説明

オイル担持濾過材およびフィルタエレメントおよびその製造方法

【課題】 オイルの担持によってフィルタの長寿命化と捕集効率向上を図りながら、同時にカーボンダストも良好に捕集できるような、濾過材およびフィルタエレメントおよびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維により構成される繊維層にオイルを担持させたオイル担持濾過材1において、少なくとも濾過材の上流側に面する繊維層が、撥油性を有する繊維により構成される撥油層11とされて、撥油層11の上流側表面にオイル6,6が担持されているオイル担持濾過材とする。撥油層11は実質的にオイル6を透過しない層とされることが好ましい。濾過材やフィルタエレメントへのオイルの担持は、スプレー法によることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に使用される内燃機関等のエアフィルタとして利用できるオイル担持濾過材およびフィルタエレメントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記エアフィルタとしては、エンジンに清浄な空気を送るために、微細なダストを除去できる性能すなわち高い捕集効率が求められていた。特に近年では、オイルを塗布した濾過材から透過するカーボンダストや、濾紙や不織布などの濾過材から透過する粒子径の小さなダストが、エアフィルタの下流に設置されるエアフローメータやエンジン摺動部に悪影響を与えることが無いよう、より高い捕集効率が求められていた。その一方で、エアフィルタには、長期間にわたり目詰まりすること無く使用できる長寿命化が求められている。
【0003】
このような多様な要求事項を満足できるようなエアフィルタを提供するために、種々の濾過材が検討・提案されてきており、一般に、オイル含浸などの手段により濾過材にオイルを担持させることで、濾過材の表面にケーク層を形成しながらダストの捕集を行うようにして、濾過材の捕集効率を高めながら長寿命化が図れることが知られている。また、一方では、オイルを含浸させた濾過材ではカーボンダストを効果的に捕捉することができず、オイルの量によってはオイル抜けを生ずるおそれがあることも知られている。
【0004】
こうした困難を改良するために、オイルが含浸され比較的密な第1のフィルタ層の下流側に、撥油層たる比較的疎な第2のフィルタ層を設けた濾過材が提案されている(特許文献1参照)。また、オイルが含浸された比較的疎な第1のフィルタ層の下流側に、撥油層たる比較的密な第2のフィルタ層を設けた濾過材も提案されている(特許文献2参照)。これらの濾過材は、オイルを含浸した上流側のフィルタ層(ウェット層、あるいはビズカス層)において一般ダストの捕捉を行い、下流側の撥油層たるフィルタ層(ドライ層)によってカーボンダストの捕捉を行うことにより、エアフィルタへの多様な要求事項を満足させようとするものである。
【0005】
また、特許文献3には、比較的疎である撥油層を上流側に配置し(疎層部)、比較的密であるオイル含浸層を下流側に配置し(密層部)、上流の疎層部(撥油層)に付着したオイルの、下流の密層部への移動を促進して、前記疎層部をドライ化し、このドライ化された疎層部によって主にカーボンダストを捕捉するようにしたオイル含浸濾過材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−161213
【特許文献2】特開2003−299922
【特許文献3】特開2007−301481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記公知文献に記載されたような技術とは別の技術手段により、オイルの担持によってフィルタの長寿命化と捕集効率向上を図りながら、同時にカーボンダストも良好に捕集できるような、濾過材およびフィルタエレメントおよびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討の結果、濾過材の上流側表面の層を撥油性を有する撥油層として、撥油層の上流側表面にオイルを担持させると、驚くべきことに、撥油層表面に担持されたオイル分によるウェットタイプ濾過材のような特性と、撥油層によるドライタイプ濾過材のような特性の両方が発現して、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、繊維により構成される繊維層を有し、繊維層にオイルを担持させたオイル担持濾過材であって、少なくとも濾過材の上流側に面する繊維層が、撥油性を有する繊維により構成される撥油層とされて、撥油層の上流側表面にオイルが担持されているオイル担持濾過材である。(第1発明)
【0010】
第1発明においては、前記撥油層が、実質的にオイルを透過しない層とされることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、本発明は、第1発明のオイル担持濾過材を襞折り状に形成したフィルタエレメントである(請求項3、第2発明)。
【0012】
また、本発明は第2発明(請求項3に記載のフィルタエレメント)を製造する方法であって、少なくとも濾過材の上流側に面する繊維層が、撥油性を有する繊維により構成される撥油層とされた濾過材を準備する第1工程、前記濾過材を襞折り状に形成し、前記撥油層が上流側となるようにフィルタエレメントを構成する第2工程、得られたフィルタエレメントの上流側から、スプレーによってオイルを噴霧し、撥油層の表面にオイルを担持させる第3工程を含む、フィルタエレメントの製造方法である(請求項4、第3発明)。
【0013】
第3発明の製造方法においては、前記第3工程において、オイルの噴霧と並行して、フィルタエレメントの下流側から空気を吸引することが好ましい。(請求項5)
【発明の効果】
【0014】
第1発明または第2発明によれば、撥油層の上流側表面に担持されたオイルにより、捕捉されたダストでケーク層が形成されて濾過材の捕集効率を高めながら長寿命化が図れる。更に撥油層は層の内部がドライ層となって、カーボンダストを効率的に捕集できる。
【0015】
撥油層が実質的にオイルを透過しないような層とされていれば(請求項2)、いわゆるオイル抜けを確実に防止できて、濾過材の上流側表面に担持されたオイルが気流により失われることなく、より効果的に捕集効率向上と長寿命化が図れる。また、カーボンダスト捕集効率の点からも効果的である。
【0016】
また、第3発明(製造方法発明)によれば、フィルタエレメントを構成する濾過材撥油層の上流側表面に効率的にオイルを担持させて、第2発明のフィルタエレメントが効率的に製造できる。
【0017】
さらに、第3発明において、下流側から吸引を行うようにすれば(請求項5)、濾過材の襞折りの奥に部分まで、濾過材撥油層の上流側表面に効率的にオイルを担持させることができ、得られるフィルタエレメントの品質をさらに向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態のフィルタエレメントの概略図。
【図2】本発明第1実施形態のオイル担持濾過材の断面模式図。
【図3】スプレー法によりオイルをフィルタエレメントに担持させる工程の模式図。
【図4】本発明第2実施形態のオイル担持濾過材の断面模式図。
【図5】本発明第3実施形態のオイル担持濾過材の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお本発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
図1には、本発明のオイル担持濾過材1を使用した、本発明のフィルタエレメント3の一例を示し、オイル担持濾過材1は襞折りにされて略長方形状の枠体2にその周囲を保持されており、枠体2にはシール部材4が取り付けられて、フィルタエレメント3が構成されている。フィルタエレメント3は、例えば内燃機関などの吸気経路に設けられるエアクリーナケース内部に取り付けられて、空気中の各種ダストを濾過する。
【0020】
図2には、本発明の濾過材の第1実施形態であるオイル担持濾過材1の断面を模式的に示す。本実施形態においては、濾過材1は単層の不織布11により構成されており、不織布11を構成する繊維には撥油処理が施されて、濾過材1は不織布11を撥油層として有する単層の濾過材とされている。そして、濾過材1の空気流れ上流側の表面には、オイル6,6が微細な油滴状に担持されている。また、撥油性の繊維で構成される不織布11の内部や下流側表面には、実質的にオイルが存在しない。すなわち、濾過材1においては、上流側表面にはオイルが存在し、この表面においてはいわゆるウェットタイプのフィルタとされているが、不織布11の内部や下流側表面部分においては、オイルが存在しないドライタイプの不織布の状態とされている。
【0021】
撥油層上流側表面に担持されるオイルは、繊維とははじきながらも略球状の油滴となって、撥油層表面に露出した繊維に付着して担持される。繊維と繊維の交絡部にやや大き目のオイルの塊が形成されることもある。また、オイルの量が多ければ、オイルの一部が膜状に撥油層表面に付着することもある。
【0022】
本実施形態において撥油層たる不織布の構成について説明すると、撥油層を構成する不織布としては、空間率が80〜95%のものが好適に使用される。撥油層の繊維の密度が非常に疎であると、撥油層内部にオイルが侵入したり、撥油層の下流側へのオイル抜けが生じやすくなったりするので、撥油層の繊維密度はオイルが含浸したり透過しない程度に密であることが好ましい。本発明の濾過材の不織布の好適な目付量は150g/m以上、500g/m未満である。目付量が150g/m未満であれば、ダストの捕集効率が著しく悪化する恐れがあり、目付量が500g/m以上であれば、通気抵抗が増加してしまうとともに、生産性や経済性に劣るものとなってしまう。
【0023】
不織布を構成する化学繊維の原料としては、フッ素樹脂、PET(ポリエチレンテフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエステル)、PA(ポリアミド)、レーヨンなどをあげることができる。不織布には化学繊維のほか、パルプや綿などの天然繊維を含ませることもできる。また、撥油層は、不織布ではなくろ紙によって構成することも可能である。なお、本実施形態においては撥油層11にはPET繊維の不織布を使用している。
【0024】
上記撥油層を構成する繊維には、撥油処理を施した撥油性繊維を使用する。撥油性繊維としては、フッ素樹脂やシリコン樹脂などの油をはじく性質を有する物質をコーティングした繊維や、フッ素樹脂繊維などが例示できるほか、繊維に撥油剤や撥水剤による処理を行った繊維も例示できる。すなわち、撥油層の不織布を構成する繊維に撥油剤を塗布して撥油層を得ることができる。撥油層は撥油性を有する繊維のみで構成することが好ましいが、本発明の作用効果が得られる範囲において、撥油層には親油性繊維が混紡されていてもよい。
【0025】
撥油剤や撥水剤を塗布して撥油層を構成する場合には、不織布の形成前の不織布原料繊維の状態や、不織布原反の形成後や、あるいは、多層構造を持つ不織布に積層一体化した後など、さまざまなタイミングで、撥油剤や撥水剤を塗布することができる。塗布の方法はスプレー法やロール塗工法やディッピング法など、各種の塗工法を用いて塗布できる。撥油剤または撥水剤としては、フッ素系処理剤やシリコン系処理剤の他、油や水をはじく性質を有する表面処理剤を使用することができる。
【0026】
撥油物質でできた繊維や撥油物質をコーティングした繊維であっても、撥油剤や撥水剤の塗布であっても、撥油層11に撥油性が付与できれば、同様の作用効果を発揮できる。
【0027】
撥水層の表面に担持させるオイルとしては、いわゆるビスカスタイプ(ウェットタイプ)のフィルタエレメントに使用されるような、不揮発性の鉱物油や化学合成油等、種々のオイルが使用できる。オイルとしては、40℃における動粘度が22〜68平方ミリ/秒の範囲にあるオイルを使用することが好ましい。
【0028】
本実施形態における好適なオイルの担持量は、好ましくは、20g/m以上、100g/m未満、より好ましくは、40g/m以上、80g/m未満である。この担持量は、不織布やろ紙にオイルを含浸させる通常のビスカスタイプのフィルタエレメントにおけるオイルの量(80g/m以上、150g/m未満)に比べ、少ないオイル量である。これは、本発明においては、オイルは撥油層の上流側表面のみにおいて担持されるためである。上記の好ましい範囲よりもオイルの量が少なければ、オイルによるケーク層の形成やダスト捕集量の増大を図ることが難しくなり、逆にオイルの量が過剰であれば、過剰なオイルが濾過材撥水層の表面を覆うようになってしまって通気抵抗が増加したり、過剰なオイルが流れ落ちて周囲を汚染したりすることがある。
【0029】
また、本実施形態においては、撥油層の内部と下流側表面は、実質的にドライタイプの不織布として機能させることを意図しているので、オイルの粘度と撥油層の空間率等を調整して、エアクリーナの使用条件下において、実質的にオイルが撥油層を通過しないようにすることが好ましい。オイルの粘度を高めたり、撥油層の空間率を下げたり、撥油層の構成繊維の繊維径を小さくすれば、オイルが撥油層を通過しないようにできる。撥油層最上流部の構成繊維の好ましい繊維径は、例えば6.6〜2.2dt(デシテックス)であり、不織布に通常使用される構成繊維の中では比較的細い繊維が好ましく使用できる。
【0030】
本発明の上記実施形態の作用効果について説明する。まず、本実施形態のオイル担持濾過材1は、上流側表面にオイルが担持されているので、濾過すべき空気中に含まれるダストの大部分は、これらオイルに捕捉され、ケーク層を形成する。従って、本実施形態によれば、ウェットタイプの濾過材のように、いわゆるケーク濾過が実現されて、ダストの捕集効率を高めながらも濾過材の長寿命化を図ることができる。また、本発明によれば、オイルは濾過材の最上流面に集中して担持されるようになるため、従来のウェットタイプ濾過材と比べて、比較的少量のオイルによって十分な濾過効率向上と寿命向上を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、濾過材の撥油層が撥油性を有する繊維によって構成されているため、撥油層が実質的にはドライタイプのフィルタ層として機能し、カーボンダストのようなウェットタイプ濾過材ではうまく捕集できないダストを捕集することが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、ウェットタイプとドライタイプの長所を兼ね備えた濾過材を簡単な構成で実現できる。
【0032】
さらに、本実施形態における撥油層を、実質的にオイルを透過しない層に構成した場合には、撥油層の内部を確実にドライ状態に維持できて、カーボンダストをより効率的に捕集できるようになると共に、上流側表面に担持されたオイルが下流側に抜けてしまう不具合の発生が未然に防止され、より効果的に捕集効率向上と長寿命化が図れる。
【0033】
次に、上記実施形態の濾過材1およびフィルタエレメント3の製造方法について説明する。撥油層11を有するような濾過材1や、そのような濾過材1を使用したフィルタエレメント3の製造は、公知の方法により行うことができる。ここで、繊維に撥油性を付与する工程は、繊維の形成時や不織布などの形成工程中、あるいは、形成された不織布に対して、あるいは形成されたフィルタエレメントに対して、行うことができる。撥油剤の塗布により撥油性を付与するようにすれば、撥油性付与工程をいずれのタイミングで行うかの自由度が高まって好ましい。
【0034】
濾過材がフィルタエレメントの襞折り工程に供される前の段階で撥油処理を行うのが、撥油処理を均一かつ効率的に行いうる点で特に好ましい。
【0035】
撥油層を有する濾過材あるいはフィルタエレメントが得られた後に、濾過材の上流側表面にオイルを担持させる工程を行う。オイルの担持工程には、好ましくはスプレー法が用いられる。即ち、濾過材やフィルタエレメントに対し、使用時に上流側となる側から、スプレーを用いて、所定量のオイルをミスト状にして濾過材表面に吹付けて担持させる。より好ましくは、オイルのスプレーと並行して、下流側から空気の吸引を行う。
【0036】
オイルの担持は、撥油性を有する濾過材が形成された時点で行っても良いが、より望ましくは、フィルタエレメントに成形後に担持させるのが、フィルタエレメントが製造しやすくなって良い。例えば、図3に示すように、襞折りした濾過材を用いて製造したフィルタエレメント3を、ケース9に取り付けて、フィルタエレメント3の下流側から空気を吸引しながら、スプレー装置8からオイルを所定量噴霧して、フィルタ3の上流側表面にオイルを担持させるようにすれば、オイルの担持が極めて効率的に行える。
【0037】
以上の工程により、撥油層の上流側表面にオイルが担持された濾過材やフィルタエレメントを製造することができる。
なお、スプレー法以外の方法でも、塗布やディッピングにより撥油層表面にオイルを担持させ、過剰なオイルを遠心分離などによって除去することにより、本発明の濾過材やフィルタエレメントを得ることも可能である。
【0038】
スプレー法によってオイルの担持を行うようにすれば、微細な油滴を効果的に撥油層の上流側表面に担持させることができ、ウェットタイプの濾過材としての濾過効率や寿命に優れたものとなるので、スプレー法を採用することが特に好ましい。
【0039】
また、オイルを上流側からスプレーするのと並行して、下流側から空気を吸引するようにすると、飛散したオイルミストを効率的に濾過材の表面に付着させることができる。そして、吸引することにより、襞折りされた濾過材の襞の奥の部分にまで、オイルミストがいきわたるようになり、フィルタエレメントの品質を高めるうえでより好ましい。
【0040】
本発明は、上記代1実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分については同じ番号をつけると共にその説明を省略する。
【0041】
上記第1実施形態においては、濾過材が単層の不織布である例について述べたが、濾過材の構成は単層であっても積層であってもよく、濾過材の最も上流側の濾過材表面が撥油層とされていれば良い。下流側の層はドライ層やウェット層を適宜設けることができる。図4には第2実施形態のオイル担持濾過材の断面模式図を示すが、本実施形態においては空気流れの上流側が撥油層11とされて、下流側が撥油性を有しない層12とされて、2層の積層構造の濾過材とされており、オイル6,6は、主に撥油層の上流側表面だけに油滴状に担持されている。すなわち、本実施形態においては、撥油層12の上流側表面がウェットタイプとして機能し、撥油層11と撥油性を有しない層12とはドライタイプとして機能する濾過材となる。
【0042】
図5に示す第3実施形態のオイル担持濾過材では、上流側に撥油層11が設けられる点と撥油層上流側表面にオイルが担持される点は、第1実施形態や第2実施形態と同様であるが、本実施形態においては、下流側が撥油性を有しない層13とされて、当該層13にオイルが含浸されてウェット層とされている。すなわち、本実施形態においては、撥油層11の上流側表面と撥油性を有しない層13とがウェットタイプとして機能し、撥油層11はドライタイプとして機能する濾過材となる。
【0043】
第2実施形態や第3実施形態においても、第1実施形態と同じく、ウェットタイプとドライタイプの両方の長所を兼ね備えた濾過材が得られる。このように、濾過材の最も上流側の濾過材表面が撥油層とされていて、その濾過材の上流側表面にオイルが担持されるようにすれば、表面に担持されたオイルがウェットタイプの濾過材として機能し、撥油層がドライタイプとして機能する。従って、上記構成が維持される限りにおいて、濾過材を構成する層をより多層化したり、層間で密度を変化させさせたりすることもでき、同様の効果が発揮される。
【0044】
また、上記実施形態の説明においては、フィルタエレメントの形態として、襞折りされた略長方形状のものについて説明したが、フィルタエレメントの形状は円筒状などの他の形態とすることももちろん可能である。
【0045】
また、本発明の濾過材やフィルタエレメントは、内燃機関の吸気システムにおける空気の濾過だけでなく、他の技術分野にも応用でき、例えば、燃料電池や冷却機器に送風する空気からダストをろ過するためのエアクリーナにも使用できる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例および試験結果について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例と比較例において、いずれの濾過材も繊維の材質や繊維構成(繊維太さなど)と、目付け量は同じであり、試験に供する際に成形したフィルタエレメントの形状や襞折りの仕様も同一として比較している。
【0047】
(実施例1)PET樹脂100%の繊維原料をニードルパンチしてなる空間率89.1%、目付け量240g/m2、厚さ3mmの3層積層構造の不織布に、不織布全体にフッ素系処理剤による撥油処理を行い、全ての層が撥油性を有する3層構造の濾過材を得た。得られた濾過材を襞折り構造に形成して試験用のフィルタエレメント(濾過材有効濾過面積:0.13m)を得ると共に、フィルタエレメントの上流側となる面からパラフィン系オイルをスプレー法によって8g担持させて、本発明第1実施形態に相当するフィルタエレメントを得た(実施例1)。実施例1のフィルタエレメントにおいては、上流側の濾過材表面にオイルが微細な油滴状に担持されていた。また、オイルをスプレーする際に吸引を並行して行ったが、オイルの濾過材内部への侵入や下流側への透過は見られず、不織布層(撥油層)の内部および下流側表面はドライ不織布の状態に維持されていた。
【0048】
(実施例2)
実施例1の3層構造の不織布原反に対して、最上流層にのみ撥油処理を行い、最上流層のみが撥油層とされて、それ以外の下流側の層は撥油層とはされていない3層構造の不織布を得た。この不織布を用いて、同様にフィルタエレメントの製作を行い、同様にオイルを担持させた。実施例2のフィルタエレメントにおいても、上流側の濾過材表面に8gのオイルが微細な油滴状に担持されるとともに、同じく下流側へのオイルの移行はなく、下流側不織布もドライ不織布の状態に維持されていた。
【0049】
(比較例1)比較例1として、実施例1と比較してオイルを担持させない点で異なるが、他の事項については実施例1と同じであるドライ濾過材のフィルタエレメントを得た。
【0050】
(比較例2)比較例2として、実施例1と比較して、不織布層が撥油性を有さない点が異なる(すなわち撥油処理を行わない)が、他の事項については実施例1と同じで、実施例1と同じスプレー方式によりオイルを担持させたオイル担持濾過材とフィルタエレメントを得た。なお、比較例2においては、オイルは不織布層に含浸される形態で担持され、オイルの付着量は14gであった。
【0051】
(比較例3)比較例3として、スプレー法ではなく塗布−遠心分離法によってオイルの含浸を行った点を除いて比較例2と同じであるオイル担持濾過材とフィルタエレメントを得た。比較例3においても、オイルは不織布層に含浸される形態で担持され、オイルの付着量は14gであった。
【0052】
得られた上記フィルタエレメントについて、JIS D1612(自動車用エアクリーナー試験方法)に準じて、ダスト及びカーボンダストについてフルライフの清浄効率試験、ダスト保持量試験を行った。その試験条件を下記に示す。
濾過材有効濾過面積:0.13m
試験ダスト:ダスト(JIS8種)、カーボンダスト(軽油燃焼カーボン)
ダスト供給量:ダスト(4.2g/分)、カーボンダスト(0.10g/分)
試験流量:4.2m/分
増加通気抵抗:0.98kPaに達したときをフルライフとする。
測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1と実施例2はほぼ同じ試験結果を示しており、本発明の実施においては、最上流層が撥油層であってその表面にオイルが担持されるようにすれば、同様の効果が発揮されることが確認された。
【0055】
また、比較例1はいわゆるドライ不織布の試験結果に対応するものであるが、カーボンダストの捕集効率は高いものの、ダスト補足量が実施例に対し3割程度少なくなってしまっている。
【0056】
また、比較例2及び比較例3は通常のビスカス式濾過材の試験結果に対応するものであるが、これら濾過材においては、実施例の2倍近いオイルを含浸させたにも関わらず、ダスト補足量の改善が小さく、ダスト補足量は実施例1や実施例2に及ばない結果となった。また、比較例2及び比較例3のような通常のビスカス式の濾過材では、カーボンダストの捕集効率が低いという試験結果が得られた。
【0057】
従って、本発明の実施例によれば、通常のドライ不織布やビスカス式濾過材では達成し得なかったレベルで、高いカーボンダスト捕集効率と長いライフ(ダスト補足量)を両立できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のオイル担持濾過材やフィルタエレメントは、自動車用エンジンの吸気を濾過するエアクリーナなどに使用することができ、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0059】
1 濾過材
2 枠体
3 フィルタエレメント
4 シール部材
6 オイル(油滴状)
8 スプレー装置
9 ケース
11 撥油層
12 ドライ層
13 ウェット層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維により構成される繊維層を有し、繊維層にオイルを担持させたオイル担持濾過材であって、
少なくとも濾過材の上流側に面する繊維層が、撥油性を有する繊維により構成される撥油層とされて、
撥油層の上流側表面にオイルが担持されているオイル担持濾過材。
【請求項2】
前記撥油層が、実質的にオイルを透過しない層とされた請求項1に記載のオイル担持濾過材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のオイル担持濾過材を襞折り状に形成したフィルタエレメント。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルタエレメントを製造する方法であって、
少なくとも濾過材の上流側に面する繊維層が、撥油性を有する繊維により構成される撥油層とされた濾過材を準備する第1工程、
前記濾過材を襞折り状に形成し、前記撥油層が上流側となるようにフィルタエレメントを構成する第2工程、
得られたフィルタエレメントの上流側から、スプレーによってオイルを噴霧し、撥油層の表面にオイルを担持させる第3工程、
を含む、フィルタエレメントの製造方法。
【請求項5】
第3工程において、オイルの噴霧と並行して、フィルタエレメントの下流側から空気を吸引することを特徴とする請求項4に記載のフィルタエレメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224421(P2011−224421A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93737(P2010−93737)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】