説明

エーテルの製造方法

【課題】環状エーテルおよびジメチルエーテルなどの対称エーテルの高収率な製造方法の提供。
【解決手段】分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物を環化させることによる環状エーテルの製造方法で、イオン性液体中の前記化合物を酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする。イオン性液体は、下記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体を用いることが望ましい。


〔式中、R,Rは同一または異なって低級アルキル基を示す。X,X,Xは同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Yはイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状エーテルおよびジメチルエーテルなどの対称エーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状エーテルは、溶媒、高分子化合物や化学薬品の原料などとして、ジメチルエーテルは、軽油に代わるディーゼル燃料などとして重要な物質であることはよく知られた事実であり、これらの物質の製造方法については既に様々な方法が提案され、実用化されている。しかしながら、その多くは、高温高圧条件、脱水反応のための酸触媒(例えば特許文献1)、目的物質の未反応物質や副生成物からの手間のかかる分離精製などを必要とし、そのために環境に対する負荷が否めないものである。従って、これらの物質のグリーンケミストリー(Green Chemistry:環境にやさしい化学合成)による製造方法の確立が望まれている。
【0003】
近年、イオン性液体を用いたグリーンケミストリーの展開が注目されている。イオン性液体は、室温でも液体の塩であり、いろいろな物質をよく溶かす反面、その種類によっては水および/または有機溶媒に溶けにくいといった性質を有することなどから、何度でも再利用できる反応溶媒となりうるといった利点がある。以上の点から、イオン性液体を用いたエーテルの製造についても既に報告が存在し、非特許文献1において、tert−ブチルアルコールと、メチルアルコール、エチルアルコール、iso−プロピルアルコールを、イミダゾリウム系イオン性液体を主とするいくつかの種類のイオン性液体中で反応させることによる、tert−ブチルエーテルの製造が検討されている。しかしながら、この文献では、環状エーテルの製造は検討されていない。また、この文献には、テトラフルオロボレートアニオン(BF)をカウンターアニオンとするイミダゾリウム系イオン性液体中で、tert−ブチルアルコールとメチルアルコールを反応させた場合、副生成物としてジメチルエーテルが生成すること、反応条件の最適化によってジメチルエーテルの効率的な合成が可能になり得ることが記載されている。しかしながら、塩化物イオン(Cl)をカウンターアニオンとするイミダゾリウム系イオン性液体を用いた場合、反応が起こらず、そもそも目的とするtert−ブチルエーテルが得られないことが報告されている。
【特許文献1】特開昭61−126080号公報
【非特許文献1】Chem. Commun., 2003, 1054-1055
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、イオン性液体を用いたテトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状エーテルおよびジメチルエーテルなどの対称エーテルの高収率な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、非特許文献1においてtert−ブチルエーテルを製造する際における有用性が否定的に評価されている塩化物イオンをカウンターアニオンとするイミダゾリウム系イオン性液体が、全く意外にも環状エーテルおよび対称エーテルを酸触媒の非存在下で製造する際におけるイオン性液体として有用であること、イミダゾリウム系イオン性液体を用いて対称エーテルを製造する場合、カウンターアニオンが塩化物イオンであると酸触媒の存在下では対称エーテルが高収率で得られないのに対し、カウンターアニオンがトリフルオロメタンスルフォネートアニオン(CFSO)であると対称エーテルが高収率で得られることを知見した。
【0006】
即ち、本発明は請求項1記載の通り、分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物を環化させることによる環状エーテルの製造方法であって、イオン性液体中の前記化合物を酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、イオン性液体が下記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体であることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
〔式中、R,Rは同一または異なって低級アルキル基を示す。X,X,Xは同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Yはイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕
【0010】
また、請求項3記載の製造方法は、請求項2記載の製造方法において、R,Rの少なくともいずれか一方がメチル基であることを特徴とする。
また、請求項4記載の製造方法は、請求項2記載の製造方法において、Yがハロゲン化物イオンであることを特徴とする。
また、請求項5記載の製造方法は、請求項4記載の製造方法において、ハロゲン化物イオンが塩化物イオンであることを特徴とする。
また、請求項6記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、環状エーテルが置換基を有していてもよいテトラヒドロフランまたは置換基を有していてもよいテトラヒドロピランであることを特徴とする。
また、本発明の一般式:ROで表される対称エーテル(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)の製造方法は、請求項7記載の通り、下記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコールを酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする。
【0011】
【化2】

【0012】
〔式中、R11,R12は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X11,X12,X13は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Zはハロゲン化物イオンを示す。〕
【0013】
また、請求項8記載の製造方法は、請求項7記載の製造方法において、ハロゲン化物イオンが塩化物イオンであることを特徴とする。
また、請求項9記載の製造方法は、請求項7記載の製造方法において、Rおよび、R11とR12の少なくともいずれか一方がメチル基であって、メチルアルコールからのジメチルエーテルの製造方法であることを特徴とする。
また、本発明の一般式:ROで表される対称エーテル(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)の製造方法は、請求項10記載の通り、下記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコールを酸触媒の存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする。
【0014】
【化3】

【0015】
〔式中、R21,R22は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X21,X22,X23は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。〕
【0016】
また、請求項11記載の製造方法は、請求項10記載の製造方法において、酸触媒がトリフルオロメタンスルホン酸であることを特徴とする。
また、請求項12記載の製造方法は、請求項10記載の製造方法において、Rおよび、R21とR22の少なくともいずれか一方がメチル基であって、メチルアルコールからのジメチルエーテルの製造方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオン性液体を用いたテトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状エーテルおよびジメチルエーテルなどの対称エーテルの高収率な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず、本発明の分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物を環化させることによる環状エーテルの製造方法は、イオン性液体中の前記化合物を酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とするものである。イオン性液体としては、イミダゾリウム系イオン性液体、ピリジニウム系イオン性液体、ピロリジニウム系イオン性液体などが挙げられるが、望ましいイオン性液体としては、下記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体が挙げられる。
【0019】
【化4】

【0020】
〔式中、R,Rは同一または異なって低級アルキル基を示す。X,X,Xは同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Yはイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕
【0021】
上記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体において、R,R,X,X,Xにおける低級アルキル基としては、1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。中でもR,Rの少なくともいずれか一方がメチル基であることが、粘性が低くて取扱が容易であるといった点において望ましい。
【0022】
におけるイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンとしては、塩化物イオン(Cl)や臭化物イオン(Br)やヨウ化物イオン(I)などのハロゲン化物イオンの他、メタンスルフォネートアニオン(CHSO)やトリフルオロメタンスルフォネートアニオン(CFSO)やビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドアニオン((CFSO))などが挙げられる。中でもハロゲン化物イオンが望ましく、塩化物イオンがより望ましい。塩化物イオンなどのハロゲン化合物イオンをカウンターアニオンとすることにより、出発原料の分子中に存在する2個の水酸基間での脱水反応による環化反応のための強力な反応場が提供されるとともに、脱水反応によって生成する水がイオン性液体に効率的に取り込まれて含水率が非常に低い環状エーテルがイオン性液体と相分離して得られる。従って、その回収や精製が容易であり、また、イオン性液体は脱水処理することで容易に再利用することができる。
【0023】
上記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体は、その多くが公知の化合物であり、市販されている化合物も多い。新規の化合物や市販されていない化合物であっても、対応するイミダゾールとハロゲン化アルキルなどとの反応によって合成することができる(必要であれば例えばAnal. Chem., 2007, 79, 758-764を参照のこと)。上記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の具体例としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドが挙げられる。
【0024】
上記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の使用量は、例えば、出発原料である分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物1重量部に対して0.05重量部〜5重量部、望ましくは0.1重量部〜3.5重量部である。使用量が少なすぎると出発原料の分子中に存在する2個の水酸基間での脱水反応による環化反応の速度が低下する恐れがある一方、使用量が多すぎると反応溶液の粘度が高くなってしまうことで取扱に支障をきたす恐れや、製造コストの上昇を招く恐れがある。
【0025】
加熱温度を150℃〜250℃とするのは、加熱温度が150℃を下回ると出発原料の分子中に存在する2個の水酸基間での脱水反応による環化反応の速度が低下する恐れがある一方、加熱温度が250℃を超えるとイオン性液体の分解が起こる恐れがあるからである。加熱時間は、例えば、1時間〜100時間である。なお、「酸触媒の非存在下」とは、2個の水酸基間での脱水反応を触媒作用によって促進させる性質を有する塩酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸に例示される無機酸などを反応系内に含まないことを意味する。
【0026】
以上の方法によれば、例えば、1,4−ブタンジオールからテトラヒドロキシフランを、1,5−ペンタンジオールからテトラヒドロキシピランを高収率で製造することができる。
【0027】
なお、出発原料である分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物は、水酸基や低級アルコキシ基(例えば1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルコキシキ基)などによって置換されていてもよい低級アルキル基や水酸基などを置換基として有していてもよい。このような化合物を出発原料として用いることで、対応する置換基を有する環状エーテルを得ることができる。
【0028】
次に、本発明の一般式:ROで表される対称エーテル(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)の製造方法は、下記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコールを酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とするものである。ここで、Rにおける低級アルキル基としては、1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0029】
【化5】

【0030】
〔式中、R11,R12は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X11,X12,X13は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Zはハロゲン化物イオンを示す。〕
【0031】
上記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体において、R11,R12,X11,X12,X13における低級アルキル基としては、1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。Zにおけるハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどが挙げられるが、塩化物イオンが望ましい。塩化物イオンなどのハロゲン化合物イオンをカウンターアニオンとすることにより、出発原料であるアルコールに対するアルキル化のための強力な反応場が提供されるとともに、脱水反応によって生成する水がイオン性液体に効率的に取り込まれて含水率が非常に低い対称エーテルがイオン性液体と相分離して得られる。従って、その回収や精製が容易であり、また、イオン性液体は脱水処理することで容易に再利用することができる。
【0032】
上記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体は、その多くが公知の化合物であり、市販されている化合物も多い。新規の化合物や市販されていない化合物であっても、対応するイミダゾールとハロゲン化アルキルとの反応によって合成することができる(必要であれば例えばAnal. Chem., 2007, 79, 758-764を参照のこと)。上記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の具体例としては、メチルアルコールからジメチルエーテルを製造する場合、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリドが挙げられる。
【0033】
上記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の使用量は、例えば、出発原料であるアルコール1重量部に対して0.05重量部〜5重量部、望ましくは0.1重量部〜3.5重量部である。使用量が少なすぎるとアルコールに対するアルキル化反応の速度が低下する恐れがある一方、使用量が多すぎると反応溶液が室温で凝固してしまうことで取扱に支障をきたす恐れや、製造コストの上昇を招く恐れがある。
【0034】
加熱温度を150℃〜250℃とするのは、加熱温度が150℃を下回るとアルコールに対するアルキル化反応の速度が低下する恐れがある一方、加熱温度が250℃を超えるとイオン性液体の分解が起こる恐れがあるからである。加熱時間は、例えば、1時間〜100時間である。なお、「酸触媒の非存在下」とは、アルコールに対するアルキル化反応を触媒作用によって促進させる性質を有する塩酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸に例示される無機酸などを反応系内に含まないことを意味する。
【0035】
以上の方法によれば、例えば、メチルアルコールからジメチルエーテルを、エチルアルコールからジエチルエーテルを高収率で製造することができる。
【0036】
次に、本発明の一般式:ROで表される対称エーテル(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)の製造方法は、下記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコールを酸触媒の存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とするものである。ここで、Rにおける低級アルキル基としては、1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0037】
【化6】

【0038】
〔式中、R21,R22は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X21,X22,X23は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。〕
【0039】
上記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体において、R21,R22,X21,X22,X23における低級アルキル基としては、1個〜6個の炭素数を有する直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基などが挙げられる。
【0040】
上記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体は、その多くが公知の化合物であり、市販されている化合物も多い。新規の化合物や市販されていない化合物であっても、対応するイミダゾールとトリフルオロメタンスルホン酸エステルとの反応によって合成することができる(必要であれば例えばAnal. Chem., 2007, 79, 758-764を参照のこと)。上記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の具体例としては、メチルアルコールからジメチルエーテルを製造する場合、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネートが挙げられる。
【0041】
上記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体の使用量は、例えば、出発原料であるアルコール1重量部に対して1重量部〜20重量部、望ましくは5重量部〜10重量部である。使用量が少なすぎるとアルコールに対するアルキル化反応の速度が低下する恐れがある一方、使用量が多すぎると反応溶液が室温で凝固してしまうことで取扱に支障をきたす恐れや、製造コストの上昇を招く恐れがある。
【0042】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられるが、トリフルオロメタンスルホン酸が望ましい。その使用量は、例えば、出発原料であるアルコール1重量部に対して0.005重量部〜0.2重量部、望ましくは0.01重量部〜0.1重量部である。使用量が少なすぎるとアルコールに対するアルキル化反応の速度が低下する恐れがある一方、過剰量の酸触媒を使用してもアルコールに対するアルキル化反応の速度はそれほど速まらない。
【0043】
加熱温度を150℃〜250℃とするのは、加熱温度が150℃を下回るとアルコールに対するアルキル化反応の速度が低下する恐れがある一方、加熱温度が250℃を超えるとイオン性液体の分解が起こる恐れがあるからである。加熱時間は、例えば、30分間〜100時間である。
【0044】
トリフルオロメタンスルフォネートアニオンをカウンターアニオンとするイミダゾリウム系イオン性液体を用いる以上の方法では、対称エーテルはイオン性液体と相分離して得られてこないので、イオン性液体との分離操作が必要となる。しかしながら、酸触媒を使用することで、アルコールに対するアルキル化反応の速度を、酸触媒を使用しない場合と比較して大幅に速めることができる。従って、以上の方法によれば、例えば、メチルアルコールからジメチルエーテルを、エチルアルコールからジエチルエーテルを高収率で製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0046】
実施例1:テトラヒドロフランの製造
石英製キャピラリー(内径2.5mm、長さ20cm、容量1ml)に、1,4−ブタンジオール(出発原料)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(イオン性液体)を1:1.9(重量比)の割合で投入し(全投入量は0.3g)、密封した後、180℃で12時間加熱したところ、キャピラリー内で相分離が起こり、上層にテトラヒドロフランが生成した。その回収率は50%で、H−NMR分析によれば、回収されたテトラヒドロフランの純度は98%であった(水分は0.1%)。
【0047】
実施例2:テトラヒドロピランの製造
石英製キャピラリー(内径2.5mm、長さ20cm、容量1ml)に、1,5−ペンタンジオール(出発原料)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(イオン性液体)を1:1.7(重量比)の割合で投入し(全投入量は0.3g)、密封した後、180℃で12時間加熱したところ、キャピラリー内で相分離が起こり、上層にテトラヒドロピランが生成した。その回収率は50%で、H−NMR分析によれば、回収されたテトラヒドロピランの純度は90%であった(水分は検出されなかった:0.1%以下)。
【0048】
実施例3:ジメチルエーテルの製造(その1)
石英製キャピラリー(内径2.5mm、長さ20cm、容量1ml)に、メチルアルコール(出発原料)と1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド(イオン性液体)を0.3:1(重量比)の割合で投入し(全投入量は0.3g)、密封した後、180℃で12時間加熱したところ、キャピラリー内で相分離が起こり、上層にジメチルエーテルが生成した。その回収率は60%で、H−NMR分析によれば、回収されたジメチルエーテルの純度は95%であった(メチルアルコール4%、水分1%)。
【0049】
比較例1:
出発原料であるメチルアルコール1重量部に対して酸触媒として塩酸を0.05重量部の割合でさらに投入すること以外は実施例3と同じ条件で反応を行ったところ、塩酸が存在することにより反応条件が過酷なものになり過ぎて副反応が多くなり、ジメチルエーテルはほとんど回収されなかった。
【0050】
実施例4:ジメチルエーテルの製造(その2)
石英製キャピラリー(内径2.5mm、長さ40cm、容量2ml)をコの字型に折り曲げ(両端の枝はそれぞれ19cmと15cmで中央は6cm)、そこに、メチルアルコール(出発原料)と1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネート(イオン性液体)とトリフルオロメタンスルホン酸(酸触媒)を0.15:1:0.009(重量比)の割合で投入し(全投入量は0.64g)、密封した後、180℃で50分間加熱した。反応終了後、19cmの枝に反応溶液を集めて110℃に加熱する一方、15cmの枝を0℃に冷却し、この状態を1時間維持することにより、15cmの枝にジメチルエーテルを凝結させてジメチルエーテルとイオン性液体を分離し、H−NMR分析によれば純度が93%(メチルアルコール3%、水4%)のジメチルエーテルを、原料であるメチルアルコールを基準とする理論収量の40%の割合で得た。
【0051】
比較例2:
トリフルオロメチルスルホン酸を投入しないこと以外は実施例4と同じ条件で反応を行ったところ、メチルアルコールに対するメチル化反応の速度が低下しすぎて、ジメチルエーテルはほとんど回収されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、イオン性液体を用いたテトラヒドロフランやテトラヒドロピランなどの環状エーテルおよびジメチルエーテルなどの対称エーテルの高収率な製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に2個の水酸基を4個〜6個の炭素原子によって隔てられて有する化合物を環化させることによる環状エーテルの製造方法であって、イオン性液体中の前記化合物を酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
イオン性液体が下記の一般式(1)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【化1】


〔式中、R,Rは同一または異なって低級アルキル基を示す。X,X,Xは同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Yはイミダゾリウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す。〕
【請求項3】
,Rの少なくともいずれか一方がメチル基であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
がハロゲン化物イオンであることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
ハロゲン化物イオンが塩化物イオンであることを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
環状エーテルが置換基を有していてもよいテトラヒドロフランまたは置換基を有していてもよいテトラヒドロピランであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
下記の一般式(2)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコール(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)を酸触媒の非存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする一般式:ROで表される対称エーテルの製造方法。
【化2】


〔式中、R11,R12は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X11,X12,X13は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。Zはハロゲン化物イオンを示す。〕
【請求項8】
ハロゲン化物イオンが塩化物イオンであることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
Rおよび、R11とR12の少なくともいずれか一方がメチル基であって、メチルアルコールからのジメチルエーテルの製造方法であることを特徴とする請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
下記の一般式(3)で表されるイミダゾリウム系イオン性液体中の一般式:ROHで表されるアルコール(式中、Rは低級アルキル基を示す。以下同じ)を酸触媒の存在下で150℃〜250℃に加熱することを特徴とする一般式:ROで表される対称エーテルの製造方法。
【化3】


〔式中、R21,R22は同一または異なって低級アルキル基を示す(但し少なくともいずれか一方はRと同じ低級アルキル基である)。X21,X22,X23は同一または異なって低級アルキル基または水素原子を示す。〕
【請求項11】
酸触媒がトリフルオロメタンスルホン酸であることを特徴とする請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
Rおよび、R21とR22の少なくともいずれか一方がメチル基であって、メチルアルコールからのジメチルエーテルの製造方法であることを特徴とする請求項10記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−46429(P2009−46429A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214099(P2007−214099)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】