説明

エンドトキシン関連疾患およびエンドトキシン関連状態を予防および処置するための組成物および方法

本発明は、エンドトキシン関連疾患およびエンドトキシン関連状態を予防および処置するための薬学的組成物、ならびにそのような組成物の製造および使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンドトキシン関連疾患およびエンドトキシン関連状態を予防および処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1930年代以来、免疫抑制治療および侵襲的装置の使用が増加していると共に、細菌における抗生物質耐性の発生率が増加したことにより、敗血症および敗血症性ショックの発生が徐々に増えている。現在、米国における敗血症および敗血症性ショックの推定発生率は、それぞれ年間400,000人および200,000人である。これは年間約100,000人の死者をもたらすので、病院の集中治療室(ICU)では敗血性ショックが最も一般的な非心臓関連死因になっている。現在、敗血症性ショックのICU治療は、一般に、抗生物質、心血管蘇生法、昇圧剤/変力作用剤治療、および/または換気補助による処置を伴う。このICU医療には患者1人あたり1日あたり1,500ドルに達する費用がかかり得るので、典型的なICU滞在日数からすると、患者1人あたりの平均総費用は13,000ドル〜30,000ドルになる。
【0003】
敗血症および敗血症性ショックは、成長しているグラム陰性菌および死にかけているグラム陰性菌の細胞壁からエンドトキシンまたはリポ多糖(LPS)と呼ばれる分子が放出されることによって起こる。放出されたエンドトキシンは、感染患者に、発熱、ショック、播種性血管内血液凝固(DIC)、および低血圧など、数多くの病態生理学的事象を誘発する。グラム陰性敗血症を処置するための医薬、特にエンドトキシンを遮断する薬物またはエンドトキシンによる細胞刺激が誘導するサイトカインを遮断する薬物が、かねてより望まれている。この目的を達成するために、LPSまたはサイトカイン(例えばTNF-αおよびインターロイキン-11)に対する抗体または他の薬剤の投与が、種々の処置戦略に組み込まれてきた。様々な理由から、これらのアプローチは失敗に終わっている。
【0004】
エンドトキシン自体は極めて雑多な分子であるが、エンドトキシンの毒性はその分子の高度に保存された疎水性リピドA部分に帰することができる。この保存された構造に対してアンタゴニストとして作用する有効な薬物は、E5564として知られている(化合物1287およびSGEAとも呼ばれている)。この薬物は米国特許第5,935,938号に化合物1として記載されており、この特許は参照として本明細書に組み入れられる。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、式:

を有する抗エンドトキシン化合物E5564または薬学的に許容されるその塩と抗酸化剤とを含む、組成物を提供する。
【0006】
本発明の組成物に使用することができる抗酸化剤の例には、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、およびそれらの誘導体が含まれる。本発明の組成物は、凍結乾燥中に抗エンドトキシン化合物のミセルサイズが約7〜9nmで安定化されるように、二糖安定剤(例えばラクトース、スクロース、トレハロース、またはマルトースなどの二糖)も含むことができ、かつ/または、0.5〜10mMまたは≦2mM量のナトリウムイオンを含むことができる。
【0007】
本発明は、抗エンドトキシン化合物を含む薬学的組成物の製造方法であって、当該化合物を抗酸化剤と混合することを伴う方法も提供する。これらの組成物に含めることができる抗エンドトキシン化合物の一例はE5564(または薬学的に許容されるその塩)である。これらの組成物中に存在する抗酸化剤の例には、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0008】
抗エンドトキシン化合物を含む薬学的組成物の製造方法も本発明に包含される。これらの方法は、(i)抗エンドトキシン化合物を水酸化ナトリウムの水溶液に溶解する段階;(ii)その溶液に二糖安定剤(例えばラクトース)を添加する段階;(iii)その溶液に抗酸化剤(例えばブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、またはそれらの誘導体)を添加する段階;(iv)その溶液のpHを(例えばリン酸溶液を使って例えば約pH7〜8に)低下させる段階;(v)その溶液を濾過滅菌する段階;および(vi)その溶液を(例えば0〜20℃の棚温度の使用を含む工程を使って)凍結乾燥する段階を含むことができる。
【0009】
本発明は、患者のエンドトキシン血症を予防または処置する方法であって、本明細書記載の薬学的組成物をその患者に投与することを伴う方法、ならびにエンドトキシン血症の予防および処置における本明細書記載の組成物の使用も包含する。
【0010】
本発明にはいくつかの利点がある。製剤に関して本明細書に記載する発見は、薬物品質を一切犠牲にすることなく、安定性の増大した医薬品をもたらす。例えば、抗酸化剤を含めることにより、本発明の組成物は酸化的分解に対して安定である。また、二糖類を含めることおよびナトリウムイオンを少量だけ使用することにより、凍結乾燥工程の全体にわたって、ミセルサイズを維持することが可能になる。さらに、本発明の組成物を製造する際に使用される凍結乾燥工程は比較的高い棚温度の使用を含み、それが、より効率的な製剤工程をもたらす。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、添付の図面および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0012】
詳細な説明
本発明は、抗エンドトキシン化合物を含む薬学的組成物、ならびにそのような組成物の製造方法および使用方法を提供する。本発明は、一定の製剤成分および製剤段階が、医薬品の品質および/または製剤工程の効率という面で、とりわけ有利であるという発見に基づいている。本発明の薬学的組成物ならびにそれらの製造方法および使用方法の詳細を以下に説明する。
【0013】
本発明の組成物に含めることができる抗エンドトキシン化合物の一例は、式:

を有するE5564、またはこの化合物の薬学的に許容される塩である。E5564は例えば米国特許第5,935,938号に記載の合成方法を使って製造することができ、さらなる精製段階、例えば国際出願PCT/US02/16203(WO 02/094019 A1)に記載の精製方法に供することができる。本発明の組成物に含めることができる抗エンドトキシン化合物の他の例には、化合物B531(米国特許第5,530,113号)、ならびにこれらの特許および以下の米国特許に記載されている他の抗エンドトキシン化合物が含まれる。米国特許第5,612,476号、米国特許第5,756,718号、米国特許第5,843,918号、米国特許第5,750,664号、および米国特許第5,681,824号(これらが教示する内容は、参照として本明細書に組み入れられる)。
【0014】
本発明の薬学的組成物は、抗エンドトキシン化合物の他に、本組成物に有益な特徴を与えることを本発明者らが発見した成分も含むことができる。例えば本発明の組成物は、抗酸化剤化合物を含むことができる。なぜなら、そのような化合物が、医薬品の品質に有害な影響を一切有することなく、当該医薬品溶液を酸化による分解に対して安定化することを、本発明者らは発見したからである。本発明の薬学的組成物に含めることができる抗酸化剤化合物の一例はブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)である。本発明の組成物に含めることができる抗酸化剤化合物の他の例は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、および当技術分野において知られている他の抗酸化剤化合物である。本発明の組成物に含めるべきこれら化合物の適量は、当業者であれば、例えば本明細書に教示する内容を指針として使用することにより、容易に決定することができる。例えばBHAは、本発明の組成物中に、例えば薬物10mgにつき0.5〜100、1〜50、2〜25、または5〜15μgの量で存在することができる。具体的一例として、本発明者らは、さらに詳しく後述するE5564 10mgの製剤中に、7.2μgのBHAが使用されることに言及する。
【0015】
後述するように、本発明者らは、本発明の組成物中にラクトースなどの二糖を含めると、これらの組成物の品質が改良されることも見いだした。特に、E5564などの両親媒性分子は、水溶液中で自己会合してミセルを形成する。本発明者らは、さらに詳しく後述するように、本発明の組成物中に二糖を含めると、凍結乾燥中のE5564ミセルのサイズが安定化されることを見いだした。したがって、薬物製剤工程における二糖類の使用は、この工程における一貫性を助長する。ラクトースだけでなく他の二糖類も、本発明の組成物に含めることができる。例えばスクロース、トレハロース、またはマルトースを使用することができる。これらの化合物は、当業者によって適当であると決定された量で、存在することができる。例えばこれらの化合物は1〜20%または5〜15%(重量/容量)の量で存在することができる。具体的一例として、本発明者らは、さらに詳しく後述するE5564 10mgの製剤が、9.7%のラクトースを含むことに言及する。この量の使用はミセルサイズの良好な維持をもたらす。
【0016】
本発明者らは、薬物溶液のイオン強度が凍結乾燥中の薬物のミセルサイズの安定性に影響することも見いだした。特に本発明者らは、薬物溶液中のナトリウムイオンの量を最小限に抑えると、ミセルサイズの安定性が増大することを見いだした。以前の方法では、薬物が最初に溶解されるアルカリ性溶液のpHを低下させるために、リン酸ナトリウム塩が使用されていた(下記参照)。本発明者らは、この目的にリン酸を使用すれば、製剤中のナトリウムイオンの量を最小限に抑えることができ、より安定な製品が得られることを見いだした。したがって本発明の製剤は1〜15(例えば2〜10)mM Na+(またはK+)(薬物に起因するNa+は考慮しない)を含むことができる。したがって本発明の組成物は、例えば10mM以下のNa+(またはK+)、例えば5、4、3、2、または1mM Na+(薬物由来のNa+を除く)(またはK+)を含むことができる。具体的一例として、本発明者らは、さらに詳しく後述するように、E5564を製剤する際に2mM Na+(薬物に起因するNa+は考慮しない)を使用すると、ミセルサイズの良好な安定性が得られることに言及する。
【0017】
より効率的な医薬品の製剤を助長すると同時に製品品質に悪影響を及ぼさない凍結乾燥アプローチの、本発明者らによる発見も、本発明に包含される。後述するように、本発明の組成物は、以下の段階を含む工程を使って製造することができる。まず最初に、pH10.1〜11.8の希NaOH水溶液に薬物を溶解する。これは、E5564が溶解および分散して均一なサイズのミセルになるのを助長する。次に、このアルカリ性E5564溶液をラクトース溶液および抗酸化剤を含む溶液と混合する。リン酸溶液を使ってその溶液を約7.0〜8.0のpHに中和する。次に、その溶液を水で目標容量に調節し、濾過滅菌し、ガラス製バイアルに無菌充填し、凍結乾燥することにより、長期保存用に製品を安定化する。当技術分野において周知のように、凍結乾燥中に製品が崩壊するのを避けるために、製品温度を低く保つべく、典型的には、低い棚温度(例えば-25℃)が用いられる(例えばPikal, Intl. J. Pharm. 62:165-186, 1990)。驚いたことに、比較的高い棚温度(例えば+20℃)の使用により、良好な品質の製品が得られる(崩壊が起こらない)ことを、本発明者らは見いだした。したがって本発明は、凍結乾燥工程における比較的高い棚温度(例えば0℃〜20℃)の使用を包含する。
【0018】
本発明は、抗エンドトキシン化合物と抗酸化剤とを含む本明細書記載の薬学的組成物を製造する方法も包含する。これらの方法には、上に概説した段階、すなわち塩基性溶液(例えばNaOH)への薬物の溶解、二糖安定剤の添加、抗酸化剤(例えばBHAまたは上に挙げた他の抗酸化剤のいずれか)の添加、pHを7〜8に下げるための酸性溶液(例えばリン酸)の添加、濾過、および凍結乾燥を含む。これら各段階の詳細な例を以下に記載する。E5564の製剤における特定段階の他の適当な変法は、当業者であれば容易に決定することができる(例えばRemington's Pharmaceutical Sciences (18th edition), ed. A. Gennaro, 1990, Mack Publishing Company, Easton, PAを参照されたい)。
【0019】
以下はE5564を製剤する方法の一例の詳細な説明である。後述するように、この方法の重要な特徴には以下の事項が含まれる。水溶液におけるE5564の酸化を防止するために少量(7μg/バイアル)のブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)を製剤に添加した。図1に示すように、医薬品製剤にBHAを含めると、溶液におけるその安定性が増加する。また、凍結乾燥製造段階中のミセルサイズの安定性を高めるために、リン酸ナトリウム塩に代えてリン酸をpH調節に用いることにより、溶液のナトリウム含量を低下させ、この工程の凍結乾燥段階では高い棚温度を使用した。
【0020】
後述する段階を使って製造されるE5564 10mgバイアルの諸成分および組成を、以下の表に示す。また、この表には各成分の機能も示す。
【0021】
剤形の組成

A pH調節に使用。量はロットによって変動しうる。
B 注射用水(WFI)は凍結乾燥中に除去される。量はロットによって変動しうる。
C 製造ロスを補うために10%過剰量を使用する。
【0022】
代表的製造工程の説明
製剤配合
1)5mM NaOH溶液を調製する。
2)E5564原薬を精秤し、20℃〜60℃のNaOH溶液に溶解することによって薬物溶液を調製する。このE5564/アルカリ性溶液のpHはE5564の溶解後にpH10.1〜12.0である。
3)0.15Mリン酸溶液を調製する。
4)BHA溶液を調製する。
5)ラクトース溶液を調製する。
6)ラクトース溶液と薬物溶液とを混合する。リン酸およびBHA溶液を加え、水を加えて目標製剤濃度にする。
【0023】
濾過
製剤した溶液を、0.2μmの孔径を有するPall Kleenpak Ultipor(登録商標)N66(登録商標)ナイロンフィルターを使って濾過する。
【0024】
充填および半打栓
製剤した溶液をバイアルに充填し、凍結乾燥栓(lyophilization closure)を部分的にバイアルに固定する。バイアルを凍結乾燥器に移す。
【0025】
凍結乾燥
充填されたバイアルを以下の条件下で凍結乾燥する。
1)バイアルを+20℃で装填した後、棚温度を≦-40℃に下げる。
2)定常状態に達してから製品を3時間にわたって-40℃に保つ。
3)一次乾燥を+20℃の棚温度で行う(他の棚温度の使用については下記参照)。
4)二次乾燥を+20〜+25℃の棚温度で行う。
5)乾燥庫に窒素または空気を予備通気する。
6)凍結乾燥栓を完全に固定する。
【0026】
密封
バイアルをアルミニウムキャップで密封する。
【0027】
以下の項では、製剤パラメータの一定の変動が製品形成の品質に及ぼす影響を決定するために行った実験を説明する。
【0028】
E5564医薬品の凍結乾燥法
ラクトース含有E5564医薬品の凍結乾燥には、一次乾燥時に、比較的高い棚温度(例えば+20℃)を使用することができることを、本発明者らは発見した。これにより、製造工程の効率は、通常の低棚温度(例えば-25℃)と比較して向上する。凍結乾燥中に製品が崩壊するのを避けるために、製品温度を低く保つべく、典型的には、低い棚温度が使用される(例えばPikal, Intl. J. Pharm. 62:165-186, 1990参照)。棚温度を-40℃から+20℃まで+3℃/時の速度で直線的に増加させるサイクルB(下記表参照)で凍結乾燥を行った場合、製品は崩壊した。サイクルCおよびサイクルDでは良好な品質の製品が得られる(崩壊が起こらない)という発見は、驚くべきことだった。なぜなら、これらのサイクルでの棚温度は、サイクルBでの棚温度よりも高かったからである。これらの結果に基づいて、本発明者らは、<0.1mmHgの乾燥庫圧で0〜+20℃の棚温度を使用する。また、乾燥庫圧は<0.075mmHgに維持することができる。
【0029】

ST=棚温度
P=乾燥庫圧
PT=製品温度
【0030】
製剤にとっての二糖類の重要性
二糖類は上記薬物の凍結乾燥調製物を製造するのに役立つことを、本発明者らは発見した。本発明者らは、ラクトースおよびスクロースが凍結乾燥中のミセルサイズを安定化するのに有効であることを明らかにした(下記表中のデータ参照)。凍結乾燥前のミセルサイズは7nmだった。
【0031】
ラクトース濃度の関数としてのE5564の凍結乾燥中のミセルサイズの安定化

A凍結乾燥前のミセルサイズは7nmだった。
【0032】
製剤にとっての低イオン強度の重要性
本発明者らは、製剤の塩濃度を最小限に抑えることが、凍結乾燥中に望ましいミセルサイズを維持する上で重要であることを発見した。10mM Na+(薬物に起因するナトリウムを除く)を含有する製剤は、E5564の一部のロットでは機能するが、全てのロットで機能するわけでない。そこで本発明者らは2mM Na+(薬物に起因するNa+を除く)を含む製剤を使用する。同様のパラメータが、カリウムイオン(K+)濃度についても当てはまる。
【0033】
製剤にとっての抗酸化剤の重要性
本発明者らは、いくつかの抗酸化剤化合物を調べて、それらがフリーラジカル酸化に対するE5564の安定性に影響するかどうかを決定した。調べた抗酸化剤を下記の表に要約する。本発明者らはジチオスレイトールが有効であることも見いだした。
【0034】
抗酸化剤スクリーニング実験

【0035】
本発明の組成物の使用
本発明の組成物は、敗血症、敗血症性ショック、またはエンドトキシン血症に関係する数多くの疾患および状態のどれを予防または処置するためにも使用することができる。例えば本発明の組成物および方法は、エンドトキシン血症または関連合併症(例えば敗血症症候群)の発生につながり得るあらゆるタイプの外科手術または医学的措置と一緒に、適宜使用することができる。具体的一例として、本発明は、心臓手術(例えば冠状動脈バイパス移植、心肺バイパス、および/または弁置換)、移植(例えば肝臓、心臓、腎臓、または骨髄の移植)、癌手術(例えば腫瘍除去)、またはあらゆる腹部手術(例えばPCT/USO1/01273参照)と共に使用することができる。
【0036】
本発明の組成物および方法を適宜併用することができる外科手術の他の例は、急性膵炎、炎症性腸疾患、経頚静脈肝内門脈静脈ステントシャント設置、肝切除、熱創傷修正(burn wound revision)、熱創傷痂皮切除のための手術である。本発明の組成物は、消化管が損なわれる非外科措置と一緒に使用することもできる。例えば本組成物は、癌の処置における化学療法または放射線療法に関連して使用することができる。本発明の組成物および方法は、HIV感染、外傷、または呼吸窮迫症候群に関係する状態の処置、ならびに移植片対宿主病または同種移植拒絶などの免疫障害に関係する状態の処置にも使用することができる。肺細菌感染およびエンドトキシンに対する肺症候性曝露も、本発明の組成物および方法を使って処置することができる(例えばPCT/USOO/02173参照)。
【0037】
本発明の組成物の投与は、例えば持続注入、ボーラス注射、間欠注入、吸入、またはこれらの方法の組合せなど、いくつかの標準的方法のどれを使っても行うことができる。例えば、使用することができる投与様式の1つは、持続静脈内注入を伴う。そのようなアプローチでは、薬物の注入投与速度は、例えば0.001〜0.5mg/kg-体重/時、より好ましくは0.01〜0.2mg/kg/時、最も好ましくは0.03〜0.1mg/kg/時であることができ、薬物は例えば12〜100、60〜80、または約96時間にわたって注入される。所望であれば、薬物の注入に先だってボーラス注射を行うことができ、そのようなボーラス注射は、好ましくは、0.001〜0.5mg/kgの投与量で投与される。好ましくは、患者に投与される薬物の総量は、60〜100時間にわたる注入で、25〜600mgの薬物、より好ましくは35〜125mgである。病院、特にICUでの活動は多忙を極めることが多いので、薬物の注入期間に多少の変動が起こることもあり、それらも本発明に包含される。
【0038】
本発明の方法によるE5564の他の投与様式には、ボーラス注入または間欠注入が含まれる。例えば薬物は、例えば中心アクセスラインまたは末梢静脈ラインなどを通した静脈内注入により、または直接注射により、注射器を使って、単回ボーラスとして投与することができる。患者がエンドトキシンに曝露する危険にさらされるのは短時間だけであり、したがって長時間にわたる薬物の持続が必要ない場合には、このような投与が望ましいかもしれない。例えばこの投与様式は、それが適切な場合には、外科患者(例えば冠状動脈バイパス移植手術および/または弁置換手術などの心臓手術を受ける患者)に望ましいかもしれない。これらの患者には、例えば0.10〜15mg/時(例えば1〜7mg/時または3mg/時)の薬物を単回ボーラス注入により、手術前および/または手術中に4時間にわたって投与することができる。(薬物の投与量は患者の平均体重が70kgであるという仮定に基づいていることに注意されたい)。使用する投与期間は、当業者が適当であると決定したとおりに、増減することができる。
【0039】
長期間にわたる活性薬物の持続が望ましい場合、例えばエンドトキシンへの長期間曝露を伴う状態を処置する場合、例えば感染もしくは敗血症中、または長期処置が望ましいと決定される適当な外科状況では、間欠投与を行うことができる。これらの方法では、負荷量を投与してから、当業者が適当であると決定したとおりに、(i)第2負荷量および維持量(1回もしくは複数回)を投与するか、または(ii)第2負荷量なしで維持量(1回もしくは複数回)を投与する。
【0040】
初回(または唯一の)負荷量は、単回ボーラス注入について上述した方法と同様の方法で投与することができる。すなわち、E5564投与の場合、0.10〜15mg/時(例えば3〜7mg/時または3mg/時)の薬物を、手術前に4時間かけて患者に投与することができる。第2負荷量を使用する場合は、初期負荷量の約12時間後に投与することができ、これは例えば約2時間にわたる例えば0.10〜15mg/時(例えば1〜7mg/時または3mg/時)の薬物投与を伴うことができる。
【0041】
活性薬物のさらなる持続を達成するには、患者の血中で活性薬物レベルが維持されるように、維持量の薬物(1回または複数回)を投与することができる。維持量は負荷量よりも低いレベル、例えば負荷量の約1/6に相当するレベルで、投与することができる。維持量で投与すべき具体量は、薬物レベルを少なくとも維持することを目的として、医療専門家によって決定され得る。維持量は例えば、24時間時点から開始して、例えば36、48、60、72、84、96、108および120時間時点に継続するなど、12時間ごとに約2時間にわたって投与することができる。もちろん、維持量は、医療専門家が適当と決定するとおりに、この時間枠の任意の時点で停止することができる。
【0042】
上述の注入法は、当技術分野において広く一般に入手することができるカテーテル(例えば末梢静脈カテーテル、中心静脈カテーテル、または肺動脈カテーテル)および関連製品(例えば注入ポンプおよび管)を使って行うことができる。これらの方法で使用するカテーテルおよび/または管を選択する際に考慮することが重要な基準の一つは、それらの製品の素材(またはこれらの製品上のコーティング)が薬物のミセルサイズに及ぼす影響である。特に、本発明者らは、一定の製品を使用すると、7〜9nmの薬物ミセルサイズが概ね維持されることを見いだした。そのようなカテーテルの例を以下に挙げる。Baxter(Edwards)カテーテル、Swan-Ganz、VANTEX、Multi Med、およびAVA Device。この目的に使用することができるカテーテルの他の例は、Becton-Dickinson Criticathカテーテル、Arrow Internationalマルチルーメン、Arrowg+ard Blue、および大口径(Large-bore)カテーテル、ならびにJohnson & Johnson Protectiv I.V.カテーテルである。
【0043】
本発明の方法に使用することができる他のカテーテル関連製品は、薬物投与時に用いる条件に一致する条件下で、その製品の素材が薬物のミセルサイズを変化させるかどうかを決定することによって同定することができる。また、最適な薬物ミセルサイズを維持しないカテーテルが既に患者のしかるべき位置に挿入されている場合は、薬物溶液が不適合カテーテルの表面と接触しないように、適合材料(例えばポリアミドポリマー)でできたカテーテルインサートまたは適合コーティングを含むカテーテルインサートを使用することができる。既存カテーテルに容易に挿入することができるように十分小さい外径を有すると同時に、薬物溶液が流れるのに十分な大きさの内径を維持している、そのようなインサートを、既存カテーテル内に設置し、薬物の送達に用いる管または注射器に接続する。
【0044】
肺細菌感染またはエンドトキシンへの肺症候性曝露の場合は、周期的ボーラス投与、持続定量吸入、またはそれら2つの組合せによって、本発明の組成物の投与を達成することができる。1回量は、1μg〜24mg、例えば5〜150μg、または好ましくは10〜100μgの薬物の吸入によって投与される。もちろん、抵抗性の疾患には比較的高い用量(例えば5mg)の投与が必要な場合があり、当業者であればその適当量を決定することができる。当業者は適当な投与頻度を決定することができ、適当な投与頻度は、例えば1日に1〜4回、例えば2〜3回であることができる。好ましくは薬物を1日に1回投与する。急性投与の場合、処置は典型的には数時間または数日間にわたって行われ、一方、慢性処置は数週間、数ヶ月、さらには数年にわたって行われ得る。
【0045】
慢性投与および急性投与は、どちらも、本明細書の他の項で説明する製剤から製造することができる標準的肺薬物投与製剤を使って行うことができる。この経路による投与には、例えば望ましい作用部位に高い局所濃度で薬物を投薬することによる迅速な作用開始など、いくつかの利点がある。肺薬物製剤は一般に噴霧製剤(例えばFlament et al., Drug Development and Industrial Pharmacy 21 (20):2263-2285, 1995参照)およびエアロゾル製剤(Sciarra, 「Aerosols」 Chapter 92 in Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition(ed. A. Osol), pp.1614-1628;Malcolmson et al., PSTT 1(9):394-398, 1998、およびNewman et al., 「Development of New Inhalers for Aerosol Therapy」 in Proceedings of the Second International Conference on the Pharmaceutical Aerosol, pp.1-20)に分類される。
【0046】
本明細書で言及した特許および刊行物はいずれも参照として本明細書に組み入れられる。添付の特許請求の範囲には他の実施形態も包含される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】異なる原薬ロットを使って製造された水溶液におけるE5564の相対的安定性(主要酸化的分解産物の生成によって測定したもの)を示すグラフである。このグラフは、4つの原薬ロット、すなわち1(◆)、2(■)、3(▲)および4(●)について、存在する主要酸化的分解産物のHPLCピーク面積百分率を経時的に示しており、このうち最後のロットは7μg/バイアルのBHAを含んでいる。
【図2】E5564の製造スキームを示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:

を有する化合物または薬学的に許容されるその塩と、抗酸化剤とを含む、組成物。
【請求項2】
抗酸化剤が、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
抗酸化剤がブチル化ヒドロキシアニソールである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
二糖安定剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
二糖がラクトースである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
二糖がスクロースである、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
組成物が0.5〜10mM量のナトリウムイオンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
組成物が≦2mM量のナトリウムイオンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
化合物のミセルサイズが約7〜9nmである、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
抗エンドトキシン化合物を含む薬学的組成物の製造方法であって、該化合物と抗酸化剤とを混合する段階を含む方法。
【請求項11】
抗エンドトキシン化合物が、式:

を有する化合物または薬学的に許容されるその塩である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
抗酸化剤が、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
抗酸化剤がブチル化ヒドロキシアニソールである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
抗エンドトキシン化合物を含む薬学的組成物の製造方法であって、
(i)該抗エンドトキシン化合物を水酸化ナトリウムの水溶液に溶解する段階;
(ii)該溶液に二糖安定剤を添加する段階;
(iii)該溶液に抗酸化剤を添加する段階;
(iv)該溶液のpHを低下させる段階;
(v)該溶液を濾過滅菌する段階;および
(vi)該溶液を凍結乾燥する段階
を含む方法。
【請求項15】
二糖がラクトースである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
二糖がスクロースである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
抗酸化剤が、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、tert-ブチルヒドロキノン、エトキシキン、ジチオスレイトール、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
抗酸化剤がブチル化ヒドロキシアニソールである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
溶液のpHを、リン酸溶液を使って、約pH7〜8に低下させる、請求項14記載の方法。
【請求項20】
凍結乾燥段階が0℃〜20℃の棚温度の使用を含む、請求項14記載の方法。
【請求項21】
患者のエンドトキシン血症を予防または処置する方法であって、請求項1記載の組成物を該患者に投与する段階を含む方法。
【請求項22】
エンドトキシン血症の予防または処置における請求項1記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−519872(P2006−519872A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509152(P2006−509152)
【出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/006713
【国際公開番号】WO2004/078142
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】