説明

オイルホール付きタップ、およびオイルホール閉塞方法

【課題】オイルホールの先端開口部が閉塞部材によって確実に閉塞されることにより、高い流体圧力で安定した流体供給性能が得られるとともに、タップ本体の先端近くに吐出穴を設けることができるようにする。
【解決手段】タップ本体12を回転させつつアルミニウム板40に押圧することにより、アルミニウム板40を局部的に溶融させてタップ本体12の先端面34に一体的に固着させ、そのアルミニウム固着物をそのまま閉塞部材14として使用するため、簡単で且つ安価に閉塞部材14を設けることができる。このような閉塞部材14は、溶着等により強固に固着され、且つオイルホール30の先端開口部を密閉できるため、高い圧力で潤滑油を供給することにより安定した潤滑性能が得られる。また、タップ本体12の先端近くの食付き部18bに吐出穴32を設けることが可能で、通り穴にめねじを加工する場合でも食付き部18bを適切に潤滑することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルホール付きタップに係り、特に、タップ本体の先端に閉塞部材が一体的に固設されることによりオイルホールの先端開口部が閉塞され、径方向に設けられた吐出穴から外周側へ流体を吐出するオイルホール付きタップの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) めねじを加工するためのおねじ部が外周部に設けられたタップ本体と、(b) そのタップ本体の工具軸心Oを縦通させられるとともに先端面に開口させられているオイルホールと、(c) 前記タップ本体の先端面に一体的に固設されて前記オイルホールの先端開口部を閉塞する閉塞部材と、(d) 前記オイルホールに連通するように前記タップ本体の径方向に設けられ、オイルホールを経て供給された流体を外周側へ吐出する吐出穴と、を有するオイルホール付きタップが広く用いられている。特許文献1に記載のオイルホール付きタップはその一例で、閉塞部材として板材がタップ本体の先端にスポット溶接等により固定されている。閉塞部材としては、この他にもオイルホールの先端開口部にねじ部材を螺合したり、真鍮等の軟質材を先端開口部に打ち込んだり、プラスチック板を接着剤で固定したりするなど、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7073988号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、閉塞部材として板材をスポット溶接で固定する場合、タップ本体の先端面と板材との間に隙間が生じて流体が漏れ出し、流体圧力が低下して流体供給性能が損なわれることがある。アーク溶接等により全周に亘って溶接することも可能であるが、溶接作業が面倒で製造コストが高くなる。プラスチック板を接着剤で固定したり真鍮等の軟質材を打ち込んだりする方法は、固着強度にばらつきが生じ易く、例えば2MPa程度の圧力で流体を供給した場合に剥がれたり抜け落ちたりすることがあり、高い流体圧力で安定した流体供給性能を得ることが難しい。真鍮の場合は、腐食することもある。ねじ部材をねじ込む場合は、高い固設強度でオイルホールを確実に閉塞できるが、ねじ穴等を加工する必要があるため製造コストが高くなるとともに、ねじ部材を螺合する寸法分だけタップ本体の先端から離して吐出穴を設ける必要があり、タップ本体の先端からおねじ部が設けられた場合に食付き部に吐出穴を設けることができないことがある。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、オイルホールの先端開口部が閉塞部材によって確実に閉塞されることにより、高い流体圧力で安定した流体供給性能が得られるとともに、タップ本体の先端近くに吐出穴を設けることが可能で、且つその閉塞部材を比較的簡単で且つ安価に取り付けることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) めねじを加工するためのおねじ部が外周部に設けられたタップ本体と、(b) そのタップ本体の工具軸心Oを縦通させられるとともに先端面に開口させられているオイルホールと、(c) 前記タップ本体の先端面に一体的に固設されて前記オイルホールの先端開口部を閉塞する閉塞部材と、(d) 前記オイルホールに連通するように前記タップ本体の径方向に設けられ、そのオイルホールを経て供給された流体を外周側へ吐出する吐出穴と、を有するオイルホール付きタップにおいて、(e) 前記閉塞部材は、前記オイルホールが設けられた前記タップ本体に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつそのタップ本体の先端面に相対的に押圧することにより、そのアルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融してそのタップ本体の先端面に一体的に固着されたアルミニウム固着物であることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のオイルホール付きタップにおいて、(a) 前記おねじ部は正多角形状を成しており、その正多角形状の突出部により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成するもので、径寸法が徐々に小さくなる食付き部は前記タップ本体の先端に達しているとともに、(b) そのおねじ部には、工具軸心Oまわりにおいて前記突出部の間の逃げ部に油流通溝がそのおねじ部を周方向に分断するように設けられており、(c) 前記吐出穴は、前記おねじ部の前記食付き部であって前記油流通溝に開口するように設けられていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、(a) めねじを加工するためのおねじ部が外周部に設けられたタップ本体と、(b) そのタップ本体の工具軸心Oを縦通させられるとともに先端面に開口させられているオイルホールと、(c) そのオイルホールに連通するように前記タップ本体の径方向に設けられ、そのオイルホールを経て供給された流体を外周側へ吐出する吐出穴と、を有するオイルホール付きタップにおいて、前記オイルホールの先端開口部を閉塞する方法であって、(d) 前記オイルホールが設けられた前記タップ本体に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつそのタップ本体の先端面に相対的に押圧することにより、そのアルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融し、そのタップ本体の先端面に一体的に固着されたアルミニウム固着物により、前記オイルホールの先端開口部を閉塞することを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第3発明のオイルホール閉塞方法において、前記アルミニウム材と前記タップ本体との相対回転速度Sは4000min-1以上で、互いに接近させる方向の送り速度fは3〜10mm/minの範囲内で、そのタップ本体の先端がそのアルミニウム材に食い込む突っ込み深さZは0.1〜1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明のオイルホール付きタップにおいては、オイルホールが設けられたタップ本体に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつそのタップ本体の先端面に押圧することにより、そのアルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融してタップ本体の先端面に一体的に固着されたアルミニウム固着物によって閉塞部材が構成されているため、比較的簡単で且つ安価に閉塞部材を設けてオイルホールを閉塞することができる。このようなアルミニウム固着物は溶着等により強固にタップ本体に固着され、且つオイルホールの先端開口部を確実に閉塞(密閉)できるため、例えば2MPaを超える高い圧力で流体を供給することが可能で、高圧力により安定した流体供給性能が得られる。
【0011】
また、アルミニウム固着物の一部はオイルホールの先端開口部内に侵入するものの、その侵入寸法はねじ栓等に比較して小さく、タップ本体の先端近くに吐出穴を設けることができるため、例えば第2発明のように食付き部がタップ本体の先端に達している場合でも、その食付き部に開口するように吐出穴を設けることが可能で、通り穴にめねじを加工する場合でもめねじ形成に大きく寄与する食付き部を適切に潤滑することができる。
【0012】
第2発明は、おねじ部が正多角形状を成していて、その正多角形状の突出部により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップに関するもので、食付き部がタップ本体の先端に達しているとともに、おねじ部を周方向に分断するように油流通溝が設けられている場合で、そのおねじ部の食付き部であって油流通溝に開口するように吐出穴が設けられているため、通り穴にめねじを加工する場合でもめねじ形成に大きく寄与する食付き部を適切に潤滑することができる。
【0013】
第3発明のオイルホール閉塞方法においても、実質的に第1発明と同様の作用効果が得られる。第4発明では、アルミニウム固着物をタップ本体の先端に固着させる際のアルミニウム材とタップ本体との相対回転速度Sが4000min-1以上で、送り速度fが3〜10mm/minの範囲内で、突っ込み深さZが0.1〜1.0mmの範囲内であるため、溶着等によりアルミニウム固着物が強固にタップ本体に固着されるとともに、オイルホールの先端開口部が確実に閉塞(密閉)され、例えば2MPaを超える高い圧力で流体を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明がオイルホール付き盛上げタップに適用された場合の一例を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角な方向から見た正面図、(b) は工具先端部分を工具軸心Oに沿って切断して拡大して示す縦断面図で、(c) におけるIB−IB断面に相当する図であり、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) は(b) におけるID−ID断面図である。
【図2】図1の実施例において、タップ本体の先端に閉塞部材としてアルミニウム固着物を設ける際の固着方法を説明する図である。
【図3】図1の実施例において、タップ本体の先端に閉塞部材としてアルミニウム固着物を設ける固着方法の別の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のオイルホール付きタップは、おねじ部が多角形状(三角形以上)を成していて突出部により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップ(転造タップ)に好適に適用されるが、おねじ部に切れ刃が設けられてめねじを切削加工する切削タップにも適用され得る。盛上げタップの場合、特に十分な潤滑油剤を必要とするため、本発明が適用されることにより潤滑性能が向上し、工具寿命を向上させる効果が大きい。
【0016】
本発明のオイルホール付きタップは、特に通り穴に対してめねじを加工する場合に好適に用いられるが、止り穴に対してめねじを加工する場合に使用することもできる。
【0017】
タップ本体の工具軸心Oを縦通するように設けられるオイルホールは、少なくともタップ本体の先端面に開口させられるが、例えば後端面にも開口するようにタップ本体を軸方向に貫通するように設けられ、後端から流体を供給するように構成される。タップ本体の軸方向の途中(おねじ部よりも後端側)に径方向に流体供給穴を設けることも可能で、その場合は、必ずしもオイルホールを後端面に開口させる必要はない。
【0018】
タップ本体の径方向に設けられる吐出穴は、工具軸心Oまわりに等角度間隔で放射状に3本以上設けられることが望ましいが、工具軸心Oと直交する一直線上に一対の吐出穴が設けられるだけでも良いし、不等角度間隔で設けることもできる。切削タップの場合、切れ刃のすくい面を構成する切り屑排出溝に開口するように設けることが望ましく、盛上げタップの場合に、逃げ部に油流通溝が設けられる場合、その油流通溝に開口するように設けることが望ましい。
【0019】
上記吐出穴は、おねじ部の食付き部に開口するように設けることが望ましいが、食付き部よりもタップ本体の先端側に設けることも可能である。吐出穴はまた、工具軸心Oと直交する方向だけでなく、工具軸心Oと直交する方向から軸方向へ所定角度で傾斜するように設けることもできる。吐出穴の断面積は、複数の吐出穴の合計の断面積がオイルホールの断面積と略同じかそれより小さくなるようにすることが望ましく、吐出穴の本数を考慮して適宜設定される。
【0020】
閉塞部材としてアルミニウム固着物をタップ本体に固着する方法としては、タップ本体を工具軸心Oまわりに回転させつつ軸方向へ移動させてアルミニウム材に押圧しても良いし、アルミニウム材を工具軸心Oまわりに回転させつつ軸方向へ移動させてタップ本体に押圧しても良い。回転駆動する部材と軸方向へ移動させる部材とが異なっていても良い。アルミニウム材は、純粋なアルミニウムだけでなく、アルミニウムを主体とするアルミニウム合金であっても良い。タップ本体の材質としては、高速度工具鋼等の工具鋼や超硬合金が好適に用いられる。
【0021】
第4発明では、相対回転速度Sが4000min-1以上で、送り速度fが3〜10mm/minで、突っ込み深さZが0.1〜1.0mmの範囲内であるが、アルミニウム材の材質やタップの呼び径等により、上記範囲を超えて設定することも可能である。相対回転速度Sの上限は特に規定する必要がないが、例えば20000min-1程度以下が適当で、現状のマシニングセンタ等の主軸回転速度の最高速度としても良い。なお、上記条件でアルミニウム材をタップ本体に固着する際の軸方向の押圧荷重Fは、例えば1〜5kN程度で、相対回転させる主軸トルクTは、例えば1〜3Nm程度である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるオイルホール付き盛上げタップ10(以下、単に盛上げタップ10という)を示す図で、(a) は工具軸心Oと直角方向から見た正面図、(b) は工具先端部分を工具軸心Oに沿って切断して拡大して示す縦断面図で、(c) におけるIB−IB断面に相当する図であり、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) は(b) におけるID−ID断面図である。この盛上げタップ10は、タップ本体12の先端に閉塞部材14を一体的に固設したもので、タップ本体12は、図示しないチャックを介して主軸に取り付けられるシャンク16と、めねじを盛上げ加工(転造加工)するためのおねじ部18とを工具軸心Oと同心に一体に備えている。
【0023】
上記おねじ部18は、タップ本体12の先端外周部に設けられているとともに、外側へ湾曲した辺からなる正多角形状、本実施例では略六角形状の断面を成している。おねじ部18の略六角形状の外周面には、形成すべきめねじに対応するおねじのねじ山20が螺旋状に設けられており、六角形状の頂点に相当する6箇所の突出部24が被加工物の下穴の表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを盛上げ加工する。このおねじ部18は、突出部24の径寸法が略一定の完全山部18aと、先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部18bとを備えており、食付き部18bはタップ本体12の先端に達している。また、6箇所の突出部24の周方向の中間に位置する逃げ部には、それぞれおねじ部18を周方向に分断するように工具軸心Oと平行に油流通溝26が設けられている。本実施例の盛上げタップ10の呼びはM10×1.5で、タップ本体12は高速度工具鋼(ハイス)にて構成されている。また、食付き部18bの軸方向寸法は約4山で、4×1.5=6mm程度である。
【0024】
上記タップ本体12にはまた、工具軸心Oを軸方向に貫通するようにオイルホール30が設けられているとともに、先端近傍部分にはオイルホール30に連通するように複数(実施例では6つ)の吐出穴32が等角度間隔で放射状に設けられている。吐出穴32は、前記食付き部18bにおいて前記油流通溝26の溝底に開口するように設けられている。オイルホール30の先端開口部は前記閉塞部材14によって閉塞されており、タップ本体12の後端開口部からオイルホール30内に導入された潤滑油は、食付き部18bに設けられた吐出穴32から外周側へ放射状に吐出させられて、その食付き部18bによる盛上げ加工部等を潤滑する。オイルホール30の直径は2.0mmで、吐出穴32の直径は0.8mmであり、6つの吐出穴32の断面積の合計がオイルホール30の断面積より僅かに小さくされている。
【0025】
前記閉塞部材14は、オイルホール30が設けられたタップ本体12に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつタップ本体12の先端面34に相対的に押圧することにより、アルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融してタップ本体12の先端面34に一体的に固着されたアルミニウム固着物である。具体的には、例えば図2の(a) に示すように、タップ本体12を縦型マシニングセンタ等の主軸に下向きに取り付けて工具軸心Oまわりに所定の回転速度Sで回転駆動しつつ送り速度fで下方へ移動させ、図示しないテーブル等に固定されたアルミニウム板(実施例ではJISの規定によるA2011)40に押圧する。アルミニウム板40は、タップ本体12の先端面34との接触摩擦によって発生する摩擦熱で局部的に溶融し、タップ本体12の先端部がそのアルミニウム板40に食い込む。そして、図2の(b) に示すようにタップ本体12の先端が所定の突っ込み深さZだけ食い込んだ位置でタップ本体12の送りを停止し、上方へ引き上げて回転を停止する。これにより、図2(c) に示すように溶融したアルミニウム板40の一部がタップ本体12の先端面34に付着したまま持ち上げられ、そのまま冷却されることによりタップ本体12の先端面34に一体的に固着される。図2の(a) 、(b) ではアルミニウム板40が斜視図的に示されているが、タップ本体12は、先端面34がアルミニウム板40の上面と略平行となる姿勢、すなわち工具軸心Oがアルミニウム板40に対して略垂直となる姿勢で押圧される。上記回転速度Sは4000min-1以上で本実施例では10000min-1、送り速度fは3〜10mm/minの範囲内で本実施例では5mm/min、突っ込み深さZは0.1〜1.0mmの範囲内で本実施例では0.5mmである。また、その時の軸方向の押圧荷重Fは1〜5kNの範囲内で本実施例では約3kN、主軸トルクTは1〜3Nmの範囲内で本実施例では約2Nmであった。
【0026】
上記アルミニウム固着物から成る閉塞部材14には、溶融したアルミニウム材の一部がオイルホール30の先端開口部内に侵入して突起14tが形成され、この突起14tの存在でオイルホール30の先端開口部が一層液密に閉塞される。突起14tの突出寸法(侵入寸法)は、突っ込み深さZと略同じかそれ以下であり、突っ込み寸法Z=0.5mmの本実施例では最大でも1.0mm程度である。前記吐出穴32は、この突起14tで埋まることがないように、例えばタップ本体12の先端面34から2〜3mm程度の位置に設けられる。また、タップ本体12の先端面34に固着された部分の厚さは約0.5mmであった。そして、このような閉塞部材14が設けられたタップ本体12には、その後油流通溝26が研削加工等によって形成され、これにより目的とする盛上げタップ10が得られる。閉塞部材14には、必要に応じて外周面や先端面等を整形するための切削加工、研削加工等を行なっても良い。
【0027】
このような本実施例の盛上げタップ10によれば、オイルホール30が設けられたタップ本体12を工具軸心Oまわりに回転させつつ先端面34をアルミニウム板40に押圧することにより、そのアルミニウム板40が摩擦熱で局部的に溶融してタップ本体12の先端面34に一体的に固着されたアルミニウム固着物によって閉塞部材14が構成されているため、比較的簡単で且つ安価に閉塞部材14を設けてオイルホール30の先端開口部を閉塞することができる。このようなアルミニウム固着物から成る閉塞部材14は、溶着等により強固にタップ本体12に固着され、且つオイルホール30の先端開口部を確実に閉塞(密閉)できるため、例えば2MPaを超える高い圧力で潤滑油を供給することが可能で、高圧力により安定した流体供給性能すなわち潤滑性能が得られる。
【0028】
また、溶融したアルミニウムの一部はオイルホール30の先端開口部内に侵入するものの、その侵入寸法はねじ栓等に比較して小さく、タップ本体12の先端近くに吐出穴32を設けることができ、本実施例のように食付き部18bがタップ本体12の先端に達している場合でも、その食付き部18bに開口するように吐出穴32を設けることが可能で、通り穴にめねじを加工する場合でもめねじ形成に大きく寄与する食付き部18bを適切に潤滑することができる。
【0029】
また、本実施例はおねじ部18が正多角形状を成していて、その正多角形状の突出部24により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成する盛上げタップ10に関するもので、食付き部18bがタップ本体12の先端に達しているとともに、おねじ部18を周方向に分断するように油流通溝26が設けられている場合で、そのおねじ部18の食付き部18bであって油流通溝26の溝底に開口するように吐出穴32が設けられているため、通り穴にめねじを加工する場合でもめねじ形成に大きく寄与する食付き部18bを適切に潤滑することができる。
【0030】
また、本実施例では、アルミニウム固着物(閉塞部材14)をタップ本体12の先端に固着させる際のタップ本体12の回転速度S=10000min-1、送り速度f=5mm/min、突っ込み深さZ=0.5mmであるため、溶着等によりアルミニウム固着物(閉塞部材14)が強固にタップ本体12に固着されるとともに、オイルホール30の先端開口部が確実に閉塞(密閉)され、例えば2MPaを超える高い圧力で潤滑油を供給することができる。
【0031】
因みに、呼び径が14mmでピッチが2mmの盛上げタップについて、前記実施例と同様にアルミニウム固着物でオイルホール30の先端開口部を閉塞した本発明品と、プラスチック板を接着剤により先端面34に接着することでオイルホール30の先端開口部を閉塞した従来品とを用意し、以下の加工条件でめねじのねじ立て加工を行って工具寿命に達するまでの加工穴数を調べたところ、従来品は20穴であったのに対し、本発明品は500穴を加工することができた。従来品は、潤滑油供給圧が3MPa以上になるとプラスチック板が剥がれてしまい、2MPaの供給圧でねじ立て加工を行なったため、5MPaの供給圧でねじ立て加工を行なった本発明品に比べて、工具寿命が著しく低下するものと考えられる。工具寿命は、突出部24の摩耗によるゲージアウト(GPアウト)によって判定した。
《加工条件》
被加工物:機械構造用炭素鋼(JIS−S45C)
加工深さ:28mm(通り穴)
周速度:30m/min
送り速度:2mm/rev
潤滑油剤:塩素フリー水溶性
潤滑油供給圧:5MPa(本発明品)、2MPa(従来品)
【0032】
なお、前記実施例ではタップ本体12を工具軸心Oまわりに回転駆動してアルミニウム板40に押し付けてタップ本体12の先端にアルミニウム固着物(閉塞部材14)を固着するようにしていたが、図3に示すように、先端面34よりも径寸法が大きい円柱形状のアルミニウムブロック42を回転駆動してタップ本体12に押圧することにより、アルミニウム固着物(閉塞部材14)をそのタップ本体12の先端に固着することもできる。すなわち、円柱形状のアルミニウムブロック42をタップ本体12の先端側に同心に配置し、工具軸心Oと一致する軸心まわりに前記回転速度Sで回転駆動しつつ送り速度fでタップ本体12の先端面34に押圧することにより、前記実施例と同様にアルミニウムブロック42を局部的に溶融させてタップ本体12の先端部に一体的に固着させるのである。図ではアルミニウムブロック42が斜視図的に示されているが、アルミニウムブロック42の下面がタップ本体12の先端面34と略平行となる姿勢で押圧される。
【0033】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
10:オイルホール付き盛上げタップ(オイルホール付きタップ) 12:タップ本体 14:閉塞部材 18:おねじ部 18b:食付き部 26:油流通溝 30:オイルホール 32:吐出穴 34:先端面 40:アルミニウム板(アルミニウム材) 42:アルミニウムブロック(アルミニウム材) O:工具軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めねじを加工するためのおねじ部が外周部に設けられたタップ本体と、
該タップ本体の工具軸心Oを縦通させられるとともに先端面に開口させられているオイルホールと、
前記タップ本体の先端面に一体的に固設されて前記オイルホールの先端開口部を閉塞する閉塞部材と、
前記オイルホールに連通するように前記タップ本体の径方向に設けられ、該オイルホールを経て供給された流体を外周側へ吐出する吐出穴と、
を有するオイルホール付きタップにおいて、
前記閉塞部材は、前記オイルホールが設けられた前記タップ本体に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつ該タップ本体の先端面に相対的に押圧することにより、該アルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融して該タップ本体の先端面に一体的に固着されたアルミニウム固着物である
ことを特徴とするオイルホール付きタップ。
【請求項2】
前記おねじ部は正多角形状を成しており、該正多角形状の突出部により下穴表層部を塑性変形させてめねじを形成するもので、径寸法が徐々に小さくなる食付き部は前記タップ本体の先端に達しているとともに、
該おねじ部には、工具軸心Oまわりにおいて前記突出部の間の逃げ部に油流通溝が該おねじ部を周方向に分断するように設けられており、
前記吐出穴は、前記おねじ部の前記食付き部であって前記油流通溝に開口するように設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のオイルホール付きタップ。
【請求項3】
めねじを加工するためのおねじ部が外周部に設けられたタップ本体と、
該タップ本体の工具軸心Oを縦通させられるとともに先端面に開口させられているオイルホールと、
該オイルホールに連通するように前記タップ本体の径方向に設けられ、該オイルホールを経て供給された流体を外周側へ吐出する吐出穴と、
を有するオイルホール付きタップにおいて、前記オイルホールの先端開口部を閉塞する方法であって、
前記オイルホールが設けられた前記タップ本体に対してアルミニウム材を工具軸心Oまわりに相対回転させつつ該タップ本体の先端面に相対的に押圧することにより、該アルミニウム材が摩擦熱で局部的に溶融し、該タップ本体の先端面に一体的に固着されたアルミニウム固着物により、前記オイルホールの先端開口部を閉塞する
ことを特徴とするオイルホール閉塞方法。
【請求項4】
前記アルミニウム材と前記タップ本体との相対回転速度Sは4000min-1以上で、互いに接近させる方向の送り速度fは3〜10mm/minの範囲内で、該タップ本体の先端が該アルミニウム材に食い込む突っ込み深さZは0.1〜1.0mmの範囲内である
ことを特徴とする請求項3に記載のオイルホール閉塞方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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