩酸溶液(×3)及び蒸留水(×3)に対して4℃で透析した。凍結乾燥後、透析した溶液から白色粉末を得た。得られたmPEG−pAsp(EDA)は、単峰型分子量分布かつPBLAからpAsp(EDA)へほぼ100%変換したことが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及び1H−NMR測定によりそれぞれ確認された。
【0082】
[実施例1]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ(2−[([N’−cis−アコニチル]−2−アミノエチル)アミノエチル]アスパルトアミド):mPEG−pAsp(DET−Aco)(3a)の合成:
【0083】
【化17】


(式中、a〜iは、図2の1H−NMRスペクトル中に付された符号に対応する。)
【0084】
mPEG−pAsp(DET)(1級アミノの0.538mmol)をピリジン(2ml)に溶解した。cis−アコニット酸無水物(Aco:2.692mmol)を溶液にゆっくり加え、0℃で2時間撹拌した。反応混合物をアミコンウルトラ(MWCO=10,000;ミリポア社製)(0.5M NaHCO3(pH9.1)で×3、蒸留水で×3)で精製した。凍結乾燥後、最終生成物を白色粉末として得た。1H−NMRから計算した変換収率は、99%超であった。1H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0085】
[実施例2]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ[([N’−cis−アコニチル]−2−アミノエチル)アスパルトアミド]:mPEG−pAsp(EDA−Aco)(3b)の合成:
【0086】
【化18】


(式中、a〜gは、図3の1H−NMRスペクトル中に付された符号に対応する。)
【0087】
mPEG−pAsp(EDA)(1級アミノの0.11mmol)を0.5M NaHCO3(pH9.1)(50ml)に溶解した。cis−アコニット酸無水物(Aco:5.5mmol)を溶液にゆっくり加え、0℃で2時間撹拌した。反応混合物をアミコンウルトラ(MWCO=10,000;ミリポア社製)(冷蒸留水で×3)で精製した。凍結乾燥後、最終生成物を白色粉末として得た。1H−NMRから計算した変換収率は、99%超であった。1H−NMRスペクトルを図3に示す。
【0088】
[比較例1]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ(2−[([N’−カルバリリル]−2−アミノエチル)アミノエチル]アスパルトアミド):mPEG−pAsp(DET−Car)(3c)の合成:
【0089】
【化19】


(式中、a〜jは、図4の1H−NMRスペクトル中に付された符号に対応する。)
【0090】
mPEG−pAsp(DET)(1級アミノの0.538mmol)を0.5M NaHCO3(pH9.1)(50ml)に溶解した。カルバリル酸無水物(Car:2.7mmol)を溶液にゆっくり加え、0℃で2時間撹拌した。反応混合物をアミコンウルトラ(MWCO=10,000;ミリポア社製)(冷蒸留水で×3)で精製した。凍結乾燥後、最終生成物を白色粉末として得た。1H−NMRから計算した変換収率は、99%超であった。
1H−NMRスペクトルを図4に示す。
【0091】
[比較例2]
ポリ(エチレングリコール)−ポリ[アスパラギン酸]:mPEG−PAAの合成
【0092】
【化20】

【0093】
合成例1で得られたmPEG−b−PBLA(0.06mmol)をアセトニトリル(1.5ml)に溶解した。0.5N 水酸化ナトリウム(PBLAセグメントのベンジル基に対して50当量)を加え、室温で1時間撹拌しながら反応させた。溶液を蒸留水(×3)に対して透析した。透析した溶液の凍結乾燥後、白色粉末を得た。得られたmPEG−PAAは、単峰型の分子量分布かつPBLAからPAAへ99%超で変換したことが、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)及び1H−NMR測定によりそれぞれ確認された。
【0094】
[実施例3〜6/比較例3〜6]
siRNA担持リン酸カルシウム(CaP)ナノ粒子の調製(PEG−CCP/リン酸カルシウム粒子の調製とsiRNAの封入)
2.5M CaCl溶液1μLを10mM Tris/HClバッファー(pH7.5)11.5μLで希釈した(第1溶液、12.5μL)。10mM Tris/HClバッファー(pH7.7)で希釈した、実施例1又は2で得られたチャージコンバージョンポリマー(CCP)あるいは比較例1又は2で得られたアニオンブロックコポリマー(1000μg/mL〜1680μg/mL)を含む溶液を、15μM siRNA溶液(10mM Hepesバッファー(pH7.2)中)および、1.5mM NaPOおよび140mM NaClを含む50mM Hepesバッファー(pH7.5)と混合した(第2溶液、12.5μL〜13μL)。第1溶液を一定速度で約20秒かけてピペットで第2溶液と混合し、siRNA担持CaPナノ粒子の溶液を調製した。第1溶液及び第2溶液において、各々の使用したブロックコポリマー及びsiRNAの種類と具体的な使用量を下記の表1に示す。
【0095】
siRNAは以下の配列のGL3ルシフェラーゼまたはヒトVEGFに対するsiRNAを用いた。核酸については全て北海道システムサイエンス社製(HPLC精製グレード)に委託合成して入手した。
【0096】
siGL3(またはsiLucと表記)の配列(GL3に対するsiRNAを意味する)
GL3センス鎖(配列番号1):5’-CUUACGCUGAGUACUUCGATT-3’
GL3アンチセンス鎖(配列番号2):5’-UCGAAGUACUCAGCGUAAGTT-3’
【0097】
siVEGFの配列(VEGFに対するsiRNAを意味する)
ヒトVEGFセンス鎖(配列番号3):5’-GGAGUACCCUGAUGAGAUCTT-3’
ヒトVEGFアンチセンス鎖(配列番号4):5’-GAUCUCAUCAGGGUACUCCTT-3’
【0098】
【表1】

【0099】
[試験例1]
siRNA担持CaPナノ粒子の動的光散乱(DLS)による粒径測定
上記実施例3、4及び比較例3、4で得られたsiLuc担持CaPナノ粒子の流体力学直径および多分散指数(PdI)の決定のために、動的光散乱(DLS)測定を25℃でZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments, UK)を用いて、173°の検出角度で行った。He-Neイオンレーザー(633nm)を入射ビームとして使用した。得られた散乱光の光子相関関数の減衰速度に対するキュムラント解析により、ミセルの拡散係数および多分散指数(μ22)を得た。さらに、ナノ粒子を球体と仮定してストークス・アインシュタインの式を用いることにより、得られた拡散係数を流体力学直径へと変換した。一方、得られたデータのヒストグラム解析を行うことで、粒子径の散乱光強度分布を得た。
【0100】
〔結果〕
図5(A)〜(D)に示す通り、実施例3、4及び比較例3、4で得られた、4種類のポリアニオンブロックコポリマーを用いて調製したsiLuc担持CaPナノ粒子は、全て単峰性のピークを示した。平均粒子径は多少ブロックコポリマーの種類によって異なったが、チャージコンバージョンポリマーを用いた場合は約60nmとなることが確認された。また、多分散指数においては約0.1となり、非常に均一であることも確認された(図5(A)及び(B))。
【0101】
[試験例2]
siRNA担持CaPナノ粒子の調製におけるポリマー濃度の影響
上記実施例3、4及び比較例3におけるsiLuc担持CaPナノ粒子の調製を、ポリマー濃度を600μg/mL〜3000μg/mLと変化させた以外は同様に行い、得られたナノ粒子を試験例1と同様に測定し、ポリマー濃度がナノ粒子の流体力学直径および多分散指数(PdI)に与える影響を調べた。
【0102】
〔結果〕
図6(A)及び(B)に示すとおり、低濃度でポリマーを添加した場合はマイクロメートルオーダーの粒子径かつ多分散指数の大きい不均一な粒子形成が見られた。一方、ポリマー濃度800μg/mL以上ではそれぞれのブロックコポリマーに対してナノメートルオーダーの粒子径かつ多分散指数の小さい均一な粒子形成が確認された。
【0103】
[試験例3]
siRNA担持CaPナノ粒子におけるsiRNA封入率の算出
上記実施例3、4及び比較例3におけるsiLuc担持CaPナノ粒子の調製を、ポリマー濃度を600μg/mL〜3000μg/mLと変化させた以外は同様に行い、得られたsiLuc担持CaPナノ粒子溶液を15,000xg、30分間遠心し、ナノ粒子を沈殿させた。上清を注意深く取り、上清の260nmの吸収を分光光度計で測定することにより上清中のsiLucの濃度を決定した。ナノ粒子に取り込まれたsiLucのパーセンテージを、ナノ粒子の調製時に添加したsiRNAの濃度、すなわち遠心前の濃度と遠心後の上清中のsiRNAの濃度の比から算出した。
【0104】
〔結果〕
図7に示すとおり、ポリマー濃度が600〜1500μg/mLの範囲では、使用したsiLucのうち約80%がナノ粒子と複合体を形成した。一方、高濃度のポリマーを添加した範囲(3000μg/mL)では、siLucの封入率が少し低下し、約70%となった。
【0105】
[試験例4]
細胞毒性試験
細胞毒性試験のために、PanC−1(すい臓がん細胞、ATCC Number:CRL−1469)を96ウェルプレートに5×10細胞/ウェルで播き、10%FCS含有DMEM培地中で2日間培養した。その後、最終濃度が10nM〜1500nM となるように、実施例5、6及び比較例5で得られたsiVEGF含有PEG−CCP/CaPナノ粒子の溶液10μLを10%FCS含有DMEM培地90μLと共に加え、48時間後の生細胞数をCell Counting Kit-8(Dojindo, Kumamoto, Japan)を用いることで計数した。キット溶液を10μL/ウェルとなるように添加し、37℃で2時間静置後、各ウェルをマイクロプレートリーダー(BioRad Model 680, Bio-Rad Laboratories, United Kingdom)で450nmの吸収を読み取ることによって測定した。結果を、培養培地のみで培養したコントロール細胞の生細胞数を100としてパーセンテージ(%)で表した。
【0106】
〔結果〕
図8に示すとおり、1500nM siVEGFを用いてもナノ粒子は細胞に毒性を示さなかった。
【0107】
[試験例5]
蛍光ラベルsiRNA担持CaPナノ粒子を用いた細胞内動態観察
PanC−1細胞を5x10細胞/ディシュで35−mmガラスベースディシュ(Iwaki, Japan)に播いた。10%FCS含有DMEM培地1mL/ディシュ中で24時間培養後、培地を交換し、Cy5−ラベルsiGL3担持ナノ粒子溶液120μLを培地1mLに加えた(100nM siGL3)。ナノ粒子添加後3および24時間に、細胞をPBSで3回すすぎ、培地を加え、共焦点画像の取り込みをおこなった。画像取り込み前に、核をHoechst 33342(Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)で10分間染色し、エンドソーム/リソソームをLysoTracker Green(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)で30分間染色した。
【0108】
共焦点画像の取り込みは、液浸プランアポクロマート63x対物レンズ(開口数1.2、Zeiss)を備えたZeiss LSM 510 METAレーザー走査顕微鏡(Carl Zeiss, Jena, Germany)を用いた。LysoTracker、Cy5およびHoechst33342のための励起波長は、それぞれ488nm(アルゴンレーザー)、633nm(He−Neレーザー)および710nm(Mai Taiレーザー、2光子モードで操作される)である。
【0109】
Cy5ラベル化siGL3は、北海道システムサイエンスへの委託合成により得た。なお、各Cy5−ラベルsiGL3担持ナノ粒子溶液の調製は、実施例3、4及び比較例3、4において、siLucに代えてCy5−ラベルsiGL3を用いた以外は同様に行った。
【0110】
〔結果〕
図9に、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(DET−Aco)/CaPナノ粒子を用いた例;図10に、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(EDA−Aco)/CaPナノ粒子を用いた例;図11に、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−pAsp(DET−Car)/CaPナノ粒子を用いた例;そして図12に、Cy5−ラベルsiGL3担持mPEG−PAA/CaPナノ粒子を用いた例を示す。また各(A)は3時間後、各(B)は24時間後の共焦点画像を示す。
【0111】
図9(A)及び(B)に示すとおり、3および24時間ともに、緑で示すエンドソーム内に、Cy5−siGL3の赤が無い、すなわち両者のマージの結果観察される黄色で示される領域が見られないことから、3時間でエンドソームからCy5−siGL3が脱出していることがわかる。
【0112】
図10(A)に示すとおり、緑で示すエンドソーム内に、赤で示すCy5−siGL3の存在を示す黄色がほとんど存在しないことから、3時間で大部分のCy5−siGL3がエンドソームから脱出したことがわかる。また図10(B)から、24時間後にも同様に、Cy5−siGL3を示す赤とエンドソームを示す緑が見て取れることからCy5−siGL3がエンドソームから脱出していることがわかる。
【0113】
図11(A)に示すとおり、エンドソーム内に、Cy5−siGL3が存在することを示す黄色が見て取れることから、3時間ではまだCy5−siGL3がエンドソームから脱出していないことがわかる。また図11(B)から、24時間後には、Cy5−siGL3を示す赤とエンドソームを示す緑が見て取れることからCy5−siGL3がエンドソームから脱出していることがわかる。
【0114】
図12(A)に示すとおり、エンドソーム内に、Cy5−siGL3が存在することを示す黄色が見て取れることから、3時間ではまだCy5−siGL3がエンドソームから脱出していないことがわかる。また図12(B)から、24時間後でも、黄色が一部認められることからCy5−siGL3がエンドソームから完全には脱出していないことがわかる。
【0115】
[試験例6]
遺伝子ノックダウン(リアルタイムPCR)
PanC−1細胞を8x10細胞/ウェルで6ウェルプレートに播いた。10%FCS含有DMEM培地1mL/ウェル中で24時間培養後、培地を交換し、実施例3〜6及び比較例3〜6で得られたナノ粒子溶液120μLを培地1mLに加えた(60nM siRNA)。3時間細胞をナノ粒子に曝した後、新たな培地に交換した。24時間後、細胞をトリプシン処理で剥がし回収した(n=9)。
【0116】
細胞のRNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA, USA)を用い、製造者の指示に従って抽出した。cDNA合成(QuantiTect Reverse Transcription, Qiagen, Valencia, CA, USA)を実施する前に、抽出したRNA量を測定し、検体間でのRNA濃度を一定値に揃えた。リアルタイムRT−PCRをABI 7500 Fast Real-time RT-PCR System(Applied Biosystems, Foster City, CA)とQuantiTect SYBR Green PCR Master Mix(Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて実施した。N=9で実施した。アクチン遺伝子をハウスキーパーとして使用し、データを統計解析前に正規化した。
【0117】
統計処理は、分散分析(ANOVA)を処理効果を検査するために行い、ソフトウェアGraphPad Prisma 3.0 (GraphPad Software, Inc.)を用いて、Bonferroni'sテストを各処理群間の事後対比較として使用した。統計的有意性をp<0.05に対して*および**で表した。結果を平均値(± SEM)として表した。
【0118】
ゲノムDNA除去の後、14μLのRNA溶液を1μLのQuantiscript Reverse Transcriptase、4μLのQuantiscript RT Buffer、1μLのRT Primer Mixと混合し、合計20μL(RNA濃度83.3ng/mL)にした。その後、42℃で30分インキュベーションしてから95℃で3分インキュベーションした。
【0119】
cDNA合成の後、リアルタイムPCRをQIAGEN QuantiTect SYBR Green PCRキットを用いて行った。詳細には、12.5μLの2×QuantiTect SYBR Green PCR Master Mix、1μLのフォワードプライマー(10μM)、1μLのリバースプライマー(10μM)、8.5μLのRNaseフリー水を添加した96穴プレートに対して、2μLのcDNA溶液を添加し、合計25μLとして以下のPCRサイクルを行った。50℃で2分、95℃で15分の活性化プロセスを1回行い、続いて94℃で15秒、60℃で30秒、72℃で38秒のサイクルを40回行い、最後に95℃で15秒、60℃で1分、95℃で15秒という解離プロセスを1回行った。
【0120】
ヒトVEGFフォワード(配列番号5):5’-AGTGGTCCCAGGCTGCAC-3’、
ヒトVEGFリバース(配列番号6):5’-TCCATGAACTTCACCACTTCGT-3’
【0121】
ヒトアクチンフォワード(配列番号7):5’-CCAACCGCGAGAAGATGA-3’、
ヒトアクチンリバース(配列番号8):5’-CCAGAGGCGTACAGGGATAG-3’
【0122】
〔結果〕
図13に結果を示す。
PEG−pAsp(DET−Aco)−siLucは、実施例3で調製した、siLuc担持mPEG−pAsp(DET−Aco)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現は抑制されなかった。一方PEG−pAsp(DET−Aco)−siVEGFは、実施例5で調製した、siVEGF担持mPEG−pAsp(DET−Aco)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現が20%以下まで抑制された。
【0123】
PEG−pAsp(DET−Car)−siLucは、比較例3で調製した、siLuc担持mPEG−pAsp(DET−Car)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現は抑制されなかった。一方PEG−pAsp(DET−Car)−siVEGFは、比較例5で調製した、siVEGF担持mPEG−pAsp(DET−Car)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現が約50%まで抑制された。
【0124】
PEG−pAsp(EDA−Aco)−siLucは、実施例4で調製した、siLuc担持mPEG−pAsp(EDA−Aco)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現は抑制されなかった。一方PEG−pAsp(EDA−Aco)−siVEGFは、実施例6で調製した、siVEGF担持mPEG−pAsp(EDA−Aco)/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現が30%以下まで抑制された。
【0125】
PEG−pAAsiLucは、比較例4で調製した、siLuc担持mPEG−PAA/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現は抑制されなかった。一方PEG−PAAsiVEGFは、比較例6で調製した、siVEGF担持mPEG−PAA/CaPナノ粒子をトランスフェクションした細胞のVEGFのmRNAを測定した。VEGFの発現が約50%まで抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上のように、本発明の少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物は、遺伝子研究用の組成物として、あるいは治療用の医薬組成物として、その有用性が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール−ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックコポリマーであって、ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックの側鎖カルボン酸又は1級アミンに、場合によりカチオン性セグメント(S1)を介して、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメント(T1)が結合していることを特徴とする、チャージコンバージョンポリマー。
【請求項2】
ポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックが、ポリリシン、ポリオルニチン、ポリアスパラギン酸又はポリグルタミン酸から選択されるブロックである、請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
式(I):
【化21】


〔式中、
1及びR2の一方は、下記式:
【化22】


(式中、Rは、水素又はC1〜6アルキルであり;Lは、ポリエチレングリコールブロックとポリ(酸性又は塩基性アミノ酸)ブロックとをつなぐリンカーであり、oは、ポリエチレングリコールブロックの分子量が2,000〜20,000になるような数である)の基であり、他方は、R1の場合、ヒドロキシであるか、又はカルボキシルの保護基であり、R2の場合、水素であるか、又はアミノの保護基であり;
Xは、−NH−又は−C(O)−であり;
1は、カチオン性セグメントであるが、Xが−NH−の場合、単結合であってもよく;
1は、酸性条件下で脱離するアニオン性セグメントであり;そして
mは、1〜5であり、nは、10〜200であり、p、q及びrは、独立して0又は1であるが、p、q及びrが同時に0であることはなく、またq及びrが同時に1であることもない〕で表される請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
Lが、下記式:
【化23】


(式中、sは、1〜10である)の2価基から選択される、請求項3に記載のポリマー。
【請求項5】
1が、脂肪族不飽和ジ−又はトリカルボン酸から誘導されるモノアシル基である、請求項3に記載のポリマー。
【請求項6】
式(Ia):
【化24】


(式中、R1、R2、X、S1、m、n、p、q及びrは、請求項3に記載のとおりであり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表される、請求項5に記載のポリマー。
【請求項7】
Xが−C(O)−であり;rが0である、請求項3〜6のいずれかに記載のポリマー。
【請求項8】
式(Ib):
【化25】


(式中、R、n及びoは、請求項3に記載のとおりであり;S1は、カチオン性セグメントであり;R2は、水素又はアミノ保護基であり;R′は、水素、C1〜6アルキル又は−CH2COOHである)で表される、請求項7に記載のポリマー。
【請求項9】
1が、−NH−(C2〜20アルキレン)−NH−(ここで、前記アルキレン部分は、直鎖状又は分岐鎖状であってよく、1個以上の−NH−若しくは−N(C1〜6アルキル)−で中断されていてもよい)である、請求項7又は8に記載のポリマー。
【請求項10】
1が、−(NH−CH2CH2−NH−(ここで、tは、1〜5である)である、請求項9に記載のポリマー
【請求項11】
少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物の調製方法であって、
(i)カルシウムイオンを含む水性溶液を調製する工程、
(ii)生物活性物質、リン酸イオン、及び請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含む水性溶液を調製する工程、及び
(iii)溶液(i)を溶液(ii)に一定速度で加える工程
を含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られる、少なくとも1種の生物活性物質を担持するチャージコンバージョンポリマー含有リン酸カルシウム粒子を含む水性分散組成物。
【請求項13】
少なくとも1種の生物活性物質、リン酸イオン、カルシウムイオン、及び請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーから構成されるハイブリッド粒子を含む水性分散組成物。
【請求項14】
粒子の平均粒径が、10〜500nmの範囲である、請求項12又は13に記載の水性分散組成物。
【請求項15】
生物活性物質が、核酸である、請求項12〜14のいずれかに記載の水性分散組成物。
【請求項16】
in vitroで細胞内に生物活性物質を導入するための方法であって、
(i)請求項12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を標的細胞に添加する工程;
(ii)所与の条件で培養する工程
を含む方法。
【請求項17】
in vivoで細胞内に生物活性物質を導入するための方法であって、請求項12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を、被験対象(ヒトを除く)に投与する工程を含む方法。
【請求項18】
請求項12〜15のいずれかに記載の水性分散組成物を有効成分として含むことを特徴とする、遺伝子研究用又は治療用医薬組成物。

【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−231220(P2011−231220A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102880(P2010−102880)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】