説明

エンドトキシン分解装置、それを備える精製水製造システム、人工透析用精製水製造システム、及びエンドトキシンの分解方法

【課題】高いエンドトキシン分解性能を、長期に亘って維持することが可能なエンドトキシン分解装置、それを備える精製水製造システム、人工透析用精製水製造システム、及びエンドトキシンの分解方法を提供する。
【解決手段】被処理水から少なくとも懸濁物質を除去するプレフィルタと、被処理水から残留塩素を除去する残留塩素除去装置と、被処理水から硬度成分を除去する軟水化装置と、エンドトキシン分解装置Dと、被処理水から少なくとも微粒子を除去する逆浸透膜装置とを備える精製水製造システムであって、前記エンドトキシン分解装置Dは、被処理水を一方向に流動させる流動槽10と、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、185nmと254nmにそれぞれピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段30とを備え、前記平板状不織布の面と紫外線照射手段30の長手方向とは平行である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射下に、光触媒とエンドトキシンを含む水とを接触させて、光触媒反応によりエンドトキシンを分解除去するエンドトキシン分解装置、それを備える精製水製造システム、人工透析用精製水製造システム、及びエンドトキシンの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌の一種であるグラム陰性菌から派生する内毒素(エンドトキシン)が患者の体内に多量に混入すると、患者に血圧降下や発熱などをもたらし、場合によって死に至らしめる恐れもあることから、医療に用いられる水に含まれるエンドトキシンは厳しく管理されている。
【0003】
水中に含まれるエンドトキシンを低減する方法について、これまで様々な検討がされている。例えば、人工透析においては、透析終了後に次亜鉛素酸ナトリウム溶液等の洗浄液を透析液流路に流すことが試みられている。しかし、これは単に医療槽中内に残留するエンドトキシンを一時的に低減するものであり、水中のエンドトキシン濃度を常時低減するものではなく、真に安全な方法とは言えない。
【0004】
エンドトキシンを分解して精製水を得るその他の方法として、供給された原水を軟水化する軟水化装置と、前記原水中の塩素分を除去する活性炭装置と、逆浸透膜により原水を精製する逆浸透膜装置とを具備する精製水製造システムを用いることが挙げられる。しかしながら、水中の残留塩素を除去することにより、特に活性炭装置内で細菌が繁殖しやすくなり、水中のエンドトキシン濃度が上昇する。さらに、水中の細菌及びエンドトキシン濃度が上昇することにより、逆浸透膜表面に細菌を主体とするバイオフィルムが形成されるため、エンドトキシン濃度を低減しにくい、逆浸透膜の寿命が低下するなどの問題がある。
【0005】
このような問題を解決するものとして、例えば特許文献1に、供給された原水を軟水化する軟水化装置と、前記原水中の塩素分を除去する活性炭装置と、逆浸透膜により原水を精製する逆浸透膜装置とを具備する透析用の精製水製造システムにおいて、前記原水中のエンドトキシンを除去するエンドトキシン除去手段(エンドトキシン除去フィルタ)を、前記逆浸透膜装置よりも上流に具備し、かつ、前記活性炭装置を前記エンドトキシン除去手段よりも上流に配置し、更に、精製水の非生成時において前記エンドトキシン除去手段で処理された原水を該システム内の前記軟水化装置の再生洗浄用水として使用することを特徴とする透析用の精製水製造システムが開示されている。
【0006】
特許文献1の方法においては、エンドトキシン除去フィルタの後に活性炭装置を設置することにより、細菌やエンドトキシンをほぼ完全に除去した水を活性炭装置へと送り細菌繁殖、エンドトキシン濃度上昇を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−305119号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたエンドトキシンの濃度上昇を防ぐ方法は、長期間利用するとエンドトキシン除去フィルタに目詰まりが生じ、このためエンドトキシン除去性能を長期間維持できないという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、高いエンドトキシン分解性能を長期に亘って維持することが可能なエンドトキシン分解装置、それを備える精製水製造システム、人工透析用精製水製造システム、及びエンドトキシンの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布に平行となるように設置された紫外線照射手段から平板状不織布に180〜190nm間と250〜260nm間にピーク波長を有する紫外線を照射することにより、水中に存在するエンドトキシンを効率的に長期に亘って分解することができることを見出した。すなわち本発明は、被処理水を一方向に流動させる流動槽と、該流動槽内に設けられ、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、180〜190nmと250〜260nmにそれぞれピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段とを備え、前記平板状不織布の面と紫外線照射手段の長手方向とは平行であることを特徴とするエンドトキシン分解装置である。
【0011】
また、本発明は、被処理水から少なくとも懸濁物質を除去するプレフィルタと、被処理水から残留塩素を除去する残留塩素除去装置と、被処理水から硬度成分を除去する軟水化装置と、前記エンドトキシン分解装置と、被処理水から少なくとも微粒子を除去する逆浸透膜装置とを備えることを特徴とする精製水製造システムである。
【0012】
さらに、本発明は、被処理水を流動させながら、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布を通過させ、長手方向に延びる形状を有し、該長手方向と前記平板状不織布が平行となるように設置された紫外線照射手段から前記平板状不織布に180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射することを特徴とするエンドトキシン分解方法である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、高いエンドトキシン分解性能を、長期に亘って維持することが可能なエンドトキシン分解装置、それを備える精製水製造システム、人工透析用精製水製造システム、及びエンドトキシンの分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態に係る精製水製造システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】エンドトキシン分解装置の概念図である。
【図3】光触媒カートリッジの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る精製水製造システムの実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る精製水製造システムの構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態に係る精製水製造システムは、被処理水中の懸濁物質を除去するプレフィルタAと、被処理水中の残留塩素を除去する残留塩素除去装置Bと、被処理水中の硬度成分を除去する軟水化装置Cと、被処理水中のエンドトキシンを分解可能なエンドトキシン分解装置Dと、被処理水中の微粒子を除去する逆浸透膜装置Eとが、被処理水の流路に沿って順に配置されている。
【0016】
被処理水としては、エンドトキシンを含む水道水などが用いられる。水道水中のエンドトキシン濃度は、一般には数千から数万EU/mlである。本実施の形態に係る精製水製造システムにおいて、プレフィルタAは、凝集ろ過装置であり、被処理水中のゴミなどの懸濁物質を取り除くための装置である。残留塩素除去装置Bは、残留塩素を除去する活性炭を備えるろ過装置である。軟水化装置Cは、被処理水に含まれるカルシウムやミネラル等の硬度成分をイオン交換により除去するイオン交換装置である。逆浸透膜装置Eは、微粒子を除去するためのRO膜モジュールを備える装置である。
【0017】
本実施の形態に係る精製水製造システムは、例えば、人工透析に用いられる水を精製するための既知システムに適用することができる。
【0018】
本実施の形態に係る精製水製造システムにおいて、エンドトキシン分解装置Dは、図2に示すように、底面に形成された流入口12から上面に形成された流出口14に被処理水を流動させる流動槽10と、流動槽10内に収容され、被処理水の流動方向に対してその面が垂直に交わるように互いに平行に設置された3つの光触媒カートリッジ20と、これら光触媒カートリッジ20の間に、平板状不織布22の面と紫外線ランプ30の長手方向とが平行になるように配置された紫外線ランプ30とを備えている。
【0019】
紫外線ランプ30の外表面を構成するカバー部材は、円柱状に形成され、250〜260nmだけでなく、180〜190nmのピーク波長を透過する材質からなる。このカバー部材の材質としては、例えば、合成石英が挙げられる。一般的な低圧水銀ランプは、本来、185nmと254nmの2つの波長を有するが、通常のカバー部材の素材であるガラスが短波長の紫外線を透過しないため、254nmの波長のみを照射する。本実施の形態に係るエンドトキシン分解装置Dにおいて、紫外線ランプ30は、上述のようにカバー部材の素材を特殊なものとすることによって、180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する紫外線を照射可能に構成されている。紫外線照射ランプ30から照射される紫外線は、180〜190nm、好ましくは185nmにピーク波長を有し、かつ、250〜260nm、好ましくは254nmにピーク波長を有する。各紫外線ランプ30は、各光触媒カートリッジ20の間に2本ずつ、計4本配置されており、各光触媒カートリッジ20の間に配置することにより、光触媒カートリッジが備える平板状不織布22の両面に紫外線が照射可能となっている。紫外線ランプ30は、それぞれ平行に、かつその軸方向が光触媒カートリッジ20に平行となるように配置されている。なお、本実施の形態において、紫外線照射ランプ30のカバー部材は、円柱状に形成したが、それに限定されず、長手方向に延びる形状であればよい。紫外線照射ランプ30の数は、求められる水質や被処理水中に含まれるエンドトキシンの濃度等に応じて決定される。
【0020】
流動槽10内の溶存酸素濃度を高めるために、流動槽10内又は流入口12の前に溶存酸素濃度増大手段を設けてもよい。溶存酸素濃度増大手段とは、被処理水中に空気などを吹き込み気−液接触させ、水中の溶存酸素濃度を増大させる機構であり、例えばマイクロ(ナノ)バブル発生装置、及びエアレーション(気泡発生装置)が挙げられる。吹き込む気体は、一般に空気のバブルであるが、酸素のバブルを用いればより効果的である。
【0021】
各光触媒カートリッジ20は、図3に示すように平板状不織布22と一対の金網24とからなり、平板状不織布22が一対のステンレス製の金網24に挟持されている。このように金網24をサポート材として用いてカートリッジ状にすることにより、光触媒機能が劣化した平板状不織布22を容易に取り換えることができる。多段の光触媒カートリッジ20を枠体等を用いて連結構造とすることにより、脱着を容易にすることもできる。本実施の形態においては、平板状不織布22を3個としたが、求められる水質等に応じて、任意にその数を決定することができ、例えば1〜50個とすることができる。また、本実施の形態においては、光触媒カートリッジ20として平板状不織布22を流動槽10に固定したが、他の手段により設置してもよい。また、本実施の形態において、各光触媒カートリッジ20は、その面が水の流動方向に垂直に交わるように設置したが、流動する水が効率良く平板状不織布22を通過すれば良く、例えば流動方向に対して10°前後、好ましくは5°前後、傾いて設置されても良い。
【0022】
平板状不織布22は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなる。
【0023】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されていてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0024】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0025】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0026】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよいが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0027】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。
【0028】
エンドトキシン分解装置において、平板状不織布上の平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。平板状不織布表面での紫外線強度が1〜10mW/cmであると、2つの紫外線成分による水処理を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線照射手段と平板状不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中央部から端部までの複数個所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0029】
次に、傾斜構造を有する光触媒繊維の製造方法について説明する。
(溶融紡糸法)
光触媒繊維は、主として一般式
【化1】

(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を得る第A工程、溶融紡糸する第B工程、不融化処理する第C工程、及び空気中又は酸素中で焼成する第D工程により製造することができる。
【0030】
第A工程は、シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。
【0031】
変性ポリカルボシランは、主として上記化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR’)nあるいは、MR”m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基又はフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0032】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、前記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で、不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0033】
なお、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0034】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物あるいは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0035】
第B工程においては、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。なお、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0036】
前記紡糸の他に、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により巻き取り速度を制御しながら紡糸してもよい。
【0037】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、あるいは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、又は有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0038】
第C工程においては、第B工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力又は無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。第C工程は、第D工程の焼成の際に、繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に限定されないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えてもよい。
【0039】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。なお、第C工程並びに第B工程の際に、原料中に含まれる低分子量物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0040】
第D工程においては、第C工程により不融化された繊維を、張力又は無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大する光触媒繊維を得る。第D工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障をきたさない場合はそのまま使用されるが、支障をきたす場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成及び結晶構造に問題が生じない温度、及び処理時間が選択される。
【0041】
なお、光触媒繊維を平板状不織布とするには、上記製法により得られた光触媒機能を有する光触媒繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより平板状不織布とするとすることができる。
【0042】
(メルトブロー法)
平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、第A工程で得られた前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することもできる。
【0043】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、第A工程で得られた前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0044】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0045】
得られた不織布は、上記溶融紡糸法の場合と同様の不融化処理及び焼成(第C工程及び第D工程)を行うことにより、光触媒繊維からなる不織布が得られる。メルトブロー法により製造される光触媒繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルター等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0046】
平板状不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みは0.5〜20mmであることが好ましい。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎてエンドトキシンの分解効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は平板状不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。平板状不織布の形状は特に制限はないが、平板状不織布を挿入する流動槽の形状に合わせて、丸型、角型などにすることができ、平板状不織布の表面積を大きくするために波板状にすることもできる。
【0047】
上記のような平板状不織布22の製造方法によれば、繊維同士のブリッジングが全く無く、一本一本の繊維表面にチタニアを始めとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維からなる平板状不織布22が得られる。また、この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないため、繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題がない。さらにこの繊維からなる平板状不織布22は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きくなる。一般に、光触媒の機能を十分に引き出すためには、光触媒への光の照射効率と処理流体との接触効率を高めることが必要である。
【0048】
次に、本実施の形態に係るエンドトキシン分解方法について説明する。
【0049】
まず、図2に示されるように、被処理水が流入口12から流動槽10に供給される。流し込まれた被処理水は、流動槽10内を通って流出口14から排出される。平板状不織布22は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、水が通過する際、光触媒との接触面積が非常に大きい。このため、光触媒機能を有する平板状不織布22によって効率的にラジカルが発生し、エンドトキシンを分解する。エンドトキシンの分解の原理は、次の通りである。光触媒繊維に含まれるチタニア(酸化チタン)は紫外線の照射によって励起され、価電子帯の電子が伝導帯へと移動する。このときチタニアの価電子帯には、正孔(ホール)が生成する。この正孔は、チタニア周囲の水から電子を奪うことにより強力な酸化力を持ったOHラジカルを代表とする活性酸素種が生成する。この活性酸素種が様々な有機物を酸化分解する。エンドトキシンは基本的にリポ多糖類であり、酸化分解される。光触媒繊維からなる平板状不織布22の表面及び裏面の両面に紫外線が照射されることにより、さらに効率的にラジカルを発生させることができる。また、185nmの紫外線が直接水に照射されることにより、不要な有機物が分解される。
【0050】
通常、チタニア光触媒を利用した装置においては、紫外線ランプは、波長351nmのブラックライト蛍光ランプ又は波長254nmの殺菌ランプが用いられる。チタニア光触媒は、387nm以下の波長であれば励起することができ、又これらのランプは製品として入手しやすいためである。エンドトキシン分解装置Dにおいては、従来用いられなかった紫外線を利用し、かつ光触媒を所定の配置構造にすることにより、高い分解効率を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0052】
(製造例1)
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0053】
前記ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0054】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、製造例1に係るチタニア/シリカ繊維(光触媒繊維)を得た。
【0055】
(実施例1)
製造例1により得られた光触媒繊維を平板状不織布とし、図3のような光触媒カートリッジを作製した。これを流動槽内に配置し、図2に示されるエンドトキシン分解装置を作製した。これに使われる紫外線ランプの出力は60Wであり、4本を使用した。また、光触媒カートリッジは3枚を使用した。紫外線ランプの波長は254nmと185nmの両方を放射するものである。紫外線ランプと光触媒カートリッジの距離は90mmとし、光触媒カートリッジ表面の平均紫外線強度は2mW/cmであった。原水(水道水)を10μmのプレフィルタ、残留塩素除去装置、及び軟水化装置に通過させた後、エンドトキシン分解装置に導入し、さらに逆浸透膜装置で処理することにより実施例1に係る精製水を得た。
【0056】
処理流量は、1〜30m/hとし、30日間に亘って原水、残留塩素除去装置後、エンドトキシン分解装置後、及び透膜装置後の水を採取し、細菌数およびエンドトキシン濃度を測定した。結果を表1に示す。表1から、処理流量が20m/h以下では、30日間に亘ってエンドトキシン分解装置後のエンドトキシン濃度が10EU/ml以下であり、良好なエンドトキシン分解性能を有することが確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
紫外線ランプを6本、光触媒カートリッジを4枚とした以外は実施例1の場合と同様の処理を行った。結果は表2に示す。表2から、処理流量が30m/hにおいても、30日間に亘って反応容器後のエンドトキシン濃度が10EU/ml以下であり、良好なエンドトキシン分解性能を有することが確認された。また、紫外線ランプ数と光触媒カートリッジ数を増やすことにより、処理能力が向上できることが確認された。
【0059】
【表2】

【0060】
(比較例1)
エンドトキシン分解装置を使用しない以外は実施例1の場合と同様の処理を実施した。結果は表3に示す。表3から、いずれの処理流量においても残留塩素除去装置後の細菌数およびエンドトキシン濃度が急激に上昇し、良好な精製水を得ることができなかったことが確認された。そのため、1日後以降の処理は中止した。
【0061】
【表3】

【0062】
(比較例2)
エンドトキシン分解装置に替えてエンドトキシン除去フィルタ(ETカットモジュール)を使用した以外は実施例1の場合と同様の処理を実施した。結果は表4に示す。表4から、エンドトキシン除去性能は良好であったが、処理流量が10m/h以上の場合、10日後からエンドトキシン除去フィルタの目詰まりによって、処理流量が低下した。また、処理流量が1m/hの場合でも、20日後には処理流量が低下したため処理を中止した。
【0063】
【表4】

【符号の説明】
【0064】
A プレフィルタ
B 残留塩素除去装置
C 軟水化装置
D エンドトキシン分解装置
E 逆浸透膜装置
10 流動槽
20 光触媒カートリッジ
22 平状板不織布
24 金網
30 紫外線照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を一方向に流動させる流動槽と、
該流動槽内に設けられ、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、
180〜190nmと250〜260nmにそれぞれピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段とを備え、
前記平板状不織布の面と紫外線照射手段の長手方向とは平行であることを特徴とするエンドトキシン分解装置。
【請求項2】
前記光触媒繊維が、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項1記載のエンドトキシン分解装置。
【請求項3】
前記平板状不織布は、二以上配置されており、前記紫外線照射手段は、前記平板状不織布の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエンドトキシン分解装置。
【請求項4】
前記平板状不織布は、流動槽から着脱できることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のエンドトキシン分解装置。
【請求項5】
被処理水から少なくとも懸濁物質を除去するプレフィルタと、被処理水から残留塩素を除去する残留塩素除去装置と、被処理水から硬度成分を除去する軟水化装置と、請求項1乃至4いずれか記載のエンドトキシン分解装置と、被処理水から少なくとも微粒子を除去する逆浸透膜装置とを備えることを特徴とする精製水製造システム。
【請求項6】
前記残留塩素除去装置は、前記プレフィルタによって処理された被処理水を処理し、前記軟水化装置は、前記残留塩素除去装置によって処理された被処理水を処理し、前記エンドトキシン分解装置は、前記軟水化装置によって処理された被処理水を処理し、前記逆浸透膜装置は、前記エンドトキシン分解装置によって処理された被処理水を処理することを特徴とする請求項5記載の精製水製造システム。
【請求項7】
請求項5又は6記載の人工透析用精製水製造システム。
【請求項8】
被処理水を流動させながら、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布を通過させ、
長手方向に延びる形状を有し、該長手方向と前記平板状不織布が平行となるように設置された紫外線照射手段から前記平板状不織布に180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射することを特徴とするエンドトキシン分解方法。
【請求項9】
前記光触媒繊維が、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項8記載のエンドトキシン分解方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−227841(P2010−227841A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78854(P2009−78854)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】