説明

オキシアパタイト構造を利用した光触媒及びその製造方法

【課題】合成が簡便で安定に活性酸素を含有でき、光が照射されることで触媒活性が持続できる光触媒の提供。
【解決手段】M1aM2b(M3OXYから構成されるオキシアパタイトを利用した光触媒。(式中のM1はCa、Mg、Sr、Ba、Sn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Pb、Cd、Agのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M2はSc、Y、La、Sb、Bi、Eu、Nd、Al、Ga、Inのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M3はP、Si、Mn、As、Cr、V、Ge、B、W、Moのうちの少なくとも1種類以上の元素を表す。a+b=10、0.1≦b≦2.0を表す。Xは、O、O、Oのうちの少なくとも1種類以上の活性酸素を表し、YはX以外でオキシアパタイトの電荷を補償するものであってO2−、などで表され、Xのみでオキシアパタイトの電荷が補償されるときは、Yはなくてよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシアパタイト構造を利用した光触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯や骨のような生体硬組織の主成分で有名なハイドロキシアパタイトは、六方晶に属する結晶構造を有している。結晶中のCaは、結晶学的に異なる2つの位置が存在し、酸素と9配位しているCa(以下、CaIとも記す)と酸素6配位しているCa(以下、CaIIとも記す)が存在するため、ハイドロキシアパタイトの組成は[CaI]4[CaII]6(PO4)6(OH)2と表わすことがきる。一般にアパタイトはCaIとOHとを中心にしたc軸方向に走るトンネル構造を形成しており、このトンネルに沿って、イオン移動やイオン交換能を有している。
【0003】
ハイドロキシアパタイトの合成方法は、古くから数多く研究されており、必要としている特性を得るために、一般的に加湿空気雰囲気下で加熱して合成される。またCaの一部または全てを、またPの一部または全てを他の原子で置換したハイドロキシアパタイトについても数多くの合成報告がある。
【0004】
ハイドロキシアパタイトは古くから、イオン交換体、タンパク質等の生体成分吸着剤、クロマトグラフィ用吸着剤、湿度センサ、人工歯根、人工骨、人工臓器骨補填材、基礎化粧品など幅広い分野に利用されている(非特許文献1)。
【0005】
近年、酸化チタンに代表される光触媒を用いて、生活環境に放出される有害物質、例えばNOxやSOxの分解・除去、あるいは日常の生活環境の中で発生する悪臭成分や油分などの分解・除去、廃水処理、水の殺菌などの重要性が高まっている。そこで光触媒の性能向上を目的とし、酸化チタンの触媒作用にハイドロキシアパタイトの吸着作用を付加する検討が行われ、両者を混合した光触媒(例えば特許文献1、2)や、アパタイト自身にチタン等を担持することで触媒作用を持たせた光触媒(特許文献3)などが提案されている。しかし、酸化チタンをアパタイトで一部被覆してしまうために光触媒性能が低下してしまう、アパタイト構造維持の問題からチタン担持量に限界があるなど、光触媒性能向上にはさらなる工夫が必要である。
【0006】
酸素アニオン(O)、スーパーオキシドアニオン(O)、過酸化物アニオン(O2−)などに代表される活性酸素は、非常に反応性に富み、有機物や無機物などさまざまな酸化反応に関与する重要な役割を果たすことが知られている(非特許文献2)。活性酸素を含有する物質は、光触媒をはじめとする触媒の様々な用途への応用が期待されている。そのため触媒作用の利用として、酸化物化合物の固体表面上に吸着した活性酸素については広範な研究が行われている(非特許文献3)。しかし活性酸素の不安定さ等から容易で安定に活性酸素を生成することが困難で、これらの研究のほとんどはγ線などの高エネルギーの放射線を照射することによって成し得ている。このように、従来技術では煩雑な工程を経て活性酸素を生成していたため、簡便な方法で合成可能な新たな材料の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平10−244166号公報
【特許文献2】特開2003−275601号公報
【特許文献3】特許第3678606号公報
【非特許文献1】J.C.Elliott , Structure and Chemistry of the Apatites and OtherCalcium Orthophosphates, Elsevier
【非特許文献2】日本化学会編、活性酸素種の化学、季刊化学総説、学会出版センタ−、1990年、No7
【非特許文献3】J.H.Lunsford, Catal. Rev. 1973, 8, 135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、合成が簡便で安定に活性酸素を含有でき、光が照射されることで触媒活性が持続できる光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、CaIIサイトの2価イオンを3価のイオンで一部置換した組成からなる物質をドライ雰囲気下合成することで、安定に触媒作用を有する活性酸素を含有でき、さらに光が照射されることで触媒活性を持続することができる光触媒作用を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 活性酸素を含有するオキシアパタイトを利用することを特徴とする光触媒。
(2) オキシアパタイト中に光活性点を有することを特徴とする上記(1)に記載の光触媒。
(3) オキシアパタイトが下記一般式(1)で表されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の光触媒。
【0009】
M1aM2b(M3OXY (1)
(式中のM1はCa、Mg、Sr、Ba、Sn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Pb、Cd、Agのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M2はSc、Y、La、Sb、Bi、Eu、Nd、Al、Ga、Inのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M3はP、Si、Mn、As、Cr、V、Ge、B、W、Moのうちの少なくとも1種類以上の元素を表す。a+b=10、0.1≦b≦2.0を表す。Xは、O、O、Oのうちの少なくとも1種類以上の活性酸素を表し、YはX以外でオキシアパタイトの電荷を補償するものであってO2−、O2−、OH、F、Cl、I、Br、S2−、NCN2−、CO2−、SO2−、NO22−、H、eで表され、Xのみでオキシアパタイトの電荷が補償されるときは、Yはなくてよい。)
【0010】
(4) 上記(3)に記載の一般式(1)中のM1、M2、M3、Y及びa、bを満たす組成を有する原料組成物を加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で反応させることを特徴とする光触媒の製造方法。
【0011】
(5) 上記(3)に記載のM1、M2、M3、Y及びa、bを満たす組成のアパタイトを合成した後に加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で再度反応させることを特徴とする光触媒の製造方法。
(6) 上記(4)または(5)に記載の光触媒の製造方法に、さらに該アパタイトを光照射して活性酸素濃度を高める工程を備えることを特徴とする光触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、安定に活性酸素を含有でき、尚且つ合成が簡便である。さらに光活性点をも有しているため、光が照射されることで触媒活性を持続することができ、優れた光触媒として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の光触媒は、活性酸素を含有するオキシアパタイトを利用することを特徴とする。
本発明における活性酸素とは、O、O、O3をいい、アパタイト構造中にいずれか1種類で含有されていてもよく、それら複数種の混合体として含有されていてもよい。活性酸素が存在することにより、より強い光触媒作用が生じる。
【0015】
本発明における活性酸素は、電子常磁性共鳴分光(EPR)たとえばBruker社製のEMXを用いて室温で測定することで検出される。スペクトルより与えられるgの値から活性酸素の種類が決定でき、その値は本発明者の一人である細野らが特開2002−3218号公報に開示した値から決定できる。例えばOは、gx=gy=2.04、gz=2.00で規定することができる。
【0016】
本発明における活性酸素の濃度は、上記各活性酸素のスペクトルから構成される重ね合わせのスペクトルを積分し、標準試料の硫酸銅五水和物と比較することで濃度を求めることができる。
【0017】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトに含まれる活性酸素の濃度は、本発明の効果を得るという観点から、1014cm−3以上であることが好ましく、より好ましくは1015cm−3以上、さらに好ましくは1016cm−3以上、さらに好ましくは1017cm−3以上、最も好ましくは1018cm−3以上である。活性酸素の濃度は、光触媒作用の観点から、可能な限り高いことが好ましいが、材料組成及び構造から、現実的な上限は1021cm−3である。
【0018】
本発明のオキシアパタイト中に光活性点を有するとは、光が照射された時にオキシアパタイト中に光吸収サイトがあることをいう。すなわち、本発明におけるオキシアパタイトは、そのバンドギャップ以上のエネルギ−をもつ波長の光が照射されると、光励起により伝導体に電子を、価電子帯に正孔を生成する。これらの電子および正孔はフリーO2−や表面の酸素近傍に移動し、ここでの酸化還元反応により、活性酸素を生成させ、その濃度を高めることができる。さらには、アパタイトの特徴の1つである吸着作用も持ち合わせているため、吸着した種々の吸着物を酸化還元・分解することができる。オキシアパタイト自身が光触媒作用と吸着作用の両方を担うことができるため、従来技術のように酸化チタンとハイドロキシアパタイトを混合する必要がない。
【0019】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、一般式(1)の化合物で表されることを特徴とする。
【0020】
M1aM2b(M3OXY (1)
(式中のM1はCa、Mg、Sr、Ba、Sn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Pb、Cd、Agのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M2はSc、Y、La、Sb、Bi、Eu、Nd、Al、Ga、Inのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M3はP、Si、Mn、As、Cr、V、Ge、B、W、Moのうちの少なくとも1種類以上の元素を表す。a+b=10で0.1≦b≦2.0を表す。Xは、O、O、Oのうちの少なくとも1種類以上の活性酸素を表し、YはX以外でオキシアパタイトの電荷を補償するものであってO2−、O2−、OH、F、Cl、I、Br、S2−、NCN2−、CO2−、SO2−、NO22−、H、eで表され、Xのみでオキシアパタイトの電荷が補償されるときは、Yはなくてよい。)
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、上記要件を満たしていれば特に限定はされるものではないが、高い活性酸素の含有濃度を達成しやすい、合成が比較的容易である、構造が安定である等からCa8La2(PO4)O2、Ca8Y2(PO4)O2、Ca8Al2(PO4)O2、Ca8In2(PO4)O2、Ca8La2(SiO4)O2が好適である。また、特に可視光による光触媒として用いるときはCr、V、Mnなどを含むCa8La2(CrO4)O2、Ca8La2(VO4)O2、Ca8Bi2(VO4)O2、Ca8La2(MnO4)O2、Ca8Bi2(MnO4)O2などが好適である。
【0021】
これら光触媒作用を有するオキシアパタイトは、それ自身活性酸素を含有していることに加えて、光が照射されることによって活性酸素の生成が刹那かつ連続的に生じて活性酸素の濃度を高めることができ、加えてオキシアパタイトは高い吸着作用を有する。そのために、有害物質等の吸着及び吸着種の酸化や分解を単一物質で行うことができ、従来技術の酸化チタンとハイドロキシアパタイトの混合物等に比べ、触媒の効率や製造プロセスに非常に優れる。
【0022】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、光が照射されることによって、本発明の効果をさらに向上させることができることを特徴とする。光照射に用いられる光の種類は特に限定されないが可視光、紫外線、極紫外線、X線、γ線などを挙げることができる。光源は、利用するオキシアパタイトの組成により選ばれ、バンドギャップ以上のエネルギーをもつ波長の光が好ましい。照射は、それら光源を単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。光照射の時間については、本発明の効果を向上できれば特に限定されるものではないが、5秒以上3日以内が好ましく、さらに好ましくは10秒以上1日以内、最も好ましくは15秒以上12時間以内である。光照射を行うことで、前術のように活性酸素が生成して触媒活性を持続することができる。
【0023】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、水蒸気分圧10Pa以下の雰囲気で前記一般式(1)のM1,M2,M3,Y及びa,bを満足する組成を有する原料組成物を加熱処理することで得ることが好ましい。
【0024】
本発明に使用する前記原料化合物としては、特に限定はされないが、一般式(1)中のM1、M2、M3、及びYに対応する元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物、フッ化物、硝酸塩、硫酸塩、アルコキシ等が挙げられる。
通常、アパタイトは従来技術に見られるように、水蒸気又は加湿雰囲気下で合成することにより特性を得ようとされてきた。しかし本発明においては、従来の常套手段をとらずオキシアパタイトを水蒸気分圧10Pa以下の乾燥雰囲気下で合成することにより、活性酸素を含有することが可能になった。
【0025】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、水蒸気分圧10Pa以下の乾燥雰囲気で熱処理することで得られ、好ましくは水蒸気分圧10Pa以下、より好ましくは水蒸気分圧10Pa以下、最も好ましくは水蒸気分圧10−1Pa以下である。ガスの種類は、空気、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム等またはそれらの混合ガス等を用いることができる。水蒸気分圧を低くすることで、活性酸素の濃度を増加させることができる。
【0026】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトの製造方法においては、アパタイト合成時に加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で反応させること、または、通常のアパタイト合成後に加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で反応することを特徴とする。従来の常套手段と異なり、上記乾燥雰囲気下で反応させる、または通常のアパタイト合成後に乾燥雰囲気下で反応することにより、オキシアパタイト中に活性酸素を含有することが可能になった。本発明の製造方法において、乾燥雰囲気下で合成または反応すること以外は、特に限定されることなく従来より公知のハイドロキシアパタイトの合成方法を用いることができる
【0027】
公知のハイドロキシアパタイトの合成方法として、以下Ca10(PO4)6(OH)2について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。Ca10(PO4)6(OH)2は、塊状態、粉末状態等を得るときには、三リン酸カルシウム、炭酸カルシウムを1000℃以上で反応させる固相反応法、塩素アパタイトの元素置換を1000℃以上で行わせる転化反応法、300〜700℃の水熱条件下で結晶育成を行う水熱反応法、ブルッシャイトを水中で沸騰加熱するリフラックス法、ブルッシャイトや三リン酸カルシウムを100℃以下で加水分解しアパタイトに転換する加水分解法、カルシウム塩水溶液とリン酸塩水溶液を混合しpH8〜10の塩基性条件下で反応させる沈殿反応法などを用いることができる。薄膜形態の場合は、CVD法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、ゾルゲル法などの方法を用いることができる。また、単結晶を得るために融帯法、Czochralski法などを用いることができる(例えば 金澤孝文 無機リン化学 第1刷 講談社 P19〜、門間英毅、Inorganicmaterials,2, 401 (1995))。
【0028】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは上記方法により製造でき、用途に応じて、多孔化、針状等により表面積を増加させる手法や、結晶密度を上げる方法、粗精製材料を用いてコストダウンを図る方法などを用いることが可能である。
【0029】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトは、その効果を得ることができる範囲であれば、上記一般式(1)で表される物質に不純物が混じっていてもかまわない。不純物としては、非化学量論性によって得られる物質、各成分の一部が欠損となって上記一般式(1)からずれるもの、さらには上記一般式(1)にまったく含まれない元素からなる物質等を挙げることができる。
【0030】
本発明の光触媒に用いるオキシアパタイトが不純物を含む場合は、一般式(1)で表される物質が好ましくは50%以上100%以下、より好ましくは70%以上100%以下、更に好ましくは80%以上100%以下、最も好ましくは90%以上100%以下である。一般式(1)で表される物質が多いほど、活性酸素の濃度を高くすることができて、より効果を発現させるために好ましい。
【0031】
本発明のオキシアパタイトは、他の物質と混合した状態で用いることができる。混合とは、例えばオキシアパタイトと単純に混合した状態、融点付近で練りこんだ状態、オキシアパタイトで被覆した状態、オキシアパタイト構造の一部と化学結合した状態などが挙げられる。例えば、成型前の粉末、壁やガラス用途等の塗料、薄膜やフィルム作製前の有機物質(ポリマー)・無機物質、家庭用品・室内備品や薄膜作成時に用いられるタ−ゲット原料、医療器具、電子機器などの表面塗布液に混合することができる。
【0032】
本発明において、光触媒に用いるオキシアパタイトの混合濃度は、本発明のオキシアパタイトの機能が発現できれば特に限定はないが、好ましくは0.1%以上80%以下であり、より好ましくは1.0%以上50%以下であり、もっとも好ましくは3.0%以上40%以下である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるもので
はない。
【0034】
本発明に用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
(XRD) 理学電気(株)製RINT2000において、CuのKα線を用いて測定する。測定条件は、加速電圧50KV、加速電流は200mA、受光スリット幅0.15mm、走査速度4°/分、サンプリング0.02°である。なお回折線はグラファイトのモノクロメーターにより単色化されてカウントされる。構造は、MaterialsData社製のJADEを用いてまたは、過去の論文を参考にしてアパタイト構造の同定を行う。
(IR) Perkin Elmer社製のSpectrum Oneを使用する。測定条件は400−4000cm−1の範囲で分解能1cm−1である。3600cm−1付近に観察されるOH伸縮振動を確認する。
(耐熱性試験)1400℃のオーブン中で4時間処理し、上記記載のXRD測定で構造の変化を確認する。
(光触媒能試験)0.02mmol/Lのメチレンブルー(和光純薬)水溶液を調整しこれをブランク溶液とする。一方、0.02mmol/Lのメチレンブルー水溶液に0.05g/Lとなるようにオキシアパタイトを加える。両者を25℃で撹拌しながら光照射を行い、所定時間ごとに日立ハイテクノロジー(株)製分光光度計U4000を用いて、660nm付近のメチレンブルーの吸収ピーク量を測定して、吸収量の減少すなわちメチレンブルーの分解量からオキシアパタイトの光触媒性能確認する。
【0035】
[実施例1]
2.00gのCaCO3(高純度化学)と7.61gのCaHPO4(和光純薬)を800℃で加熱して得られたCa2P2O7と3.25gのLa2O3(高純度化学)をエタノール中で湿式混合して、均一混合された試料を得た。得られた試料を1400℃、6時間、水蒸気分圧6Paのドライ酸素フロー中(300ml/min)で焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度は2×1016cm−3と定量された。以上よりLa2Ca8(PO4)6O(2+α)の合成を確認した。(αは活性酸素の存在により酸素原子が増加していることを表す。)また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
【0036】
[実施例2]
2.00gのCa(NO3)2・4H2O(高純度化学)と0.81gのY(NO3)3・6H2O(高純度化学)を純水に溶かし、30%アンモニア水を加えてpH=10程度に調整して溶液Aを得た。一方 0.84gの(NH4)2HPO4(高純度化学)を純水に溶かし30%アンモニア水を加えてpH=10程度に調整して溶液Bを得た。両溶液に室温で窒素ガスを1時間バブリングして溶存炭酸ガスを取り除いた。
その後攪拌しながら、脱炭酸ガスをした溶液A中に脱炭酸ガスをした溶液BをpH=10程度になるように30%アンモニア水を加えてながら添加して、沈殿物を得た。得られた沈殿物を90℃、24時間、水蒸気分圧6Paのドライ酸素フロー中(300ml/min)で加熱した。
【0037】
得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度は1×1016cm−3と定量された。以上よりY2Ca8(PO4)6O(2+α)の合成を確認した。また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
【0038】
[実施例3]
実施例1で作製した2.00gのオキシアパタイトに紫外線を15分照射した。得られた化合物は、XRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度は1×1017cm−3と定量され実施例1に比べ活性酸素の濃度が増加していた。また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
【0039】
[実施例4]
2.00gのCaCO3(高純度化学)と1.29gのV2O5(高純度化学)と0.81gのLa2O3(高純度化学)をエタノール中で湿式混合して、均一混合された試料を得た。得られた試料を1300℃、6時間、300ml/minドライ酸素フロー中で焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度は2×1016cm−3と定量された。以上よりCa8La2(VO4)6O(2+α)の合成を確認した。また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
[実施例5]
2.00gのCaCO3(高純度化学)と1.22gのV2O5(高純度化学)と0.57gのLa2O3(高純度化学)をエタノール中で湿式混合して、均一混合された試料を得た。得られた試料を1250℃、6時間、300ml/minドライ酸素フロー中で焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度は7×1016cm−3と定量された。以上よりCa8.5La1.5(VO4)6O(2+α)の合成を確認した。また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
[実施例6]
実施例4、5で作製した2.00gのオキシアパタイトにそれぞれ可視光線を15分照射した。得られた化合物は、XRDにより六方晶アパタイト構造に帰属でき、IR分析よりOH伸縮がないことを確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素の濃度はそれぞれ2×1017cm−3、2×1018cm−3と定量され実施例4、5に比べ活性酸素の濃度が増加していた。また得られた化合物は、耐熱性試験後も構造に変化は見られず、耐熱性に優れることが分かった。
[実施例6]
実施例4で作成したオキシアパタイトを可視光(400nm以上の波長)照射による光触媒能試験を行った結果、図1に示すようにブランクに比べ、メチレンブルーの分解が顕著に進行しており、オキシアパタイトが光触媒能に非常に優れることが分かった。
[比較例1]
2.00gのCaCO3(高純度化学)と3.81gのCaHPO4(和光純薬)を800℃で加熱して得られたCa2P2O7をエタノール中で湿式混合して、均一混合された試料を得た。得られた試料を1400℃、6時間、水蒸気分圧約103kPaの大気中で焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属できた。IR分析よりOH伸縮観察され、ハイドロキシアパタイトが生成していると考えられた。以上よりCa10(PO4)6(OH)2の合成を確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素ラジカルに帰属できる吸収バンドは観察されなかった。また得られた化合物の耐熱性試験後は、構造を維持しておらず熱的安定性にかける。
【0040】
[比較例2]
2.00gのCaCO3(高純度化学)と7.61gのCaHPO4(和光純薬)を800℃で加熱して得られたCa2P
2O7と3.25gのLa2O3(高純度化学)をエタノール中で湿式混合して、均一混合された試料を
得た。得られた試料を1400℃、6時間、水蒸気分圧約103kPaの大気中で焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属できた。以上よりLa2Ca8(PO4)6O2の合成を確認した。得られた化合物のEPR測定より、活性酸素ラジカルに帰属できる吸収バンドは観察されなかった。
【0041】
[比較例3]
2.00gのCa(NO3)2・4H2O(高純度化学)と0.81gのY(NO3)3・6H2O(高純度化学)を純水に溶かし、30%アンモニア水を加えてpH=10程度に調整して溶液Aを得た。一方0.84gの(NH4)2HPO4(高純度化学)を純水に溶かし30%アンモニア水を加えてpH=10程度に調整して溶液Bを得た。両溶液に室温で窒素ガスを1時間バブリングして溶存炭酸ガスを取り除いた。その後攪拌しながら、脱炭酸ガスをした溶液A中に脱炭酸ガスをした溶液BをpH=10程度になるように30%アンモニア水を加えてながら添加して、沈殿物を得た。得られた沈殿物を水蒸気分圧約103kPaの大気雰囲気で800℃、1時間仮焼し、次にこの仮焼後の粉末をペレット上に形成し、水蒸気分圧約103kPaの大気中で1250℃、1時間焼成した。得られた化合物はXRDにより六方晶アパタイト構造に帰属できた。以上よりY2Ca8(PO4)6O2の合成を確認した。得られた化合物の室温でのEPR測定より、活性酸素ラジカルに帰属できる吸収バンドは観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明の光触媒が利用する光触媒作用を有するオキシアパタイトは、それ自身活性酸素を含有していることに加えて、光が照射されることによって活性酸素の生成が刹那かつ連続的に生じて活性酸素の濃度を高めることができ、加えてオキシアパタイトは高い吸着作用を有する。そのために、有害物質等の吸着及び吸着種の酸化や分解を単一物質で行うことができ、従来技術の酸化チタンとハイドロキシアパタイトの混合物等に比べ、触媒の効率や製造プロセスに非常に優れている。したがって、本発明の活性酸素を含有するオキシアパタイトは、光触媒として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例6のオキシアパタイト光触媒能試験結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素を含有するオキシアパタイトを利用することを特徴とする光触媒。
【請求項2】
オキシアパタイト中に光活性点を有することを特徴とする請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
オキシアパタイトが下記一般式(1)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒。
M1aM2b(M3OXY (1)
(式中のM1はCa、Mg、Sr、Ba、Sn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Pb、Cd、Agのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M2はSc、Y、La、Sb、Bi、Eu、Nd、Al、Ga、Inのうちの少なくとも1種類以上の元素を表し、M3はP、Si、Mn、As、Cr、V、Ge、B、W、Moのうちの少なくとも1種類以上の元素を表す。a+b=10、0.1≦b≦2.0を表す。Xは、O、O、Oのうちの少なくとも1種類以上の活性酸素を表し、YはX以外でオキシアパタイトの電荷を補償するものであってO2−、O2−、OH、F、Cl、I、Br、S2−、NCN2−、CO2−、SO2−、NO22−、H、eで表され、Xのみでオキシアパタイトの電荷が補償されるときは、Yはなくてよい。)
【請求項4】
請求項3に記載の一般式(1)中のM1、M2、M3、Y及びa、bを満たす組成を有する原料化合物の混合物を加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で反応させることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のM1、M2、M3、Y及びa、bを満たす組成のアパタイトを合成した後に加熱温度50℃以上1800℃以下、水蒸気分圧102Pa以下の乾燥雰囲気で再度反応させることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の光触媒の製造方法に、さらに該アパタイトを光照射して活性酸素濃度を高める工程を備えることを特徴とする光触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−90341(P2007−90341A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240041(P2006−240041)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】