説明

オイルポンプ及びこれを備えた自動変速機

このオイルポンプでは、収容凹所11を端面に形成したポンプボデー10の端面にポンプカバー15を接合して、それらの間ににギヤ室を形成する。ギヤ室G内には駆動軸13により駆動されるドライブギヤ30と、回転可能に配置されてドライブギヤ30と噛合して駆動されるドリブンギヤ31を設ける。両ギヤ30,31の噛合によって形成される作動室Rの吐出領域に対応して、ポンプボデー10の収容凹所11の底面とポンプカバー15の内端面にボデー側吐出ポート25a及びカバー側吐出ポート25bを形成する。ポンプボデー10の収容凹所11の底面にはボデー側吐出ポート25aの前端部から作動室Rの吐出領域の後端部に向けてボデー側ノッチ26aを、またポンプカバー15の内端面にはカバー側吐出ポート25bの前端部から作動室Rの吐出領域の後端部に向けてカバー側ノッチ26bを形成する。ポンプボデー10とポンプカバー15の何れか一方は鋳鉄によりまた他方を軽合金により形成し、各ノッチ26aまたは26bは、軽合金よりなるポンプボデー10またはポンプカバー15に形成される方のノッチの長さを、鋳鉄よりなるポンプボデー10またはポンプカバー15に形成される方のノッチの長さよりも長くして、ドライブギヤ30の高速回転時に作動室R内の作動油に生じた気泡が、長い方のノッチを通って作動室R内に向けて逆流する高圧の作動油によって鋳鉄よりなるポンプボデー10またはポンプカバー15の作動室Rに面する内表面側において圧壊されるようにする。このオイルポンプは、ドリブンギヤ31をその外周にてギヤ室Gの内周面に回転自在に支持された内歯ギヤとし、ドライブギヤ30がドリブンギヤ31に噛合する外歯ギヤとするのがよい。また軽合金よりなるポンプボデー10またはポンプカバー15に形成されるノッチ26aまたは26bは、カバー側吸入ポート20bに向かって次第に幅が狭くなる略三角形状とするとともに次第に深さが浅くなるように底面を傾斜させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機などに作動油を供給するのに適したオイルポンプ、特に高速回転時に発生するキャビテーションエロージョン(キャビテーション損傷)が抑制されるようにしたオイルポンプ、及びこのようなオイルポンプを備えた自動変速機に関するものである。
【先行技術の検討】
【0002】
特開2003−161269号公報においては、キャビテーションエロージョンの発生が抑制されるようにした車両用自動変速機のオイルポンプが開示されている。このオイルポンプは、実施例の記載によれば、円形の収容凹所をその端面に形成した鋳鉄製のポンプボデーと、この収容凹所を覆うようにポンプボデーの端面に接合されてポンプボデーとの間にギヤ室を形成する軽合金製のポンプカバーと、前記ギヤ室内にてポンプボデーに軸架した駆動軸に支持されて駆動されるドライブギヤと、前記ギヤ室内にドライブギヤに対して偏心して回転可能に配置されドライブギヤと噛合して駆動されるドリブンギヤと、この両ギヤの噛合によって形成される作動室の吸入領域と吐出領域にてポンプボデーの収容凹所の底面にそれぞれ周方向に形成した円弧状のボデー側吸入ポート及びボデー側吐出ポートと、作動室の吸入領域と吐出領域にてポンプカバーの内端面にそれぞれ周方向に形成した円弧状のカバー側吸入ポート及びカバー側吐出ポートとを備えている。
【0003】
上記特開2003−161269号公報に開示された技術(以下単に従来技術という)のオイルポンプにおいては、ドライブギヤの回転速度が通常の使用範囲(例えば7000rpmまでの速度)では期待通りのキャビテーションエロージョンの発生を抑制する作用が得られる。しかしドライブギヤの回転速度がそれよりも高回転(例えば7500rpm
)になると、ポンプカバー側にキャビテーションエロージョンが生じるようになるという問題を生じる。次にこの問題を、上記従来技術の図6及び図4と実質的に同じ構造を示す図6及び図7により説明する。
【0004】
上記従来技術のオイルポンプにおいては、ポンプボデー1の収容凹所(図1のポンプボデー10の収容凹所11も参照)の底面に作動室の吐出領域におけるボデー側吐出ポート4aの周方向前端部からボデー側吸入ポート3aの周方向後端部に向けてボデー側ノッチ5aが形成され、またポンプカバー2の内端面にはこのボデー側ノッチ5aより短いカバー側ノッチ5bがカバー側吐出ポート4bの周方向前端部からカバー側吸入ポート3bの周方向後端部に向けて形成されている。このオイルポンプの作動時にドライブギヤ6aとドリブンギヤ6bが矢印方向に回転すると、両ギヤ6a,6bの間に形成される作動室Rが先ずボデー側ノッチ5aによりボデー側吐出ポート4aに連通される。この作動室Rはその直前までは吸入ポート3a,3bに連通されているので低圧で作動油の蒸気及び気化された溶存空気などよりなる気泡が混入された作動油で充満されており、一方吐出ポート4a,4b内の作動油は高圧であるので、作動室Rがボデー側ノッチ5aに連通されれば、ボデー側吐出ポート4a内の高圧の作動油は、一時的に矢印fに示すようにポンプボデー1側の連通部から反対側となるポンプカバー2の内端面に向かって作動室R内に逆流してその内部の気泡が圧壊され、この圧壊に伴って生じる衝撃圧によりその付近の内端面にキャビテーションエロージョンを生じようとする。
【0005】
オイルポンプの回転速度がある限度以下の場合には作動室R内の気泡は少なく、吐出ポート4a,4b内の作動油の圧力もそれほど高くはなく作動室R内への流入速度も低いので、気泡の圧壊は主としてポンプボデー1の収容凹所の底面側で生じ、その程度も比較的弱い。従ってキャビテーションエロージョンはポンプボデー1側に生じようとするが、ポンプボデー1の材料はキャビテーションエロージョンに対する耐性が高い鋳鉄よりなるので、このキャビテーションエロージョンは防止される。従って上記従来技術は、オイルポンプの回転速度がある限度以下の場合にはキャビテーションエロージョンの防止に有効である。
【0006】
しかしオイルポンプの回転速度がある限度を越えると作動室R内の圧力が低下して気泡が増大し、遠心油圧が高くなり増大した気泡が内周側へ集まりやすくなり、吐出ポート4a,4b内の作動油の圧力も高くなって作動室R内への流入速度も増大する。従って気泡の圧壊が生じる場所はポンプカバー2の内端面側に移動してその程度も高くなるが、ポンプカバー2の材料はキャビテーションエロージョンに対する耐性が低いアルミニウムよりなるので、ポンプカバー2の内端面には、図7(b)の符号E1で示す位置にキャビテーションエロージョンが生じて各ポンプギヤ6a,6bとの間に隙間が生じ、作動油の漏れを生じてポンプ効率が低下する。上記従来技術においてオイルポンプの回転速度がある限度を越えると、ポンプカバー2側にキャビテーションエロージョンが生じるようになるのは、このような作用によるものと考えられる。
【0007】
この問題を解決する手段としてはポンプカバー2の材料をキャビテーションエロージョンに対する耐性が高い金属材料とすることが考えられる。しかしこの場合にはキャビテーションにより作動室R内に生じる気泡の圧壊は程度が高いので、アルミニウムにT6等の表面強度を高める熱処理を施したものやハイシリコンアルミニウム合金ではかならずしも解決することができず、鋳鉄などのキャビテーションエロージョンに対する耐性が高い材料にする必要がある。そのようにするとポンプボデー1及びポンプカバー2の両方とも鋳鉄製となるので、オイルポンプの重量が増大するという問題がある。またこのようなオイルポンプを車両用自動変速機に設ける場合には、オイルポンプのポンプボデーまたはポンプカバーを軽合金製の変速機ハウジングと一体化することができないので構造が複雑化するという問題が生じる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の主たる目的は、上記の問題に対処するため、上記ポンプカバーの材質を変更することなく軽合金で形成しても、ドライブギヤの高速回転時にキャビテーションエロージョンの発生が的確に抑制されるオイルポンプを提供することにある。
【0009】
本発明によれば、上記の目的が、収容凹所をその端面に形成したポンプボデーと、前記収容凹所を覆うように内端面が前記ポンプボデーの端面に接合されて同ポンプボデーとの間にギヤ室を形成するポンプカバーと、前記ギヤ室内にて駆動軸により駆動されるドライブギヤと、前記ギヤ室内に回転可能に配置され前記ドライブギヤと噛合して駆動されるドリブンギヤと、前記ドライブギヤとドリブンギヤの噛合によって形成される作動室の吐出領域にて前記ポンプボデーの収容凹所の底面と前記ポンプカバーの内端面にそれぞれ形成したボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートと、前記ボデー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて前記ポンプボデーの収容凹所の底面に形成したボデー側ノッチと、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて前記ポンプカバーの内端面に形成したカバー側ノッチを備え、前記ポンプボデーとポンプカバーの何れか一方を鋳鉄によりまた他方を軽合金により形成したオイルポンプにおいて、前記ボデー側ノッチとカバー側ノッチは、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される方のノッチの長さを、鋳鉄よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される方のノッチの長さよりも長くして、前記ドライブギヤの高速回転時に前記作動室内の作動油に生じた気泡が長い方の前記ノッチを通って前記作動室内に向けて逆流する高圧の作動油によって鋳鉄よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーの前記作動室に面する内表面側において圧壊されるようにすることにより達成される。
【0010】
本発明によるオイルポンプは、前記ドリブンギヤがその外周にて前記ギヤ室の内周面に回転自在に支持された内歯ギヤであり、前記ドライブギヤが前記ドリブンギヤに噛合する外歯ギヤであり、前記ボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートは円弧状に形成され、前記ボデー側ノッチ及びカバー側ノッチはそれぞれ前記ボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートの周方向前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて形成されることが好ましい。
【0011】
本発明によるオイルポンプは、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される前記ノッチが、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けてその幅が狭くなる略三角形状であることが好ましい。
【0012】
また本発明によるオイルポンプは、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される前記ノッチが、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けてその深さが浅くなるように底面を傾斜させて形成されていることが好ましい。
【0013】
また本発明による自動変速機は、油圧供給源を備えた自動変速機において、前記油圧供給源として前記本発明によるオイルポンプを使用し、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーは前記自動変速機の変速機ハウジングと一体形成したことを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1は本発明によるオイルポンプの一実施形態の断面図;
図2は図1の2−2断面図;
図3は図2の3−3断面図;
図4は図1に示す実施形態の各ポート及びノッチの配置を示す図で、図4(a) はポンプボデーの収容凹所の底面の一部を示す図であり、図4(b) はポンプカバーの内端面の一部を示す図;
図5は図1に示す実施形態のポンプギヤの回転角度に対する作動室と吐出ポートの間の解放断面積の関係を示す図;
図6は従来技術によるオイルポンプの図2に相当する断面図;
図7は従来技術によるオイルポンプの図4に相当する部分的図面である。
【最適な実施形態の説明】
【0015】
以下に、図1〜図5により、本発明によるオイルポンプを実施するための最良の形態の説明をする。この実施形態によるオイルポンプは自動車等の車両用自動変速機に作動油を供給するもので、互いに接合されたポンプボデー10及びポンプカバー15よりなるハウジングHと、このハウジングH内に回転自在に収容されたドライブギヤ30とドリブンギヤ31よりなるポンプギヤにより構成されている。ポンプカバー15は自動車の自動変速機のハウジングと一体形成されている。
【0016】
ポンプボデー10は鋳鉄等のキャビテーションエロージョンに対する耐性の高い金属材料よりなるもので、図1に示すように、その平坦な一側面には、ポンプギヤ30,31を回転自在に収納する円形で浅い一定の深さの収容凹所11が形成され、収容凹所11の底面には収容凹所11の中心に対し、両ポンプギヤ30,31の間の偏心量と同じ量だけ偏心して、ポンプボデー10を貫通する中心孔12が形成されている。ポンプカバー15はアルミニウム等の軽量でポンプボデー10よりもキャビテーションエロージョンに対する耐性が低い軽合金よりなるもので、平坦な一側面が収容凹所11を液密に覆うようにポンプボデー10にボルト止めされ、これによりポンプボデー10とポンプカバー15の間に1対のポンプギヤ30,31を収納するギヤ室Gが形成される。ポンプボデー10の中心孔12と同軸的にポンプカバー15に形成された中心孔16に圧入固定された管状のステータ軸17は、中心孔12との間に隙間をおいてポンプボデー10内を通り抜けており、このステータ軸17と中心孔12の間に差し込まれる管状の駆動軸13は、中心孔12の内面に固定した軸受ブッシュ12aにより回転自在に支持され、駆動軸13とポンプボデー10の間はオイルシール14によりシールされている。
【0017】
外歯のドライブギヤ30と、これより歯数が1歯大きい内歯のドリブンギヤ31は同一の厚さで、互いに噛合するトロコイド歯形の歯を有しており、それらの両側面とポンプボデー10およびポンプカバー15により形成されるギヤ室の両内側面は作動油が実質的に洩れない程度の小さい隙間をおいて相対的に摺動回転自在である。ドライブギヤ30はその内周面を駆動軸13先端部の外周面に嵌合させることにより支持され、内周面から突出する1対のキー30aが駆動軸13の先端に形成したキー溝に係合されて回転駆動されるようになっている。ドリブンギヤ31の外周面は収容凹所11の内周面に回転自在に嵌合支持されている。
【0018】
主として図2に示すように、ギヤ室G内に収容された両ポンプギヤ30,31の互いに噛合する各歯の間には多数の作動室Rが形成され、各作動室Rは両ポンプギヤ30,31の回転とともにそれらの歯底円の間に形成される環状空間に沿って移動しながら容積が増減する。そして、両ポンプギヤ30,31のピッチ線の接触位置から両ポンプギヤ30,31の回転方向で180度にわたる範囲には回転に伴い作動室Rの容積が次第に増大する吸入領域が形成され、またピッチ線の接触位置から回転方向と逆向きに180度にわたる範囲には回転に伴い作動室Rの容積が次第に減少する吐出領域が形成されている。
【0019】
図1および図2に示すように、ポンプボデー10の収容凹所11の底面およびこれと対向するポンプカバー15の内端面には、吸入領域の両端部を除く範囲と対応する相当な範囲にわたり開口部の形状および面積が互いに同一で円弧状のボデー側吸入ポート20aとカバー側吸入ポート20bが互いに対向して形成され、各吸入ポート20a,20bの内側縁と外側縁はそれぞれ各ポンプギヤ30,31の歯底円と一致している。この各吸入ポート20a,20bには、ポンプボデー10とポンプカバー15内に形成されてリザーバ(図示省略)からの作動油を導入する吸入通路21が連通されている。
【0020】
またポンプボデー10の収容凹所11の底面およびこれと対向するポンプカバー15の内端面には、吐出領域の両端部を除く範囲と対応する相当な範囲にわたり開口部の形状および面積が互いに同一で円弧状のボデー側吐出ポート25aとカバー側吐出ポート25bが互いに対向して形成され、各吐出ポート25a,25bの内側縁と外側縁はそれぞれ各ポンプギヤ30,31の歯底円と一致している。ボデー側吐出ポート25aの底面の一部には、移動する作動室Rとの連通が開始される回転方向前端側に向かって次第に深さが浅くなる傾斜面25a1が形成されている。ボデー側吐出ポート25aにはポンプボデー10とポンプカバー15内に形成されて作動油を供給先に供給する吐出通路27が連通されているが、カバー側吐出ポート25bは、ポンプカバー15内に形成される流体通路(図示省略)を避けるためにボデー側吐出ポート25aよりも浅くし、吐出通路27には連通されていない。
【0021】
ポンプボデー10の収容凹所11の底面及びこれと対応するポンプカバー15の内端面には、図1〜図4に示すように、それぞれボデー側吐出ポート25aに連通されるボデー側ノッチ26a、及びカバー側吐出ポート25bに連通されるカバー側ノッチ26bが形成されている。各ノッチ26a,26bは、各吐出ポート25a,25bの周方向で回転方向前端部から各吸入ポート20a,20bの周方向で回転方向後端部に向かって延びるように形成され、カバー側ノッチ26bの長さの方がボデー側ノッチ26aの長さよりも大となっている。長い方のカバー側ノッチ26bの長さは、吸入ポート20a,20bの回転方向後端部と吐出ポート25a,25bの回転方向前端部の間の距離の数分の一(例えば1/4)程度である。短い方のボデー側ノッチ26aの長さはカバー側ノッチ26bの長さの半分〜1/4程度である。またこの実施形態では、図2〜図4に示すように、カバー側ノッチ26bは、ポンプボデー10側から見た平面視でカバー側吐出ポート25bの回転方向前端部からカバー側吸入ポート20bの回転方向後端部に向かって次第に幅が狭くなる略三角形状とし、また円弧に沿った長手方向断面でカバー側吐出ポート25bの回転方向前端部からカバー側吸入ポート20bの回転方向後端部に向かって次第に深さが浅くなるように底面を傾斜させた形状となっている。
【0022】
この実施形態のオイルポンプの作動時には、図2においては、両ポンプギヤ30,31は駆動軸13により矢印に示すように反時計回転方向に回転され、作動室Rも容積が変化しながら同方向に回転される。図3においてはポンプギヤ30,31及び作動室Rは矢印に示すように左向きに移動される。これによりリザーバ内の作動油は吸入通路21を通り両側の吸入ポート20a,20bから吸入領域にある作動室R内に吸入され、吐出領域にある作動室Rから吐出ポート25a,25b内に吐出され、吐出通路27を通って供給先に供給される。
【0023】
吸入領域では作動油は負圧であるので吸入ポート20a,20bから作動室Rに吸入された作動油には気泡が混入されている。この作動油を吸入した作動室Rは、ポンプギヤ30,31の回転に応じて移動して吸入ポート20a,20bの回転方向後端部と吐出ポート25a,25bの回転方向前端部の間で収容凹所11の底面とポンプカバー15の内端面の間に閉じ込められ、さらに移動して図3に示すように、作動室Rの先端がカバー側ノッチ26bの先端部である第1解放ポイントP1(図5参照)を越えればカバー側ノッチ26bの先端部を介してカバー側吐出ポート25bに連通され、さらにボデー側ノッチ26aの先端部である第2解放ポイントP2を越えればカバー側ノッチ26bに加えてボデー側ノッチ26aを介してボデー側吐出ポート25aにも連通され、両吐出ポート25a,25bの回転方向前端部である第3解放ポイントP3を越えれば直接吐出ポート25a,25bに連通されるようになる。従って、収容凹所11の底面とポンプカバー15の内端面の間に閉じ込められ低圧で気泡が混入された作動油で充満されていた作動室Rと吐出ポート25a,25bの間の解放断面積は、図5の実線に示すようにポンプギヤ30,31の回転角度に応じて加速度的にかつ連続的に増大される。
【0024】
図3に示すように、それまで収容凹所11の底面とポンプカバー15の内端面の間に閉じ込められていた作動室Rの先端が第1解放ポイントP1を越えて作動室Rがカバー側ノッチ26bの先端部を介してカバー側吐出ポート25bに連通されれば、カバー側吐出ポート25b内の高圧の作動油は矢印Fに示すように、ポンプカバー15側の連通部から作動室R内に一時的に逆流して作動室R内の圧力が上昇するので、その内部の気泡は圧壊される。上記連通開始後はポンプギヤ30,31の回転につれて作動室Rに対する長い方のカバー側ノッチ26bの開口面積は増大し、それにつれてカバー側吐出ポート25bから作動室R内への作動油の流入速度は小さくなるので、作動室R内の気泡の圧壊の程度は減少し、短い方のボデー側ノッチ26aが作動室Rに連通されるようになれば作動室R内への流入速度は一層小さくなって作動室R内の気泡の圧壊の程度は一層減少する。
【0025】
オイルポンプの回転速度がある限度(例えば7000rpm )以下の場合には作動室R内の気泡は少なく、吐出ポート25a,25b内の作動油の圧力もそれほど高くはなく、図3に示す状態で矢印Fに示すようにカバー側ノッチ26bから反対側となるポンプボデー10の収容凹所11の底面に向かって作動室R内に流入する作動流体の流入速度も低いので、気泡の圧壊は主としてポンプカバー15の内端面側で生じるが、その程度は比較的弱い。従って、ポンプカバー15がアルミニウム等のキャビテーションエロージョンに対する耐性が低い材料であっても、その内端面に生じるキャビテーションエロージョンはわずかであり、実質的に問題となることはない。また上述のように連通開始後は、ポンプギヤ30,31の回転につれてカバー側吐出ポート25bから作動室R内への作動油の流入速度は減少するので、ポンプカバー15の内端面に生じるキャビテーションエロージョンは一層抑制されて問題となることはない。
【0026】
オイルポンプの回転速度がある限度(例えば7500rpm )を越えれば作動室R内の圧力が低下して気泡が増大するとともにこの気泡は遠心力のために作動室Rの内周側へ集まり、また吐出ポート25a,25b内の作動油の圧力は高くなって、矢印Fに示すようにポンプボデー10の収容凹所11の底面に向かって作動室R内に流入する作動流体の流入速度も増大するので、気泡の圧壊が生じる場所は作動室Rの内部で収容凹所11の底面側に移動しその程度も高くなる。しかしポンプボデー10の材料は鋳鉄等のキャビテーションエロージョンに対する耐性の高い金属材料よりなるのでポンプボデー10の収容凹所11の底面にキャビテーションエロージョンが生じることはない。また上述のように連通開始後は、ポンプギヤ30,31の回転につれてカバー側ノッチ26bの開口面積は増大し、短い方のボデー側ノッチ26aも作動室Rに連通されるようになるので、気泡の圧壊が生じる場所はポンプカバー15の内端面側に移るが、各ノッチ26a,26b作動室R内への作動油の流入速度が減少することによりキャビテーションエロージョンは抑制されるので問題となることはない。
【0027】
なお上述した実施形態では、カバー側ノッチ26bは、カバー側吐出ポート25bの回転方向前端部からカバー側吸入ポート20bに向かって次第に幅が狭くなる略三角形状とするとともに次第に深さが浅くなるように底面を傾斜させており、このようにすれば作動室Rに対するカバー側ノッチ26bの開口面積はポンプギヤ30,31の回転に応じて速やかに増大し、カバー側ノッチ26bから作動室R内への作動油の流入速度は速やかに減少する。従って、作動室R内の気泡の圧壊の程度も速やかに減少するので、オイルポンプの回転速度がある限度以下の場合のポンプカバー15の内端面に生じるわずかなキャビテーションエロージョンもさらに減少する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、カバー側ノッチ26bを図6及び図7に示す従来技術のボデー側ノッチ5aのような一定幅で一定深さのものとして実施してもよく、程度の差はあれ前述したキャビテーションエロージョン抑制の効果は得られ、場合によってはそれで充分である。
【0028】
また上述した実施形態では、ドリブンギヤ31は外周がギヤ室Gの内周面に回転自在に支持された内歯ギヤとし、ドライブギヤ30はドリブンギヤ31と噛合する外歯ギヤとしており、このようにすればドライブギヤ30はドリブンギヤ31内に収容されてポンプギヤ30,31の容積が減少されるのでオイルポンプを小形にまとめることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、両方とも外歯のポンプギヤを使用して実施することも可能である。この場合は、収容凹所は、縁部が食い込んで重なり合った2つの円形よりなる形状となる。
【0029】
上述した実施形態のオイルポンプは自動車の自動変速機に作動油を供給するものであるが、ポンプカバー15はキャビテーションエロージョンに対する耐性が低い軽合金よりなるので、アルミニウムなどの軽合金よりなる変速機ハウジングと一体形成することができ、これによりオイルポンプを備えた自動変速機の構造を簡略化することができる。しかしながら本発明のオイルポンプの用途はこれに限られるものではなく、自動車の無段変速機その他の種々の機器に使用する作動油の供給源として使用することができ、その用途または周囲の状況によってはポンプボデーをキャビテーションエロージョンに対する耐性が低いアルミニウムなどとし、ポンプカバーをキャビテーションエロージョンに対する耐性が高い鋳鉄などとしてして実施することもできる。その場合にはアルミニウムなどよりなるポンプボデーに形成されるボデー側ノッチの長さの方を、鋳鉄などよりなるポンプカバーに形成するカバー側ノッチの長さよりも大とする。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容凹所をその端面に形成したポンプボデーと、前記収容凹所を覆うように内端面が前記ポンプボデーの端面に接合されて同ポンプボデーとの間にギヤ室を形成するポンプカバーと、前記ギヤ室内にて駆動軸により駆動されるドライブギヤと、前記ギヤ室内に回転可能に配置され前記ドライブギヤと噛合して駆動されるドリブンギヤと、前記ドライブギヤとドリブンギヤの噛合によって形成される作動室の吐出領域にて前記ポンプボデーの収容凹所の底面と前記ポンプカバーの内端面にそれぞれ形成したボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートと、前記ボデー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて前記ポンプボデーの収容凹所の底面に形成したボデー側ノッチと、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて前記ポンプカバーの内端面に形成したカバー側ノッチを備え、前記ポンプボデーとポンプカバーの何れか一方を鋳鉄によりまた他方を軽合金により形成したオイルポンプにおいて、
前記ボデー側ノッチとカバー側ノッチは、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される方のノッチの長さを、鋳鉄よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される方のノッチの長さよりも長くして、前記ドライブギヤの高速回転時に前記作動室内の作動油に生じた気泡が長い方の前記ノッチを通って前記作動室内に向けて逆流する高圧の作動油によって鋳鉄よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーの前記作動室に面する内表面側において圧壊されるようにしたことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記ドリブンギヤがその外周にて前記ギヤ室の内周面に回転自在に支持された内歯ギヤであり、前記ドライブギヤが前記ドリブンギヤに噛合する外歯ギヤであり、前記ボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートは円弧状に形成され、前記ボデー側ノッチ及びカバー側ノッチはそれぞれ前記ボデー側吐出ポート及びカバー側吐出ポートの周方向前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けて形成されたことを特徴とする請求項1に記載のオイルポンプ。
【請求項3】
軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される前記ノッチが、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けてその幅が狭くなる略三角形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオイルポンプ。
【請求項4】
軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーに形成される前記ノッチが、前記カバー側吐出ポートの前端部から前記作動室の吐出領域の後端部に向けてその深さが浅くなるように底面を傾斜させて形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のオイルポンプ。
【請求項5】
油圧供給源を備えた自動変速機において、前記油圧供給源として請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のオイルポンプを使用し、軽合金よりなる前記ポンプボデーまたはポンプカバーは前記自動変速機の変速機ハウジングと一体形成したことを特徴とする自動変速機。

【国際公開番号】WO2005/078285
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518069(P2005−518069)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002625
【国際出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】