説明

オイル潤滑式等速自在継手

【課題】等速自在継手を取り付けたままの状態で、等速自在継手を分解することなく、ブーツも取り外すことなく、潤滑剤の補給や排出ができるようにする。
【解決手段】等速自在継手は、連結すべき2軸のうちの一方とトルク伝達可能に接続する内側継手部材10と、連結すべき2軸のうちのもう一方とトルク伝達可能に接続する外側継手部材20と、内側継手部材10と外側継手部材20との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材60と、内側継手部材10と外側継手部材20との間の空間を密封するブーツ40を具備し、前記空間に充填する潤滑剤として液状オイルを使用するとともに、液状オイルを給油または排油できる貫通孔28aを外側継手部材20のステム部28に設け、その端部にプラグ28cを着脱自在に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はオイル潤滑式等速自在継手、より詳しくは、継手内部の潤滑に液状オイルを使用する等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、継手内部のしゅう動部や転動部の潤滑方法としてはグリースによる潤滑が一般的である。また、特許文献1には、自動車用等速自在継手において、車両に等速自在継手を取り付けた状態のまま、ブーツとグリースを交換できるようにした技術が開示されている。すなわち、図2に示すように、ハブ輪110と、等速自在継手の継手外輪120と、車軸軸受130とをユニット化してハブジョイントが構成されている。ハブ輪110はホイールを取り付けるためのフランジを有する。ハブ輪110と継手外輪120は、ハブ輪110の貫通孔にステム部129を嵌合させ、ハブ輪110から突出した軸端部の雄ねじ部にナット129cを締め付けて固定するようになっている。車軸軸受130の軸受外輪は外周に車体に固定するためのフランジを有し、内周に複列の外側軌道を有する。車軸軸受130の複列の内側軌道のうちの一方はハブ輪110に、もう一方は継手外輪120に形成してある。したがって、ハブ輪110と継手外輪120とで車軸軸受130の軸受内輪を構成している。
【0003】
継手外輪120の開口部を密封して外部からの異物の侵入や内部に充填したグリースの漏出を防ぐためにブーツ150を装着してある。ブーツ150は蛇腹状で、大径端部を継手外輪120のマウス部128に取り付け、小径端部を中間軸101に取り付け、それぞれ大径バンド151、小径バンド152で締め付けて固定してある。継手外輪120のステム部129は中空で、中空部つまり軸孔124がマウス部128の底と連通している。マウス部128の底に形成された平坦部127にエンドプレート148を装着して、マウス部128に充填したグリースの漏出を防ぐようにしている。エンドプレート148は軸孔124を通して取付け、取外しができるようになっている。すなわち、エンドプレート148はステム部129側に開口した内フランジを有し、この内フランジに、軸孔124に挿入した工具のフックを引っ掛けて取り外すことができる。
【0004】
図3および図4に従って分解・組立て手順を説明する。ここで、継手外輪120のステム部129の軸孔124に挿入し得る直径で、外周面に雄ねじを形成した棒状の工具154を準備するとともに、この工具154と中間軸101とを連結するためのカップリング装置を設ける。カップリング装置の形態としてここではねじ孔とねじ軸の組合せを例示してある。すなわち、中間軸101の端部にねじ孔153を形成し、このねじ孔153に適合するねじ部155を工具154の一端に形成してある。
【0005】
図3は分解手順を示す。
(1)まず、ブーツ150の大径バンド151、小径バンド152(図2)を外し、図示するように、ブーツ150を軸方向に逃がしておく。
(2)そして、エンドプレート148(図2)を外す。
(3)続いて工具154のねじ部155を中間軸101のねじ孔153に端部が当たるまでねじ込む。
(4)次に、継手外輪120または継手内輪140を軸方向(たたく方向)に固定し、白抜き矢印Aで示すように工具154をたたいて継手内輪140から中間軸101を抜く。このとき、継手内部に衝撃力が加わらないように継手内輪140を固定しておくのが望ましい。符号158で示す治具はこのためのものである。中間軸101と継手内輪140とはセレーション(またはスプライン。以下同じ)により結合し、サークリップ146で位置決めされている。このサークリップ146は所定値を越える軸方向力が加わると縮径して環状溝内に埋没し、中間軸101が継手内輪140から抜け出すのを許容する。
【0006】
図4は組立て手順を示す。
(1)まず、ブーツ150、大径バンド151、小径バンド152を図示するように中間軸101に組み込んでおく。
(2)そして、継手内輪140のセレーション孔に中間軸101のセレーション軸を噛み合わせる。
(3)次に、工具154をステム部129の軸孔124にハブ輪110側から挿入し、先端のねじ部155を中間軸101のねじ孔153にねじ込む。
(4)続いてナット156を継手外輪120のステム部129の端までねじ込む。
(5)白抜き矢印Cで示すように、工具154をスパナ等157で回転方向に止めておき、ナット156をさらにねじ込んでゆくと、工具154と共に中間軸101が白抜き矢印Bで示すようにナット156側に引っ張られる。このようにして中間軸101のセレーション部分が継手内輪140に挿入され、中間軸101の環状溝内に保持されていたサークリップ146が拡径して継手内輪140の位置決めをする。
(6)継手内輪140にグリースを封入し、エンドプレート148(図2)をはめる。ブーツ150を移動させて大径バンド151、小径バンド152を締め付けることにより組立てが終了する。
【0007】
上述のとおり、継手内輪140と中間軸101との分解・組立てを、ステム部129の軸孔124に工具154を挿入することによって行うことができるので、ハブユニットを車両に取り付けたままでも、あるいは車両から取り外してからでも、いずれの場合も簡単に、能率よく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−74083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
産業機械に使用されている等速自在継手は、内部の転走部やしゅう動部の潤滑のためグリースを封入している。継手内部の部品の損傷は、機械から等速自在継手を取り外して分解しないと確認できない。そのため、部品の損傷の有無その他の状況を確認する作業や、グリースの補給や交換には非常に手間がかかる。また、潤滑剤の劣化による等速自在継手の寿命低下を防止するためにも、等速自在継手の効率的なメンテナンスが必要になってくる。
【0010】
また、特許文献1に記載された技術は、等速自在継手を分解することなく中間軸から取り外すようにしたもので、ブーツを取り外す必要があり、したがって当然ながらグリースも漏れ出してしまう。
【0011】
この発明は、等速自在継手を取り付けたままの状態で、等速自在継手を分解することなく、ブーツも取り外すことなく、潤滑剤の補給や排油ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、潤滑剤として従来のグリースに代えて液状オイルを使用することによって課題を解決したものである。
すなわち、この発明の等速自在継手は、連結すべき2軸のうちの一方とトルク伝達可能に接続する内側継手部材と、連結すべき2軸のうちのもう一方とトルク伝達可能に接続する外側継手部材と、内側継手部材と外側継手部材との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材と、内側継手部材と外側継手部材との間の空間を密封するブーツを具備し、前記空間に充填する潤滑剤として液状オイルを使用するとともに、前記液体オイルを給油または排油できる貫通孔を前記外側継手部材に設けたことを特徴とするものである。
前記貫通孔は、外側継手部材のステム部に軸方向に延び、端部にプラグを着脱自在に取り付ける。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、従来技術の潤滑技術であるグリースの代替として、液状オイルを使用することにより、次のような利点が得られる。
等速自在継手を機械装置から取り外すことなく、また等速自在継手の分解も要することなく、しかも容易に、潤滑オイルの給油、排油、交換を行うことができる。したがって、機械装置に等速自在継手を取り付けた状態のまま、等速自在継手のメンテナンスを実施することができる。これにより、メンテナンスに要する作業や費用等、大幅に削減できるため、効率的なメンテナンスが可能になる。
【0014】
オイル交換も随時行うことができ、等速自在継手の寿命が向上する。定期的にオイルを新品に交換することで、異物(コンタミ)が除去できるため、等速自在継手の寿命が向上する。なお、グリース潤滑の場合、等速自在継手内部に剥離や摩耗その他の損傷が発生した場合、剥離した破損や摩耗粉等はグリース中に付着、混合して継手内部に残存することとなる。
【0015】
さらに、排油した潤滑オイルを調べることにより、等速自在継手を構成する部品の損傷の有無や状態を確認することができる。たとえば、等速自在継手内部のフレーキングの破片が目視で確認できる。したがって、機械装置から等速自在継手を取り外し、分解した上で点検する必要がないため、作業も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例を示す等速自在継手の縦断面図である。
【図2】従来例を示す等速自在継手の縦断面図である。
【図3】従来例の分解手順を示す縦断面図である。
【図4】従来例の組立て手順を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、等速自在継手の全体構成を説明すると、図1に示すように、内側継手部材としての内輪10と、外側継手部材としての外輪20と、トルク伝達部材としてのボール60と、ボール60を保持するためのケージ30とを主要な構成要素とし、さらにブーツ40及びブーツバンド50が取り付けてある。
【0018】
内輪10は部分球面状の外周面14を有し、軸線方向に延びる複数のボール溝16が円周方向に等間隔に形成してある。内輪10の軸芯にはセレーション孔12が形成してあり、内輪10はこのスプライン孔12にてシャフト18とトルク伝達可能に接続するようになっている。
【0019】
内輪10は外輪20の内部に収容されている。外輪20はマウス部22とステム部28とからなり、ステム部28に形成したスプライン軸にて図示しない相手部材とトルク伝達可能に接続するようになっている。マウス部22は部分球面状の内周面24を有し、軸線方向に延びる複数のボール溝26が円周方向に等間隔に形成してある。
【0020】
内輪10のボール溝16と外輪20のボール溝26は対をなし、各対のボール溝16、26間に1個ずつ、トルク伝達部材としてのボール60が組み込んである。したがって、ボール60は内輪20と外輪30との間に介在して両者間でトルクを伝達する役割を果たす。
【0021】
ケージ30は内輪10の外周面14と外輪20の内周面24との間に介在する。ケージ30の円周方向に所定間隔でポケット32が形成してある。ポケット32はケージ30を半径方向に貫通していて、各ポケット32に1個のボール60を収容する。ケージ30によってすべてのボール60が同一平面内に保持される。
【0022】
内輪10のボール溝16と外輪20のボール溝26は、縦断面(図1)で見ると、それぞれ円弧状である。内輪10のボール溝16の曲率中心と外輪20のボール溝26の曲率中心は継手中心を挟んで互いに逆方向に、等距離だけ、軸線方向にオフセットさせた位置にある。したがって、内輪10のボール溝16と外輪20のボール溝26とで形成されるボールトラックはくさび形状を呈する。図1の場合、同図の左側から右側へ向かって縮小したくさび形状である。
【0023】
図1は継手の作動角が0°、言い換えるならば内輪10と外輪20が同軸上にある状態を示しているが、継手が作動角をとると、くさび形状のボールトラックに収容されたボール60は、一方ではくさびの狭い側から広い側へ押し出そうとする力を受け、その180°反対側にあるボール60は、くさびの広い側から狭い側へ移動させようとする力をケージ30を介して受ける。このようにして、ボール60が常に内輪10の軸線と外輪20の軸線とのなす角を二等分する面内に配向させられ、ボール60の中心から内輪10の軸線および外輪20の軸線に下ろした垂線の長さが等しくなる結果、継手の作動角に関係なく内輪10と外輪20が等角速度で回転する。
【0024】
継手が作動角をとった状態で回転するとき、ボール60はボール溝16、26内を転動し、その際に転がり摩擦が発生する。また、ケージ30の内周面34は内輪10の外周面14とすべり接触し、ケージ30の外周面36は外輪20の内周面24とすべり接触し、それぞれすべり摩擦が発生する。このため、ブーツ40を装着して継手内部に潤滑剤を充填した状態で使用するようになっている。等速自在継手用のブーツには材料や形状によって種々のタイプが知られているが、図示したブーツ40は樹脂製の蛇腹タイプの例で、大径部42と、小径部44と、蛇腹部46とからなり、大径部42と小径部44をそれぞれシャフト18と外輪20に取り付ける。更にブーツ40の大径部42と小径部44にブーツバンド50を装着してブーツ40を大径バンド52、小径バンド54で固定する。
【0025】
外輪20のステム部28に、ステム部28の軸端からマウス部22の内腔の底まで貫通した貫通孔28aが形成してある。貫通孔28aの端部にはプラグ28cを取り付けるためのめねじ孔28bが形成してある。プラグ28cはめねじ孔28bに対して着脱自在である。
【0026】
潤滑剤としては液状のオイルを使用し、プラグ28cを取り外して貫通孔28aから注油する。注油は、等速自在継手を分解することなく、図1に示すASSY状態で行なうことができる。また、一定期間稼動後、プラグ28cを取り外し、貫通孔28aを通して排油する。この場合も等速自在継手を分解する必要はない。このように、等速自在継手を取り外すことなく、分割もすることなく、しかも簡単に、注油や排油ができるため、等速自在継手の効率的なメンテナンスが可能である。
【0027】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に悖ることなく種々の改変が可能である。たとえば、ここでは固定式等速自在継手の一つであるバーフィールドジョイントを例にとって説明したが、この発明はその他の固定式等速等速自在継手やしゅう動式等速自在継手にも同様に適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
10 内輪(内側継手部材)
12 セレーション孔
14 外周面
16 ボール溝
18 シャフト
20 外輪(外側継手部材)
22 マウス部
24 内周面
26 ボール溝
28 ステム部
28a 貫通孔
28b めねじ孔
28c プラグ
30 ケージ
32 ポケット
34 内周面
36 外周面
40 ブーツ
42 大径部
44 小径部
46 蛇腹部
50 ブーツバンド
52 大径バンド
54 小径バンド
60 ボール(トルク伝達部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結すべき2軸のうちの一方とトルク伝達可能に接続する内側継手部材と、連結すべき2軸のうちのもう一方とトルク伝達可能に接続する外側継手部材と、内側継手部材と外側継手部材との間に介在してトルクを伝達するトルク伝達部材と、内側継手部材と外側継手部材との間の空間を密封するブーツを具備し、前記空間に充填する潤滑剤として液状オイルを使用するとともに、前記液状オイルを給油または排油できる貫通孔を前記外側継手部材に設けたことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記貫通孔は前記外側継手部材のステム部内を軸方向に延び、端部にプラグを着脱自在に取り付けたことを特徴とする請求項1の等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113403(P2013−113403A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261726(P2011−261726)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)