エンボス付き離型紙の製造方法
【課題】合成皮革との剥離性の向上が可能であるとともにエンボス加工の賦型率を向上可能なエンボス付き離型紙の製造方法を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と離型基材1の表面上にCVD法により形成された剥離層2とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、凹凸を、所定の温度に冷却したエンボスロール50を熱溶融樹脂13と接触させ、熱溶融樹脂13を冷却固化するチルロールエンボス法により形成する。
【解決手段】表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と離型基材1の表面上にCVD法により形成された剥離層2とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、凹凸を、所定の温度に冷却したエンボスロール50を熱溶融樹脂13と接触させ、熱溶融樹脂13を冷却固化するチルロールエンボス法により形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス付き離型紙及びエンボス付き離型紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、布や不織布からなる基体の上に、革の表面層を高分子物質により構成した物で、表面層は、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリウレタンなどからなる、表面層の表面には、変性ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリル酸誘導体等からなる仕上げ層が形成され、仕上げ層に革しぼ模様等をエンボス加工してなるものである。
【0003】
エンボス加工には、表面に革しぼ模様等の逆型のついたエンボス離型紙が用いられる。エンボス離型紙への型付けは、例えば、基材上にコーティング材料を塗布し、コーティング材料を塗布した基材上に所定の温度に加熱したエンボス版を押し当てて、コーティング材料の表面を溶かすことにより行われる。
【0004】
エンボス加工における加工の達成度を、例えばエンボス加工用の版ローラにおける所定部位の基準面からの深度に対するエンボス加工品における対応部位の基準面からの深度の比、すなわち「賦型率」として表すことがある。この賦型率は、エンボス加工における様々な条件によって変化し、エンボス対象物体の品質に影響することが知られている。
【0005】
エンボス加工におけるエンボス圧力が小さい、或いは、溶融する樹脂の量が少ないと、塑性変形する量が低下するため賦型率が低下し、エンボス対象物への凹凸の形成が浅くなるという問題がある(例えば、特許文献1参照)。また、熱プレスによりエンボス加工を行った場合は、賦型率を約80%程度までしか向上できないことが知られている。
【0006】
賦型率を向上させるために、EB(電子線)の持つ高いエネルギーを利用したエンボス加工や、押し出し加工機から溶融樹脂を溶出させ、冷却ロールにより樹脂を冷却しながら固める押出加工によるエンボス加工方法が知られている。これらの加工に使用される樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリエステル、ナイロン等樹脂がある。
【0007】
しかしながら、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)等の樹脂によっては、110〜180℃程度しか耐熱性を発揮しないため、200〜250℃もの高温環境での乾燥を必要とするPVCレザーの製造には使用できない。逆に、ポリエステルやナイロン等の樹脂を用いた場合は、表皮膜としてウレタン樹脂を用いた場合に、ウレタン樹脂中のイソシアネートと反応するため、離型紙から合成皮革を剥離することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−146467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、合成皮革との剥離性の向上が可能であるとともにエンボス加工の賦型率を向上可能なエンボス付き離型紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明の態様は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材と離型基材の表面上にCVD法により形成された剥離層とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、凹凸を、所定の温度に冷却したエンボスロールを熱溶融樹脂と接触させ、熱溶融樹脂を冷却固化することにより形成するエンボス付き離型紙の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明は、合成皮革との剥離性の向上が可能であるとともにエンボス加工の賦型率を向上可能なエンボス付き離型紙の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の断面図である。
【図2】成膜時の原料ガスのモノマー対酸素の流量比が重量部で100:500である場合のIR分光スペクトルを示すグラフである。
【図3】成膜時の原料ガスのモノマー対酸素の流量比が重量部で100:1000である場合のIR分光スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第1の例を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第2の例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第3の例を示す断面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
(エンボス付き離型紙)
本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙は、図1に示すように、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と、離型基材1の表面上にCVD法により形成された剥離層2とを備える。
【0015】
離型基材1としては、例えば、上質紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、純白ロール紙、グラシン紙、及びカップ原紙などのシート上に、PE、PP、TPX、ポリエステル、ナイロン、アクリル系樹脂等の樹脂が塗工された材料等が用いられる。
【0016】
剥離層2としては、例えば、表面にメチル(CH3)基及びエチル(C2H5)基の少なくとも一方を表面に残すように形成したシリカ膜(SiO2膜)が好ましい。CH3基及びC2H5基の少なくとも一方を剥離層2の表面に形成することにより、ウレタン樹脂との剥離性が向上する。なお、本実施形態に係る「メチル基及びエチル基の少なくとも一方を表面に残すように形成したシリカ膜」は、Si原子に直接結合したメチル基を含む材料を用いて、CVD法により成膜することにより製造が可能である。CVD法における成膜条件等は後述する。
【0017】
剥離層2の表面上に残存するCH3基及びC2H5基の存在は、IR分光測定器を用いて確認できる。即ち、IR分光スペクトルで1280cm-1付近に現れるピークが、Si−CH3伸縮振動に起因するものである。そのため、1280cm-1付近に現れるピークの存在により、メチル基の存在が確認できる。
【0018】
図2は、剥離層2を、CVD法を用いて成膜した場合における成膜時の原料ガスのモノマー材料と酸素の比を、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが500重量部とした場合の例を表すグラフである。図3は、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが1000重量部とした場合の例を示すグラフである。図2の場合は、1280cm-1付近のピークが大きいことから、表面上にメチル基が存在していることがわかる。一方、図3の場合は、1280cm-1付近のピークが確認できないことから、表面上にはメチル基が残存していないことが推測される。
【0019】
剥離層2の膜厚Tとしては、1nm(10Å)以上であるのが好ましい。剥離層2の膜厚Tを1nmより薄くすると、剥離層2が連続膜として存在しなくなるため、剥離が難しくなる。一方、膜厚を100nmより厚くすると、生産性の観点から好ましくない上、エンボス形状が損なわれる場合も考えられる。エンボス付き離型紙を繰り返し利用するためには、膜厚Tを1〜100nm程度とするのが好ましい。
【0020】
剥離層2の表面は、ジヨードメタンに対する接触角が60°以上、更には60°〜65°程度を示すのが好ましい。剥離層2の表面の接触角を60°以上にすることにより、離型基材1の表面に形成された繊細な模様を、合成皮革の表皮層の表面上に再現性よく付与できるようになるとともに、合成皮革から離型紙を剥がす際の剥離性が向上する。なお、接触角の評価は、θ/2法にて液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めた。
【0021】
(エンボス付き離型紙の製造方法)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙を製造するためには、例えば、まず表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1を真空槽内に導する。そして、真空槽内に、Si原子とCH3基及びC2H5のいずれかを少なくとも含むモノマー材料と、酸素ガスを含む混合ガスを一定割合で導入し、CVD法により表面上に剥離層2を形成する。
【0022】
剥離層2の形成に用いられるモノマー材料としては、シリコン(Si)原子に直接結合したCH3を含むモノマー材料、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、オクタメチリシクロテトラシロキサン、メチルシラン、ジメチルシラン、トエリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン等が好ましく用いられる。
【0023】
他のモノマー材料としては、有機化合物であって常温で適当な蒸気圧を持ち、CVD法を実施することが可能な材料であればどのような材料でもよい。よって、例えばC3H8基などの炭素数が3以上の官能基をもつ材料を用いてCH3基及びC2H5のいずれかを少なくとも含むシリカ膜(剥離層2)をCVD法により製造することも理論的には可能と考えられる。しかし、現実にはこれらの材料は蒸気圧が非常に低いため、シリカ膜の作成が困難である。
【0024】
本実施形態に係る剥離層2を形成する場合には、モノマー材料のうちでも特に、HMDSO、TMDSO、オクタメチルシクロテトラシロキサンを用いるのが好ましい。これらのシロキサン材料は、剥離性を発現するCH3基が、結合が切れやすいSi−O結合やO−C結合を介してではなく、直接Si原子と結合しているため、膜中に安定して取り込まれやすくなるからである。
【0025】
混合ガスとしては、例えば酸素ガスが用いられる。酸素ガスの代わりに、オゾンガスや笑気ガス(N2Oガス)などを使用することも可能であるが、成膜効率やコストの面から、酸素ガスを用いるのが最も好ましい。なお、混合ガス中に、モノマー材料を効率よく真空槽中に導入するためのガス(キャリアガス)や、プラズマを発生させたりプラズマを増強させたりする目的のガスを増強して導入することも、必要に応じて行ってもよい。
【0026】
CVD法には、熱CVD法や光CVDなどいくつかの方法がある。本発明の目的とする剥離性を考慮すれば、低温成膜が可能で材料の利用効率が高いプラズマCVD法を採用するのが好ましい。
【0027】
プラズマCVD法として最も一般的な方法は、平行平板電極間に13.56MHzの電界を印加する方式である。すなわち、真空槽内に原料ガスを導入することで一定圧力(例えば、50mTorr)に維持し、真空槽内に設置した平板電極と該平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加する。例えば、500cm2の電極面積に対して300Wの電力を投入することで、グロー放電プラズマを発生させ、そのプラズマ流を利用することで原料ガスを化学的に反応させることにより、シリカ膜からなる剥離層2が形成可能である。剥離層2を形成させるための離型基材1は、通常、アース電極の表面に設置するが、RF電力を印加する平板電極側に設置してもよい。
【0028】
本実施形態においては、13.56MHzのRF交流電圧を印加する代わりに、より低い周波数(40kHzや50kHzなど)を印加したり、より高い周波数(2.45GHzなど)を印加することも可能である。また、直流電圧を印加してもよい。平板電極の代わりに、ガスの吹き出しによりプラズマ流を発生させるようなホローカソード電極を利用したり、外部コイルから誘導プラズマを発生させたりすることも可能である。磁界を用いたり、ECR共鳴現象(電場と磁場とを適切に調節することで、プラズマ中の電子をサイクロトロン共鳴させる現象)を用いたりして、プラズマ密度を高めたりすることも可能である。
【0029】
CVD法の成膜条件には、CVD法の方式(投入電力周波数、電極構造など)以外にも、投入電力、ガス流量、成膜圧力、電極間距離など様々なパラメータがあるが、ウレタン剥離性に影響を持つのは、成膜時におけるモノマー材料と酸素ガスの流量比である。即ち、酸素に対してモノマー材料が多く供給される場合には、反応しきれないCH3基が剥離層中に残存するため、高い剥離性を発現する。一方、十分な酸素が供給された場合には、CH3基がすべて分解されるため、膜中にCH3基が存在しなくなる。その結果、ジヨードメタンに対する接触角が小さくなり、ウレタン樹脂との剥離性が悪くなる。
【0030】
原料としてHMDSOを用いた場合において、原料がすべてSiO2とCO2、H2Oになる理想状態を想定した場合は、HMDSOが100重量部に対して酸素ガスが1000重量部の流量比が必要である。しかしながら、このような流量比でCVD法を実施しても、現実的にはメタノール(CH3OH)やホルムアルデヒド(HCHO)などの中間反応物が生成されたり、材料自体が排気されたりする場合がある。また、反応できなかった酸素が排気される場合もあるため、CVD法に必要とされるモノマー材料と酸素ガスの流量比は化学式通りにはならない。
【0031】
本発明者らは、種々の実験結果に基づき鋭意検討した結果、離型基材1上に剥離層2をCVD法により形成する場合には、モノマー材料の流量100重量部に対して酸素ガスの流量が500重量部である場合において、ジヨードメタンに対する接触角が60°の防湿性を出すのに必要な剥離層2となることを見出した。なお、酸素ガスの流量を500重量部より増加させれば、一般的に接触角の値が小さくなる傾向にあることが分かった。酸素ガスの流量を500重量部より減少させれば、一般的に接触角の値が大きくなる傾向にあることが分かった。
【0032】
表3に、モノマー材料と酸素ガスの流量比に関連して得られたシリカ膜のジヨードメタンに対する接触角についての評価結果の例を示す。表3における「剥離性」の評価は、表1に示す組成のポリエステル系ポリウレタン樹脂組成物を調整し、CVD法により形成された剥離層2を表面に有する剥離紙(離型基材)上にポリエステル系ポリウレタン樹脂組成物を乾燥厚み20μになるようにナイフコーターで塗布し、160℃で1分間熱風乾燥してウレタン表皮層を形成した。このウレタン表皮層に接着剤層として、表2に示す2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤を乾燥厚み40μとなるようにナイフコーターで塗布し、基布を貼り合せ、130℃、5分乾燥、更に、40℃、48時間熟成して接着剤を反応固化させた後、剥離紙とウレタン表皮層との剥離強度(測定幅15mm幅、90°剥離)を測定し、100g/15mm幅以上の場合を×、50g以上100g/15mm幅未満の場合を○として評価したものである。なお、接触角の評価は、θ/2法にて、液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めた。
【表1】
【表2】
【表3】
【0033】
表3に示すように、モノマー材料と酸素ガスの流量比を100:500にした場合は、ジヨードメタンの接触角が60°以上となり、表皮膜として使用されるウレタン樹脂のイソシアネートとの剥離性が高いことがわかる。また、ジヨードメタンの接触角が60°以上で酸素ガスを流さない場合(流量比100:0)においても、剥離性において好適な効果が得られていることが分かる。
【0034】
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法によれば、モノマー材料と酸素ガスの流量比を一定範囲に制御しながら、離型基材1の表面上に例えば膜厚約1〜100nmの剥離層2をCVD法により形成する。剥離層2は、表面にCH3基および/またはC2H5基を有しているため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離させることができる。CVD法により形成された剥離層2としてのシリカ膜は、200℃以上の高温条件下でも耐熱性を有するため、ポリウレタンレザーの他にも、高温環境での処理を必要とする合成皮革、例えばセミ合皮、PVCレザー等の様々な種類の合成樹脂の製造にも適用可能であり、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。
【0035】
なお、CVD法による蒸着方法の他に、PVD法による蒸着方法も考えられる。しかしながら、PVD法は、蒸着時にメチル基(カーボン)の導入が難しいため実用的ではない。
【0036】
(合成皮革の製造方法)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙を用いて合成皮革を製造する際は、例えば、図4に示すように、まず、剥離層2上に、ウレタン樹脂及び着色剤等を含む溶融樹脂の塗料を塗工し、剥離層2上に表皮層3を形成する。図5に示すように、表皮層3上に基布等の内皮シート4を貼り合わせた後、表皮層3を硬化させる。その後、図6に示すように、表皮層3を剥離層2から剥離させることにより、内皮シート4及び内皮シート4上に配置された表皮層3を備えた合成皮革5が得られる。
【0037】
実施の形態に係る合成皮革の製造方法によれば、表皮層3中のウレタン樹脂と剥離層2との剥離性を高くすることができるので、同一の離型紙を何度も繰り返して利用することができる。その結果、製造コストを低く抑えることができるので、合成皮革の生産性を高くできる。
【0038】
(エンボス付き離型紙の第1の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第1の例を図7に示す。なお、図7は一例であり、他にも種々の態様が存在することは勿論である。図7に示すエンボス付き離型紙は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と、離型基材1の表面にCVD法により形成された剥離層2とを有し、離型基材1が、支持シート11と、支持シート11上の中間層12と、中間層12上のエンボス層13と、エンボス層13上のコート層14とを備えている。
【0039】
支持シート11としては、上質紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、純白ロール紙、グラシン紙、及びカップ原紙などの非塗工紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の無機顔料塗工層が塗工された塗工紙、及び天然パルプを用いない合成紙等が使用可能である。
【0040】
例えば、図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、支持シート11として、硫酸アルミニウム等の定着剤及びロジン系サイズ剤を用いて抄紙された酸性紙を使用してもよい。図7に示すエンボス付き離型紙が200℃以上の環境で使用される場合は、硫酸アルミニウムを定着剤として使用しない中性ロジン系サイズ剤、あるいはアルキルケテンダイマー(AKD)及びアルケニル無水琥珀酸(ASA)等の中性サイズ剤を用いて抄紙された中性紙を支持シート11として使用可能である。また硫酸アルミニウムを使用し、pH6〜pH9で抄紙された中性紙も使用可能である。
【0041】
また、支持シート11中に、カチオン性のポリアクリルアミド及びカチオン性デンプン等の定着剤、製紙用各種填料、歩留向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、結合剤、分散剤、凝集剤、可塑剤、及び接着剤等を含んでいてもよい。支持シート11は、耐薬品性を有していてもよい。
【0042】
中間層12は、アクリル系樹脂、並びにポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、並びにシリコーン系樹脂、アミノアルキッドを含むアルキッド系樹脂等を含む。例えば、図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、中間層12としては、耐熱性に優れるポリプロピレン系樹脂を含んでもよい。その場合、中間層12は、プロピレンを主成分とし、プロピレンと、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、及び4-ポリメチルペンテン-1等のα-オレフィンとの共重合体を含んでいてもよい。図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、中間層12は、融点の高いポリメチルペンテン系樹脂を含んでもよい。ポリメチルペンテン系樹脂の例としては、4-メチル-1-ペンテン等がある。またポリメチルペンテン系樹脂の例としては、4-メチル-1-ペンテンを主成分とし、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、及び1-オクタデセン等の炭素数2から20のα-オレフィンとの共重合体がある。
【0043】
中間層12の表面は、エンボス層13との接着密度を向上させるための表面処理が施されていてもよい。表面処理の例としては、フレーム処理、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、グロー放電処理、及び化学薬品等を用いて処理する酸化処理等がある。なお、中間層12の膜厚は、例えば3μmから40μm、好ましくは5μmから20μmとすることができる。なお、中間層12を発泡層とすることにより、上層のエンボス層13に凹凸が形成されやすくなる上、中間層12の厚みを厚く制御することもできる。
【0044】
エンボス層13は、電離放射線又は紫外線で硬化される樹脂を含む。電離放射線又は紫外線で硬化される樹脂とは、イソシアネート化合物と、メタクリロイル基を有しイソシアネート化合物と反応するメタクリル化合物との反応生成物に電離放射線又は紫外線を照射して形成されるポリウレタンアクリレート等の樹脂を指す。電離放射線又は紫外線で硬化された樹脂とは、イソシアネート化合物と、アクリロイル基を有しイソシアネート化合物と反応するアクリル化合物との反応生成物に電離放射線又は紫外線を照射して形成されるポリウレタンアクリレート等の樹脂を指す。
【0045】
コート層14上には、例えば、熱エンボス加工により、深い溝パターン3aと浅い溝パターン3bが形成されている。エンボス層13上にコート層14が配置されることにより、後述する図8の製造装置を用いて離型基材の最表面をエンボス加工する場合に、離型基材がエンボス加工装置(エンボスロール)に付着しないため、剥離が容易になる。なお、コート層14は、必要に応じて形成しなくてもよい。
【0046】
コート層14としては、例えば膜厚が0.01μmから20μmであり付加重合型シリコーン材料が付加重合した付加重合シリコーン等が利用可能である。付加重合型シリコーン材料とは、少なくともアルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等がある。オルガノポリシロキサンの例としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(5-ヘキセニル)シロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルヒドロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルヒドロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体がある。例示されたアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに分類されるそれぞれ物質は、コート層14に単独で含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0047】
第1の例に係るエンボス付き離型紙によれば、離型基材1の表面上に膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されるため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離させることができるとともに、200℃以上の高温条件下においても耐熱性を有し、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。また、図7の離型基材1は、コート層14が配置されているので、エンボス加工時に、離型基材1がエンボス加工装置(エンボスロール)に付着しないため、剥離が容易になる。
【0048】
図7に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図8に示す。図8に示す製造装置は、離型基材1に形成された表面の凹凸(溝パターン3a,3b)を熱エンボス加工によって形成する装置の一例を示している。
【0049】
図8に示す製造装置は、シート17を巻き出す巻き出し部20と、シート17の片面に熱溶融樹脂膜を主成分とするコーティング材料22を塗工するコーティング部21と、コーティング後のシート17を乾燥する乾燥炉23と、シート17の表面にエンボス加工を施す第1のエンボス部24a、第2のエンボス部25bと、エンボス層が形成されたシート17に紫外線又は電子線を照射させる照射装置26と、電子線又は紫外線照射後の表面層に、CVD法により、実施の形態に係る剥離層2を形成するCVD装置28と、剥離層2を形成したシート17を巻き取り部29とを備える。
【0050】
なお、図8では、コーティング部21、乾燥炉23、エンボス部24a、24b、照射装置26、CVD装置28を、連続する一つの装置として説明しているが、それぞれの作業を連続的に行わない別の装置を用いてもよいことは勿論である。
【0051】
図7のエンボス付き離型紙を製造する場合は、例えば、図9のフローチャートに示すように、まず、ステップS11において支持シート11を用意する。支持シート11を図5の巻き取り部から巻きだし、ステップS12に示すように、図8のコーティング部21において支持シート11上に中間層用樹脂を塗布する。その後、ステップS13に示すように、中間層用樹脂に含まれる溶剤を図8の乾燥炉23で蒸発させ、支持シート11上に中間層12を形成する。次に、中間層12上に、コーティング部により、たとえばアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂を塗布し、乾燥炉でエンボス層用樹脂に含まれる溶剤を乾燥させて中間層12上にエンボス層13を配置する。更に、エンボス層13上に、付加重合型シリコーン材料等のコート材料を塗布し、乾燥炉でコート材料に含まれる溶剤を乾燥させてエンボス層13上にコート層14を形成する。
【0052】
ステップS14において、図8の第1のエンボス部24aにおいて、例えば50〜150℃に加熱され、表面にシボ模様等の浅い溝パターンが形成されたエンボスロールをコート層14上に押しつけ、コート層14上の表面に、図7示す浅い溝パターン3bを形成させる。引き続き、ステップS15において、第2のエンボス部25bにおいて例えば、50〜150℃に加熱され、表面に深い溝パターンが形成されたエンボスロールをコート層14上に押しつけ、コート層14上の表面に図5に示す深い溝パターン3aを形成させる。次に、ステップS15において浅い溝パターン3bと深い溝パターン3aが表面に形成されたコート層14の上から、照射装置26により電子線等の電離放射線又は紫外線を照射し、エンボス層13中の樹脂を硬化させる。
【0053】
次に、ステップS16において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置28に搬入する。CVD装置28の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100重量部に対して酸素ガスの流量を0〜500重量部の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、シリカ膜からなる剥離層2を形成して、図7に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0054】
(エンボス付き離型紙の第2の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第2の例を図10に示す。図10に示すエンボス付き離型紙は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と離型基材の表面にCVD法により形成された剥離層2とを備え、離型基材1が、支持シート11と、支持シート11上の中間層12と、中間層12上のエンボス層13とを有しており、エンボス層13の表面の凹凸が、電子線(EB:Electron beam)照射により硬化されたものである点が、第1の例と異なる。
【0055】
図10のエンボス層13としては、例えば、アクリル系樹脂とシリコーン樹脂を含む樹脂が用いられる。エンボス層13として、ポリエステル、ナイロン等の比較的高融点の材料を用いることにより、第2の例に係るエンボス付き離型紙を、PVCレザー用途に利用することもできる。
【0056】
図10に示すエンボス層13の凹凸は、EB照射により硬化されているため、100%に近い賦型率が得られており、賦型率が約80%程度しか得られない熱エンボス加工にくらべて、表面の凹凸が、より精密に再現されている。なお、本実施形態において「賦型率」とは、エンボス加工用のローラにおける所定部位の基準面からの深度に対するエンボス加工品における対応部位の基準面からの深度の比を指す。
【0057】
第2の例に係るエンボス付き離型紙においても、離型基材1の表面上に膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されているため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離できるとともに、200℃以上の高温条件下においても耐熱性を有し、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。
【0058】
図10に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図11に示す。図11に示す製造装置は、離型基材1に形成されたエンボス層13の表面の凹凸をEB照射により形成する装置の例を示している。
【0059】
図11に示す製造装置は、シート17を巻き出す巻き出し部30と、シート17の片面にコーティング材料32を塗工するコーティング部31、36と、表面に凹凸を有するローラ35と、シート17をローラ35に押し付けるガイドローラ33、37と、シート17に電子線を照射してシート17の片面に凹凸を形成する電子線照射装置34と、凹凸形成後のシート17の表面にCVD法により剥離層2を形成するCVD装置37と、剥離層2を形成したシート17を巻き取る巻き取り部39とを備える。
【0060】
図10のエンボス付き離型紙を製造する場合は、例えば、図12のフローチャートに示すように、まず、ステップS21において支持シート11を用意する。支持シート11を図5の巻き取り部から巻きだし、ステップS22に示すように、図8のコーティング部21において支持シート11上に中間層用樹脂を塗布する。中間層用樹脂を塗工した支持シート11上に、コーティング部36により、たとえばアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂を塗布し、電子線照射装置34により電子線を照射して表面に凹凸を有するエンボス層13を形成する。
【0061】
次に、ステップS24において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置28に搬入する。CVD装置28の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100に対して酸素ガスの流量を0〜500の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、シリカ膜からなる剥離層2を形成して、図10に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0062】
(エンボス付き離型紙の第3の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第3の例を図13に示す。図13に示すエンボス付き離型紙は、エンボス層13の表面の凹凸が、冷却ロール(チルロール)を用いた押し出し加工法(Chill roll extrusion)によって形成されたものである点が、第2の例と異なる。
【0063】
図13のエンボス層13としては、例えば、アクリル系樹脂とシリコーン樹脂を含む樹脂が用いられる。エンボス層13として、ポリエステル、ナイロン等の比較的高融点の材料を用いてもよい。
【0064】
従来、熱プレス等によりエンボス層13の凹凸を形成する場合、賦型率が80%程度しか得られないため、細かいエンボスパターンの賦型は難しいという問題があった。これに対し、第3の例に係るエンボス付き離型紙によれば、チルロールを用いた押出加工法によりエンボス層13の凹凸が形成されるため、エンボス層13の賦型率をほぼ100%とすることができ、エンボス付き離型紙の表面に微細なエンボスパターンを形成できる。
【0065】
更に、第1及び第2の例に係る離型紙と同様に、第3の例に係るエンボス付き離型紙においても、離型基材1の表面上に、膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されるため、合成皮革の表皮層としてウレタン樹脂を用いた場合に、表皮層から離型紙を容易に剥離させることができる。剥離層2は、エンボス層13のエンボスパターンの形状を損なわない程度に蒸着されているため、離型基材1の表面に形成された繊細な模様を、合成皮革の表皮層の表面上に再現性よく付与できる。
【0066】
図13に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図14に示す。図14に示す製造装置は、離型基材1に形成されたエンボス層13の表面の凹凸をチルロールを用いた押出加工により形成する装置の一例を示している。なお、図14に示す例は一例であり、他にも様々な態様が用いられることは勿論である。
【0067】
図14に示す製造装置は、溶融樹脂を押し出す第1の押し出し機70A、及び溶融樹脂を押し出す第2の押し出し機70Bを備える。第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bのそれぞれから押し出された溶融樹脂は、アダプタ73を介してフラットダイ(Tダイ)75に到達する。フラットダイ75によって、第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bのそれぞれから押し出された溶融樹脂は、2層のシート状に成型される。フラットダイ75の下方には、バックアップロール60及び冷却ロール50が配置されている。バックアップロール60及び冷却ロール50によって、例えば、支持シート11上に中間層用樹脂とアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂がラミネートできる。
【0068】
図13のエンボス付き離型紙を製造する場合は、図15のフローチャートに示すように、まず、ステップS31において支持シート11を用意し、ステップS32に示すように、支持シート11上にコロナ処理等の前処理を施す。その後、ポリプロピレン系樹脂もしくは、ポリメチルペンテン系樹脂もしくは、及びポリエチレン系樹脂の組成物を含む中間層用溶融樹脂及びアクリル系電離放射線硬貨樹脂を含むエンボス層用溶融樹脂を準備する。
【0069】
ステップS33において、中間層用溶融樹脂を図14に示す第1の押し出し機70Aに充填し、エンボス層用溶融樹脂を第2の押し出し機70Bに充填する。中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂に含まれる樹脂の融点、MFR、マット剤、並びに樹脂とマット剤の配合量等に応じて、第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bを加熱する。その後、アダプタ73を介して、中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂をフラットダイ75に押し出し、フラットダイ75から層状に成型された中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂を共押し出しする。
【0070】
ステップS34において、支持シート11と、層状に成型された中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂とをバックアップロール60及び20〜30℃に冷却した冷却ロール50によってラミネートし、支持シート11上に中間層12と、中間層12上に配置された凹凸を有するエンボス層13を形成させる。その後、ステップS34において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置に搬入する。CVD装置の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100に対して酸素ガスの流量を0〜500の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、膜厚1〜100nm程度のシリカ膜からなる剥離層2を形成して、図13に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0071】
(剥離層の実施例)
平行平板型プラズマCVD装置PE401(アネルバ(株)製)内に本発明の実施の形態に係る離型基材1を載置し、成膜前の到達真空度を0.02mTorrとし、Arガスをキャリアーガスとし、原料ガスとして酸素、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)を室温でバブリングし、装置内に供給した。
【0072】
酸素ガスの流量は、30sccm、またモノマーの流量が6.0sccmとなるようにArガス流量を調節した。成膜圧力が50mTorrとなるように、コンダクタンスバルブを調節した。
【0073】
100W、13.56MHzの電力を、上部平板電極と下部アース電極の間に印加することによりプラズマを生成した。離型基材1は、下部アース電極上に設置し、シリカ膜を成膜した。成膜時間は10分とした。成膜室内に同時にシリコンウェハを置き、エリプソメトリー法で膜厚を測定し、約100nmのシリカ膜が形成されたことを確認した。メチル基の存在は、IR分光法により確認した。評価方法はジヨードメタンに対する接触角により評価した。
【0074】
比較のために、酸素ガス流量30sccm、モノマー流量を3.0sccmとし、表面mんにメチル基が残存しない膜を作成して評価した。その結果、前者の接触角は65.1度であるのに対して、後者の接触角は、53.0度であった。
【0075】
CVD法に使用された装置は、真空巻取り装置を使用した。チャンバの到達圧力を0.05Torrとし、チャンバ内に酸素ガスおよびHMDSOからなる原料ガスを導入し、45mTorrの圧力にした。導入した原料ガスの流量は、酸素ガスが0slm、HMDSOが2slmであった。HMDSOは80℃に加熱したガス供給系を使用し、キャリアーガスを使用しなかった。成膜ドラムはフィルム基材の熱ダメージをなくすため、−10℃に冷却した。成膜ドラムに対向した位置にある平板電極(成膜ドラムからの距離3cm、電極の面積70cm×20cm)に13.56MHzのRf交流電圧を印加し(1.5kW)、電気的にアースされた成膜ドラムとの間でプラズマを作成し、基材上に成膜を行った。フィルムの走行速度は30m/分であった。
【0076】
このようにして作成した実施の形態に係る剥離層付きエンボス離型紙を、剥離層のないエンボス付き離型紙、すなわちCVD成膜を行わない場合は同一の条件で製造した離型紙とエンボス形状について比較したが、両者に差がなかった。すなわち、エンボス付き離型紙フィルム上に剥離層をCVD法で形成しても、エンボス形状が損なわれることがなかった。
【0077】
このように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになろう。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…離型基材
2…剥離層
3…表皮層
4…内皮シート
5…合成皮革
11…支持シート
12…中間層
13…エンボス層
14…コート層
17…シート
28、37…CVD装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス付き離型紙及びエンボス付き離型紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、布や不織布からなる基体の上に、革の表面層を高分子物質により構成した物で、表面層は、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリウレタンなどからなる、表面層の表面には、変性ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリル酸誘導体等からなる仕上げ層が形成され、仕上げ層に革しぼ模様等をエンボス加工してなるものである。
【0003】
エンボス加工には、表面に革しぼ模様等の逆型のついたエンボス離型紙が用いられる。エンボス離型紙への型付けは、例えば、基材上にコーティング材料を塗布し、コーティング材料を塗布した基材上に所定の温度に加熱したエンボス版を押し当てて、コーティング材料の表面を溶かすことにより行われる。
【0004】
エンボス加工における加工の達成度を、例えばエンボス加工用の版ローラにおける所定部位の基準面からの深度に対するエンボス加工品における対応部位の基準面からの深度の比、すなわち「賦型率」として表すことがある。この賦型率は、エンボス加工における様々な条件によって変化し、エンボス対象物体の品質に影響することが知られている。
【0005】
エンボス加工におけるエンボス圧力が小さい、或いは、溶融する樹脂の量が少ないと、塑性変形する量が低下するため賦型率が低下し、エンボス対象物への凹凸の形成が浅くなるという問題がある(例えば、特許文献1参照)。また、熱プレスによりエンボス加工を行った場合は、賦型率を約80%程度までしか向上できないことが知られている。
【0006】
賦型率を向上させるために、EB(電子線)の持つ高いエネルギーを利用したエンボス加工や、押し出し加工機から溶融樹脂を溶出させ、冷却ロールにより樹脂を冷却しながら固める押出加工によるエンボス加工方法が知られている。これらの加工に使用される樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリエステル、ナイロン等樹脂がある。
【0007】
しかしながら、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)等の樹脂によっては、110〜180℃程度しか耐熱性を発揮しないため、200〜250℃もの高温環境での乾燥を必要とするPVCレザーの製造には使用できない。逆に、ポリエステルやナイロン等の樹脂を用いた場合は、表皮膜としてウレタン樹脂を用いた場合に、ウレタン樹脂中のイソシアネートと反応するため、離型紙から合成皮革を剥離することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−146467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点を鑑み、本発明は、合成皮革との剥離性の向上が可能であるとともにエンボス加工の賦型率を向上可能なエンボス付き離型紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明の態様は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材と離型基材の表面上にCVD法により形成された剥離層とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、凹凸を、所定の温度に冷却したエンボスロールを熱溶融樹脂と接触させ、熱溶融樹脂を冷却固化することにより形成するエンボス付き離型紙の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明は、合成皮革との剥離性の向上が可能であるとともにエンボス加工の賦型率を向上可能なエンボス付き離型紙の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の断面図である。
【図2】成膜時の原料ガスのモノマー対酸素の流量比が重量部で100:500である場合のIR分光スペクトルを示すグラフである。
【図3】成膜時の原料ガスのモノマー対酸素の流量比が重量部で100:1000である場合のIR分光スペクトルを示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る合成皮革の製造方法を説明する断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第1の例を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第2の例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第3の例を示す断面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造装置の一例を示す概略図である。
【図15】本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
(エンボス付き離型紙)
本発明の実施の形態に係るエンボス付き離型紙は、図1に示すように、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と、離型基材1の表面上にCVD法により形成された剥離層2とを備える。
【0015】
離型基材1としては、例えば、上質紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、純白ロール紙、グラシン紙、及びカップ原紙などのシート上に、PE、PP、TPX、ポリエステル、ナイロン、アクリル系樹脂等の樹脂が塗工された材料等が用いられる。
【0016】
剥離層2としては、例えば、表面にメチル(CH3)基及びエチル(C2H5)基の少なくとも一方を表面に残すように形成したシリカ膜(SiO2膜)が好ましい。CH3基及びC2H5基の少なくとも一方を剥離層2の表面に形成することにより、ウレタン樹脂との剥離性が向上する。なお、本実施形態に係る「メチル基及びエチル基の少なくとも一方を表面に残すように形成したシリカ膜」は、Si原子に直接結合したメチル基を含む材料を用いて、CVD法により成膜することにより製造が可能である。CVD法における成膜条件等は後述する。
【0017】
剥離層2の表面上に残存するCH3基及びC2H5基の存在は、IR分光測定器を用いて確認できる。即ち、IR分光スペクトルで1280cm-1付近に現れるピークが、Si−CH3伸縮振動に起因するものである。そのため、1280cm-1付近に現れるピークの存在により、メチル基の存在が確認できる。
【0018】
図2は、剥離層2を、CVD法を用いて成膜した場合における成膜時の原料ガスのモノマー材料と酸素の比を、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが500重量部とした場合の例を表すグラフである。図3は、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが1000重量部とした場合の例を示すグラフである。図2の場合は、1280cm-1付近のピークが大きいことから、表面上にメチル基が存在していることがわかる。一方、図3の場合は、1280cm-1付近のピークが確認できないことから、表面上にはメチル基が残存していないことが推測される。
【0019】
剥離層2の膜厚Tとしては、1nm(10Å)以上であるのが好ましい。剥離層2の膜厚Tを1nmより薄くすると、剥離層2が連続膜として存在しなくなるため、剥離が難しくなる。一方、膜厚を100nmより厚くすると、生産性の観点から好ましくない上、エンボス形状が損なわれる場合も考えられる。エンボス付き離型紙を繰り返し利用するためには、膜厚Tを1〜100nm程度とするのが好ましい。
【0020】
剥離層2の表面は、ジヨードメタンに対する接触角が60°以上、更には60°〜65°程度を示すのが好ましい。剥離層2の表面の接触角を60°以上にすることにより、離型基材1の表面に形成された繊細な模様を、合成皮革の表皮層の表面上に再現性よく付与できるようになるとともに、合成皮革から離型紙を剥がす際の剥離性が向上する。なお、接触角の評価は、θ/2法にて液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めた。
【0021】
(エンボス付き離型紙の製造方法)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙を製造するためには、例えば、まず表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1を真空槽内に導する。そして、真空槽内に、Si原子とCH3基及びC2H5のいずれかを少なくとも含むモノマー材料と、酸素ガスを含む混合ガスを一定割合で導入し、CVD法により表面上に剥離層2を形成する。
【0022】
剥離層2の形成に用いられるモノマー材料としては、シリコン(Si)原子に直接結合したCH3を含むモノマー材料、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、オクタメチリシクロテトラシロキサン、メチルシラン、ジメチルシラン、トエリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン等が好ましく用いられる。
【0023】
他のモノマー材料としては、有機化合物であって常温で適当な蒸気圧を持ち、CVD法を実施することが可能な材料であればどのような材料でもよい。よって、例えばC3H8基などの炭素数が3以上の官能基をもつ材料を用いてCH3基及びC2H5のいずれかを少なくとも含むシリカ膜(剥離層2)をCVD法により製造することも理論的には可能と考えられる。しかし、現実にはこれらの材料は蒸気圧が非常に低いため、シリカ膜の作成が困難である。
【0024】
本実施形態に係る剥離層2を形成する場合には、モノマー材料のうちでも特に、HMDSO、TMDSO、オクタメチルシクロテトラシロキサンを用いるのが好ましい。これらのシロキサン材料は、剥離性を発現するCH3基が、結合が切れやすいSi−O結合やO−C結合を介してではなく、直接Si原子と結合しているため、膜中に安定して取り込まれやすくなるからである。
【0025】
混合ガスとしては、例えば酸素ガスが用いられる。酸素ガスの代わりに、オゾンガスや笑気ガス(N2Oガス)などを使用することも可能であるが、成膜効率やコストの面から、酸素ガスを用いるのが最も好ましい。なお、混合ガス中に、モノマー材料を効率よく真空槽中に導入するためのガス(キャリアガス)や、プラズマを発生させたりプラズマを増強させたりする目的のガスを増強して導入することも、必要に応じて行ってもよい。
【0026】
CVD法には、熱CVD法や光CVDなどいくつかの方法がある。本発明の目的とする剥離性を考慮すれば、低温成膜が可能で材料の利用効率が高いプラズマCVD法を採用するのが好ましい。
【0027】
プラズマCVD法として最も一般的な方法は、平行平板電極間に13.56MHzの電界を印加する方式である。すなわち、真空槽内に原料ガスを導入することで一定圧力(例えば、50mTorr)に維持し、真空槽内に設置した平板電極と該平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加する。例えば、500cm2の電極面積に対して300Wの電力を投入することで、グロー放電プラズマを発生させ、そのプラズマ流を利用することで原料ガスを化学的に反応させることにより、シリカ膜からなる剥離層2が形成可能である。剥離層2を形成させるための離型基材1は、通常、アース電極の表面に設置するが、RF電力を印加する平板電極側に設置してもよい。
【0028】
本実施形態においては、13.56MHzのRF交流電圧を印加する代わりに、より低い周波数(40kHzや50kHzなど)を印加したり、より高い周波数(2.45GHzなど)を印加することも可能である。また、直流電圧を印加してもよい。平板電極の代わりに、ガスの吹き出しによりプラズマ流を発生させるようなホローカソード電極を利用したり、外部コイルから誘導プラズマを発生させたりすることも可能である。磁界を用いたり、ECR共鳴現象(電場と磁場とを適切に調節することで、プラズマ中の電子をサイクロトロン共鳴させる現象)を用いたりして、プラズマ密度を高めたりすることも可能である。
【0029】
CVD法の成膜条件には、CVD法の方式(投入電力周波数、電極構造など)以外にも、投入電力、ガス流量、成膜圧力、電極間距離など様々なパラメータがあるが、ウレタン剥離性に影響を持つのは、成膜時におけるモノマー材料と酸素ガスの流量比である。即ち、酸素に対してモノマー材料が多く供給される場合には、反応しきれないCH3基が剥離層中に残存するため、高い剥離性を発現する。一方、十分な酸素が供給された場合には、CH3基がすべて分解されるため、膜中にCH3基が存在しなくなる。その結果、ジヨードメタンに対する接触角が小さくなり、ウレタン樹脂との剥離性が悪くなる。
【0030】
原料としてHMDSOを用いた場合において、原料がすべてSiO2とCO2、H2Oになる理想状態を想定した場合は、HMDSOが100重量部に対して酸素ガスが1000重量部の流量比が必要である。しかしながら、このような流量比でCVD法を実施しても、現実的にはメタノール(CH3OH)やホルムアルデヒド(HCHO)などの中間反応物が生成されたり、材料自体が排気されたりする場合がある。また、反応できなかった酸素が排気される場合もあるため、CVD法に必要とされるモノマー材料と酸素ガスの流量比は化学式通りにはならない。
【0031】
本発明者らは、種々の実験結果に基づき鋭意検討した結果、離型基材1上に剥離層2をCVD法により形成する場合には、モノマー材料の流量100重量部に対して酸素ガスの流量が500重量部である場合において、ジヨードメタンに対する接触角が60°の防湿性を出すのに必要な剥離層2となることを見出した。なお、酸素ガスの流量を500重量部より増加させれば、一般的に接触角の値が小さくなる傾向にあることが分かった。酸素ガスの流量を500重量部より減少させれば、一般的に接触角の値が大きくなる傾向にあることが分かった。
【0032】
表3に、モノマー材料と酸素ガスの流量比に関連して得られたシリカ膜のジヨードメタンに対する接触角についての評価結果の例を示す。表3における「剥離性」の評価は、表1に示す組成のポリエステル系ポリウレタン樹脂組成物を調整し、CVD法により形成された剥離層2を表面に有する剥離紙(離型基材)上にポリエステル系ポリウレタン樹脂組成物を乾燥厚み20μになるようにナイフコーターで塗布し、160℃で1分間熱風乾燥してウレタン表皮層を形成した。このウレタン表皮層に接着剤層として、表2に示す2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤を乾燥厚み40μとなるようにナイフコーターで塗布し、基布を貼り合せ、130℃、5分乾燥、更に、40℃、48時間熟成して接着剤を反応固化させた後、剥離紙とウレタン表皮層との剥離強度(測定幅15mm幅、90°剥離)を測定し、100g/15mm幅以上の場合を×、50g以上100g/15mm幅未満の場合を○として評価したものである。なお、接触角の評価は、θ/2法にて、液滴の左右端点と頂点を結ぶ直線の、固体表面に対する角度から接触角を求めた。
【表1】
【表2】
【表3】
【0033】
表3に示すように、モノマー材料と酸素ガスの流量比を100:500にした場合は、ジヨードメタンの接触角が60°以上となり、表皮膜として使用されるウレタン樹脂のイソシアネートとの剥離性が高いことがわかる。また、ジヨードメタンの接触角が60°以上で酸素ガスを流さない場合(流量比100:0)においても、剥離性において好適な効果が得られていることが分かる。
【0034】
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の製造方法によれば、モノマー材料と酸素ガスの流量比を一定範囲に制御しながら、離型基材1の表面上に例えば膜厚約1〜100nmの剥離層2をCVD法により形成する。剥離層2は、表面にCH3基および/またはC2H5基を有しているため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離させることができる。CVD法により形成された剥離層2としてのシリカ膜は、200℃以上の高温条件下でも耐熱性を有するため、ポリウレタンレザーの他にも、高温環境での処理を必要とする合成皮革、例えばセミ合皮、PVCレザー等の様々な種類の合成樹脂の製造にも適用可能であり、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。
【0035】
なお、CVD法による蒸着方法の他に、PVD法による蒸着方法も考えられる。しかしながら、PVD法は、蒸着時にメチル基(カーボン)の導入が難しいため実用的ではない。
【0036】
(合成皮革の製造方法)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙を用いて合成皮革を製造する際は、例えば、図4に示すように、まず、剥離層2上に、ウレタン樹脂及び着色剤等を含む溶融樹脂の塗料を塗工し、剥離層2上に表皮層3を形成する。図5に示すように、表皮層3上に基布等の内皮シート4を貼り合わせた後、表皮層3を硬化させる。その後、図6に示すように、表皮層3を剥離層2から剥離させることにより、内皮シート4及び内皮シート4上に配置された表皮層3を備えた合成皮革5が得られる。
【0037】
実施の形態に係る合成皮革の製造方法によれば、表皮層3中のウレタン樹脂と剥離層2との剥離性を高くすることができるので、同一の離型紙を何度も繰り返して利用することができる。その結果、製造コストを低く抑えることができるので、合成皮革の生産性を高くできる。
【0038】
(エンボス付き離型紙の第1の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第1の例を図7に示す。なお、図7は一例であり、他にも種々の態様が存在することは勿論である。図7に示すエンボス付き離型紙は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と、離型基材1の表面にCVD法により形成された剥離層2とを有し、離型基材1が、支持シート11と、支持シート11上の中間層12と、中間層12上のエンボス層13と、エンボス層13上のコート層14とを備えている。
【0039】
支持シート11としては、上質紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、純白ロール紙、グラシン紙、及びカップ原紙などの非塗工紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙等の無機顔料塗工層が塗工された塗工紙、及び天然パルプを用いない合成紙等が使用可能である。
【0040】
例えば、図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、支持シート11として、硫酸アルミニウム等の定着剤及びロジン系サイズ剤を用いて抄紙された酸性紙を使用してもよい。図7に示すエンボス付き離型紙が200℃以上の環境で使用される場合は、硫酸アルミニウムを定着剤として使用しない中性ロジン系サイズ剤、あるいはアルキルケテンダイマー(AKD)及びアルケニル無水琥珀酸(ASA)等の中性サイズ剤を用いて抄紙された中性紙を支持シート11として使用可能である。また硫酸アルミニウムを使用し、pH6〜pH9で抄紙された中性紙も使用可能である。
【0041】
また、支持シート11中に、カチオン性のポリアクリルアミド及びカチオン性デンプン等の定着剤、製紙用各種填料、歩留向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、結合剤、分散剤、凝集剤、可塑剤、及び接着剤等を含んでいてもよい。支持シート11は、耐薬品性を有していてもよい。
【0042】
中間層12は、アクリル系樹脂、並びにポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、並びにシリコーン系樹脂、アミノアルキッドを含むアルキッド系樹脂等を含む。例えば、図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、中間層12としては、耐熱性に優れるポリプロピレン系樹脂を含んでもよい。その場合、中間層12は、プロピレンを主成分とし、プロピレンと、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、及び4-ポリメチルペンテン-1等のα-オレフィンとの共重合体を含んでいてもよい。図7に示すエンボス付き離型紙が200℃未満の環境で使用される場合は、中間層12は、融点の高いポリメチルペンテン系樹脂を含んでもよい。ポリメチルペンテン系樹脂の例としては、4-メチル-1-ペンテン等がある。またポリメチルペンテン系樹脂の例としては、4-メチル-1-ペンテンを主成分とし、4-メチル-1-ペンテンと、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、及び1-オクタデセン等の炭素数2から20のα-オレフィンとの共重合体がある。
【0043】
中間層12の表面は、エンボス層13との接着密度を向上させるための表面処理が施されていてもよい。表面処理の例としては、フレーム処理、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、グロー放電処理、及び化学薬品等を用いて処理する酸化処理等がある。なお、中間層12の膜厚は、例えば3μmから40μm、好ましくは5μmから20μmとすることができる。なお、中間層12を発泡層とすることにより、上層のエンボス層13に凹凸が形成されやすくなる上、中間層12の厚みを厚く制御することもできる。
【0044】
エンボス層13は、電離放射線又は紫外線で硬化される樹脂を含む。電離放射線又は紫外線で硬化される樹脂とは、イソシアネート化合物と、メタクリロイル基を有しイソシアネート化合物と反応するメタクリル化合物との反応生成物に電離放射線又は紫外線を照射して形成されるポリウレタンアクリレート等の樹脂を指す。電離放射線又は紫外線で硬化された樹脂とは、イソシアネート化合物と、アクリロイル基を有しイソシアネート化合物と反応するアクリル化合物との反応生成物に電離放射線又は紫外線を照射して形成されるポリウレタンアクリレート等の樹脂を指す。
【0045】
コート層14上には、例えば、熱エンボス加工により、深い溝パターン3aと浅い溝パターン3bが形成されている。エンボス層13上にコート層14が配置されることにより、後述する図8の製造装置を用いて離型基材の最表面をエンボス加工する場合に、離型基材がエンボス加工装置(エンボスロール)に付着しないため、剥離が容易になる。なお、コート層14は、必要に応じて形成しなくてもよい。
【0046】
コート層14としては、例えば膜厚が0.01μmから20μmであり付加重合型シリコーン材料が付加重合した付加重合シリコーン等が利用可能である。付加重合型シリコーン材料とは、少なくともアルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含む。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等がある。オルガノポリシロキサンの例としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチル(5-ヘキセニル)シロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルヒドロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルヒドロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体がある。例示されたアルケニル基含有オルガノポリシロキサンに分類されるそれぞれ物質は、コート層14に単独で含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0047】
第1の例に係るエンボス付き離型紙によれば、離型基材1の表面上に膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されるため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離させることができるとともに、200℃以上の高温条件下においても耐熱性を有し、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。また、図7の離型基材1は、コート層14が配置されているので、エンボス加工時に、離型基材1がエンボス加工装置(エンボスロール)に付着しないため、剥離が容易になる。
【0048】
図7に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図8に示す。図8に示す製造装置は、離型基材1に形成された表面の凹凸(溝パターン3a,3b)を熱エンボス加工によって形成する装置の一例を示している。
【0049】
図8に示す製造装置は、シート17を巻き出す巻き出し部20と、シート17の片面に熱溶融樹脂膜を主成分とするコーティング材料22を塗工するコーティング部21と、コーティング後のシート17を乾燥する乾燥炉23と、シート17の表面にエンボス加工を施す第1のエンボス部24a、第2のエンボス部25bと、エンボス層が形成されたシート17に紫外線又は電子線を照射させる照射装置26と、電子線又は紫外線照射後の表面層に、CVD法により、実施の形態に係る剥離層2を形成するCVD装置28と、剥離層2を形成したシート17を巻き取り部29とを備える。
【0050】
なお、図8では、コーティング部21、乾燥炉23、エンボス部24a、24b、照射装置26、CVD装置28を、連続する一つの装置として説明しているが、それぞれの作業を連続的に行わない別の装置を用いてもよいことは勿論である。
【0051】
図7のエンボス付き離型紙を製造する場合は、例えば、図9のフローチャートに示すように、まず、ステップS11において支持シート11を用意する。支持シート11を図5の巻き取り部から巻きだし、ステップS12に示すように、図8のコーティング部21において支持シート11上に中間層用樹脂を塗布する。その後、ステップS13に示すように、中間層用樹脂に含まれる溶剤を図8の乾燥炉23で蒸発させ、支持シート11上に中間層12を形成する。次に、中間層12上に、コーティング部により、たとえばアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂を塗布し、乾燥炉でエンボス層用樹脂に含まれる溶剤を乾燥させて中間層12上にエンボス層13を配置する。更に、エンボス層13上に、付加重合型シリコーン材料等のコート材料を塗布し、乾燥炉でコート材料に含まれる溶剤を乾燥させてエンボス層13上にコート層14を形成する。
【0052】
ステップS14において、図8の第1のエンボス部24aにおいて、例えば50〜150℃に加熱され、表面にシボ模様等の浅い溝パターンが形成されたエンボスロールをコート層14上に押しつけ、コート層14上の表面に、図7示す浅い溝パターン3bを形成させる。引き続き、ステップS15において、第2のエンボス部25bにおいて例えば、50〜150℃に加熱され、表面に深い溝パターンが形成されたエンボスロールをコート層14上に押しつけ、コート層14上の表面に図5に示す深い溝パターン3aを形成させる。次に、ステップS15において浅い溝パターン3bと深い溝パターン3aが表面に形成されたコート層14の上から、照射装置26により電子線等の電離放射線又は紫外線を照射し、エンボス層13中の樹脂を硬化させる。
【0053】
次に、ステップS16において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置28に搬入する。CVD装置28の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100重量部に対して酸素ガスの流量を0〜500重量部の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、シリカ膜からなる剥離層2を形成して、図7に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0054】
(エンボス付き離型紙の第2の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第2の例を図10に示す。図10に示すエンボス付き離型紙は、表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材1と離型基材の表面にCVD法により形成された剥離層2とを備え、離型基材1が、支持シート11と、支持シート11上の中間層12と、中間層12上のエンボス層13とを有しており、エンボス層13の表面の凹凸が、電子線(EB:Electron beam)照射により硬化されたものである点が、第1の例と異なる。
【0055】
図10のエンボス層13としては、例えば、アクリル系樹脂とシリコーン樹脂を含む樹脂が用いられる。エンボス層13として、ポリエステル、ナイロン等の比較的高融点の材料を用いることにより、第2の例に係るエンボス付き離型紙を、PVCレザー用途に利用することもできる。
【0056】
図10に示すエンボス層13の凹凸は、EB照射により硬化されているため、100%に近い賦型率が得られており、賦型率が約80%程度しか得られない熱エンボス加工にくらべて、表面の凹凸が、より精密に再現されている。なお、本実施形態において「賦型率」とは、エンボス加工用のローラにおける所定部位の基準面からの深度に対するエンボス加工品における対応部位の基準面からの深度の比を指す。
【0057】
第2の例に係るエンボス付き離型紙においても、離型基材1の表面上に膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されているため、合成皮革の表皮層として用いられるウレタン樹脂から離型紙を容易に剥離できるとともに、200℃以上の高温条件下においても耐熱性を有し、汎用性の高いエンボス付き離型紙が製造できる。
【0058】
図10に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図11に示す。図11に示す製造装置は、離型基材1に形成されたエンボス層13の表面の凹凸をEB照射により形成する装置の例を示している。
【0059】
図11に示す製造装置は、シート17を巻き出す巻き出し部30と、シート17の片面にコーティング材料32を塗工するコーティング部31、36と、表面に凹凸を有するローラ35と、シート17をローラ35に押し付けるガイドローラ33、37と、シート17に電子線を照射してシート17の片面に凹凸を形成する電子線照射装置34と、凹凸形成後のシート17の表面にCVD法により剥離層2を形成するCVD装置37と、剥離層2を形成したシート17を巻き取る巻き取り部39とを備える。
【0060】
図10のエンボス付き離型紙を製造する場合は、例えば、図12のフローチャートに示すように、まず、ステップS21において支持シート11を用意する。支持シート11を図5の巻き取り部から巻きだし、ステップS22に示すように、図8のコーティング部21において支持シート11上に中間層用樹脂を塗布する。中間層用樹脂を塗工した支持シート11上に、コーティング部36により、たとえばアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂を塗布し、電子線照射装置34により電子線を照射して表面に凹凸を有するエンボス層13を形成する。
【0061】
次に、ステップS24において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置28に搬入する。CVD装置28の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100に対して酸素ガスの流量を0〜500の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、シリカ膜からなる剥離層2を形成して、図10に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0062】
(エンボス付き離型紙の第3の例)
実施の形態に係るエンボス付き離型紙の第3の例を図13に示す。図13に示すエンボス付き離型紙は、エンボス層13の表面の凹凸が、冷却ロール(チルロール)を用いた押し出し加工法(Chill roll extrusion)によって形成されたものである点が、第2の例と異なる。
【0063】
図13のエンボス層13としては、例えば、アクリル系樹脂とシリコーン樹脂を含む樹脂が用いられる。エンボス層13として、ポリエステル、ナイロン等の比較的高融点の材料を用いてもよい。
【0064】
従来、熱プレス等によりエンボス層13の凹凸を形成する場合、賦型率が80%程度しか得られないため、細かいエンボスパターンの賦型は難しいという問題があった。これに対し、第3の例に係るエンボス付き離型紙によれば、チルロールを用いた押出加工法によりエンボス層13の凹凸が形成されるため、エンボス層13の賦型率をほぼ100%とすることができ、エンボス付き離型紙の表面に微細なエンボスパターンを形成できる。
【0065】
更に、第1及び第2の例に係る離型紙と同様に、第3の例に係るエンボス付き離型紙においても、離型基材1の表面上に、膜厚約1〜100nmの剥離層2が形成されるため、合成皮革の表皮層としてウレタン樹脂を用いた場合に、表皮層から離型紙を容易に剥離させることができる。剥離層2は、エンボス層13のエンボスパターンの形状を損なわない程度に蒸着されているため、離型基材1の表面に形成された繊細な模様を、合成皮革の表皮層の表面上に再現性よく付与できる。
【0066】
図13に示すエンボス付き離型紙の製造に利用可能な製造装置の例を図14に示す。図14に示す製造装置は、離型基材1に形成されたエンボス層13の表面の凹凸をチルロールを用いた押出加工により形成する装置の一例を示している。なお、図14に示す例は一例であり、他にも様々な態様が用いられることは勿論である。
【0067】
図14に示す製造装置は、溶融樹脂を押し出す第1の押し出し機70A、及び溶融樹脂を押し出す第2の押し出し機70Bを備える。第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bのそれぞれから押し出された溶融樹脂は、アダプタ73を介してフラットダイ(Tダイ)75に到達する。フラットダイ75によって、第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bのそれぞれから押し出された溶融樹脂は、2層のシート状に成型される。フラットダイ75の下方には、バックアップロール60及び冷却ロール50が配置されている。バックアップロール60及び冷却ロール50によって、例えば、支持シート11上に中間層用樹脂とアクリル系電離放射線硬化樹脂を含むエンボス層用樹脂がラミネートできる。
【0068】
図13のエンボス付き離型紙を製造する場合は、図15のフローチャートに示すように、まず、ステップS31において支持シート11を用意し、ステップS32に示すように、支持シート11上にコロナ処理等の前処理を施す。その後、ポリプロピレン系樹脂もしくは、ポリメチルペンテン系樹脂もしくは、及びポリエチレン系樹脂の組成物を含む中間層用溶融樹脂及びアクリル系電離放射線硬貨樹脂を含むエンボス層用溶融樹脂を準備する。
【0069】
ステップS33において、中間層用溶融樹脂を図14に示す第1の押し出し機70Aに充填し、エンボス層用溶融樹脂を第2の押し出し機70Bに充填する。中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂に含まれる樹脂の融点、MFR、マット剤、並びに樹脂とマット剤の配合量等に応じて、第1の押し出し機70A及び第2の押し出し機70Bを加熱する。その後、アダプタ73を介して、中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂をフラットダイ75に押し出し、フラットダイ75から層状に成型された中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂を共押し出しする。
【0070】
ステップS34において、支持シート11と、層状に成型された中間層用溶融樹脂及びエンボス層用溶融樹脂とをバックアップロール60及び20〜30℃に冷却した冷却ロール50によってラミネートし、支持シート11上に中間層12と、中間層12上に配置された凹凸を有するエンボス層13を形成させる。その後、ステップS34において、エンボス層13が形成されたシートをCVD装置に搬入する。CVD装置の真空槽内に混合ガスを、モノマー材料の流量100に対して酸素ガスの流量を0〜500の流量比で導入することで、圧力を50mTorrに維持し、真空槽内に設置した平板電極と平板電極と平行に対向して設置したアース電極との間に13.56MHzのRF交流電圧を印加し、グロー放電プラズマを発生させ、膜厚1〜100nm程度のシリカ膜からなる剥離層2を形成して、図13に示すエンボス付き離型紙を得る。
【0071】
(剥離層の実施例)
平行平板型プラズマCVD装置PE401(アネルバ(株)製)内に本発明の実施の形態に係る離型基材1を載置し、成膜前の到達真空度を0.02mTorrとし、Arガスをキャリアーガスとし、原料ガスとして酸素、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)を室温でバブリングし、装置内に供給した。
【0072】
酸素ガスの流量は、30sccm、またモノマーの流量が6.0sccmとなるようにArガス流量を調節した。成膜圧力が50mTorrとなるように、コンダクタンスバルブを調節した。
【0073】
100W、13.56MHzの電力を、上部平板電極と下部アース電極の間に印加することによりプラズマを生成した。離型基材1は、下部アース電極上に設置し、シリカ膜を成膜した。成膜時間は10分とした。成膜室内に同時にシリコンウェハを置き、エリプソメトリー法で膜厚を測定し、約100nmのシリカ膜が形成されたことを確認した。メチル基の存在は、IR分光法により確認した。評価方法はジヨードメタンに対する接触角により評価した。
【0074】
比較のために、酸素ガス流量30sccm、モノマー流量を3.0sccmとし、表面mんにメチル基が残存しない膜を作成して評価した。その結果、前者の接触角は65.1度であるのに対して、後者の接触角は、53.0度であった。
【0075】
CVD法に使用された装置は、真空巻取り装置を使用した。チャンバの到達圧力を0.05Torrとし、チャンバ内に酸素ガスおよびHMDSOからなる原料ガスを導入し、45mTorrの圧力にした。導入した原料ガスの流量は、酸素ガスが0slm、HMDSOが2slmであった。HMDSOは80℃に加熱したガス供給系を使用し、キャリアーガスを使用しなかった。成膜ドラムはフィルム基材の熱ダメージをなくすため、−10℃に冷却した。成膜ドラムに対向した位置にある平板電極(成膜ドラムからの距離3cm、電極の面積70cm×20cm)に13.56MHzのRf交流電圧を印加し(1.5kW)、電気的にアースされた成膜ドラムとの間でプラズマを作成し、基材上に成膜を行った。フィルムの走行速度は30m/分であった。
【0076】
このようにして作成した実施の形態に係る剥離層付きエンボス離型紙を、剥離層のないエンボス付き離型紙、すなわちCVD成膜を行わない場合は同一の条件で製造した離型紙とエンボス形状について比較したが、両者に差がなかった。すなわち、エンボス付き離型紙フィルム上に剥離層をCVD法で形成しても、エンボス形状が損なわれることがなかった。
【0077】
このように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになろう。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…離型基材
2…剥離層
3…表皮層
4…内皮シート
5…合成皮革
11…支持シート
12…中間層
13…エンボス層
14…コート層
17…シート
28、37…CVD装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材と前記離型基材の前記表面上にCVD法により形成された剥離層とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、
所定の温度に冷却したエンボスロールを熱溶融樹脂と接触させ、前記熱溶融樹脂を前記エンボスロールで冷却固化することにより、前記表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材を形成する工程を有することを特徴とするエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項2】
前記剥離層が、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を表面に残すように形成されたシリカ膜であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項3】
前記剥離層の膜厚が1nm以上であり、前記剥離層の前記表面のジョードメタンに対する接触角が60°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項4】
前記剥離層を形成することは、
表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材を真空槽内に導入し、
前記真空槽内に、Si原子とCH3基及び/又はC2H5を含むモノマー材料と酸素ガスを含む混合ガスを、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが0〜500重量部以となる割合で導入し、前記剥離層の前記表面のジョードメタンに対する接触角が60°以上となるように形成する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項5】
前記モノマー材料が、キサメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、オクタメチリシクロテトラシロキサン、メチルシラン、ジメチルシラン、トエリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシランのいずれかから選ばれる材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項1】
表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材と前記離型基材の前記表面上にCVD法により形成された剥離層とを備えるエンボス付き離型紙の製造方法において、
所定の温度に冷却したエンボスロールを熱溶融樹脂と接触させ、前記熱溶融樹脂を前記エンボスロールで冷却固化することにより、前記表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材を形成する工程を有することを特徴とするエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項2】
前記剥離層が、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を表面に残すように形成されたシリカ膜であることを特徴とする請求項1に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項3】
前記剥離層の膜厚が1nm以上であり、前記剥離層の前記表面のジョードメタンに対する接触角が60°以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項4】
前記剥離層を形成することは、
表面に凹凸を有するエンボス付き離型基材を真空槽内に導入し、
前記真空槽内に、Si原子とCH3基及び/又はC2H5を含むモノマー材料と酸素ガスを含む混合ガスを、モノマー材料100重量部に対して酸素ガスが0〜500重量部以となる割合で導入し、前記剥離層の前記表面のジョードメタンに対する接触角が60°以上となるように形成する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【請求項5】
前記モノマー材料が、キサメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、オクタメチリシクロテトラシロキサン、メチルシラン、ジメチルシラン、トエリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシランのいずれかから選ばれる材料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンボス付き離型紙の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−255151(P2010−255151A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109729(P2009−109729)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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