説明

エンドトキシン吸着除去材

【課題】所定の酸化チタンを用いることで、血液、血清又は血漿中のエンドトキシンを効率よく吸着除去し、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着を抑制したエンドトキシン吸着除去材を提供する。
【解決手段】平均気孔径が0.05μm以上0.6μm以下であり、比表面積が2m2/g以上5m2/g以下であり、平均粒子径が0.5mm以上5mm以下の顆粒状である多孔質酸化チタン焼結体からなるエンドトキシン吸着除去材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、血清又は血漿中のエンドトキシンを効率よく吸着除去し、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着を抑制したエンドトキシン吸着除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンは、大腸菌やサルモネラ菌等のグラム陰性菌の細胞表層に存在するリポ多糖類(LPS)であり、細菌が死ぬことにより初めて遊離する毒素である。
このエンドトキシンは、生体レベル、細胞レベル、分子レベル等の様々なレベルにおいて、多様な生物活性を示すが、特に、生体レベルでは、過剰に作用すると免疫系が暴走し、高熱や全身的な血液凝固等が起こり、致死的なショックを招くおそれがある。
【0003】
手術等においてエンドトキシンに感染し、ショック状態に陥ると、致命率が高い。このような場合の多少の有効な処置として、全血交換や血漿交換を行うことも可能である。
しかしながら、これらの処置は、大量の血液や血漿製剤を必要とし、また、それらによる肝炎やAIDS等の感染の可能性等の問題もある。
【0004】
近年、透析治療の現場において、気孔径の大きい高性能透過膜が汎用されるようになり、それに伴って、透析液中から血液中へのエンドトキシンの流入が問題となっている。
一方、血液、血清又は血漿は、異物と接触すると凝固する性質を有しているため、抗凝固剤の使用が必須となっている。
【0005】
これに対しては、セラミックスをエンドトキシン吸着材として利用する試みも検討されており、例えば、酸化チタンや酸化ジルコニウム等の酸化物セラミックスを吸着材としたもの(特許文献1参照)、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイト等の水不溶性カルシウム塩を吸着材としたもの(特許文献2参照)、ケイ酸アルミニウムを吸着材としたもの(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−235188号公報
【特許文献2】特開平7−265691号公報
【特許文献3】特開2006−51422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載のエンドトキシン吸着材を用いて、血液、血清又は血漿中のエンドトキシンを吸着除去すると、抗凝固剤まで吸着する場合がある。このため、血中抗凝固剤濃度が低下し、血液が凝固を起こすという問題があった。
【0008】
現在、臨床使用されている抗凝固剤としては、ヘパリン、低分子ヘパリン、メシル酸ナファモスタット等があるが、近年、血液浄化モジュールを臨床使用する場合、半減期が約8分と他の抗凝固剤に比べて短く、出血性病変がある場合にも利用することができることから、メシル酸ナファモスタットの使用が増えてきている。
したがって、抗凝固剤、特に、メシル酸ナファモスタットの吸着能力が低く、かつ、エンドトキシン吸着能力が高い吸着材が求められている。
【0009】
そこで、本発明者らは、上記のような吸着材の材質として、リン酸基との親和性の高さから、リン化ペプチドの分離や濃縮材、液体クロマトグラフィのカラム充填材等にも利用されている多孔質酸化チタン焼結体を使用するとともに、その平均気孔径、比表面積を特定することによって、血液、血清又は血漿中のエンドトキシンを吸着除去し、さらには、抗凝固剤の一つであるメシル酸ナファモスタットの吸着を抑制することを見出した。
すなわち、本発明は、所定の多孔質酸化チタン焼結体を使用するとともに、平均気孔径、比表面積を特定することにより、血液、血清又は血漿中のエンドトキシンを効率よく吸着除去し、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着を抑制したエンドトキシン吸着除去材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、平均気孔径0.05μm以上0.6μm以下、比表面積2m2/g以上5m2/g以下の多孔質酸化チタン焼結体からなることを特徴とするエンドトキシン吸着除去材が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0011】
また、本発明のエンドトキシン吸着除去材を構成するにあたり、多孔質酸化チタン焼結体は平均粒子径0.5mm以上5mm以下の顆粒状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径、比表面積を特定することにより、エンドトキシンの吸着能が高く、かつ、抗凝固剤であるメシル酸ナファモスタットの吸着が抑制されるため、血液、血清又は血漿を凝固させることなく、エンドトキシンを効率よく吸着除去することができる。
【0013】
また、本発明のエンドトキシン吸着除去材を構成するにあたり、多孔質酸化チタン焼結体の平均粒子径を特定することにより、圧力損失を軽減することができるため、血液等の流れをスムーズにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜5及び比較例1,2についてのエンドトキシン除去能評価におけるエンドトキシン濃度の経時変化を示したグラフである。
【図2】実施例6〜8及び比較例3,4についてのエンドトキシン除去能評価におけるエンドトキシン濃度の経時変化を示したグラフである。
【図3】実施例3及び比較例5,6についてのエンドトキシン除去能評価におけるエンドトキシン濃度の経時変化を示したグラフである。
【図4】実施例3及び比較例3〜6についてのメシル酸ナファモスタット吸着評価におけるメシル酸ナファモスタットの濃度変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係るエンドトキシン吸着除去材は、平均気孔径0.05μm以上0.6μm以下、比表面積2m2/g以上5m2/g以下の多孔質酸化チタン焼結体からなるものである。
【0016】
上記のような多孔質酸化チタン焼結体であれば、血液、血清又は血漿(以下、血液等という)の中のエンドトキシンの吸着能が高く、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着が抑制されるため、血液等を凝固させることなく、エンドトキシンを効率よく吸着除去することができる。
【0017】
前記エンドトキシン吸着除去材は、エンドトキシンを含有する血液等を接触させる態様で用いられる。また、これらの血液等は、抗凝固剤としてメシル酸ナファモスタットを生理食塩水やブドウ糖水溶液等に添加した溶液が投入されているものである。通常、メシル酸ナファモスタット20mgを生理食塩水またはブドウ糖5%溶液500ml(0.04mg/ml)に溶解した液で血液回路内の洗浄、充填(プライミング)を行い、体外循環開始後は、メシル酸ナファモスタットとして毎時20〜50mgを5%ブドウ糖注射液に溶解し、抗凝固剤注入ラインより持続注入する。
【0018】
前記エンドトキシン吸着除去材に血液等を接触させる具体的な方法としては、バッチ式と循環(灌流)式とがある。
バッチ式では、通液性を有する容器等に前記エンドトキシン吸着除去材を充填し、該容器をタンクにセットし、エンドトキシンを含む血液等をこのタンク内に供給し、その血液等を所定時間撹拌することにより、血液等と酸化チタンを接触させる。
一方、循環式では、エンドトキシン吸着除去材を収容したカラム等の容器にエンドトキシンを含有する血液等を流通させることにより、該エンドトキシン吸着除去材を血液等に接触させ、前記容器から排出される血液等を循環させて再び容器に通して、エンドトキシン吸着除去材に血液等を再接触させる処理を所定時間行う。
【0019】
前記エンドトキシン吸着除去材を構成する多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径は、0.05μm以上0.6μm以下の範囲内の値とすることが好ましい。
前記エンドトキシン吸着除去材を構成する多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径が0.05μm未満であると、血液等中のエンドトキシンの浸透性、また血清及び血漿成分自体の浸透性も悪くなり、エンドトキシンの吸着能が低下する場合がある。また、所定量のエンドトキシンを除去するために、多量の多孔質酸化チタン焼結体が必要になる場合がある。
一方、該平均気孔径が0.6μmを超えると、比表面積2m2/g以上5m2/g以下の酸化チタンを得るためには、高気孔率(気孔容積)としなければならない。そのため、多孔質酸化チタン焼結体の強度が低下し、脱粒したり、発塵性の増加が見られる場合がある。
また、かかる平均気孔径を0.1μm以上0.4μm以下の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0020】
前記エンドトキシン吸着除去材を構成する多孔質酸化チタン焼結体の比表面積は、2m2/g以上5m2/g以下の範囲内の値とすることが好ましい。
前記多孔質酸化チタン焼結体の比表面積が2m2/g未満であると、血液等中のエンドトキシンの浸透性、また、血清及び血漿成分自体の浸透性も悪くなり、エンドトキシンの吸着能が低下する場合がある。また、所定量のエンドトキシンを除去するために、多量の多孔質酸化チタン焼結体が必要になる場合がある。
一方、前記比表面積が5m2/gを超えると、メシル酸ナファモスタットの吸着性能が高くなり、使用中に血液等が凝固する場合がある。
また、かかる比表面積を2.8m2/g以上3.0m2/g以下の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0021】
また、本発明に係るエンドトキシン吸着除去材は、液体中のメシル酸ナファモスタットの吸着率が30%以下であることが好ましい。
前記メシル酸ナファモスタットの吸着率が30%を超えると、手術等を行う際に、安全面においての問題がある場合がある。
前記メシル酸ナファモスタットの吸着率が40%を超えると、該エンドトキシン吸着除去材との接触で抗凝固剤量が減少するため、血液等が凝固し、血液等の流れが悪くなる場合がある。
なお、ここでいうメシル酸ナファモスタットの吸着率とは、前記エンドトキシン吸着除去材を接触させる前のメシル酸ナファモスタットが添加された液体に含まれるメシル酸ナファモスタット濃度に対して、接触後の液体に含まれるメシル酸ナファモスタットの濃度の減量比のことを意味する。
【0022】
また、前記多孔質酸化チタン焼結体は、上記範囲内の平均気孔径及び比表面積であればよく、エンドトキシンを含有する血液等を満遍なく接触させることができれば、その形状、サイズ及び気孔率は、特に限定されるものではなく、微粒子状、粉末状、顆粒状であってもよく、また、ペレット状や不定形塊状であってもよい。
【0023】
上記のような多孔質酸化チタン焼結体の形態の中でも、特に、平均粒子径0.5mm以上5mm以下の範囲内の値である顆粒状であることが好ましい。
多孔質酸化チタン焼結体の平均粒子径が0.5mm未満であると、圧力損失が大きくなり、血液等の流れが悪くなる場合がある。
一方、多孔質酸化チタン焼結体の平均粒子径が5mmを超えると、容器等の形状によって、充填率が低下する場合がある。
また、かかる多孔質酸化チタン焼結体の平均粒子径を1mm以上2mm以下の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、特に、上述した循環式においては、このような形態であれば、所望の吸着除去能を確保しながら、液循環の圧力損失を抑制して、カラム等の容器に充填することができるため好ましい。
【0024】
また、前記循環式においては、前記多孔質酸化チタン焼結体は、血液等が流通可能な状態で、容器内に収容されていればよく、柱状多孔体とすることもできる。この場合、柱状多孔体の長手方向の一端から他端へ血液等が通過するような構成とし、該柱状多孔体のサイズ及び気孔率は、許容圧力損失及び所望のエンドトキシン吸着除去能を考慮して適宜決定すればよい。同様に、板状多孔体として、その厚さ方向に通液させる構成とすることもできる。
【0025】
なお、酸化チタン自体(酸化チタン原料)の製造方法は、一般に、硫酸チタンを加水分解して焼成する硫酸法、四塩化チタンを高温で酸化する塩素法、焼成時に揮発する酸性又はアルカリ性化合物の水溶液中でチタンアルコキシド化合物を処理して酸化チタンを沈殿物として得るゾル‐ゲル合成法等がある。
本発明においては、これらのいずれの製造方法による酸化チタン原料を用いてもよく、これを所望の形状に成形し、700〜1200℃の範囲内で温度及び時間を調整して熱処理することにより、上記範囲内の平均気孔径及び比表面積を有する多孔質酸化チタン焼結体を得ることができる。
【0026】
なお、血液等中のエンドトキシンは、ミセル形成、血液等中成分との結合等により、直径0.01μm〜0.1μm程度の大きさであると推測される。このような状態のエンドトキシンは、多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径が0.05μm未満の場合、気孔内部に浸入しにくくなると推測される。
一方、多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径が0.05μm以上0.6μm以下の場合、血液等が気孔へ流入する方向に向かって対向する気孔面上部には容易に浸入できるが、血液等成分の影響などにより、気孔内部まで浸入するのに時間を要すると推測される。
メシル酸ナファモスタットは低分子量であり、多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径が0.05μm未満の場合でも容易に気孔内部まで浸入できると推測される。
したがって、多孔質酸化チタン焼結体の平均気孔径が0.05μm以上0.6μm以下で吸着時間が数時間程度の場合、血液等中のエンドトキシンは、主に血液等が気孔へ流入する方向に向かって対向する気孔面上部で吸着され、メシル酸ナファモスタットは気孔内部で吸着されると推測される。エンドトキシン吸着に関しては、気孔内部が吸着に有効に機能せず、気孔容積(比表面積)が一定以上あれば、同等の吸着能となると推測される。
よって、上記範囲内の平均気孔径及び気孔容積(比表面積)を制御することにより、エンドトキシンの吸着能が高く、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着が抑制されるため、血液等を凝固させることなく、エンドトキシンを効率よく吸着除去することができると推測される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について比較例とともに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
まず、酸化チタン原料として塩素法により作製した比表面積約80m2/gの酸化チタン粒子70g、アルギン酸ナトリウム1wt%水溶液320g、平均粒子直径0.2μmの樹脂ビーズ10g、分散剤としてアロン A-30SL(東亜合成株式会社製)2.4gを混合してポットに入れ、樹脂ボールを用いて、ポットミルにてスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを内径0.8mmのフッ素樹脂製チューブを装着したペリスタポンプを用いて、塩化カルシウム1wt%水溶液に滴下し、3時間以上放置して十分にゲル化させ、球状の酸化チタンゲル球を作製した。
次いで、この酸化チタンゲル球をイオン交換水で洗浄し、70℃で8時間以上乾燥させ、酸化チタン成形球を作製した。
作製した酸化チタン成形球を、大気中、200℃/hrで昇温し、1075℃で2時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0028】
[実施例2]
酸化チタン原料として塩素法により作製した比表面積約70m2/gの酸化チタン粒子80g、アルギン酸ナトリウム1wt%水溶液320g、分散剤としてアロン A−30SL(東亜合成株式会社製)2.4gを混合してポットに入れ、樹脂ボールを用いて、ポットミルにてスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを内径0.8mmのフッ素樹脂製チューブを装着したペリスタポンプを用いて、塩化カルシウム1wt%水溶液に滴下し、3時間以上放置して十分にゲル化させ、球状の酸化チタンゲル球を作製した。
次いで、この酸化チタンゲル球をイオン交換水で洗浄し、70℃で8時間以上乾燥させ、酸化チタン成形球を作製した。
作製した酸化チタン成形球を、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で8時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0029】
[実施例3]
上記実施例2中、酸化チタン原料を60m2/gのものに変更した。上記実施例2と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、950℃で8時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0030】
[実施例4]
上記実施例2中、酸化チタン原料を50m2/gのものに変更した。上記実施例2と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、950℃で8時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0031】
[実施例5]
上記実施例2中、酸化チタン原料を45m2/gのものに変更した。上記実施例2と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で8時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0032】
[実施例6]
上記実施例3と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、950℃で12時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0033】
[実施例7]
上記実施例3と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、950℃で4時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0034】
[実施例8]
上記実施例3と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、950℃で2時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0035】
[比較例1]
上記実施例1中、樹脂ビーズを平均粒子径0.1μmのものに変更した。実施例1と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1075℃で2時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0036】
[比較例2]
上記実施例1中、樹脂ビーズを平均粒子径2μmのものに、酸化チタン原料を10m2/gのものに変更した。実施例1と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1050℃で2時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0037】
[比較例3]
実施例3と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1000℃で8時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0038】
[比較例4]
実施例2と同様の方法により、酸化チタン成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1050℃で1時間処理し、多孔質酸化チタン焼結体を得た。
【0039】
[比較例5]
酸化アルミニウム原料として8m2/gのα−アルミナ粒子を120g、アルギン酸ナトリウム2wt%水溶液280g、分散剤としてアロン A-30SL(東亜合成株式会社製)3.6gを混合してポットに入れ、樹脂ボールを用いて、ポットミルにてスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを内径0.8mmのフッ素樹脂製チューブを装着したペリスタポンプを用いて、塩化カルシウム1wt%水溶液に滴下し、3時間以上放置して十分にゲル化させ、球状の酸化アルミニウムゲル球を作製した。
次いで、酸化アルミニウムゲル球をイオン交換水で洗浄し、70℃で8時間以上乾燥させ、酸化アルミニウム成形球を作製した。
作製した酸化アルミニウム成形球を、大気中、200℃/hrで昇温し、1200℃で2時間処理し、多孔質酸化アルミニウム焼結体を得た。
【0040】
[比較例6]
比較例5において、酸化アルミニウム原料に代えて比表面積7m2/gの二酸化ケイ素原料を用いた。
比較例5と同様の方法により、二酸化ケイ素成形球を作製した後、大気中、200℃/hrで昇温し、1250℃で2時間処理し、多孔質二酸化ケイ素焼結体を得た。
【0041】
上記実施例及び比較例で作製した各多孔質酸化チタン焼結体、多孔質酸化アルミニウム焼結体又は多孔質二酸化ケイ素焼結体について、以下の方法により、平均気孔径、比表面積、平均粒子径を測定した。また、エンドトキシン除去能評価、メシル酸ナファモスタット吸着性能評価、発塵性評価を下記に示す試験方法により行った。
下記表1に、これらの評価結果をまとめて示す。
【0042】
<平均気孔径、比表面積、平均粒子径の測定>
上記実施例及び比較例で作製した各多孔質酸化チタン焼結体、多孔質酸化アルミニウム焼結体又は多孔質二酸化ケイ素焼結体の細孔径分布を水銀ポロシメータ(マイクロメトリックス社製オートポア9500)で測定し、細孔径ピーク値を平均気孔径とした。
また、比表面積をBET比表面積計(マイクロメトリックス社製ASAP2020)で測定した。
また、多孔質酸化チタン焼結体粒子300個の画像分析により、平均粒子径を測定した。
【0043】
<エンドトキシン除去能評価>
上記実施例1〜8及び比較例1〜6で作製した各多孔質酸化チタン焼結体を直径15mm、容積約16mlのカラムにそれぞれ充填し、このカラムを、循環ポンプを備えた回路に設置した。この回路にエンドトキシン(E.coli O111B4由来 和光純薬工業株式会社製)を添加したウシ胎児血清60mlを15ml/minで灌流し、一定時間毎に溶液を採取し、エンドトキシン濃度の経時変化を測定した(測定装置:トキシノメータET301、測定試薬:リムルス:ES−IIシングルテストワコー 和光純薬工業株式会社製)。
図1に実施例1〜5及び比較例1,2、図2に実施例6〜8及び比較例3,4、図3に実施例3及び比較例5,6のエンドトキシン濃度の経時変化のグラフを示す。なお、図3には、吸着材を使用しない空データも併せて記載した。
【0044】
<メシル酸ナファモスタット吸着評価>
上記実施例3及び比較例3〜6で作製した各多孔質酸化チタン焼結体を直径17.7mm、容積約11mmのカラムにそれぞれ充填し、このカラムとシリンジポンプを、直径5.5mm、長さ300mmのPVCチューブで連結した。
メシル酸ナファモスタット(フサン50 鳥居薬品株式会社製)をブドウ糖5%溶液を用いて、0.04mg/ml溶液に調製し、前記カラムを連結したラインに充填した後、流速8.3ml/minでカラム内を下から上に流通させた。
約40mlずつの通液を5回繰り返した、各回毎の通過液について、波長240nmの吸光度測定を行い、メシル酸ナファモスタット濃度を求めた。
図4に実施例3及び比較例3〜6のメシル酸ナファモスタットの濃度変化のグラフを示す。
【0045】
<発塵性評価>
上記実施例1〜8及び比較例1〜4で作製した各多孔質酸化チタン焼結体を直径40mm、容積約80mlのカラムを純水でよく洗浄し、乾燥させた。このカラムに、多孔質酸化チタン焼結体をそれぞれ充填し、循環ポンプを備えた回路に設置した。
純水100mlを100ml/minで1時間循環させた後、純水中の粒径10μm以上のパーティクル数を測定した。評価は、直径10μm以上のパーティクル数が20個/ml未満の場合を○、20個/ml以上の場合を×とした。
【0046】
【表1】

【0047】
表1及び図1〜4に示した評価結果から総合的に判断すると、実施例の多孔質酸化チタン焼結体は、ウシ血清エンドトキシンの除去率が高く、かつ、メシル酸ナファモスタットの吸着率が低く、また、発塵量も少ないことが確認された。
なお、実施例3、比較例5及び6の比較から、多孔質酸化チタン焼結体、多孔質酸化アルミニウム焼結体及び多孔質二酸化ケイ素焼結体の気孔径が同等の場合は、酸化チタンが、エンドトキシン吸着能が最も高いことが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均気孔径0.05μm以上0.6μm以下、比表面積2m2/g以上5m2/g以下の多孔質酸化チタン焼結体からなることを特徴とするエンドトキシン吸着除去材。
【請求項2】
前記多孔質酸化チタン焼結体が平均粒子径0.5mm以上5mm以下の顆粒状であることを特徴とする請求項1記載のエンドトキシン吸着除去材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−250939(P2011−250939A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125928(P2010−125928)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】