説明

オイル供給装置

【課題】エンジンで駆動されるオイルポンプからのオイルを弁開閉時期制御部に優先的に供給するオイル供給装置を構成する。
【解決手段】オイルポンプPの加圧領域を2分割して第1吐出開口18と、これより大きい開口面積となる第2吐出開口19とを形成する。第1吐出開口18からのオイルを第1吐出ポート11から制御油路5に送り、この制御油路5から弁開閉時期制御装置1に供給し、第2吐出開口19からのオイルを第2吐出ポート12から潤滑油路7に送り、この潤滑油路7からメインギャラリ2に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル供給装置に関し、詳しくは、エンジンによって駆動されるオイルポンプからのオイルを、エンジンの吸気タイミングと排気タイミングとの少なくとも一方を制御する弁開閉時期制御部等の所定部位と、エンジンを潤滑するメインギャラリ等の所定部位とに供給するオイル供給装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成されたオイル供給装置と類似するものとして、特許文献1には、オイルポンプの吐出油路からオイルが供給される優先弁(可変昇圧弁)を備え、この優先弁の2つの出力ポートの一方に弁開閉時期制御部(文献では位相制御ユニット)を接続し、他方にエンジン潤滑装置が接続した構成が示されている。この特許文献1では、優先弁はバネで付勢された弁体を備え、オイルポンプから供給されるオイルの圧力の上昇に伴い、先ず弁開閉時期制御部にオイルの供給を開始し、この後に、このオイルの圧力が上昇した場合(所定値に達した場合)にエンジン潤滑装置にオイルの供給を開始するように構成されている。
【0003】
この特許文献1ではオイルポンプからの作動油を優先弁に送る吐出油路から分岐したバイパス油路をエンジン潤滑装置に接続し、このバイパス油路にオリフィスを備えることでエンジン潤滑装置にはオリフィスを介してオイルを供給できるように構成されている。
【0004】
また、特許文献2では、オイルパンのオイルを吸引して吐出する機械式オイルポンプを備え、この機械式オイルポンプの吐出口からのオイルを吸引して吐出する電動オイルポンプを備えた構成が示されている。この特許文献1では、機械式オイルポンプの吐出口からのオイルをメインギャラリ(文献ではエンジン各部の潤滑部)に供給する油路系を形成しており、電動オイルポンプから吐出するオイルを弁開閉時期制御部(文献では可変バルブタイミング装置)に供給すると共に、この電動オイルポンプから吐出するオイル圧が上昇した場合にオイルジェット装置に供給する油路系が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐299573号公報
【特許文献2】特開2004−116430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンジンで駆動されるオイルポンプからのオイルを、弁開閉時期制御部に供給し、メインギャラリに供給する油路系を考えると、メインギャラリと弁開閉時期制御部とに対して確実にオイルを供給することが必要となる。従って、オイルポンプから吐出される油路を2系統に単純に分岐させた油路系では、2系統に供給されるオイル量が負荷側の圧力差により偏りを招くこともあり改善が望まれる。
【0007】
また、メインギャラリに供給されるオイルのオイル圧は低圧でも良いが、弁開閉時期制御部に供給すべき作動油は、エンジンが低速で回転する場合にも所定のオイル圧を必要とする。
【0008】
これに対して特許文献1のように、優先弁(可変昇圧弁)を用いた構成では、オイル圧を高めたオイルを弁開閉時期制御部に供給することが可能になるが、弁開閉時期制御部にオイルの供給を開始した時点で、バイパス油路に送られるオイル量が低減することになり改善の余地がある。
【0009】
また、特許文献2では、エンジンが低速で回転する状態でも電動ポンプによりオイルの供給が可能となるものであるが、エンジンで駆動されるオイルポンプの他に電動ポンプを必要とするためコストの上昇を招き改善の余地があった。
【0010】
本発明の目的は、エンジンで駆動されるオイルポンプからのオイルを所定部位に対して優先的に供給するオイル供給装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、エンジンで駆動されるポンプロータと、このポンプロータを収容するポンプハウジングとを備え、前記ポンプロータの駆動回転により負圧状態となる負圧領域にオイルを送る吸入ポートを前記ポンプハウジングに形成し、前記ポンプロータの駆動回転により加圧状態となる加圧領域を第1吐出開口と第2吐出開口との少なくとも2つに分割し、前記第1吐出開口からオイルを送り出す第1吐出ポートと、前記第2吐出開口からオイルを送り出す第2吐出ポートとを前記ポンプハウジングに形成してオイルポンプを構成すると共に、第1所定部位に第1吐出ポートからのオイルを供給する第1油路と、第2所定部位に前記第2吐出ポートからのオイルを供給する第2油路とを備えている点にある。
【0012】
この構成によると、オイルポンプの加圧領域のオイルは、第1吐出開口に接続する第1オイルポートから第1油路に供給されると同時に、第2吐出開口に接続する第2ポートから第2油路供給される。つまり、ポンプハウジングの内部で2系統に分離してオイルを送り出すので第1油路と第2油路とに圧力差が生ずることがあっても、この圧力差が他方に影響を及ぼすことはなく、第1油路に接続する第1所定部位と、第2吐出開口に接続する第2所定部位とに対して決まった比率のオイルを供給できる。また、この構成では、オイルポンプから送り出されるオイル全量をバルブやオリフィス等の昇圧系で昇圧して第1所定部位に供給し、昇圧系で余剰となるオイルを第2所定部位に供給する構成と比較すると、第1所定部位に供給するオイルだけを昇圧するためエンジン負荷の軽減が可能となる。
従って、エンジンで駆動されるオイルポンプからのオイルを第1所定部位に優先的に供給すると共に、エンジン負荷の軽減も可能なオイル供給装置が構成された。
【0013】
本発明は、前記第1油路と前記第2油路とを連通させるバイパス油路が形成され、このバイパス油路に調圧バルブを備えると共に、前記調圧バルブは、前記第1油路のオイル圧が第1設定値に達するまでは前記バイパス油路におけるオイルの流れを抑制し、前記第1油路のオイル圧が前記第1設定値を超えた場合に前記バイパス油路におけるオイルの流れの増大を図っても良い。
【0014】
これによると、エンジンの回転速度が低い場合には第1油路に供給されるオイルのオイル量が少ない状態でも、調圧バルブがオイル圧を第1設定値まで上昇させ、このオイルを弁開閉時期制御部に供給することが可能となる。また、エンジンの回転速度が上昇して第1油路に供給されるオイル量が上昇した場合には調圧バルブが開放することで余剰となるオイルをメインギャラリに供給することが可能となる。つまり、第1油路のオイルだけを調節バルブで昇圧するため、オイルポンプから送り出されるオイル全量を昇圧する構成と比較してエンジン負荷の軽減が実現する。
【0015】
本発明は、前記エンジンの吸気タイミングと排気タイミングとの少なくとも一方を制御する弁開閉時期制御部と、前記エンジンのシリンダに吹き付ける形態でオイルが供給されるピストンジェットと、前記エンジンのターボチャージャにおいてオイルが供給される軸受部との少なくとも1つに前記第1油路からのオイルを供給しても良い。
【0016】
ピストンジェットは、エンジンのシリンダにオイルを吹き付ける形態でオイルを供給するので所定のオイル圧を必要とし、ターボチャージャの軸受部は、高速回転する部材にオイルを供給するので所定のオイル圧を必要とする。これに対して本発明では、調圧バルブで第1設定圧まで上昇させたオイル圧のオイルを、弁開閉時期制御部と、ピストンジェットと、ターボチャージャの軸受部との少なくとも1つに供給できる。
【0017】
本発明は、前記調圧バルブが、前記第1油路のオイル圧が、前記第1設定値より高い値に達した後において、前記第1設定値より高い値の第2設定値に達するまでは前記バイパス油路におけるオイルの流れを抑制し、前記第1油路のオイル圧が前記第2設定値を超えた場合に前記バイパス油路におけるオイルの流れの増大を図っても良い。
【0018】
これによると、エンジンの回転速度の増大に対応して第1油路のオイル圧を第2設定値まで上昇させることが可能となり、高いオイル圧を必要とする油圧機器や、潤滑系にオイルを供給することが可能となる。
【0019】
本発明は、前記オイルポンプの前記ポンプロータが、複数の外歯を備えたインナロータと、前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状のアウタロータとを前記ポンプハウジングに収容して内接歯車型に構成されると共に、前記第1吐出開口と前記第2吐出開口とが前記加圧領域において前記アウタロータの周方向で分離する位置に形成されても良い。
【0020】
これによると、インナロータの外歯とアウタロータの内歯との間で加圧されたオイルを、アウタロータの周方向で分離する位置に第1吐出開口と第2吐出開口とに分配して送り出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態のオイル供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【図2】第1実施形態のオイルポンプの断面図である。
【図3】第1実施形態の調圧バルブの断面図である。
【図4】第1実施形態の調圧バルブの作動を連続的に示す図である。
【図5】第1実施形態の調圧バルブの昇圧特性を示すグラフである。
【図6】第2実施形態のオイル供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【図7】第3実施形態のオイル供給装置の構成を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕〔基本構成〕
図1に示すように、エンジンEで駆動されるオイルポンプPからのオイルを弁開閉時期制御装置1(第1所定部位の一例・弁開閉時期制御部の一例)と、メインギャラリ2とに供給するオイル供給装置が構成されている。このオイル供給装置では弁開閉時期制御装置1が、エンジンEの吸気タイミングと排気タイミングとの少なくとも一方を制御するように構成され、メインギャラリ2(第2所定部位の一例)がエンジンEの各部にオイルを供給して潤滑を行う油路系で構成されている。
【0023】
オイルポンプPは、1つの吸入ポート10を備えると共に、第1吐出ポート11と第2吐出ポート12との2つの吐出ポートを備えており、エンジンEのオイルパンのオイルを吸入ポート10に吸入し、第1吐出ポート11と第2吐出ポート12とに送り出すように構成されている。オイルポンプPの構成は後述する。
【0024】
第1吐出ポート11からのオイルは、主オイルフィルタ4を介して第1油路としての制御油路5に送られ、この制御油路5から弁開閉時期制御装置1の制御バルブ1Vに供給される。また、第2吐出ポート12からのオイルは、副オイルフィルタ6を介して第2油路としての潤滑油路7に送られ、この潤滑油路7からメインギャラリ2に供給される。更に、この制御油路5と潤滑油路7とを接続するバイパス油路8を備え、このバイパス油路8に調圧バルブVを備えている。
【0025】
更に、第2吐出ポート12のオイル圧が設定圧まで上昇した場合に開放するリリーフバルブ9が形成されている。
【0026】
弁開閉時期制御装置1の構成は図面に示していないが、エンジンEの吸気バルブと、排気バルブとの少なくとも一方の開閉タイミングを制御するため、カム軸(図示せず)の端部に備えられ、制御バルブ1Vによるオイルの給排により、エンジンEの駆動力が伝えられる回転駆動系に対してカム軸を進角方向と遅角方向との何れかの方向に変位させることで開閉時期の変更を実現する。また、制御バルブ1Vはタイミング制御装置ECUからの制御信号により作動する。この制御バルブ1Vは、カム軸を進角方向に変位させる進角制御ポジションと、カム軸を遅角方向に変位させる遅角ポジションと、中立位ポジションとの3ポジションに操作自在に構成されている。
【0027】
図面には、1つの弁開閉時期制御装置1を示しているが、吸気バルブの開閉タイミングと排気バルブの開閉タイミングとの双方の制御を行う構成でも良い。このように構成する場合には、2つの弁開閉時期制御装置1と2つの制御バルブ1Vとが備えられることになり、制御油路5を2つの油路に分岐して夫々に対応した制御バルブ1Vに対してオイルを供給する構成となる。
【0028】
〔オイルポンプ〕
図2に示すように、オイルポンプPは、駆動軸13の駆動力により駆動軸芯Xを中心にして同図に矢印で示す方向に駆動回転し、複数の外歯14Aを備えたインナロータ14(ポンプロータの一例)と、このインナロータ14の外歯に噛み合う複数の内歯15Aを備えた環状で駆動軸芯Xに対して偏芯する従動軸芯Yを中心にして回転可能なアウタロータ15と、これらを収容するポンプハウジング16とを備えて内接歯車型に構成されている。このオイルポンプでは、エンジンEで駆動さされる駆動軸13でインナロータ14を駆動回転する構成であるが、エンジンEの駆動力でアウタロータ15を駆動回転するように構成しても良い。
【0029】
オイルポンプは内接歯車型と呼ばれるものであり、インナロータ14の外歯14Aは、数学曲線に従う歯面形状に成形され、アウタロータ15の内周には、インナロータ14の外歯14Aの歯数より1つ多い歯数の内歯15Aが形成される。
【0030】
このオイルポンプPでは、インナロータ14の駆動回転とともにアウタロータ15が回転することにより負圧状態となる円弧状の負圧領域と、加圧状態となる円弧状の加圧領域が形成される。負圧領域に対応する位置のポンプハウジング16に単一の吸入開口17を形成し、この吸入開口17と吸入ポート10とを内部油路で連通させている。
【0031】
また、加圧状領域に対応する位置のポンプハウジング16に対し、加圧領域を2分割する状態で第1吐出開口18と第2吐出開口19とが分離する位置に形成され、第1吐出開口18と第1吐出ポート11とを内部油路で連通させ、第2吐出開口19と第2吐出ポート12とを内部油路で連通させている。
【0032】
第1吐出開口18と第2吐出開口19とは、アウタロータ15の周方向に沿う領域に並ぶ位置に形成され、第1吐出開口18の開口面積より第2吐出開口19の開口面積が大きく設定されている。つまり、弁開閉時期制御装置1はエンジンEの回転速度の拘わらず決まった量のオイルで作動するものであるが、メインギャラリ2は、エンジンEの回転速度の増大に伴い多くのオイルを必要とする。このような理由から、第1吐出開口18と第2吐出開口19との開口面積が設定されている。
【0033】
このような構成から、駆動軸13が駆動回転した場合には、吸入ポート10からのオイルが吸入開口17に送られ、このオイルが第1吐出開口18と第2吐出開口とに分配される形態で送られる。そして、第1吐出開口18からのオイルは第1吐出ポート11から送り出され、第2吐出開口19からのオイルは第2吐出ポート12から送り出される。
【0034】
尚、このオイルポンプPは、3つ以上の吐出開口を分離する位置関係で形成し、これらの吐出開口からのオイルが供給される3つ以上の吐出ポートを備えた構成であっても良い。このように構成する場合、分割開口のうち開口面積が小さく設定されたものを第1吐出ポート11に接続し、開口面積が大きく設定されたものを第2吐出ポート12に接続する構成になる。
【0035】
〔調圧バルブ〕
図3に示すように、調圧バルブVは、バイパス油路8からのオイルが流れる流路空間を有するバルブ本体31と、このバルブ本体31に対してスライド移動することにより流路空間の流路断面積を変更して油路空間に流れるオイル量を調節する弁体32と、バルブ本体31の開口端を閉塞するキャップ体33とを備えている。バルブ本体31には流路断面積を小さくする方向への付勢力を弁体32に作用させる付勢機構として圧縮コイル型のスプリング34を備えている。
【0036】
ハウジング30に対して断面形状が円形となるバイパス油路8が形成され、このバイパス油路8の中間に挿入するようにバルブ本体31が備えられ、このバルブ本体31のシリンダ状の内部空間に対してスライド移動自在に弁体32が嵌め込む状態で備えられている。バイパス油路8には図3において左側から右側にオイルが流れる。
【0037】
バルブ本体31は、前述したシリンダ状の内部空間が形成されると共に、弁体32のスライド方向と直交する姿勢で断面形状が円形となる一対の貫通孔31bが形成されている。この一対の貫通孔31bがバイパス油路8と流路空間とを接続する位置に配置される。バルブ本体31の内部には貫通孔31bから作用するオイル圧を前記弁体32の受圧面32aに作用させ、弁体32を開放方向にスライド移動させオイル圧作用油路31cが形成されている。
【0038】
キャップ体33は、バルブ本体31に対してネジ部により連結する構成を有すると共に、底壁にはドレン孔33aが形成されている。
【0039】
弁体32は、突出端に前述した受圧面32aが形成された一方の端部に開放する部材が用いられ、受圧面32aの中央位置には突出部32bが形成され、外周には環状となる第1補助流路32cと第2補助流路32dとが形成されている。また、弁体32の内部にはスプリング34の収容空間が形成されている。
【0040】
第1補助流路32cと第2補助流路32dとの流路断面積は、バルブ本体31の貫通孔31bの流路断面積と比較して小さい値に設定され、第1補助流路32cの流路断面積と比較して第2補助流路32dの流路断面積が大きく設定されている。第1補助流路32cはスプリング34の付勢力により弁体32が図3、図4(a)に示す閉じ位置にある場合にオイルの流動を許し、エンジンEの回転速度(単位時間あたりの回転数)の増大に伴い弁体32が移動した場合に(図4(c)を参照)第2補助流路32dがオイルの流動を許すように位置関係が設定されている。
【0041】
〔オイル供給形態〕
エンジンEの回転速度(単位時間あたりの回転数)の変化に伴う調圧バルブVの弁体32の作動位置の変化を図4に示し、エンジンEの回転速度に対する制御油路5のオイル圧の変化を図5にグラフで示している。調圧バルブVは、エンジンEが停止している状態でスプリング34の付勢力により弁体32の突出部32bがバルブ本体31の内面に当接し、この接当位置が弁体32の作動始端となる(図3・図4(a))。この作動始端では弁体32の受圧面32aとバルブ本体31の内壁(図3でバルブ本体31の上部位置の内壁)との間に隙間が形成され、バイパス油路8のオイル圧がオイル圧作用油路31cから受圧面32aに作用可能な状態にある。尚、制御油路5のオイル圧はオイル量の増大と正比例して増大するため、エンジンEの回転速度をオイル量として捉えて図5のグラフを説明することも可能である。
【0042】
エンジンEが始動した場合には、オイルポンプPの第1吐出ポート11と第2吐出ポート12とからオイルが送り出される。前述したように第2吐出開口19の開口面積が第1吐出開口18の開口面積より大きく設定されているため、第2吐出ポート12から吐出されるオイル量が、第1吐出ポート11から吐出されるオイル量より多くなり、このオイル量の比率は決まった値となる。
【0043】
制御バルブ1Vは、進角制御ポジション又は遅角ポジションに操作された場合に弁開閉時期制御装置1に対するオイルの給排を行うが、この給排量は比較的少なく、また、中立位ポジションではオイルの流れを遮断する。従って、エンジンEの回転速度が低い状態であっても調圧バルブVが制御油路5のオイル圧を上昇させることになり、必要とするオイル圧のオイルを弁開閉時期制御装置1に供給できる。
【0044】
エンジンEの始動の後にエンジンEの回転速度が上昇し、オイルポンプPから送り出されるオイル量が増大する際には、オイル圧作用油路31cから弁体32の受圧面32aに作用するオイル圧が上昇し、スプリング34の付勢力に抗して弁体32が弁体開放側(図3、図4で下側)に移動し、初期には第1補助流路32cにオイルが流れ、これに続いて第2補助流路32dにもオイルが流れる状態に移行する(図4(a)〜(c))。
【0045】
つまり、オイル圧はエンジンEの回転速度が比較的低速で制御油路5に流れるオイル量も少なく第1補助流路32cにオイルが流れる場合には、原点「0」を基点として設定特性となる直線状に上昇する(0〜R1)。これに続いて、エンジンEの回転速度が増大し、制御油路5に流れるオイル量も増大して第2補助流路32dにもオイルが流れる状況に移行すると、エンジンEの回転速度の増大に伴い弁体32が移動し、この移動に伴い第2補助流路32dに流れるオイル量も増大するため、設定特性より緩やかな特性でオイル圧が上昇する(R1〜R2)。
【0046】
エンジンEの回転速度が増大し、制御油路5に流れるオイル量が増大して弁体32の作動により弁体32が図4(c)の位置に達した後には、第1補助流路32cと第2補助流路32dとの流路断面積が増大しないので、設定特性に近い特性でオイル圧が上昇する(R2〜R3)。
【0047】
この後に、エンジンのEの回転速度が更に増大し、制御油路5に流れるオイル量も増大して弁体32の受圧面32aがバルブ本体31の貫通孔31bの開放を開始する位置(バイパス油路8の開放を開始する位置)まで移動すると(図4(d))、この後に、バイパス油路8を開放することになるため、設定特性より緩やかな特性でオイル圧が上昇する(R3〜R4)。
【0048】
このように弁体32の移動によりバイパス油路8の開放を行い、弁体32が作動端に達した場合(図4(e))には、設定特性に近い特性でオイル圧が上昇し(R4〜R5)、この状態でエンジンEの回転速度が更に増大した場合にはリリーフバルブ9が開放することでオイル圧の上昇は抑制される。
【0049】
このオイル供給装置では、エンジンEの回転速度がR1に達した時点のオイル圧を弁開閉時期制御装置1に供給すべき基準値T1(第1設定値の一例)としており、エンジンEの回転速度が比較的低い場合にも調圧バルブVが、制御油路5のオイル圧を基準値T1まで上昇させる作動を行う。尚、エンジンEの回転速度がR3に達した場合にはオイル圧を昇圧値T3(第2設定値の一例)まで上昇させることが可能となる。
【0050】
〔第1実施形態の作用・効果〕
このように、オイルポンプPが第1吐出ポート11と第2吐出ポート12とから決まって比率でオイルを吐出する構成であるので、第1油路としての制御油路5から弁開閉時期制御装置1に決まった量のオイルを供給し、第2油路としての潤滑油路7からメインギャラリ2に対して決まった量のオイルを供給する。また、エンジンEの回転速度が低速であっても調圧バルブVがオイル圧を基準値T1まで上昇させて必要とするオイル圧のオイルを弁開閉時期制御装置1に供給できるようにしており、エンジンEの回転速度が増大した場合には、制御油路5からの余剰オイルをバイパス油路8から潤滑油路7に送り、オイルを無駄にすることなく、エンジンEの潤滑を行える。特に、このオイル供給装置では、制御油路5のオイルだけを調圧バルブVによって昇圧するので、オイルポンプPから送り出されるオイル全量を昇圧する構成と比較するとエンジンEに作用する負荷を軽減する。
【0051】
特に、図5に示すように調圧バルブVの昇圧特性が設定されているので、調圧バルブVが、オイル圧が基準値T1に達した後に、エンジンEの回転速度がR1〜R2の領域では緩やかにオイル圧を上昇し、また、オイル圧が昇圧値T3に達した後に、エンジンEの回転速度がR3〜R4の領域でも緩やかにオイル圧を上昇するので、エンジンEに作用する負荷を更に軽減し、エネルギーロスを低減する。
【0052】
〔第2実施形態〕
この第2実施形態は、図6に示すように、第1実施形態の制御油路5からのオイルをピストンジェット41(第1所定部位の一例)に供給する構成を付加した点が第1実施形態と異なるが、他の構成は第1実施形態と共通している。
【0053】
ピストンジェット41は、エンジンEにピストンに対してオイルを吹き付ける形態で供給する構成であるため、第1実施形態で説明した基準値T1より高圧となるオイル圧を必要とする。
【0054】
この第2実施形態では、第1実施形態で説明した昇圧値T3をピストンジェット41が必要とするオイル圧に設定しており、このように昇圧値T3を設定することで、ピストンジェット41に対しても必要とするオイル圧のオイルを供給できる。
【0055】
〔第2実施形態の作用・効果〕
この第2実施形態のオイル供給装置でも第1実施形態と同様に、制御油路5と潤滑油路7との一方のオイル圧が低減した場合でも、他方のオイル圧が下降する不都合を招くことがない。更に、エンジンEの回転速度が低速であっても調圧バルブVがオイル圧を基準値T1まで上昇させて必要とするオイル圧のオイルを弁開閉時期制御装置1に供給できるようにしており、エンジンEの回転速度が増大した場合には、制御油路5からの余剰オイルをバイパス油路8から潤滑油路7に送り、オイルを無駄にすることなく、エンジンEの潤滑を行えるようにしている。
【0056】
特に、調圧バルブVがオイル圧を昇圧値T3まで上昇させるので、ピストンジェット41ではエンジンEのピストンに対してオイルを吹き付けて潤滑と冷却とを良好に行える。また、図5に示すように調圧バルブVの昇圧特性が設定されているので、エンジンに作用する負荷を軽減できる。
【0057】
〔第3実施形態〕
この第3実施形態では、図7に示すように、第1実施形態の制御油路5からのオイルをピストンジェット41(第1所定部位の一例)と、ターボチャージャの軸受部に供給するT/C軸受部42(第1所定部位の一例)とに供給する構成を付加した点が第1実施形態と異なるが、他の構成は第1実施形態と共通している。また、ピストンジェット41は第2実施形態で説明したものと共通する構成を有している。
【0058】
T/C軸受部42は、ターボチャージャの軸受部分に対してオイルを加圧供給することで軸受部分の潤滑と冷却とを行うものであるため、第2実施形態で説明したピストンジェット41と同様に基準値T1より高圧となるオイル圧を必要とする。
【0059】
この第3実施形態では、第1実施形態で説明した昇圧値T3をピストンジェット41とT/C軸受部42とが必要とするオイル圧に設定しており、このように昇圧値T3を設定することで、ピストンジェット41とT/C軸受部42とに対して必要とするオイル圧のオイルを供給できる。
【0060】
〔第3実施形態の作用・効果〕
この第3実施形態のオイル供給装置でも第1実施形態と同様に、制御油路5と潤滑油路7との一方のオイル圧が低減した場合でも、他方のオイル圧が下降する不都合を招くことがない。更に、エンジンEの回転速度が低速であっても調圧バルブVがオイル圧を基準値T1まで上昇させて必要とするオイル圧のオイルを弁開閉時期制御装置1に供給できるようにしており、エンジンEの回転速度が増大した場合には、制御油路5からの余剰オイルをバイパス油路8から潤滑油路7に送り、オイルを無駄にすることなく、エンジンEの潤滑を行えるようにしている。
【0061】
特に、調圧バルブVがオイル圧を昇圧値T3まで上昇させるので、ピストンジェット41ではエンジンEのピストンに対してオイルを吹き付けて潤滑と冷却とを良好に行い、T/C軸受部42ではターボチャージャの軸受部に高いオイル圧のオイルを供給して潤滑と冷却とを良好に行える。また、図5に示すように調圧バルブVの昇圧特性が設定されているので、エンジンに作用する負荷を軽減できる。
【0062】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0063】
(a)制御油路5のオイルを、弁開閉時期制御装置1とT/C軸受部42とに供給するように油路系を形成する。このように構成する場合、調圧バルブVによる基準値T1をT/C軸受部42に必要な値に設定することで無理のないオイル供給を実現する。
【0064】
(b)制御油路5のオイルを、弁開閉時期制御装置1以外に、オイルを必要とする機器に供給するように構成しても良い。このようにオイルを供給する対象はエンジンEに直接的に関連するものに限らず、アクチュエータであっても良い。
【0065】
(c)第1実施形態に必要とする調圧バルブVは基準値T1を得るものであれば良いので、基準値T1と昇圧値T3との2段のオイル圧を生成する必要はなく、例えば、リリーフバルブや、アンロードバルブのように基準値T1を越えるオイル圧を作り出さない構成のものを使用しても良い。このように構成することでエンジンEに対する負荷を一層低減できることになる。
【0066】
(d)オイルポンプPを、エンジンEで駆動されるインナロータ14と、このインナロータ14を収容する空間を有したポンプハウジング16とを備え、インナロータ14に対して出退自在にベーンを備えた構成のベーンポンプ型に構成しても良い。
【0067】
このようにベーンポンプでオイルポンプPを構成する場合にも、ポンプ内の加圧領域が小さい開口面積の第1吐出開口18と、これより大きい開口面積の第2吐出開口19との、少なくとも2つに分割されることで吐出開口が形成される。そして、第1吐出開口18からのオイルを第1吐出ポート11に送り、第2吐出開口19からのオイルを第2吐出ポート12に供給する油路構成となる。
【0068】
(e)オイルポンプPが内接歯車型とベーンポンプ型との何れであっても、インナロータ14の回転方向の沿う方向での第1吐出開口18と第2吐出開口19との配置順序は、第1実施形態に示される順序に限らず、この逆の順序であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、エンジンによって駆動されるオイルポンプのオイルを弁開閉時期制御部とメインギャラリとに供給するオイル供給装置全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 第1所定部位・弁開閉時期制御部(弁開閉時期制御装置)
2 第2所定部位(メインギャラリ)
5 第1油路(制御油路)
7 第2油路(潤滑油路)
8 バイパス油路
10 吸入ポート
11 第1吐出ポート
12 第2吐出ポート
14 ポンプロータ・インナロータ
14A 外歯
15 アウタロータ
15A 内歯
16 ポンプハウジング
18 第1吐出開口
19 第2吐出開口
41 第1所定部位・ピストンジェット
42 第1所定部位・軸受部(T/C軸受部)
E エンジン
P オイルポンプ
T1 第1設定値(基準値)
T3 第2設定値(昇圧値)
V 調圧バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで駆動されるポンプロータと、
このポンプロータを収容するポンプハウジングとを備え、
前記ポンプロータの駆動回転により負圧状態となる負圧領域にオイルを送る吸入ポートを前記ポンプハウジングに形成し、
前記ポンプロータの駆動回転により加圧状態となる加圧領域を第1吐出開口と第2吐出開口との少なくとも2つに分割し、前記第1吐出開口からオイルを送り出す第1吐出ポートと、前記第2吐出開口からオイルを送り出す第2吐出ポートとを前記ポンプハウジングに形成してオイルポンプを構成すると共に、
第1所定部位に第1吐出ポートからのオイルを供給する第1油路と、
第2所定部位に前記第2吐出ポートからのオイルを供給する第2油路とを備えているオイル供給装置。
【請求項2】
前記第1油路と前記第2油路とを連通させるバイパス油路が形成され、このバイパス油路に調圧バルブを備えると共に、
前記調圧バルブは、前記第1油路のオイル圧が第1設定値に達するまでは前記バイパス油路におけるオイルの流れを抑制し、前記第1油路のオイル圧が前記第1設定値を超えた場合に前記バイパス油路におけるオイルの流れの増大を図る請求項1記載のオイル供給装置。
【請求項3】
前記エンジンの吸気タイミングと排気タイミングとの少なくとも一方を制御する弁開閉時期制御部と、前記エンジンのシリンダに吹き付ける形態でオイルが供給されるピストンジェットと、前記エンジンのターボチャージャにおいてオイルが供給される軸受部との少なくとも1つに前記第1油路からのオイルを供給する請求項2記載のオイル供給装置。
【請求項4】
前記調圧バルブが、前記第1油路のオイル圧が、前記第1設定値より高い値に達した後において、前記第1設定値より高い値の第2設定値に達するまでは前記バイパス油路におけるオイルの流れを抑制し、前記第1油路のオイル圧が前記第2設定値を超えた場合に前記バイパス油路におけるオイルの流れの増大を図る請求項2記載のオイル供給装置。
【請求項5】
前記オイルポンプの前記ポンプロータが、複数の外歯を備えたインナロータと、前記外歯に噛み合う複数の内歯を有した環状のアウタロータとを前記ポンプハウジングに収容して内接歯車型に構成されると共に、
前記第1吐出開口と前記第2吐出開口とが前記加圧領域において前記アウタロータの周方向で分離する位置に形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100736(P2013−100736A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243788(P2011−243788)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】