説明

オイルシール

【課題】 オイルシールにあって、オイルリップ部がシール機能を損なわず、また、追随性を低下させずして、油圧緩衝器に利用されて往復運動用とされるのに最適となるようにする。
【解決手段】 筒部30内に軸部20が相対的に往復動可能に挿通される油圧緩衝器にあって、外周が筒部30の開口端部の内周に隣接されて定着され、内周が軸部20の外周に摺接し筒部30内側に対向するオイルリップ部11と、軸部20の外周に摺接して筒部30外側に対向するダストリップ部12とを有してなるオイルシール10において、オイルリップ部11とダストリップ部12との間に両リップ部11,12を連結させるアプローチ部15を有し、このアプローチ部15が、軸部20に向けて突出すると共に先端を軸部20の外周から間隔を有する凸部16を周方向に適宜の間隔で複数有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オイルシールに関し、特に、油圧緩衝器に利用されて往復運動用とされるのに向くオイルシールの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器に利用されるオイルシールとしては、これまでに種々の提案があるが、その中で、たとえば、特許文献1に開示の提案たる図4に示すオイルシール1にあっては、図中に二点鎖線矢印で示すように、油圧緩衝器たるフロントフォークにあって、軸部たるインナーチューブ2が筒部たるアウターチューブ(図示せず)に対して移動するとき、オイルシール1におけるオイルリップ部1aがダストリップ1b側に反転することが危惧される。
【0003】
すなわち、この図4に示すオイルシール1は、断面がL字状になる環状に形成の芯金Mに加硫ゴムRを被着して環状に形成されてなるが、インナーチューブ2の外周に摺接してアウターチューブ内となる図中での下方側たる油圧側に対向するオイルリップ部1aと、同じくインナーチューブ2の外周に摺接してオイルリップ部1aに直列しながらアウターチューブ外となる図中での上方側たる大気側に対向するダストリップ部1bとを有してなる。
【0004】
そして、このオイルシール1にあって、オイルリップ部1aは、いわゆるゴム材からなるがゆえに、自身が有する弾性でインナーチューブ2の外周に尖端からなるリップ1cを押し付けるようにして、アウターチューブ内を移動するインナーチューブ2の外周に付着する油膜をリップ1cで掻き落し、インナーチューブ2の外周に付着する油膜がリップ1cを交して上方側のダストリップ1b側に流出すること、つまり、作動油がアウターチューブ外に漏出することを阻止する所定のシール機能を発揮する。
【0005】
しかしながら、オイルリップ部1aの油圧側に連通する外周側部に、つまり、ガータスプリングSを有する外周側部に油圧側からのいわゆる高圧が作用すると、リップ1cがインナーチューブ2の外周に言わば強く押し付けられる状態になり、リップ1cにおける接触面積が増大する。
【0006】
リップ1cにおける接触面積が増大すると、オイルリップ部1aのインナーチューブ2に対する摺動抵抗も増すが、この状態のとき、すなわち、油圧側が高圧にあるままインナーチューブ2がアウターチューブ内から抜け出るように移動すると、オイルリップ部1aにおけるリップ1cがインナーチューブ2の外周に密着した状態でダストリップ1b側に移動する、つまり、上記したように、オイルリップ部1aがダストリップ1b側に反転することが危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−13818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記した言わば従来のオイルシール1にあって、オイルリップ部1aの径方向の肉厚を大きくして、このオイルリップ部1aにおける剛性を高めてオイルリップ部1aの反転を阻止し得るようにし、往復運動用として利用し得るようにする提案をなし得る。
【0009】
しかしながら、オイルシール1にあって、オイルリップ部1aにおける径方向の肉厚が大きくされて剛性が高められると、オイルリップ部1aにおける径方向の変形性能、つまり、追随性が阻害される。
【0010】
すなわち、オイルシール1の軸芯部を貫通するインナーチューブ2における軸芯線が設定の、たとえば、垂直線状態から傾斜するとき、オイルリップ部1aがインナーチューブ2の傾斜に追随して変形する場合には、リップ1cとインナーチューブ2との間に油膜からなる作動油の漏れを招来させる隙間を出現させない。
【0011】
しかし、オイルリップ部1aにおける径方向の肉厚が大きくされて剛性が高められていると、オイルリップ部1aがインナーチューブ2の傾斜に追随できなくなり、リップ1cがインナーチューブ2から離れる傾向になって、リップ1cとインナーチューブ2との間に油膜からなる作動油の漏れを招来させる隙間を出現させることが危惧される。
【0012】
この発明は、上記した現状を鑑みて創案されたものであって、オイルリップ部がシール機能を損なわず、また、追随性を低下させずして、油圧緩衝器に利用されて往復運動用とされるのに最適となるオイルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するため、この発明のよるオイルシールの構成を、筒部内に軸部が相対的に往復動可能に挿通される油圧緩衝器にあって、外周が上記筒部の開口端部の内周に隣接されて定着され、内周が上記軸部の外周に摺接し上記筒部内側に対向するオイルリップ部と、上記軸部の外周に摺接して上記筒部外側に対向するダストリップ部とを有してなるオイルシールにおいて、上記オイルリップ部と上記ダストリップ部との間に両リップ部を連結させるアプローチ部を有し、このアプローチ部が、上記軸部に向けて突出すると共に先端を上記軸部の外周から間隔を有する凸部を周方向に適宜の間隔で複数有してなるとする。
【0014】
それゆえ、オイルシールにあっては、オイルリップ部とダストリップ部とを連結させるアプローチ部が軸部に向けて突出形成される凸部を有するから、この凸部がこの凸部に連続するオイルリップ部の根元部を支えることになり、オイルリップ部の根元部の変形が抑制される。
【0015】
すなわち、オイルシールにおいて、アプローチ部が軸部に向けて突出形成される凸部を有するから、このアプローチ部にあって、凸部を有する部位の肉厚をアプローチ部における原形部、すなわち、凸部を有しない部位における肉厚より厚くすることになり、このことから、この凸部を有する部位に連続するオイルリップ部の根元部における剛性が大きくなり、オイルリップ部の根元部の変形が抑制される。
【0016】
そして、凸部によってオイルリップ部の根元部の変形が抑制されることで、オイルリップ部の背面側が高圧傾向になるときに、オイルリップ部が大きく変形することが阻止され、オイルリップ部における尖端たるリップの軸部に対する接触面積が増加することを回避できる。
【0017】
このとき、凸部の先端を軸部の外周から離して軸部の外周に接触させない、すなわち、摺接させないから、凸部の先端と軸部の外周との間にいたずらにフリクションを発生させずして、この凸部がオイルシールの軸部に対する摺動性を低下させることがない。
【0018】
したがって、オイルリップ部の軸部に対する摺動性が低下されずして所定のシール機能の発揮が保障されると共に、オイルリップ部の尖端たるリップが軸部に過大に接触することが阻止されるから、リップの軸部に対する接触面積が大きくならず、オイルリップ部における反転が危惧されなくなる。
【0019】
また、凸部によってオイルリップ部における根元部の変形を抑制しても、オイルリップ部における追随性が低下されないから、オイルシールの軸芯部を貫通する軸部における軸芯線が設定の、たとえば、垂直線状態から傾斜するとき、オイルリップ部が軸部の傾斜に追随して変形し、リップと軸部との間に油膜からなる作動油の漏れを招来させる隙間を出現させない。
【発明の効果】
【0020】
その結果、この発明のオイルシールによれば、オイルリップ部がシール機能を損なわず、また、追随性を低下させずして、油圧緩衝器に利用されて往復運動用とされるのに最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明によるオイルシールを示す半截縦断面図である。
【図2】オイルシールのアプローチ部に設けられる凸部の配列状態を示す平面線図である。
【図3】油圧緩衝器たるフロントフォークにこの発明によるオイルシールが利用される状態を示す半截部分縦断面図である。
【図4】従来例としてのオイルシールを示す半截縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるオイルシール10は、図1に示すように、断面をほぼL字状にして環状に形成される芯金Mを有すると共に、この芯金Mに加硫ゴムRを被着して環状に形成され、たとえば、図3に示すように、油圧緩衝器たるフロントフォークに利用されて往復運動用とされる。
【0023】
このとき、オイルシール10は、フロントフォークを構成するアウターチューブ30における開口端部、つまり、筒部とされるシールケース部31の内側に設けられ、内周がアウターチューブ30内に挿通される軸部たるインナーチューブ20の外周に摺接する。
【0024】
ちなみに、アウターチューブ30における筒部たるシールケース部31の内側には、この発明によるオイルシール10に直列してダストシール40も設けられ、このダストシール40の内周もインナーチューブ20の外周に摺接する。
【0025】
なお、油圧緩衝器たる図示するフロントフォークは、封入されたエア圧で伸長方向に附勢されるエア封入タイプとされるもので、このことから、後述するオイルシール10において、筒部たるアウターチューブ30内からの高圧傾向になる作動油による液圧がオイルリップ部11に作用することになる。
【0026】
一方、この発明によるオイルシール10は、油圧緩衝器たるフロントフォークにあって、筒部たるアウターチューブ30の開口端部、つまり、シールケース部31の内側に配設されて、軸芯部に軸部たるインナーチューブ20を貫通させ、インナーチューブ20がアウターチューブ30に対して出入自在とされることを許容する。
【0027】
すなわち、このオイルシール10は、外周がアウターチューブ30の開口端部たるシールケース部31の内周に隣接されて固定的に定着されると共に、軸芯部の孔を形成する内周がアウターチューブ30内に挿通されてアウターチューブ30に対して出入自在とされるインナーチューブ20の外周に摺接する。
【0028】
そして、このオイルシール10は、図1中で下方側たるアウターチューブ30内側となる油圧側に対向するインナーチューブ20の外周に弾性を有して摺接するオイルリップ部11と、このオイルリップ部11に直列しながら図1中で上方側たるアウターチューブ30外側となる大気側に対向するインナーチューブ20の外周に摺接するダストリップ部12とを有してなる。
【0029】
ちなみに、封入するエア圧で伸長方向に附勢されるフロントフォークにあっては、上記の油圧側における油圧は、封入されるエア圧に基づくことになり、このことから、オイルシール10におけるオイルリップ部11には、上記のエア圧に基づく油圧が作用することになる。
【0030】
そして、このオイルシール10にあって、オイルリップ部11は、設定された締め代を有するいわゆるゴム材からなるがゆえに、自身が有する弾性でインナーチューブ20の外周に尖端からなるリップ13を押し付けるようにする。
【0031】
すなわち、このオイルシール10にあって、オイルリップ部11は、油圧側となる図1中での下端部の内周を尖端にしてリップ13とし、このリップ13をインナーチューブ20の外周に摺接させる。
【0032】
ちなみに、リップ13は、図示するところにあって、図中に符号13で示すメインリップの他に、図中に符号13aで示すサブリップを有してなり、後述するアプローチ部15は、このサブリップ13aとダストリップ部12のリップ14との間になる。
【0033】
それゆえ、このオイルシール10にあって、インナーチューブ20が図1中に二点鎖線矢印で示すようにアウターチューブ30内から抜け出るように移動するとき、リップ13がインナーチューブ20の外周に付着する油膜、つまり、潤滑油膜を掻き落して言わば作動油を油圧側に戻し、インナーチューブ2の外周に付着する油膜がリップ13および13aを交して上方側のダストリップ12側に流出すること、つまり、作動油がアウターチューブ30の外に漏出することを阻止する所定のシール機能を発揮する。
【0034】
そして、オイルシール10の軸芯部を貫通するインナーチューブ20における軸芯線が設定の、たとえば、図示する状態たる垂直線状態から傾斜するとき、オイルリップ部11がゴム材からなるから、インナーチューブ20の傾斜に追随して変形する、つまり、追随性を発揮し、リップ13とインナーチューブ20との間に油膜からなる作動油の漏れを招来させる隙間を出現させないことが可能になる。
【0035】
ちなみに、オイルシール10におけるオイルリップ部11の径方向の厚さ寸法についてであるが、一般に、回転運動用とされるオイルシールに比較して、往復運動用とされる場合には総じて厚肉に形成され、それゆえ、設計思想としては、厚肉に形成されるがゆえに、剛性が大きくなり、前記したいわゆる反転の不具合を回避し得るとしている。
【0036】
一方、このオイルシール10にあって、ダストリップ部12は、同じく設定された締め代を有するゴム材からなるがゆえに、自身が有する弾性でインナーチューブ20の外周に尖端からなるリップ14を押し付けるようにする。
【0037】
すなわち、このオイルシール10にあって、ダストリップ部12は、大気側となる図1中での上端部の内周を尖端にしてリップ14とし、このリップ14をインナーチューブ20の外周に摺接させる。
【0038】
それゆえ、このオイルシール10にあって、インナーチューブ20が図1中に二点鎖線矢印で示す方向と反対方向に下降するとき、リップ14がインナーチューブ20の外周に付着するダストを掻き落して、ダストがアウターチューブ30内に侵入することを阻止する。
【0039】
ところで、この発明のオイルシール10にあっては、オイルリップ部11とダストリップ部12との間に位置決めされて両リップ部11,12を連結させるアプローチ部15を有してなる。
【0040】
このアプローチ部15は、従来のオイルシールにも形成されている部位であって、外観的には、オイルリップ部11を連結させると共にダストリップ部12を連結させるが、基本的には、オイルリップ部11とダストリップ部12とをいわゆる分離して、オイルリップ部11の変形の影響をダストリップ部12に伝播させないようにすると共に、ダストリップ部12の変形の影響をオイルリップ部11に伝播させないようにする。
【0041】
そして、このアプローチ部15の内周、つまり、後述する原形部15aの内周は、対向するインナーチューブ20の外周から適宜の間隔を有して離れてなるとし、少なくとも、アプローチ部15の内周がインナーチューブ20の外周に接触していたずらにフリクションを大きくしないように配慮している。
【0042】
一方、この発明のオイルシール10にあって、アプローチ部15は、図2にも示すように、内周から、つまり、原形部15aの内周からインナーチューブ20に向けて突出すると共に先端たる内周をインナーチューブ20の外周から離す凸部を周方向に適宜の間隔で複数有してなる。
【0043】
このとき、凸部の内周をインナーチューブ20の外周から離すとするのは、この凸部の先端たる内周がインナーチューブ20の外周に接触することでいたずらにフリクションが発生されることを回避するためである。
【0044】
そして、図示するところにあって、凸部は、インナーチューブ20の軸線方向に沿うことになるこのオイルシール10における軸方向に沿うように設けられるリブ16からなり、このリブ16が周方向に適宜の間隔で複数形成されてなる。
【0045】
すなわち、この発明におけるオイルシール10にあっては、アプローチ部15の内周にリブ16が形成されることからして、このリブ16が形成されない部位は、アプローチ部15の内周の原形を止めているものであって、その意味で、この発明にあっては、アプローチ部15にあって、リブ16が形成されない部位が原形部15aとされる。
【0046】
そして、上記のリブ16であるが、図示する実施の形態では、図2にも示すように、リブ16の周方向の幅が原形部15aの周方向の幅より小さくなるように設定される。
【0047】
このように、リブ16の周方向の幅が原形部15aの周方向の幅より小さく設定されることで、以下のような効果が得られる。
【0048】
先ず、このオイルシール10を型成形する場合を鑑みると、言わば出っ張りとなるリブ16の周方向の幅が言わば凹みとなる原形部15aの周方向の幅より小さいことから、リブ16の周方向の幅が原形部15aの周方向の幅より大きくなる場合に比較して、型抜き性を良くする。
【0049】
次に、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より小さく設定する場合には、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より大きく設定する場合に比較して、オイルリップ部11を支える機能、つまり、リブ16を設けてオイルリップ部11におけるアプローチ部15に連続する部位、つまり、根元部(符示せず)における剛性を高める際の設定についての自由度が増すと言い得る。
【0050】
すなわち、図示しないが、アプローチ部15に形成されるリブ16が周方向に連続する帯状に形成されて、言わば原形部15aの肉厚を全周に亘って大きくする場合には、リブ16のオイルリップ部11の根元部を支える力が大きくなり過ぎて、オイルリップ部11の根元部における剛性をいたずらに高くする危惧がある。
【0051】
そして、このオイルリップ部11の根元部における剛性をいたずらに高くする危惧は、同じく図示しないが、リブ16が一つまたは二つの割り溝を有する帯状に形成される場合も同様と言え、また、割り溝を複数設けるとする、すなわち、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より大きく設定する場合も同様と言える。
【0052】
このことから、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より小さく設定する場合よりも、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より大きく設定する場合の方がオイルリップ部11の根元部における剛性をいたずらに高くする危惧が増すと言い得る。
【0053】
つまり、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より大きく設定することは、オイルリップ部11の根元部を支えるための剛性を高くできる反面、前記したオイルリップ部11における追随性をいたずらに低下させ易くなる。
【0054】
それゆえ、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より大きく設定する場合よりも、リブ16の周方向の幅を原形部15aの周方向の幅より小さく設定する場合の方が、オイルリップ部11の根元部における剛性を高くする場合に設定に自由度が増すと言い得ることになる。
【0055】
戻って、アプローチ部15の内周に形成されるリブ16は、インナーチューブ20の軸線方向に沿う軸方向長さが原形部15a内に収まる、つまり、リブ16の一端たる下端がオイルリップ部11の根元部、すなわち、図1中に一点鎖線図で示す位置を越えないとする。
【0056】
これによって、リブ16を形成することによるオイルリップ部11の根元部における剛性をいたずらに高くし、延いては、オイルリップ部11における後述の追随性を阻害し易くなる危惧を排除する。
【0057】
ちなみに、リブ16の他端たる上端位置については、リブ16が有するオイルリップ部11を支える機能について直接的に影響しないと言い得るので、基本的には自由に設定されて良いが、それでも、アプローチ部15の領域を超えることは、結果的に、リブ16を必要以上に軸方向長さを大きくすることになるので、避けられるべきであろう。
【0058】
以上のように、この発明のオイルシール10にあっては、アプローチ部15が軸部たるインナーチューブ20に向けて突出形成される凸部たるリブ16を有するから、このリブ16がこのリブ16に連続するオイルリップ部11の根元部を支えることになり、オイルリップ部11の根元部の剛性が高められて変形が抑制される。
【0059】
すなわち、オイルシール10において、アプローチ部15がインナーチューブ20に向けて突出形成されるリブ16を有するから、このアプローチ部15にあって、リブ16を有する部位の肉厚をアプローチ部15における原形部、すなわち、リブ16を有しない部位における肉厚より厚くすることになり、このことから、このリブ16を有する部位に連続するオイルリップ部11の根元部における剛性が大きくなり、オイルリップ部11の根元部の変形が抑制される。
【0060】
そして、リブ16によってオイルリップ部11の根元部の変形が抑制されることで、オイルリップ部11の背面側が高圧傾向になるときに、オイルリップ部11が大きく変形することが阻止され、オイルリップ部11における尖端たるリップ13のインナーチューブ20に対する接触面積が増加することを回避できる。
【0061】
したがって、オイルリップ部11のインナーチューブ20に対する摺動性が低下されずして所定のシール機能の発揮が保障されると共に、オイルリップ部11の尖端たるリップ13がインナーチューブ20に過大に接触することが阻止されるから、リップ13のインナーチューブ20に対する接触面積が大きくならず、オイルリップ部11における反転が危惧されなくなる。
【0062】
また、凸部たるリブ16によってオイルリップ部11における根元部の変形を抑制しても、オイルリップ部11における追随性が低下されないから、オイルシール10の軸芯部を貫通する軸部たるインナーチューブ20における軸芯線が設定の、たとえば、垂直線状態から傾斜するとき、オイルリップ部11がインナーチューブ20の傾斜に追随して変形し、リップ13とインナーチューブ20との間に油膜からなる作動油の漏れを招来させる隙間を出現させない。
【0063】
その結果、この発明のオイルシール10によれば、オイルリップ部11がシール機能を損なわず、また、追随性を低下させずして、油圧緩衝器に利用されて往復運動用とされるのに最適となる。
【0064】
ところで、この発明にあっては、前記したように、オイルシール10において、アプローチ部15に凸部たるリブ16を一体に設け、このリブ16によってオイルリップ部11を支え、オイルリップ部11の根元部における剛性を高めて、オイルリップ部11の反転を阻止する。
【0065】
それに対して、このオイルリップ部の反転を阻止するについて、図示しないが、アプローチ部にゴム材に比較して硬質な材料からなるバックアップ用のリング類を設けることを提案し得る。
【0066】
なるほど、アプローチ部にバックアップ用のリング類を設ける場合には、このリング類の剛性から、オイルリップ部の根元部の剛性を高めることが可能になり、反転を阻止することが可能になるであろう。
【0067】
しかしながら、その実施を勘案すると、リング類をアプローチ部に定着させるのが容易でなく、オイルシールたるいわゆる部品製作に手間を要すことになり、また、リング類と言ういわゆる別部品を要することになり、オイルシールにおけるコスト高を招来する不具合もある。
【0068】
それに対して、この発明にあっては、リング類をアプローチ部15に定着させるなどの手間を要せず、また、いわゆる別部品を要しないから、コスト高を招来せずしてその実施が容易になる点で有利となる。
【0069】
のみならず、この発明にあっては、オイルシール10にあって、アプローチ部15にオイルリップ部11の根元部を支える凸部たるリブ16を設けて、オイルリップ部11の根元部の剛性を高めるから、従来のように、オイルリップ部11における径方向の肉厚を増大させることが絶対的に必要にならず、オイルシール10を形成するのに際して、素材量の増大を回避できる点で有利となる。
【0070】
そして、この発明のオイルシール10にあっては、オイルシール10が有する追随性を低下させる危惧がないのはもちろんのこと、むしろオイルシール10肉厚を小さくすることを可能にするから、追随性をより向上させることが可能になる利点がある。
【0071】
前記したところでは、オイルシール10にあって、アプローチ部15の内周に形成される凸部が軸部たるインナーチューブ20の軸線方向となるこのオイルシール10における軸方向に延びるリブ16からなるとしたが、この凸部が機能するところからすると、図示しないが、軸方向に間欠形成されるリブからなるとしても良く、また、軸方向にも周方向にも方向性を有しない独立する隆起部からなるとしても良く、さらには、周方向に周回しながら間欠形成される間欠リブからなるとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
特に、封入したエア圧で伸長方向に附勢されるエア封入タイプのフロントフォークへの利用に向く。
【符号の説明】
【0073】
10 オイルシール
11 オイルリップ部
12 ダストリップ部
13 メインリップ
14 リップ
13a サブリップ
15 アプローチ部
15a 原形部
16 凸部たるリブ
20 軸部たるインナーチューブ
30 筒部たるアウターチューブ
31 シールケース部
M 芯金
R 加硫ゴム
S ガータスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部内に軸部が相対的に往復動可能に挿通される油圧緩衝器にあって、
外周が上記筒部の開口端部の内周に隣接されて定着され、内周が上記軸部の外周に摺接し上記筒部内側に対向するオイルリップ部と、上記軸部の外周に摺接して上記筒部外側に対向するダストリップ部とを有してなるオイルシールにおいて、
上記オイルリップ部と上記ダストリップ部との間に両リップ部を連結させるアプローチ部を有し、このアプローチ部が、上記軸部に向けて突出すると共に先端を上記軸部の外周から間隔を有する凸部を周方向に適宜の間隔で複数有してなることを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
上記凸部が上記軸部の軸線方向に沿う軸方向に形成されるリブからなると共に、このリブの周方向の幅がこの凸部を有しない上記アプローチ部における原形部の周方向の幅より小さく設定されてなる請求項1に記載のオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2622(P2013−2622A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137902(P2011−137902)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】