説明

オイルゲル化剤

【課題】新規なオイルゲル化剤の提供。
【解決手段】一般式[I]又は[II]で表されるスクアリン酸誘導体を含む、オイルゲル化剤。


[式中、R1、R3、R3は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクアリン酸(3,4−ジヒドロキシシクロブタ−3−エン−1,2−ジオン)誘導体を含む新規なオイルゲル化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル形成能力を有する物質(ゲル化剤)により形成された三次元網目構造中に流体が含まれている構造体をゲルと呼び、一般に流体が水である場合をヒドロゲル(ハイドロゲル)、水以外の有機液体(有機溶媒や油等)の場合をオルガノゲル又はオイルゲルと呼んでいる。オイルゲル(オルガノゲル)は、化粧品、医薬品、農薬、食品、接着剤、塗料、樹脂等の分野において、化粧品や塗料の流動性の調整に利用されている。また、例えば、廃油をゲル化して固形物として水質汚染を防止したりする等、環境保全の分野においても幅広く利用されている。
【0003】
ゲル化剤についての研究は、主に高分子化合物について行われてきたが、近年では、高分子化合物に比べて、多様な機能の導入が容易な低分子化合物についての研究開発が進められている。上述したように、オイルゲル(オルガノゲル)は幅広い分野での利用がされており、今後も利用分野の拡大が期待されている。このため、低分子化合物のゲル化剤(以下、低分子ゲル化剤ということがある)には、オイルゲルの用途拡大に当たり、広範な種類の有機溶剤に対するゲル形成能力が求められている。こうした課題に対し、これまでにも、種々の有機溶剤に対して少量の添加量で安定性に優れるゲルを形成できる低分子ゲル化剤として、尿素化合物が開示されている(例えば、特許文献1、2)。また、α−アミノラクタム誘導体がスクアランや流動パラフィン等に対してゲル化能を有することが開示されている(例えば特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−256303号公報
【特許文献2】特開2004−359643号公報
【特許文献3】特開平10−265761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでにも、有機溶媒などの非水性媒体向けの低分子化合物からなるオイルゲル化剤は提案されているものの、ゲル化できる媒体が限られるなど、新たな用途・機能性を有する新規なオイルゲルの創製にあたり、種々の媒体をゲル化できる新たな低分子オイルゲル化剤の提案が模索されている。ただし低分子オルガノゲル化剤として新たな骨格の分子が検討されているが、スクアリン酸誘導体をオイルゲル化剤として検討した例は現在まで報告されていない。
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、これまで提案されていない構造を有する新規なオイルゲル化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、これまで検討がなされてこなかったスクアリン酸アミド誘導体を有機溶媒などの非水性溶媒向けのオイルゲル化剤として適用したところ、驚くべきことにオイルゲルを形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は下記の新規オイルゲル化剤に関する。
[1]一般式[I]で表されるスクアリン酸誘導体を含む、オイルゲル化剤。
【化1】

[式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコ
キシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
[2]一般式[II]で表されるスクアリン酸誘導体を含む、オイルゲル化剤。
【化2】

[式中、R2及びR3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明のオイルゲル化剤は、有機溶媒をゲル化させてオイルゲルを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は試験例1における化合物1〜化合物6の混合したDMF溶液のゲル化挙動を示す写真であり、図1(a)はゲル化剤として化合物1〜化合物3を用いた溶液のゲル化挙動、図1(b)はゲル化剤として化合物4〜化合物6を用いた溶液のゲル化挙動を示したものである。
【図2】図2は試験例3における、化合物2のDMFゲル(化合物2の濃度:15wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像である)。
【図3】図3は試験例3における、化合物3のDMFゲル(化合物3の濃度:15wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像である)。
【図4】図4は試験例3における、化合物4のDMFゲル(化合物4の濃度:10wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像である)。
【図5】図5は試験例3における、化合物5のDMFゲル(化合物5の濃度:10wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像である)。
【図6】図7は試験例3における、化合物6のDMFゲル(化合物6の濃度:10wt%)の走査型電子顕微鏡(SEM)像の写真を示す図である((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像である)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は前記一般式[I]又は[II]で表されるスクアリン酸誘導体を含むオイルゲル化剤に関する。
以下、本発明を詳細に説明するが、以降、「一般式[I]で表される化合物」を「化合物[I]」とも称する。他の式番号を付した化合物についても同様に表記する。
【0011】
上記一般式[I]及び[II]中のR1、R2、R3各基の定義において、アルキル基は
、例えば、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数3〜30の環状アルキル基が挙げられ、好ましくは炭素原子数10〜20の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル基が挙げられる。
具体的には以下に示す直鎖状、分岐鎖状もしくは環状の、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基、パルミチル基)、ヘプタデシル基(マルガリル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。中でも好ましくは、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ステアリル基が挙げられる。
【0012】
また、アルコキシ基におけるアルキル部分としては、例えば、直鎖もしくは分岐状の炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数3〜8の環状アルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、炭素原子数7〜15のアラルキル基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
アリール基、及びアリールオキシ基のアリール部分としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0013】
複素環基、及び複素環アルキル基の複素環部分としては、芳香族複素環基又は脂環式複素環基が挙げられる。
複素環アルキル基のアルキレン部分は、前記アルキル基やアルキル部分として挙げた基から水素原子を一つ除いたものと同義である。
芳香族複素環基としては、例えば窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環基、3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環基等が挙げられる。具体的にはピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、キノリル基、イソキノリル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、チエニル基、フリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、プ
リニル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
脂環式複素環基としては、例えば窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性脂環式複素環基、3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性脂環式複素環基等が挙げられる。具体的にはピロリジニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ホモピペリジル基、ホモピペラジニル基、テトラヒドロピリジル基、テトラヒドロキノリル基、テトラヒドロイソキノリル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、ジヒドロベンゾフラニル基、テトラヒドロカルバゾリル基、フタルイミド基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン環からなる置換基、インドリン環からなる置換基、1,2,3,4−テトラヒドロキノキサリン環からなる置換基等が挙げられる。
【0014】
前記アルキル基又はアルコキシ基は、同一又は異なって1〜3個の置換基を有し得る。該置換基としては、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、フッ素置換アルコキシ基等が挙げられる。ここで、アルコキシ基、ハロゲン原子、及びフッ素置換アルコキシ基はそれぞれ前記と同義である。アルコキシアルコキシ基(−O−アルキレン−O−アルキル基)のアルキル部分は前記と同義であり、アルコキシアルコキシ基のアルキレン部分は前記アルキル基から水素原子を一つ除いたものと同義である。
【0015】
前記アラルキル基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基又は複素環アルキル基は、芳香環又は複素環において、同一又は異なって1〜5個の置換基を有し得る。該置換基としては、例えばヒドロキシ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、アルキル置換又は非置換のアミノ基、フッ素置換アルキル基、フッ素置換アルコキシ基等が挙げられる。ここで、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、及びフッ素置換アルコキシ基は、それぞれ前記と同義である。アルキル置換のアミノ基のアルキル部分は前記アルキル基と同義である。なお、アルキル置換のアミノ基が2つのアルキル基で置換されたアミノ基である場合、2つのアルキル基は同一でも異なっていてもよい。
【0016】
上記一般式[II]中のR2、R3基は、同一の基であってもよいし、異なる基であってもよい。
【0017】
上記一般式[I]及び[II]中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。アルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムが挙げられ、特にナトリウムが好ましい。
【0018】
上記一般式[I]及び[II]で表される化合物は、例えばジメチルスクアリン酸エステル、すなわち、3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオンに対して、式[I]及び[II]におけるR1、R2、R3基を有するアミンと反応させ、式[I]で表される
化合物の場合には残りのメチルエステルを加水分解させることにより、それぞれ製造することができる。
上記3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオンは例えばOrganic Syntheses、Coll. Vol.10,p.178(2004);Vol.76,p.189(1999)記載の方法に準じて合成することにより得られる。
【0019】
上記反応において使用する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒、もしくはこれらの混合溶媒が用いられる。反応後、必要に応じて、目的化合物を有機合成化学で通常用い
られる各種クロマトグラフィー法、再結晶法、蒸留法等により精製してもよい。
【0020】
本発明のゲル化の対象である有機溶媒は、DMF単独あるいは、DMFと各種極性溶媒、例えば、DMSO、プロピレンカーボネート等との混合溶媒が好ましい。
【0021】
本発明のオイルゲル化剤は、媒体である有機溶媒に対して、スクアリン酸誘導体の総量が1乃至30質量%で、好ましくは3乃至20質量%、より好ましくは5乃至15質量%となる量で使用することが好ましい。
本発明のオイルゲル化剤を、媒体である有機溶媒に加え、必要に応じて加熱撹拌して溶解させたのち、室温に放置することにより、オイルゲル化物を得ることができる。ゲル強度は、オイルゲル化剤の濃度により調整することが可能である。
【0022】
なお、本発明のオイルゲル化剤によって形成されるオイルゲルは、オイルゲル化剤のゲル化能を阻害しない範囲において、その適用用途等、必要に応じて各種添加剤(界面活性剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、生理活性物質(薬効成分)等の有機化合物や、酸化チタン、タルク、マイカ、水等の無機化合物等)を混合することができる。
また前記オイルゲルには、電解質としてリチウム塩、具体的にはLiPF6、LiBF4、LiClO4およびLiAsF6から選ばれる無機リチウム塩、それら無機リチウム塩の誘導体、LiSO3CF3、LiN(SO3CF32、LiN(SO2252およびLi
N(SO2CF3)(SO249)から選ばれる有機リチウム塩、並びにその有機リチウ
ム塩の誘導体等を混合することもできる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び試験例で記述する試薬は東京化成工業(株)、溶媒は和光純薬工業(株)より入手し、そのまま使用した。また以下に各種測定及び分析に用いた装置及び条件を示す。
(1)1H−NMRスペクトル
・装置:AVANCE500(500MHz)、ブルカー・バイオスピン(株)製
(2)MALDI−TOF MSスペクトル
・装置:autoflex III、ブルカー・ダルトニクス(株)製
・マトリックス:ジスラノール(1,8−ジヒドロキシ−9(10H)−アントラセノン)
(3)元素分析
・装置:ヤナコCHNコーダー MT−5型、ヤナコテクニカルサイエンス(株)製
(4)FT−IRスペクトル
・装置:FT/IR−620、日本分光(株)製
・方法:ATR法(プリズム:ZnSe)
(5)示差走査熱量測定
・装置:PerkinElmer Diamond DSC、(株)パーキンエルマージャパン製
・使用容器:Ag製の密封型試料容器
・昇温速度及び降温速度:10℃/分
(6)走査型電子顕微鏡写真
・装置:JSM−7400、日本電子(株)
・加速電圧:1.0kV
・サンプル処理:導電性の物質によるサンプル処理はせず
・サンプル処理:導電性の物質によるサンプル処理はせず
(7)イオン伝導度測定
・装置:precision LCR Meter E4980A、アジレント・テクノロジー(株)製
・テストリード:HP16089B KELVIN CLIP LEADS、アジレント・テクノロジー(株)製
・測定インピーダンス:20Hz〜2MHz、交流電場印加時のインピーダンスを測定
・測定セル:アルミニウム板状電極間に5.4mm直径の穴を開けたシリコンスペーサー(0.92mm厚)を挟み作製。この穴の中に作製したオイルゲルを入れて測定を実施。
【0024】
3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン(ジメチルスクアリン酸エステル)は、Organic Syntheses、Coll. Vol.10,p.178(2004);Vol.76,p.189(1999)記載の方法に準じて合成した。
なお下記に合成した化合物1〜化合物6のそれぞれについてFT−IR測定を行い、いずれの化合物も原料アミンとスクアリン酸との混合物では見られない、アミド型のN−H伸縮振動が存在することを確認した。
【0025】
[実施例1]化合物1の合成
【化3】

(化合物1’(化合物1のメチルエステル)の合成)
3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン750mgの3mLメタノール溶液に、n−ドデシルアミン899mgの1mLメタノール溶液を加え、60℃で1時間反応させた。室温まで放冷後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、上記式(1’)で表されるメチルエステル(1.34g、白色結晶、収率85.9%)を得た。
・MALDI−TOF MS:calcd for C17H29NO3(Mw=295.21):m/z=449.19([M]+).
・元素分析:化合物1’(化合物1のメチルエステル) C1729NO3
計算値:C 69.12%,H 9.89%,N 4.74%
分析値:C 69.02%,H 9.89%,N 4.85%.
【0026】
(化合物1の合成)
式(1’)で表されるメチルエステル900mgのTHF8mLの溶液に、1M塩酸水溶液0.5mLを加え、60℃で3時間反応させた。室温まで放冷後、析出物をTHF,水、メタノールにより洗浄することで、上記式(1)で表される化合物1(900mg、白色結晶、収率93.3%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):8.38(s,1H),3.38(t,2H、J=6.6Hz),1.51−1.25(m,20H),0.86(t,3H、J=6.9Hz).
・元素分析:化合物1 C1627NO3
計算値:C 68.29%,H 9.67%,N 4.98%
分析値:C 68.35%,H 9.74%,N 5.10%.
・FT−IR(ATR法):3158cm-1(N−H伸縮).
【0027】
[実施例2]化合物2の合成
【化4】

(化合物2’(化合物2のメチルエステル)の合成)
3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン500mgの3mLメタノール溶液にヘキサデシルアミン773mgの2mLメタノール溶液を加え、60℃で1時間反応させた。室温まで放冷後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、下記式(2’)で表されるメチルエステル(1.03g、白色結晶、収率83.1%)を得た。・元素分析:化合物2’(化合物2のメチルエステル) C2137NO3
計算値:C 71.75%,H 10.61%,N 3.98%
分析値:C 71.84%,H 10.54%,N 3.97%.
【0028】
(化合物2の合成)
式(2’)で表されるメチルエステル900mgのTHF8mLの溶液に、1M塩酸水溶液0.5mLを加え、60℃で3時間反応させた。室温まで放冷後、析出物をTHF,水、メタノールにより洗浄することで、上記式(2)で表される化合物2(670mg、白色結晶、収率77.1%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):8.37(s,1H),3.37(m,2H),1.51−1.24(m,20H),0.86(t,3H、J=6.9Hz).
・元素分析:化合物2 C2037NO3
計算値:C 70.75%,H 10.98%,N 4.13%
分析値:C 71.73%,H 10.70%,N 4.33%.
・FT−IR(ATR法):3161cm-1(N−H伸縮).
【0029】
[実施例3]化合物3の合成
【化5】

(化合物3’(化合物3のメチルエステル)の合成)
3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン500mgの6mLメタノール溶液にステアリルアミン862mgの2mLメタノール溶液を加え、60℃で1時間反応させた。室温まで放冷後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、上記式(3’)で表されるメチルエステル(1.00g、白色結晶、収率74.6%)を得た。
・元素分析:化合物3’(化合物3のメチルエステル) C2341NO3
計算値:C 72.78%,H 10.89%,N 3.69%
分析値:C 72.98%,H 10.84%,N 3.74%.
【0030】
(化合物3の合成)
式(3’)で表されるメチルエステル900mgのTHF14mLの溶液に、1M塩酸水溶液1.0mLを加え、60℃で3時間反応させた。室温まで放冷後、析出物をTHF,水、メタノールにより洗浄することで、上記式(3)で表される化合物3(800mg、白色結晶、収率92.4%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):8.37(s,1H),3.38(m,2H),1.51−1.24(m,20H),0.86(t,3H、J=6.9Hz).
・元素分析:化合物3 C2239NO3
計算値:C 72.28%,H 10.75%,N 3.83%
分析値:C 72.55%,H 10.76%,N 3.85%.
・FT−IR(ATR法):3168cm-1(N−H伸縮).
【0031】
[実施例4]化合物4の合成
【化6】

3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン300mgの3mLメタノール溶液にn−ドデシルアミン782mgの10mLメタノール溶液を加え、60℃で1時間反応させた。その後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、上記式(4)で表される化合物4(901mg、白色結晶、収率95.1%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):2.03(m,4H),1.50−1.25(m,40H),0.85(t,6H、J=7.3Hz).
・MALDI−TOF MS:calcd for C28H52N2O2(Mw=448.40):m/z=449.19([M]+).
・元素分析:化合物4 C285222
計算値:C 74.95%,H 11.68%,N 6.24
分析値:C 75.00%,H 11.68%,N 6.45.
・FT−IR(ATR法):3156cm-1(N−H伸縮).
【0032】
[実施例5]化合物5の合成
【化7】

3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン300mgの3mLメタノール溶液にヘキサデシルアミン1.02gの10mLメタノール溶液を加え、60℃で1時間反応させた。その後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、上記式(5)で表される化合物5(1.15g、白色結晶、収率97.5%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):2.00(m,4H),1.47−1.25(m,56H),0.86(t,6H、J=7.1Hz).
・MALDI−TOF MS:calcd for C36H68N2O2(Mw=560.94):m/z=561.38([M]+).
・元素分析:化合物5 C366822
計算値:C 77.08%,H 12.22%,N 4.99
分析値:C 77.16%,H 12.24%,N 5.18.
・FT−IR(ATR法):3159cm-1(N−H伸縮).
【0033】
[実施例6]化合物6の合成
【化8】

3,4−ジメトキシシクロブテン−1,2−ジオン300mgの3mLメタノール溶液
にステアリルアミン1.14gの5mLメタノール溶液を加え、さらにメタノールを10mL加えた後、60℃で1時間反応させた。その後、析出した固体を濾取、メタノールにより洗浄することで、上記式(6)で表される化合物6(1.26g、白色結晶、収率96.9%)を得た。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):2.00(m,4H),1.49−1.25(m,40H),0.86(t,6H、J=6.9Hz).
・MALDI−TOF MS:calcd for C40H76N2O2(Mw=616.59):m/z=617.53([M]+).
・元素分析:化合物6 C407622
計算値:C 77.88%,H 12.41%,N 4.54
分析値:C 77.71%,H 12.31%,N 4.77.
・FT−IR(ATR法):3162cm-1(N−H伸縮).
【0034】
[試験例1:化合物1〜6のゲル化試験]
2ccサンプル管に上記で合成した化合物1〜化合物6に示すスクアリン酸誘導体と、スクアリン酸誘導体の添加量が所定の質量パーセント(wt%)となるように有機溶媒[N,N−ジメチルホルミアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)]を入れ、蓋をして、加熱(90℃)し、スクアリン酸誘導体溶液を作製した。その後、これら溶液を室温(24℃)で放冷し、ゲル化の有無を確認した。なお、放冷後、溶液の流動性が失われて、サンプル管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化」と判断した。このゲル化試験を種々のスクアリン酸誘導体の濃度の溶液について行い、ゲル化に要するスクアリン酸誘導体の最低濃度(wt%)を、最低ゲル化濃度とした。
なお、化合物1〜3については、室温まで放冷後、ゲル形成が見られなかったので、−15℃で3時間静置後、室温まで加温したサンプルについて、ゲル化を評価した。
得られた結果を表1に示す。またDMFを用いて実施した試験の放冷後の各サンプル管の写真を図1(図1a:化合物1〜3の15wt%DMF溶液、図1b:化合物4〜6の5wt%DMF溶液)に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、化合物2〜6はDMFに対するゲル形成能を有するという結果が得られた。一方DMSOでは化合物4〜化合物6について粘調物が得られた。
また、図1(a)に示すように、化合物1の配合量が15wt%では放冷後に沈殿生成してゲル化を示さなかったが、化合物2及び3では15wt%の配合量でゲルの形成が確認された。さらに、図1(b)に示すように、化合物4〜6においては、配合量5wt%のDMF溶液で放冷後にゲル化が確認された。
なお、表1には示していないが、化合物1〜6は、いずれも、水、n‐ヘキサン、トル
エン、プロピレンカーボネート、メタノール、n‐ブタノール、ジクロロエタンには不溶であった。
【0037】
[試験例2:化合物2〜6を用いて形成されるゲルの熱挙動]
次に試験例1でゲル形成が確認された化合物2〜6のDMFゲルのそれぞれについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、化合物2〜化合物6、すなわち、スクアリン酸のアルキルアミンおよびジアルキルアミンの誘導体をゲル化剤として用いて形成されるゲルは、ゾル−ゲル転移することが定量的に確認された。
【0040】
[試験例3:化合物2〜6を用いて形成されるゲルの微細構造観察]
前述の試験例と同様の手順にて得られた、化合物2〜6のDMFゲル(化合物2、3は濃度15wt%、化合物4〜6は濃度10wt%にて配合)を室温にて真空乾燥させ、得られた乾燥ゲル(いわゆるキセロゲル)の状態を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。得られた結果を図2、図3、図4、図5、及び図6に示す。ここで、図2(a)〜(c)は化合物2のDMFゲルのSEM像、図3(a)〜(c)は化合物3のDMFゲルのSEM像、図4(a)〜(c)は化合物4のDMFゲルのSEM像、図5(a)〜(c)は化合物5のDMFキセロゲルのSEM像、図6(a)〜(c)は化合物6のDMFキセロゲルのSEM像((a)〜(c)は倍率を変えて撮影した像)をそれぞれ示す。
図2、図3、図4、図5、及び図6に示すSEM像より、化合物2〜化合物6、すなわちスクアリン酸のアルキルアミンおよびジアルキルアミン誘導体をゲル化剤として用いて形成されたDMFゲルは、数10nm厚・数μm長の多層シートから構成されていることが確認された。
【0041】
ちなみに、粘土鉱物のnm厚・数10μm幅の板状結晶や、オイルワックスの数100nm厚・数10μm幅の板状ワックス結晶は、それらシート状物質(板状の結晶)を骨組みとして構成されるカードハウス構造の空隙に、水あるいは有機溶媒を保持することで含溶媒固形物をつくることが知られている(参考文献;(1)「粘土ハンドブック」技報堂出版(株)(2009年)、(2)「ゲルコントロール−ゲルの上手な作り方とゲル化の抑制−」(株)情報機構(2009年)15頁−17頁、(3)Colloids and Surfaces,51(1990)219頁−238頁、など)。
すなわち、スクアリン酸誘導体をゲル化剤として用い、媒体:DMFにて形成したゲルにおいて、乾燥ゲル(キセロゲル)の状態で多層シート構造がみられたとする上述の結果は、スクアリン酸誘導体をゲル化剤として用いて形成したDMFゲルがカードハウス構造を有し、該構造の空隙において溶媒を保持し、ゲル形成に至ったと考えることができる。
なお多層シート構造は、カードハウス構造を形成するシート状物質が乾燥過程で凝集することで生成したものと推測される。
【0042】
[試験例4:化合物4〜6のイオン伝導性評価]
次に、スクアリン酸誘導体をゲル化剤として用いて得られるゲルのイオン伝導体のホスト材料としての評価を行った。
評価は、セミスクアリン酸部位の酸解離によるプロトン伝導の寄与がなく、支持電解質のみのイオン伝導が評価できる化合物4〜6について行った。なお、化合物4〜6は支持電解質として用いたLiClO4を0.1M含むDMF中でも、濃度5wt%でゲル化し
た。
化合物4〜6 5wt%のLiClO4 DMF溶液(塩濃度 0.1moldm-3
から得たオルガノゲルのイオン伝導度評価結果を表3に示す。なお、参照物質として、LiClO4 DMF溶液(塩濃度 0.1moldm-3)のみの評価も行った。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示すように、化合物4〜6を用いて形成されたDMFゲルが、電解質溶液と同レベルの良好なイオン伝導度を示すという結果が得られた。またこれらの結果は、化合物4〜6をゲル化剤として用いて形成されたゲルが、ゲル電解質としての応用展開が期待される結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上の通り本発明のオイルゲル化剤は、有機媒体を含有する香粧品、医薬品、農業分野の基剤、製剤として、又、塗料、インク、潤滑油、充填剤、或いはゲル電解質等の材料としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]で表されるスクアリン酸誘導体を含む、オイルゲル化剤。
【化1】

[式中、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコ
キシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表し、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。]
【請求項2】
一般式[II]で表されるスクアリン酸誘導体を含む、オイルゲル化剤。
【化2】

[式中、R2及びR3は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環アルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60496(P2013−60496A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198519(P2011−198519)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】